金田少年の生徒会日誌 作:珍明
この展開の為に『転落』『落下の衝撃』などネットで調べすぎて、検索履歴がヤバい単語で溢れていました(笑)
知らん人が見たら、犯行企んでる奴やん。いつか、リアルで通報されるかもしれない
アドバイス頂き、修正しました。ありがとうございます
素晴らしい劇の後に飲めば、脳髄が安らぐ。
「黒沢オーナー、この島に塔があるんですか?」
「ありますよ、七瀬さん。そうか……前回のお部屋では皆さん、塔に気付きませんね。今回も、海を見渡せる部屋ばかり……」
「私の部屋なら、見えますよ。2階ですので」
従業員の動きから察するに、条件の合う部屋にいるのは結城だけだ。
「ねえねえ、美雪ちゃん。塔と結城先生の部屋に別れて、お互いに手を振ろうよ」
「それは良いけど……織江ちゃん、まだ先生のお部屋に招かれてないでしょう? 結城先生、良いですか?」
「気が早いっつ~の、美雪の部屋じゃねえだろうが」
「金田一さん、私は構いませんよ」
「やった~結城先生、ありがとう。あたし、塔の方へ行くね」
「だったら、俺もそっちに行くか」
「オッサンが日高と行くなら、俺は美雪と結城先生の部屋だな」
「良いわね、そうしましょう。ありがとうございます、結城先生」
「いえいえ」
穏やかに過ごせしながら、居合わせた人々とのちょっとした交流。彼らとの関わりは退屈しなくて、もっと眺めていたくなる。
「最上階まで行かれるのでしたら、足元にお気を付けて。滝沢君と緑川君が荷物を置いていますからね」
「荷物? それはまた何で?」
「花火ですよ。市販の小さい物ですが、公演の後にでも打ち上げようとね。あの2人にしては、粋な計らいです」
「ほお、風情がありますな」
嬉しそうな黒沢オーナーと
結城は無粋な質問をせぬ様、心掛けた。
見られて困る物なし。結城は高校生2人を部屋へ招待し、窓を開け放つ。
潮風が舞い込み、噂の塔を指差す。鬱蒼とした木々に丸い煉瓦の屋根と白い壁がにょっきと、はえている。まるで、天に住む誰かがそこへ置いたような可愛らしさがあった。
「中世のお城みたい、ロマンティックねえ♪」
「そうか? 窓の配置からして、灯台か何かの代わりだろ。オッサン達はあそこで……この距離だと精々、5分くらいか……」
感激する七瀬と違い、金田一は呟いてから急に黙り込む。彼の深刻そうな沈黙は風景への感動ではなく、情報整理の為と、結城はもう知っている。
「どうかしましたか? 金田一さん」
「……いえ、今日も結城先生に言われなかったら、塔があるなんて気付かなかったなあって……」
金田一はハハッと年相応の笑みを見せ、七瀬の隣に立つ。万一、窓から落ちないように彼女の前に腕を伸ばす。どうやら、色々と心配の様子だ。相談してもらえないのは、推測の域を出ない為だろう。
人を信用していないからではない。取り越し苦労ならば、下手に不安を煽るだけだ。
金田一は場の空気を読み過ぎて、本音を隠す癖がある。他人と意見の行き違いや、すれ違いを引き起こさないか、ちょっと心配だ。
「あ! 織江ちゃんだ。はじめちゃん、こっちへ手を振っているよ」
「げっ……緑川だ。日高が塔に登るって、嗅ぎ付けたな」
4階の窓から顔を出し、日高は思いっきり手を振る。ちょうど、
「良いじゃない、はじめちゃん。緑川さんは織江ちゃんに親切なだけよ」
「美雪……お前なあ、男が下心なしに……あ! カモメが!!」
金田一の緊迫した声に結城も窓へ近付き、塔の様子を見やる。日高の腕へカモメが文字通りに飛び付き、剣持警部が咄嗟に追い払う。
攻撃されたとカモメは翼をはためかせ、屋根の先端へ逃げ込んだ。
