金田少年の生徒会日誌   作:珍明

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事件名を使い、物語を進める縛りプレイにしたせいで展開が思い付かず、悩む。助けて明智さ~んと閃きました


F.10 【殺人ポーカー】を思い返す人

 不動高校において、金田一 一(きんだいち はじめ)は典型的な『オチコボレ』に相応しく低成績、遅刻早退は当たり前、授業の半分もサボり、オマケに『運動音痴』。

 1年生にして見事、教職員が目の敵にする問題児。

 だが、学校の外では祖父たる名探偵・金田一 耕助(きんだいち こうすけ)から受け継がれた推理力にて、様々な事件を解決に導いた。

 そして、入学以来の最大の難解がはじめを襲う。生徒会執行部からの追跡だ。

 

「金田一~、生徒会が探してたよ~。アンタ、何したの?」

 

 森下(もりした)にからかわれ、ゾッとする。心当たりが有り過ぎ、逃げた。

 

「あたし、何も知らないわ。探すとしたら副会長かな~、すっごく厳しいしっ。言っておくけど、お目こぼしは無理よ。はじめちゃん、大人しくお縄に付きなさいっ」

 

 幼馴染の美雪(みゆき)は生徒会長。見逃すように頼んだが、コレである。

 流石、眉目秀麗・成績優秀・お人好しと言う理由で執行部顧問から推薦されるがまま、立候補しただけの『お飾り』だ。他の役員からの信頼も無く、一般生徒から全く敬意がない。寧ろ、冗談抜きで舐められているのだ。

 逃げていたが実際、はじめは予備校・四ノ倉学園での出来事があり、慌ただしかった。

 

 ――事件前も事件後も――。

 

 だから、偶然にも同じ予備校に通ったもう1人の幼馴染・千家(せんけ)に生徒会の用件を聞いてもらう。快く引き受けてくれた彼から、意外な返事が来た。

 

「同じ1年の金田(かねだ)って奴だったぜ。お前を探してたのはっ。先月、金田のお祖母ちゃんと約束したんだろ? ソレだってさ」

「な~んだ、金田かあ。会った事はねえけど、字面が俺と一緒なんだっけ? そうそう、アイツの婆ちゃんに家へ遊びに来いって誘われたんだ。紛らわしいなあ、金田の奴っ」

 

 調子良く笑いながら、瞬く間に思い返す。

 旅客機墜落事故で亡くなっていた氷室 一聖(ひむろ いっせい)画伯、その母にして金田 一(かねだ いち)の祖母。警視庁捜査一課・剣持(けんもち)のオッサンに紹介された時、何事かと緊張したのは内緒だ。

 処分された自画像しか知らないが、金田婆さんに微かな面影はある。ただ人嫌いな息子と違い、人好きな母親という印象だ。

 初対面のはじめに対し、とても気さくに接してくれた。

 正直、家への招待は社交辞令と思っていたが、金田婆さんは本気だった。ならば、甘えて夕食をご馳走になろう。それしか、はじめが氷室……否、金田家に出来る事はないと言える。

 そんな気持ちを表に出さず、千家へ呑気な笑い顔を見せた。

 

「しゃ~ねえなあ、俺が直々に金田と話してやるか~♪」

「けど、気を付けろ。金田は生徒会だからな。先生と共謀して張った罠かもしれねえぜ。お前は逃げ足だけは速いしっ」

 

 心配された千家に物凄く不穏な言い方をされ、金田と会う気が失せた。

 

 進級をかけた学期末試験期間、平時よりは自由時間も多く、会えるだろうと思っていた。

 だが、会わない。出会わない。遭遇しない。巡り会えない。行き違う。すれ違う。ニアミスする。お目に掛けない。

 

「金田君? う~ん、知らないかな。ゴメンなさい」

 

 同じ学年にして美術部のマドンナ・神津(かみづ) さやかは淑やかに謝ってくれる。慎み深い彼女が生徒会に睨まれたりしないだろう。

 

「どうして、アナタみたいな人が金田君を? 彼を変な事に巻き込まないでっ」

 

