金田少年の生徒会日誌   作:珍明

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Q9の続き、オリ主は東京へ帰還しました
誤字により、修正しました。ありがとうございます


Q11 【速水玲香誘拐殺人事件】が起ころうと

 羽田空港に到着し、両手に抱えきれない函館土産が腕を痛める。タクシー乗り場へ向かうだけの距離も中々、辛い。

 ――心配かけた方面へお詫びの品を買うべし。

 そんな説得力のある竜太(りゅうた)の意見に従ったが、(いち)は速攻で後悔した。

 こんな大荷物、自分の足では帰れない。公共機関、又はタクシー必須だ。

 

「……明智さん、これらを持って帰りたくありません。皆さんへ渡しに行ってから、帰ろうと思います」

「いけません、金田君。お婆様には真っ直ぐ、帰らせるとお伝え済みです。どうしてもと言うなら、私が付き添います」

 

 明智(あけち)警視は有言実行を求めながら、手を貸してくれるらしい。彼と荷物を抱え、並んで帰る。絵面を想像してみたが、どう考えてもダサすぎる。

 家出した高校生の帰宅に凡そ、似つかわしくない。

 

「明智さん、ダメですよ。金田先輩は自業自得なんです。これくらいしないと、また家出してご家族を心配させるんですから!」

「佐木君……厳しいです。しかし、自分は貴方にどういう人間と思われているのですか? お土産を買いたくないから、家出しなくなるとか……初めて聞く発想です」

「フフッ、間違ってませんとも。金田君は言葉より、こうやって重さを実感させた方が、効果があります」

 

 眼鏡2人に別方向から、責められる。(いち)はゲンナリ。

 佐木(さき)父は何も言わないが、ハンディカム越しの視線は煩い。

 

「有森先輩、本当に物凄く心配してましたよ。神矢先輩が宥めてたんですからっ」

「……はい」

 

 東京を発つ前、最後に言葉を交わした同級生は有森(ありもり)のみ。クラスメイトの神矢(かみや)にも、迷惑をかけていた。

 順番が巡り、(いち)はタクシーへ荷物を積み込む。これだけで重労働、それでも忘れずに2つの土産をそれぞれ、明智警視と佐木父へ差し出した。

 

「明智さん、佐木君のお父様。ありがとうございます。色々とご心配をおかけしました」

 

 しっかりと心から、詫びた。何故か、大人2人にキョトンとされた。

 

「……やれやれ、キミって人は……。今回は受け取っておきましょう」

「先輩、父がどういたしましてって言ってます。家に着いたら、絶対に連絡下さいね」

「はいっ」

 

 彼らがお土産を手に取り、(いち)は安堵の息を吐く。

 一見、ただの物のやり取り。詫びの品を受け取るのは、許しを得られた証だ。想いが通じて、素直に嬉しかった。

 

 さて、本番が待ち受ける金田家。タクシーが家の前に停車した途端、目を血走らせた金田祖父が玄関から飛び出してきた。

 (いち)がおどろおどろしい気迫に圧倒されても、負けじとタクシーを降りる。

 

「お祖父ちゃん……お土産を」

ニイチャン、釣りいらんで!

 

 元気よく金田祖父はタクシーの運転手へ万札を払い、お土産をひったくって玄関へキチンと並べていく。

 その間、(いち)は耳の後ろに熱を感じつつ、玄関土間を見下ろす。金田祖母の靴もあり、臓物が痙攣する。一呼吸の後、足を踏み入れた。

 

た、ただいま

 

 自分の喉を呼吸が通ったはずが、口からは蚊が泣くような小さい声。

 待っていたと言わんばかりに金田祖父は振り返り、わざとらしい重くて、深いため息をひとつ。彼はもう孫の家出を許している。

 

「おかえり、よう帰ってきたな……と言いたいとこやけど、説教はするからな」

「!! もう……銭形さんに叱られますた……」

 

 靴を脱ぎながら、(いち)は笑みが零れる。

 

「ますたって、なんやねん。……銭形はんに見付かったんか……エエ気味や。さとみと青ボンがおらんなったのを見計ろうてからにぃ。ホンマ、悪知恵ばあ~よう働くわぁ」

「……フフフ、そうですね」

 

