金田少年の生徒会日誌 作:珍明
ホワイトデー回です。
ホワイトデーは欧米になく、アジアでもほとんど日本だけの行事。
「僕も去年、知ったよ。ホワイトデー、お菓子会社の陰謀なんだってね。まあ、それで日本生まれを後悔する人なんて、小田切先生くらいかな?」
「いや、遠野先輩。自分も若干、日本生まれを後悔しています」
「ホワイトデーどころか、バレンタインデーも知らなかったよ。うかつに受け取ってしまったばかりに……本当にありがとうっ。遠野君、金田君」
放課後の調理実習室。
男3人で大量のクッキー作りの真っ最中。
「小田切先生っ、あたしは?」
「も、勿論、時田さんも! ただ、遠野君は材料とか調理実習室の使用許可とか、色々と段取りしてくれたし……あ! 材料費、まだ払ってない!!」
「小田切先生、片付けが終わってからにしましょう! 手が小麦粉で白くなってます!」
慌てた小田切先生は小麦粉塗れの手で、ポケットから財布を出そうとする。更に慌てた遠野先輩が必死に止めた。
「遠野先輩……今更ですが、高井デパートで揃えてはいけませんか?」
「金田君。既製品だと……小田切先生のお給金、全部飛んじゃうよ」
事の発端は本日、小田切先生がホワイトデーの存在を知り、大慌てになる。そこに我らが
ちなみに、元凶は演劇部へ向かう。例の如く、遠野先輩が甘やかした為だ。
時田は作業中にひょっこり現れ、ご親切にもラッピング係を買って出てくれた恩人である。彼女も先月のバレンタインチョコを小田切先生へ渡した身、自身へのお返しを用意する何とも、複雑な立場になってしまった。
「こうやって、小田切先生がお返しの為に作ったって言うのが、良いの♪ 先生って、本当に優しいですよねっ」
「お返しがいるなら、きちんと返さないとね。皆も僕の為に、貴重なお小遣いを使ってくれたんだしっ」
何故か、時田の物言いは刺々しい。怒りよりも嫉妬に近い。
鈍感な小田切先生のホワイトデーへの必死さは十分に伝わったが、何故に自分は巻き込まれたのだろう。答えは下校中、買い物袋を抱えた遠野先輩と目が合った。
満面の笑みにて、放たれる威圧感。手伝いを断れば、絶命待ったなし。結局は命惜しさ、それに尽きる。
「お返しと言えば、遠野先輩は何を用意したのですか?」
「明日の生徒会執行部の業務っ。皆、それで良いって♪ だから、金田君は演劇部へ行っても大丈夫だよ。人手は足りているし」
「「「……??」」」
満面の笑みで遠野先輩は答えたが、時田は勿論、小田切先生も困惑した。
((執行部の業務をお返しにする人……初めて見た……。と言うか、OKしたんだ……。遠野先輩のファン怖……))
ゾッとする
(だったら、月島さんにちゃんと渡せるか……)
その話はしていないが、遠野先輩は気を回したのだろう。後輩ではなく、ホワイトデーにお返しを待つ女性陣に対してだ。
「その顔~金田君もお返しの予定ありと見た♪ もしくは返して貰う方かな~?」
「秘密です……いえ、七瀬さん以外の方ですよ」
「? 金田君、どうして僕を見て言うんだい?」
「偶然だね、僕も七瀬さんからは貰ってないよっ」
お喋りしながらも、手は動かし続ける。問題なく、片付けまで完了。完成したクッキーは『小田切先生私物』と書いた段ボールに詰め、生徒会室へ一時的に置いた。
一安心すれば、疲労感が肩に来る。
「それじゃあ、小田切先生。明日中に持って行って下さいっ」
「うん。遠野君、ありがとうっ。生徒会室の鍵は僕が返しておくよ」
「あたしも~返しに行くっ」
遠野先輩が小田切先生へ鍵を渡そうとした瞬間、はしゃぎながら時田は奪い取る。呆然とする男性2人を尻目に、彼女は廊下を軽やかな足取りで走った。
「行こう、小田切先生♪」
「と、時田さん。廊下は走っちゃ駄目だよっ」
小田切先生は慌てて追いかければ、残された自分達は下駄箱を目指すしかない。
「時田君、小田切先生が好きなんだねっ」
「はい、自分もそう思います。小田切先生は他の先生と違う気がします」
人の好意をまざまざと見せつけられ、遠野先輩は他人事なのに照れる。
時田の好意について、
(……小田切先生の敵には、なりたくないなあ……)
