運命は絶対的で在るべきか   作:ややや

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ディアボロが生まれた世界は、憐れで脆い仮初の世界だった。


至りし神の審判は

 世界が、誰かによって変貌した時。果たして変貌した世界から生まれた住民はどのように生きるだろうか。

 

 答えは『適応する』。世界の認識で左右や貞操や地位がどれほどぐちゃぐちゃになろうとも、法則さえ定まっていれば生物は適応して生き延びる。元が超常現象を下地にした世界であるならば尚更である。逆立ちで生きる人類がいる。石を肉体とする人類がいる。ならば、『生物』の規格さえあれば、人類は存続を可能とするのだ。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 寿命一秒の生命体。今の人類は、ディアボロが儀式の口実に利用した死者の魂よりも残酷で憐れな存在だった。

 

「『我々はみな運命に選ばれた兵士』…」

 

 うつ伏せの姿勢から膝立ちとなったディアボロは歯を食いしばって呟いた。

 

「運命はこの俺に『先を知る』、すなわち『予知』ができる能力を授けさせた」

 

 ディアボロの墓碑銘(エピタフ)が告げる。終わりが来たと未来を見せる。腕から千切れた『矢』の鏃がディアボロの皮膚をばっくりと広げていた。移す先も存在しない。真の意味で、ディアボロは孤立無縁と成り果てた。

 

「この世の運命は絶望的に狂い果て、彼の『キング・クリムゾン』は『無敵の頂点』という名の『飼育員』を人生の指標へ指名した。揮発した世界を壊さないように整備する使い捨ての機械。それを否定することが生き甲斐となった」

 

俺は『兵士』ではない

 

 或いは、ヒトですら。

 

 ディアボロの独白は誰に届かせたものなのか、ブチャラティには分からなかった。瞬きの間に消える胡蝶の夢にいる彼を救うものは存在しない。世界中の誰もが負債を抱えているにも関わらず借金を返すべく動いたディアボロに『力』は届かない。ディアボロは震える手で出血する腕を止血した。手遅れを自覚しても諦められないのがディアボロであり、死んでも変わらない習性だった。

 

 ジョルノの進化したスタンドを見て、ディアボロは落胆を隠せなかった。その姿はディアボロが良く知る姿形であり、人間を破滅させるだけの口先しかない。

 

 既視感、既視感、既視感だけだ。

 

 ディアボロ達の価値は存在しない。生き残りは『再現』に執着し、捨てられた人々を救うことはなかった。ディアボロが手を離せばイカれた登場人物がテコ入れして運命を修正する。自身も含めた醜さに、ディアボロは悍ましさが止まらなかった。

 

「真実から出た『真の行動』は()()()()()()()()()…」

 

 レクイエムを失ったディアボロにとって、『矢』による力の解放は圧倒的だった。ジョルノはブチャラティの頭上よりも高く、文字通り()()()()()。スタンドパワーの余波による射程距離の強制固定。彼は正しく『神』へ至っていた。傲慢に他者を選定する『何か』へと。

 

「真実から出た救いか、上っ面だけの邪悪か」

 

 運命はディアボロの妥協を許さない。一般的な死も死者への無限の奉仕も全てが黄金の風に飛ばされる。二巡目の死者は世界に対応する権利を失い、力のみを持たせるはずの『矢』はジョルノを『審判者』に仕立て上げた。ディアボロがクソミソに貶し嘲った『予知』は前世で見たページで印刷されていた。ディアボロが手を加える余地すら無い『現象』を作り出していた。

 

「『救う』のは貴方だ」

「どこまでも気に入らない小僧だ…!」

 

 宙に浮いたジョルノは地を這うディアボロに問いかけた。ディアボロは弾けた『矢』による出血と、エキストラが受けたダメージにより血の咳き込みをした。青痣と出血はこんこんとディアボロの生命を蝕んでいる。ディアボロはそれでも地面へ唾を吐いた。

 

「貴様に分かるものか…この俺の怒りが!哀しみが!絶望が!!」

 

 ディアボロはボロボロだった。本当の剥き出しの彼がそこに存在した。血だらけになり、血だらけの地べたを這いずり、プライドも無く、何もかもを捨てて吐き出すモノは、子供の癇癪だった。

 

「幸せを掴んだ貴様らに!!正しさを詰られる屈辱など!」

 

 『矢』はジョルノ・ジョバァーナを選んだ。ゴールド・エクスペリエンス・レクイエムは人智を超えた存在へと到達した。()()()()()()()。ただ強大な力を振るうだけの木偶の坊。産業廃棄物にも劣る無駄の産物。その姿を見て、ディアボロはただ憤怒を抱えて迎え挑む。

 

「嗚呼、そうさ!十年後も生きる貴様なら()()になれるだろうさ…!」

「『ディオ・ブランドー』、『カーズ』、『エンリコ・プッチ』、そして『ヴィネガー・ドッピオ』!本来の悪を知らぬ通り道に過ぎないお前らには分かるまい!」

 

 如何にディアボロの出自が特別であろうとも、彼の出力は人に準じたレベルであることには変わりない。()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 例外だったのは世界の方だ。()()()()()()()()()()()()()()()()()。数秒が百年以上に値するのが今の世界だ。この一瞬で過ぎ去っている世界に適応した人類の中で、ディアボロの魂だけが正しい時の流れを把握していたことが、彼の怒りの根源だった。

 

「この世界の運命が淘汰されるとは!()()()()()()()()()()()()()()()!!()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!!」

