金田少年の生徒会日誌 作:珍明
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マリア・フリードリヒはミステリーナイトへ参加せんが為、来日した。
信州の山奥に移築されたバルト城は元々、フリードリヒ家が所有していた。
かつては城主として栄華を誇っていたが、時代の流れに一族は衰退。あの世界大戦後、城は国家に没収された。政府も持て余し、30年近く前、遠い日本のテーマパーク企業に買い取られた。
だが、故郷でも吸血鬼の住処と揶揄された城。その呪いを受けたかのように、開発会社は倒産したという。陽の目を見ず、打ち捨てられていた。
マリアが取り戻そうにも、金銭的な意味合いも含めて不可能。
もう、朽ち果てるのを待つしかない。
そこへバルト城の所有権を賭けた推理イベント開催、願ってもない機会に心躍った。
エリザベート・フリードリヒの名にかけて、取り戻そう。
慣れぬ土地を歩くのは、我が身に堪える。そこへ天の助けと言わんばかりに立派な車が軽快な走りで、通りがかった。
男3人の顔立ちや喋り方はバラバラ、同じ家庭の育ちではないとすぐに分かる。
「ワタシ、城へ行きたい」
「どうやら、同じ参加者の方ですね。マリアさん……どうぞ、後ろの座席へ。金田一君、助手席へ移りたまえ」
「え~、明智サンの隣~?」
マリアの招待状を見せれば、眼鏡を掛けた若い青年の運転手は快く乗せてくれた。髪を結んだ太い眉毛の少年は指示に不満そうだが、席を譲ろうと後部座席のドアを開けた。
「いや……私が移ろう」
「残間さん? あ……はい、お姉さんどうぞ」
「
体格の良い中年男性が大きな黒目を揺らし、反対側のドアから出て行く。彼はそそくさと助手席へ乗り、手早くシートベルトを締めた。
座り心地の良いシート、気は抜けないが一先ずは安心だ。
走り出す車内は、とても静まり返っていた。マリアは兎も角、彼らは何を緊張しているのだろう。
「金田一さん……何か喋って、盛り上げてくれ」
「俺~!? 残間さん、無茶をおっしゃる。……お姉さん、道に迷ってたんスか? 突然、出てきたから……ビックリしちゃって……」
「……ワタシだけでは、行ケナイ……」
とても愉快な少年だ。
「送迎バスが出ていますから、それに乗り遅れたのでしょう」
「ああ、成程。こんな山道、よく歩いて来れるなあ~って思ったら……そう言えば、マリアさん、知ってます? バルト城って地元の人には『蠟人形の館』って呼ばれるんですよ。しかも、死霊が住み着いちゃっててさ。『Mr.レッドラム』がそうだったりして♪」
長らく放置された城、それに相応しい名称が付けられていた。
国が違っても、人の恐れは何処か、似ている。
「金田一君、『蠟人形城』です。そんな早口で伝えては、マリアさんも聞き取りづらいでしょう」
「ンだよ、明智サン。ちょ~っと言い間違えただけだろうが。それにマリアさんは、日本語のニュアンスがちゃんと伝わってる感じだぜ。な?」
「大丈夫デス。聞き取り、出来マス」
「明智さん、暖房を入れて欲しい。妙に肌寒い……コートを着て来れば、良かったな」
「高地ですからね、秋の涼しさも初冬の寒さに匹敵しますよ」
残間は自らの肩を抱き、寒そうに震える。明智は運転しながら、温風を助手席へ行き渡らせた。マリアの膝にも、暖かさが舞い込む。
快適だ。
「あ……やっと、笑ってくれた。マリアさんも寒かったんスか?」
「寒かった……と思いマスワ」
