運命は絶対的で在るべきか   作:ややや

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感想でよくわからないと指摘→ジッサイすごく申し訳ないので対応したい
トウ!と「くるみ割り人形 熊 ジャンプ」みたいな気持ち→よくわからない
お気持ちを反映できない…!


災厄の化身『レベル・シックス』 その⑤

「うばぁしゃあああああ!!」

 

 エキストラは人類の魂の集合体である。スペックは文字通り存在する魂の数だけ増強し、肉体を動かす学習能力も一般の天才を凌駕している。生まれたての人格が安定しない場合はまともに機能しなかったカタログスペックは、ジョルノがキレるまでの一日間で完全に発揮されていた。

 

 エキストラがジョルノの顔面を殴る。吸血鬼の首すら千切れ飛ぶ一撃をジョルノは強化された下半身でその場で受け止めた。カウンターとして放たれたストレートはエキストラ数十人分を容易く殺す威力だった。死体を撒き散らしながらエキストラはたたらを踏む。張り付いた笑みは消えなかった。

 

「観客の野次が喧しかったかぁ!?」

 

 エキストラの呼吸は乱れている。痛みに耐えきれない精神が眼に涙を浮かべている。文字通りの死ぬほどの苦痛を受けながら、エキストラは無策でジョルノの間合に詰め寄った。

 

「誰もがぐだぐだぐだぐだぐだと!!ご丁寧に背景から説明して!『意味がわからない長ったらしい言い訳』を騙りやがる!テメェのおつむの出来の悪さを棚に上げて!鏡を見て感想くらい語れねえタマの小せえ臆病が!!」

 

 キレの悪い右足のローキックが放たれる。格闘の素人が生半可な知識で繰り出した一撃はジョルノのお手本のような流麗な防御(カット)により威力を流された。反撃に繰り出された右フックはエキストラの右鎖骨付近に直撃した。エキストラが無理矢理に前のめりに突き進んだ結果だった。

 

「俺も!お前も!!デケェ器なんか世界に一人も存在しねぇ!!」

 

 暴挙が生み出した奇跡にエキストラはダボハゼのように食いついた。エキストラの顔面がジョルノの鼻下と混ざり合った。エキストラの顔面の大部分を占める眼球が折れた前歯で切り裂かれる。

 

「キリストに次ぐ救世主がこの世に現れたか!?世界を統べるに値する大王が世界征服をこなせたか!?」

 

 失明したまま乱打するエキストラの攻撃は皮肉にも読み取れない技と化した。粘り気のあるエキストラの体液が摩擦となってジョルノの皮膚に擦過傷を与えていく。仰け反りから戻ったジョルノの身体からは幾重もの皮膚片が剥がれ落ちていた。

 

「どいつもこいつもテメェの願望垂れ流して()()()()狙ってるだけじゃねぇか!!運命に甘えて他人に縋る馬鹿の意見なんか!!聞くに値しねぇ!!」

 

 反撃のショートアッパーにエキストラが足に絡めている地面ごと肉体が宙に浮いた。ギシギシと軋む音は肉体だけでなく、世界全体が巻き込まれているような響き渡るものだった。エキストラの吐瀉物に紛れて赤い物が吐き出される。エキストラの回復を超えて魂の数が減少し始めている兆候だった。

 

「アベルとカイン!!気に入られたから気に入らねぇ!!殺し合って恨み言吐いて見下す!!それだけだ!()()()()()()()()()()()!!」

 

 醜悪な顔でエキストラは叫んだ。ようやく向き合った敵に闘志を齎した。最早一瞬一秒も待つ必要はない。エキストラはレベル・シックスの取引によりこれから追加される魂の全てを自らに注ぎ込んだ。スタンドパワーを超えた、肉体強化のみの純粋な『力』だけがジョルノのスタンドに対抗していた。

 

「さあ!殺し合い(コーラス)を響かせようじゃねぇか!!」

 

 折れた歯を治す余裕もなく、エキストラの拳が奇妙な音を弾き出す。スタンド能力ではない物理的な速度によって作り出した音速の壁を突き破ったことによる異音だった。人間を容易くバラバラにできる音の破片がジョルノの全身に染み渡り、しかし無傷の結果を作り上げた。ジョルノがスタンドを身に纏うように顕現したことによる防御だった。

 

「オオオオヲヲヲオオ!!」

 

 類稀なる洞察力によりエキストラがスタンドを認識せずに本体のみを狙い打ちすることから編み出した、スタンドと肉体の一体化。肉体がスタンドに引き摺られて人形になることを意味する、暴力的な技がエキストラのラッシュを捌いていた。