 金田祖父はこうやって、お道化て、場を和ませる役割。

 だから、本当に叱るのは金田祖母の役割。台所から、覗き見る視線を感じたが、こちらへ姿を見せない。彼女はまだ、家出騒動に心の整理が付かないのだろう。

 正直に言えば、2度と家へ上げてもらえない。それも覚悟していた。

 仏壇の前へ正座し、函館土産を供える。りんを鳴らし、氷室(ひむろ)伯父へ帰宅を告げた。黙祷を捧げる中、聖ハリストス教会で目にした聖像(イコン)を思い浮かべた。

 それだけで、氷室伯父と一緒に鑑賞している。そんな気分に浸り、目尻に涙が溜まった。

 

(いち)っ、あのお土産……渡しに行くんは明日にしてや。今日はっ、家におれよ」

「分かりました。先に電話連絡をしておきます」

 

 金田祖父に声をかけられ、咄嗟に涙を指先で拭う。廊下の電話台へ立とうとした時、背後に気配がひとつ近付く。金田祖母だと思い、何も考えずに振り返った。

 

「お帰り、(いち)君。お出掛けの際、携帯電話をお持ちください。ね?」

黒沼先生……!?

 

 頬の凍傷痕さえも魅力的な好青年にして弁護士、黒沼(くろぬま) 繁樹(しげき)先生。

 普段の背広ではなく、私服と分かるジャケットが格好良い。けれども、弧を描く口元、瞬きしない眼光に見下ろされる。今日一番の怖さ。

 (いち)は臓物どころか、全身が痙攣して文字通りに飛び跳ねる。震え上がった喉はヒューヒューと息しか出ず、彼の名を呼ぶのが精一杯だ。

 

「お婆様とお話がありましてね」

「日曜日に、わざわざ?」

(いち)君が携帯電話に出てくれませんので、風邪を引いたのかなあと心配したんだよ」

「黒沼先生の大切なお休みを……本当、すみません

 

 自室に置いたままの携帯電話、着信を確認したくない。

 

「祖母に何を話したか、聞いても?」

「鹿島 伸吾さんから、お婆様へ間接的にお礼の言葉を頼まれてね」

「間接的とは……鹿島さんも弁護士と契約されて、その方と黒沼先生がやり取りしているのですか?」

「正解、影島さんは名誉毀損並びに詐欺被害に強い方だ。頼りにしていい」

 

 帰って早々、鹿島(かしま)船長。しかも、影島(かげしま) (あかり)弁護士の得意分野を聞けば、訴訟は待ったなし。

 

「裁判のやり直しは……竜王丸の保有会社が再審請求するしか、ない。そう聞きました。そちらはいつ頃になりそうですか?」

「……俺は関与しないけど、……そうだな。早くても来年か、再来年ってとこか……或いはもっと」

 

 再審請求しても、開廷まで年単位。ビックリし過ぎて、(いち)は腰が抜けた。

 

「そんなに、待たされるのですか……?」

「そもそも、あれだけの事故から僅か半年で判決が出る。これ自体、異常だった(・・・・・)。今度は絶対、念入りに調査しないといけない。どうしても、時間はかかるよ」

 

 新しい証人と証拠を基に、公平な裁判がなされる。

 東亜オリエント海運側は間違いなく、鷹守(たかもり)達へ全ての責任を押し付ける。加納(かのう) 達夫(たつお)の偽証も彼らの独断専行と訴え、ある意味では三つ巴の泥沼だ。

 それ以上に問題は再び、事故の記憶と記録が世間に晒される事。脳裏に浮かんだ人の顔を無理やり、振り払った。

 

「黒沼先生、今日は歩いて来られたのですか?」

 

 話題を少しでも逸らそうと、駐車スペースに意識を向ける。金田祖父以外の車はなかった。

 

「バイクで来たよ。靴は外の踏み石だ。俺がいるって分かったら、(いち)君は逃げるだろ?」

 

 全く、その通りである。

 黒沼先生の端正な顔立ちが瞬きせず、口だけ動かされては恐怖しかない。崩れた敬語が、怖さを倍増させた。

 

(いち)君、キミの気持ちは分かるとは言いません。次に……遠くへ行きたくなったら、私にも連絡下さい。一緒に行きましょう」

「黒沼先生……」

 

 黒沼先生と同じ言葉を竜太からも、聞いた。

 歳や立場が違う為だろうか、彼の口調には如何なる試練も、共に乗り越えようとする重みを感じた。

 微かに緊張したが、それはそれで嬉しい。

 

