金田少年の生徒会日誌   作:珍明

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船の上でパイプを吸うシーン、好きです

誤字報告により、修正しました。ありがとうございます


29休 幽霊客船を流刑船と呼ぶならば・中編

 澄んだ青空と穏やかな波音に挟まれた甲板。

 鷹守(たかもり)船長は手摺にもたれ、パイプを咥えて煙を吹かる。古い映画のワンシーンさながら、ちょっとカッコイイかもと思ってしまう。

 その静けさは赤井(あかい)の甲高い怒気によって、ぶち壊された。

 

船長は! なんにも! 理解がない!!

「……はあ、……こんなボロ船に禁煙もクソもないでしょう。赤井様が神経質なのでは?」

 

 赤井は顔を真っ赤にし、まるで子供の駄々。鷹守船長は眉ひとつ動かさず、煙を吐きながらボソリ。

 岡持(おかもち)鷹杉(たかすぎ)は少し離れた位置から、そっと様子を見守る。赤井と行動を共にしているはずが、無関係ですと言わんばかりの態度だ。

 面白い構造を尻目に、(いち)は同級生達へ事情を尋ねる。

 

「わっかんないんだよ。船長を見た途端、赤井さん『煙草があ!!』って怒りだして……」

「最初は火の扱いに怒ってるのかなって思ったけど、なんか違うみたいよ」

 

 2人の完全に困惑する態度から、赤井は興奮状態でまともに原因を話していない様子。

 

「最近の船って、禁煙が多くなってるんですよ。ボクは昔の映画みたいで好きなんですけどね、安全を考えたら……しょうがないと思います」

 

 流石、撮影者の竜二(りゅうじ)。演劇に通じる自分と似た感性を持つ。

 不意に乗船前の金田祖父と佐木(さき)母とのやり取りを思い返し、(いち)は思い当たる。

 

「もしかして、赤井さんは煙が魔除けになって『幽霊船長』がいなくなると思っていますか?」

「!! そうです! やっと話が通じた!」

「……ふ~ん、わたしゃ長いコト船乗りですがね。そんな眉唾な話、初耳ですわ。お客様はえ~と……お若いのに、よくご存じだ」

 

 赤井の表情は明るくなり、万歳。

 反対に鷹守船長は見下ろす視線で、偉そうに知らん顔。(いち)の名前さえも覚えていない。イラッとした。

 

「しかも、船長は騒動の遭ったちょうど、この場所で煙草を吸っているんです! これじゃあ、もう幽霊の痕跡も残ってないかもしれません……」

 

 赤井が手摺を指差しながら、ブツブツと文句を言う。ビデオ映像では分かりにくかった現場を知れたのは収穫。それを抜きにしても、鷹守船長の態度は責任者として頂けない。

 

「それは良くありません。鷹守船長、経緯はどうであれ……人が落ちかけたのです。事故現場として、立ち入りを制限すべきでは?」

「ハッ、お客様も幽霊を信じる口で? 仮に、時原様が背中を突き飛ばされた(・・・・・・・・・・)としても、ウチの乗組員が助けたんだ。大事にしないで欲しいものですな」

 

 (いち)が申し立てると鷹守船長は鼻で笑う。その返答に場の空気が凍り付き、清掃していた船員も動きを止めた。

 

「船長」

 

 そこに颯爽と現れた水崎(みずさき)二等航海士、新しい風が吹き込んだように爽やか。操舵室の勤務を終えたらしい。

 

「若王子航海士が呼んでおります。勤務見直しについて、相談したいと」

「……加納が目覚めんからな……、分かった。では、お客様方。ごゆるりと快適な旅をお過ごしください。私が言うのも何ですが、幽霊騒動も程々にっ」

 

 物凄く面倒そうに呟き、鷹守船長はやれやれとブリッジを目指して行った。

 彼が去った後、甲板に残された空気はまだどこか重苦しい。誰かがふっと息を吐き、張り詰めていた緊張がようやく緩む。

 