身近な人間の恋愛感情を応援はしないが、せめて、幸あれと祈ろう。
「ねえ、キミ達。誰か、私を呼んでなかった?」
「いいえ、朱鷺田先生。さようならっ」
「ああ……成程ね」
ひょっこりと現れたのは社会科担当・
「はい、さようならっ。遠野君、小田切先生を手伝ってくれたんでしょ? ありがとう♪ 正直、お返しは期待してなかったけどね。嬉しいわっ」
「……ああ、アハハ。どういたしまして?」
クスクスッと笑いながら、朱鷺田先生は上機嫌に戸締り確認の巡回へ向かう。どうやら、彼女も小田切先生へバレンタインを渡した様子だ。あれだけ楽しみにしてくれれば、
「遠野く~ん♪ 明日は朝から、生徒会室に行けばいいの~?」
「宗像先輩もお帰りですかっ」
「ああ、……宗像君。明日は授業の後に来てくれるかい? 部活が忙しいなら、そっちを優先していいからね」
2年生・
チョコを受け取った相手のはずだが、ツッコまない。
「ん? アナタ……いつも、遠野君にくっついてる……。
「……はい、金田です」
宗像先輩の中で自分の位置付けは誰かさんより、下らしい。納得したところで、彼女はチア部の後輩達に連れて行かれる。去り際、遠野先輩へ投げキッスした。
「面白い人だね……
「宗像先輩、チア部のリーダーです。あの方も明日が待ち切れないみたいです」
惜しい、一字違いだ。
「待ち切れないからの話でなんだけど、静岡のマジックショー。本当に僕なんかが、着いて行ってもいいの? チケットが余ってるなら、他にも誘いたい人とかいれば……」
「遠野先輩が断れば、他を誘いますよ。余ったチケットを最初に渡すなら、貴方ですっ」
『幻想魔術団』のホワイトデー公演、14日から16日までの3日間・静岡にて開催される。全席完売御礼の会場が姉・さとみの晴れ舞台となる。まだメインの出番はなく司会進行役だが、一流魔術団員として初お披露目だ。
金田家は祖父母と
昨日まで連絡を待ったが、金田祖母は苦渋の決断にて諦める。3人で話し合い、先ずは遠野先輩を誘う流れになった。
「そ、そうかい? そこまで言われちゃあ、一緒に行くしかないな。白峰君も知っている『幻想魔術団』を生で観られるなんて、……今から緊張しちゃうなあ。あ、新幹線代はちゃんと用意したから、受け取ってくれよ。本当はチケット代も払いたいのに、お祖母さんに断られるし……」
「お祖母ちゃんにとって、遅めのバレンタインデープレゼントのつもりですよ。ホワイトデーのお返しは遠野先輩が泊まりに来てくれる事ですかねっ」
「フフフ……それって結局、僕が甘やかされてるだけじゃん。小田切先生を見習って、晩御飯でも作りに行こうかなっ」
「良いですねっ。遠野先輩はクッキーの型取り、とても手際が良かったです。料理の腕も期待出来ますっ」
親しげな会話を繰り返すが、
(けど、遠野先輩は敵にはならないな……)
その確信だけを胸に抱え、関わって行くならば、悪くない気分だ。
翌日の放課後は本当に久々、演劇部の部室へ足を運ぶ。同じ学年の
「今、言うのもなんだけどよ。桐生さんには何か用意したか?」
「? 桐生 春美さんですか? 何も用意していません」
一緒に来た
「あら、珍しい。金田君っ」
「緒方先生、こんにち……え~と、神矢。そいつは新しい部員?」
「金田だよ、幽霊部員のっ」
「金田です。仙道君、初めましてと言いましょう」
演劇部・顧問の
「金田っ、生徒会にいる方の幽霊部員か。どんなおっかない奴かと思ってたら、可愛い顔してんじゃん」
にっこりと穏やかに笑い、仙道から相貌について触れられる。普段からよく言われる単語だが、不思議と心が和んだ。
「……褒められた気分になりました」
「あ~、仙道君は褒めたんだと思うぜ。嫌味とか言わねえし、本当っ」
苦笑しながら、神矢が仙道の人柄の良さを教えてくれた。
「うい~っす、金田も来たかっ♪ おっ、お前も月島君へお返しを持って来たんだな。偉い偉い♪」
「月島さんいる~? いねえか、他の女子が来る前に渡したかったのになあ」
演劇部部長・
「「「「「緒方先生、いつもお世話になってます。そのお返しです」」」」」
「まあ……わざわざ? ありがとうっ」
