金田少年の生徒会日誌 作:珍明
これを以て、章の終わりとします
誤字報告により修正修正しました。ありがとうございます
ツアー旅行は中止、バイトも休み。
ともなれば、
演劇部の部室から稽古に励む声が聞こえ、遠慮なく戸を開く。台詞合わせの真っ最中、台本を見ていた視線が一気にこちらへ向けられた。
「金田~、来られたんだ~」
「新学期に来るんじゃなかったのかよ、金田」
「仙道君、神矢君、おはようございます。来られるようになりました」
まさか、事件でツアー旅行が中止になったとは言えぬ。絶対に。
「金田も来たし……ワンシーン、通すか。仙道、有森の代わりにこの部分を読んでくれ」
「はい~」
ワンシーンと言っておきながら、
結局、最後まで通した。
終わった後の達成感に誰かが息を吐く。それは物足りさ、
「やっぱ、台詞足すか。こことここ、んで、ここも」
「はい、尺の調整は……」
タオルで汗を拭い、布施先輩は神矢と音響係を呼び、台本に書き加えていた。9月のコンクールへ向け、取り組む姿に
「おはようございます。あっ、もう一稽古終えた雰囲気!!」
「有森君、おはようございます」
「有森、おっせえ」
「オレ、有森の台詞。読んどいたよ~」
ドアを開けた
そんな彼の後ろから、ひょっこりと人影が現れる。
「失礼します、金田君いる?」
「げえ、桜樹君!!」
完全に慣れた動き、出遅れた
「皆さん……練習とか、していましたか?」
「あら、金田君は初めて見るのね。私が来るといつも、こんな感じよ♪ さあ、いらっしゃい」
クスクス笑う桜樹先輩は楽しんでおり、嫌な慣れ方。
断る隙も与えられず、
「……金田ぁ、秋の演劇部大会~。ウチの学校、10月の日程になったからな。そのつもりでいろよ~」
「……っ」
布施先輩は他の部員と一緒に部室のドアへ張り付き、重要な連絡事項を叫ぶ。更にゲンナリし、手振りで了解を伝えた。
ミステリー研究会の部室がこちらへ移されてから、
「やあ、金田。お手柄だったそうだねえ、僕には敵わないがよくやったよ」
「真壁先輩、鷹島先輩、おはようございます」
「おはよう」
「金田先輩。どうぞ、麦茶です」
「ありがとうございます……1年生の京谷君ですね」
1年4組・
遠慮せず、
空き教室の利用とは言え、置かれた備品のチェック。部活動内容に則る使用を守っているか、生徒会執行部として気になる。資料棚は良いとして、パソコン室にあるはずのパソコン1台、堂々と置かれていた。
「……このパソコン、いつからここにあるのですか?」
「白神さんに頂いたの。新型に買い替えたらしくて、本当……助かるわ」
呆気に取られて、
「金田先輩、この事件……先輩が警察に協力したって本当なんですか? あ、お茶のお代わりです」
「京谷君、お茶をありがとうございます。……若輩の身ながら、意見を言わせて頂いただけです」
勉強机を繋げた合体テーブルには新聞、週刊誌、タブロイド紙がズラリと並ぶ。
一面は全て、3年前の真相スキャンダル。
裏金による偽証、明かされた隠蔽工作、汚名を着せられた竜王丸の遺族への誹謗中傷。
日曜日の通報から3日経ち、ワイドショーの朝はこの話題で持ちきりだ。おそらく、日本国内にも留まらず、海外にも広がるだろう。
これで
(……水崎さんは……香取さんの為に、このやり方を取ったんだろうな……)
「まさか……タイタニック号の映画が上映される年に、オリエンタル号沈没の真実が明らかにされるなんて……まさに運命ってヤツですね」
感傷に浸っていれば、京谷は感動に打ち震える。どちらも豪華客船であり、衝突による悲惨な結末を迎えた。だが、決して同じ悲劇ではない。
少なくとも、片方に竜王丸はいない。
だが、事件と関わりのない大衆は他人事として、京谷と似たり寄ったりの感想を抱くだろう。
お気楽で何より。
「……しかし……情報、広がり過ぎではありませんか? 宇治木さんの週刊誌なんて……裏金の話まで載っています」
「僕が宇治木さんに情報を渡しました。香取さん……と言うより、白神さんにOKもらったんで」
「岡持君と鷹杉さんはどちらに?」
「岡持君は事情聴取よ。最近、彼の店に来るお客さんも連れて行ってあげるんだって、電話で張り切ってたわ」
「ああ、あのホームレスさんですね(……警察沙汰になるような相談かあ、家出?)」
「あら、金田君も知ってる人? そう言われたら、興味持っちゃう♪」
今この瞬間、警視庁では大騒動になっている。しかも、金田家に関わる重大な事実が発覚したなど知る由もない。
