ミスタがジョンガリを仕留めて数分の間、互いのチームは立て直しのために一時的な休戦に入った。
「ジョルノ!ミ、ミスタは…!?」
「…一応治療は出来ました。何故生きてるんでしょうこの人。未来が保証されると『こんな』不死身になるんですかね。ボスが愚痴りたくなる理由も察せるというか…」
「強い…
チョコラータのカビは直接感染しない限り不動にしていれば命に関わらない。怪我を完治させたジョルノは適当な建物内にミスタを放り投げた。声すらもないミスタは完全に気絶していた。ヘリコプターを見上げたジョルノ達に声を掛けたのは唯一自由に動けるケンゾーだった。
「貴様達の『スタンド』は分かった。強力で、素晴らしい能力だ。その上で断言しよう。
滔々と繰り出されるケンゾーの持論とジョルノ達の攻撃を他所に、チョコラータはセッコが落ちた方角を見た。チョコラータのプライドとして報酬無しの『労働』は熱が入らない。セッコは忠実な部下であるが、即物的な『本能』を重視する人間だった。
「…勝てるかしら」
「さて、私も…そう、『信じる』しかない。その為の力は与えた」
チョコラータがセッコに『報いる』為には『利益』が必要だった。
「爺さん。あんたは口車に乗る必要は無い」
「わしの風水はディアボロの劣化では無い…!不可能…!奴には未来の価値など…」
「『実利』には誰もが『価値』を認める。風水の『守りの方角』。それを伝えることが『教祖』の役目だろう?」
甘い声を出すチョコラータだが、彼にとってケンゾーは被検体だった。ジョルノに煽られて興奮してスタンドの言葉を聞き逃してしまう男に期待をするのは可笑しい。ミドラーが常に
安全は思考に余裕を持たせられる。チョコラータ達は安全と引き換えに油断を手にしていた。今までの蓄積でジョルノ達が対策を出来た結果を悠長に見逃してしまった。だからこそ、空中に跳ね上がった棘の付いた木をチョコラータは雑にカビで分解した。ボロボロになって落ちたのは南瓜のような種だった。ガン、と音を立てて大量に当たるそれはカビが入る余地がなかった。
「…棘の『種』…!?」
「時速二百キロを超える毒付きの『種爆弾』。かつてカリブ族が狩猟で使用していた『毒』。スタンドパワーを込めて創り上げた」
「スナバコノキ…僕なりの『対空兵器』だ」
ヘリコプターの真上で種が爆発する。金属板を突き抜けた痛みでミドラーが苦悶の叫びを発した。ヘリコプターから撒き散らされた弾丸の雨はあたり全般をカビ色で覆い尽くす。
それでも、ケンゾーの哄笑は途切れなかった。
「我が風水は『絶対』ッ!絶対絶対絶ッッッッ対にィ!!『敗北』は
ヘリコプターの上部が多少破損したが、チョコラータ達に重大な影響は全く無い。『守りの方角』は絶対防御として完璧に仕事をこなした。しとしとと舞うグリーン・ディのカビ汁の薄霧を身に受けながら、ケンゾーはひきつけを起こしたかのように笑った。
「教祖復活じゃあああああああああああああああ、これでわしは釈迦と並ぶ聖人として歴史に残るぞォォオオオオオオオオオ!!ひれ伏すがいいいいいいいいいいッ、教祖復活にも変更はねぇのじゃああああ!!」
唯一無傷のケンゾーは興奮して盛大に両手を掲げた。まさに宗教家然とした彼が脳内に見たのはディアボロを悪魔化した姿。ケンゾーは今まさに絶好調だった。『守りの方角』をそのままに指弾で『攻撃の方角』へジョルノを撃ち抜いた。撃ち抜いた痕からカビが生え始め、ジョルノの全身にカビが浮かび上がった。
「ぐぅう…!!」
ジョルノの苦悶の声にチョコラータは破顔した。内心でカビが効かない超人集団を否定できなかったからだ。チョコラータが使う回収した
「ゴ、ゴールド・エクスペリエンス…!」
ジョルノのカビの侵攻速度は遅い。彼がスタンド能力を持って侵食するカビを盾代わりの樹木として新生させているためだ。如何に増殖するカビとて、根本ごと変性されたらどうしようもない。対策されたチョコラータは、それでも問題は無いと故人ジョンガリに機関銃を乱射させた。