日高は己の髪を押さえ、空に向かい叫ぶ姿が見える。どうやら、彼女の髪を結んでいたリボンが取れたらしい。
「あ~? 緑川の奴が……オッサンを踏み台して……窓から屋根に? 何してんだ?」
「すご~い、ひょいひょい登って……カモメを追いかけてるのかしら。あ……飛んでちゃった……」
この距離で把握できる様子から、日高の髪を纏めていたリボンをカモメに盗られ、緑川が屋根を登ってまで追いかけた。彼の腰にある長い物、落下防止のロープを巻き付けている。その先は剣持警部が握っており、花火の打ち上げに使う安全対策と分かった。
しかし、結城の気のせいだろうか、ローブが切れたように垂れ下がり、剣持警部が慌てている様に見える。緑川も事の重大さに気付き、塔の先端にしがみつく。
危機的状況を目にし、神経に緊張が走る。
「おい、……なんかヤバイぞ。美雪、黒沢オーナーに梯子を用意させてくれ! 俺は先に行ってる! 結城先生、お願いします!」
「分かったわ!!」
「はい」
流石、金田一は判断が早い。七瀬も返事に迷いがなく、結城も従った。万一の場合に備え、診察器具入りの鞄を持ち出した。
結果は言うまでもなく、必要になった。
「緑川ぁ!!」
それは
結城と金田一より先に到着し、彼は4階へ駆け上がった。その際、日高がもたれかかっていた窓枠が外れ、宙に投げ出されかけた。
地上から見上げた2人があっと叫ぶ間もなく、汗だくの滝沢は間一髪で間に合う。彼女の細腕を掴んで中へ放り込んだ反動により、今度は彼の巨体がそのまま地面へ叩きつけられた。
衝撃で皮膚が割け、額を血で汚す。見開いた瞳孔は開き、生命活動の停止を教える。死因は首の骨が折れ、神経は損傷頭――所謂、頸椎骨折による死亡。
以上が結城の目の前で行われた。
「滝沢さん……」
金田一は滝沢の死体を見下ろし、悔しそうに唇を噛む。彼の嫌な予感が当たったらしい。
「ああ……そんな……滝沢さん……」
「……っ」
青褪めた日高は足が力を無くし、座り込む。緑川は劇団仲間の死を前に愕然としたが、不思議と狼狽えていない。
「俺がいながら……」
剣持警部は違う窓から、緑川を助けようと日高の傍を離れていた。その間に起こった出来事、彼は強い責任を感じ、深く眉を寄せた。
現場保存の為、滝沢の遺体をブルーシートに掛けた。
管轄の警察等に連絡しようとすれば、何と電話線が切られている恐れがあると言う。
「船も出せなくて、電話が繋がらない?」
「はい、クルーザーの無線もバッテリーがショートしていました。江口君とも電気系統を確認しましたが……私達の手には負えません」
剣持警部と黒沢オーナーの会話を聞き、結城は既視感を覚える。自然劣化による故障ではなく、意図的な断絶に違いない。
そう、青森県タロット山荘。結城はそこで似た経験した。あの時、人気アイドル歌手と一刻でも一緒に居たい熱烈なファンクラブ会員の仕業だった。
「結城先生、……すみませんが」
「ええ、分かっています。道具は常に持ち歩いていますので」
こうなれば、剣持警部は結城へ検死を依頼する他ない。流石に解剖は出来ないが、十分だろう。
記念撮影目当てに持って来たカメラで撮影しながら、剣持警部は警察手帳に結城の報告を書き込む。流石は現役、テキパキとした動きだ。
検死の終えた遺体は最初の見立てに変わりなく、ブルーシートに包む。従業員の方の手も借り、塔の1階へ運ぶ。どんなに物でも齧るネズミ対策だ。
「オーナーの話では、定期船が明後日の昼にならんと来ん。幸い、水と食料はあるそうだ」
「まさにクローズド・サークルですね」
