金田少年の生徒会日誌 作:珍明
誤字報告により修正しました。ありがとうございます
警視庁に休みなし、されど刑事に休暇あり。
出動要請がなければ、
本来ならば、道警と神奈川県警の2人とも合同捜査したいところだが、両者は別件で動けない。
結局、いつもの部下・
「……明智警視、私の顔に何か?」
アパートの階段を踏み締め、剣持警部はこちらの顔色を窺ってくる。父親程に歳離れた年上でありながら、その目付きは明らかに不満そうだ。
文句があるなら、口にすればいい。陰口ではなく、直接に言ってくれれば、正々堂々と語り合おう。
ちょうどその時、目的の相手が部屋から出てきた。
剣持警部に歳近い女性は外出予定があるらしく、礼節を重んじた服装に身を包んでいた。
「私はこういう者です。梶原 裕子さん、少しお時間を頂けませんか?」
「アナタは背氷村の……刑事さんだったんですね」
「……その節はどうも、お出掛けのところ……すみません」
明智は
一瞬の緊張も彼のお陰で、解かれた。
「職場には少し遅れると、連絡を入れますので」
梶原は迷いもなく、部屋へ招き入れてくれた。
ワンルームの室内は質素だが、整理整頓されている。新品の家具は最低限、姿見はあってもTVなし。孤独な暮らしだが、自由さを感じさせる。
コップと湯呑へお茶を注ぎ、持て成してくれた。
「普段は人を招かなくて、お客様用の食器が無いんです」
「いえ、お構いなく。改めまして、本庁の明智です」
「……挨拶が遅れまして、本庁の剣持です」
3人でローテーブルを囲み、明智は数枚の顔写真を並べる。最初は不思議そうに眺めたが、最後の数枚になると、こちらの読み通りに目付きが険しくなった。
「加納 りえの父親、明石 道夫の兄弟姉妹です。そして……」
「他は、存じています。比留田のお友達です」
毅然とした態度は流石、
「……もしかして、
「いいえ、アナタが最初です」
梶原の疑問に明智が答えれば、一瞬だけ沈黙が落ちる。彼女は頭の回転が速く、すぐに同じ境遇の2人を思い浮かべた。
背氷村殺人事件の被害者4人、その内の3人は既婚者の子供なし。伴侶達は事件後、婚姻関係終了届を出し、死後離婚を成立させた。
そうせざるを得ない心情は、調書へ記された夫婦関係によってある程度、読み取れる。
静かに深呼吸し、本題に口を開いた。
「この方々は最近、亡くなりました」
「……!? 加納の父親は……病死したと聞きましたが、この人達も……死んだ?」
明智の告げた報せに絶句し、梶原の狼狽は演技ではなかった。
1人1人の死因を聞かせる度、彼女は初耳と言わんばかり。それもそのはず、誰1人として報道されていない。
「……あの萬屋病院の患者だったなんて。他の方は別の場所ですか、関連性が……?」
同じ事件の遺族が、短期間に次々と命を落とす。事態を重く捉え、梶原は息を呑んだ。
剣持警部は無言で、彼女の一挙手一投足を見逃さない。
「この方々、何か共通点はありませんか? 全員でなくても、構いません」
明智の更なる問いに、梶原は辛そうに唇を噛む。加納と
「……返還請求に応じなかった人達です。私のところには2月に入り……通達が来ました。凡そ9年分……」
「9年分!? 精々、3年分じゃないのか!?」
意を決した梶原が喋っているにも関わらず、ビックリ仰天の剣持警部は大声で叫ぶ。
「剣持君。この場合……彼らは『悪意の受益者』とみなされたんですよ」
「ああ、そうか……金貸し企業だけじゃなく……」
明智は彼の耳元へ囁き、納得させる。
通常の返還請求は過去3年分だが、
「すみません、梶原さん。続けてください」
「はい……そんな大金、保険金は勿論、それこそ金貸しを使っても……払えません。ですから、刑事さんが言うように……私は3年分で和解してもらいました。結局、加納と明石の方はその人達が強く支払いを拒み、相続放棄して……責任からも逃れたそうです」
ブツブツ煩い剣持警部を無視し、明智は続きを催促。梶原があまりにもさらりと話す為、うっかり聞き逃しそうになる。彼女は3年分でも、多額の返還請求に応じたのだ。
「死別離婚されたんですよね。責任はないのでは?」