ニッコリと笑い、金田一はこちらの体調も心配してくれる。マリアは寒さに強いと自負しており、この肌に冷気を当てられようとも感じない。だが、温かさには敏感なつもりだ。
そう、彼のような人の持つ温もりさえも――。
「明智さん……もっと、温度を上げてくれ。さっきから、寒気が取れなくてね」
「一度、止まりましょう。残間さん、外の空気を……」
「いや、それは手間になる。このまま……向かおう。目的地へ到着したら、休ませてもらうよ」
「分かりました。少し速度を上げます」
十分に暖房の効いた車内だと言うのに、残間のガタガタとした震えは止まらぬ。明智の気遣いにて、車の速度を上げるが、安全運転故にマリアの心を弾ませた。
堅牢な石造りの城は守りに特化し、来る者を拒む物々しさがある。それは母国より遠い土地であろうとも、領主の威厳を損なわない証だ。
車へ乗ったまま、跳ね橋を渡る。舗装された道路から、頑丈な木板の上へタイヤが走った時は感無量だった。
――ああ、懐かしきフリードリヒ家の誇り
中庭に駐車され、マリアは迷わずにドアを開ける。芝生へ足を踏み入れ、本当に城へ来られたと実感した。
涼しい風を頬へ受け、白い雲に覆われつつある空を見上げる。
天気の読み方は、ドイツとそう変わらぬ。夜には雷雨が城を覆い、マリアへ歓迎の閃光を放つだろう。
「こうして見ると、マリアさんにこの城。お似合いっスね」
「
金田一は荷物を下ろしながら、中庭をキョロキョロと見回す。純粋な賛辞が嬉しくて、マリアは心が温かくなった。
「……先に行く」
ヒュウッと風が吹き、残間はまた震え上がる。己の荷物を手にし、ささっと正面玄関へ急ぐ。しかも、ドアノッカーをコンコンッと打つ音に焦りが籠っていた。
「……? ワタシ……何か、失礼デシタ?」
「いいえ、マリアさん。残間さんは金田一君が出会ったばかりのレディと、仲良くしているのを見ていられないだけです」
「いやいや、明智サン! それは残間さんが盛り上げろって言うから……」
「参加者です! どなたか、いらっしゃいませんか!!」
金田一と明智のあどけないやり取りが続く中、ドアノッカーの連打は続く。残間はとうとう、ドアそのものを強く殴る勢いで叩き始めた。
「誰も出んな……よし、帰ろう。明智さん、車を出してくれ」
「まあまあ、残間さん。こういう時は、開けちゃえばいいんスよ♪」
唇まで真っ青になり、残間はグルリッとこちらを振り向く。その迫力にギョッとしつつ、金田一は遠慮せずにドアノブを回す。
簡単に開いたものの、中は暗過ぎる。壁に掛けられた燭台の炎は目に優しいが、少し頼りない気もした。
外よりも冷たい空気。人の住む気配はなくても、誰かが掃除に手を入れた雰囲気は分かる。
「ゴメンくださ~い、誰もいないんですかあ!」
「靴跡がある。誰かはいるだろうな」
金田一の呼び声に応える者なし。残間は鞄から大型懐中電灯を取り出し、床を照らす。マリアも目を凝らして、石畳を見やる。微かに固まった砂と土、確かに靴底の形を成していた。
「へえ、残間さん。デッカイ懐中電灯っスね。ミステリーナイトに使うんですか?」
「山奥が開催地と聞いてね、持って来たんだよ。金田一さん、持つかい?」
「寧ろ、金田一君。持って来てないんですか?」
金田一が素直に感心すれば、残間は照れ臭そうに微笑む。その隣で、明智は必需品と言わんばかりに内ポケットから細い懐中電灯を見せ付けた。
何に対して張り合っているのか、マリアには分からない。
「明智さん、ソレさあ……マリアさんにも失礼じゃん。残間さん、有難く借りますね。……うわあ!!」