やれやれと剣持警部は目下の脱出方法を語り、結城は素直な感想を抱く。従業員の方が真っ青な顔色になり、俯き加減。彼は前回の事件にも居合わせ、遺体を見た。それを思い出したのかもしれない。
「雲が出ましたな」
赤く染まった空は美しいが文字通り、暗雲立ち込める。食堂へ集められ、待たされた方々の心を映したようであった。
ログハウスのアトリエに住む画伯・
金田一はもう探偵の顔になり、結城へ質問せんと手を挙げる。
「滝沢はどう、だったんです?」
より先に劇団の若手スターたる
「お友達は即死でした。苦しまなかったでしょう」
執拗な視線を受け、結城は直接な死因を伝えた。素人にも分かるように細かく、補足を忘れない。能条氏の妻・
結城の報告をしっかりと聞き終え、剣持警部は一歩前に出る。
「これは事故だ」
「
「知りません……おれ、気付いたら、……滝沢さんが通り過ぎて……」
剣持警部による判断を伝えた途端、能条は虚ろな視線になる。独り言かと思えば、緑川を怒鳴りつけた。豹変にビビり、彼は当然の弁明を口走る。
ふと疑問。
自分達は緑川が屋根から落ちると予想し、塔へ急いだ。彼の言い分では、滝沢は最初から日高のいる窓枠へ駆けつけたように聞こえる。
「お嬢さん、本当はアナタが突き飛ばしたんじゃない? 滝沢に狙われてたしみたいだしねえ?」
「……っ」
「酷い、織江ちゃんはそんな事しません!」
能条夫人の嘲笑う表情に、怯えた日高はビクッと肩を痙攣させた。七瀬が代わりに気を強く、反論した。
「ちょっと待て……聖子、ナイスだ。助けが呼べない状況で、人死に。どう考えたって、事故じゃない。そうだろ、
「……私?」
「能条さん、何を言うの?」
前髪を掻き上げ、能条氏はニヤリッと歪んだ笑顔。推理小説の解答編を読む前に、犯人を見抜いた読者のような顔になった。
それも飛び切りの悪意を込めた。
黒沢オーナーはとても冷静に能条氏と向き合ったが、ずっと我関せずの加奈井が冗談っぽく笑う。
「塔に詳しいのは、この島の主であるアンタだけだ。窓枠の劣化だって把握済みだろうぜ。どのタイミングで壊れるか、予想は付く。そこに滝沢か、或いは緑川のどちらかが、もたれちまえばいい」
「能条さん、忘れたの? 花火を言い出したのは滝沢さんよ。それに黒沢先生は塔から花火を打ち上げるなんて、危ないって最初は渋ったじゃない」
「でも、理央さん。黒沢先生、OK出したわよね?」
能条氏の屁理屈を聞いていられないらしく、加奈井は手で振り払う仕草。能条夫人はクスリッと微笑み、夫の肩へしな垂れる。状況が状況ならば、絵になる2人だ。
「アンタ達は……」
「やめてください! あたしが、悪いです! 滝沢さんはあたしを助けようとしただけなんです! 緑川さんはあたしのリボンを取ろうして、屋根に登って……剣持さんはそれを助けようとして……だから、全部……あたしが!」
「違うよ、織江ちゃん。違うから」
険悪な雰囲気が高まる中、日高は顔を伏せて泣き出してしまう。彼女にしてみれば、トラウマを掘り起こす事態だ。七瀬は抱き締め、彼女を宥めてくれる。
「能条さん、アンタの推理には無理がある。島には間久部先生も住んでるし、結城先生も興味本位で塔へ行っていた。特定の誰かなんて、狙えやしない。第一、緑川さんは窓枠を伝って屋根へ登ったんだ。そこでは何も起きなかったぜ」
「ハッ! 名探偵クンよ、黒沢先生は演出家だぞ? 触った瞬間に……な~んて下手な小細工、するワケねえだろ」
「能条さん! やめてったら!」