「比留田のご両親へ少しでも、相続させてあげたかったです。あの人、碌な生命保険に入ってなくて……給付金も……雀の涙。あまりにも、ご両親が可哀想です」
剣持警部の無神経な質問に、梶原は憂いを帯びた眼差しになる。
犯罪被害者等給付金、これには被害者本人の犯罪行動が反映される。
世間を騙し、巨万の富を搾取した比留田達。彼らの遺族への支給額は一般人の遺族よりも、減給されただろう。
「比留田自身とは、上手く行きませんでしたが……ご両親は本当、良い人なんです。事件を知った時も、すぐに梶原へ姓を戻して、逃げろと言ってくれて……」
梶原は3人の中で、最後に届を出していた。比留田の両親を深く、気に掛けた為だった。
残りの家庭が相続放棄したのは、受け取る保険金が割に合ったからかもしれない。
「失礼ですが、比留田のご両親は今、どちらに?」
「無事に親戚の苗字へ変わったと、連絡を受けました。あの……出来れば、他の方には話を聞かないで欲しいんです。やっと立ち直ったところでして」
「他のお2人と、連絡は取られていますか?」
「……はいっ。先月も3人で北海道へ旅行したんです。その時の写真を……」
困ったように眉を寄せ、梶原は乞う。明智の踏み込んだ質問に対し、彼女は傍の棚をガサガサと探った。
「旅行……?」
剣持警部の驚きも無理はなく、明智と懐疑的な視線を合わせた。同類相憐れむ仲と言っても、お互いの距離感が近すぎる。
「ほら、よく撮れてるでしょ? 死骨ヶ原湿原ホテルと言って、GWに事件の遭った場所です」
「「……」」
梶原は手帳サイズのアルバムをテーブルへ広げ、3人の仲睦まじい姿を何枚も見せられた。笑った表情、ピースの指、実に楽しそう。彼らの笑顔は、伴侶からの解放を意味していた。
ただ、場所にゾッとした。
「どうして……そこに?」
「他人事のような気が、しなかったんです」
汗だくの剣持警部に気付かず、梶原は死骨ヶ原湿原ホテル殺人事件へ想いを馳せる。明智は動揺をひた隠し、口を閉ざした。
「……では、私と会った時も3人ですか?」
「いえ、私だけです。……あの館に人の出入りがあったと噂を聞いて、……氷室君の遺族と会える……そう思ったんです」
ふと疑問した剣持警部を見ず、梶原は写真へ視線を落とす。これまでと違う悩ましげな雰囲気、明智は鋭く察知した。
「氷室君? 梶原さん、アナタは氷室画伯と親しかったのですか?」
ハッと己の言動を理解し、梶原は口の軽さに驚愕する。目だけを動かし、明智に異様な視線を向けた。大切にしていた秘密を知られた嫌悪感、それに似ている。
「……私、氷室 一聖と同級生でした」
「ええ!?」
一瞬、回答に詰まった梶原はひと呼吸置き、ゆっくりと打ち明ける。語るつもりはなかったと言いたげに、口元は歪む。衝撃的な事実を知り、剣持警部は人の鼓膜を破る勢いで叫んだ。
煩かったが、明智の欲しかった反応だ。お陰で、冷静になれた。
「アンタ……まさか、氷室が偽者と知っていた……」
「違います、断じて」
慄いた剣持警部の無礼な発言に対し、梶原の顔は紅潮し、怒りと羞恥心が入り混じる。声を抑えているものの、比留田への激しい憎悪を募らせた。
彼女は言葉の節々で、比留田を責め立てていた。元夫の非人道的行為を恥じるのは当然かもしれないが、別の事情も垣間見えた。
明智は、コレを見極めたかった。
「比留田は、その事を?」
「知りません。あの人は職場で何となく、結婚しただけです。ディレクターは妻子持ちがお店の子にモテるから、そう言われた事もあります。打ち明けてなんていたら……私は口封じに殺されていたでしょうね」
夫婦の馴れ初めを機械的に告げても、結婚そのものに後悔は見えない。事と次第によっては、我が身を落としかねない状況のはずが、梶原には他人事な口調だ。
「ずっと、氷室を愛していたんですか?」
「それも違います。氷室君は……ただの憧れです。私の故郷は……誰も彼も似たり寄ったり、そこへ現れた彼はさながら、王子様でした」
若き
「お父様を亡くされ、北海道の親戚を頼った東京者なんて、あっという間に注目の的。それが煩わしかったんでしょうね。常に学帽を深く被って、顔を見せない様にしていました」
思い出は美しいとよく言ったモノだが、梶原の視線はしっかりと今にあった。