「やな感じ~ですね、金田センパイ!」

「竜二君、水崎さんの前ですよ」

 

 竜二がプンスカとお怒り、(いち)は視線で咎めた。

 

「いえ……お客様がそう申されるのも、無理はありません。船長では頼りないと、先ほども雪峯様と時原様が若王子航海士へ抗議しに来たと報告を受けています」

 

 水崎二等航海士は深く詫び、目を伏せる。上司がアレでは、部下の苦労も絶えないだろう。素直に同情した。

 

「この船の後も……船長とご一緒ですか?」

「いえ、別々の船へ異動となります。私達にとっても最後の航海です」

「良かったデスネ」

 

 確認で問えば、水崎二等航海士は丁寧に答える。竜二は正直すぎる。

 

「さっき船長が『加納が目覚めん』って言ってましたけど、何かあったんですか? 当て身を食らわせたとか?」

「いえ、加納航海士はご自分で眠られたんですよ」

「確か……眠る持病を持ってるんでしたっけ? 大槻さんに聞きました」

 

 岡持のとんでもない質問に苦笑しつつ、水崎二等航海士は律儀に答えてくれる。竜二の補足を聞き、鷹杉はハッと思い付いたらしい。

 

「大槻さんと言えば! 水崎さん、香取さんとお付き合いしてるんですって?」

「……ええ、まあ。お客様にまで知られているとは……大槻さんには困ったものです」

「そう言う話、好きっス。美男美女のカップル、羨ましい」

 

 鷹杉はニッコリ笑顔で「お似合いですよ」と言い、岡持も応援の言葉を添える。

 水崎は照れくさそうに頭を掻いた。エリート航海士の仮面が剥がれ、年相応の青年の顔が覗く。

 

「金田センパイ……ボク、大槻さんに教えてもらってないデス!」

(知らんがな……)

 

 竜二がショックを受け、(いち)に詰め寄った。

 

「お2人とも、その大槻さんと会いますよ。娯楽室で待ち合わせしています」

「「は~い」」

 

 和やかな雰囲気の中、赤井は独りで甲板の撮影を終える。高校生たちを引率するように娯楽室へ向かっていった。

 偶然居合わせただけの写真家が、すっかり引率者扱いだ。ちょっと罪悪感が湧く。

 

「金田センパイ、ボクらも大槻さんの話、聞きます?」

「……いえ、雪峯さんと話します」

「あ……金田様」

 

 目的地を定めた時、水崎二等航海士が(いち)を呼び止めた。

 

「こちら……落とされましたよ」

 

 差し出されたのは、朝方の写真。雪峯(ゆきみね)刑事が持っていたはずだ。

 それが目の前にある。(いち)は思わず、息を呑んだ。

 

「ありがとうございます。どこにありました?」

「客室階です。私がこちらへ下りる際、拾いました」

「雪峯さんが落としたんですかね……」

 

 聞いた瞬間、胃が竦む感覚。

 拾われた場所には納得したが、どこか違和感が残る。背筋がゾワッと粟立ち、(いち)は写真をポケットにしまった。

 

「……水崎さん、『にいみ』って名前、どう思いますか?」

「? 素敵なお名前ですよ。女性らしくて、繊細な響きです」

 

 唐突な質問にも、水崎二等航海士は紳士的に答えてくれた。

 その礼節ある笑顔は全く、崩れない。

 判断材料は揃った。

 

 (いち)達は雪峯刑事の客室を探し、適当にノックして回った。睡眠中だった吉田(よしだ)を怒らせるという犠牲を払い、ようやく辿り着く。

 時原(ときはら)を保護している為、雪峯刑事はすぐにはドアを開けてくれなかった。だが、写真を拾った話を伝えると、警戒心は解けた。

 

「ごめんなさい、その写真を探してたの。本当……取られたかもって、焦っちゃったわ」

「時原さん、ご気分は如何ですか? これから雪峯さんに色々とお話しますが、聞かれますか?」

「……ええ、私は聞いても……問題ありません」

 