元同級生に泣かれ、金田一も剣呑に言ってのける。能条氏も奥方の腰に手を回し、黒沢オーナーを指差した。加奈井が声を張り上げる姿に、結城は喉が渇いた。
ちょうど、江口が皆へ配ろうとした紅茶を発見。彼へ目礼し、遠慮なく飲んだ。
何故だが、信じられないモノを見る視線がこちらへ集中した。
想像力豊かな何人かが、飲み物へ毒が仕込まれた可能性を疑っていたと後で聞いた。
「あの……そういう話を続けるなら、他でやってください。明後日の昼まで、オレ達は島を出られないんです。ギスギスしたまま、一緒に過ごしたくありません」
「……それはこっちの台詞だ。行くぞ、聖子」
「ふんっ」
絵馬は必死に声を出し、大人達を見やる。痙攣した瞬きから、精一杯の勇気を感じ取った。流石に気まずいのか、能条夫妻は我先に食堂を出ようとした。
「待って」
日高の重い声が引き留めた。結城も含めた全員が驚き、振り返る。
「どうして、逃げるの? 2人で滝沢さんを殺したから?」
「な……っ」
「何を言い出すのよ、この子!!」
「織江ちゃん?」
目に涙の跡がない日高はギロリッと能条夫妻をねめつけ、台本を読むような口調におどろおどろしい感情を込めた。疑惑の目を向けられ、能条夫人はカッと言い返す。
七瀬は当然、絶句した。
「今、能条さん言ったでしょ? 触った瞬間に壊れる細工はしないって。アナタも出来るから、そんな発想が思い付くのよね。あたし、知ってるのよ。滝沢さん、アナタ達から邪険にされてたって。4年前の……」
「日高!」
口が裂けたような笑みを見せ、日高は何かを語ろうとした。それを金田一は遮ったように思える。
きっと重要な意味を持つのだろう。「4年前」の単語に能条夫妻、黒沢オーナー、加奈井、江口と順番に顔色を変える。緑川は強張った表情で、そっと顔を背けた。
「織江ちゃん、それって……」
「ごめんね、緑川さん。あたし、滝沢さんともペンフレンドだったの。アナタと違って、彼は色々と教えてくれたよ。本当、いろ~んなコトを、ね?」
「そ……そんな、織江ちゃん。おれ、本気で……」
七瀬には答えず、日高はクスクスと笑う。彼女はどうやら、劇団の2人と手紙のやり取りをして交流を深めていた様子。緑川がようやく、青褪めた気がする。
「日高君、不安を煽るような言動は慎まんといかん」
「は~い、剣持さん」
剣持警部に咎められ、間延びした日高は左足の不自由さをカバーしながら、のそっと立ち上がる。また能条夫妻を一瞥。そして、緑川へ無邪気な笑みを見せた。
「実際に会ってみて、緑川さんの方が好き。生き残ったのが、アナタで良かった♪」
「……っ」
小悪魔のように告げ、日高はルンルン気分に弾んで食堂を出て行く。ほとんど片足ケンケンだが、見事な歩き方だった。
ひと波乱を残して行かなければ、結城はもっと彼女を褒め称えただろう。
「緑川……」
「ち、違います。おれは何も……」
瞬きしない能条夫人と緑川はどう考えても、一触即発。否、彼女の方が圧倒的に迫力勝ち。
「いいか、静岡県警が来るまでは変な気を起こすな!」
剣持警部の命令に誰も返事しない。各々の胸中に抱えた不満が表情に表れ、結城は「次」を予感した。
それは金田一も同じ。
雷雨が来そうな雰囲気の中、七瀬と共に塔へ向かう。己の目で現場検証するつもりだ。黒沢オーナーも彼らを止めず、雨合羽を貸し出した。
「間久部君、今日はこのまま……絵馬さんとホテルにいた方がいい」
「そうしようか。正直、ここにいるのは不安だが、アトリエに純矢君を寝かせるスペースはない。彼の隣にいさせてくれ」
黒沢オーナーと間久部画伯の会話を聞きながら、結城は2階への階段を上がろうとする。視界の隅に緑川の姿を捉え、直感が働く。