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 この世界はエンリコ・プッチが加速させた一巡中の通路だ。瞬きの間に終わり、未来を感覚で理解する()()()()()()()()()()()()、勇気ある小僧ひとりに壊される世界だ。

 

 どれほどの善行を重ねようがディアボロはディアボロとして滅び、永遠の苦痛が待ち受ける。だからディアボロ(ホンモノ)は死んだのだ。未来を知る悪人だからこそ、プライドの為に、納得しながら。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()。世界が変わりゆくスピードに対応できないからだ。気付く頃には全てが遅く、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。ディアボロ達はただ貧乏籤を引くだけの人生として生贄となった。

 

 助けなど存在せず。ディアボロは自力救済を同類に語った。儀式自体こそ、敗者達による救済の禊だったのだ。

 

 後三十分もしないうちにエンポリオに殺される魂達を価値の無い存在として扱うことを、ディアボロが拒否した故の結論だった。

 

「…人は、下僕に本心から感謝するなど、決して行わない…」

 

 ジョルノが打ち出した蠍の弾丸がディアボロの耳朶をちぎり取った。ディアボロのキング・クリムゾンが切り取った時による回避術だった。今度こそ、ディアボロは疲労に耐えきれず膝をついた。

 

「それが、あなたの本心か」

「『奴隷』の貴様に、『神の意思』を揺るがすことは出来ない。『黄金の意思』も視点を変えれば『必ず反抗する恩知らず』だ。『必ず』…終わったことは、戻すことは出来ない」

「そうして、一人で決めたのか。どれだけ誠意を尽くしても…死の山が『善』に変わることはない」

 

 五分の勝率。五分の敗北。公平な勝負。正しい儀式。ディアボロの芯にあるのは天秤だ。世界を壊すなら、世界を生贄に捧げて熱量を生み出すべきだと頑なに信じている。

 

「生贄を『必要』だと断じて、進むなんてことは、決して許されることでは無い」

 

 聞いた正論だった。この世界において無駄無用としかならない残酷な空論だった。ディアボロはスタンド越しにアスファルトを握りしめた。

 

「だから…残念だけど、やはり、貴方は『悪』だ」

「…自虐か?」

 

 ディアボロはジョルノを嘲笑った。彼が善を肯定したマフィアであろうとも、世界を救うためにたかが数百人を犠牲にした行為も、ジョルノの夢には太刀打ち出来ない。コマにすら存在しないページ外の設定に抗う資格は存在しない。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。神すらも嫌悪からの過剰な罰を与えているのに、人がそれを踏襲しない理屈はどこにある。

 

「お前は世界中の人を見殺しにして、何が楽しかったんだ?」

 

 ジョルノは答えなかった。レクイエムという埒外の力を得てなお対処しなかった『ジョルノ・ジョバァーナ』の本意を知るには、ジョルノは悪を知り過ぎた。ぱらぱらと乾いた血がディアボロのスーツからこそげ落ちる。キング・クリムゾンが今までを凌駕するほど最大限にスタンドパワーを引き上げた。

 

 時を切り飛ばして『無かった』事にする。慣れないスタンドラッシュをレクイエムへ叩きつけ『無かった』。全てが『無かった』結果へ戻る。結果を拒絶したディアボロを嗜めるような、行動を否定するスタンド。

 

 黄金の意思という名の、他人を奴隷にする力の結晶だった。

 

『コレが…『レクイエム』……ダ!!』

「惨めだな。あれだけ入念に下準備で下駄を履いても、蓋を開ければコレだ」

『オマエが見テイルモノハ確カニ『真実』ダ』

「ジョースターの息子としてではなく、DIOの息子として対処するべきだったか。性根を変えられない愚者として。…今更か」

 

 ディアボロは何も出来ていない。未来を予知して浮かび上がるレクイエムはジョルノのコントロールを外れていた。弱点をひけらかし、他人の挙動を否定し、自らの結果を強制する。鏡を見ている気分だった。

 

『確カニオマエノ能力ガ実際ニ起コス『動き』ヲ見テイル……』

「前世も今世も、俺の遺伝子は壊れていた。だから、血が継げると分かった時に、初めて『欲』を持った。孫を見ることは『悪』だと、思いたくはなかった。エンポリオに戻された世界に()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。それだけのことが俺の『希望』だった」

『シカシ………実際ニ起コル『真実』ニ到達スルコトハ決シテナイ!』

()()()()()()()()()の間違いだろう?ただの御都合主義の権化に、暴走した運命に、『真実』ほど世界が否定するものはないだろうに」

 

 ディアボロはレクイエムに渾身の一撃を叩き込んだ。それはかつて空条承太郎が繰り出した最期の一撃ににていた。レクイエムの頭部がトマトのように潰れて内部がまろびでた。

 

 その中身は『人を材料に作られる矢』だった。大量の人骨が煮込まれた雫の先に『矢』が形成されていた。ディアボロは敗因を知った。横目で眠るトリッシュを見た後、眼前に来た拳の前に、ただの舌打ちをした。

 

「…Figlio di puttana(こんちくしょうが)

「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ァーーーッ」

 

 運命通りディアボロはラッシュを受けて吹き飛んだ。ディアボロの意識は途絶え、橋桁に背中から衝突して、やがて動かなくなった。勝者は順当にジョルノ・ジョバァーナが勝ち取り、ディアボロは無様に敗北した。

 

 運命を変えた男の結果は、数メートルの落下先の変更だった。

 

『トゥルルルトゥルルル。トゥルルルトゥルルル』




この世界は時系列的にはエンポリオが「どこなんだ!?ここはぁぁ─ッ」と叫んでいるあたりになります。
あと二話で完結予定です。
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