「黒沼先生はす~ぐ、(いち)を甘やかしよってからに。婆さん、今の内になんか言うたれ」

「……良いんですよ」

 

 金田祖父はブ~垂れたが、金田祖母の何とも言えぬ視線は痛い程に突き刺さった。

 

「ありがとうございます。自分、これから演劇部の緒方先生やら、何やらに連絡をしますので……傍に居てくれますか?」

「はい、勿論です」

 

 (いち)は黒沼先生の存在が心強く、迷いなく受話器を取った。

 最初に連絡した緒方(おがた)先生は受話器越しに涙声、次に連絡した神矢(かみや) 修一郎(しゅういちろう)からメチャクチャに叱られた。彼らに理由を聞かれ、「金田一(きんだいち)の代わりに事件捜査へ協力していた」と説明した。

 

「キンダイチクン?」

「名探偵の孫です。頻繫に警察から協力を要請されるのです」

 

 黒沼先生の疑問を聞き、まだ紹介していない関係だと今頃、気付く。竜太や明智警視、銭形(ぜにがた)警部補と連絡し、ついに金田一(きんだいち)へ連絡する順番が来た。

 彼が俯き加減に立ち尽くした姿、瞼の裏へ浮かぶ。

 コール音が鳴る度に心臓が怯えたが、彼は生憎と留守。最後に連絡した七瀬(ななせ)も同様、昨日から帰っていないそうだ。

 拍子抜けした。

 

 そのまま、黒沼先生は夕飯も共に過ごす。彼は台所で食卓を囲みたいと望み、(いち)達は喜んで叶えた。

 

「あなた、TVの音……小さくしてください。黒沼先生がいらっしゃるんですからっ」

「私も報道は気になりますから、そのままに」

 

 夕方のニュースには、異人館ホテルより大量麻薬の発見、劇団『アフロディア』麻薬所持の疑いで逮捕、函館の事件が次々と報道された。

 (いち)も貢献しておきながら、意気消沈。もう2度と劇団の舞台を観られない。今頃になり、実感が湧いた。

 

(不破警視の逮捕……まだ報道されないんだ。去年、警視庁の元刑事さんが逮捕されたって時も……名前までは出なかったもんなあ)

 

 金田祖父がブラウン管の画面へ釘付けになり、呆然と立ち尽くす。戦後最大のスター逮捕を知れば、ショックも大きいと分かる。

 

「お祖父ちゃん、どうしましたか?」

「……何でもないわい」

 

 (いち)の声には我へ返った金田祖父は素っ気なく、TV画面を切った。彼は元映画スタントマン、もしかしたら、彼らと言葉を交わした日もあったかもしれない。聞かずにおこう。

 事件についても、今は話さない。少なくとも青森県警からの感謝状が届き、事件関与がバレるまでは――。

 

 

 翌朝に普段通りの目覚め、金田一(きんだいち)の寝顔が隣にあった。

 しかも、両腕に包帯、頬にもガーゼ、隠し切れない擦り傷も多く、満身創痍。

 ビックリし過ぎて夢かと思い、瞬きを繰り返す。金田一(きんだいち)は消えず、現実と理解はした。

 

(……遠野先輩は、小林さんを……)

 

 金田一(きんだいち)の閉じた瞼へ問いかけ、頭を振るう。直接、顔を見てしまえば予想できた事だ。今すぐ、叩き起こさない分だけ、感情の抑制は効いていると自分を慰めた。

 一先ず、日課のジョギングを済ませて帰宅。

 

「おはよ……、金田」

金田一(きんだいち)君、おはようございます」

 

 居間の卓袱台に朝食が並び、金田一(きんだいち)はモソモソと黒焦げの鮭を齧る。何故、金田祖父の当番を守らせる必要があるのだろう。金田祖母を一瞥したが、澄まし顔で無視された。

 

「今日は敬老の日ですが、まさか……祖父母の為に?」

「阿呆言いなさんな……どう考えても、ちゃうやろ。函館の話したれ、(いち)っ。金田一(きんだいち)くんの代わりに青森県警のお手伝いしとったんやから」

「すいません、俺が急に頼んでたもんでっ」

 

 どうやら、金田一(きんだいち)は口裏を合わせてくれたらしい。(いち)と事前に相談せず、玄関に並んだ函館土産、金田祖父母との会話で現状を把握するなど、流石だ。

 