 同じ学年の演劇部・桐生(きりゅう) 春美(はるみ)にも聞いてみたが、はじめは敵を見る目で睨まれる。ほとんど初対面だが、幽霊部員のせいだろう。

 

「金田君はスキーがスッゴク上手よ。アンタは出来る~?」

「相馬さんってば……、そんな言い方しなくても。え~と、金田一君? 金田君に相談したいなら、七瀬さんに言ってみれば? 彼女は同じ生徒会だしっ」

 

 相馬(そうま) 真紀(まき)鈴森(すずもり) 笑美(えみ)は同じ学年でスキー部。小馬鹿にして来た相馬と違い、鈴森は真面目な助言。但し、美雪を生徒会長と呼ばなかった。

 

「ウソ~、金田君だったの!? はじめちゃんを探してたのって……。本当に何しでかしたの? 金田君は幹部じゃないけど、生徒会の要なんだからっ」

「ちげえよ。金田ンとこの婆ちゃんと偶然、知り合ってさ。孫が世話になってるから、遊びにおいでって誘われたんだよ。俺、金田ン家を知らねえしっ」

 

 美雪に更なる疑いをかけられ、はじめは咄嗟に半分だけ事情を説明した。

 

「はじめちゃん、金田君のお世話してないじゃない! ……あっ、もしかして、北海道の事件を相談したいのかも……」

「?? 美雪、何言ってんだ?」

 

 背氷村の事件なら、年を跨いで大々的に報道された。美雪どころか、周囲も知らないはずがない。

 

「あたし、スキー部の合宿へ行ったじゃない? 金田君も一緒だったんだけど、帰る日に……北海道にいる家族が事件に巻き込まれたって、連絡があったのよ。彼、凄く取り乱して……青森駅で見送った時なんか、倒れるんじゃないかってくらいに顔色も真っ青でね。……顧問の屋根先生が着いて行こうとしてたけど、手振りで断ってた。その関係で新学期もしばらく学校を休んでたの……」

 

 スキー部の合宿に美雪が参加する為、はじめが背氷村のバイトへ代わりに行った。

 まさかの繋がりを聞き、気付いた。とっつきにくいスキー部顧問の屋根(やね)を含めた全員、金田が氷室画伯の遺族とは知らない。金田婆さんとの関係を考えれば、公にされない存在・隠し子が妥当だろう。

 剣持のオッサンが秘密裏に金田の存在を教えた理由にも、辻褄が合う。

 

「それはねえよ。んな事より、金田はスキー部なんだな」

「ううん、金田君は私達と同じ演劇部よ。幽霊部員だけど……そこは、はじめちゃんと一緒ねっ」

 

 話をすり替えようとすれば、意外な接点だ。

 

「んで? 幽霊部員の金田君が行きそうな場所は? こんだけ、探して見つかんねえだぜ」

「ああ、生徒会室よ。テスト期間中は生徒会室でも鍵の貸し出しはしてないんだけど、遠野先輩が色々と便宜を図ってくれたの。その甲斐もあって、勉強には持って来いの場所らしいわ。あたしは家の方が捗るからっ」

 

 絶対に行きたくない場所、はじめは露骨に顔を歪めた。

 

「だったら、テスト休みに行きましょうよ♪ 7日は卒業式の準備があって、生徒会は学校に集まるの。金田君はあたしが捕まえておくわ。はじめちゃんも一緒に学校へ来てね♪」

「うへえ。折角の休みだってのに、面倒くせえ。って言うか、お前も着いて来る気かよ~」

 

 テストから解放された後のTVゲームは人生最大の楽しみ。はじめは徹夜のつもりだった。

 

 ――実際、夜通しゲーム三昧でした。

 

 薄っすら開いたカーテンの隙間窓から、朝陽が差し込む。眩しさが眼精疲労と脳髄に心地良く、布団へ蹲った。

 目が覚めたのは、昼過ぎである。必然、不動高校へ到着したのは更に後だ。

 

「だからさ、美雪。こんな時間になったのは、しょ~がないって!」

「もう! はじめちゃんの遅刻魔!! 金田君は午前中に帰っちゃったわよ!」

 