「そっちはさておき、鷹杉さんは写真部にいるわ。今頃、幽霊客船の話で盛り上がってるはずよ。それで金田君、警察に事情聴取されたんでしょ。何を聞かれたの?」
不動高校の高嶺の花に見つめられても、嬉しくない。
――正直、勘弁して欲しい。
昨日は金田家と残間家に緊急招集がかかり、警視庁へ訪問。
マジックミラー越しに見る取調室の男、
明智警視曰く、加納は失踪前のにいみと会っている供述を始めたかと思えば、突然に言い淀む。その繰り返しだそうだ。
ブチ切れた大人達は己の手で吐かせると意気込み出し、子供達は大慌て。ストッパーのさとみが仕事の都合で来られず、従兄弟達と必死に宥めた。
しかも、帰宅後は学校からのお電話。校長先生並びに担任の先生に事情説明を求められ、ゲンナリ。
――本当、散々だった。
救いは『異人館ホテル・ミステリーナイト』の申し込み結果。1枚だけだが、当選した。
何も解決していなくても、絶対に行こう。後の問題は金田祖父母の目をどう、誤魔化すかだ。
先ず、目の前のミス研達をかわそう。
「佐木君、竜二君から聞いてご存知でしょう? 彼が話した内容はほとんど変わりませんよ」
「……いえ、金田先輩の口から聞きたいので……」
竜太へ話を投げようとしたが、鋭い視線に疑問する。睨まれたような感覚だ。
「佐木君、何か……自分に怒っていますか?」
「……気付いてもらえないなら、イイデス」
恐る恐る問えば、プイッと顔を背かれた。
「金田君、佐木君から小笠原諸島の船旅……断ったんでしょう? それなのにちゃっかり、ツアーに参加してるんだもの」
「断るだなんて……、興味があるか聞かれた程度で……ねえ、佐木君?」
「金田先輩、……そういうところデスヨ。じゃなくて! 桜樹先輩、誤解しないでください。僕はツアーがご一緒出来なくて、怒っているんじゃアリマセン!」
桜樹先輩がクスクス笑っても、
夏休み前、竜太と雑談した。旅行の誘いではなかったと断言しよう。それが違うと言われれば 益々、分からん。
(((……怒ってんじゃん)))
「フフフ……」
真壁先輩達の心の声が聞こえ、桜樹先輩は溢れる笑いを堪えた。
結局、
当事者は警察が調査中の事件内容を語っては行けない。明智警視にバレたら、素直に謝ろう。
「流石、七瀬先輩と同じ生徒会執行部! 金田先輩はとても話上手ですね」
「僕としてはちょっと物足りないけど、まあ……小説のネタにくらいは出来そうだね」
(……褒められた気がせん)
京谷と真壁先輩は目を瞑り、気取ったポーズ。どうやら、似た者同士らしい。
鷹島先輩からの感想はなく、メモに書き留めていた。彼女の方が余程、小説家の風格がある。
「……ふうん、腑に落ちない点もあるけど……面白かったわ」
「竜二から聞いた話と、ほとんど変わらないです。はい……」
(……全部は言ってないし、当然か)
桜樹先輩と竜太の2人から、普段の表情で見つめられる。
「『幽霊船長』が……その香取って人だとしても……結局、コバルトマリン号の幽霊船騒動は何だったんだ?」
「
真壁先輩の素朴な疑問に竜太は考えを巡らせ、真剣に答えた。
香取改め、鹿島 洋子が父親直伝の操縦技術を持ち、無人船徘徊の犯人だと
誰も彼も、今回の騒動に追われ、幽霊船の噂話は後回し。
その為、コバルトマリン号の深夜徘徊は父島の怪談話として――後世に語り継がれるのであった。
「それじゃあ、今度は桜樹先輩があの萬屋病院の件に取り組んでいた話! 聞かせて下さいよ」
「金田君の後だと……面白味はないわ。警察的には上々でしょうねえ。私としては……もっと関わりたかったのだけれどもっ」
「桜樹君。ドラ息子のやらかした轢き逃げなんて、僕らの頭脳は不要だよ」
京谷が次の話題を急かせば、桜樹先輩は意味深に笑う。珍しく真壁先輩が彼女を諫めた。
「……佐木君、何があったのですか?」
「いえ、僕は知りません。別件に掛かりっきりでした」
「金田先輩と佐木君、知らないんですか。これですよ、これ」
竜太に代わり、京谷は新聞の裏を捲る。【優蘭女子大生、轢き逃げにより死亡。逮捕された2名は共に大病院の跡取り!!】と痛ましい記事、萬屋病院跡取り・
「……亡くなった小峰さん、アナウンサー志望だったらしいぜ。また、TV局関係者って言うのもなあ。萬屋の坊ちゃん、狙ってんのかね?」
「真壁君、そっちはまだ裏付け取れてないでしょ」
真壁先輩は萬屋の記事を指でなぞり、煩わしそうに呟く。今度は桜樹先輩が、とても静かな声で咎めた。
「え? 何ですが、先輩方。教えて下さいよ」
「京谷君、すぐ記事になるわ。それまで待ちなさい」
