金田少年の生徒会日誌   作:珍明

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本当は事件タイトルの昔話にしようと思ったんですが、はじめちゃんは大切な人が巻き込まれた事件程、喋らないと気付いて、やめました


Q25 【金田一フミの誘拐事件】を言い当てて

 金田祖母は何か、隠している。

 廊下の電話台に立つ時間が長くなり、インターホンの音にも過剰な反応。郵便ポストも事細かにチェックする様は、鬼気迫っている。山姥……般若が如く、恐ろしい。

 

「気にせんでええ、お前は部活頑張りぃや。そっちが終わったら、ちゃんと話すさかい」

「……分かりました」

 

 金田祖父が普段通りの態度は却って、金田祖母の奇怪な行動を際立たせた。

 演劇部の地区大会が終わるまで、家族会議もストップ状態。何だが、(いち)は心苦しくなってきた。

 

 しかし、抱えた想いに浸る暇はない。

 喜ばしい報せ、来期の生徒会長・副会長選挙。会長に海峰(かいほう)と1年4組・京谷(きょうたに) 雅彦(まさひこ)、副会長に千家(せんけ)と1年1組・朝基(あさき)が立候補してくれた。

 

「誰が当選するかは一目瞭然ですが、これでひとつ問題は解決しました」

「金田先輩、本当のコトでも言っちゃダメっスよ~♪ ね? 千家先輩~」

「……いやあ、結果は誰にも……分からないだろ? 朝基、成績良いしさ」

 

 他の候補者が不在の為、(いち)は本音が駄々洩れる。

 海峰は最早、当選したかのようにルンルン気分だが、苦笑した千家は慎ましい。立候補者の正反対な態度、生徒会室は和やかな雰囲気に包まれた。

 

「美雪ちゃん、立候補しなくて済むね」

「執行部顧問の先生には、続投を打診されたんだけどね」

「駄目です。七瀬さんはミス研か、演劇部の部長と言う大役が待っています。掛け持ちリーダーなど、許しませんよ」

 

 秋絵(あきえ)の労いに対し、七瀬(ななせ)にとって続投そのものは満更でもない様子。(いち)は心を鬼にし、キッパリと念押しした。

 

「部長かあ……ウチもそろそろ、決めないとねえ。あ~、頼れる先輩方の卒業が迫ってるのキツイ……」

「スキー部はいいじゃないっスか、大所帯で。ウチの囲碁部は小角先輩が抜けたら、もう廃部に片足突っ込んでんス! 俺が生徒会長になって、部のアピールもしねえとなあ。七瀬先輩、いかがっスか?」

 

 鈴森(すずもり)が次期部長の選抜と3年生卒業に今からゲンナリし、海峰は囲碁部へ貢献しようと熱く語る。その直後、部員増員目的と言う下心満載に七瀬を勧誘した。

 

「……あたし、客寄せパンダじゃないのよ」

 

 七瀬は後輩の企みを冗談に受け取ったが、誰も否定しなかった。

 

 猛稽古の後、役者の部員同士は演技についての議論を交わす。昇降口へ来ても、場面、場面の解釈違いに熱が入った。

 

「大声出して、どうしたの?」

「白樹先生、すみません。部活の話をしていただけです」

 

 パッと意見が通じ合った頃、新任生物担当・白樹(しらき) 紅音(べにお)先生から声をかけられる。布施(ふせ)先輩がさっと丁寧に状況を説明してくれた。

 

「そうそう、地区大会も近いんで大目に見てやってください~♪」

「!? 金田一(きんだいち)、いつの間に……」

 

 白樹先生の後ろからハジメがぬっと現れる。美人の先生相手故、デレデレと鼻の下が伸びていた。驚いた神矢(かみや)の言う通り、全く気配を感じなかった。

 

「あら、はじめちゃん。再テストは順調だったのかしら~?」

 

 七瀬から発せられる異様な気配、ハジメには見えないらしい。

 

「白樹先生、明日は暇っスか? 不動中の運動会があるんスけど、一緒に行きません? 先生とは体育祭、過ごせなかったんで~気分だけでも~♪」

「あら、中学校の運動会……良いわね。でも、気持ちだけ頂くわ」

 

