ディアボロの魂を考えるにジョジョ世界の魂は心身の成長に合わせて増え続けます(そうでないと魂が二人分にならない)。そのため一巡目の魂は一巡目+二巡目の成長により単純計算で倍に増えます。
トリッシュは妊娠中にディアボロのスタンドにより奇形嚢腫を作り出して一巡目の魂をそちらに移した結果、肉体から生まれた魂です。実質的に二巡目の魂ですが、付随する運命はトリッシュとして扱っていました。
現在のジョルノは一巡目の魂に二巡目の成長が加わった魂であり、ディアボロはその余力を利用して一巡目のレクイエムを切り離そうと考えていましたが、二巡目の魂に差し止められました。
二巡目の魂の集合体であるエキストラは烏合の衆を寄せ集めた高ステータスの超人である。しかし、そのカタログスペックと比較して、本来のディアボロから戦闘において優れたモノは存在しなかった。
「怖い、怖い、怖い、怖い」
ディアボロは頂点のスタンド使いを知っている。強者との闘争も、弱者への蹂躙も、オカルトに対してあらゆると称してもいいほどに血肉を得ている。未来予知は敗北経験すらも自覚出来る。強者でありながら敗者の思考をエミュレート出来る男がディアボロの真骨頂だった。
「殴るのが怖い。二巡目のプッチは運命を知りつつ妹を生贄に捧げたゲスだった。傷つくのが怖い。社会に遵守した私達が法を破るのは仲間外れになるのが嫌だったからだ。私達はどうしようもなく『無力』で、誰かに踏み躙られるアスファルトの石に過ぎないのに」
エキストラは『奇跡』を知っている。傍観者に過ぎない地上に漂う死者の魂だからこそ、不可能を超える人間の底力を思い知っている。血脈が奇跡を産み出す実証を学ばされた。
『ば…バカなッ!我が親友の肉体を掌握したDIOがッ!神の領域まで支配した…このDIOが…!』
『楽しかった…この旅路は…本当に、楽しかった。君の敗因は…それだけさ。たったひとつの、シンプルな…こ…』
『このDIOがァァァァァーーーーッ!!』
ガタガタとエキストラは身体を震わせた。武者震いではない、恐怖からの震えだった。大半の魂にとって身ひとつの殺し合いは初めてである。漆黒の塊と化した眼球からボダボタと涙が溢れ落ちた。バケモノと語るには幼過ぎる仕草で、エキストラはジョルノを指差した。
「
本心で口に出す弱音の吐息は仮にも人類の規格を越えた究極生物の足元程度へ到達した存在が出すモノではなかった。恐怖と危機に怯えた子供の癇癪だった。
「ウォォォォ!ギャギャッ…!グズッ…ヒィィゥイ…」
涙がエキストラの顔面を濡らし、化学反応のように気泡を立ててその頭部を歪に歪める。元の頭部からこそげ落ちた黒は汚泥のようだった。眼球ごと剥がれた黒から新たに現れたエキストラの眼は浮浪者の老人のように乾いていた。
「『恨み』」
黒い涙を垂れ流したエキストラは呟いた。地面に落ちた泥は醜悪な鳴き声を放ち続ける。痙攣したソレにミスタが銃口を向けると、恐怖の叫びを上げてびたびたと跳ね回った。ディアボロの意識があればゲームのとある雑魚キャラを口にしただろう。秒間にひとつの塊が落ち行く中、エキストラはジョルノを憎しみの目で睨んだ。
「本当の意味で二巡目のジョルノを憎んでいるのはワシだけだろう。『運命』は破綻した世界観でも強要する。『たまたま浮浪者の老耄が財布を盗まれて飢え死んだ』。悪魔様による治安の上昇も、神の運命には無関係だった」
だがだがと非効率な動きでエキストラはジョルノに殴りかかった。その動きは速度こそ理不尽に速かったが、狙いも対応も対処可能なお粗末な代物だった。ジョルノがスタンドでその顔面を殴り抜けば、エキストラは無様な断末魔と共に顔面が崩れ落ちた。