こっそりと後を尾行すれば、劇場の裏口に辿り着く。能条夫人との密会だ。
「アンタ、真に受けてるんじゃないでしょうね?」
「い、いえ……アナタは殺しだけはしない人だと知ってます」
色っぽい話とは程遠く、物々しい。念の為に自分自身の気配を消す。耳を澄ませ、更に聴覚を働かせた。
「あの子、どうにかして」
「どうにかって……言われても、どうすれば……」
「……鈍いわね、死んだアイツは察しが良くて便利だったわ」
「……そうじゃなく、織江ちゃんには刑事がベッタリで……」
口調や言い回しから、滝沢の死は2人にとっても予想外。しかし、何故だろうか、偶然の事故では片付けられない。結城も疑心暗鬼に駆られているが、恐れる必要はない。
何故なら、名探偵の孫がいる。
「……チッ、刑事はこっちで引き離すわ。その間に、ね?」
企みの内容は推測に過ぎないが、割り込んで防ぐのは却って危険。理由を付けて日高の傍に控え、万一の場合は医師として対処しよう。
さて、剣持警部にも伝えとう。そう思ったが、能条夫人はさっさと劇場の向こう側へ行ってしまう。こちらに来ず、鉢合わせは防げたが、急がねばならない。緑川に見つからぬ様、足音を殺すのを忘れなかった。
日高は中庭にて、剣持警部とベンチに腰掛ける。グラスを手にした彼女は食堂とは打って変わり、幼子のように右足をバタつかせた。傍に置いた水差しを挟んで、2人もまた何かを話していたのだ。
「刑事さん」
「ん? キミは加奈井君だったか」
結城が声を掛けるより先、加奈井が恐る恐ると剣持警部へ話しかける。日高は彼女を見ず、こちらへ気付いて無気力に手を振った。
「あたし、お芝居で探偵役した事あって……捜査を手伝えたらと思ったんです」
「捜査……今のところ、あれは事故としか言いようがない」
「私もそう思いますわ、刑事さん」
意気込んだ加奈井は捜査協力を申し出たが、高飛車かつ媚びる声にピタッと動きを止める。能条夫人は白いブラウスに第1ボタンを外し、明らかに剣持警部を誘惑しに現れた。
そして、結城には気付かない。
「刑事さん、私……聞いて頂きたいお話がありまして。ここでは……その」
「ああ、分かりました。でしたら、食堂か……私の部屋に……日高君、動けるか?」
「あたし、もう少しここに居ます。加奈井さん、お2人に付き添ってくれませんか? いくら、剣持さんが刑事とは言え、人妻と密会は……ちょっと」
「織江ちゃん……分かった。聖子さんが能条さんに誤解されたら、困るしね(なんで、この子……人妻を強調するんだろ?)」
能条夫人の話を聞く為、剣持警部と加奈井は建物へ入る。
残された日高に手招きされ、結城は会釈して隣へ座った。丸太を組み上げたベンチの座り心地、好きだ。
「日高さん、体調はいかがでしょうか?」
「今、痛み止め飲んでる。病院で処方されたヤツ、ちょっとだけ眠いかなあって感じ~」
錠剤を見せ付け、日高は笑う。左足が痛みを訴えるのか、右足が負担になり痛むのか、問わずにおこう。
「結城先生、一緒に塔へ行ってくれますか?」
「塔に? ええ、構いませんよ。歩くのが辛ければ、おっしゃってください。私が背負います」
「……ウフフ、ありがとう。でも、平気。……滝沢さんへお水、持って行ってあげたいんだ……。死んでいても喉は乾くだろうし、ネズミも出るから」
「それは良い心掛けで(ネズミ?)」
水差しとグラスを持ち、日高はゆっくりと立ち上がる。薬の服用により眠気が襲う状態ならば、部屋に戻すのも危険と判断しよう。
念の為に雨合羽は借り、日高の歩幅に合わせる。自分達に