 下駄箱で待ち惚けを食らい、美雪は怒髪天を衝く。

 はじめがキチンと謝罪しても、大きな瞳を怒りで潤ませ、頬っぺたを膨らます。そんな彼女に迫力なく、寧ろ、可愛い。怒らせるつもりはなかったが、良い表情を見られた。

 遅刻魔呼ばわりされてでも、休みの日に学校へ出向いた甲斐があった。これだけで役得。

 

「卒業式の準備も終わったろ。よし、帰るかっ」

「これから、生徒会だけでリハーサルよっ。しかも、金田君ったらね! 遠野先輩の許可は取ってあるから、帰るなんて言って、本当に帰ったの! あたしが生徒会長なのに!」

 

 去年の生徒会長・遠野。彼に比べ、美雪は人望が薄……まだ1年ならば、致し方ない。

 

「はじめちゃんも失礼な事、考えてるでしょう!」

「俺もって、なんだよ。どの道、金田の家に行くのはナシって事で……(ぐえ)」

「それは大丈夫! 金田君のお家には学校の電話で話しといたから、あちらも是非どうぞって! じゃーん、金田君に書かせた住所と簡単な地図♪」

「あ……行くのね、今日。……ったく地図まで書かせて、うっまいじゃん。へえ~金田はわざわざ、隣の市から通ってんだっ」

 

 はじめは襟元を引っ張られ、機嫌が治った美雪にメモを見せられる。書き方の粗さから、即席でペンを走らせたのだろう。最寄り駅から金田宅まで、事細かに記されていた。

 

「七瀬さん……そろそろ、体育館に。金田一君っ」

「和泉さんっ、呼びに来てくれたのね。ありがとう! じゃあ、はじめちゃんも一緒にっ。リハーサルが終わるまで待ってて」

「ヤダ~よ~、俺はここから動かないぞ!」

 

 下駄箱を掴んで、はじめは同行を断として拒否。お堅い生徒会部と一緒など、冗談ではない。必死に駄々をこねたが、美雪に耳を引っ張られた。

 

「七瀬さん……金田一君、痛がってるしっ」

「良いの、良いの。このくらいしないと着いて来ないんだから!」

 

 地味な拷問を受けつつ、困惑気味の和泉(いずみ)と3人で体育館へ向かった。

 退屈なリハーサル中、はじめの出番はない。仕方なく、隅っこで待機。その様子を見た執行部顧問や他の部員にヒソヒソされる。オチコボレの登場が物珍しいのだろう。

 

「……ゴメンね、金田一君。退屈でしょっ」

「まったくだ~。大体、卒業式予行なんざ、テスト前に済ませたじゃねえか。……和泉もいるなら、生徒会なんだよな。お疲れさん!」

 

 内気な和泉が生徒会役員とは意外。彼女はいつも俯き加減で読書しており、授業中に発言を強要させられる時にしか、声を聞いた事ない。だから、本気で労った。

 

「そんな……あたしは別に……。そ、そう言えば、金田一君もこの後の打ち上げ、行く?」

「何ソレ? 生徒会で打ち上げとかやってんの? 美雪からは何も聞いてねえけど……」

「正確には……前期生徒会の3年生を送る会だって。七瀬さんは……その話をする前に演劇部へ行っちゃうし。後から……言われると思う」

「マジか~。俺達、この後は用事あんのにっ」

 

 まさかの打ち上げ予定。

 金田婆さんには電話で訪問を伝えてしまい、今更のキャンセルは失礼すぎる。なれば、はじめだけで行くしかない。それは仕方ないが、美雪の残念がった後に喚き散らす姿が目に浮かぶ。

 

「あれ? 前から決まってたって……金田は知ってんの?」

「うん、打ち上げのカラオケ店は……金田君が予約したし。でも、今日は行けないって、聞いたわ。あたしは……元々、断ってたけど」

 

 嫌な予感。

 金田はここ最近、金田婆さんとの約束を果させる為、はじめを探し回っていた。

 はじめ達が金田宅へ行くと聞き、出迎えの準備に急いで帰った可能性。美雪の話だけでは、彼が帰ると言い出した前後が不明だ。

 

