金田少年の生徒会日誌 作:珍明
金田祖母は何か、隠している。
廊下の電話台に立つ時間が長くなり、インターホンの音にも過剰な反応。郵便ポストも事細かにチェックする様は、鬼気迫っている。山姥……般若が如く、恐ろしい。
「気にせんでええ、お前は部活頑張りぃや。そっちが終わったら、ちゃんと話すさかい」
「……分かりました」
金田祖父が普段通りの態度は却って、金田祖母の奇怪な行動を際立たせた。
演劇部の地区大会が終わるまで、家族会議もストップ状態。何だが、
しかし、抱えた想いに浸る暇はない。
喜ばしい報せ、来期の生徒会長・副会長選挙。会長に
「誰が当選するかは一目瞭然ですが、これでひとつ問題は解決しました」
「金田先輩、本当のコトでも言っちゃダメっスよ~♪ ね? 千家先輩~」
「……いやあ、結果は誰にも……分からないだろ? 朝基、成績良いしさ」
他の候補者が不在の為、
海峰は最早、当選したかのようにルンルン気分だが、苦笑した千家は慎ましい。立候補者の正反対な態度、生徒会室は和やかな雰囲気に包まれた。
「美雪ちゃん、立候補しなくて済むね」
「執行部顧問の先生には、続投を打診されたんだけどね」
「駄目です。七瀬さんはミス研か、演劇部の部長と言う大役が待っています。掛け持ちリーダーなど、許しませんよ」
「部長かあ……ウチもそろそろ、決めないとねえ。あ~、頼れる先輩方の卒業が迫ってるのキツイ……」
「スキー部はいいじゃないっスか、大所帯で。ウチの囲碁部は小角先輩が抜けたら、もう廃部に片足突っ込んでんス! 俺が生徒会長になって、部のアピールもしねえとなあ。七瀬先輩、いかがっスか?」
「……あたし、客寄せパンダじゃないのよ」
七瀬は後輩の企みを冗談に受け取ったが、誰も否定しなかった。
猛稽古の後、役者の部員同士は演技についての議論を交わす。昇降口へ来ても、場面、場面の解釈違いに熱が入った。
「大声出して、どうしたの?」
「白樹先生、すみません。部活の話をしていただけです」
パッと意見が通じ合った頃、新任生物担当・
「そうそう、地区大会も近いんで大目に見てやってください~♪」
「!?
白樹先生の後ろからハジメがぬっと現れる。美人の先生相手故、デレデレと鼻の下が伸びていた。驚いた
「あら、はじめちゃん。再テストは順調だったのかしら~?」
七瀬から発せられる異様な気配、ハジメには見えないらしい。
「白樹先生、明日は暇っスか? 不動中の運動会があるんスけど、一緒に行きません? 先生とは体育祭、過ごせなかったんで~気分だけでも~♪」
「あら、中学校の運動会……良いわね。でも、気持ちだけ頂くわ」
決めポーズのハジメはアッサリとフラれ、クスクス笑いが起こる。白樹先生は穏やかな笑みを絶やさず、戸締り確認の巡回へ戻った。
「不動中、佐木君の母校ですね。竜二君が活躍されるのですか……」
「確か、真壁の弟もいたはずだ。去年、学園祭に来てくれたぞ。素直で、礼儀正しい子だったなあ」
「それ、佐木2号も言ってた。誠実な奴だってさ。兄弟でも、性格って違うんだな~」
「
「似たような従妹なら、いるぜ。俺にちっとも、似てねえけど」
「どうして、そんな嘘つくの? フミちゃん、はじめちゃんにソックリじゃない。ねえ? 金田君」
「はい、七瀬さんのおっしゃる通り。ハジメちゃんが細胞分裂した姿です」
「「さいぼうぶんれつ……」」
七瀬に話を振られ、
「何だろうなあ、会ったコトねえのに。その従妹が
「オレも~」
「俺も……」
「何だよ、有森~。仙道に神矢まで……どっかで見てた?」
和気藹々の会話をしながら、
「金田君、ああいう話……本当に混ざらないわよね。さとみさんって、立派なお姉さんいるのに……。自分の話も、全然してくれないし」
「――自分の話はしない主義なの、面白くないもの――」
「出ましたっ、赤木博士の名言。お前が言うと重みあるぜ」
七瀬はわざわざ、不満を伝えに追いかけて来た。元気溌剌なハジメは彼女の後ろから、またもぬっと顔を出す。『エヴァ』ネタへすぐに食い付いてくれて、
「んじゃあ、さとみさんの話しようぜ。そうだな……先ずはスリーサイズ……イタッ。んだよ、美雪」
「別に」
さとみの姿を思い出し、ハジメはウットリ。怒った笑顔の七瀬に腕を思いっ切り、抓られていた。
夫婦漫才は見ていて、和む。口に出すと火に油を注ぐ為、黙っておく。