「!?」
明智を一睨みした後、金田一は大型懐中電灯を喜んで借りる。床や壁、柱を照らしている最中に唐突な悲鳴が上がった。
壁に並んだ衛兵。槍を持った彼らはこちらを全く気にせず、呼吸音や体温すらない。完全に無機物だ。
「蠟人形だな、これが俗称の由来か」
「その様ですね。引き取りのない彼らは、立派な住人と言うワケです」
「……んだよ、ビックリした。ここまでテーマパークの準備したんなら、他の会社が事業を引き継ぎゃあいいのに……」
3人の会話を聞きながら、マリアは納得する。生きた人間の代わりに残された蠟人形達。彼らへ挨拶がてらに目を向け、靴音を響かせた。
真っ直ぐ歩いた先にひとつの扉、残間は慎重に開ける。
また燭台のみ照明。室内の隅々まで光を行き渡らせ、マリアは眩しさに一瞬だけ目を伏せた。
様々な物を掲げた蠟人形が壁際に並ぶ。柱時計、ソファーやテーブル、11人分のティーセット、カーテンに床のカーペットは掃除されているが、シミの加減から、元々あった家具に違いない。
先客らしき6人は各々、ソファーに座り、窓際に立つなど、それなりに寛いでいる。その中で、マリアと同じ外国人は2人。どちらも己が推理に自信ありと見た。
「はは……どうも、俺達も参加者でして……」
新たな訪問者へ歓迎や好奇心の視線を向けられても、金田一は挨拶を欠かさない。何と礼儀正しい少年だ。
「OH! 金田一クンじゃないデスカ!! お久しぶりデス!」
「へ……? げえぇ、メグレ伯爵!? な、なんでアンタがここに……!?」
如何にも探偵の様式美を揃えた男が金髪をキラキラと輝かせ、仰天した金田一を思いっ切り抱き締めた。
どうやら、知り合いらしい。
「金田一君、誰ですか? そのやたらと無駄に眩しい人は?」
「明智さんがそれ言っちゃう? この人はセバスティアン・ルージュ・ド・メグレっつ~探偵! ……前にちょっと知り合っただけで、詳しくは剣持のオッサンにでも聞いてくれ。……てか、離れろ。俺とアンタはこういう事する仲じゃないだろ!」
「ワタシ、キミに夢中デス。その腕前、実に素晴らしカッタ」
さっと距離を取り、明智は興味なく問う。金田一が慌ててセバスティアン・ルージュ・ド・メグレ伯爵を引き離そうとするが、意味深な発言に場の空気は凍り付いた。
「金田一さん、守備範囲広いな。私の娘も遊びかね?」
「ち、ち、違いますって! 色んな意味で! 残間さん、勘弁してくださいよお~」
残間の冷ややかな視線を受け、困り果てた金田一は頭を抱えた。
「やっぱり、残間 青完。どうして、アナタなんかがここに? まさか、ミステリーナイトに参加するつもりじゃないでしょうね?」
「多岐川さんっ。驚いた……貴女も参加されるとは大変、心強い」
ストレートヘアの淑女は呆れた口調で言い放ち、苛々とした様子で腕を組む。左手の薬指に嵌められた指輪が燭台の炎の反射を受け、キラリッと光った。
残間は偶然の出会いを喜び、礼儀正しく頭を下げる。正反対の態度だが、こちらの男女も顔見知り。
組まれてしまえば、マリアに不利と働くだろう。明智も似たような考えを持つのか、目付きが鋭くなった。
「多岐川……!! メグレ伯爵、マジに離れろって。残間さん、その人は……」
「ああ、紹介しよう。妻の友人で多岐川 かほるさんだ。多岐川さん、こちらは
「アナタが金田一さんね、お友達から噂は聞いているわ」
金田一はメグレ伯爵を押し退け、大人2人の間へ割り込む。残間はほんのりと穏やかになり、