 決めポーズのハジメはアッサリとフラれ、クスクス笑いが起こる。白樹先生は穏やかな笑みを絶やさず、戸締り確認の巡回へ戻った。

 

「不動中、佐木君の母校ですね。竜二君が活躍されるのですか……」

「確か、真壁の弟もいたはずだ。去年、学園祭に来てくれたぞ。素直で、礼儀正しい子だったなあ」

「それ、佐木2号も言ってた。誠実な奴だってさ。兄弟でも、性格って違うんだな~」

 

 (いち)が呟いた瞬間、布施先輩は記憶を掘り起こす。ハジメはニッコニコな笑顔になり、3年3組・真壁(まかべ) (まこと)先輩の弟について、妙に盛り上がった。

 

金田一(きんだいち)、弟か妹いたっけ?」

「似たような従妹なら、いるぜ。俺にちっとも、似てねえけど」

 

 有森(ありもり)に聞かれ、ハジメはやれやれと肩を竦めた。(いち)も面識があり、彼の答えを微笑ましく思う。

 

「どうして、そんな嘘つくの? フミちゃん、はじめちゃんにソックリじゃない。ねえ? 金田君」

「はい、七瀬さんのおっしゃる通り。ハジメちゃんが細胞分裂した姿です」

「「さいぼうぶんれつ……」」

 

 七瀬に話を振られ、(いち)は正直に答える。ハジメと仙道(せんどう)の声が揃い、面白い。

 

「何だろうなあ、会ったコトねえのに。その従妹が金田一(きんだいち)みたいに事件へ首突っ込んで、解決している姿が目に浮かぶわあ」

「オレも~」

「俺も……」

「何だよ、有森~。仙道に神矢まで……どっかで見てた?」

 

 和気藹々の会話をしながら、(いち)は我関せずと駐輪場へ向かう。ヘルメットを装着し、バイクを手でゆっくりと押していれば、予想通りに解散していた。

 

「金田君、ああいう話……本当に混ざらないわよね。さとみさんって、立派なお姉さんいるのに……。自分の話も、全然してくれないし」

「――自分の話はしない主義なの、面白くないもの――」

出ましたっ、赤木博士の名言。お前が言うと重みあるぜ

 

 七瀬はわざわざ、不満を伝えに追いかけて来た。元気溌剌なハジメは彼女の後ろから、またもぬっと顔を出す。『エヴァ』ネタへすぐに食い付いてくれて、(いち)は嬉しい。

 

「んじゃあ、さとみさんの話しようぜ。そうだな……先ずはスリーサイズ……イタッ。んだよ、美雪」

「別に」

 

 さとみの姿を思い出し、ハジメはウットリ。怒った笑顔の七瀬に腕を思いっ切り、抓られていた。

 夫婦漫才は見ていて、和む。口に出すと火に油を注ぐ為、黙っておく。

 

「さとみさんにも、また会いたいけどっ。金田君のお母さんには、いつ会わせてくれるの?」

「……七瀬さん。いつ、会わせる約束をしましたか?」

 

 和み過ぎて、油断した。七瀬は金田の事情を見えている部分しか、知らない。

 

「あの男前を捕まえるなんて、金田のお母さんは……守りたくなるような儚げな人とか?」

 

 ハジメは己の胸に手を置き、しおらしい態度。普段なら、彼は全く違う話に替えるはずだが、あまりにも自然過ぎて、(いち)は質問の裏があると気付かなかった。

 と言うよりも、ハジメの想像した母・にいみが滑稽すぎて、すぐに否定したかった。

 

「まさか、ゴリラが人の形を成した新種の母ですよ。オラウータン並みの強さです」

「「は?」」

 

 今度は2人の声が揃った。

 

「金田……あんな美人の姉ちゃんをゴリラ呼びしてんの? って言うか、ゴリラのオカンがオラウータン?」

「ハジメちゃん。姉は美人ですが、貴方を簡単にねじ伏せられます。自分も勝てません」

「え? 金田君、さとみさんとそんな……取っ組み合いするの? ご両親、怒らない?」

 

