運命は絶対的で在るべきか   作:ややや

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乗り越えたい者と乗り越えない者 その②

 組織の末端構成員である『涙目のルカ』が自身のスコップを頭に叩き込まれて意識不明の重体になったとの連絡を受けた時、ブチャラティは治りかけていた傷口から血が溢れ出す感覚を思い出した。

 

 ブチャラティはギャングであり犯罪も辞さないアウトローである。後ろ暗い行為は幾度も行ったし、殺人経験もある。そしていつも思うのだ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。生きながらに死んでいる、ブチャラティが裏の業界へ進んだのはその感覚に見覚えがあるからだった。

 

 何もかもが既視感を感じる。ジョルノと対峙した時にブチャラティが侵入した少年の腕には麻薬の注射痕があった。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。その後の敵も溢れ出すのは既視感だ。読み込んだ小説を元にした映画を鑑賞するような『あり得る可能性』。

 

 ディアボロの元で働いてから数えるほどしかないその感覚は、この一週間に満たない間に何十倍も増えた。ブチャラティはそれがディアボロの怒りの根源だということも理解していた。

 

 ブチャラティの『スティッキィ・フィンガーズ』は間違いなく強化された。概念の接続は『怪我』と『ブチャラティ』を切り離せる。擬似的な無敵が無ければセッコの攻撃に耐え切るのは不可能だった。

 

 セッコの攻撃に対応出来ない。これもまた、ブチャラティの既視感に触れた結論だった。

 

「RRRRRYYYYEEE!!」

 

 人が動く物体を視認する際、上下に動く場合と左右に動く場合は比較して約八十五%に低下する。地面への潜航と建物を利用した人外極まりない上下移動にブチャラティは避けることすらままならない。足元から飛び出したドルフィンキックがブチャラティの顎を貫く。

 

 ジッパーで概念を切り離せていても意識がなければ関係ない。飛びそうな立ちくらみを気合いで持ち直したブチャラティはジッパーで出現箇所をこじ開けるが、既にセッコは背後の建物から飛び出している。後頭部の一撃を受けたブチャラティはそのまま彼が開いたジッパーの異空間に入り込んだ。

 

「不味い…!!」

 

 ブチャラティのジッパー内は安全無敵の別空間ではない。二次元の座標を三次元に拡大して内部に侵入するイメージが近い。平面に差し込まれた栞が今のブチャラティを端的に表しており、中から外は窺えない。それはセッコに隙を与えたのと同義だった。

 

元の場所(いりぐち)から戻るのは危険…!だが…!」

 

 土中とは思えない威力でブチャラティの首にセッコの蹴りが放たれる。コンクリートを豆腐のように砕く脚力をまともに受けたブチャラティの身体が何百と回転しながら地球の核へ沈み込む。ブチャラティは外部から姿を見られないことに悪運が尽きていないと安心した。概念を切り離した筈のジッパーが力ずくで破られたのを知ればブチャラティに勝機はなかっただろう。ヒビが入った首を支えながらブチャラティは耳を澄ました。

 

 横から出現した土の槍に対してブチャラティは地面を掘り進める形でそれを避けた。ゴポゴポと聞こえるのはセッコが地面の中を泳ぎ進める音。閉ざされた土色の中で感覚機能として役立つのは『聴覚』である。ジッパー内の異空間ごと肩の一部を食い破られたブチャラティはセッコの探知方法を理解した。

 

「グアァアッ!!」

「動物でオス同士がメスを巡って傷ついてもヨォォオ。『怪我』にはならねぇ。『繁殖』の前の『前戯』だ。俺は今、単一種として『生存競争』をしている。言葉遊びだが、()()()()()()()()()

 

咬合跡(キスマーク)でテメェの身体を彩ってやるぜッ!!