『お友達』が誰かは分からないが、多岐川の金田一を見る眼差しはやはり、優しい。
「それと明智 健吾さん。色々とお世話になっている人だよ」
「初めまして、明智です。以前から、名前を書籍より拝見しております。本日は日本ミステリー界の女王にお会いでき、光栄です」
「まあ、恐縮ですわ」
残間に紹介された明智も多岐川へ紳士的だが、何処なく剣呑さが見え隠れした。
「明智 健吾だって? 俺、アンタを知ってるぜ。刑事だろ? 従姉がロスで犯罪心理分析官やっててな、アンタの活躍をよく聞かされたもんだ」
「ほお、真木目さんのご親戚とは……またこれは懐かしいですね」
「……俺、まだ名乗ってないのに……従姉が誰か分かっちまったの?」
「当然です。当時、ロスにいた唯一の日本人犯罪心理分析官と言えば、真木目 ひとみさんただ1人。彼女を知らずして、ロスを語れません」
ミステリーナイトに縁の無さそうな軽薄な男・
「アハハ! あの従姉がこんなに高く買われてるとは! 俺は真木目 仁、こう見えても犯罪ルポライターだ。よろしくな」
真木目は大笑いし、明智の方をバンバンッと叩く。少し避けている仕草が、マリアには面白かった。
「おいおい、知り合い同士ばっかりじゃないか。まさか、賞品欲しさに結託したんじゃあないだろうな?」
「ってぇ事は、アナタも誰かと知り合いなワケですか? え~と……」
「その人は坂東 九三郎さん、推理小説評論家よ。私の知り合い枠に入るのかしら? 仕事上、お互いを知っているんだしねえ」
眼鏡を掛け、頬骨の出た男・
坂東は悔しそうに口元を曲げ、そっぽ向く。
「それなら、ワタシもマドモアゼルを知ってマス。当麻 恵、優秀な探偵デス」
「あら、ありがとう。メグレ伯爵」
メグレ伯爵は咥え煙草の淑女・
彼は次にマリアへクリッとした瞳を向け、黒い手袋で覆われた手で己の顎へ触る。記憶にある人相を検索しているのだろう。
「……マドモアゼル、アナタのような美しい人を知らないなんて。そんな罪深いワタシを罰してクダサイ」
「
悩んだ果てにメグレ伯爵は深く詫び、マリアの手を取る。本当に気にしていない為、本心を告げた。
「マリアさんだよ、来る途中で一緒になったんだ」
「ふうん、ドイツ人ね」
金田一に紹介してもらうが、当麻はマリアに興味なさそうだ。
「ちなみにソイツ、知らないデス」
「ワタシもコイツ、知らないデス」
メグレ伯爵は笑みを崩さず、口髭の男を指差す。彼も負けじと笑顔で指し返す。練習して来たかのように、呼吸がピッタリと噛み合った皮肉だ。
「いきなり、メグレ伯爵が辛辣に!? もしかして、お友達……?」
「ノンノン、金田一サン。ワタシ、イギリスから来マシタ。こんなフランス野郎と一緒にしないデネ。リチャード・アンダーソン、言います。気軽にリチャード、呼んでクダサイ」
「リチャード・アンダーソン! おっどろいた~犯罪心理学者の権威だぜ」
汗だくの金田一がメグレ伯爵の無礼を詫びるように、陽気なリチャード・アンダーソンへ声をかける。彼の自己紹介を聞き、真木目が本当にビックリしていた。
「……結局、人類皆兄弟か」
「何言ってんだか、この人は……」
勝手に納得した残間がボソッと呟き、多岐川は深いため息だ。
「もうすぐ午後3時だ。参加者もこれで全員だろう。そろそろ、アレの謎解きを始めた方が良いんじゃないか? 向こうも待ち草臥れてる」
腕時計と柱時計を見比べ、坂東はもうひとつの扉に貼られた紙を指差す。【NOOM】と書かれ、雑に張られていた。
「何か、意味があるんスか?」