 疑問符だらけの有森は混乱し、(いち)は分かりやすくご説明してみる。七瀬は意外そうに驚き、口元を手で覆う。彼女もまた勝手な人物像を作り上げていたと知る。

 

「はい、両親の夫婦喧嘩は……真剣勝負。いつも、母が父を打ち負かします」

 

 幼い頃から、両親の夫婦喧嘩をコッソリと見学して育った姉と弟。その影響は姉弟喧嘩にしっかり、引き継がれた。

 誰かさんと口論になり、にいみが橋から突き落とされた。

 そんな話を聞かされても、元夫たる父・残間(ざんま)さえ、彼女の怪我など心配していなかった。どうせ、落ちたフリをして橋の下へ掴まり、相手をやり過ごしたと容易に想像できた為だ。

 

「……ちょっと何言ってんのか、分かんない。金田のお母さんって、レスラーか何か?」

「いえ、マットペインター……映画の背景を描く仕事です」

「ええ!? 映画関係者なんて、大物じゃない!」

 

 困惑したハジメが頭を抱え、教えてあげる。七瀬の甲高い声を聞き、(いち)は我に返った。

 これでは、只の自慢話だ。

 

「金田君、伯父さんも画家だし……兄妹で血は争えないのね」

「……正直、母の性格を考えれば……合わないと思いましたよ。何せ、長時間……集中して細かい作業に取り組むのです。……ハジメちゃんで言うなら、只管……小難しい辞書を読んでいる。どうですか?」

「ないわ~って、なんで唐突に貶されるン?」

 

 何気なく、七瀬は氷室(ひむろ)伯父も讃える。ホンの少しだけ、(いち)は胸が弾んだ。その拍子に出した例え、ハジメはノリツッコミを華麗にやり遂げた。

 

「自分の面白くない話より、明日の運動会……お2人は行かれるのですか?」

「うん、そのつもり。はじめちゃんも行くでしょう? 白樹先生、誘ってたもんね」

「行かね」

 

 (いち)が話題を変えれば、七瀬はニッコリと答える。ハジメの素っ気なさから、先程の白樹先生をナンパした様子が嘘のようだ。

 ただ単に、美人の新任教師と喋る口実に使っただけ。

 そうだと察し、(いち)と七瀬はジト目を向ける。ハジメは物怖じせず、下手くそかつ愛嬌たっぷりの口笛を吹いた。

 

「いいわよ、全然。フミちゃん、誘うわっ」

「いやいや、フミも忙しいんだぜ。明日もクラスメイトと練習すんの」

 

 ご機嫌斜めの七瀬はフンッと鼻を鳴らし、ハジメは弱気になる。彼女の関心が従妹へ向かない様、必死に取り繕っていた。

 誰が誰に嫉妬しているか、意味不明過ぎる。もう、素直になればいい。

 

「従妹さんの小学校、運動会はいつ頃でしょうか?」

「12日、あたし達の出演日と被っちゃったの。はじめちゃんも~ご用事があるのよねえ?」

「美雪はな~にを怒ってんだ。いつきさんみてえによ……

 

 話題を変えようとしたが、七瀬はまたもハジメへ威圧感な態度を見せる。何故に突然、いがみ合うのだろうか、仲が良すぎる幼馴染も考え物だ。

 嫌な名前が聞こえた気がする。無視しておこう。

 

「……? ハジメちゃん、地区大会……観に来ないのですか?」

 

 3人の日程をカレンダーに当て嵌め、(いち)は重大な点に気付く。ハジメに演劇を観てもらえない事実がショック過ぎて、バイクをわざと吹かした。

 

「! あれ……俺っていうか、美雪……言ってなかったのかよ。ハハハ……」

「え? やだあ、はじめちゃん……それくらい自分の口で言ってよ~」

 

 どうやら、お互いに伝えていたつもりらしい。涼しくなった夕方、2人は汗だく。そのままビッショビショになり、風邪を引いてくれるように願ってしまった。

 

(……かほる先生も来られねで、泣ぎそう)

 

 周囲とのスケジュールが合わず、告知していなかった我が身を呪う。だが、目の前にいる同級生は知っていたはずが、別の予定を入れた。

 沸々と怒りが湧くが、(いち)は諫めた。割と必死になり、こちらが大人になろうと堪えた。

 

