金田少年の生徒会日誌 作:珍明
誤字報告により修正しました、ありがとうございます
2年2組の
美術部も掛け持ちし、芸術品関連の勉強を重ねて、作製する能力を磨いた。お陰様で顔を隠すマスク、身に着けるアクセサリー、本物ソックリのナイフはお手の物。
――だが、人間は作れない。
前生徒会長・
「はあ~、遠野君……。僕を北海道へ連れてってくれるんじゃあなかったのかい……」
「部長……そんな約束、してないでしょ~」
朝方に美術部の部室へ行けば、美術部部長・
「うう……っ」
「どうしたの!? 初音!」
3年の
「無理もないわ、三矢さんなんて……ショックで休んでるし……。有森君、布施君は平気? 彼にしてみれば、早乙女さんに続いて……だもの」
「俺らの前では、しっかりしてます。今週はコンクールも控えてるんで……」
3年の
「有森……あいつに頼んだらどうだ? ほら、
「……どうかな、アイツも忙しいし……」
2年の
新学期からどことなく――影を感じる。
普段通りに面白おかしく笑っていても、『オペラ座館』と同じ凄惨な事件を目の当たりにした。それに近い、深刻な雰囲気だ。
彼の幼馴染みにして現生徒会長・
「中津川先生よりは、頼れると思うぜ。ここんトコ、準備室に籠りっきりだしよ。先生も遠野先輩がいなくなって……淋しいんスかね?」
「……確かに」
芝里のヒソヒソ話に裕二は頷く。
美術部顧問は影が薄くても、不在は分かる。彼も新学期から、考え込んでいる様子だ。これも遠野先輩の影響だろう。
「しゃ~ねえか……」
裕二は意を決し、昼休みにミステリー研究会の部室を目指す。会長の
既に誰かが、相談した後かもしれない。裕二も頼んでみよう。
「無理よ、
「桜樹先輩の好きそうな事件なんですけど……」
部室のドアが開いており、2人分の会話が聞こえてきた。有森はギョッとし、廊下へ座り込んで聞き耳を立てる。まさかの
「遠野君がいないの。皆、動揺してる。伊志田君や宗像さんが頑張ってる今、迂闊に学校を離れられないわ。佐木君、どう?」
「行けます」
「!?」
(……ビックリしたぁ~)
深刻な場面に第三者の声、1年の
「いや……佐木、推理とか出来んの?」
「要は警察のお手伝いですよねっ。この前は竜二が活躍したので、次は僕の番ですっ」
「……佐木君、弟君に対抗心燃やし過ぎよ。どんな時でも、冷静沈着がモットーだったのにね」
愉快そうに語り合っているが、桜樹先輩にも相談出来ない。それだけは分かった。
(忙しいよな……)
裕二は色々と諦め、立ち上がった時に3年の
「キミ、何してんだい? 入部希望なら、話聞くよ」
「……お気遣い、ありがとうございます」
前髪をウネらせ、真壁先輩はニヒルに笑う。推理小説の受賞者故に頭は良い。嫌味っぽい性格だが悪人ではなく、桜樹先輩よりも人間味がある。しかし、何故だろうか、相談してはいけない気がした。
夕方の演劇部、七瀬へコッソリと聞いてみる。
「鷹島先輩は極度の潔癖症なの。人が触れた物も必ず、ハンカチで拭くわ」
「……へえ、よく部活できんな。……ぷぷぷっ」
七瀬が面白可笑しいミス研所属と思えば、裕二は笑いを堪えるのに必死だった。
でも、すぐにバレた。
「有森ぃ~、何が可笑しいんだよ」
「……俺自身の問題っス」
布施先輩もつられて笑い、部室は少し明るい雰囲気になった。
「有森……サンキュー。やっぱし、布施先輩……落ち込んでるよなぁ」
「仙道にも、そう見えるか……」
2年の大道具係・
この不穏な気配、離婚直前の両親と被る。誰にも、どうしようもできない。だから、裕二達はあえて普段通りに振る舞う。
「有森君――笑えばいいと思うよ――」
「
心の機微に敏感だったはずが、
――普段通りに笑っていたから? おくびにも出さないから?