「それでは金田一(きんだいち)君をご自宅へ送る道すがら、お話します。ポアロにも、会いたいですから」

「ポアロ?」

「ああ、ウチで飼ってる犬っス。金田、前にポアロと会ったら、もうメロメロでぇ♪」

「ワンちゃん……、良いわね。金田一(きんだいち)くんなら、柴犬かしら?」

 

 室内では逃げられないもとい、異人館ホテルへ向かった本当の理由を金田祖父母へ聞かせたくない。そんな思いがあった。

 

 ついでにお詫びの品を渡して回る様に言い付かり、(いち)はバイクの前カゴに土産を積んだ。

 

「俺ン家と……美雪の分もあるなら、こっちへ入れとくわ」

「……お願いします」

 

 金田一(きんだいち)は2つ引き受け、原付バイクの前カゴへ入れてくれた。2人は愛車に跨らず、ゆっくりと住宅地を押し進んだ。

 

金田一(きんだいち)君、ありがとうございます。話を合わせてくれて、あちらで俵田さんに間違えられた時はもう、どうしようかと思いました」

「……じゃあ、なんで函館に行ったんだ? てっきり、桜樹先輩から頼まれたんだと思ったぜ」

 

 先ずは感謝を伝え、金田一(きんだいち)の様子を窺う。本当に彼は何も知らず、話を合わせるのが上手い。しかし、竜太から連絡を受けていないのは意外だ。

 それはさておき、深呼吸をひとつ。

 

「小林さんと約束していたんです。函館へ行こうって……祖父母には内緒ですよ」

「!! 金田……」

 

 小林画伯の名に反応し、金田一(きんだいち)は切なげに眉を寄せる。本当にお人好しだ。

 

金田一(きんだいち)君っ、函館に行けて良かったです。区切りは付きました」

「……金田、お前」

 

 どうにか、言葉に出来た。

 口を動かす自分自身でも、本心か判断できない。けれども、金田一(きんだいち)(いち)の表面的な感情を汲み取り、口を噤む。彼もまた悲恋湖の真相を語らずに済み、安心しているように見えた。

 

 目的地へ到着し、住人たる金田一(きんだいち)は原付バイクを駐車しに門の向こうへ消える。(いち)は長い沈黙と暑さにより、頬を汗が伝う。解放感を求め、ヘルメットを外した。

 

「ワン、ワン、ワン」

 

 鳴き声にハッと顔を上げ、金田一(きんだいち)家の門を見やる。子犬のポアロがつぶらな瞳を向け、小さな口から舌を出す。以前と違い、愛くるしさは抜けたが、大人しい顔付きで出迎えくれた。

 

「……ポアロ、こんにちは」

「ワン、ワン」

 

 子犬の純粋な歓迎に緊張した体の力は抜け、バイクから降りる。ポアロは尻尾をバタバタ動かし、(いち)の手を受け入れてくれた。柔らかい毛並みが少し伸び、前よりもモフモフしやすい。

 バタバタと音を立て、玄関から顔を出す人影。一瞬、ご家族かと思い、すっと行儀良く立つ。

 

「こら、ポアロ。勝手に行ったら、危ないでしょ。……あっ、すいません。驚かせちゃって」

「……金田一(きんだいち)君?」

 

 ランドセルの似合いそうな小柄な体格、左右の耳上に縛られた髪、全てを見通す大きな瞳。己の可愛さを120%熟知した首の傾げ方。

 

金田一(きんだいち)君?」

「……っ、お兄ちゃんのお友達ですよね。お土産、ありがとうございます♪ さっき、お兄ちゃんが窓から投げてくれたんです。良いなあ、函館っ」

 

 口元に手を置き、あざとい仕草で上目遣い。

 

金田一(きんだいち)君?」

なんでぇ3回も言ったあ! どう見たってチゲえだろ! テメエ、目ん玉ついてんのか!

