金田少年の生徒会日誌 作:珍明
『雪夜叉』同様、オリ主の人生に深く関わる事件の為【】は付けてません
誤字報告により修正しました。ありがとうございます
Q1 悲恋湖伝説殺人事件の余波‐七瀬
モニターツアー2日の朝。
鳥の囀りに惹かれた朝の散歩、朝露に濡れた木の葉を踏み締める。楽器の音色に似て、歩みも弾んだ。
当てもなく、辿り着いた先は悲恋湖。
まだ染まる時間ではない為、水面は澄んだ空の色を映している。大自然の美しさに見惚れつつ、木陰に座り込んだ人影を発見、画家の
真剣に湖を見つめ、スケッチブックへ写生中。
「おはようございます、小林さん。朝から、精が出ますね」
「……ああ」
美雪の挨拶に振り返り、小林画伯は硬い表情で短く会釈。美雪は彼のスケッチブックを興味本位で覗き込む。
湖畔に佇む少年、こちらを振り返る様子が描かれている。巧みな画力故に下描き段階でも、その人相に覚えがあった。
「……
「……キミも……不動高校の生徒さんかい?」
独り言のつもりだったが、小林画伯から予想外の質問に驚かされる。まさか、同級生の知り合いに会うなど、夢にも思わなかった。
思えば、美雪は彼に自己紹介していないと今頃になって、気付く。
「あたし、七瀬 美雪です。
「やっぱり……、じゃあ……キミが遠野先輩って呼んでた人は前生徒会長?」
名乗った瞬間、小林画伯は寡黙な印象から一転、親戚のおじさんのように親しみやすい表情へ変わった。
「はい、そうです。あたしと遠野先輩、
「そうか……、
彼は目を丸くした後に視線を落とす。美雪は心配になり、言葉を探した。
「どうしましたか?」
「いえね、
小林画伯の残念がる理由は人への気遣いに満ちていて、美雪は和んだ。
「大丈夫です。
「
「小林さんも来てくれたんですか!? あたし、演劇部の裏方なんです。観客席からは見えないかなあ」
「おや、
不意に学校の心配をされ、自分達の活躍を褒められた。
率直な言葉が嬉しくて、美雪は感じ入る。これまでも多くの人から励ましや称賛を受けたが、同級生を良く知る小林画伯から言われれば、また違う。
「あの……
「キミ、賢いね。……その話はここでは止そう。……知られたら、面倒になる」
一言二言で質問の内容を察知し、的確な判断を下した。
ツアー客仲間にはフリーライターもいる。
ここで見聞きした内容がゴシップのネタにされかねないと危惧しているのだ。
「お願いがあるんだけど、キミのお友達にも……僕が
「え? はじめちゃんや遠野先輩にも?」
「僕はこうやって、描くだけで……面白い話も出来ないしね。お互い、変に気を遣わないに越したコトはないよ」
「……わかりました」
一見、小林画伯が人を避ける言い訳に聞こえる。でも、美雪には滲み出る優しさを感じずにはいられなかった。
「その分、
「……ありがとう。きっと
その話だけでも十分、面白い。
小林画伯は上機嫌になると口が軽くなり、お喋りが止まらなくなる。短いやり取りの間に、そんな性格を感じ取った。
「フフフ、分かります。とっても……」
「分かっちゃうんだ……ああ、良かった。あの子、学校で上手くやれてて……」
穏やかに目を伏せ、小林画伯は口元を緩める。その慈しみ深い仕草を見ながら、美雪はツアー後に自慢話大会をしようと思った。
――無邪気に笑った時間を思い返す度、左足が痛い。
「……美雪、美雪ってば!」
「!? は、はいっ。英子先輩」
ここは聖正病院の診察室、両親と共に右足の診察結果を聞いている最中だった。
「英子、いくら後輩相手でも……ご両親の前だぞ。失礼しました。娘さんは順調に回復しています。元々、治りが早い方のでしょう。ただ、油断は禁物ですので極力、日常生活でも足に負担をかけないようにね」
「はい、雪室先生」
外科医の
「そうだ、キミ……不動高校の生徒さんだっけ? 桜樹って子に会ったら、よろしく伝えてくれるかい? 困った事があれば……いつでも、力になるってね」
「桜樹先輩に……! はい、必ず……伝えます」
