金田少年の生徒会日誌   作:珍明

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オリ主視点です
最初は別のタイトルにしたんですが、こっちにしました

誤字報告により修正しました、ありがとうございます


Q5 俵田刑事は知らない・前編

 異人館ホテル。

 街の喧騒から離れ、静寂を好んで建てられた館。凡そ、百年の歴史を持つという。

 太陽の陽射しが強く受ける立地だが、広々としたプールの冷たさが訪れた客人に快適な時間を与える。観光地に加え、夏の避暑地に打ってつけだ。

 

(こんな朝から、プールへ飛び込む物好きはいないか……)

 

 ただ、豪華な内装に似つかわしくない像がある。

 階段の親柱に取り付けられた彫刻、メデューサとペルセウス。この2つがあるだけで、ギリシャ神話の名シーンの再現だ。

 昨晩、見かけた時は不気味だったが、窓から日の射した状態ならば、何の変哲もない。

 

(なんで、向かい合ってないんだ? ペルセウスはちゃんと盾持ってるし……)

 

 ジョギングをしながら、(いち)はホテル敷地内の散策に励む。普段は無心で走るが、先日の死骨ヶ原湿原ホテルで過ごした癖がまだ抜けていないらしい。場所が違っても、体は楽しさの余韻に浸りたいと痛感した。

 

 食堂は大勢の探偵コスプレヤーが朝食を嗜む。

 ミステリーナイトは今夜からスタート。だと言うのにシャーロック・ホームズは勿論、日本を代表する探偵達が小説から抜け出た光景。

 (いち)の学ランが霞む程、圧倒される。

 

(小林さんも……この空間なら、きっと……馴染めたな)

 

 本来ならば、テーブルの向かいに座っていた人を想う。

 大勢に囲まれながら、独り。高級な食パンの味が薄くなった気がした。

 

「おい……見ろよ、本格的な奴がいるぞ」

「あの腰に下げた無線機、完成度高いなあ……本物ソックリだ」

 

 周囲の視線が新しく食堂へ来た面子に向けられ、意味を知る。警官服を着た方々はどう見ても、本物。

 ギョッとした。

 

(……まさか、銭形さんの仕業?)

 

 心当たりに青褪め、(いち)はさっさと食堂から去る。部屋へ逃げようとしたが、誰かと肩がブツかった。

 

「おお、すまんすまん」

「いえ、こちらこそ……」

 

 太い眉の男は小さく詫びる。涼しい時間帯とは言え、背広とネクタイにキッチリ整えた姿は礼儀正しさよりも、厳格な印象が強い。

 

「お前、さっき外を走ってた奴だろ? 3階の窓から見えてたぞ」

「……はい、ジョギングをしていました」

 

 彼はぎこちない笑顔になり、見極めようとする目付き。多分、刑事だ。毛根から冷汗が滝の様に流れ、服の下はビッショビショ。

 

「ミステリーナイトの参加者みたいだが、外に用事はないか?」

「用事……ですか? 『赤髭のサンタクロース』なら、見てみたいとは思いますが……この時期に現れないでしょう」

 

 差し障りのない雑談に入ったが、目を剥いた刑事にガッと肩を掴まれた。あまりにも唐突で、構える隙も無かった。ビビり過ぎて、対応できなかったと言おう。

 

「……ひょっとして、東京から来たのか?」

「……はい、そうです」

「やっぱり、キンダニの代わりか!! いや~そんな気がしてたんだあ♪ 早速、事件の概要を説明しよう!」

「は?」

 

 観念した瞬間、目をキラキラさせた青山県警・俵田(たわらだ) 孝太郎(こうたろう)の話は先週に遡る。

 劇団『アフロディア』の合宿中、脅迫状が送り込まれた。今回のミステリーナイト上演を中止しなければ、死の制裁が下る。宿泊先だった青森県は通報を受け、俵田刑事が担当になった。

 そこで東京に住む名探偵の孫へ捜査協力を依頼したが、間が悪いと断られた。ただ、代わりの協力者を函館へ行かせると約束してくれたそうだ。

 

(ナニシテクレテンダ……、アノ野郎……)

 

 俵田刑事の泊まる309号室へ拉致られ、状況を把握。件のワープロ文字で打たれた脅迫状まで、見せられた。

 

(季節、バグッとる……)

 

