運命は絶対的で在るべきか   作:ややや

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この戦いの裏で中年のおっさん達がワザップみたいな会話をしてぐだぐだ戦闘するシーンを書こうと思いましたがギャグ過ぎたのでカットしました。


囚人vs黄金 その②

 ジョンガリは元軍人であり、DIOを信奉するスタンド使いである。

 

 ジョンガリの人生は屈辱と劣等に溢れたものだった。ジョンガリは雨や雪を嫌悪している。雨や雪を好む人間はふかふかのベッドに寝転がりながら本を読み耽て育ったに違いないと固く信じている。ジョンガリのドブに浸った人生を救ったのがDIOであり、その弱さを含めて彼はその存在を信仰していた。出来ないことを突き進み、ソレを実現せしめるバイタリティこそ、ジョンガリがDIOを『神』として信仰する理由だった。

 

 人と比べることは多少は気分が良くなるが、決して幸せにはなれない。ジョンガリの精神は卑屈で頑なであり、DIOによって発現したスタンド能力は弱々しいものだった。弾丸を曲げるだけの中継機は『偶然で死ねば良い』と考えるジョンガリの弱さの表れだ。軍人になり、狙撃能力を鍛えた今でも能力は変わらない。チョコラータの分析を信じるなら『端数』は自分だとジョンガリは分かっていた。居てもいなくても変わらない捨て石が役目だと、迷うことなく生贄役を選択した。ヘリを用いた殺戮は彼が故郷で猪相手に稼いでいたバイトに酷似していた。

 

 意外にもチョコラータが与えたグリーン・ディのカビはジョンガリに何ら影響を与えることはなかった。チョコラータが冷徹に計算したのもあるし、彼の狂気が完全にコントロールした上での悪意である証明だった。乱射する重機関銃の弾切れは約十分後。押し切るには十分な時間だが、やはりDIO様の御子息を仲間にしているだけあると評するべきか。彼らには潤沢な手札があった。

 

「スパイス・ガール!!」

 

 トリッシュはアスファルトを砕いて地面ごと数メートル四方の塊を盾として構えた。高々十センチもない石の塊を砕けない機関銃の威力ではない。チョコラータ達の判断は誤ってはいなかったが、スタンド使いには不適切であった。

 

()()()()()()()()!!」

「WAAAAAAAANNABEEEEEEEEEE!!」

 

 放たれた弾丸をアスファルトがゴムのように包み込む。スパイス・ガールのスタンド能力である物体を柔らかくする力により破れることの無い盾は反動のままに弾丸を空へ返した。弾丸は勢い良くチョコラータ達のヘリコプターへと向かい、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「ハァ!?」

「トリッシュ!スタンドを緩めないでくださいッ!!」

 

 あからさまに狂った挙動にトリッシュの能力の制御が乱れた。当然、ジョンガリはその隙を逃さない。風呂敷のように隠されていた彼らの身体をマンハッタン・トランスファーは見逃さない。機関銃で放たれた三十発の弾丸が隙間からブチャラティ達の安地へ滑り込む。爆発した手榴弾のようにアスファルトの盾がハリネズミとなって跳ね返る。その間もジョンガリは機関銃を撃つ手を止めない。カビの煙が充満し、カラカラと弾切れの音がしてから、ジョンガリはチョコラータに確認を取った。

 

「死んだと思うか?」

「まさか」

 

 チョコラータが指を鳴らして奴隷(スレイブ)を向かわせる。数トンはあるアスファルトをその剛力でもってどかして見えたのは、ジッパーによる異空間の入り口と静かな目でこちらを観察するブチャラティ達であった。ミスタが放ったワンマガジンの銃弾を完全に無視しながら、チョコラータは忌々しげに舌打ちをした。

 

「ジッパーにより開閉する能力。その上で数メートルの高度の変化でカビ化は無し。…思考を放棄するのは癪だがブチャラティは私やセッコ…おそらくは全てのスタンド能力を受け付けない手段を持っている。体質か、技か、あるいはソレ以外か。持久戦で行くぞ」

「貴方の恩師であるディアボロが来るんじゃないかしら?」

「アンタが抱えてるDIO様の御降臨に息子の肉体は必要じゃ無いのか?」

 

 正直に痛いところを突かれたチョコラータはミドラーに即物的な利益案を提案した。ミドラーも代案が出せるわけでは無い。優先度に納得した彼女はケンゾーの『幸運』の位置を維持し続ける作業に戻った。

 