二巡目の魂は再度殺されることで昇天する。存在するステージが死後の世界の為に二度目の死は成仏と成り果てるからだ。ジョルノが自覚しないままに、恨みを持った老人は何ひとつ出来ず成仏させられた。
「ッ!?」
「─ッシャア!」
一巡目を麻薬中毒者として生きたプロボクサーがジョルノのスタンドへジャブを決める。一般人なら防げない拳も、スタンドの眼には無関係である。肘で迫り来る腕をかち上げたジョルノはカウンターの拳をエキストラの腹部へ突き当てる。苦悶の声を上げたエキストラの顔面が崩壊し──新たなエキストラが不格好に手を振り上げた。
「─ッ…!?」
「が…ガガガ…ッ!ギャガ…!」
千変万化の表情でエキストラは死んでいく。時折ブンブンと腕を振り回すがジョルノには当たらない。ただの素人にジョルノが敗れる道理はない。こぼれ落ちる泥の山を踏みつけてジョルノはスタンドを全開にしてラッシュを繰り広げた。
「無駄無駄無駄無駄無駄─ッ!!」
エキストラは両手で防御をしたが焼石の水にしかならない。隙間を縫うようにレクイエムの拳がエキストラの顔面を貫いて殺していく。エキストラはただ惨めに殺されるだけだった。
十秒、三十秒、五分。初めは安堵していたミスタ達の表情がどんどん険しくなった。修羅場を潜った彼らはひとつひとつの拳打が確かにエキストラを殺しているのを把握している。耳に劈く断末魔がその威力を裏付けている。勝ち目がない終わりをただ迎えているだけだ。
焼石の水は止まらなかった。
「こいつ…!?無敵か…!?」
無敵ではない。ジョルノ達の実感するように、エキストラは万単位で死亡していた。ポルナレフが満身創痍でなければあたりに響き渡る怨霊の声量がごくごく僅かに増減していることに気付いたであろう。膨大な総量を無視すれば、エキストラの行動は二巡目の魂を無駄に消費しているだけだった。
エキストラは惨めな乞食である。ディアボロが生み出してしまった哀れな怨霊である。ディアボロがイタリアに貢献したモノは数知れない。治安・政治・災害・怪異・超常現象。彼がもたらした救済行為は一巡目と二巡目の道筋をあまりにも致命的に違えてしまった。
「IGAAAAAAAAA!!」
遂に息切れしたジョルノにエキストラの振り回しが連続して行われる。コンクリートを壊し、アスファルトを潰し、人を即死させるには十分な威力がジョルノを害そうと襲いかかる。ジョルノは距離を取るために膝を落とし、エキストラの腕は偶々軌道上に振るわれていた。
「させねぇよ!!」
ミスタが咄嗟にジョルノを突き出す形でエキストラの前に割り込み拳銃を突きつけた。エキストラの動きより何倍も遅いそれは、エキストラの恐怖により成功した。たたらを踏んだエキストラを蹴飛ばし、ミスタは全弾をその頭部にぶちまけた。
「ヒッ!?」
ミスタが放った弾丸にエキストラは情けなく悲鳴をあげて両腕を顔面の盾にした。金属が擦れ合う音が響いて二の腕に銃弾が当たったが、
「ウ、ヴァアア!!」
当然、防御に回した手は攻撃を中断している。慌てて繰り出されたテレフォンパンチにミスタは背後に後退る形で跳躍して避けた。攻撃は地面を空気のように粉々にしたが、全く当たらない。距離が離れた二人に対してエキストラが顔面を崩壊させる。無事に産まれ落ちた秒単位で増える顔面の塊は身体を鞠のように弾ませてジョルノへ向かっていった。
「マジのガチで『カタギ』だぜコイツは…!警戒も要らねえヒョロ玉にガチビビりしてやがる」