 想定外過ぎて、(いち)は憂鬱。

 代わりに間違われたのもあるが、誰か知らない東京の知人が異人館ホテルへ来てしまう。ミス研の方々で無い事を祈った。

 

「自分、金田一(きんだいち)君の代わりではありません。ミステリーナイトに参加しに来ただけです」

「またまたご冗談を~、俺の目は誤魔化せないぞ」

「眼科へ行ってください」

「そう言えば、金田は『赤髭のサンタクロース』の話……よく知ってたな。キンダニには脅迫状が届いたとしか言ってなかったが……」

 

 (いち)は本当の事を伝えたが、俵田刑事に笑い飛ばされた。皮肉も通じない。

 探偵の孫への信頼が強すぎて、説得に骨が折れそうだ。

 

(……でも、青森県警か……和泉さんの事件で知り合った?)※違います

 

 眼鏡を掛けたお下げの同級生が脳裏を過り、(いち)はふうっと息を吐く。辻褄を合わせようと決めた。

 

「『赤髭のサンタクロース』は祖父に聞きました。知る人ぞ知る、ホテルの曰くだそうです」

「ほお? ……詳しく聞こうか」

 

 10年前のクリスマス・イブに現れた奇妙な男、衣服どころか髭さえも赤い。

 ひとつの部屋を10年間、貸し切り。天井、壁、家具、カーテンに至るまで真っ赤に染め上げた。

 (いち)の知る『赤髭のサンタクロース』の噂を語れば、俵田刑事は神妙に頷いた。

 

「俺が支配人から聞いた話と一致する。余所でも噂になってんのか……まあ、10年間の貸し切りに現金なんざあ。どう考えても、目立つわな。大体、クリスマスでもないのに『赤髭のサンタクロース』を名乗るたぁ……季節外れもいいトコだ」

 

 気付く点が遅い。

 

「……祖父が言うには1年程、姿を見せないそうです」

「それは間違いない。去年の今頃か、ホテルに奴の親族を名乗る電話がかかって、死んだと言っていたそうだ。一度、オーナーに話を聞いておくか?」

 

 噂の『赤髭のサンタクロース』はもう、いない。少し残念。

 

「……そうですね。幽霊の話を聞きたいですし……(好奇心で)」

「何だ、ソレは?」

「百年前に亡くなった館の主人ですよ」

「随分、大昔じゃないか。よく知ってんな、キンダニ代理。こりゃあ、頼りになる」

 

 豪快に笑われたが、そんなところで頼りにされたくない。

 異人館ホテル支配人・雪村(ゆきむら) 剛造(ごうぞう)は忙しい合間に支配人室へ招き、詳しい話を聞かせてくれた。百年前の拳銃自殺について触れれば、驚かれた。

 

(……ここんトコ、「ゴウゾウ」って人に関わる確率が高……)

「なんと……お客様が百年の話までご存知とはっ。事件に無関係とは言え……黙っていて、申し訳ございません」

「オーナー、本当に関係がないか、我々警察で判断する。どんな些細な事でも、お話しください」

 

 (いち)が関わった「ゴウゾウ」名の人物を思い返していれば、雪村オーナーは平謝り。

 俵田刑事の詰問により、3カ月前のGWを終えた頃。コートと包帯巻きの身なりの客人が現れ、315号室に泊った話を聞けた。

 

「……そんな大事な話を何故、警察に黙っているんです?」

 

 肝心な部分の情報提供がない。現状に俵田刑事のコメカミがピキピキと血管を浮かせ、眉間のシワが深くなった。怖い。

 

「いえ……その件に関しましては、不破警視が……」

(……不破?)

 

 雪村オーナーが弁明しようとした時、支配人室のドアがノックされる。しかも、返事を待たずに開けられた。

 頬骨が目立ち、眼鏡を掛けた女性。堂々と歩き煙草し、支配人の前でも平然とした態度は刑事そのもの。見落とさない鋭い視線が周囲を見渡し、頭の天辺から足の爪先まで表現しようのない気迫を感じた。

 

「失礼っ、オーナー。俵田君、誰? その子」

「不破警視っ。紹介します……彼は例の金田一(きんだいち)の代わり、金田です。金田、道警からの捜査責任者だ」

「初めまして、不破警視。金田と申します」

 