愛しの
それを経験して尚、裕二は
思い知ったのは演劇コンクールにて、優秀賞を獲得した翌日。
バイト先のひとつ『大草原の小さな家』を動き回り、裕二は汗だく。「新生・黒髪バイトちゃん」に扮する
アイドルタイムに入ったが、クッタクタ。
「花都さんがいないとキッツィ、店長……人手増やしましょう」
「う~ん、出来れば……キッチン担当が欲しいのよねえ」
売上向上の中、上機嫌の店長はバイトを選り好み。裕二をイラッとさせた。
「店長、今日は上がります。有森君、お先に失礼します」
「おう、お疲れ」
途端、
よくある光景の為、裕二は疑問を抱かずに彼を労わった。
「……アナタは自由人で、有森君も掛け持ちだし、しょうがない……募集するかあ。ねえ……るい子ちゃんに声、かけといて♪」
「「ご自分でどうぞ」」
「そうだ、
「さあ、何でしょうね。有森君、聞いておいてください」
ちょっとした雑談のつもりだったが、
この瞬間になり、やっと彼が生徒会執行部だと意識した。明日からは執行部を優先するのだと思い込み、裕二は言葉を慎んだ。
「また学校で、有森君」
「明日な」
店を去り際に振り返り、微笑んだ
そこには何の違和感もなく、裕二はいつもの様に挨拶しただけだった。
月曜日、来ない。
1日くらい、休むだろう。
火曜日、来ない。
2日休むなんて、ザラにある。
水曜日、来ない。
金田と同じ組の照明係・
木曜日、来ない。
何か、おかしい。本格的な異変を察知したのは転入生・
「有森君だったよねえ。ウチの学校ってさ~、なんか
「ヤバいって何?」
相田の日焼けした腕にジャラジャラと巻いた数珠や、ルーズソックスにドクロアクセサリーは瀬名先輩の芸術的センスに負けないヤバさだが、そういう意味ではないだろう。
「隠さなくていいよ。旧校舎の呪いとか、あんでしょ? あたし、そういうのスッゴク興味あんの。知ってるコト、教えてよ。噂好きの奴でも良いからさ」
「……ミステリー研究会かな。生徒会長の七瀬さんも所属してんぜ」
「あ~、そこはちょっと……あたし、オカルト研究会作ろうと思っててさあ。商売敵って言うか、ライバル的な相手だし……あれ? 生徒会長は演劇部なんじゃないん? 演劇部の顧問と話してたよ」
「七瀬さんは掛け持ち……」
最初、差し障りのない内容だった。相田が演劇部顧問の音楽担当・
「七瀬さん、緒方先生……演劇部の顧問と何話してた?」
「え~と、顧問の方が……もしもの時、キンダイチクンにまた相談するとか、なんとか」
緒方先生が
昼休み故に2年1組の教室はダラけた生徒ばかり、
「
「……桐生……」
「……ハッ! 今、誰か呼んだ? ……有森じゃん、お前か?」
「あ、ああ……俺が呼んだよ。ちょっと話せるか……」
目覚めた
人目の少ない屋上よりも高い場所、塔屋へ登った。
「
「……今日、
青空と町の景色を見下ろしながら、裕二は前置きなく、本題を伝える。案の定、
「だったら……俺も」
「……いや、俺だけで行く。話せる限り……
裕二が笑顔を取り繕い、お見舞いを提案。我ながら、名案と思ったが
彼が1人で
不動高校開校以来、愉快な『オチコボレ』と呼んでも過言ではない。裕二はそこを信頼した。
「有森、今……失礼なコト考えてねえか?」
「
仏頂面の
本日の授業終了後、裕二は演劇部へ向かおうと廊下へ出た。
「
「ちょっ……待っ、本当、お姉さん……誰!?」
「はじめちゃん、待って!」
眼鏡を掛けた美人の部外者が
「美雪! まだ走っちゃダメよ!」
「美雪ちゃん、鞄っ。これ、
「ありがとう、千絵ちゃん」
2年1組の
裕二だけはこの光景を見た瞬間、背筋が凍り付く。
「
「有森……! ワリィ、コレが終わってから、行くわ!!」
叫び声に振り返り、
彼は他人に頼られる人間。縋られれば、何だかんだと拒めない。
向かう先に、世間を騒がす人気アイドル誘拐殺人事件が待ち構えているなど、自分達は知らぬ。
例え知っていたとしても、裕二は素直にショックを受けただろう。
「有森君、はじめちゃん……
「……! 七瀬さん……俺、別に怒ってなんか……」
七瀬に懇願され、裕二は眼鏡のブリッジを押さえる。その拍子に指先が眉間へ触れ、深く刻まれていると理解した。
違う。
裕二が責めたいのは自分だ。
パンッと頬を叩き、裕二は深呼吸。七瀬は当然、周囲の女子も驚いた。
「
「うん! ありがとう、有森君」
方法なんて考えてないが、裕二は格好付けた。七瀬は安心を笑顔に変え、
(なんで、七瀬さん……刑事に頼むって? やっぱ、遠野先輩の失踪は……事件絡みなのか?