「フミ、何を大声上げてんだよ。客の前だとぶりっ子のくせに、珍しいっ」

 

 意外と早く、化けの皮が剥がれた。

 原付バイクを置き終え、金田一(きんだいち)がひょっこり戻る。彼の発言から、小学生版・金田一(きんだいち)は予想通りにぶりっ子らしい。2人は性格も同じだ。

 

金田一(きんだいち)君?」

「ああ、金田に紹介するわ。コイツは従妹の二三だ」

 

 従妹。

 血を分けた親戚どころか、ここまで似ていると分身レベル。アメーバーのように分裂したと言われても、(いち)は信じたに違いない。寧ろ、そちらの方が納得する。

 

「オニイチャン……何か、失礼なコト……考えてないかなあ? フミに教えてくれる?」

「……初めまして、金田と申します。金田一(きんだいち)君には日頃から、お世話になっております」

「フミ、手加減してやれ。金田は正直者なんだよ」

 

 ニッコニコの迫力ある笑顔を近付けられ、(いち)は下がる。やはり、金田一(きんだいち) 二三(ふみ)なる従妹は洞察力も優れている。ポアロの顎を撫でて、この状況に対して高ぶる感情を抑え込んだ。

 やれやれと金田一(きんだいち)はため息を吐けば、バタバタと慌てる足音に3人とも門の外を見やる。

 

「本当に金田君だ……! 昨日は電話くれてたのに……ごめんなさい。帰った時はもう遅い時間で、あたしも今、起きたの」

「七瀬さん、おはようございます」

「美雪、金田から土産だってよ。ほらっ」

 

 ぬっと現れた七瀬は(いち)の存在に驚き、小さく詫びる。松葉杖を握った右手は震えていた。

 謝罪は求めていない為、大きめの声で挨拶。そこを狙い、金田一(きんだいち)は彼女へお土産を渡してくれた。

 

「金田君、函館……行ってたんだ」

「はい、佐木君と一緒にっ。ね? 金田一(きんだいち)君」

「俵田刑事に頼まれたヤツ、俺さ……断ったじゃん? 代わりを金田に頼んでたの。忘れてたんだよ」

 

 じ~っとお土産を見つめ、七瀬は問う。2人で違和感なく、答えられたと思う。

 

「なになに? お兄ちゃん、また何かとんでもないコトしたの?」

「フミ、その言い方やめろ」

「……金田君! 有森君、すっごく心配してたから……連絡してあげてね」

 

 キラキラッと目を輝かせ、小学生版・金田一(きんだいち)は話へ割り込む。それを気にせず、七瀬は念押しして来た。完全に疑われているが、(いち)は苦笑交じりに承諾した。

 

「自分、バイト先へ行きます。有森君がいると思いますので」

「バイト先、有森と一緒? 初耳っ」

「そう言えば、1回も行った事ないなあ。今度、行っても……」

 

 (いち)はポアロの顎を撫で、バイクへ飛び乗った。七瀬に答えず、さっさとヘルメットを装着。

 

金田一(きんだいち)君、七瀬さん……また学校で。ポアロと金田一(きんだいち)君の従妹さん、バイバイ」

「バイバ~イ、金田のお兄ちゃ~ん♪」

「ワン、ワン、ワン」

 

 愛くるしいポアロへ手を振り、(いち)はバイクを走らせた。

 

「……はじめちゃん、昨日まで事件に掛かりきりだったって、ちゃんと金田君に伝えた?」

「言う必要ねえだろ」

「あるに決まってるでしょ! もう……はじめちゃんが、金田君をずっとほったらかしにしたみたいに思われるじゃないの~」

「……してたんだよ……俺はっ」

 

 そんな会話が続いていたらしいが、(いち)は知らない。

 

 1週間振りの『大草原の小さな家』。

 開店準備中だった有森から、怒鳴り散らされる。竜太達の言う通り、彼には一番、心配をかけたと猛省。函館土産も受け取ってもらえた。

 

金田一(きんだいち)の奴、知らん美人に連れて行かれたんだ。……今、思えば……昔の歌手をやってた人に似ていたような……」

「……完全に事件の匂いがしますね」

 

 有森は11日の出来事を聞かせてくれたが、金田一(きんだいち)俵田(たわらだ)刑事の依頼を断ったのと別件だろう。

 2人のやり取りから、彼の推理力を用いても昨日まで掛かった大事件。気になるには、当然だ。

 

「昔、歌手をしていた美人に連れて行かれたのなら、芸能関係の事件ですね……」

「だったら、速水 玲香ちゃんの誘拐事件! 土曜日の夕方に山梨県で保護されたヤツ、一緒に攫われたマネージャーが犯人だったんだ! コイツは遺体で発見されてな。その奥さんが昨日、逮捕されたらしいぜ。詳しい事情は報道されてないけど……」