塔へ着いた時、金田一と七瀬が降りてきた。
「金田一君と美雪ちゃん、ここで仲良くしてたの?」
「ち、違う違う。窓枠を調べてただけ」
「なんで結城先生が? オッサンは?」
「能条 聖子さんから、ご相談があるそうです」
女子2人の会話に和みつつ、結城は正直に伝えた。能条夫人の名を聞き、金田一の深刻さは増す。一緒に話を聞きたそうな顔だ。
「日高、4年前に何があったか……滝沢さんから教えてもらったんだろ? 詳しく聞かせてくれ」
「ああ、あれ。ウソッ」
「ウソ!?」
堪えた金田一は日高へ丁寧に頼むが、平然とした態度。彼の気持ちを七瀬が大げさに代弁し、結城はコメントを控える。理由が合っても無くても、不思議ではない。
「滝沢さんが教えてくれたのは邪険にされてたって、言うか……正しく評価してくれないとか、そんなんだよ。それに4年前の事なんて、雑誌にも載ってるもん。誰でも知ってるんじゃないかな。能条さんの結婚とか、ホテルがオープンとか。……黒沢 美歌さんが亡くなったのは……多分、その頃だねえ。あの人達の反応を見る限り……」
「当てずっぽうかよ」
肖像画に描かれた
金田一の驚かぬ反応を見る限り、別の誰かから既に見聞きしているのだろう。
「なんで、滝沢達と連絡が取れたんだ?」
「『幻想』の人に手紙を出したくなって、最初は緑川さんに送ったの~。公演のパンフレットには名前があるのに……雑誌では紹介されない人でねえ。すぐ、お返事くれたよ。滝沢さんは本当、何でだろ? お母さんが毎回、手紙をチェックするんだけど、もう辟易してた~」
(そっか、能条さんみたいな人気者だと……ファンレターを読まない方針かもしれないし)
七瀬の失礼な解釈は心の中で行われたが、結城には聞こえた。
「でも……滝沢さん、あたしが緑川さんと文通してるの知ってて……優しかった。……足が悪くて、花火大会も行けなかったって書いたら……ここで、花火を見せてあげるって返事くれたの」
途端に気を静め、日高はブツブツと語り出す。彼女はそのまま塔の中へ足を踏み入れ、ブルーシートに包まれた滝沢へ合掌。食堂での態度を鑑みれば、彼の死に動揺して情緒不安定になっていると考えられる。
たっぷりと祈った後、日高はグラスへ水差しの水を注ぐ。痛みを止めの錠剤を3つも入れ、そっと供えた。
「それは?」
「痛み止め。薬の匂いで、ネズミ避けにもなるしね。本当は水に溶かして、この辺に巻いておきたいんだけど……剣持さんから遺体に影響を与えるかもしれないって。……あ、グラスを使うって……黒沢オーナーに言ってないや」
「じゃあ、今から言いに行こう。雨も降りそうだし……」
金田一の質問に小声で答え、日高はハッとする。彼女の肩へ優しく触れ、七瀬は自然とホテルへ誘った。
(ネズミってそういう……賢い子だな)
用事が済んだなら、現場にいつまでも居るべきではない。そろそろ、能条夫人の色仕掛けも諦めた頃合いと踏んだ。
来た道と違うルートを進みながら、結城は水差しをブルーシートの傍に置いたままと気付く。今取りに戻れば、尾行して来なくなった人影と鉢合うだろう。
せめて、明日の朝にしようと決めた。
――そして、尾行して来た人影に朝は来なかった。
滝沢「俺……死んだ? え、俺がこの話のメインだろ? こんな早期退場? う……うそだあ! 俺のいない次回は『オペラ座館・新たなる惨劇-江口』!! 織江ちゃん……俺の、クリスティーン」
結城 英作
善良なる医者、今回がサードコンタンクト。原作小説はテンション上っげ上げ、はじめちゃんに美雪とのベッドインを推し進めた。ノスタル爺かな?