運命は絶対的で在るべきか   作:ややや

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ダービー「こ、コイツの『見極め』…!『運』のナノグラムすら測り切った勝負手の感覚ッ…!このダービーが本気を出してなお『互角』ッ!!…生涯で最も価値のある勝利…良いだろう!DIO様のスタンド能力を『賭けよう』じゃないか!!」
テンメイ「承太郎…!僕の魂を君に預ける…!」
Q太郎「GOOD…!こ、このかた一度も賭け事には興味が湧かなかったけど、あ、貴方なら全力で勝つ気になれます…勝つのは僕です…!」


災厄の化身『レベル・シックス』 その①

「若造には分からない感覚だろうが…『計画』とは完璧を目指せない」

 

 重い人生を生き抜いた老人が完成すればこうなるのだろうとジョルノは思った。

 

 キング・クリムゾンの中にいたレベル・シックス…スタンドの人面瘡を担っていたディアボロ本来のスタンド。あらゆる存在を取引する能力に際限はない。一巡目のディアボロに『死の苦しみを与えない』代わりに『スタンド能力』を貸借し、『殺されて捨てられた肉体』を一巡目のブチャラティから拝借した。ブチャラティは肉体をドッピオ(ディアボロ)に与えたまま死んでいた。()()()()()()()()()()()()()()()()()()。詐欺じみた能力がディアボロの本気だった。

 

「三割の本命に二割の次点。五割を完璧と嘯くのが『計画』だ。ジョルノ・ジョバァーナ。運命の奴隷よ。御曹司より丹念に拵えられた奇跡だけの道を歩むお前に、企みを見抜く眼力を鍛える可能性など有りはしない」

 

 ギシギシと古びた椅子のように鳴り響く異音が魂に伝わっていく。実際にはディアボロがゆっくりと靴音を鳴らして歩み寄るだけだ。不安定な地面を踏み締めるようにゆっくり歩く姿は、宗教的な神秘性を有していた。

 

「二巡目の魂は必ず一巡目の魂の破片を併せ持つ。『運命』は魂から発生する事象だからだ。()()()()()()()()()()()()()()()()()。二巡目が魂のエネルギーを持て余す理由だ。邪魔なゴミが呪いとして縫い付けられた。()()()()()()()()()()()()()()()()()。そして、それが貴様の対抗策となる」

 

 黒く、顔すら映らない闇の塊が人型を描いて君臨していた。凡ゆる箇所がモノトーンで構成されたディアボロは、何とか上半身を起き上げたジョルノに説明するように手を開いた。

 

「スタンド能力は『思い込み』で決定する。今までの『生贄』で本能から()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。世界を遡行する為の『膨大なエネルギー』を利用することは不可能と実感したはずだ」

 

 意識朦朧となったジョルノの脳裏に◼︎◼︎の言葉が浮かんだ。熱い身体を持ったその手を握り締め、ジョルノは不敵な笑みを作った。一巡目の記憶だった。どちらにせよ、ジョルノには二巡目の魂など()()()()()使()()()()()()()()()。ディアボロも知らない、ジョルノだけの秘密だ。

 

「貴様は空条承太郎には成れない」

 

 その言葉はある種の敗北宣言であり、本心からの尊敬だった。二重のレクイエムという異常存在へ成り上がってなお、ディアボロは空条承太郎に負ける可能性が想像出来てしまう。()()()()()()()()()()()()()()()()。弱者である悪には油断すら許されていない。

 

「ゴールド・エクスペリエンス・レクイエム。『真実に到達しない』能力。正直有限の人間が持つべき力では無いな。無闇矢鱈と巻き戻すから()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 だからこそ『脅す』。秘密をひけらかして悠長にマウントをかける。ジョルノがレクイエムを使わないように丁寧に対応する。ディアボロはジョルノがレクイエムを躊躇する理由を直感的に察していた。ディアボロは生まれついてその手の直感に優れ過ぎていた。

 

()()()()()()()()()()無かったことになるまで数十秒の牢獄は悠長に過ぎる時間だ。レクイエムを解除しろ、ジョルノ・ジョバァーナ」

 

 魂は唯一である。たとえレクイエムで結果が遡行しても、完全に死んだ肉体は魂を繋げることはできない。数十秒で恣意的に人は殺せないが、今だけは例外だとディアボロだけが知っていた。

 

二巡目に新たな住民を追加したいのか?