そして、全員が示し合わせたように緒方先生へのお菓子も準備済み。決して、事前の相談も打ち合わせもない。彼女は生徒の厚意に感謝し、受け取ってくれた。
「あ!! 金田君、来てる!? どうしたの、珍しいっ。あれ? もしかして……金田君も月島さんからチョコ貰ったの?」
「はい。お察しの通り、コレはそのお返しです」
女子生徒で一番乗りに現れ、七瀬は意外そうにジロジロと眺めて来た。
「はじめちゃんにはなかった……、同じ幽霊部員なのにっ」
「……知りませんよ」
「知らない奴がいると思ったら、お前が金田か。生徒会にいる方の幽霊部員、あ……俺、掛け持ちにはちゃんと理由があるぞ!」
生徒会にいる幽霊部員の存在に気付き、唐突に有森は言い訳し出す。文化部の掛け持ちは校則違反、彼は美術部にも所属だと思い返した。
「ご安心ください。有森君の掛け持ちは生徒会でも、許可されています」
「ホッ、な~んだっ。やっぱり、七瀬さんが口利きしてくれたの?」
「ううん、遠野先輩が有森君はOKだって……。なんでだっけ、金田君?」
「「「生徒会長のくせに、事情を知らんの?」」」」
現役生徒会長から説明を求められ、
「所属理由を明確にし、両顧問の先生方から生徒会へ届出がある為です。届け出は十分に検討され、許可されます。今回は美術部で小道具作りの指導を受け、演劇部へ更なる貢献をしたいとの申し出でした。有森君のように正規の手続きを踏んでくれる生徒は本当、少ないのですよ。去年だけで、風紀委員と一緒に違反の生徒を何人取り締まったのでしょうねっ」
「ほらな、金田は美雪ちゃんの代わりに生徒会の仕事してんだよっ」
「「「ありがとう、金田っ。これからも生徒会活動、頑張れよ」」」
布施先輩が念押しすれば、男子生徒からの嬉しくない感謝と応援をされた。
「これは月島さんも義理とは言え、チョコ渡すわなっ」
「緒方先生が退部させない理由、よく分かりましたっ♪」
「……有森君、月島さんはそういう事じゃないと思うわ。それに日高さんもね」
「うお、日高……!? いつの間に……」
有森が納得した瞬間、同学年の
「噂の金田君~♪ おっとこ前じゃんっ、彼女いるの?」
「いるなら、月島さんからのチョコなんて受け取らないだろう」
「彼女のいない俺らへの嫌味かよ」
「まあまあ、彼女いないのは本当だしっ」
「俺はあくまで、作らないだけだからなっ」
興味津々な日高が問えば、有森、神矢、仙道に続き、強気な態度で布施先輩が締めくくった。
先日、卒業した3年生がいない。それでだけで、部の雰囲気は和気藹々としている。以前の目標を掲げ、年単位で取り組む姿勢も悪くなかったが、
「……ん? 美雪ちゃん、幽霊部員って~他にもいなかった~?」
「はじめちゃんの事よ、織江ちゃん。あたしの幼馴染の方っ」
「はじめ……ああ、あのグ~タラでアホなダメ男。美雪ちゃんとは正反対で有名な……え? そんな奴がウチの幽霊部員なんですか!? 緒方先生、俺は初耳ですよっ」
首を傾げ、日高は七瀬へ問う。彼女が答えた瞬間、布施先輩は具体的な悪評を述べ、ハッと気付く。一大事と言わんばかりに緒方先生へ抗議した。
「布施君は金田君しか、気にしてなかったでしょう。そっちの彼はなかなか面白い子よ、関係を持って損はないわ」
「え~……、マジっスか……。生徒会ではどうなワケ? そいつの扱い」
「……生徒会の対処を飛び越えて、生活指導の先生が直々に取り締まっている生徒です。自分達に負えません。演劇部所属に関しては執行部顧問の先生から発案されました。緒方先生の監視下に置く事で、生活態度の改善を目的としています」
「そうだったの!?」
「美雪ちゃんがなんで知らんの?」
蠱惑的に微笑み、緒方先生は布施先輩を宥める。
「美雪さん、しっかりしてるけど……金田がいてこそなんだなっ」
「神矢君、七瀬さん……しっかりはしていますよ。責任感もあり、義理堅く、情け深く、頼りがいもあり……もう良いですか? 疲れました」
「褒めるなら、最後まで褒めてよ!」
「金田は七瀬さんの良い所をたくさん、知っているんだあ」
神矢に感心され、
「月島さん、まだですかね?」
「月島さんはまだまだ来れないよ~。だって~チョコも貰ってない男子に~、告られまくってんだもん」