その矛盾はさておき、明智は大事な点を質問する。
「綾辻 真里奈は、アナタの素性を知っていましたか?」
「……知らないと思います。一口に北海道と言っても、広いですから。警察の方も、私と氷室君を結び付ける人はいませんでした」
それ以上に、不可解な点。
梶原の言う通り、同じ出身だろうが知り合いとは限らない。偶然の関係性を綾辻が見逃したとしても、おかしくない。事件後ならば、警察も気に留めない。
だが、明智は
(……何だ? この不愉快さは……)
「あの……刑事さん」
思考に耽りたかったが、梶原の声に我へ返る。彼女の目付きが今度は好奇心に満ち、何かの頼み事を推測した。
「氷室君、
「息子……!? ムグッ」
乙女の様に声を弾ませ、梶原は瞳を潤ませた。愕然とする剣持警部は思わず、口走りかけたが己の手で口を塞ぐ。流石は場数を踏んだ刑事、英断だ。
明智も肝が冷えたが、わざと息を呑む仕草にて、本心を悟らせない。
「ご存じありませんか? 氷室君にソックリなんですよ。背はちょっと低くて、制服もブカブカ……腕の裾を曲げてました」
天才画伯に隠し子あり。
その事実に驚いたと誤解してもらえた。
梶原の語る人物像は、刑事2人が良く知る人間と類似。頭を抱えたくなったが、堪えた。
「……えっと、梶原さん。その……息子さんとやらは……どちらで、見かけられたんですか?」
「死骨ヶ原のホテルです。女性と一緒でした。多分、お母様だと思います」
動揺を声に出し、剣持警部は露骨に聞き出そうとする。梶原がスラスラと答えた内容、明智が以前に友人から聞いた状況と照らし合わせ、一致した。
ため息を殺す。
梶原の抱いた妄想を砕くのは忍びないが、訂正しよう。
「梶原さん、警察の調べでは氷室画伯に
「……そんなはず、ありません。だって、あの子……本当に瓜二つなんです。刑事さん、背氷村の事件……捜査された方……もしくは事件処理に当たった方なら、分かるはずです。確認してみてください」
守秘義務の範囲にて、明智が伝えられるのはひとつ。取り乱した梶原はぬっと顔を寄せ、ファンデーションの細やかな粉まで見える。アイシャドウに彩られた瞼から覗く瞳はギラギラと輝き、こちらに隠された真意を見抜こうと、彼女は瞬きすらしない。
もう、話は出来ないと判断した。
「長い時間、ありがとうございました。失礼します」
「どうも、お邪魔しました」
立ち上がった明智に倣い、剣持警部も茶を飲み干す。梶原の顔を見ず、さっと玄関へ急ぐ。靴へ爪先を入れただけの状況で、ドアノブへ腕を伸ばす。
「刑事さん、待ってください」
「わ、私?」
足音や気配もなく、梶原の手が剣持警部の背中へ伸びる。ハンドクリームが塗られた手は彼の背広へ食い込み、逃がさない意思を示された。
剣持警部から横目の視線を受け、明智は振り払わない様に視線で指示を送った。
「少なくとも、アナタは氷室君のご遺族と連絡が取れるんですよね? その方に、会わせてください。絶対、刑事さんへ迷惑はかけません」
梶原の言葉は切実で、祈りにも似ている。指は微かに震え、爪の先に宿る焦りは、罪悪感と執着の表れだ。
だから、正論を返そう。
「梶原さん、先程……ご自分の名前を出さなくて良いとおっしゃいました。理由は逆です。氷室画伯の遺族から代理人を通じて、既に対面を断られている。違いますか?」
「……それは、あちらの気持ちを考えれば……仕方ないと……」
梶原の肩が大きくビクンッと痙攣する。思い出に縋った眼差しが、非情な現実へ引き戻された。
「そうです。遺族の方は……返還請求に応じたとは言え、梶原さんに会いたくないんです。どうか、それを忘れないで下さい」
「……!?」
冷酷と思われてもよいが、梶原の心に届く。やっと剣持警部から手を離した。
彼女の表情は見る見る青褪め、それでも涙を堪える。
畳みかけるなら、今だ。
「本来のアナタは、とても誠実でいらっしゃる。今は会ってもらえなくても、いつか……機会は訪れると信じています」
「刑事さん……」
刑事の立場上、願ってはやれない。
そんな明智の本心を聞き、梶原は切なげに目を伏せる。深く深く、息を吐いた後に足を揃え、感謝を込めて丁寧に頭を下げてくれた。