 顔見知りの道警と歳が変わらぬ印象だが、不破(ふわ) 鳴美(なるみ)はなんと警視であった。彼女のハスキーボイスな質問が終わる前に俵田刑事は椅子から立ち、敬礼。

 

(……この人が使命感に溢れた不破警視……。こっちが銭形さんと知り合いなの、言わん方がいいよな……)

 

 (いち)は行儀良く、頭を下げた。

 

「素人の代理……ね。余計に話がややこしくなるわ」

「お手数をおかけします。不足の事態には、ご指示をお願い致します」

 

 階級的にも不破警視が全体の捜査責任者らしく、素人の登場に深いため息。気持ちは分かる為、(いち)は全力の愛想笑い。

 

「それと不破さん、俵田さん。自分以外にも、金田一(きんだいち)君の代わりは来られる予定です」

「え? ……そうか、俺がキンダ二に送った航空券は今日の便だったな」

「嘘デショ……素人が増えるだけじゃないの。……はあ~、子守りは俵田君に任せたわよ」

 

 とても重要な伝達事項に俵田刑事は納得し、不破警視のため息はもっと深くなった。

 子供扱いにはイラッとする。

 

「オーナー、この子にも3階の部屋を用意して」

「自分、1階に部屋を取っています」

「ああ、劇団関係者と警察は全て、最上階3階へ泊まらせているんだ。オーナー、後から来る奴の部屋も先に用意してくれないか?」

「申し訳ございません……3階はダブルの部屋がひとつでして」

 

 勝手に部屋を変更されそうになり、(いち)は無駄な反論をしておく。申し訳なさそうな雪村オーナーから、ホテル事情の助け舟に一安心だ。

 

「部屋なら、私の隣もあるわ」

「「……」」

お断りします

 

 不破警視の提案に男性2人が顔を強張らせ、(いち)は即答。支配人が宿泊可能と断言した部屋がひとつと言いながら、もうひとつの空き部屋。間違いなく、315室だ。

 

「さっき、私に指示をお願いって言ったわよね?」

「不測の事態に、限ります」

 

 契約上『赤髭のサンタクロース』が貸し切っている部屋など、言語道断。

 

「……フフッ、ハッキリ言うじゃない。伊達に素人探偵の代理に来てないってワケ? いいわ、315号室は別の代理とやらにしてあげる。オーナー、この子をダブルの部屋にっ」

「畏まりました。お客様、お手数ですが一度、チェックアウトをお願い致します」

 

 不破警視はクスクスと笑い、部屋替えを指示。これには雪村オーナーも承諾してしまう。

 

「皆さんのお部屋もこうやって、不破警視がお決めに?」

「まあな。不破警視が劇団員の出入りを監視できるように、割り振られたんだ」

 

 (いち)は渋々と荷物取りに部屋へ戻り、フロントにてチェックアウト。俵田刑事が付き添い、雪村オーナー自ら、対応してくれた。

 

「コイツの宿泊費は青森県警で出しておくから、領収書を頼む……って金田、荷物それだけか?」

「はい、身軽にしました。あの……お役に立てるか、正直……分かりませんので、費用は自分で出します」

「……随分と謙虚な奴だな、よし分かったっ。無事に解決出来たら、出すって形にしよう」

「ありがとうございます」

 

 そもそも、(いち)は捜査協力に来ていない。ホテル代を警察の経費で支払わられては、詐欺に該当する恐れがある。俵田刑事が勝手に感心したが、交換条件ならば、騙している罪悪感もない。

 

「金田様っ。お部屋の清掃に入りますので、15時までお待ちください」

「分かりました。外へ行って来ます」

「近くの喫茶店にいてくれ。何かあったら、呼ぶっ」

 

 部屋の清掃もあり、一時的にホテル周辺の散歩へ向かう。

 ようやく解放され、肩の力を抜いた。

 

(……一番近いのは聖ハリストス教会か、歩くには遠い。ここの喫茶店は、まだ開いてない……)

 

 坂を下る途中、お洒落な喫茶店『フィロソフィア』を発見したが準備中。水着を持っていないが、ホテルのプールで時間を潰せば良かったと後悔。

 ホテルへ戻ろうかと振り返れば、チェックアウトを終えた客、函館観光地へ繰り出す客がタクシーや自家用車を走らせていた。

 その流れに沿い、(いち)は歩いた。

 9月でも陽射しはそれなり、目当ての白い壁と緑屋根のコントラストが美しい建造物へ辿り着いた。

 聖ハリストス教会、観光名所のひとつ。

 周囲の建物から、木々によって護られたような厳かな聖堂。福音を宣べ伝えるに相応しく、歴史深い煉瓦造の持つ魅力は信者でなくても、心を動かされるというもの。

 