「なあ、美雪も行かなきゃダメ? 和泉も行かねえならさ、今から3人でコッソリと帰っちまおうぜっ」

「……お疲れ様です。副会長……」

 

 悪巧みめいた笑みを浮かべ、和泉を誘う。すると彼女はそっと目を逸らし、はじめの後ろへ挨拶した。

 ゾワッと背筋が凍り付き、振り返れなかった。

 

 結局、副会長に恫喝と言う名の説得を受け、涙ながらに美雪は打ち上げへ連行された。

 

「はじめちゃん、ちゃんと謝っておいてよ。それに次の約束もしてね!」

「わかったっつ~の! 行こうぜ、和泉」

「うん……」

 

 無事に解放され、はじめと和泉は駅へ向かう。夕方でも晴れ晴れとした天候、明日の快晴を約束していた。

 

「おっかねえなあ……副会長……。美雪がアレだと、頼もしいわなあ」

「うん、前期も副会長だったの……。本当は生徒会長に立候補するはずだったんだって……。でも、七瀬さんの立候補が決まった時に副会長のまま、立候補し直すって……」

「生徒会顧問に頼まれただけで安請け合いして~。美雪はよ~、1年生のくせに生意気だぜ~」

「先生は喜んでたよ……」

 

 駄弁りながら、歩く。和泉は小声だったが、かなり口を利いてくれた。

 駅へ到着し、お互いの目的地が反対方向と知る。何故か、和泉に不思議がられた。

 

「金田一君……。電車の方角……一緒だよね」

「あ~、隣の市に用事がな。んじゃっ、和泉。またっ」

 

 和泉が名残惜しそうな視線を送ってきたが、気付かない素振りをした。

 

 歩けば遠し、まさにそんな気分。

 3月と言っても、まだ冬の時期。日の入りは早く、陽の光が無くなって行けば、段々とテンションも下がる。美雪と来る予定だった為、普段のような電車登校を後悔した。

 地味な坂道を上り、地図上の金田宅を肉眼で確認。途中、自家用車とすれ違う。そこに金田が己の祖父と乗車しているなど、露とも知らずにいた。

 

「ようこそ、金田一くん♪ あら、確か……七瀬さんって方も一緒だと聞いたわ」

「美……七瀬さんは生徒会の用事で来れなくなっちまって、俺1人でスンマセンッ」

 

 玄関先で出迎え、金田婆さんは美雪不在を笑って許してくれた。

 

「良いのよ。(いち)も約束があったから、出掛けちゃって。主人にも会わせたかったけど、(いち)を送りに行っちゃってね。お夕食、七瀬さんの分もあるけど……。金田一くんが食べる?」

「お邪魔します! 頂きます!」

 

 今夜の晩御飯を楽しみに遠慮なく、靴を脱ぐ。通された居間の卓袱台が置かれ、エビフライと唐揚げがてんこ盛りの大皿、コーンポタージュ、ポテトサラダが目に入った。

 そして、真新しい仏壇。遺影はなくとも、それが氷室画伯の位牌とすぐにわかった。

 はじめは柄にもなく、りんを鳴らす。既に何度も鳴らされているのだろう。一か所だけ擦れていた。

 

「ありがとう、一聖にも挨拶してくれてっ。もしかしたら、剣持さんから聞いたかもしれないけど……。高尾山の再捜索、3月の末頃に行うんですって。金田一くんが来る前に……北海道警察の方から、連絡があったわ」

「……日付が決まって良かったです」

 

 遺影がない理由を察し、気の利いた言葉も思い付かない。自身を情けなく思い、はじめは笑顔も取り繕えなかった。

 

(いち)ったら、かなり金田一くんを追い回したって聞いたわ」

「ええ、まあ。その、金田……(いち)君は生徒会ですから、俺……勘違いしちまって」

 

 余程、はじめが沈痛な面持ちだったらしく、金田婆さんは話題を振ってくれる。

 金田に関し、お互いに一度も会った記憶がない。もしかしたら、入学式で隣の席だった可能性はあるだろう。学科も違う為、それすらもないと即断した。

 