一触即発の緊迫感を脱し、明智と剣持警部は早足にパーキングエリアへ向かう。駐車させていた愛車へ乗り込んだ。
助手席へ座り、剣持警部は完全に脱力。
「危なかったですね……明智警視、まさか……梶原が
「金田 にいみと面識はない。確実です」
「……しかし、だとすると、梶原の本心が計りかねます」
「何処が、ですか? 彼女程、分かりやすい人は助かります」
剣持警部はため息を吐きながら、シートベルトを締める。明智もシートベルトを装着しながら、彼の疑問を謎に思う。
「いやだって、梶原は綾辻 真里奈の支援団体代表をやっとるんですよ! 更には金田家へ返還……そこまで事件に責任を感じる必要は、彼女にはない……でしょう?」
「……本当に分からないなら、宿題にしておきます」
剣持警部にとって、意味不明とされる梶原の行動原理。かつての同級生への贖罪、真実を明かした綾辻への感謝。
これ以上、確かな動機はないだろう。人情味溢れるくせに、その鈍感振りは演技かと疑った。
やれやれと明智は愛車を発進させる。
「我々が考えるべき問題は、梶原の活動資金源についてです。支援団体を経営、返還の支払いもある。ですが、アパートの部屋にあった家具は冷蔵庫からカーペットに至るまで、全て半年以内に買い揃えたように新しい。健康面にも、問題は見えません」
「!? 何者かが、梶原 裕子を
ようやく剣持警部へ話が通じ、タイミングを計ったように携帯電話が鳴った。
表示された着信相手を一瞥し、剣持警部へ預ける。運転しながらでも、明智には簡単に通話可能だが、勤務中故、控えておこう。
適当な店舗の駐車場へ入り、停車。エンジンを切った直後、剣持警部は携帯電話を渡してくれた。
その間、着信音は鳴り響く。
「はい、明智です」
〈銭形です。明智警視の読み通り、金田 にいみが綾辻さんへ接触を試みました! 代理人が面会に現れたんです。名前は和田 守男、東京で雑誌編集をやっています。この人、金田さんの教え子で……鹿島船長を発見した……関西弁の男です〉
道警の
彼の口調から察するに今しがた、
「……和田 守男はそこに、いますか?」
〈いますけど……泣きじゃくちゃって、まともに喋れません。いくつか、聞き出せたのは……金田 にいみから、綾辻さんへ面会して来るように頼まれたそうです。例の遺族の訃報を聞かせ、反応を見てくるだけでいいと〉
よくよく向こう側の音を聞けば、微かにざわめきが聞こえる。和田の泣き声なら、納得だ。
「金田 にいみの居場所に、心当たりは?」
〈いいえ。いつも一方的に連絡して、仕事を頼まれると供述しています〉
一方的に関わるものの、己の都合のみ。
(巴 荘十郎と同じ……扱いか)
警察に頼らず、彼女は何かを調べている。
家族との再会よりも、優先すべき事態とは何だ?
背氷村、死骨ヶ原湿原ホテル、悲恋湖キャンプに匹敵する惨劇を阻止せんと奮闘しているのは、明白。
その為にも近々、和田に面会の報告を聞こうと接触するだろう。今は泳がせておく。
「分かりました。和田さんには、お帰り頂いて結構です。それと……金田先生へくれぐれも宜しく、そうお伝えください」
〈……はい、それと別件ですが……〉
一旦の解放を伝えれば、銭形警部補の周囲にあった雑音が消える。泣き続ける和田から、離れた。
〈残間さんの話、宮城県警から連絡は……ありましたか?〉
「いいえ、彼が何か?」
〈残間さんを長野へ行かせたいと言いますか……僕の代わりに、ミステリーナイトへ参加させたくて……〉
「「は?」」
思わぬ頼み事を聞かされ、剣持警部と驚く声が被る。
明智の驚きは、
〈北見さんの供述を裏取りに、仙台へ行ったんです。その時、残間さんと休みの話になって……僕が今度の非番で、バルト城へ行く話をしたら……急に行きたいと言い出しまして〉
銭形警部補の抱える事件処理を思えば、残間と繋がる経緯は手に取るように分かる。そこでの会話も大体、想像できるというもの。
「……理由は何と?」
〈……長野でミステリーナイトが行われるなら、次は自分が行かなければならない気がするとか……所謂、直感?〉
明智の確認に銭形警部補さえ、疑問形で返す。残間自身、理由を上手く説明できない。そんな複雑な心境が伝わって来た。