雪室先生は春先の事件以来、一時的に警察の厄介になっていた。診察室にいる時点で、区切りが付いたと察し、美雪は詳細を聞かず、承諾だけした。
「美雪、桜樹先輩ってミス研の会長さんよね。雪室先生とも、お知り合い?」
「うん、桜樹先輩……顔が広いの」
両親の手を借りながら、松葉杖に身を預けての退室。
「美雪の学校、もう新学期だっけ? 何があったか知らないけど、夏休みの最後に大変な思いをしたわねえ。体を大事にしてよ、本当」
「……はい」
英子先輩にも付き添われ、ロビーの受付へ向かう。親身に心配してくれる彼女に、ケガの原因は事故と伝えてある為だ。
順番待ちする人々の手には新聞、週刊誌などが握られ、TV画面を注視する人もいた。
どれもこれも、3年のオリエンタル号海難事故についての報道。
事故責任問題を追及する裁判にて、偽証の疑い。当時、豪華客船の船長を務めた
唯一の救いと言えるか分からないが、竜王丸の船長だった
彼があの悲惨な事故後、如何にして生き延びたか、まだ詳細は報道されていない。
「このオリエンタル号を担当した旅行会社、ちょうどツアー先で事件が起こったんですってね。まさか、重なって警察沙汰になるなんて……」
「え、ええ……」
憐れむ英子先輩の言葉に両親と一緒にドキッとする。
話題の観月旅行会社が企画したモニターツアー、それに美雪はいた。従兄の
生き残ったメンバーは報道に名が上がらず、幼馴染の
だから、事件を起こした犯人――
学校側からの説明は一点、「夏休み付で本校を自主退学した」のみ。
生徒会執行部は執行部顧問の先生より通達され、愕然とした。
「フザけんな……俺達の遠野先輩が……学校を辞めるワケないだろ! 先生、ちゃんと事情を説明してくださいよ!」
「海峰君……やめてっ。この学校で……自主退学って言われる意味……うう……分かるでしょ……」
1年2組の
そう、自主退学は「事件に巻き込まれた。あるいは起こした」の隠語。今ではすっかり定着した言い回しだ。
いつも気丈な副会長も顔を伏せ、涙を隠す。啜り泣く声が生徒会室を満たした。
途端、床に倒れる音がして、美雪は息を呑んだ。
振り返れば、
「
「
慌てた皆が駆け寄る中、美雪は硬直して動けなかった。
この場において、
どんな伝えた方をしても、
〝
遠野先輩が
でも、それは叶わないと心のどこかで予感していた。
当たってない予感程、早くに当たる。
新任の生物担当・
事件を共にしたフリーライター、いつき 陽介の話を聞く為だ。彼は今回の事件を記事にせず、手に入れた情報を世間の目に晒さないと前置きした。
「ごゆっくりどうぞ♪」
「見せたいのは……コイツだ」
ウェイトレスにコーヒーを並べられ、いつきは遠野先輩の妹・
「この子、美雪にソックリだ!」
「そっか……それで先輩、あたしを……」
美雪と瓜二つ、両親でも見間違えるだろう。遠野先輩がずっと自分に優しく親切だったのは、亡き妹を想った故。
切ない事実を知り、言葉にならない。
本当に驚いた。
「――お冷のお代わり、いかがですか? ――」
「いや、結構。ただ、分からんのは……遠野が最後に呼んだ「カネダ」って奴だ。兄妹が暮らしてた施設にも行ってみたが、そんな名前の子供や職員はいなかったぜ」
「「……っ」」
煙草を吹かしながら、いつきは前髪を掻き上げる。情報を売りにする身でありながら、高校生に無償で真実を提供してくれた。
事件の最中、いつきの人格を疑う行動が多かったのも忘れ、美雪の知っている事を話すべきか、悩んだ。
「……遠野先輩の話ですか?」
「!? あ……」
「か……どうして、……ここに?」
「おお? いつの間に……?」
闖入した声に心臓が飛び跳ね、勢いよく振り向く。店のウェイトレスかと思っていた相手はたった今、話題にした
幽鬼が如く佇み、三眼目は血走る。ゆったりとした体勢から放たれる異様な気配、美雪はもうとっくに知っている。それは殺意だ。
でも、堪えている。衝動を抑制し、こちらに耳を傾けている。