 

「ハーハハハハハハハハッ!!」

「ァァアアアアッ!!」

 

 エキストラが哄笑する。ジョルノが叫ぶ。血反吐を吐き合いながら感情をぶつけ合う様は憎しみに溢れた殺し合いだった。右拳がぶつかり合い互いの右腕が背中を越える。左拳が怪音を鳴らして睨み合う目線の空間を叩き壊す。

 

「─ッオラァッ!!」

 

 怒りと義憤。世界の遡行を差し止めた代償はジョルノの強化により支払われる。DIOを超えた肉体強度に日光の耐性。過去に地球が排除した究極生物さながらの超人能力の付与。ジョルノがエキストラにぶつけ合う掛け声は、発声しやすいものへと差し代わっていた。

 

「「オラオラオラオラオラオラオラオラオラ!!」」

 

 感情を暴力に変えた殴り合い。互いの拳が衝突する音はコロッセオ外の住人にも聞こえる爆発として響いている。強化された互いの攻撃はこの世のどんな物質をも砕け散る威力だ。それでも、二人の距離は離れることはなかった。

 

 ジョルノの右拳がエキストラの肝臓に突き刺さる。衝突面からは異音と合わせて円となった波紋がエキストラの背中まで波及する。その音は金属を捻じ切れば再現できるであろう軋んだ奇音だった。何千人ものエキストラが死に、億人のエキストラが応報として拳を振るった。

 

「─ッ!…良いもんだよなあ!主役ってのはァ!!」

 

 エキストラの左拳がジョルノの肺腑に絡みつく。スタンドの強度を超えた純粋なる力によって骨と内臓と筋肉がごた混ぜになって弾け飛ぶ。泥濘に飛行機が墜落したような破滅的な音がジョルノ達の耳に届く。契約によりエキストラとやり合うためのスペックを手に入れたジョルノに即死以外の破滅はない。肉片が散乱するよりも早く傷口は再生し、反撃の一撃がエキストラへ加えられた。

 

「選ばれ!決めれて!巻き込まれない!劇的な『死』を数ページかけて演出して!」

 

 互いに攻撃が通るたびに足元が爆発する。抑え切れないエネルギーの奔流が余波となって漏れ出している。踏み込まれた足元の地面の内容など見当も付かないほど溶解された赤色が互いの足を睨め上げる。

 

 強化された肉体が、五感が、脳が、全てを超えて魂の域に至って超常の反応を行う。一秒間に光の軌跡を産み出してどちらかが仰け反り、返しの一秒で反対側が仰け反る。爆発音は止まることはなく、飛び散る筈の肉片も余波で溶け去るほどの無数の拳打。ぶつかる衝撃で肉体が融解し、回復により五体満足で戦闘を続行する。殺し合いには過剰すぎる威力が、コロッセオに響き渡っていた。

 

「悪に巻き添えにされた私達は映らない!存在しない!…オレは、オレは」

 

 殴る。殴られる。怯む。怯ませる。蹌踉ける。蹌踉けさせる。数時間にわたる殴り合いは延々と爆発が繰り広げられるように見えた。単調なやり取りに観客の幾人かが怖ろしげに目を逸らすが、席を外さない。かぶりついてモニターに張り付く輩と同様に結末が気になって仕方がないのだ。

 

俺は!!

 

 与えられた苦痛に互いが息切れを起こす。肉が潰れて骨が砕け、神経だけが鋭敏に信号を発するゴミを、一瞬で千切られ再生する感覚が魂を削っていく。ふらついた身体が暴力を振るうのは肉体が修復されたことによる反射的な復讐に過ぎない。

 

 衝撃で一歩だけ離れた距離を踏み込んで顎下を拳が捉える。重い打撃音に合わせて下顎が潰れて血飛沫を涎のように垂らす。地面は両者の踏み込みにより熱でどろどろに沸騰しており、液体は容易く蒸発する。即死寸前の怪我は返す刀を振るう頃には復元され、苦痛のみが積み重なって戦いは継続していく。

 

「─…」

 

 血煙が充満し、風により流れ切った死闘の空間で、漸く膝を突いたのはジョルノだった。人格を魂から切り捨てるエキストラに対して、痛みを怒りで誤魔化しているだけのジョルノには限界が存在する。末期患者のような呼吸を繰り返すエキストラの前で、見た目には無傷で君臨しているジョルノは虚な目で下を向いた。

 

「…ジョ……ディ…、オ」

「─ゼェ、…ぜぇ…はぁ…は…─終い、だな」

 

 約三十二時間に及ぶ殺し合い。

 

