金田少年の生徒会日誌   作:珍明

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200%、私の願望で出来ている話です


31休 幽霊客船に気を取られて-中村

 中村 一郎(なかむら いちろう)刑事は仮病を用いて、ツアーに参加した。

 まさかの雪峯(ゆきみね) 美砂(みさ)刑事と遭遇し、あまつさえ、『地獄の傀儡師』潜伏騒動に巻き込まれるとは思いもしなかった。

 鷹守 郷三(たかもり ごうぞう)船長も殺人未遂容疑で逮捕。加納 達夫(かのう たつお)は持病から目覚め、明智 健吾(あけち けんご)警視自ら取調べされている。その間、コバルトマリン号の現場検証結果の報告を受け、あちこちを走り回った。

 明智警視曰く、休暇中の剣持(けんもち) (いさむ)警部も戻り次第、加わるそうだ。

 捜査員、過剰すぎる。

 何故だろうか、それでも逃亡犯を確保するイメージが湧かない。

 

「中村刑事、香取 洋子さんをお連れしました」

「ご苦労……何だ?」

 

 そこへ雪峯刑事が事情聴取の為に香取 洋子(かとり ようこ)を任意同行して来た。挨拶代わりに労わりの言葉をかけようとした時、正面入り口が何やら騒がしい。

 

「明智さんを呼んで下さい。この人、どうしても話したいって言うんです。俺もどうせ、事情聴取があるんだし、ちょうどいいでしょ」

「ここは警視庁だぞ。よくもまあ、ここまでは入れたなっ」

 

 ツアーの乗客だった不動高校生・岡持 武則(おかもち たけのり)と浮浪者らしき男が菅原(すがわら)刑事に止められ、揉めている。確かに彼の事情聴取も予定にあるが、栄えある警視庁に堂々と不審者を連れて来ないで欲しい。

 コバルトマリン号へ乗船時、他の不動高校生同様。警察が相手だろうと平然とした態度で、カメラやビデオを向けていた。

 他校の女子高生もキャピキャピしていたが、まだマトモだった。

 

「とにかく、勝手に入れるんじゃない。外で待ってもらえ」

「中村さん。この人はスッゴク勇気を振り絞って、ここまで来たんです」

 

 中村が注意しても、岡崎は臆せずに力説し出した。怯えた浮浪者はキョロキョロと辺りを見回し、雪峯刑事と香取の存在に気付いた。

 

「行きましょう、香取さん」

「……え? うそ……」

 

 警戒した雪峯刑事が連れ出そうとしたが、香取は動かない。彼女はギョッとした目付きで浮浪者へ近付き、愕然と呻く。しばらく、2人は見つめ合った。

 妙だ。

 香取は出会った当初から営業スマイルを張り付け、鷹守船長の逮捕も他人事のように静観していた。それが嘘のように豹変。口元を押さえ、ガクガクと震え出す。

 人間らしい表情の変化、中村は驚かされた。

 

「香取さん、お知り合いですか?」

 

 心配した雪峯刑事の声にも、返事をしない。仕方なく、中村は香取を連れ出す様に、視線で伝えようとした。

 

「……お父さん?」

!? 洋子か……」

 

 香取に恐る恐る呼ばれた瞬間、浮浪者は掠れた声を張り上げた。

 

ええ!? 香取さんのお父さん!!

ウルサ……

 

 唐突の父子の再会。

 彼を連れて来たはずの岡持もビックリ仰天、知らなかったらしい。

 そして、中村達もまだ知らない。

 香取は鹿島 洋子であり、つまり、浮浪者の男は3年前に亡くなったはずの竜王丸・船長の鹿島 伸吾(かしま しんご)。衝撃的な展開に居合わせていた。

 

「いけません、香取さん! その人がアナタのお父さんと言う証拠はありません」

「お父さんです……あたしの……生きて……」

 

 同じく状況を理解していない雪峯刑事は流石、すかさずに香取を引き留める。

 

「岡持君、その人から離れなさい! 中村さんと菅原さんは彼を取り押さえて!」

「え? でも、この人……香取さんのお父さんだから……」

「洋子……」

「はいはい、ちょっと大人しくしててっ」

 

 雪峯刑事の指示に岡持は右往左往、菅原刑事は容赦なく浮浪者を取り押さえた。彼女は中村より後輩だったはずだが、最近は一端の刑事の顔になった。

 成長が嬉しい。しかし、完全に出遅れた。

 

「……おい、空いている部屋はないか?」

「……! ハッ、すぐに調べます」

 