「自分も、従妹さんを誘います。店長の新作メニュー、試食相手を探していたのです」

「ちょ……待てよ、金田! 試食に関しては、俺が適任だって!」

 

 虚勢と知りつつ、(いち)は半分冗談に強気な宣言。慌てふためくハジメを尻目に、バイクへ跨った。

 

「フミは、やめとけ! 味を占めて、飯をたかりに来るぞ! 本当に!」

(はじめちゃんったら、フミちゃんに金田君が取られると思ってる……)

 

 発進を恐れたハジメはわざわざ、体を使って行く手を遮る。七瀬の深いため息から、彼の必死な姿は友情の独占に思えた。

 小学生と真剣に張り合うなど、流石はハジメ。ライバルが従妹であろうと、全力を尽くす。

 思わず、称賛の拍手。

 

「金田……急に拍手して、どうした?」

「いえ……心配せずとも、従妹さんのご自宅を知りませんよ」

「ああ、フミは俺ン家に住んでる。今度来たら、香港返還のパレードを観に行った自慢話。ウンザリする程、聞かされるぜ」

「……楽しそうですね」

 

 驚いたハジメから意外な情報を聞かされ、(いち)は二重の意味で妬ましい。

 

「フフフ、フミちゃん……と言うより、はじめちゃんの叔父さんが色んな国へ行きたがる人なの」

「半分以上、辺境の土地だ。羨ましくもねえ」

「あら、叔父さん……ロンドンにも行った事あるんでしょ? ロイヤルウェディングと重なって、ラッキーだったとか言ってたじゃない」

「フミが産まれる前の話じゃねえか……ったくよお」

 

 2人の会話を聞き、ハジメの叔父とやらに俄然、興味が湧いて来た。

 

「ハジメちゃんの叔父さんは、語学が堪能なのですか?」

「ぜ~んぜん! イギリス行った時も偶々、飛行機が一緒だった人に通訳を頼んだとか……」

「はじめちゃんの叔父さんが言うには、学者さんだったそうよ」

 

 ハジメが眉を寄せて思い返すより先に、七瀬が目を輝かせて答える。彼女の方がキチンと話を覚えていた。

 旅行中に学者と知り合うなど、スリルとサスペンスの予感が十分だ。

 

「……まさかとは思いますが、ハジメちゃんの叔父さんはそこで事件解決していませんか?」

「ないない、叔父さんは事件とは無縁な人だぜ。寧ろ、フミが……いや何でもない」

 

 ちょっと心配になったが、杞憂に終わる。と言うよりも、ハジメの言いかけた内容が気になる。話さないのは事件に関わった証拠だ。

 

「ハジメちゃんが小学生の頃も事件解決に努めたように、従妹さんも……ですか? 七瀬さん」

「そうねえ、フミちゃんは……はじめちゃんと同じよ。どんな風にって言うのは、内緒♪」

 

 (いち)はホンの少しの興味から、七瀬へ問う。一瞬、躊躇った彼女だが、愛おしげに微笑む。用いた表現はとても分かりやすく、最高の賛辞だった。

 

「ど~ゆ~意味だよ、美雪。俺があんな奴と同じなワケねえだろ」

「内緒ですか……そう言われたら、想像力が膨らみます」

 

 ハジメは不服そうに頬っぺたを膨らませ、件の従妹と同じ反応を見せる。(いち)はバイクへ跨ったまま、歩いて進ませた。

 

「フフフ、良いわよ。金田君が好きに想像してくれて♪」

「美雪……」

 

 男子2人の周りをクルリッと回り、七瀬は出題者が如く意地悪っぽい口調となる。ハジメは彼女に魅入られ、惚けてしまう。

 しかし、(いち)は知恵を絞るのに忙しくて、彼をからかう機会を失った。

 