 雪峯刑事は椅子に座る時原の前に立ち、彼女を守るようにしている。不用意に人を近づけないようにしているのだろう。

 

「金田君、幽霊の正体見たり、かしら?」

「センパイ、白神さんを呼ばずに、ですか?」

 

 雪峯刑事は話を聞く体勢だが、竜二は念の為に問う。白神(しらがみ)に伝えるより前に、言っておきたい。

 

「時原さんを突き飛ばしたのは鷹守船長です」

「「「え!?」」」

 

 (いち)は驚く3人に向け、ゆっくりとその結論に至った経緯を話す。

 

「竜二君のビデオ、全員「突き飛ばされた」としか言っていません。鷹守船長は先程、「時原様が背中を突き飛ばされた」「ウチの乗組員が助けたんだ」と見ていたように語りました。そして、彼には動機もあります。時原さんが『幽霊船長』だと思い込んでいます。赤井さんが手紙の筆跡は女性だと推測し、鷹守船長は時原さんに疑いの目を持ったのです」

 

 ひとつ、ひとつ。雪峯刑事が眉をひそめる。時原は目を伏せ、肩を震わせていた。

 

「……金田君、船長の証言は裏を取るわ。でも……どうして、よりにもよって時原さんが『幽霊船長』だなんて、女性は他にもいるじゃない」

 

 雪峯刑事は深く息を吸い、思考を巡らせる。

 

「……時原さんの個人的な部分に触れますが、……鷹守船長は時原さんがオリエンタル号の生存者だと覚えているのです」

!?

「え? ……なんで、そんな……ああ! ボクのビデオでも、船長は時原さんとまともに口を利いてないのに……すぐに「時原様」って呼んでマシタ」

 

 (いち)は時原の様子を見ながら、慎重に言葉を選んだ。

 案の定、彼女の顔は青褪め、こちらを見やる。知られている事実に、驚きと疑問が混ざっていた。

 竜二も驚きの声を上げる。

 

「……時原さん、今のお話は本当ですか?」

「は、はい……。私……若王子さんが乗っていた事は覚えて……いました。でも、まさか……船長まで……」

 

 時原は自らの腕を抱きしめ、震えながら答えた。怯えさせるつもりはなかったが、(いち)の胸は痛んだ。

 

「センパイ、船長の自作自演と言う線は……?」

「それは違います。船長は現場でパイプ煙草を吸っていました。自分、「煙が魔除けになる」と伝えたところ、初耳と前置きしておきながら「眉唾な話」「若いのによくご存じ」と……古くからある(まじな)いと知っている口振りでした」

「つまり、船長自身も……恐れているのね」

 

 雪峯刑事の呟きは『幽霊船長』に対してではなく、3年前の海難事故で亡くなった人々の幽霊と言う意味合いだろう。時原に配慮し、幾分か言葉を慎んでくれたのだ。

 そう、鷹守船長には恐れる理由がある。

 

「……相手が幽霊でないなら、私も動けるわ。でも、今のままじゃあ……小笠原に着くまで、船は止められないかも。それは覚えておいて」

「船長が犯人なんですヨ!」

 

 竜二が声を荒げる。

 だが、雪峯刑事は苦悩に満ちた顔になり、責任感の宿った眼差しで続ける。

 

「残念だけど……証拠のない証言だけの段階で、海上保安庁や警視庁へ通報しても、父島まで停船しない。時原さんの身に危険が迫ったのは事実だから、こっちの権限で小笠原警察署の協力は得られるわ」

「そんな……到着まで、36時間もありますよ。センパイ~」 

明智さんに(・・・・・)連絡しても、駄目でしょうか?」

 

 警視庁捜査一課のエリート警視の名でも、雪峯刑事は静かに首を横に振った。

 

「後はこっちでやるから、アナタ達は部屋に戻って。方針が決まるまで、部屋から出ちゃダメよ。また何か分かったら、内線電話で知らせて」

 

 それは高校生の安全を守る為、刑事としての判断だ。

 