 通りすがった五十嵐(いがらし)刑事は一先ず、拘束に使える部屋が空いていないか、近くで呆然としていた正野(ただの)刑事へ問い合わせた。

 

「やめて、お父さんに乱暴しないで! お願い!」

「香取さん……先ず、事情を確認しますからっ」

明智……明智さんを……

 

 離れ離れに連れて行かれる中、浮浪者はあろう事か、我らが明智警視と同じ名を呼ぶ。

 

「そう、その人。明智 健吾って人と話したいんだって。やっぱり、あの眼鏡の警視さんですよね? 中村さんっ」

「!? ……名前だけなら、そうだな。だが、雪峯刑事の言う通り、事情を聞かんと」

 

 いつの間にか、岡崎は中村の真横にいた。全く、気配を感じず、ビックリした。

 

「これを……見せれば、私の……話を聞いてくれる……」

 

 浮浪者は震えた手で、ズタボロズボンのポケットを弄る。似つかわしくない真新しいカードを取り出し、見せて来た。

 警戒心が一気に高まり、雪峯刑事は香取を通路の奥へ引っ込ませた。

 

「岡崎はもっと下がってろ」

「……はい(なんで? ただの紙じゃん?)」

 

 中村は手袋を取り出し、納得していない岡崎を下がらせる。菅原刑事に浮浪者をしっかり押さえてもらい、慎重にカードを手に取った。

 

「何々……【アケロン河より現世へ舞い戻りし、エイドロンをお返しする。地獄の傀儡師】……?」

「え?」

「は?」

「ん?」

 

 読み上げてから、雪峯刑事、菅原刑事、五十嵐刑事と言葉に詰まる。中村も意味を咀嚼するまでの間、沈黙に支配された。

 

明智警視!!

 

 指名手配にして、今回の関与が疑われた男からの直接、メッセージ。

 みっともなく、ロビーの中心で明智警視の名を叫んだ。

 

〇●……――ヴィトンのバックは海難事故の際、浮き輪の代用品となる。故に自分も愛用していた。

 だが、今日に限って金具の部分が緩くなり、閉まらない。修理しようにも、工具を探す余裕などありはしない。

 ダメだ。

 これでは折角、ビニールに入れた日誌が海水に浸ってしまう。服を脱ぎ、ロープ代わりに縛った。

 やはり、ダメだ。

 視覚、聴覚、精神が迫りくる死への恐怖を掻き消す。

 

 ――この命尽きようと、日誌だけは娘へ届け!!

 

 その叫びは果たして、口から出た言葉だっただろうか?

 意識を無くしても、スーツケースを抱き締めていた。それだけは言える。

 

 ザァザアン、ザザァン

 

 皮膚が太陽の光を感知し、瞼が眩しさを脳へ伝達する。穏やかな波音に混ざり、人の声が聞こえる。

 

巴は~ん! 土左衛門、釣りあげてしもたあ

「うわ……やっちゃったねえ、こりゃあ」

 

 男の声、2人。

 

「んん~? いや、生きてるよ。微かに……息がある」

「うそや~ん、皮と骨だけですにぃ~」

 

 浮遊感が無くなり、頬を地面に置かれた感触。反応したくても、脳髄と四肢との伝達が切れた様に動かせない。

 

「恋琴島の下調べで、こないな目に……まさか! この島で姿を晦ましったちゅう……物理学者?」

「持ち物からして、違うんじゃない? にいみさ~ん! 和田さんが人を釣った!!」

 

 足音が近付き、気配がひとつ増えた。

 

「……――、……」

「え? 放っておくんスか? ……ああ、海賊かもしれないっちゃあ、しれないか」

「いやいや、ヴィトンのバック持ってはりますやん。海賊がそないなもん、持ちませんて! ……密入国者て、にいみさんは火サス見過ぎてです!」

 

 そうだ。バックが……スーツケースないとダメだ。中身が無事であって欲しい。

 

 ――中身って何だ?