「案内人の南山から、説明されただろ。俺達への腕試しさ」
金田一が貼り紙について聞けば、真木目から知らない名前が出た。
「ワタシ、その人……会ってマセン」
「おや? おかしいデスネ、ワタシ達が着いた時に待ち伏せてイマシタ」
「それを言うなら、出迎えるデス。ユー、日本語勉強不足ネ」
マリアがメグレ伯爵へ確かめ、リチャードがチッチッチと人差し指を動かす。彼らは一々、茶々を入れないと気が済まないらしい。ニンマリと火花を散らすが、ちょっと楽しそうに見えるのは何故だろう。
「ここに着いてから、ずっとあんな感じよ。お陰で謎解きも進みやしない」
当麻はやれやれと煙草の煙を吐き出し、誰かが苦笑の声を上げた。
「つまり……
「残間さん?」
残間は静かに室内を見渡し、ひとつの蝋人形へ迷いなく近寄る。明智に答えず、彼は掲げられた月を徐に取ったかと思えば、反対向きにして置き直した。
カチッとした音に、貼り紙のある扉が勝手に開く。まさかの仕掛けに驚き、マリアは息を呑んだ。
「ヒュ~♪ 残間さん、やるじゃん。あっと言う間に解いちまった」
「いや、分からん。ここだけ動きそうだったから、やってみただけだ」
「ウソだろ……」
感心した金田一の称賛を受けたにも関わらず、残間はあっさりと暴露する。真木目がズルッと転びかけた。
「やっぱり……あのね、残間さん。これは推理ゲームなの! せめて頭を使ってから、仕掛けを見抜きなさい!」
「分かった、やってみよう」
眉間にシワを寄せ、多岐川は幼子を叱り付けるような口調で注意したが、残間は平然と言い放つ。
彼の平坦な口調をマリアは不気味に思う。叱られた理由が分からず、取り敢えず返事はしたと言わんばかりだった。
「……本当に、分かってるのかしら?」
「多岐川先生にも、苦手な人っているんですね」
不信感を募らせる多岐川へ坂東は小気味良く、笑った。
「金田一クン、解説をお願いシマス」
「ああ、貼り紙を反対から読むと【MOON】になるだろ? 『月の形をした物』を反対にしろ、そう言う意味だったのさ」
メグレ伯爵に催促され、金田一は貼り紙を剥がす。動作を含めた解説は、マリアにも分かりやすい。
「流石ね、金田一君。お祖父様の血筋は、伊達じゃないわ」
「当麻さんは……俺のコト、知ってんスね」
当麻が感心のあまり頷いた時、柱時計がボーンボーンと午後3時を告げた。
「さあ、時間デス。奥へ行きまショウ」
「仕切らないでクダサイ」
「ちょっと待った!
リチャードとメグレ伯爵がニッコニコにいがみ合いながら、奥へ進もうとする。すぐに金田一が呼び止めた。
「……10人も、
「金田一さん、遅れた人は仕方ないわ」
「左様にございます」
残間が指折り数えようとしたが、煩わしそうに多岐川は手を掴んで止めさせる。そこに誰でもない声が入り込んだ。
奥の暗がりから、ぬっと背広姿に蝶ネクタイの厳つい男が姿を見せた。
マリアを含め、金田一達もビックリ仰天。
「南山さん、何処にいたの?」
「申し訳ございません、御主人様の支度を優先しておりました。明智様、フリードリヒ様、金田一様……そちらの方は?」
多岐川に聞かれ、
「私は残間 青完、銭形 ケンタロウの代理です。賞品の権利は無くとも、私の参加を認めて頂けるように銭形さん本人から一筆、書いて頂きました」
「そのような勝手は、困ります」
「私は構わんぞ、ライバルは1人でも減った方が良い!」
残間の淡々とした説明を聞き、南山は渋い顔になる。坂東が嬉しそうに代理を受け入れた。
「代理に……権利は無いってか」