 (いち)と竜二は客室へ戻り、施錠してベッドへ倒れ込む。何ひとつ、スッキリしない。モヤモヤも晴れない。感情の分だけ、体は布団へ沈む。

 

「現実は刑事ドラマみたいな解決編! ってワケに行かないですね、センパイ。まだ肝心の『幽霊船長』の正体が分からないのに……」

それ(・・)は香取さんです」

 

 竜二の残念そうな声に適当な答えを返し、彼を驚かせた。

 

え!? な、なんでですか……センパイ……え? 香取さん?」

「香取さん、『時原さんを襲った幽霊船長は』って言いました。他の件が別人の仕業(・・・・・)と知っているのは、本人だけです。そもそも……母と面識のある人がいる船で、母の筆跡で書かれた手紙が見つかったなら、必然的に『幽霊船長』は香取さんですよ」

 

 香取が『幽霊船長』と言える根拠は他にも、写真が貼られた場所。レストランは他人の動きに気を配り、こっそりと別の作業をしても、彼女には何の問題もない。この辺は確信を持てない為に、伏せておこう。

 

「まあ、動機は分かりませんけど……」

 

 結局、状況証拠によるただの言い掛かり。推理ではない。

 前回は社会的に信頼のある推理小説家により、(いち)の判断に補足をくれた。

 今回も、白神が納得のいく推論を立ててくれるかもしれない。

 ここに名探偵の孫が、男気溢れる警部がいれば、もっとスマートに事は運べたはずだ。

 

(結局、他人任せだなあ)

 

 意気込んで調査したものの、無力だ。にいみがいなくなった時と同じ、虚無感が肺から空気となって出て行く。

 

(証拠のない証言……か)

 

 雪峯刑事の言葉がかつて、(いち)を冷酷に突き放した神奈川県警(兵頭刑事)と被る。込められた想いは正反対だが、脳髄は悔しさを思い返してしまった。

 

「そっか……それで香取さん……ちょっと高遠さんに似てるな(・・・・)って、思ってました」

は? 竜二君、何故に高遠さんが出てくるのですか?」

 

 竜二はボソリと呟く。

 逃亡犯・高遠(たかとお) 遙一(よういち)。高度なマジックを用いて、3人を殺害した『地獄の傀儡師』。動機は生き別れの母親を死に至らしめられた復讐だ。

 何が、どう、似ていると言うのか、見当も付かない。

 

「香取さんが……センパイのお母さんの話をしたでしょう。……高遠さんがご自分のお母さんと会った話をした時と……雰囲気が似てる気がしたんです。どこか……昔を懐かしんでて……もう、あの頃に戻れないって……覚悟を決めた感じが……」

「……あっ」

 

 (いち)はハッと思い出す。

 竜二はあの死骨ヶ原湿原ホテル殺人事件の当事者。高遠が逮捕される瞬間にも、立ち会っていたのだ。

 すっかり、忘れていた。

 

「……ナイスです。竜二君っ」

「へ?」

 

 閃いた。警察……明智警視をこの船へ呼ばざる負えない状況。

 何も、全ての事情を納得させる必要はない。

 寧ろ、3年前の海難事故の当事者。去年の先代船長事故死から、幽霊騒動。行方不明者の手掛かり。このコバルトマリン号はドロドロとした人間関係を載せ過ぎだ。

 それに囚われていた。

 今一番の問題は被害者を出さない。その為、全員を船から降ろす。

 

〝僕の方でも引き続き、探してみます。幸い、目星は付けてるんですよ〟

 

 先日、高遠は確かにそう言った。

 全国に指名手配された逃亡犯が、一介の高校生へそう告げたのだ。

 早速、部屋の内線電話を使い、雪峯刑事へ連絡。掻い摘んで事情を説明すれば、電話越しでも彼女の動揺は十分、伝わった。

 

〈しょ……正気なの? 金田君、そんな偶然が……〉

「雪峯さん、そんな偶然はありますっ。『幽霊船長』は……『地獄の傀儡師』、高遠 遙一の可能性が強いです。手紙と写真は加納へのメッセージだったのです。以前、高遠さんから写真の女性を探していると聞きました。加納の動揺を見ても、事情があるのは明らかです。ご病気とは言え、眠っている状態は大変危険です。重要参考人として、保護すべきです!」