 

 セッコの牙がブチャラティに刺さった。右腕、左足、背中。徐々に近づく致死に対してブチャラティは上ではなく、下に向けて逃げた。正確には右往左往しながら下に向かっている。周囲に比較対象がない故に起こる『空間識失調』が起きたとセッコの知見は語っていた。このまま狙えばブチャラティはその内に死ぬ。このまま狩りを続ければそれだけで勝利は転がる。

 

「(…と考えさせてぇんだろうが…)」

 

 如何に上下を判別できなくとも、土の圧力は下に行くほど強くなる。セッコがあたりを液状化しているから尚更だ。飛行機のパイロットが陥る現象とは根本的に環境が異なる。つまりは、ブチャラティは目的があって下へ突き進んでいる。

 

 セッコの体感で一キロほど下にいる。異空間を経由していても土の重みは馬鹿にならない筈だ。セッコは考えた。ブチャラティは身ひとつで落ちた、隠し武器なら地下へ向かう必要はない。考えて、セッコはブチャラティに真正面から姿を現した。

 

「スティッキィ・フィンガーズ!!」

「空気の爆弾。タイヤのパンクみてぇに爆発でオレの耳を壊す気だったなぁア!?」

 

 咄嗟に反撃したブチャラティの一撃をいなし、セッコは彼が手に持ったジッパーに覆われた球体をブチャラティの背後へ弾き飛ばした。今にも爆発しそうな球体の縁から流れ出す音はタイヤの空気が吐き出される音に似ていた。セッコは球体から身を守る盾としてブチャラティを添えつつ、その心臓に片手を突き刺した。

 

「鼓膜も改造済みだ!!万一の盾として爆破を確認してからァァァア!オマエの血を再活用してやるゼェ!!」

「…ぉれ…」

「…?」

 

「俺も、待っていた」

 

 セッコは本能的に腕を引き抜こうとしたが、ジッパーにより阻まれて抜き取れない。胸にブチャラティの内臓は無かった。身体中に張り巡らされたジッパーの一つを貫いたことを理解したセッコは、顔面を殴られたことで賭けに負けたことを知った。

 

 セッコにより一部が溶け出した『矢』は、ブチャラティのスティッキィ・フィンガーズにより右手に入り込んでいた。奪われたとセッコが理解した時には手遅れだった。キリストの如く張り巡らされたジッパーがセッコを磔刑に仕立て上げた。

 

「俺は『レクイエム』を解放しない」

 

 進化の兆しが体内に満ちるのを感じたブチャラティは『矢』に言い聞かせるように呟いた。ブチャラティにとって『矢』は故郷を守る上で過剰な力だ。麻薬ではなく麻酔がブチャラティに必要な力であり、それを向ける相手は決して人間では無いのだ。

 

「さあ」

「……!!!」

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 『矢』はブチャラティのジッパーに格納されて奪い返せない。瞬く間に圧縮された空気が解き放たれた。ブチャラティの拳がセッコの腹部に激突した。セッコの強靭な肉体がビキビキ音を立てて圧搾される。オアシスで液体にしても伸し掛かる重さに変わりはない。

 

「GGGGAAAAGAA!!」

 

 叫び声をあげてセッコは背面に伝わる地面の全てを液体にした。スタンドパワーの過負荷に身を纏うスタンドスーツのあらゆる箇所にひび割れが入った。だが、完遂した。セッコは思わず笑みを浮かべたが、それはすぐさま引き攣りに変わった。

 

 長尺のジッパーがセッコの両脇を挟む形で通り過ぎる。ジッパーは液状化した地面を貫き地上の建物へ突き刺さった。パチンコ玉はブチャラティだ。圧縮空気とジッパーに押されたブチャラティは勢いのままスタンドラッシュをセッコに叩き込んだ。

 

「アリアリアリアリアリアリアリ!!」

 

 ブチャラティは全身全霊で叫んだ。強く恐ろしい敵に対しての敬意であり、己が許容できない悪に対する義侠心からの叫びだった。

 

「アリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリ!!」

 