 軍配が上がったと揶揄するには無理矢理が過ぎるとエキストラは鼻で笑おうと息を乱した。エキストラとジョルノのキルレートは笑えるほど開いている。たったひとりの怒れる男を始末するのに比喩抜きで山のような犠牲者を出しての決着。しかも、勝因は『疲労』。…エキストラを殺すのに飽きたから与えられた不戦敗にままならない。

 

「…敵じゃあない、か」

 

 エキストラは最後まで応報しかされなかった事実に目を細めた。『酔って』『集って』暴れた悪霊の扱いが火の粉を振り払う撃退行為。エキストラの憐れさを肯定する扱いに、彼は瞬きの間だけ上を向き、澱んだ目でジョルノを睨んだ。

 

「テメェが萎えたなら…それでいい。今、確信した。俺は悪魔様に負けることは有り得ない。純粋にスペックで負けようがない。…テメェの肉体を乗っ取って大悪霊として世界を脅かすのも悪かねぇ。俺は、自由だ」

 

 掠れた声でエキストラは呟いた。自らの孤独を肯定する、繋がりのない、浮ついた芯のない宣言だった。ふらつきながら右腕に集めるのは、死骸を含めたエキストラの分体の結晶体。血石のようなドス黒い赤黒いソレは不気味な悲鳴を唄って振動していた。

 

「麻痺くれぇは受け入れてくれよ」

 

 ジョルノに対してエキストラが情を与える理由は無い。分体により脳を仮死状態に陥らせた後、無防備となった肉体を本体が奪い取る。その後は適当に暴れ尽くしてエネルギーを使い果たせば『終わり』。

 

 名残惜しくエキストラは右手を振り上げた。疲労のためか、振り上げた腕が途轍もなく重いとエキストラは笑った。ギリギリと軋む腕を振り下ろそうとして途方も無い抵抗が襲ってくる。遂には頭の後ろで止まった腕に、エキストラは違和感を漸く覚えて後ろを見た。

 

 右手は、誰も存在出来ないはずの誰かによって掴まれていた。

 

エキストラ─それはダメだ。君達が悪に堕ちるのだけは、救われない

「─は?」

 

 エキストラの分体の上で、有象無象として捕獲した筈のブチャラティがエキストラにジッパーを与えていた。

 

「どんなに理屈を語ろうとも、ジョルノは未だ未成年だ。『未来』がある『保護すべき弱者』だ。俺はパッショーネに名を連ねる身として、ジョルノを助ける義務がある。そうでなければ、恥知らずだ」

「な。なならな!?俺達の中に沈んだだろぉ!?何億の分体の声を聞かされて動けるはずがねぇ!」

「聞き続けたからさ」

 

 バギン。

 

 ジッパーを通したエキストラの腕を貫通して、ディアボロの右腕から『矢』が取り出される。エキストラはスタンド使いではなく、『矢』の支配権はディアボロが握っている。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「君達は被害者だ。泣き喚く憐れな被災者に俺が手をあげる理由はない。宥めて、受け入れて、落ち着かせて、悪いことは良くないと説得する。難しいことじゃあない。()()()()()()()()()()()()()()

「……ッ」

「一度話が通じればあとは芋蔓式だ。君と彼らは魂の違う別人。()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 エキストラの右腕から少量の血と併せて魂が流出する。ディアボロというダムに穴が開いた結果、溜まっている魂が無理矢理押し出された結果だった。爆発するような魂の奔流が風となって気圧を変動させる。エキストラは呻くことも出来ずにジョルノを支えるブチャラティを見た。

 

「君達の根幹は『矢』が担っている。ボスにある『矢』を取り外せ(壊せば)ば魂は元に戻る。素材が無ければ再現も出来ない。儀式は終わりだ」

「バカを言え…!その意味を理解しているのか!?俺が離れるとは、世界中に世界破壊爆弾を振り撒くに等しいんだぞ!?狂人に起爆スイッチを振る舞うのが貴様の理想か!?世界を守りたくはないのか!!」

「そんなもの、()()()()()()()()。ボスも、ジョルノも、独りで責任をおっかぶるから恐怖に負けるんだ。一方向からでは『解決案』は見つからない。─ボスは、誤った道を選んだんだ」

 

 ブチャラティの言葉にエキストラは全力で左腕での裏拳を繰り出した。理性で考えるより先に出た、憤怒からの攻撃だった。人体の強度を加味させない剛腕はブチャラティの左肩から右脇腹まで振り抜いたが、ブチャラティが死ぬことはない。トリッシュがスタンドによりブチャラティの肉体を『柔らかく』したことによる破壊耐性。エキストラの殺傷能力が物理的な以上、ブチャラティを止めるのはエキストラに不可能だった。