 

 人気アイドル・速水 玲香(はやみ れいか)、背氷村殺人事件の当事者。

 その名を聞いた瞬間、コレだと確信した。

 一度でも出会った人間の縁を大切にする人ならば、絶対に助けに行く。保護に至った経緯にも、金田一(きんだいち)の人知れぬ活躍があったに違いない。

 

 ――彼ハ自分ヨリモ、彼女ヲ助ケニ行ッタ

 

 ゾッとした。

 胸の内側、或いは脳髄の奥から囁かれた嫉妬の呟き。(いち)は誤魔化そうと掌へ爪を立てた。

 

「自分、神矢君の家へ行ってきます。お土産を渡したいです」

「おう、行って来い。終わったら、店に戻れよ」

「流石、有森君。私の言いたい事を言ってくれたわっ」

 

 有森はニカッと笑い、店長を振り返る。彼女はレジカウンターで釣銭を準備に忙しく、取りあえずのウィンクを投げて来た。

 

「戻ってきますよ、有森君。少しだけ、行ってきます」

「ああ、行ってらっしゃい」

 

 店長を無視し、(いち)は舞い戻ると誓う。

 有森はさっきまでの怒りを忘れ、いとも簡単に信じてくれた。彼の器の大きさに感じ入り、土産を配りに出かけた。

 

「神矢く~ん、お邪魔しま~す♪」

「金田……ちょっと、そこ座れっ

 

 神矢の自宅へ記念すべき初訪問だったが、正座強要に再びお説教。(いち)の呑気な態度が招いた事態故、自業自得と反省したのであった。

 

○●……――金田一(きんだいち) (はじめ)は有森と話す前、眠りの中で桐生(きりゅう) 春美(はるみ)と会った。

 霧がかった世界にいながら、彼女だけ一際強く存在感を放っていた。

 

〝寄り道せず、家へ帰って〟

 

 切ない声は脳へ直接、懇願した。

 だが、はじめは目を覚ました瞬間に彼女との会話を忘れ、アイドル誘拐殺人事件に身を投じた。

 

 有森との約束、自分自身が行かねばならない使命感に突き動かされ、夜遅くと知りながらも金田家を訪れた。

 寝支度の真っ最中だった老夫婦に出迎えられた時、桐生の言葉を思い返した。

 ここへ来るのが、遅すぎたと悟った。

 

 帰宅した後、隣にある美雪の家へ行き、電話を借りた。

 フミとポアロの賑やかな声を聞きながら、剣持(けんもち) (いさむ)警部へ掛けられない。普段の彼女なら、事情をしつこく訊ねる。しかし、はじめへ気遣い、何も聞かずに電話を貸してくれた。

 何度目かのコール音、繋がった。

 

「オッチャン、俺だけど」

〈おう? 金田一か、なんで七瀬君の家から掛けてくるんだ?〉

「ちょっと頼みがあって、甲田さん……分かるか? 悲恋湖ン時の……医者の人」

〈あ、ああ……分かるっちゃあ、分かるが〉

 

 聞き慣れた渋い声は困惑しても流石、刑事。はじめの質問に込められた意図を感じ取り、さっと答えてくれた。

 隣にいる美雪が息を呑んだが、はじめは敢えて振り向かない。

 

「甲田さんと……金田(かねだ)を会えるようにしてくれないか? どんな方法でもいい」

〈……は? ……金田一、ちょっと待てくれ……今、(いち)君はな……大変なんだよ〉

 

 ある程度、予想された反応だ。

 金田(かねだ)は先程、別れるまでの間。一瞬たりとも、はじめを責めなかった。

 自分への労わりはあれど、事件への納得などではない。

 達観による諦めだ(・・・)

 如何なる真相も、起こった出来事そのものは変えられない。金田(かねだ)は目を瞑り、耳を塞いで、嘆きを通り過ぎようとしている。

 

金田一君(・・・・)、おはようございます〟

 

 金田(かねだ)の呼び方が、それを証明した。そこに以前の親しみはなく、はじめと只の同級生だった関係に戻ってしまった。

 意図的ではなく、彼は無意識に過去へ(・・・)戻りたいのだ。

 それでは、彼の心に未来は無い(・・・・・)

 