 

 ディアボロは自身の取引先に犠牲となった死霊達が帰ってくることに少しばかり動揺した。あの肉塊に対して行った刑罰を考えればジョルノが能力を解除出来ると想定していなかった。他人を何年も殺し続けて溜飲が下がらない存在に交渉は可能なのか。ディアボロは恐怖心を抑えて目を細めた。

 

「オイオイオイオイ。イタリアの帝王様がビビり散らしてんじゃねぇよ。誠心誠意込めりゃあ」

「怖いに決まっているだろうが。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 ミスタが口をつぐむのと合わせてポルナレフがギョッとした顔でジョルノ達を見た。二巡目の記憶しかないポルナレフは今のパッショーネの活動しか知らない。一般的なマフィアとは異なる超能力脱法組織と一巡目の()()()()()()()()()の倫理観を勘違いしていたことに、ポルナレフは今更気づいた。

 

「捕まれば死刑確実の犯罪者が『約束を守る』?バカを言え、法律すら遵守出来ないお前らの口約束ほど信じられるものか。一巡目の記憶を取り戻したお前らはイタリアで絶滅危惧種の純正マフィア…『善意』は信じない」

 

 右手に何らかの肉塊を掴んだディアボロはそれを弄びながらジョルノを見据える。ブチャラティがジョルノに加担する可能性が高い以上、レクイエムのパワー比べは二本…同等である。同等に取引は強要出来ない。未来さえ取引出来るディアボロのスタンド能力の欠点のひとつだった。

 

「俺が上だ。それを認識して漸く交渉が出来る。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()…約定を疑問視するには充分な理由だ」

「…僕に何を強いらせるつもりだ」

「不自由を」

 

 ディアボロの着地点は『一巡目へと巻き戻しの停止』と『運命からの脱却』だ。数十年の試行錯誤はディアボロに世界の法則に関する知識を与えた。拵えた動物園を闊歩しているのがジョルノだ。ディアボロはレクイエムにより強制的に肉体を購入する権利を得た。

 

「元凶である二巡目のプッチ神父(ゴミ)は既に殺してある。欠落無く魂を売買するまで拡張したレベル・シックスにより、運命は喉元まで迫ってきた。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。信頼はしない。出来るわけがない。無法者を目指す者に、法は蜘蛛の巣よりも脆く儚い」

 

 しかしと首を振ってディアボロは右手の肉塊をジョルノの胸元へ放り投げた。肉塊は甲高い小さな声をあげてジョルノの腰元へ転がり落ちる。その生命エネルギーを感知したジョルノは、わなわなと身体を震わせた。

 

「俺も鬼ではない。迷惑なのは一巡目のジョルノであり、我がパッショーネで成り上がりを夢見た小僧とは関係ない。そこのミスタもだ。魂は切り離しても肉体に影響は与えない。一巡目のプッチ神父が現れるまでの約十年。ギャングの懲役刑には安いと思わないか?ジョルノ・ジョバァーナ」

 

 ジョルノの末路である肉塊は小型の生命維持装置に繋がれてかろうじて生命を繋いでいた。ひとつ眼で微かに震えて発されたジョルノを呼ぶ言葉に、ミスタはそれが何かを漸く理解した。

 

 か細い声でミスタがトリッシュの名を呼び、肉塊はそれに応じて微かにみじろいだ。

 

「俺も妻も、生まれる娘に罪は不要だと結論した。一巡目の人格と記憶を切り離し、不足した魂をドナテラが補填した。俺達の娘は一巡目の犯罪者では無い。田舎の船乗り夫婦の娘。それだけだ。それだけで充分だった」