「さとみさんにも、また会いたいけどっ。金田君のお母さんには、いつ会わせてくれるの?」
「……七瀬さん。いつ、会わせる約束をしましたか?」
和み過ぎて、油断した。七瀬は金田の事情を見えている部分しか、知らない。
「あの男前を捕まえるなんて、金田のお母さんは……守りたくなるような儚げな人とか?」
ハジメは己の胸に手を置き、しおらしい態度。普段なら、彼は全く違う話に替えるはずだが、あまりにも自然過ぎて、
と言うよりも、ハジメの想像した母・にいみが滑稽すぎて、すぐに否定したかった。
「まさか、ゴリラが人の形を成した新種の母ですよ。オラウータン並みの強さです」
「「は?」」
今度は2人の声が揃った。
「金田……あんな美人の姉ちゃんをゴリラ呼びしてんの? って言うか、ゴリラのオカンがオラウータン?」
「ハジメちゃん。姉は美人ですが、貴方を簡単にねじ伏せられます。自分も勝てません」
「え? 金田君、さとみさんとそんな……取っ組み合いするの? ご両親、怒らない?」
疑問符だらけの有森は混乱し、
「はい、両親の夫婦喧嘩は……真剣勝負。いつも、母が父を打ち負かします」
幼い頃から、両親の夫婦喧嘩をコッソリと見学して育った姉と弟。その影響は姉弟喧嘩にしっかり、引き継がれた。
誰かさんと口論になり、にいみが橋から突き落とされた。
そんな話を聞かされても、元夫たる父・
「……ちょっと何言ってんのか、分かんない。金田のお母さんって、レスラーか何か?」
「いえ、マットペインター……映画の背景を描く仕事です」
「ええ!? 映画関係者なんて、大物じゃない!」
困惑したハジメが頭を抱え、教えてあげる。七瀬の甲高い声を聞き、
これでは、只の自慢話だ。
「金田君、伯父さんも画家だし……兄妹で血は争えないのね」
「……正直、母の性格を考えれば……合わないと思いましたよ。何せ、長時間……集中して細かい作業に取り組むのです。……ハジメちゃんで言うなら、只管……小難しい辞書を読んでいる。どうですか?」
「ないわ~って、なんで唐突に貶されるン?」
何気なく、七瀬は
「自分の面白くない話より、明日の運動会……お2人は行かれるのですか?」
「うん、そのつもり。はじめちゃんも行くでしょう? 白樹先生、誘ってたもんね」
「行かね」
ただ単に、美人の新任教師と喋る口実に使っただけ。
そうだと察し、
「いいわよ、全然。フミちゃん、誘うわっ」
「いやいや、フミも忙しいんだぜ。明日もクラスメイトと練習すんの」
ご機嫌斜めの七瀬はフンッと鼻を鳴らし、ハジメは弱気になる。彼女の関心が従妹へ向かない様、必死に取り繕っていた。
誰が誰に嫉妬しているか、意味不明過ぎる。もう、素直になればいい。
「従妹さんの小学校、運動会はいつ頃でしょうか?」
「12日、あたし達の出演日と被っちゃったの。はじめちゃんも~ご用事があるのよねえ?」
「美雪はな~にを怒ってんだ。いつきさんみてえによ……」
話題を変えようとしたが、七瀬はまたもハジメへ威圧感な態度を見せる。何故に突然、いがみ合うのだろうか、仲が良すぎる幼馴染も考え物だ。
嫌な名前が聞こえた気がする。無視しておこう。
「……? ハジメちゃん、地区大会……観に来ないのですか?」
3人の日程をカレンダーに当て嵌め、
「! あれ……俺っていうか、美雪……言ってなかったのかよ。ハハハ……」
「え? やだあ、はじめちゃん……それくらい自分の口で言ってよ~」
どうやら、お互いに伝えていたつもりらしい。涼しくなった夕方、2人は汗だく。そのままビッショビショになり、風邪を引いてくれるように願ってしまった。
(……かほる先生も来られねで、泣ぎそう)
周囲とのスケジュールが合わず、告知していなかった我が身を呪う。だが、目の前にいる同級生は知っていたはずが、別の予定を入れた。
沸々と怒りが湧くが、
「自分も、従妹さんを誘います。店長の新作メニュー、試食相手を探していたのです」
「ちょ……待てよ、金田! 試食に関しては、俺が適任だって!」
虚勢と知りつつ、
「フミは、やめとけ! 味を占めて、飯をたかりに来るぞ! 本当に!」
(はじめちゃんったら、フミちゃんに金田君が取られると思ってる……)
発進を恐れたハジメはわざわざ、体を使って行く手を遮る。七瀬の深いため息から、彼の必死な姿は友情の独占に思えた。