七瀬の不吉な単語を思い返し、
「俺も?」
「お前は
「2人とも、
神矢は物凄く驚いていたが、
『魔笛』、来月のコンクール演目。まだ、
「
緒方先生は普段と違い、控え目な態度で言葉も慎む。先生方の気苦労を察し、台本は受け取った。
しかし、
「一番近い駅、どこ?」
「え~と……」
「コッチです」
最寄り駅で乗車券を買おうとした瞬間、当然のように佐木がいた。
あまりにも、自然に居た為に2人のどちらかが声をかけたとお互いに思ったが、違う。けれども、彼の案内は助かった。
「
「あれ、親父さんは……? あの背が高くて、PTA会長がメロメロになった男前の……」
「それに、美人の姉ちゃんもいるじゃん」
電車の座席に揺られ、佐木は勝手に人の家庭事情を暴露する。かと言って、自分達も詳しく知らない。裕二も両親の離婚を冬子以外、誰にも告げていない。それと同じだ。
「お仕事の関係で、離れて暮らしているんだと思います。
((……
聞き慣れない駅から降り、地味な坂道を登る。平穏な雰囲気に包まれた閑静な住宅地、その角に【
屋根瓦、壁、門扉の日焼け具合から見て、2・3年前にリフォームされた印象を受けた。
「いらっしゃい~♪ よお、来なすった。……佐木くんも一緒かい。まあええわ、茶くらいは出したるわ。客間におりぃや」
「お爺さん。そう言わず、お土産のお菓子です」
「「お邪魔しま~す」」
台本のような関西弁に出迎えられ、有森はその迫力に尻込みする。金田爺さんの佐木へ向ける視線は気になったが、気持ちは何となく分かる為に追及しなかった。
問題は玄関の靴、男物のサンダルが一足のみ。
金田爺さんは孫の同級生と後輩がわざわざ訪問したと言うのに、本人の存在を匂わせない。
――
玄関の手前にある客間へ通されたのは、それを悟らせない為だ。
「おまっとうさ~ん、麦茶やけどええか?」
「ありがとうございます……」
オボンに3人のコースターとコップを乗せ、金田爺さんは
「お爺さん、
「ブッ!!」
「佐木、直球過ぎんぞ!!」」
一切、オブラートに包まず、佐木は問う。ビックリ仰天の神矢は麦茶を噴出し、慌てた裕二はお喋りな後輩のハンディカムを無理やり下した。
「孫がどこにおろうが、小倅に関係あらへんやろ? 茶しばいたら、帰りぃよ?」
金田爺さんは目を瞬いた後、佐木をねめつける。口元は変わらず、笑う。ピリッと張り詰めた空気、老兵と呼ぶに相応しい圧迫感が背筋を粟立たせた。
裕二には十分、怖い。
「僕は、先輩の後輩です。十分、関係あります」
((佐木~、胆が据わり過ぎだってぇ~))
臆さぬ後輩はもっと怖い。
金田爺さんのオボンを掴む手に殺気を感じ、裕二は咄嗟に身構える。神矢もビビりながら、佐木を庇う位置へ立つ。
「あなた、お客様? ……不動高校の皆様ね、いらっしゃい」
「「「こんにちは、お邪魔していますっ」」」
白い着物の老女が足音もなく現れ、別の恐怖に竦んだ。
悠然とした仕草は緒方先生を思わせ、かつては教壇へ立っていただろう立ち振る舞い。高校生3人はさっと礼儀正しく、挨拶した。
「おや、佐木君も一緒ですか。
「明智さんっ」
「明智さん、いらっしゃいっ。婆さん送ってもろたて……気付きませんで、すんません」
金田婆さんの後ろから、知的な雰囲気を漂わせた男が1人。
端正な顔立ちに優雅な佇まい、庶民と違う素材の背広やネクタイ、フワッと空気に馴染む微かな香水は間違いなく、セレブだ。
否、警視庁捜査一課の
金田爺さんの雰囲気がまた剽軽に戻り、裕二と神矢は安堵の息。
「有森 裕二です。クラシックコンサートで会った……警察の人ですよね」
「え、この人……警察だったの? あ……神矢 修一郎です」
「明智です。キミ達とご挨拶していませんでしたね。金田君のお見舞いに?」
「生憎、
裕二達と挨拶を交わし、明智警視は問う。途端に金田婆さんはとても自然に口を挿んだが、妙に白々しく感じた。
「出掛けてる……もしかして、遠野先輩の居場所が分かったんですか?」
「「!?」」
佐木も同じ感覚を味わったらしく、遠慮せずにとんでもない質問を投げかけた。
老人2人の顔色が変わり、初耳と分かる。まだ暑い季節に部屋の中は肌寒いと感じ、裕二は鳥肌が立った。
だから、明智警視の変わらぬ表情を気にしなかった。
「遠野くんが……どうしたで?」
「いなくなりました。先生方は夏休み中に自主退学して、遠野先輩はもう生徒じゃないの一点張りです」
「そんな……っ」
「お婆ちゃん!」
金田爺さんが呻き、佐木はベラベラと喋り出す。それを聞いた金田婆さんはフラッと扉へもたれかかり、慌てて神矢がさっと手を差し伸べた。
「皆さん、席を外して頂けますか?」
「明智さん……、……お爺さん、お婆さん……お茶ご馳走様でした。お菓子、食べてください」
「お、俺も……お茶、美味しかったデス。これ、遅れましたけど……学校からのプリントです」
「こっちは……演劇部の台本です。そ、それじゃあ……お邪魔しましたっ。」
明智警視の物言いは優しいが、それは命令。
佐木は一瞬だけ、躊躇うが従った。裕二と神矢もいそいそと大人達へ頭を下げ、
老夫婦が明智警視を前に、沈黙。
その異様な光景が――両親が離婚を宣言する時に重なり、不快だった。
「こ、怖かった……。やっぱ、遠野先輩……ヤバいのかな?」
「……かもな」
(ニュースになってないなら、森下先輩と同じ状態……か?)