「イイじゃないか、桜樹君。萬屋の奴らに弄ばれた患者の中に……かの」
京谷の好奇心を阻止せんと、桜樹先輩が普段の笑みを浮かべる。しかし、真壁先輩の口は語ろうとした。
途端、部室のドアが乱暴に開かれる。
ミス研顧問の歴史担当・
物々しい雰囲気にギョッとし、桜樹先輩も怪訝そうに声をかけた。
「須貝先生、どうしましたか?」
「……今すぐ、帰りなさい。部活動は全て中止、新学期まで学校へ来ないようにっ」
生徒に帰宅を促し、更に校舎への立ち入りを禁じる。
コバルトマリン号の騒動に不動高校の生徒あり、それが真っ先に思い当たる。
「須貝先生……もしかして、こちらの記事が原因でしょうか?」
「いや、違う……。そっちじゃない。とにかく、全員……帰宅してくれ」
その仕草に嫌な予感、
(そっちじゃない。……他に理由、海難事故の真相より……重大な……事件)
段々と首筋の後ろに不愉快な感覚が纏わり付き、
この場にいる誰もが、その考えに行きつく。
「また、ですか?」
思わず、呟いた京谷の顔色が青褪めている。須貝先生が否定しなかった為、部室の空気も重くなった。
「誰が巻き込まれたんですか?」
「佐木君、そこまでよ。須貝先生、ありがとうございます。すぐに解散します」
「ああ……頼む。施錠はこっちで……おい、金田! どこに行く!?」
竜太の素朴な疑問を桜樹先輩が咎め、須貝先生はホッとする。その隙を突き、
行先は職員室、TVがある。
それでニュースを観よう。早く確かめ、強くなっていく不安を拭い去りたかった。
開いたドアから職員室へ飛び込めば、数人の先生方が緊張した面持ちでTV画面に釘付けとなっている。誰も一に気付かず、コッソリと覗き見た。
《……長野県赤根山中のキャンプ場にて……4人が死亡……1人が軽傷、すぐに病院へ搬送されました》
放送されたニュースの内容に愕然。
偶然にも、3年前のオリエンタル号処女航海ツアーを企画した旅行会社だ。
(……このタイミングで……)
息苦しく、目の奥が痛い。
「金田君、何をしているの……帰りなさい」
「あっ、金田! 何やっとる……」
演劇部顧問の
《殺害されたのは大学生・倉田 壮一、橘川 茂、社長業・香山 三郎、画家・小林 星二……いずれも……》
たった1人の名前を聞き、耳を疑う。
毛穴すらも神経を無くしたように、四肢の感覚が無くなった。
緒方先生や校長先生、担任の先生が必死に呼び掛けてくれるが、その声は聞こえない。
〝僕は竜王丸の船長さんを恨んでないよ〟
穏やかな声が脳髄の奥で再生され、
ツアーから帰って来たら、伝えよう。そうやって、のんびりと構えていた。
胸に痛みが襲う。まさに大切な人を奪われた痛みだ。
小林画伯に招待状を見せてもらった時、是が非でも止めなかった自分を呪った。
TVの音だけが無情にも、耳を打つ。
《容疑者は湖にてボートを爆破させ、自ら命を絶ったモノと思われます。現在、湖を捜索中ですが、遺体は未だ発見されておりません》
(……なんで、容疑者の名は報道されない?)
そんな疑問に意識が戻り、脳髄は冷静に情報を整理している。小林画伯と一緒に殺害された「
(……オリエンタル号の生存者……)
幽霊客船と呼ばれたコバルトマリン号にも乗組員、乗客と3年前の当事者がいた。
同じ当事者達がキャンプ場に集まり、殺害される。絶対に偶然ではない。
〝気付いて……どうしても放置出来なかった〟
この場にいない
指先に力が戻り、一気に手足の感覚が蘇る。偶然にも傍に居た執行部顧問の先生の肩を掴み、勢いよく立ち上がった。
突然の行動に先生方からギョッとされたが、構わない。
自分を呪うのは、後回しだ。
「金田君、待ちなさい!!」
「金田!!」
引き留める教師陣の手を振り払い、学校の公衆電話へ走った。
こんな時、頼れるのは週刊誌記者の
受話器を手にした拍子、頬が濡れる。涙か、汗か、判断出来ない。それが不可能な程に思考が鈍っている時点で、
何故、教師陣が長野のニュースに注目し、生徒を自宅待機させたか、他に気付くべき要素は多かった。
否、そこに気付いたとしても、
悲恋湖を血で赤く染めた殺人事件。
その当事者に名探偵の孫、生徒会長、そして、前生徒会長がいたと知り、変える事の出来ない現実を突き付けられるのは、間近だ。
金田一「……次回、『悲恋湖伝説殺人事件の余波‐七瀬』……」
鷹島 友代
学園七不思議殺人事件より登場
京谷 雅彦
瞬間消失の謎ゲストキャラ
歴史担当・須貝
天草財宝伝説殺人事件モブキャラ。作中にて、ミス研の顧問
週刊誌記者の宇治木 政宗
鬼戸・墓獅子伝説殺人事件ゲストキャラ