「『好奇心』は成長を産む。だが、それだけではダメだ。得た成長を力に回してこそ『進歩』だ。殺すための『成長』。…『矢』は未だ私達を選ばない。ボスは何をもって『矢』の真髄を私に渡した。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

リロードの完了したジョンガリがモールスで『補給』を催促する中、チョコラータは歯を噛みながら膠着状況の打破に全力で頭を回した。人外めいた精神を持つチョコラータは身をもって敗北を知り利益的な意味で『仲間』の概念を身につけた。世界を壊すのを躊躇する程度には更生したと言ってもいい。世界は楽しく、悍ましい真理が山のように隠されている。チョコラータは鼻息荒く角砂糖を貪った。

 

「敵は空中十メートルの上。防御系のスタンド使いが終始防御を専念し、攻撃は無差別カビ散布と機関銃による乱射で即死を狙う。膝を撃たれたら頭からカビが生えてゲームオーバー。まさに難攻不落だ」

 

 チョコラータの苦悩と同じく、ブチャラティ達も無敵に思える囚人チームのスタンド連携の打破に苦悩していた。

 

「分かりやすいくらいあからさまに曲がりましたね」

「絶対におかしいだろアレは!ナランチャが遊んでたゲームじゃ無いんだぞ!?なんでピストルズで修正した弾丸がひっくり返ってくるんだよ!」

「資料にあったのは鉱物操作のミドラー、傭兵のジョンガリ、狂医者(マッドドクター)のチョコラータ、その部下セッコ、宗教家ケンゾーか。セッコは泥化、ジョンガリかケンゾーのどちらかの能力だとは思う。防御系のスタンドなのは分かるが…」

「半径数メートルが限界のようです。オマケに、多少の移動を必要とする。おそらくは『安地』を作り出す能力。空中なのは多人数を対象にするための制限かと」

 

 類稀なる頭脳でジョルノはケンゾーのスタンド能力の概要を掴んだ。ケンゾーがジョルノの説明を耳にすれば憤慨することであろう解釈だった。絶対防御に範囲即死の殺人カビ、肉盾と合わせて機関銃の乱射。ディアボロを殺すための念入りようにトリッシュは冷や汗を出した。

 

 ガガァンとブチャラティが閉じたジッパーに轟音が鳴った。異空間であるジッパーの中は閉じ込め元を壊すことで解除される。やむなく能力を解除したブチャラティは近場の車を叩き壊し、トリッシュにより全身を囲うバルーンを作り出した。数メートル以上はある半透明な壁に銃弾と屍生人の腕が突き出されるが、破られない。フロントガラスから辺りを見渡したミスタは機関銃から弾丸が出ないのを見た。

 

「弾切れだブチャラティッ!奴ら弾薬を使い切りやがった!」

「あれだけの猛攻だ。流石に─」

 

 ブチャラティの言葉は途切れた。ヘリコプターの下部から蛇腹らしきものが泥状と化していた死体の山に突き刺さっていたからだ。死体の山から湧き出たカビが不気味な音を立てて蛇腹を不自然に拡げた。

 

 ヘリコプターの羽下からグリーン・ディが現れた。シャワーを浴びるように蛇腹から死体の液体を浴び、その悍ましい姿を更に醜く化粧した。グリーン・ディは狂気の叫び声をあげ、全身を掻きむしる。皮膚片の代わりにこぼれ落ちたのは緑色の弾丸だった。ドロドロとした緑色の皮膚からじゃらじゃらと緑色が吐き出されたのを見たトリッシュは嫌なものを見たと舌を出した。

 

「補給は万全のようね」

「千日手かぁ?ジョルノに飯でも作って─痛ッ」

 

 ぽたり、とミスタの肩へ水滴が垂れた。異臭を出すそれは緑色の液体だった。トリッシュが咄嗟に上を見た。自らが作り出した壊れないはずの盾は虫食いの葉のように小さな穴が大量に広がっていた。

 

「な、なんで穴が…!」

 

 ばだばだと穴から死体とカビが降り注ぐ。新たに作り出した壁もあっという間に腐食していく。真上に響くヘリコプターの音を聞きながら、ジョルノは樹木を新たな盾にして一時的に侵食を止めた。

 

「カビだ…林檎に沸くカビは『パツリン』という細胞を壊すカビ毒を出す…!奴のスタンドはコンクリートにさえ腐食させる『カビ毒』を作り出したんだッ!!」

 