「そうですね……偶然、犯行現場を目撃してしまい、人質として拉致監禁されたにも拘らず、犯人が無事に逮捕された際「自分でついて行ったのよ、人質なんかじゃなかったも~ん」と証言し、被害者である事実を伏せる。犯人はひとつの犯行のみ、罪を問われる形となった。結果的に逮捕は変わりませんが、余分に罪を背負わずに済みます。自分に思い付ける脚本は大体、こんな感じです。いかがでしょう?」

 

 渾身の閃き、(いち)は自信満々。真壁先輩が執筆する推理小説のネタにされても、良い。それだけ上出来と言っても、過言ではない。

 

「「……」」

 

 何故だろうか、ハジメと七瀬は青褪める。お喋りな口も氷漬けされたかのように堅く、閉ざされた。

 

……んなワケ、ねえだろ

「声、小っちゃ……。それなら、良かったです。ハジメちゃんの従妹さんとは言え、そのような事件に関わるなど……些か、危険な想像をしてしまいました。お詫びします」

謝らくて、イイのよ……金田君

 

 ハジメから聞き逃しそうな小声を返され、(いち)は反省する。七瀬の口調は普段通りだが、やはり、声は小さかった。想像力豊かな2人は事件を思い浮かべ、不安になっただろう。

 

 そうこうしている間、最寄り駅へ到着。

 

「金田、今……言っとく。地区大会、観に行けなくても……応援してるからな。それと……厄介な気配を感じたら、迷わずに俺を頼れ。分かったら……解散!」

「はじめちゃん、待って! じゃあね、金田君」

「はい、また月曜日に」

 

 声援を送ってくれたと思いきや、ハジメは改札口へダッシュ。素早い動きに照れ隠しなのか、判断しづらい。彼の分も七瀬から挨拶してもらい、(いち)は別れた。

 

 厄介な気配と言えば、身近にある。何処かと言えば、『大草原の小さな家』だ。

 

「おはようございます。時原さん」

「バイトちゃん、お疲れ様です。店長、休憩入ります」

 

 お揃いのフリルエプロンを着け、時原(ときはら) (ゆう)はテーブルの食器を片す。

 儚げな雰囲気を纏い、男性客の視線も釘付け。ヨイショッと慣れない手つきでオボンを運び、温かい眼差しに見守られていた。

 

「時原さんはキッチン要員だったけど、あの初々しさが……お客さんのウケが良くてねえ」

「店長、目が笑っていません」

 

 己で採用しておきながら、店長の醜い嫉妬は頂けない。

 しかし、時原の雇用は(いち)も反対。寧ろ、憂鬱。

 竜太(りゅうた)を通じて、鹿島 洋子(かしま ようこ)の紹介だ。彼女達はコバルトマリン号殺人未遂事件以来、報道陣を掻い潜って、連絡を取り合っているらしい。

 わざわざ、(いち)の勤め先を選ぶなど、裏がありそうだ。

 

(……遠回しな催促か?)

 

 他人の企みはさておき、(いち)は黒髪カツラで目元を隠す。接客に励もう。

 

「辞めちゃった花都さんも良かったけど、時原さんも素敵だね~♪ 和島はどっちが好み?」

「赤沢、嫁さんに言うぞ?」

 

 常連客の赤沢(あかざわ) 次郎(じろう)和島(わじま) (たかし)の軽口を叩き合い様子から、時原は本当に好評と分かる。(いち)と比べる声もチラホラと聴きながら、店内を駆け巡った。

 

「皆さん、バイトさん目当てなんですね。かく言う私も……」

「――ありがとうございます、小渕沢さん――」

 

 話しかけられるまで、小渕沢(おぶちざわ)の存在に気付かなかった。驚きを隠し、嬉しいポーズを忘れない。

 

「バイトちゃん、どんな新人が入っても……俺はキミのファンだからね」

「――知ってますよ、片倉さん――」

 

 片倉(かたくら)からビールグラスを掲げられ、ウィンクされた。

 (いち)は心にもない社交辞令を返し、流森奇術会にいる姉を想う。きっと彼女は今宵も何処かで、ショーを披露しているだろう。

 想像しただけで、口元が緩んだ。

 

 息苦しい時間を終え、退勤。手早く着替え、店の裏手に回った。

 

「いっくん、お疲れ。あたしも仕事、終わったとこなの」

「さとみさん、お疲れ様です。今日は片倉さん、来ていましたよ」

 