 

 無論、嘘である。

 雪峯刑事に聞き返され、(いち)は必死に信憑性のある話を並べた。

 後半部分は本当だ。恥じる事はない。

 

〈そもそも、アナタのような人が……高遠 遙一とどうして〉

「自分と高遠さんとの関係は、明智警視もご存知ですっ」

 

 当然の疑問を食い気味に答える。最後のひと押しとなり、雪峯刑事は感嘆の息を吐く。

 

〈金田君……今、誰かといる?〉

「竜二君といます」

〈私が連絡するまで、部屋から絶対に出ない。分かったわね?

「はい……」

 

 雪峯刑事の声は優しく、姉が笑顔で叱る時に似ている。その穏やかな口調が逆に怖くて、(いち)は背筋が凍り付いた。

 受話器を下ろし、カーペットへ座り込む。今になって、全身が震え上がった。

 刑事を言いくるめた達成感、あるいは高遠に罪を擦り付ける形になった罪悪感。もうこの際、どちらでも構わない。賽は投げられたのだ。

 

センパイ……ボク、ワケわかんないです~

「ちょっと……休憩をください……」

 

 半ベソの竜二が容赦ない。

 グッタリと疲れたが、(いち)は残る気力を振り絞って説明した。

 

 時間だけが過ぎ、正午を迎えた。

 

《乗客の皆様、一等航海士の若王子です。当船は八丈島へ向け、進路を変更致します。繰り返します。お客様の安全の為、進路を八丈島へ変更致します。急な変更、真にお詫び申し上げます》

 

 渋い声の船内放送が流れ、(いち)はホッと胸を撫で下ろす。

 

「センパイ……雪峯さん、上手く行ったんですね!」

「……ふう、そうでしょう。ここから八丈島はどれくらいかかりますかねえ……」

 

《尚、当船は八丈島へ向かう為、運航速度を通常に戻します。船内の安全には注意を払っておりますが、多少の揺れが発生します事をご了承ください》

「ああ、この船って最後だから、通常よりも長い船旅で組まれたスケジュールでしたっけ。水崎さんが教えてくれたヤツ」

「……速度を下げていたのでしょうけども、揺れ?」

 

 ――ゴオッ

 

 若王子(わかおうじ)一等航海士が告げた直後、船が大きく旋回した揺れを感じた。倒れる程の振動ではないにしても、前置きがなければ、確かに驚いていただろう。

 

「なんか……速い感じがします。前、ボクが夜行列車に乗った時と似ているような……」

(……逃亡犯がいるって……効きすぎたかな……)

 

 竜二が壁やカーペット、窓に触れ、今の速度に疑問を持つ。窓の外には白波が立ち、潮の匂いも強くなった気がする。船体が軋む音は増し、ただでさえ古い鉄は悲鳴を上げていた。

 (いち)は内心で焦り、無事に着くように願う。そこに雪峯刑事から内線電話が入った。

 

〈放送を聞いたでしょ。海上保安庁と警視庁の判断で、この船は八丈島へ向かうわ。明智警視も飛んでくるから、安心して頂戴〉

「……分かりました。乗客の行動に制限はかかりますか?」

〈指示があるまで自由に行動してもらって良いように、対策はしたわ。約2時間で到着予定だし、お昼を食べていれば、あっという間ね。金田君もお友達とゆっくりしてなさい。明智警視がい~っぱい、お話したいそうよ♪〉

「……おぅふ……、はい……」

 

 事は上手く運んだが、後が怖い。雪峯刑事の明るい声、お叱りの前のご褒美に聞こえた。

 

《お客様に申し上げます。レストランに昼食の用意が出来ております》

 

 今度は香取による船内放送。心なしか、声が弾んでいるように聞こえた。

 