「「なにぃ!?」」
日高の勿体ぶった答えを聞き、有森と神矢がギョッと目を丸くしまで驚く。2人の月島への好意が丸分かりだ。
用事のある人に会えない。まるで、同じ幽霊部員を追跡した経緯と似通う。あの苦労した日々を思い返し、気分が沈んだ。
バイトまでの時間的な余裕はあるが、
「……神矢君、これ……月島さんに渡しておいて下さい……」
「……しゃ~ねえなあ。気を付けて、帰れ」
「え? ダメよ!? はじめちゃん、呼んでくるから待ってて……金田君!! 廊下を走らないで! 生徒会でしょう!!」
疲労感丸出しの態度で頼めば、神矢は情けをかけてくれる。とても親切な彼に深く感謝しつつ、七瀬の制止を振り切って逃げた。
「あ~あ、桐生さんが来る前に帰っちゃった。バレたら、ヤバいかな?」
「ヤベえだろ。月島君にお返し持って来たなんて聞いたら、尚更っ」
「早く月島さん、来ないかなあ」
「今……金田君、来てなかった?」
仙道の心配を布施先輩が答え、神矢が溜息を吐く。狙ったように
「見ていた通りよ、桐生さん。残念ねえ……台本の読み合わせだけでも、付き合って貰いたかったわ……フフフ」
「緒方先生。そう思うなら、金田君をキチンと引き止めて下さい。彼が部に来てくれないのは、先生の説得が足りないんじゃないんですか?」
殊更、可笑しそうに緒方先生が呟けば、桐生は顧問相手でも容赦なく言い放つ。
「え~何々? 春美ちゃん、金田君に気があっちゃたり?」
「気はあるわ、勿論。役者として、同じ舞台に立ちたいって気がねっ」
「桐生さん……、どうして……そこまで金田君に……」
からかい半分の日高が笑顔で問えば、桐生は真剣に返す。その気迫に七瀬は物怖じした。
「見ていれば、わかる。それ以上は教えないわ。そうでしょう? 緒方先生っ」
「確かに口先で教えても、理解できないでしょうね。既にわかっている人はいるわ。桐生さん以外にもね」
桐生と緒方先生のやり取りは後日、神矢から聞いた。
『大草原の小さな家』はホワイトデーで大繁盛。
常連は勿論、新規のお客様もホワイトデープレゼントを持ち込んでのご来店。バレンタインチョコも渡していないにも関わらず、ご厚意に感謝すべきだろう。
「キミ、最近は忙しいだろ? だって、こんなに大きな涙の塊が零れてきたよっ。さあ、キミのポケットへ入れてしまおう」
「――わあ、何もないところからクッキーが……素敵ッ。片倉さん、魔法使いみたいです――」
常連客・
ただ、夕食時のピークはご勘弁。1人に構うと他が疎かになる。
「本当っ、プロみたい。片倉さんなら、あの『幻想魔術団』にも入れちゃうんじゃない?」
「まさか……マジシャン界でも、あそこに入るのは何も知らない純粋な羊だけさ……」
褒め称える店長に対し、片倉は哀愁を込める。彼の告げた「羊」が良い意味であるはずがない。
「――確か、『幻想魔術団』は今日から静岡で公演ってお話を聞きました。とても可愛いらしい新人マジシャンのお披露目とか、どんな方なんでしょうね? ――」
「……よく知ってるね。新人がいるとか、それが可愛い子だって……。もしかして、キミ……その新人の関係者?」
失言があったらしく、片倉は目を座らせる。冷徹な態度で言い当てられ、ゾッとする。追及されないようにサッと他の応対へ逃げた。
閉店作業終了、無事退勤。
お客様からの贈り物は全て、店長へ献上。これが自分なりのホワイトデープレゼントである。彼女はご満悦だ。
(佐木君、来なかったなあ)
バレンタインデーに出勤しなかった為、今日もいないと判断されたのだろう。彼らがいれば、この疲労感も少しは和らぐ。佐木兄弟には前以て出勤を伝えるか、連絡先の交換を本気で検討しよう。
「こんな時間まで、お疲れ様っ」
「!?」
しかも、駐輪させていた原付バイクに跨れてしまい、逃走不可能。恐怖で胃が竦み、店内へ下がろうとした。
「逃げなくていいよ、キミが男の子だと知ってるぜ」
「え? どうし……っ。……いえ……知っていながら、他のお客様に黙っていてくれたのですね。今後の参考にしたいので、見破られた理由を教えて頂けますか?」
バイト中は全力で女子として振る舞っており、違和感はないと自負していた。