「諦めもないようですがね…!ディアボロが駆使したら間違いなく僕は死んでますね…あるいは
汚泥…エキストラの分体が向こう脛に触れる前にジョルノはスタンドを叩き込む。叩き込んだ生命エネルギーにより生垣へと変貌するはずの塊は貧弱さ故に飛散する。仲間の死を見て、エキストラの分体は嬉しそうにジョルノへ縋りつきに行った。
「エキストラ。元教師。一巡目に麻薬で死亡。『救いを求める』」
「エキストラ。元政治家。一巡目に暗殺で死亡。『救いを求める』」
「エキストラ。元学生。一巡目に囮で死亡。『救いを求める』」
「エキストラ。元囚人。一巡目に裏切りで死亡。『救いを求める』」
「エキストラ。エキストラ。エキストラ。エキストラ。エキストラ」
救いの声は止まらない。二巡目で真っ当に生きた人間の魂が救われずに這い回る。地面に生まれ落ちた分体は既に百を超えていた。緩い洪水のように決壊した汚泥にジョルノ達はトリッシュ達から離れていく。
それを追いかけようと身を低くしたエキストラは、目が合ったトリッシュ達に気付き慌てふためいて五体投地を行った。分体の生成すら停止した、信仰による平伏だった。
「神子様・ブチャラティ様はポルナレフ様をご避難させてください。悪魔様の禁止事項を私達は必ず守ります。
頭を丁寧に下げたエキストラにトリッシュ達への敵意はなかった。バラバラに飛び散った分体がポルナレフの機械の破片を集積していることからも、彼らの敬意がまやかしでないモノだと分かった。
「…あなたは、何故ジョルノを狙うの?」
「それはもう、貴女のお父上…悪魔様のために」
醜い。
まともな顔も存在しない造形な黒い物体に人体では不可能な挙動をする情緒不安定な生命体。人間の意思を持ちながら人道に反した行動を狂気を以て行う。仮初の教育を受けた上っ面だけのマナーが本性をまだらに映し出している。
真の弱者は助けたくなるような姿をしていない。
本当の弱者の集合体であるエキストラは素行が悪く、見た目が醜悪であり、清潔感もなく、排他的であり、自己中心的である。理性ある魂ならばディアボロを乗っ取りはしない。仮初の身体を創れるだろうジョルノを不要に貶めたりなど行えない。
「私達は一巡目がゴミだった
「そんな…ッ!」
「お前達がジョルノを憎む理由は分からないでもない。だが、ジョルノは運良く力があっただけだ。世界の一巡とジョルノを紐付けるのはただの八つ当たりに過ぎない!ソレを理解できないのかッ!!」
割って入ったブチャラティの叱責にエキストラは額を左右に擦って首を横に振った。確かに
「遅いのです」
エキストラはカタカタと震えながら呟いた。経験の浅いトリッシュはそれを恐怖と捉えていたが、ブチャラティは震えの理由を見抜いていた。エキストラは嘲笑っている。ジョルノに対してか、ブチャラティ達に関してか、あるいは自らの有様にか。真意はエキストラにしか分からなかった。
「
「…それ…は…」
イタリアの災害費用の年間予算が四十兆ユーロを超えるのに対して、マフィアの被害者への支援費は三千五百万ユーロである。ジョルノがどれほど上手くマフィアを仕切ろうとも、社会は
ディアボロの制御を離れてエキストラが理性を維持できているのは相手が強大凶悪な犯罪者だからだ。ひとりの依代を糧に世界の敵に対応して顕現し、その全てを物量で押し殺す。
死者による『役所』は、
「強い奴らが虐げるのも分かりますよ。
たとえ死んだとしても。
エキストラは歪な笑みを浮かべて走り去った。その姿は餌を追い求める虫のように、無我を感じる機構を醸し出していた。
ディアボロ「俺が出張れば楽勝だが…彼らが頑張るなら…まあ…」