「思い出したっ。兄チャン、前に遠野と一緒にいたろ。そうか、「カネダ」ってのは……お前、……全員……同じ学校?」
「……遠野先輩と……七瀬さん?」
「あ、これは違うの! あたしのソックリさんで……その……」
「美雪っ」
いつきの質問を無視し、
「……それは、遠野先輩の妹だよ」
はじめはそれだけ告げ、
人形のような仕草が不気味だ。
「
「おん? なんだ、てめえ。出会い頭に呼び捨てたあ、はは~ん、さてはお前も同業者だな?」
「宇治木さん……どうして、
汗だくに店へ飛び込んで来た週刊誌記者・
大人2人に構わず、美雪は
「貴方、3年前は樹村 信介と名乗っていませんでしたか?」
「へ? 名乗るも何も……俺の本名だよ」
「……いっちょ前にペンネームとは大物ですなあ、いつきさん?」
全然、和めない。寧ろ、緊張感が増した。
「皆さん、悲恋湖のキャンプ場へ行っていたのですか。観月旅行会社からモニターツアーに招待されて……」
「な……
もうそれは質問ではなく、確認だ。ギョッとするはじめと違い、美雪はすぐに思い当たった。
もう隠せなくて、心が痛い。
「……
「美雪……小林さんとそんな話……してたのか……」
「なんてこった……兄チャン、あの小林とも知り合いかよ……。じゃあ、遠野は……」
気付けば、美雪は懺悔のように言葉が溢れた。
はじめは初耳もあってか、青褪める。いつきも最悪の状況に気付き、口を噤む。
「??
「……はい、宇治木さん」
事態を飲み込めない宇治木だからこそ、言えた台詞。
「
「はじめちゃん……?」
はじめが必死な顔で席から立ち、去ろうとした
優しき幼馴染は関わった事件を誰にも、話さない。
惨劇の裏に、人の嘆きあり。おいそれと広めてはならないと自ら、律しているのだ。ましてや、
美雪も従兄を失ったが、事件のショックに実感が湧かないだけだ。
もし、自分が事件に関わらず、悲惨な内容を他人から聞かされたなら、正気でいられる自信がない。
止めるべきか、促すべきか。
美雪は息を呑む。いつきと宇治木もただ、口を出さずに見守っていた。
「
「……
美雪は責められていないはずなのに、何故か胸が締め付けられる。エアコンの効いた店内でも手汗でぐっしょりだ。
「遠野先輩……自分と小林さんの関係を知っていました。きっと……あの時には決意されていたのでしょう」
「……
「
「……ああ」
唐突に2人にしか分からない会話。数少ない言葉だけで、お互いに意図を汲み取っている。
「遠野先輩は気付いて、放置……いえ、知っていて、放棄した。つまりは、そう言う事です」
「……っ、
ようやく振り返った
その笑みは、初めて自己紹介し合った日を思い出させる。この上なく、他人を拒絶する表情。
はじめは泣きそうに眉を寄せて、唇を噛む。彼は何も言わず、
「宇治木さん、行きましょう」
「あ、ああ。ごめん……」
「……いいのかよ、
「……いいんだっ、俺も……そうしたい……」
「はじめちゃん……」
頭を掻きながら、いつきは真相を告げるべきだと諭す。彼の言う通り、遠野先輩が最後に
後輩の大切な人を奪い、それでも隣に居続けようとした。
例え、はじめがおらず、遠野先輩の目論見が達成できても、いつか、日常は瓦解していたに違いない。
もしかしたら、
遠野先輩の最期を伝える日、自分がその場にいなくてもいい。
はじめと
そう意気込んだ翌日の土曜日、美雪は演劇コンクール会場にて演劇部の支度を仕切る。松葉杖の為、演劇部顧問の
「――七瀬さん、おはようございます。今日は
「……うん、来ると思うわ。村上君に千家君も……一緒よ」
「――それは楽しみですね。ああ、昨日……言い忘れたのですが、千家君に楽譜! ちゃんとお貸ししました――」
「ああ、例の楽譜。ありがとう、
何故だろうか、楽観的に受け取れない。
だが、美雪は柄にもなく、嫌な予感に寒気がした。
「準備出来た役者、こっちへ集まれっ」
「――はい、自分。出来ました。有森君はどうです? ――」