 

 結果としてドナテラは早逝し、ディアボロは生涯の伴侶を失った。新たに生まれたトリッシュは二巡目の魂として順応し、スタンドの覚醒をもって完全に一巡目と決別した。愛する娘が犬の糞にも劣る劣化社会人に憑り殺されるのをディアボロ達は献身でもって防ぎ切った。

 

 愛は、時として誰よりも残酷な行為を犯すことが出来る。ミスタがトリッシュを抱えて泣くのも、ジョルノが怒りに身を震わせるのも。ディアボロは『乗っ取り』が大罪だと身に染みている。()()()()()()()()()()()()()()()

 

「取引だ」

 

 壁に背を預けたままのジョルノにディアボロは手を差し出した。

 

「今は俺が依代となり死者達の魂の集合体として顕現しているが、()()()()()()()()()()()()()()()()()()。レクイエムを徴収したレベル・シックスならば死者全員にレクイエムを派遣してへばりついた運命を壊すことができる。全人類の救済だ。()()()()()()()()

 

 ジョルノは手を差し出さない。ディアボロは困惑して膝をついた。今までの発言で彼らにも多少の義侠心があるのは理解した。こうしてディアボロが()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()と身体を張った。

 

「邪悪と無垢なら邪悪が滅びるべきだ。たかが十年程度の苦痛は貴様達が与えてきた無辜の民への慰謝料として支払う対価だ。約束の日を過ぎれば、二巡目のジョルノにより新たな肉体を提供させよう。平和とは、強者の献身を持って保たれるべきだ」

 

 レクイエムに到達し、一時的にキング・クリムゾンの予知が麻痺したディアボロはひとつの間違いを犯した。ディアボロが寛容的である死に対して、二巡目の魂達は当然だが否定的であった。

 

 死者達は苦しみたくなかった。恐れたくなかった。邪魔されたくなかった。()()()()()()()()()()()()()()()()()。復讐鬼が手助けに感謝するように、恨みと恩は共存出来る。そして、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「だから死んでくれ。ジョルノ・ジョバァーナ」

 

 ディアボロは善霊達により『乗っ取られた』。

 

「…ッ!!」

 

 ディアボロのスタンドが膨張し、キング・クリムゾンと同様に二メートル近い人型へと変貌する。豪速で繰り出されたレベル・シックスの拳をジョルノはスタンドてかろうじてガードした。レクイエムになって漸く反応出来る威力に、ジョルノの身体が数メートル弾き飛ばされた。

 

 完全に黒い人型と化したディアボロは意識がないように見えた。レクイエムのコントロールも甘く、ディアボロが抑えていた無駄なエネルギーを放出している。ミスタが乱射した銃弾も無警戒でスタンドで受け止める姿は未来予知が麻痺したことを察せてしまう。

 

 黒い人型がゆっくりとジョルノへ歩き出す。トリッシュに抱えられたポルナレフ達には見向きすらしない。ポルナレフは歴戦の感覚により中の人格が恐怖に駆られていることを見抜いた。その上で、悲しげに目を伏せてディアボロへ語りかけた。

 

「…二巡目には『自由』が無かった…虐待された子供が成長して偏食になる、我慢では無く矯正で押さえ付けられた精神は…欲望をコントロール出来ない…ディアボロ、君は…犠牲者を信じすぎた

 

 黒い身体に瞳が開かれる。それはひとつの巨大な瞳だった。瞳孔が白くなった異形の瞳だった。膨大なエネルギーを人海戦術で維持した、力尽くの天国への道(オーバーヘブン)。ジョルノ達が無意識に食い物としていた犠牲者達がひとつの復讐心で異形の身体を完成させていた。

 

「我らはエキストラ。神に捨てられし『悪魔』のしもべ。『悪魔』様のためならば喜んで汚れ役を引き受けよう。ラストゲームだ」

 

 ディアボロは平等に敗者に手を差し出した。それ故のラストバトルがディアボロの手を離れて開催されてしまった。

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