「一緒に居られなくて残念だけど。ここにある料理は全部、(いち)が用意したのよ。金田一くんの為にねっ」

「え? 金田が全部、用意って……料理出来るんスか? は~、凄げえ……」

 

 はじめの予感は的中。前々からの約束抜きで急遽、帰宅したのは夕食の為だった。

 

「今日は(いち)が夕飯の当番だったから、作ったのよ。気にしないでね。明日の卒業式、(いち)は出ない話を知っているかしら?」

「生徒会なのに!? 卒業式をサボるんスか?」

 

 ご飯を盛ってもらいながら、ビックリ仰天。正直、はじめも明日は寝過ごそうと思っていた。

 何という豪胆。少しだけ、親近感が湧いた。

 しかも、金田婆さんは学校行事を休んでも文句はない様子。心が広くて、実に羨ましい。はじめの母親も見習って欲しいが、後が怖いので絶対に言わない。

 羨望は腹を空かし、目の前の御馳走に箸を進める。エビフライの衣、唐揚げの揚げ加減が最高の歯応えだ。

 

「フフフッ、良い食べっぷり♪ 子供はこのくらい、元気があって良いのよ」

「食い気だけは人一倍ありますンでっ」

 

 高校生になっても、侮られた意味で子供扱いされた事は多々ある。しかし、金田婆さんから慈悲深さしか伝わって来ない。美雪の推測にあるような相談事でも、なさそうだ。

 はじめは幼い頃から、悩みを打ち明けやすいと相談される。名探偵にして尊敬する祖父の血筋が成せる体質と自負している。大っぴらにしておらず、こちらから引き受けたりしない。自然とそんな流れになるのだ。

 逆に言えば、口の堅い人は絶対に口を割ってくれないのだ。

 知りたいわけではないが、こちらからほんの少し探ろうと思う。食事の後にだ。

 

「全部、平らげちゃって……。惚れ惚れしちゃう~。今度はっ、私が当番の時にいらっしゃい。老婆心ながら忠告しておくけど、主人の時はお勧めしないわ。焼くだけなのっ」

「……うえっぷ、金田……(いち)君に当番を聞いておきますっ。ぐふっ」

 

 デザートまで食べ終わり、昆布茶を啜った後。次の約束までこぎ着けた。

 

「俺、氷室画伯は自画像の顔しか、知らなくて……。写真とか、あれば見てみたいなあ~」

「ええ、勿論♪ 金田一くんになら、見せてちゃうっ。確かに、一聖は写真も嫌いでね。子どもの頃は写真自体が珍しいでしょ? 滅多に撮れないモノだから、写ってくれたけど……。大人になってから、ほとんど撮らなくなったわ」

 

 仏壇の後ろから、2冊のアルバムを取り出す。一番古い物を開き、見せられたのは自画像と同じ顔、髭がない。金田婆さんと一緒にいれば、幼女と並ぶ。幼女に似た男と4人で揃う様子が途中からなくなり、違う男と写っていた。

 

「この女の子は?」

「一聖の妹よ。(いち)の母親と言えば、分かりやすいかしら」

「じゃあ、この人はお爺ちゃんですか? ……(いち)君のお母さんにソックリだしっ」

「正解っ。2人の父親、氷室よ。こう見えても、映画スタントマンだったわ。撮影中の事故で亡くなっちゃって、仕事仲間だった金田の主人と結婚してね。一聖は向こうの親族を頼って、氷室の姓に残ったわ……」

 

 金田は氷室画伯の甥。勝手な隠し子疑惑が払拭でき、良かった。

 親子で名字が違うのも、納得だ。だが、夫と息子が事故死とは奇妙な偶然であり、辛い境遇だろう。

 

「これ、見てくれる?」

「うん? ……氷室画伯ですか? ここの玄関先で撮った……?」

 

 すると、金田婆さんはまだ色合いの新しいアルバムを開く。学生服を着た氷室画伯が1人。玄関先に立つ。古い方にも、場所は違えど同じ写真がある。見比べれば、新しい写真はほんの少しだけ背が低く、袖元を折っていた。

 

(いち)よ、この子。一聖の学生服を着て、撮ってくれたの」

「ええ~!? クリソツ~!! 同じ人間じゃねえのかよ!」

 