「分かってる。でも、金田(かねだ)は……俺に事件の話をさせないようにしている。甲田さんの話なら、きっと……」

〈……ああと、……そうじゃなくてだな。……お前、(いち)君ン家の事情、何処まで知ってる?〉

 

 はじめは説得を試みるが、剣持のオッサンは緊張を深くした声でトーンも下げた。彼は携帯電話を持ち、周囲に聞かれない場所へ移動したのだろう。

 

「……金田(かねだ)の爺ちゃんから、聞いた。銭形さんと一緒に……」

〈……なら、話は早い。事情は省略するが、(いち)君のお母さん……見付かるかもしれん〉

 

 一瞬、はじめは硬直した。

 

「は? 何で今?」

〈……スマン、詳しく言えん。あ、ちょっ……明智警視っ

〈金田一君、甲田 征作と金田(かねだ)君を会わせるキッカケは作ります。但し、本当に会うかどうかは、2人に任せましょう〉

 

 叩き上げの渋い現役刑事の声が一瞬にして、若きエリート警視へ早変わり。しかし、はじめの緊張は解けなかった。

 明智 健吾警視は捜査に情を持ち込まず、はじめの無茶を素直に引き受ける人ではない。

 

「アンタ、一体……どういう……」

〈決まっているじゃありませんか、金田(かねだ)君を『雪夜叉』にしない為ですよ。金田一君には、この意味が分かりますね〉

 

 心に悲しみと絶望の〝吹雪〟が吹き荒れた『雪夜叉』。

 以前、それと同じ言葉を告げた刑事がいた。彼はそうならない為にも、金田(かねだ) にいみを探すと誓った。

 離れ離れになっていた母子の再会、一件落着に思える感動的な文面。

 更なる予感に、明智警視は警戒を強める。そして、はじめもまた嫌な感じに胸がざわめく。彼はそれを見抜いているのだ。

 

「……ありがとう、明智さん」

 

 色々と言うべき言葉はあったが、纏めてしまえば、ただのひと言。

 

〈礼には及びません。学校に居る間、金田(かねだ)君をちゃんと見ていたまえ。友達としてっ〉

 

 明智警視は返事も聞かず、通話を切った。嫌味な言い方だが、友情を大切にしろと言う忠告だ。

 彼もまた、大人として子共の心配をしている。

 三田村(みたむら) 圭子(けいこ)が玲香へ厳しい態度を取りながら、隠せぬ母の愛情を向けたように――。

 同時に浮かんだ疑問、彼女は小城(こじょう) 拓也(たくや)の抱えた苦しみを知っていたのだろうか? 攫われた娘の活躍は把握しておきながら、孤独に陥った息子を気に掛けなかったのだろうか?

 

〝だから、考え抜いたのさ……〟

 

 小城の嘆きを思い出し、はじめは自分勝手な母親達への怒りが沸く。あれを(・・・)、絶対に繰り返さない。

 

金田(かねだ)を……『雪夜叉』になんて、するものか……ジッチャンの名にかけてっ

 

 胸から湧き出た誓いのままに、はじめも受話器を下ろす。ガチャンとした音が開幕ベルに聞こえた。




三田村「……三田村です。金田一君、私……拓也のコトは……その、え? 予告……さて、次回は『女神は誰に微笑むか?』。男性教諭と……女子生徒が……? 監督、小道具の薙刀……お借りします」

金田一 二三
アニメ版に登場、コナン君みたいに勝手に事件へ介入。人質の安否が不明な状態で、ひとり豪勢に飯食ってるシーンは「フミちゃんはここまでサイコパスじゃない」感が拭えない
作中は事件に関わってません

速水 玲香
人生2度目の誘拐事件、囚われている間も自力で逃げ出そうと必死だった(偉い)

三田村 圭子
ベテラン女優。本人は否定したが、玲香の実母
何度読み返しても、この人の気持ちが分からない。タロット山荘のネタバレ防止とは言え、速水パパとか、小城に対して何を想ったか全然、読み解けない。と言うか、これ……下手したら、息子の存在忘れてない?と疑念も抱いちゃう
作中にて後日、はじめちゃんから遠回しに説教される

黒沼 繫樹
雪霊伝説殺人事件ゲストキャラ、決して誰かさんの変装でないです。念の為に

弁護士・影島 灯
暗黒城殺人事件ゲストキャラ。作中にて、鹿島 伸吾の助けとなる
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