 

 届けなくてはならない。

 

 ――誰に?(・・・)

 

 無意識下で起こる自問自答の中、スーツケースを握る手に力が入った。

 

「どっかの船が難破して……漂流した人だとしても、この辺じゃないな。一先ず、近くの病院にでも運んでみますか。ん? はいはい、警察に通報するのはこの人が起きてからね」

「にいみさん、警察お嫌いですもんな♪ イタ、イタ! 地味に蹴らんでぇや!」

 

 ゆっくりと体が浮上し、丁寧に運ばれる。スーツケースも一緒に持ち上げられ、脳髄の安心を感じた。しかし、船の難破、何故か知っている気がする。

 

「……――、……」

「オリエンタル号の生存者? にいみさん、アンタなあ……三積ヶ浦から、ここまでどうやって流れ着くんです? 仮にそうやとしても、3カ月間も海の上を彷徨ったコトになりますやん」

「ハハハ、江戸時代に1年以上も漂流して生き延びた前例もあるし、案外、行けるんじゃないスか?」

 

 ――三積ヶ浦

 

 名を拒絶するが如く、ビクッと体が痙攣した。だが、力が弱すぎて気付いてもらえなかった。

 否、起きていると思っていたのは自分自身の勘違い。

 疲弊した肉体は眠っており、睡眠時でも聴覚が動いていただけだ。

 

 身元不明者として最低限の治療を受けている間、歳月は過ぎる。救助してくれた人達から診療所へ預けられたまま、放置された状態だった。

 

「……――、……」

ちっとも、起きません。ああ、こりゃあどうも。こっちは貰うもん、貰えたら……」

 

 久方ぶりに、誰かが診療所を訪問した。年老いた医師と喋りながら、スーツケースを改めていた様子だけは感じていた。変わらず、この身は動けない。

 

「……――、すまない……」

 

 涙ながらに詫びられた。その泣き方から、女性だと思った。

 何度か、彼女は診療所を訪れては報告してくれた気がする。脳髄が深い眠りに落ち、周囲の様子が全く分からない事もあったのだ。

 

「……――、加納はどうにか……」

 

 加納? 知っている名だ。今回の航海にも、同じ名の乗組員がいた。

 乗船、船……私は船長。竜王丸の船長……。

 

 ――竜王丸!! 洋子!!

 

 瞼が開けた。

 日焼けした木材の天井が見え、手足を動かす。

 

「あ……ああ」

 

 耳後ろの脈より、小さい声。

 生きている(・・・・・)

 感激に涙が溢れ、掌で涙を拭う。木の枝みたいな細い腕が、自分の肉体と気付く。頬、頸、鎖骨、腹、骨に皮が付いているだけだ。伸びた髭が、今日までの日数を教えてくれた。

 あの恐怖の一夜から、1年以上或いは2年は経過している。

 ハッとスーツケースを抱き締めた最後の記憶が甦り、ベッドの周辺を見渡した。窓際へポツンと置かれ、体の重さに抵抗しながら、点滴のチューブを外す。

 痛みなど気にせず、必死に中を改めた。

 

 ――ない、日誌がない!

 

 海に流れてしまった。その事実を見せ付けられ、絶望が神経を侵す。臓物は震え上がり、体は床へ這い蹲った。

 会いたい、ただ、会いたい。

 

洋子……」

 

 ともかく、帰ろう。

 窓から見える満天の星空。輝きが優しく日本にいると伝え、嬉しさに心は弾んだ。これで無事、帰れる。

 娘の待つ、我が家へ――。

 

 しかし、待っていたのは更なる絶望。

 全ての窓が割られ、誹謗中傷が刻まれた廃屋。この身は人殺しの大罪人となっていた。

 散乱した新聞記事から、自分も死亡扱い。在り得ない事態に、脳は理解を拒む。

 

 ――洋子は何処へ? まさか!

 

 先ずは鹿島家の墓へ走り、墓石を覗く。洋子の名は無いと認めるまで、生きた心地がしなかった。酷く安心した後、不意に気付いてしまう。自分の名も無い(・・・・・・・)

 遺体が無く、葬儀が出来ずとも、命日だけでも刻んでおく。大事故からの歳月を考えれば、それでも十分な弔いになる。為されていない理由はいくつか、浮かぶ。

 生存を期待しているか――見限られた。

 船乗りの生活に加え、男手ひとつ。寂しい思いをさせていた自覚はある。

 洋子が中学校に上がった頃から、如実に表れて来た。心のすれ違いは日に日に大きくなり、今回の航海を機に船を降りる予定だった。

 

 ――もう(・・)、全て遅かった。

 

 自らの答えに納得し、失意のどん底に落ちた。帰るべき場所を無くし、治療を受ける意思も消えた。だから、診療所へ戻らず、足は只管に遠くを目指した。

 どうせなら、海に囲まれた島が良い。乗船せずとも、船が入出する港の傍で過ごしたかった。

 

 診療所で起きた出来事は後から、聞いた話。

 

「!? 嘘じゃろ……! あの体でどこへ!!」

 

 意識不明の重体だった自分がいなくなり、年老いた医師が慌てふためく。恩人は連絡を受け、愕然とし空のベッドを眺めた後、怒りに任せてスーツケースを蹴り上げた。

 