 弱者から強者へと成り上がったセッコに思うところはある。だが、セッコはその磨き上げた牙をかつての自身に突き立てることを許容した。知恵を手に入れたセッコは今まで持たなかった欲に溺れた。必要だからと他者に犠牲を強制することなど、許されるべきではないのだ。

 

アリーヴェデルチ(さよならだ)

「ヤッダーバァアァァァァアアアアア」

 

 吹き飛んだセッコの方角はボスが暴れているだろう方角だった。ビルを突き抜け、水音と共に沈んだセッコを飲み込んだ地面は中途半端に波紋を残したまま固まった。ブチャラティとしては彼を埋葬したいところだが、数メートル下の地面に沈む彼を取り出す余裕は存在しない。ブチャラティは厳かに十字を切った。

 

 ブチャラティは今でも死体と化していた自分を救ってくれたボスへの敬意を捨てていない。瀕死に陥り、ボスと再会し、憧れの存在として君臨していたディアボロに刃向かうことに躊躇いはない。ディアボロは殺戮など好まないと確信したブチャラティは胸を張って命を賭ける決心を付けられた。

 

「ボスの『希望』は俺が引き継ぐ。『世界』も『誇り』も、俺の『魂』だ。ボスの見積もりを超えて、俺は『運命』を切り離して見せる」

 

 ブチャラティは自身の傷に簡単な止血を施した。ジョルノ達の方角を向けばあれほど喧しかったヘリコプターの爆音は消えており、ジョルノ達が勝利したのがうかがえた。流石はジョルノだとブチャラティは頷いた。

 

 ブチャラティは考えた。ジョルノ達と合流するか、ひとりでボスの元へと向かうか。少しだけ熟考したブチャラティは単独で先行するのを決意した。ブチャラティが予想するボスの絶望を考えると、トリッシュは兎も角ジョルノを横に会話するのは挑発にしかならない。

 

 結論したブチャラティだったが、その歩みは数歩と進まなかった。ディアボロ達の戦闘場所から光る『矢』の力がブチャラティに染み入るように浴びせられたからだ。共鳴するようにブチャラティが身につけた『矢』が光の力を増幅させる。あっという間にブチャラティの意識は闇へと向かった。

 

 気が付けばブチャラティは漁師の服を着て漁船で釣りをしていた。見覚えのある船だった。小ぶりの釣竿は過去にブチャラティが愛用していたメーカーの最新作だ。困惑するブチャラティを他所に漁船はエンジンを落として操縦席にいた中年の男性がブチャラティの真横にどかりと座った。

 

『……久しぶりだな、ブチャラティ』

「…父さん…!?」

 


 

「ぢ、ぢぐぢょゔ…」

 

 敗者となったセッコは魂に刻まれる野生に従ってある場所へ向かっていた。

 

 セッコが生きていたのはただの幸運に過ぎない。たまたま能力を中途半端に解除したことで地面から弾き出されただけである。セッコは重症で再起不能だった。

 

 スタンドを破壊されたセッコの精神は崩壊している。彼がまがいなりに動いているのは皮肉にも彼の肉体が知性を重要視していなかったからだ。ぼろぼろに崩れ去った手脚を動かして、セッコは四つ脚で強引にビル壁へ這い登った。

 

 舌下に仕込んだ『矢』の欠片は導くように目標を伝えた。そのビルに天井は無かった。崩落した部屋に居たのはセッコ達が追い求めていた宿敵だった。

 

「ま、負けた奴に、は。に、逃げ。にげだけが。生き延びることだけが、ゆ、許される。み、みじ、惨めでな、何もない人生でも」

 

 崩壊するスタンドを無理矢理起動したセッコは自らの首を切り裂いて生首となって敵へと突撃した。()()()()()()()()()

 

「だが!!怨みだけは!!持ち越せねぇ!!」

 

 ディアボロのキングクリムゾンの脊椎に『矢』が突き刺さった。




ブチャラティ「化け物になったら組織運営関われないだろうが」
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