(……中へ入るのは、帰りにしよっかな……)

 

 追悼に来たとは言え、まだミステリーナイトも始まっていない。

 今日は外観だけを見て回った。窓枠の丸み、クーポルを見上げるのに夢中になり、背後へ近付いて気配に気付かなかった。

 

「クリスティーン」

「!? ……はい?」

 

 演劇コンクールの役名で呼ばれ、ゾッとする。

 振り返った先に無精ひげを生やした男が立ち、瞼が垂れ下がった半眼でこちらを覗き見る。己の容姿に自信のある服装にコーディネートされ、知らぬ者でも俳優と印象を受けるだろう。

 と言うか、劇団『アフロディア』の脚本家兼俳優の虹川(にじかわ) 幸雄(ゆきお)だ。

 

「……お間違いでなければ、貴方は虹川 幸雄……さんでしょうか?」

「おお、本人だぜ。こんな所で会えるとはなあ、クリスティーン」

 

 ケタケタと笑い、虹川はジロジロと舐め回すような視線。(いち)が彼に知られている理由は演劇コンクール審査員の1人だった故。警戒心が募り、一歩下がる。

 

「……よく、自分がその役だと分かりましたね」

「へへ……まあな、気に入った奴は衣装を脱ごうが分かるんだぜ。朝のジョギングも見させてもらったが、同じホテルに泊まってるとは奇遇だな」

 

 二ヤニヤした笑みから、劇団関係者は3階にいると思い返す。まさか、既に宿泊中とは思わない。そこでハッと気付き、是非とも確認したい。

 

「万代さんも……お部屋にいらっしゃるのですか?」

「いや……あの人は午後から来る。その前にこっちで段取りを整え……ボーヤ、あんな婆……もとい年上がいいのか? そいつは良い出会いがなかったんだな、若いのに可哀想に……夜まで間があるし、今から俺の部屋へ遊びに来ないか?」

 

 座長の不在を確認すれば、虹川にギョッとされる。しかも、勝手な言い分を並べられ、お部屋へのお誘いに背筋が凍り付いた。

 何故なら、虹川はバリバリの業界人。舞台に携わる者ならば、高校生でも悪い噂さは伝わっている。脚本家として腕が良い為、始末が悪い。

 

全力でお断りします

 

 睨む目付きになろうと構わず、(いち)は冷たく撥ね退ける。返事を聞く前にダッシュし、逃げた。

 

 『フィロソフィア』の営業中に目を付け、ゆっくりと昼食タイム。愛想の良いマスターと雑談しながら、俵田刑事の為に情報収集しておこう。

 

「赤い服の人なら、いつも1人で来られてましたよ。……え? 覚えてる事は……そうですねえ、砂糖ぐらいです。コーヒーに入れる量が尋常じゃあなかったから、理由を聞いたんですが……。そしたら、この店の砂糖が甘くないからだ! って怒鳴られましたよ」

「……怒りっぽい方なのですね。お友達はいなかったのでしょうか?」

「ああ、それで思い出しましたが……よくホテルから、呼び出し電話がかかってました。毎回、違う声だったと思います」

(……違う人から、呼び出しがかかるのに……1人で、喫茶店……)

 

 同じ宿泊客ならば、ホテルで話せばいい。わざわざ、目の前の喫茶店へ電話する方が正直、手間だ。

 癇癪を起しやすい為、一緒にいるのを見られたく程に嫌われている。そんな失礼な考えが浮かんだが、余計に不自然だ。何か、おかしい。

 

「砂糖が甘くないとご指摘を受けた後も……その方はこの店へ通われたのですか?」

「勿論、パッタリと見なくなるまでお得意でしたよ。何だかんだ言いながら、代金はキッチリ払ってくれましたし」

 

 難癖を付けても、店を変えない。『赤髭のサンタクロース』の行動は実に奇妙だが、電話の件を踏まえると通じるモノがある。

 

(ここなら……呼び出されても、すぐにホテルへ戻れる)

 