「アハハッ。見破ったんじゃなく、知ってたんだよ。残間君っ」
「!? ……人違いですよ、自分の名前ではありません。バイクを返して下さいっ」
身元まで知られ、
笑みを消し、片倉は疑う目のままだ。嘘を見抜かんとする目付きは刑事に近い、犯罪の容疑者にされた気分で不愉快だ。
「そう警戒しなさんな。俺はこういうもんだっ」
「……流森奇術会……っ、本当にプロのマジシャン……」
原付バイクに跨ったまま、片倉は名刺を差し出した為に渋々と受け取る。流森会長と残間は昔馴染みで、小学校時代は家族ぐるみの交流もある。成程、さとみの入団情報も筒抜けだ。納得よりも、世間の狭さに焦った。
しかし、別の疑問も浮かぶ。流森会長は残間家の事情について、何も知らない。知っていても口が堅く、人様の家庭事情を話もしない。片倉への情報源にしては足りない。
「――僕、残間ではありません。プロの方とお話出来て嬉しかったです。僕のバイク、返して下さい――」
「ふ~ん、そういう事にしておいてやる。これ以上、突っついてバイトを辞められたら、会えなくなっちまう。会うって話で教えとくけど、会長が明日の公演を観に行くって言ってたからな。残間君も家族で明日、行くんだろ? 会えるかもなっ」
名刺を渡して所属を明らかにした為か、片倉はいつもの気取った態度がなくなる。代わりに物凄く馴れ馴れしくなった。
しかし、流森会長が明日の公演を観に行くとは知らない情報だ。
金田家と残間家はさとみにせがまれ、同じ日にチケットを取った。もっと言えば、土曜日も学校がある弟に都合を合わさせた。
「――大事な事なので2回言いますが、僕は残間ではありません。ですが、片倉さんが明日の公演を観に行くか、お聞きしてもいいですか? ――」
「行かねえ。チケット代高いわ、マジ。だから、ここで言っておく。……キミのお姉ちゃん、気を付けてやれよ。近宮 玲子のような最期を迎えたくないならなっ」
久々に聞いた名前、感情そのものが凍り付く。それに反し首筋だけは熱くなった。
さとみの『幻想魔術団』への入団が決まった日から、避けられない警告を今、初めて聞かされた。
『幻想魔術団』の前身である『近宮マジック団』の団長だった天才マジシャン、
籠った熱が汗となり、背中が濡れる。冷えた空気が汗ひとつひとつの感触を教えてくれた為、段々と感覚を取り戻した。
「……ご心配には及びません」
絞り出した声は普段と違い、震えている。だが、何の感情による震えか判断出来ずにいた。
「……ポーカーフェイスを気取っても、わかりやすいよ。またね、残間君っ」
人の気も知らず、片倉は語るだけ語って去ろうとした。
「片倉さん! ……さと……貴方の言うお姉ちゃんの父親にも、同じ警告をされたのですか?」
「……教えないっ」
腹立だしい事、この上ない。
すぐに原付バイクで建物を辿って追いかけたが、道路でタクシーに乗り込まれてしまう。ただ、見送るしかなかった。
(家と反対方向だし……、寝る時間迫ってるし……今日は諦めるか……どうせ……店に来るしなあ。キミのお姉ちゃんって言ってるんだから……情報源、さとみさんじゃんよ! ……ムカつくわあ、な~にがポーカーフェイスを気取っていても、わかりやす……ん? 最近、誰かに言われたような……。……あっ)
以前、遠野先輩に言われたのだ。
雪峯「閲覧ありがとう、雪峯です。え~っと、早乙女さんは部活でも最後の方に来るだろうから、すれ違いか……。私もよく彼とすれ違うのよねえ。あっ、私の出番は次回だから! さて、次回『午前4時40分の銃声は鳴らない・後編』!! あれ、タイトルちょっと変わった?」
時田 若葉、今年度赴任・小田切 進
異人館村殺人事件、ゲストキャラ
社会担当・朱鷺田 忍
人形島殺人事件、ゲストキャラ
チア部・宗像 さつき
魔神遺跡殺人事件、ゲストキャラ
演劇部部長・布施 光彦、月島 冬子、仙道 豊、有森 裕二、日高 織江
オペラ座館殺人事件、ゲストキャラ
片倉 猟介
高遠 遙一の事件簿、ゲストキャラ。作中にて流森奇術会のマジシャン。
近宮 玲子
魔術列車殺人事件、回想キャラ
流森奇術会会長
魔術列車殺人事件、名前のみ登場