佐木の心の声に気付かず、重苦しい空気を背負ったままに駅へ到着した。
「
「有森先輩、それは少し……待ってくれませんか?」
まさかの「待った」に困惑。佐木は鞄から封筒を取り出し、見せて来た。
「僕、
「そっか、夏休みにやった生徒会の合宿先……北海道だっけ?」
佐木が言葉を濁した北海道の縁。神矢の発想に、裕二は納得。だって他は、知らなかった。
「……事件捜査に行くって話か、日数はどれくらいかかる?」
「明日12日から、15日です」
結構、待たされる。
桜樹先輩は静観、
「有森、15日までは待とうぜ。1月の3学期にさ、
「……そんなに休んで、何してたんだ?」
「
神矢の悠長さより、佐木が
「分かった……その代わり、
「はい、僕はそれで」
「俺も構わない。
裕二は仕方ないと妥協してみたが、神矢は
――とは言ったものの、裕二は気を揉んだまま過ごした。
日曜日に人気アイドルの誘拐、並びに劇団『アフロディア』団員が麻薬所持の疑いで逮捕など、衝撃的なニュースが相次いだ。
それらを知る度、『オペラ座館』の記憶が甦る。
湧き起こる罪悪感に蓋をせんと授業、部活、バイト、部屋の掃除とやる事を増やして過ごした。
一日千秋の想いで待った15日、あっさりと
「有森君、おはようございます。こちら、函館のお土産です」
「おはよ……、じゃねえよ! どこ行ってやがった! ああ、函館か!!」
怒りながらも、裕二は函館の土産を受け取る。食べ物に罪はない。
「昨日の内に戻れましたが、自分……有森君の電話番号を知りませんので……」
「悪い……俺ン家、電話ねえから……」
裕二は独り暮らし、生活費を自力で稼ぐ。電話加入権などの贅沢な費用は払えない為、学校からの必要な連絡は大家の自宅が取り次いでくれている。
「神矢君には連絡しました。たっぷり、叱られましたよ」
本当に神矢から叱られたらしく、
「……んで、何しに函館に行ったんだ?」
「
「……え? だって、佐木が……と言うか、それなら
「彼、うっかり……皆さんへ言い忘れたそうです。緒方先生や神矢君にも、そう説明しました。口裏を合わせて下さい。ね? 有森君」
深い事情が有りそうな笑み、それこそが最善と言いたげだ。
人の気も知らず、勝手な言い分。イラッとしたが、
段々、
「分かったよ、
「はい、今頃は従妹の方と召し上がっている頃でしょう」
ただの確認だったが、
翌日の火曜日、
小渕沢「小渕沢 英成です。あの……七瀬さんでしたか? 彼、大丈夫でしょうか? 妙に力んでいると言うか、心ここにあらずと言いますか……。……学校のお友達が、行方不明(は?)。……かなり、思い詰められていた(はあ!?)。それは……心配ですね(しまった……絶対、金田君の身に面白い事が起こっている……見逃した!)。……(金田一君の推理ショーも佳境に入った……不出来なマリオネットを始末するのは簡単だが、拘束時間が伸びてしまう。放っておくか)……社長、早退します」
鏑木「ちょ……小渕沢! さて、次回は『【速水玲香誘拐殺人事件】が起ころうと』!! と、とにかく顧問弁護士に……」
有森 裕二を含めた演劇部員並びに顧問
オペラ座館殺人事件ゲストキャラ
相田 桃子
瞬間消失の謎、アニオリキャラ
作中にて、2学期からの転入生。アニメ視聴中「最近ミス研に入った」を何故か「転校してきた」と脳内変換してしまい、1学期に登場させてなかった(ごめん)