 金田家の自宅にいる際、必ず誰かが電話番に張り付いた時期があった。その心境に何処か、似ている。

 判断材料に程遠いが、脳内で情報を整理中。まるで再現しようと言わんばかりにタイミングよく、店の電話が鳴り響いた。

 マスターは慣れた様子で受話器を取り、店内を見渡す。

 

「金田様、いらっしゃいますか? ……あっ、お客さんか……俵田様から、ホテルへ戻る様にと」

「ありがとうございます」

 

 代金を払う為、ヒップバッグを開く。受話器を置いたマスターの視線を感じ、振り返った。

 

「あの人も、よくボストンバッグを持ち歩いていたよ。……大きな声じゃあ言えませんが、大金が入っていました。いつもそこから、現金を出してお会計をね」

「凄いですね……」

 

 レジを操作しながら、マスターは小声で教えてくれた。

 髭を蓄える程、歳を重ねた男が常に現金払い。大金を持ちながら、護衛と言う名の使用人も付けずにいつも1人。裕福な暮らしと呼ぶには、違和感しかない。

 俵田刑事への報告も兼ね、急いでホテルのロビーへ舞い戻った。

 

「キンダニ代理! こっちだこっち、他の代理も来てるぞ」

「俵田さん……呼び方が……あ?」

「深夜12時なりますと全室、データが変更されます。以降はフロントにて、新しいカードをお受け取り下さい。常時、スタッフが待機しております」

 

 ほぼ初対面の俵田刑事に適当な渾名を付けられ、(いち)は不満を露わにする。彼が指差すまでもなく、フロントにいるハンディカムを持つ親子へ注目。

 刈り上げに近い髪型に眼鏡、不動高校1年1組の佐木(さき) 竜太(りゅうた)。隣にいる父親は佐木(さき) 連太郎(れんたろう)。スタッフから、カードキーの説明を受けていた。

 

「佐木君、金田一(きんだいち)君の代わりは貴方ですか……」

「……金田先輩っ、俵田刑事から聞いた時はまさかと思いましたよ」

 

 ミス研の誰かと言う予想は当たったが、それ以上に竜太は動揺を見せる。ハンディカムを下ろし、安堵の息を吐いていた。

 その意味を深く理解している為、(いち)は構わずに佐木父へご挨拶。

 

「佐木君のお父様、お久しぶりです。先日、竜二君にはお世話になりました」

 

 ハンディカムのレンズを向け、佐木父は口元をニヤリと歪めるだけだ。相変わらず、考えが読めずに怖い。

 

「不破警視、佐木 連太郎と佐木 竜太です」

「……今度は保護者付きね。オーナー、この2人もよく覚えておいて」

「ようこそ、おいでくださいました。支配人の雪村と申します」

 

 いつの間にか、俵田刑事の隣にいた不破警視は待ちくたびれたように煙草へ火を付ける。雪村オーナーも佐木親子の顔をしっかり、確認した。

 それぞれが部屋に入ったかも見届ける為、刑事2人もスタッフの案内に付き添う。

 

「先輩、雪村オーナー見ていると……チキンが食べたくなりませんか?」

「佐木君の気持ち、分かりますよ……偉大なるカーネルに激似です」

 

 竜太と耳打ちしていれば、噂の315号室。

 備品のテレビまで予想以上に真っ赤、視覚的に良くない類の赤だった。

 

「雪村オーナー……こちら、本当に『赤髭のサンタクロース』が自分で?」

「まさか、勝手に業者を呼ばれたんです。ボーイが見付けるまで、誰も気付きませんでしたよ。はい? 何でしょうか、佐木様。いえいえ……、勿体無いお言葉……」

((え? その人……何か言ってる?))

 

 (いち)が気色悪さに問えば、雪村オーナーは頭を振るう。そして、佐木父の無言に照れたような返事をしていた。竜太以外、今日一番の驚きである。

 

「ここが僕と父なら、金田先輩は? 306号室ですか……、父と代わってください。先輩にお話がた~くさん、ありますからっ」

「嫌です」

「……その辺は、アナタ達で話し合いなさい」

 

 竜太の余計な一言にゲンナリ。不破警視は中立的に告げ、捜査指揮がある為に去って行った。

 

「よし、お浚いをしておこう。ミステリーナイトの説明はいるか?」

「探偵役の自分達が事件編の上演をヒントに犯人、トリックを推理して係スタッフに解答用紙を提出します」

「解答編の上演で答え合わせします。その後、成績優秀者の発表です」

 