 追加で投入された死体はジョルノの木すら壊し尽くすカビだった。機関銃が横から追加で狙撃され、全員が袋小路を実感した。手が足りず、攻撃すらできない局面に、ブチャラティは歯軋りをした。

 

()()()()()()()()()()()()()()ッ…!」

 

 その言葉にミスタは軽く笑った。道はあるなら簡単だとブチャラティの肩を叩いた。ミスタがボロボロの盾から見たのは機関銃にあるヘリコプターの下部であり、その瞳は漆黒に輝いていた。

 

「─あとは任せたぜ、ブチャラティ」

「ミスタ!?」

 

 散歩に出かける気軽さでミスタは死地へ出陣した。血迷ったかとチョコラータ達は認識し、それは機関銃を撃つジョンガリも同様だった。ジョンガリはミスタの拳銃がこちらを向いていることを理解した。ミスタが持つ拳銃は口径も射程もヘリコプターの距離に対抗できる代物では無い。ケンゾーの示す『幸運』の余波にいるジョンガリを狙うには何もかも足りなかった。

 

 それでも容赦は出来ないのが戦争だとジョンガリは理解していた。構えたミスタにジョンガリは機関銃を乱射した。たったの一秒でミスタの身体に三つの穴ができた。だが、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。鉄のように、それはブレることはなかった。

 

「…ばかな」

 

 地面から飛び出したセッコの拳をブチャラティは弾き飛ばした。宙に浮いたセッコに放つラッシュは距離を取らせることを優先した速度重視の技だった。ガードレールを突き破って数メートル下へ落下する二人をミスタは見ることは無い。急所のみを庇った姿勢のまま、ミスタはスタンドを出現させた。

 

「『No.4』は…()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「ばかなばかなばかな…!!」

 

 関節を撃った。肝臓を貫いた。肺腑だって跳弾で昼下がりのランチパフェのようにグズグズに壊している。ジョンガリは恐怖に負けて涙を流した。理解が出来ずに機関銃を乱射した。『覚悟』を以て投げ捨てたはずの命が檻の中から試す茶番劇だと理解した。ミスタは鉄だった。シンプルな生き様で死を選べる怪物だった。傷だらけで立ち射撃で構える姿は、普段の彼の姿勢と全く違いが無い。『4』と描かれたスタンドは弾丸と同化して拳銃にスタンドパワーを込めた。

 

Vincere la morte(『四』の数を乗り越えろ)

 

 『No.4』は寡黙だった。シンプルに生きるミスタの人生論が詰まった存在だった。そのパワーは漆黒であり、ジョンガリには見えないはずの弾丸の軌跡が黒く鮮やかに描かれたように感じた。人生最高の集中力でジョンガリは機関銃をその弾丸へ当てた。超人的とも言えた神技はミスタの意思には刃が立たなかった。弾丸を捻じ曲げるセックス・ピストルズの隠された番号はあらゆる障害物を無視した軌跡を作り出す。その力はケンゾーの『幸運』の力場の余波程度には太刀打ち出来ない物だった。

 

 ハニカム構造と合わせガラスを併用しているミドラーのスタンド装甲を容易く貫き、弾丸はジョンガリの右鎖骨から心臓を突き抜けて腎臓の片方を破り去った。ジョンガリは崩れ落ちたミスタに対抗して機関銃を構えたが、震える指は照準どころか引き金すら引けなかった。信念も、強さも、意地すらも、完全に敗北していた。ジョンガリの喉元からだらだらと緩慢に血が溢れでた。

 

「ジョンガリッ!!」

 

 ヘリの中へ吹き飛んだ内臓にミドラーが驚きの声をあげた。同志である彼女は何かと情け無いジョンガリの身を案じてくれた。姉を例えるなら彼女をイメージするほどに。彼女の負担を思うと喉元の血を刮ぎ出す指は簡単に動いた。信仰してるDIO様を考えた時にもこの力が湧けば良かったのに、人生はうまくいかないとジョンガリは自嘲した。不思議と、頭が冴えた気がした。

 

「…ォレを、屍生人、に、しろ」

「…いいのか?」

 

 神妙な顔をしたチョコラータをジョンガリは初めて見た。目の霞んだ幻覚だとジョンガリは割り切った。頷いたジョンガリの神経からカビが湧き出てくる。安らかな痛みの無い、心地よい眠りにジョンガリは走馬灯を見ることなく速やかに意識を落とした。

 

 信仰を忘れたまま、ジョンガリとして。




※ミスタは気絶しましたが死んでないので問題ありません。
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