「おう、俺もバッチリっ」
部長3年C組・
布施先輩も遠野先輩の失踪に少なからず、動揺していた。今日は舞台の緊張が勝り、演技に支障は出なさそうだ。
「七瀬さ~ん、お花~こっちでいいよね。おっとっとと……」
「仙道君、気を付けてね。そんな大きなお花が倒れたら、仙道君が潰されちゃう」
大道具係の2年E組・
(気のせいかな……)
美雪も肩の力が抜け、フフッと笑う。部員達を見渡しながら、良い舞台になる雰囲気を肌で感じた。
『春の枯れ葉』にて挑み、不動高校は見事に『優秀賞』を獲得。期待以上の成果を分かち合い、部員達とバスへ乗り込む。
「……次は来月だな」
「演目どうする?」
「いやあ~今日はもう、その話やめようぜ」
「そうだよ、折角の余韻が台無し」
皆の想いは来月の演劇部大会に向けられ、美雪も脳内で様々な物語が候補として浮かび上がった。
難なく、学校へ帰還。太陽の沈みが段々と早くなり、夕焼けの空に夜の暗闇が染み込んでくる。
「――緒方先生。自分、部室の鍵を取ってきます――」
「そうね、お願いするわ。皆、降りる前に荷物の確認を……」
あまりにも、彼は自然な態度だった。
「美雪さん、荷物持つよ」
「神矢君、ありがとう。あたしの荷物は……これっと」
照明係の2年D組・
この瞬間、
普段、冷静沈着な緒方先生も退部届には狼狽し、美雪へ電話連絡して来た。電話越しでも、アタフタされて状況を掴むのに時間がかかった。
聞いた瞬間、昼間の嫌な予感はコレだったと実感する。
〈七瀬さん……何か聞いてない?〉
「……いえ、あたしも……聞いていません。……きっと、色々とあって……疲れてるんだと思います。週明けにでも……
心当たりなど、あり過ぎる。
憔悴した声で語りながら、緒方先生も事情はある程度、察している。だからこそ、騒ぎ立てずに美雪へ相談する手段を取った。顧問として、
〈ありがとう……私も、出来るだけ……話してみるわ。では、週明けに……〉
「はい、おやすみなさい。緒方先生……ゆっくり、休んでくださいね」
声に活力が戻った緒方先生と就寝の挨拶を交わし、美雪は受話器を置く。ゾワッと指先から腕に震えが伝播し、深呼吸した。
本音はすぐにでも、金田家へ連絡したい。それだけ、
「やっぱり、はじめちゃんに……イタッ」
咄嗟に隣の家へ行こうとしたが、左足の傷が痛む。
逸る美雪を諫めるようなズキズキとした痛み、反射的に松葉杖を落としてしまった。
「大丈夫っ、美雪? ほら、座りなさいっ」
「やっぱり、今日の部活は休ませれば、良かった」
「ち、違うの。部活のせいじゃないわ」
音に気付いた母が駆け寄り、美雪はその手に縋った。居間へ連れて行かれながら、父の言葉が胸に刺さる。
ただでさえ、立て続けに事件へ遭遇する娘。両親も気が気でないのは明らかだ。
美雪も人の事は言えない。
ここで無理をすれば、学校まで休まされる。それは駄目だ。
(……あたしもちゃんと休んで、ケガを治さないと……)
その分、
でも、彼は月曜日に登校せず、火曜日、水曜日と学校へ姿を見せなかった。
橘川「橘川 茂です。美雪ちゃん……俺、何言ったらいいか、分かんねえよ。次回は『悲恋湖伝説殺人事件の余波‐剣持』、警察も事件だらけで大変だな」
小林 星二
猟奇的な作風の画家
ドラマ版では3年前の事故を受け、作風が変わったとされる
作中にて、生前の氷室画伯と懇意であり、オリ主にとっては親戚のオジサンと変わらぬ関係であった
遠野 英治
大人の都合に振り回され、心を壊した青年
ドラマ版では大学1年生に変更された
犯ジケでもあったように、金田一が後輩だと全く気付かなかった。他人に一切の興味がなく、「七瀬」と「それ以外」としか認識していなかったように思われる
作中にて、オリ主に「同じ傷を持つ者」として情を抱く。それでも復讐を思い留まるには至らなかった
雪室 憂一、聖正 英子
死神病院殺人事件ゲストキャラ
白樹 紅音
薔薇十字館殺人事件ゲストキャラ。作中にて、二学期から赴任