「……!! 後、少しだったのに……しくじった! どいつもこいつも! 全て台無しにしてくれた!! 何故だ……何が、行けなかった!!」

「け、警察に……」

 

 そんな混乱極まった状況ならば、年老いた医師に賛成するだろう。だが、恩人は拒んだという。

 

「何も知らん貴様は黙っていろ! 鹿……あの男はまだ、人前に晒すワケにいかんのだ! アタシが直接、探す! 貴様は奴が戻り次第、すぐに報せろ! いいか、縛り付けてでも逃がすなよ!!」

「は、はい……」

 

 青筋を立てた恩人は喚き立てつつも、現金を札束で払ってまで命じた。それから季節は廻ったが、年老いた医師への連絡は未だにない。

 そして、恩人の家族も同じ状況。

 勝手に診療所を抜け出した自分を捜索する為、母親の立場にいる女性が己の家族を放り出した。

 

 ――否、自分が(・・・)捨てさせた。

 

 意識すらしなかった話を聞かされ、自分は背筋が凍り付く恐怖を覚えた。

 

「もう一度、お聞きします。金田 にいみさんとお会いになりましたか?」

 

 アロハシャツを着た男、指名手配犯の『地獄の傀儡師』に問われ、頭を振った。

 いくら、写真を見せられようが、全く分からない。

 居場所を知っているなら、寧ろ、自分が地面に這い蹲ってでも感謝を伝えたいくらいだ。彼女の家族に全身全霊を以て詫びたい。そう、訴えた。

 サングラスの奥に隠された鋭い眼光が更に強くなり、自分はこのまま地獄に堕とされる。本気で思った。

 細く、キレイな指から手渡されたのは死。などではなく、メッセージカードと東京行くフェリーの代金。三途の川の渡し賃にも見え、恐怖による震えは治まらなかった。

 

「警視庁の明智 健吾を訪ねなさい。これを持って行けば、アナタの話を最優先で聞いてくれますよ。焦らずとも……ゆっくり考えてから、お決めなさい」

あ……ありがとう

 

 離れて行く背中に掠れた声で、感謝した。

 

「私はただ、約束を果したかっただけです。もしも、アナタが……いえ、何でもありません。Goodluck、良き再会とならん事を」

 

 物腰柔らかな『地獄の傀儡師』は最後まで礼儀正しく、声援もくれた。

 しかし、言葉の節々に切り捨てられたような非情さを感じ、恐怖に顔を上げられない。一切の安らぎを許されず、処刑台へ並べられた気分に駆られた。

 

 彼との時間は怖ろしかったが、背中を押してもらえたお陰で洋子に会えた。

 

お父さん!!

 

 ガリガリに痩せ、髭に覆われた身なりでありながら、父親とすぐに見抜いてくれた。こちらへ手を伸ばし、娘は感涙に頬を濡らす。家族の愛を目の当たりにして、自分は本当に愚かだったと悟った。

 最初から、娘は帰りを待っていると信じ、親戚中を渡り歩けば、良かった。

 恩人への償いは必ず、する。

 

 ――だから、今だけは再会を喜ばせて欲しい。




鷹守「はあ~!? 鹿島が生きていただと~!? 『地獄の傀儡師』も現れて、もうワケが分からん!! 誰か説明しろ~! 次回予告? 『幽霊客船に気を取られて』? タイトル一緒?」

中村 一郎
仮病でツアーに参加した刑事。誰が女神を殺したか?にも登場

香取は鹿島 洋子
たった独りで戦った少女
苦労だなんて言葉で片付けられない。壮絶な日々を送る中、愛した水崎が仇の1人と知ったシーンは号泣
作中にて、にいみの援助により「香取」姓で高校を卒業。恩人の行方を捜す目的で、鷹守達に近寄る
水崎とは破局したが、眼鏡とハンディカムの似合う年下ボーイとの未来が待っているので問題ない

鹿島 伸吾
中堅クラス渡航タンカーの船長。原作小説だと地域っぽい印象だけど、アニメとドラマでハッキリと描写あり
作中にて、スーツケースと共に海へ身を投げた為に生存。絶望の果てに朽ち果てようとしたところ、高遠に発見される

高遠 遙一
今回のMVP。残間 青完との約束で、にいみの捜索中に鹿島へ辿り着く

菅原、五十嵐、正野
剣持警部の部下だったり、誰かのゲストキャラの親だったりする

年老いた医師
穴埋めオリキャラ、寝たきりの鹿島船長を世話していた
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