「無駄無駄無駄無駄ッ…くっ…無駄無駄無駄無駄ァーーーッ」
ただ乱射するだけの屍生人に照準などつけられない。数発の弾丸は容易くジョルノに防がれる。しかし、ヘリコプターから散布される全身のカビは容赦なく侵食を止めない。ジョルノが助かるためには自身にスタンドラッシュを叩き込む以外に無かった。
青痣と出血がジョルノの服を彩った。崩れ落ちたジョルノの周りに樹木が湧き出る。姿が見えなくなったジョルノにチョコラータは容赦しない。出来るはずもない。数分間の湧き出る木屑が収まるまで入念にトリッシュの介入を防ぐ。ようやく樹木の壁が減り始めたのを見て、ミドラーは安堵の息を吐いた。
「な、中々しぶとかったわね。流石はDIO様のご子息。死体が残りそうもないのは残念だけど、チョコラータ…どうにかならない?」
「あー。カビからDNAは取り出せると思うが…爺さんの風水で部位だけ残せるか確認するか?」
「…か…」
「…うん?」
「かぺへぺぺぺ」
「…は?」
『守リノ方角ハ 三メートルシタダ …モウオセーカ』
チョコラータとミドラーは呆然とケンゾーを見た。ケンゾーは鼻から血を流し、不気味な痙攣を起こして白目を剥いていた。ばたりと倒れたケンゾーは膝を伸展し、手首を猫のように内側へ曲げて胸元へくっ付けた。チョコラータはそれが除脳硬直だと知っていた。治療すら出来ずにケンゾーは痙攣して跳ねた。完全なる
「何ィッッッ!?爺ィの防御は完璧だったはずだ!何故鼻血程度で死ぬ!寿命か!?」
「『無敵』」
ヘリコプターの轟音に対して放たれた小さな声は不思議とチョコラータ達に聞こえた。
「あの爺さんの『風水』は確かに『無敵』だった。僕には手も足も出ないほどの『絶対』が存在した。完璧じゃなかったのはケンゾー、アンタだ。
ジョルノは生成していた樹木から
「フォーラーネグレリア」
その単語を理解したチョコラータはグリーン・ディのスタンド能力でミルテフォシンを原料とする
「汚染された水を介して鼻から侵入し、嗅神経を辿って脳を餌とする、別名『脳食いアメーバ』。弾薬として死体を回収したアンタ達に散布するのは難しいことじゃあない。十メートルの高さで爆発的に増殖し、高度を下げれば死ぬように創り上げたそれは、風水から外れた途端に牙を剥く。僕はそれを待っているだけでよかった」
チョコラータのミドラーへの治療は危ういところで成り立った。ミドラーのスタンドは少々ふらついたが、飛行に問題はなかった。それはチョコラータが腕の良い医者であることだけではなく、ミドラーが彼を信じて身を任せた成果だった。
「治療…完了…だ!」
「能力を解除したわね」
「…!!」
トリッシュが地面を跳ねさせてトランポリンのように跳躍した。スパイス・ガールのスタンドパワーを最大限に出したラッシュは跳躍ですれ違う
「クゥラァイナアアア!!」
一秒間に三十回転する鉄の凶器がトリッシュの腹部へ突き刺さる。ぐにゃりと曲がった羽をトリッシュは全て掴み取った。その身体には打撲痕はあれど、切断は無い。浮遊感に包まれたミドラーは己の失策を悟った。
「無駄よ。スパイス・ガールは
風圧に負けるプロペラに揚力は稼げない。瞬時にトリッシュを拘束して落下地点のクッションとしたのはベテランの妙技だった。跳ね返ったミドラーを余裕があったチョコラータのスタンドが抱き止め、その脇でケンゾーの頭蓋骨が砕け散った。
圧迫されて排出されたトリッシュをジョルノは優しく受け止める。転がる女に立つ男。同じ目線でチョコラータは忌々しげに歯茎を見せた。
「近接戦は初めてだ」
「追い詰めたぞ…チョコラータ」
「言葉は正しく使わなきゃあいけないなぁ。
四人が全身全霊でスタンドを叫び、走り出した。