 再び、ビックリ仰天。どう見ても親子です、本当にありがとうございます。

 

「やっぱり……クスクス。金田一くん、(いち)の顔を知らなかったのね。態度を見てわかったわ♪」

 

 イタズラ成功と言わんばかり、金田婆さんは忍び笑った。

 生き写しの言葉がピッタリ合う。もしも、背氷村に金田がいれば、大騒動は間違いない。ここまで思考が巡り、疑問が浮かんだ。

 

「俺の周り……学校の連中も多分、金田が氷室画伯の甥だって知らないですよね。報道とか大丈夫だったんですか?」

「一聖に繋がる氷室の家は絶えているし、ここで暮らすまでに何度も住まいを変えたもの。根性のある方なら、私に辿り着くでしょうけどっ。来たら来たで、白を切り通すわ」

 

 流石は年の功だろう。彼女の薄笑いにゾッとした。

 

(そうか……、綾辻さんも辿り着けなかったんだな。この人まで……)

 

 背氷村に伝わる雪夜叉伝説になぞらえ、連続殺人事件を起こした犯人・綾辻(あやつじ) 真里奈(まりな)

 自分の手で仇を討つ為、入念な事前準備を行っていたに違いない。標的4人の身辺調査は勿論、本物の氷室画伯についてもある程度、調べたはずだ。

 仮に金田家を突き止めたとしても、なりすましの事実を伝えなかったかもしれない。犯行も独断でやり遂げただろう。

 彼の自画像を撮影した貴重な映像は道警に押収され、陽の目は見ない。報道関係者に知られない限り、金田家は安泰。

 ここまで綾辻が先を読んでいたとは思わない。だが、撮影中や捜査中もはじめを気遣ってくれた彼女ならば、その可能性を信じたく思う。裁判が終わり、無期懲役の判決と今朝のニュースにあった。

 金田婆さんがその話題に触れないなら、はじめも控えよう。

 

(しっかし、似てんな。こんな奴が同じ学校とは……しかも、美雪と同じ生徒会だとお?)

 

 よく見なくても、金田は整った顔立ち。男前と言うよりも、真面目で気難しい印象を受ける。生徒会執行部が似合う顔と言うべきだろう。別に嫉妬などしていないが、モヤモヤとした気分だ。

 アルバムを捲れば、氷室画伯と2人だけの写真がチラチラと目に付く。これで親子じゃないなど、信じられない。

 氷室画伯の妹と並んだ男性は金田の父親だろう。3人だけの写真は少ない。代わりに男似の麗しい女の子――推測だが、姉と一緒が多い。ランドセルを背負う姉弟の名札は【残間(ざんま)】と書かれている。しかし、中学校の体操服に付けられた名前は【金田】になり、同級生との撮影はあっても、ほとんど1人で写っていた。

 その写真だけで色々と察した――もう何も聞くまい。

 

「金田一くん、歩いて来たようだけど……そのお腹じゃ辛いでしょう。タクシー呼びますね、お代は気にしないで」

「ああ~、お言葉に甘えます♪ ありがと~ゴザイマス!」

 

 はじめは気まずさを表情に出していたらしく、気遣ってもらう。歩かずに帰れて、非常に有難い。

 金田に会えたら、礼を言おうと心に誓った。

 

 この後も出会わない、巡り会えない、すれ違い。ニアミスが続き、結局、美雪に伝言としてお願いする羽目となったのは、別の話である。




明智「明智です。閲覧ありがとうございます。質問なんですが、金田一君が演劇部の幽霊部員になったのは『オペラ座館殺人事件』後だったはずでは? 成程、勘違いした……全く、仕方ないですね。さて、次回は『殺人ポーカーを思い返す人‐相島』!! ほう、彼はチェスが出来るんですね」

神津 さやか、桐生 春美
それぞれ、誰が女神を殺したか? オペラ座館殺人事件、ゲストキャラ

相馬 真紀、鈴森 笑美
氷点下15度の殺意、ゲストキャラ

綾辻 真里奈
雪夜叉伝説殺人、ゲストキャラ
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