 レストランは雪峯刑事、時原、そして、中村(なかむら)の姿がなく、10人。

 それぞれの席に同じ献立が用意され、皆で適当に腰かける。幽霊騒動に対し、事態が動き出したと賑わっていた。

 

「バイト、どうする?」

「さあなあ……父島へ向かわねえなら、バックレるしかねえって」

 

 大沢(おおさわ)と吉田はバイトの為に父島へ行く予定だった。収入が飛ぶのは辛い。

 

「なあ、白神さん。こういう場合、幽霊客船の調査は終了?」

「八丈島へ着いてから、様子を見ます」

 

 岡持の疑問をさらりとかわす様子から、白神はある程度、事情を聞かされたと感じる。

 

「時間あったら、展望台へ行きません? 赤井さんはどうしますか?」

「この船に貼り付いていますとも。いきなり、航路を変えるなんて……どんな新事実が出てくるやら」

 

 鷹杉は八丈島の観光スポットを巡れる期待に満ち、赤井もご満悦。2人とも目を輝かせているが、意味合いが違いすぎるのは何故だ。

 

「ねえねえ、香取さ~ん。時原さんは大丈夫? お腹、空かない?」

「降りる前に船員さんと喋べる時間……もらえますか?」

「大丈夫ですよ、美里さん。あたしが先にご飯、持って行きましたから。飯島さんのご希望に応えられる様、若王子さんに聞いてみますっ」

 

 美里(みさと)飯島(いいじま)に呼び止められ、香取(かとり)はウェイトレスとして愛想が良い。

 

「香取さん。さっきの放送、若王子さんでしたけど……船の舵をしながら、喋ってたんですか?」

「まさか、今は水崎さんが操舵室にいるの。こんな事態だから……若王子さんは無線室よ。ものすっごい集中してて、とっても機嫌悪いからっ」

(この様子じゃあ……加納はまだ起きてない……)

 

 竜二の質問はとても自然で、(いち)も助かる。

 若王子一等航海士は無線士の仕事も兼任していると思い返し、納得。

 そして、とても丁度良い。

 

「香取さん……ひとつ、お願いがあります」

「な~に? 金田さんに頼まれたら、あたし……ドギマギしちゃう

 

 (いち)を相手にした途端、香取はいたずらっぽく笑いながら声を弾ませた。

 わざと目立つように振る舞い、乗客達の視線が集め、更にコックまで苦笑いを浮かべる。

 

「金田君、香取さんは……」

まあまあ、鷹杉さん。想いを告げるだけなら、自由だって

「金田センパイ……」

 

 鷹杉と岡持、竜二にまで誤解され、暖かい眼差しをもらう。否定する余裕もないが、今はそれでいい。下船する頃、香取と笑い合えないのだから――。

 




聖子「聖子で~す。ドラマ版の船に乗っていた方の聖子で~す。オペラ座の聖子じゃないですよ~。さて、次回は『幽霊客船を流刑船と呼ぶならば・後編』!! きゃ~、イケメンな刑事さん♪ あたしも取調べして~♪」

赤井 義和
怪奇現象大好きおじさん、本当に幽霊が好きなだけ。煙草の煙が魔除けになる話も多分、知っている。アニメ版では悪徳記者に改変され、殺害される

吉田 明
アニオリキャラ、幽霊の仕業だ~!お兄さん。彼以外、まともに幽霊を恐がっている人がいない

時原 優
アニオリキャラ、オリエンタル号生存者。劇中にて、若王子に復讐する為に乗船したと打ち明けた
作中にて、鷹守に海へ落とされかける

鷹守 郷三
見た目だけなら、宇宙戦艦の艦長。客の前だろうと前後不覚になるほど酔っぱらう。ドラマ版ではワインのみ
作中にて、時原が幽霊船長と誤解し、殺人未遂を起こす

大槻 健太郎
酒とタバコと噂が大好きジイサン。一度、捕まると延々と喋る。ドラマ版では長さんが演じた

美里 朱美
女子高生、ただの良い子。事件が起きた事より、飯島を心配していた
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