 

「巫山戯るな…」

「ジョルノ。いや、『一巡目の』ジョルノ・ジョバァーナ」

「何年も計画して何億年も漂って。ただ一人も倒せずにたったひとりの我儘で終わる?なんだ、それは。こんな馬鹿馬鹿しい結末が、俺達の運命なのか」

「お前が欲しいのは何だ?」

「俺達は、主役(おまえたち)の『奴隷』なのか…?」

 

 エキストラは呆然と呟き、ブチャラティは答えなかった。ブチャラティのジッパーが左腕に生まれ、エキストラの顔面が蒼白となった。エキストラは全分体をギブスのように左腕に集め、純粋な黒色の塊へ変貌させる。異音が鳴りながらも動きを止めたジッパーにエキストラは一瞬だけ安堵したが、その枷に触る手の持ち主を見て無様な悲鳴をあげた。

 

「ひぃぃい!!」

「─ジョディオ」

 

 ジョルノはやはり、誰もが知らない名前を口にした。複雑骨折している右腕でエキストラを掴み、強化された身体能力を代価にエキストラを弱体化させる。それでも動かないジッパーを見て、ジョルノは少しだけ逡巡してから、諦めてあるモノを売り払った。

 

「それだけでいい。それだけが、僕の希望だ」

「何もかもを手に入れる奴が俺達の一切合財を否定して生きていくのか。財と権力と能力が全てだと肯定してくれよ。何十年何百回も繰り返して手に入れる金も力も地位も愛情も仲間も、俺達は手に入れたこともないのに」

 

 ジョルノがエキストラに貼り付いたブチャラティのジッパーにエネルギーを込めた。レベル・シックスにより商材として具現化したソレはジッパーを徐々に開かせる。あり得ない光景に目を見開いたエキストラが締め直そうと分体に力を込めたが、一向に閉まらない。

 

「…ちからが…()()()…!?」

「………。…恨みが『見捨てられたこと』ならば、『無知』を恨むことはできない。『一巡目を知らない男』は『二巡目』だから」

 

 ジョルノがエキストラを倒すために売り払ったのは『一巡目の記憶』だった。ディアボロが未来予知を販売したこの世界では未来の予想図は売買可能な代物と化している。ジョルノの記憶が薄れ切った後、壊れた腕を強引に動かして手を握りしめる。エキストラの左腕にあった『矢』はその手のひらの中で粉々に砕け散った。

 

 恨み先の繋がりを無くした悪霊が現世に存在する理由は無くなった。エキストラが絶叫をあげてジッパーに噛みついたが、開く速度は上がり続ける。集合していた魂が空へと霧散し、エキストラの死体の海が蒸発して爆ぜていく。

 

「覚悟。ギャングスターに成って下を見る生き方になれた僕がいつしか鈍らせてしまった宝物。僕の未来は殺された。君に勝つことは出来なかった…君の勝ちだ…おめでとう」

 

 血涙を流してエキストラはジョルノに噛みついたが、その顎は気体となって崩壊する。魂が物体を保てずに黒い煙となって世界へ散っていく。エキストラは咆哮した。彼らは凡人であり、奇跡を起こし得る能力など有していなかった。

 

「そんな!ふざけるな!!こんな水入りでエネルギーが霧散するか!!世界が壊れる事実は解消しない!!祈るだけで震える人生に貴様の!誇りはァァア!ないのか!!ジョルノ・ジョバァーナ!!」

「救いは僕が与えるモノじゃない。お前が祈ったのは神ではなく、悪魔だ。ならば、救いはあの男から齎されるべきだ」

 

 エキストラは口を開き直そうとしたが、既に時は過ぎていた。断末魔を上げることもなく、一瞬の静寂の後にエキストラの肉体は爆発した。

 

 エキストラの黒が蒸発して流れていく。吹き飛び、仰向けになった依代を前にジョルノは血塗れの手のひらを自らのスタンドに叩きつけた。残骸の矢によるエネルギーは僅かにジョルノのレクイエムを維持し、ディアボロの肉体からは天国への道(オーバーヘブン)が消失した。ジョルノのスタンドが光を帯び、力を失ったひとりの男が数メートル先に倒れていた。

 

「ゴールド・エクスペリエンス・レクイエム」

 

 神の降臨と合わせて、悪魔がみじろぎした。




エキストラ──再起不能(リタイヤ)。その魂は世界に霧散し、世界を滅ぼすのに充分なエネルギーを改めて世界中にばら撒いた。…少なくとも、今の時点では。
 
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