小学生と真剣に張り合うなど、流石はハジメ。ライバルが従妹であろうと、全力を尽くす。
思わず、称賛の拍手。
「金田……急に拍手して、どうした?」
「いえ……心配せずとも、従妹さんのご自宅を知りませんよ」
「ああ、フミは俺ン家に住んでる。今度来たら、香港返還のパレードを観に行った自慢話。ウンザリする程、聞かされるぜ」
「……楽しそうですね」
驚いたハジメから意外な情報を聞かされ、
「フフフ、フミちゃん……と言うより、はじめちゃんの叔父さんが色んな国へ行きたがる人なの」
「半分以上、辺境の土地だ。羨ましくもねえ」
「あら、叔父さん……ロンドンにも行った事あるんでしょ? ロイヤルウェディングと重なって、ラッキーだったとか言ってたじゃない」
「フミが産まれる前の話じゃねえか……ったくよお」
2人の会話を聞き、ハジメの叔父とやらに俄然、興味が湧いて来た。
「ハジメちゃんの叔父さんは、語学が堪能なのですか?」
「ぜ~んぜん! イギリス行った時も偶々、飛行機が一緒だった人に通訳を頼んだとか……」
「はじめちゃんの叔父さんが言うには、学者さんだったそうよ」
ハジメが眉を寄せて思い返すより先に、七瀬が目を輝かせて答える。彼女の方がキチンと話を覚えていた。
旅行中に学者と知り合うなど、スリルとサスペンスの予感が十分だ。
「……まさかとは思いますが、ハジメちゃんの叔父さんはそこで事件解決していませんか?」
「ないない、叔父さんは事件とは無縁な人だぜ。寧ろ、フミが……いや何でもない」
ちょっと心配になったが、杞憂に終わる。と言うよりも、ハジメの言いかけた内容が気になる。話さないのは事件に関わった証拠だ。
「ハジメちゃんが小学生の頃も事件解決に努めたように、従妹さんも……ですか? 七瀬さん」
「そうねえ、フミちゃんは……はじめちゃんと同じよ。どんな風にって言うのは、内緒♪」
「ど~ゆ~意味だよ、美雪。俺があんな奴と同じなワケねえだろ」
「内緒ですか……そう言われたら、想像力が膨らみます」
ハジメは不服そうに頬っぺたを膨らませ、件の従妹と同じ反応を見せる。
「フフフ、良いわよ。金田君が好きに想像してくれて♪」
「美雪……」
男子2人の周りをクルリッと回り、七瀬は出題者が如く意地悪っぽい口調となる。ハジメは彼女に魅入られ、惚けてしまう。
しかし、
「そうですね……偶然、犯行現場を目撃してしまい、人質として拉致監禁されたにも拘らず、犯人が無事に逮捕された際「自分でついて行ったのよ、人質なんかじゃなかったも~ん」と証言し、被害者である事実を伏せる。犯人はひとつの犯行のみ、罪を問われる形となった。結果的に逮捕は変わりませんが、余分に罪を背負わずに済みます。自分に思い付ける脚本は大体、こんな感じです。いかがでしょう?」
渾身の閃き、
「「……」」
何故だろうか、ハジメと七瀬は青褪める。お喋りな口も氷漬けされたかのように堅く、閉ざされた。
「……んなワケ、ねえだろ」
「声、小っちゃ……。それなら、良かったです。ハジメちゃんの従妹さんとは言え、そのような事件に関わるなど……些か、危険な想像をしてしまいました。お詫びします」
「謝らくて、イイのよ……金田君」
ハジメから聞き逃しそうな小声を返され、
そうこうしている間、最寄り駅へ到着。
「金田、今……言っとく。地区大会、観に行けなくても……応援してるからな。それと……厄介な気配を感じたら、迷わずに俺を頼れ。分かったら……解散!」
「はじめちゃん、待って! じゃあね、金田君」
「はい、また月曜日に」
声援を送ってくれたと思いきや、ハジメは改札口へダッシュ。素早い動きに照れ隠しなのか、判断しづらい。彼の分も七瀬から挨拶してもらい、
厄介な気配と言えば、身近にある。何処かと言えば、『大草原の小さな家』だ。
「おはようございます。時原さん」
「バイトちゃん、お疲れ様です。店長、休憩入ります」
お揃いのフリルエプロンを着け、
儚げな雰囲気を纏い、男性客の視線も釘付け。ヨイショッと慣れない手つきでオボンを運び、温かい眼差しに見守られていた。
「時原さんはキッチン要員だったけど、あの初々しさが……お客さんのウケが良くてねえ」
「店長、目が笑っていません」
己で採用しておきながら、店長の醜い嫉妬は頂けない。
しかし、時原の雇用は
わざわざ、
(……遠回しな催促か?)