 噂をしていないが、影。

 さとみが愛車の傍にて、待ち伏せる。本来なら、住み込み先へ帰宅する頃合い。

 金田家ではなく、ここにいた理由を考える。

 秋とは言え、多少は肌寒くなった夜。弟を待った姉の心境は大概、埋められない心の隙間にある。

 

「ちょうど……さとみさんの話をしていました。ハジメちゃんや七瀬さん、また貴女に会いたいそうです。それで、自分もさとみさんに会いたいと思いました」

「! そっか……ちょうど、あたしも……いっくんの話、してたんだ。今月、地区大会ってどうして教えてくれなかったの?」

 

 会いたかった本心を素直に伝えた結果、さとみは遠慮なく怒った笑顔と化す。ゾッとする。

 

「――あれ……俺っていうか、ジッチャン……言ってなかったのかよ。ハハハ……――」

金田一(きんだいち)君の真似かなあ? 誤魔化されないんだから!」

 

 誰と会い、弟を話題にしたか、それを語らぬ時点で「何か」があったのは明白。追究は控え、(いち)はハジメのようにお道化て見せた。勿論、藪蛇だった。

 またもバイクを押しながら、道を行く。さとみのお小言が止まらず、それ程の不安な境地を感じ取った。

 

「さとみさん、その日は仕事が入っているのでしょう? 自分も観に行けませんが、応援しています。本当です」

「……今更、言われなくても……知ってる。いっくんの考えてるコトなんて、お見通しよ。以心伝心ってヤツ!」

 

 (いち)が声援を送れば、さとみは高ぶった感情を抑える。それでも、荒げた声に動揺は混ざったままだ。

 本当は別の話がしたい。

 でも、地区大会に集中している時に動揺させたくない。

 さとみの気遣いが痛い程、(いち)へ伝わる。まさに以心伝心。けれども、彼女を元気付ける方法は分からぬ。中途半端になるなら、お互いに鈍感であれば良かった。

 

「自分も、お見通しです。でも、さとみさんはちゃんと言葉にしてくれます。嬉しくて、励みになりますよ」

「……何よ、今日は……本当に素直ね」

 

 せめて、日頃の感謝を込める。別の形で伝えたかったが、効果覿面。さとみの目に浮かんだ涙は引っ込んでくれた。

 

「いっくん……後ろ、乗ってもいい?」

「……どうぞ、お姉ちゃん」

 

 さとみに頼まれた瞬間、シートに収納していたヘルメットを渡す。予備はない為、(いち)はノーヘルになってしまう。交通課に見付からず、低速で走れる道順を脳内ピックアップした。

 

「フフ、いっくんの温もり……」

 

 直前までシートへ納まっていたなら、ヘルメットに温もりはない。そんな現実的なツッコミはせず、(いち)はさとみを後部座席へエスコートしておく。彼女をしっかりと座らせ、自分も愛車へ跨った。

 遠慮しているのか、さとみはその手をシートへ置くだけだ。

 ハンドルに力を入れた時、姉弟でのタンデムは初挑戦だと今頃になり、自覚する。それどころか、購入してから一度も、誘ってない。

 乗せる約束はしていなかったが、気配りのない自分に腹が立った。

 

「いっくん、カッコイイ……バイクだよ」

「……黒沼先生が、選んでくれました」

 

 背中に頭を置かれ、さとみの褒め言葉を確かに聞いた。ほんのりと胸が温かくなり、それを合図に発進させた。

 

 ――今までの乗せた中で一番、心地好い時間だった。




二三「よし分かった、事件の話が出来なかったのはしょうがない。あたしも……聞かれたくないしさ。けどさ、せめて、あたしをこの話に出しやがれってんだ! 後ろからひょっこりとか、できんだろ! さて、次回は『蠟人形城ツアーへ行く準備』!! 金田のお兄ちゃんは行かないんでしょ? ああ、はじめの準備か」

赤沢 次郎、和島 尊
明智少年最初の事件ゲストキャラ

残間 さとみ
魔術列車殺人事件ゲストキャラ。作中にて、オリ主の姉
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