(銭形君の性格を考えれば……、残間さんへ金田 にいみの帰国はまだ伝えていないはず)
残間は捜査が入る前から、元妻の行方を捜していた。比喩的ではなく、直接に。
仕事の出張、愛娘の付き添いなど行ける理由を作り、彼もまた警察を頼らず、自らの足で尋ね歩いた。
言葉で伝えずとも、周囲の異変を感じ取っている。
〈宮城県警の方から、明智警視へ確認しないコトには何とも……そう言われたままでして。残間さんには既に、僕の招待状を渡してあります。どうせ、非番は潰れますし〉
銭形警部補の遠慮がちな声を聞き、苦衷を察する。残間は直感に従い、長野県のバルト城へ行きたがる。張り込み中の宮城県警からしてみれば、余計な外出は控えて欲しいのだろう。
「銭形君、残間さんには私が付き添います」
〈え? 良いんですか? でも、参加の締切りは……もしかして!〉
「はい、私も招待状が来ています。金田一君も一緒ですので、残間さんの話し相手には事欠かないでしょう」
〈……それはそれとして、僕も行きたかったです〉
明智は銭形警部補の精神的負担を減らす為、事実を告げる。予想と違い、残念そうな声が返って来たのは意外だった。何が、彼の気に障ったのか、別の機会に考えよう。
通話を切れば、剣持警部は待ち侘びたような息を吐く。
「明智警視……長野県へご旅行、ですか? よりにもよって、金田一と?」
困惑気味だが、剣持警部の驚きはあくまでも名探偵の孫へ向けられた。
高校生の参加は明智の誘いだが、それを今は言うまい。
「……ん? 今度は俺か……はい、剣持!」
〈雪峯です。多岐川 かほるですが、
「まさか、金田 にいみと会う為か?」
〈不明です。担当編集者の赤沢 次郎が言うには、旅行自体は以前から予定があって……とても楽しみにしていたとっ〉
確認した瞬間、剣持警部の携帯電話が鳴り響く。
明智も動揺を面に出さず、緊張を深呼吸に変えた。
耳に入った情報が脳内でパズルを組み立て、形を成していく。
推理小説家が――以前から組み込んだ――来週までの予定。ひとつ、当てはまる。
何たる奇遇。
このまま、長野を目指したいと心が珍しく騒ぎ立てる。逸る気をハンドルに見立て、グッと堪えた。
「剣持君、雪峯君と合流します」
「え? あ、はい。雪峯……いま、どこ……うお!」
剣持警部の電話が続いているのも気にせず、車を発進させる。
明智が何においても、参加しなければならないミステリーナイト。舞台であるバルト城に、様々な思惑が集いつつある。これは直感ではなく、執念によって構成された――謂わば、信念によるモノ。
(感動的な夫婦の対面……か?)
走行中の微かな振動を皮膚に感じつつ、名探偵の孫へ言い訳を考える。同級生の父親が同伴するなど、年頃には気まずいかもしれない。しかし、彼はいつも厚かましく、老若男女問わず、他人の心を開かせる人柄を持つ。
そもそも、その図々しい性格から、残間へ頼み事をした仲でもあった。
無用な気遣いと結論した――のは早計だったと当日、知る。
はじめ「どうも、金田一です! さとみさんのお父さん♪ 今日はよろしく……ん? 俺に『お父さん』呼ばわりされる筋合いはない? ……やだなあ、残間さん! 俺、さとみさんを狙ってませんよ。え? 娘に魅力がないのかって?(おっと、これは何を言ってもヤバいヤツ)。魅力と言えば、残間さん……体育祭でモテモテだったじゃないですか。いよ、この色男♪ ……話、逸らしてませんって(明智サン、笑ってないで助けろよ~)。さて、次回は『REDRUMを名乗る女・到着』!! メグレ伯爵……(絶句)」
梶原 裕子(比留田 裕子)
雪夜叉伝説殺人事件ドラマ版ゲストキャラ、氷室画伯の元同級生(氷室本人は覚えていない)
劇中にて、事故の生存者。梶原と言う男性と結婚しており、『梶原裕子』と言う名で生存者リストに名がある。現場に現れた加納達へ「ここに氷室画伯がいる」と教えた人物
事件時期は離婚し、旧姓の比留田と名乗っていた
作中にて、比留田 雅志と職場結婚。『梶原』を旧姓扱いにしています。事故や事件と無関係、綾辻の支援団体代表を務める
加納、明石の元伴侶
穴埋めオリキャラ。夫婦仲は険悪、事件後に死別離婚した。梶原の誘いにて、支援団体に所属中