他人の企みはさておき、
「辞めちゃった花都さんも良かったけど、時原さんも素敵だね~♪ 和島はどっちが好み?」
「赤沢、嫁さんに言うぞ?」
常連客の
「皆さん、バイトさん目当てなんですね。かく言う私も……」
「――ありがとうございます、小渕沢さん――」
話しかけられるまで、
「バイトちゃん、どんな新人が入っても……俺はキミのファンだからね」
「――知ってますよ、片倉さん――」
想像しただけで、口元が緩んだ。
息苦しい時間を終え、退勤。手早く着替え、店の裏手に回った。
「いっくん、お疲れ。あたしも仕事、終わったとこなの」
「さとみさん、お疲れ様です。今日は片倉さん、来ていましたよ」
噂をしていないが、影。
さとみが愛車の傍にて、待ち伏せる。本来なら、住み込み先へ帰宅する頃合い。
金田家ではなく、ここにいた理由を考える。
秋とは言え、多少は肌寒くなった夜。弟を待った姉の心境は大概、埋められない心の隙間にある。
「ちょうど……さとみさんの話をしていました。ハジメちゃんや七瀬さん、また貴女に会いたいそうです。それで、自分もさとみさんに会いたいと思いました」
「! そっか……ちょうど、あたしも……いっくんの話、してたんだ。今月、地区大会ってどうして教えてくれなかったの?」
会いたかった本心を素直に伝えた結果、さとみは遠慮なく怒った笑顔と化す。ゾッとする。
「――あれ……俺っていうか、ジッチャン……言ってなかったのかよ。ハハハ……――」
「
誰と会い、弟を話題にしたか、それを語らぬ時点で「何か」があったのは明白。追究は控え、
またもバイクを押しながら、道を行く。さとみのお小言が止まらず、それ程の不安な境地を感じ取った。
「さとみさん、その日は仕事が入っているのでしょう? 自分も観に行けませんが、応援しています。本当です」
「……今更、言われなくても……知ってる。いっくんの考えてるコトなんて、お見通しよ。以心伝心ってヤツ!」
本当は別の話がしたい。
でも、地区大会に集中している時に動揺させたくない。
さとみの気遣いが痛い程、
「自分も、お見通しです。でも、さとみさんはちゃんと言葉にしてくれます。嬉しくて、励みになりますよ」
「……何よ、今日は……本当に素直ね」
せめて、日頃の感謝を込める。別の形で伝えたかったが、効果覿面。さとみの目に浮かんだ涙は引っ込んでくれた。
「いっくん……後ろ、乗ってもいい?」
「……どうぞ、お姉ちゃん」
さとみに頼まれた瞬間、シートに収納していたヘルメットを渡す。予備はない為、
「フフ、いっくんの温もり……」
直前までシートへ納まっていたなら、ヘルメットに温もりはない。そんな現実的なツッコミはせず、
遠慮しているのか、さとみはその手をシートへ置くだけだ。
ハンドルに力を入れた時、姉弟でのタンデムは初挑戦だと今頃になり、自覚する。それどころか、購入してから一度も、誘ってない。
乗せる約束はしていなかったが、気配りのない自分に腹が立った。
「いっくん、カッコイイ……バイクだよ」
「……黒沼先生が、選んでくれました」
背中に頭を置かれ、さとみの褒め言葉を確かに聞いた。ほんのりと胸が温かくなり、それを合図に発進させた。
――今までの乗せた中で一番、心地好い時間だった。
二三「よし分かった、事件の話が出来なかったのはしょうがない。あたしも……聞かれたくないしさ。けどさ、せめて、あたしをこの話に出しやがれってんだ! 後ろからひょっこりとか、できんだろ! さて、次回は『蠟人形城ツアーへ行く準備』!! 金田のお兄ちゃんは行かないんでしょ? ああ、はじめの準備か」
赤沢 次郎、和島 尊
明智少年最初の事件ゲストキャラ
残間 さとみ
魔術列車殺人事件ゲストキャラ。作中にて、オリ主の姉