 俵田刑事に質問され、高校生2人は澱みなく、答える。佐木父は満足そうに頷く。

 

「父も『赤髭のサンタクロース』は知っていて、函館の都市伝説だと思っていたそうです」

「親父さんは撮影関係者か……金田の爺さんとやらは何の仕事だ?」

「元映画スタントマンです。それと喫茶店のマスターから聞いた話ですが……」

 

 そこから先週の脅迫状から始まり、現時点で判明した情報を交換し合う。警察手帳にメモを取り、俵田刑事は更に細かい点を問う。

 途端、部屋の空気が重くなる。佐木父が笑みを消し、考え込むように眼鏡の縁を手で押さえていた為だ。

 

「……麻薬の禁断症状? 父さん、それって……」

「麻薬?」

「何だ? 佐木、親父さんはどうした?」

 

 竜太は緊迫した表情になり、佐木父からの信じられない言葉を伝える。

 ひとつの色に囚われた認識、砂糖の甘さを感じぬ味覚。これらは麻薬の禁断症状だと言う。つまり、『赤髭のサンタクロース』は麻薬を服用した疑いがあるのだ。

 

「佐木君のお父様……失礼ですが、経験者の方にお知り合いでも?」

「いえ、ちょっと調べる機会があっただけです」

「調べるだあ? 言ってみろ」

 

 (いち)が疑問を口にすれば、竜太はさっと弁解した。その言い方を疑い、俵田刑事はギロッと睨む。佐木父も大きく頭を振った。

 

「……言っていいの? 2年前、母が大好きだったアイドルが亡くなったんです。なんでも、まだ10代なのに覚醒剤所持の疑いがあって……ショックを受けた母は薬物依存について、色々と調べていたんです。ただのファンでも、服用に気付いて上げられたら、アイドルの子を助けられたかもしれないって」

(ふっかい事情……聞くんじゃなかった……)

 

 竜太は佐木父の顔色を窺いながら、キッカケを話す。知りたくもない芸能界の闇まで知らされ、(いち)はゲンナリ。亡くなった子の名を出さなかったのは、名誉を重んじたのだろう。

 

「……勉強熱心の、良いお袋さんじゃないか……」

 

 俵田刑事は感慨深げに呟き、深呼吸。

 

「……お察しの通り、『赤髭のサンタクロース』は薬の売人だ。警察でも、一部にしか知らされていなくてな。俺も脅迫状が青森で出されんかったら、知る事はなかっただろうな」

「……不破警視はご存じ、ですか?」

 

 人差し指を唇に当て、俵田刑事は声を潜める。極秘情報を聞かされたと気付き、(いち)は息を呑んだ。

 

「そっ。あの人は普段、麻薬の取締を行っとる。今回も、でけえヤマ狙ってんのさ。出なきゃ、キャリア組がこんな場所に来るもんかっ。包帯巻きの客人と言い、俺まで蚊帳の外にしやがって」

「へえ、明智さんと同じキャリア組……お2人が金田一(きんだいち)先輩と組んだら、面白い事になりますね」

「佐木君と不破警視なら、十分にバディを組めていますよ」

 

 俵田刑事は相当の鬱憤が溜まり、ブツブツと煩い。完全に面白がる竜太を諫めつつ、(いち)は不破警視を思い返す。

 彼女に会った瞬間から、感じていた気迫の正体。この事件を解決出来なければ、後がない。それ程の気概を見せていた。

 

「俵田刑事、父が舞台を見ておきたいと言ってます」

「おお、そうだな。俺も劇団の奴らに話をもう少し、聞かなきゃならん」

(……それなのに部署違いだから、情報共有せず……)

 

 守秘義務の関係もあるのだろうが、それを抜きにしても俵田刑事がちょっと可哀想だった。




薬師寺「薬師寺で~す。閲覧ありがとうございま~す。ドラマ版では横浜が舞台になって、刑事さん達も神奈川県警です。さて、次回は『俵田刑事は知らない・中編』!! へえ、驚いたなあ。こんな美人もいるんだ」

雪村 剛造
異人館ホテル支配人、チキンでお馴染みの偉人に激似。何かある度に「そう言えば」と金田一へ情報を与える(先に全部、言っとけ)

フィロソフィアの店長
原作のみ登場、店は深夜まで営業している
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