「金田一君、仕方ありませんよ。主催者に相談なく、決めた事ですから」
金田一は笑みを消し、辛そうに視線を下げる。彼の態度が珍しいらしく、明智は気遣うような口調で窘めた。
「残間様の参加は『レッドラム』様に、判断を委ねます。……どうぞ、ご案内致します」
南山はランプを片手に皆を導く様、歩き出す。接客慣れした所作を見られ、案内人に相違なし。イベントは本当に行われる実感を得られ、マリアはホッとひと安心。
金田一がさっと付き従い、明智は最後尾。
最低限の灯りしかない廊下、人が多い分だけ楽しめる。
ひとつの扉の前へ案内され、南山は一度、皆を振り返った。
「こちらへ『レッドラム』様がお待ちです」
(ようやく、今の城主と……)
マリアの手は誰よりも、緊張に震えていた。
ギギッと勿体付け、扉が開く。
暖炉の炎がバチバチと爆ぜる音を耳にし、10人分の人影が視界に飛び込んだ。
否、それもまた蠟人形。
「え! こ、これは……俺達に激似……。銭形さんもいる~……」
金田一が驚くのも無理はない。マリア達と同じ顔が舞踏会のように着飾った衣装を纏い、椅子に座らされていた。1人知らない顔、本来の参加者だろう。
「私がいない……」
「……当たり前でしょ」
残間が心底、残念そうに呟く。多岐川は眉間のシワを指先で解し、ため息だ。
「ひとつ、席が空いてマス。リチャード、ムッシュの席では?」
「ユーがどうぞ」
メグレ伯爵の指摘通り、ひとつだけ不自然に空席。リチャードとの押し付け合いが始まった。
――パチパチ
人の手が叩く、拍手音。
マリア達とは別の扉にその人物は、気配なく立つ。
中東系の衣装を身に纏い、白い手袋、目元を隠したサングラス。一見すれば、アンバランスな装いだが、暖炉と燭台しかない薄暗さの中では、雰囲気にマッチしていると言ってもいい。
男物の服を着ようとも、マリアは腰の湾曲から女だと見抜く。
「――ようこそ、『蠟人形城』へ! 私が司会進行の『レッドラム』!! さあ、始めよう! 今宵のバルト城は推理に飢えている!! ――」
『レッドラム』は芝居かかった動きにて、参加者を大歓迎。鷹揚に胸元へ手をやり、声高らかにミステリーナイト開幕を宣言した。
マリアの心が暖炉の炎が如く燃え上がり、皆の気分も高揚していく。
「は?」
ただ1人、多岐川だけが愕然とする。腹の底から力が抜けたような声は壁へ反響し、マリアの耳を打った。
「……? 貴女は……」
「ちょっ……残間さん、マズイって……ええ、止まんない」
怪訝そうに顔をしかめ、残間は遠慮なく『レッドラム』へ近寄る。あまりにも不躾過ぎて、金田一は咄嗟に彼の腕を掴んだが、意にも介さない。ズルズルと少年を引き摺った。
「――さて、諸君らが待ち望んだお題だが……――。何だ、貴様? アタシが喋っ……」
「
口上を邪魔された『レッドラム』は口元を歪め、迫りくる残間から仰け反った。
それに構わず、彼は何かを問いかける。決して大きくない言葉もまた、暖炉の間へ響き渡った。
「ええ!? にいみって……
「はあ!?」
金田一の叫び声に多岐川もつられ、流石にうるさい。
「金田一さん、いつ……私の腕に?」
「……残間 青完?」
「……!?」
残間がキョトンと彼を見下ろせば、『レッドラム』は不可解そうにサングラスを外す。明智さえも見知った顔を目にしたように、ギョッとした。
年の頃は多岐川や当麻と差はないだろう。化粧気のない頬、填め込まれたような眼球はギラギラと鋭き、目の下の隈は戦士の風格を備えていた。
「にいみ……!」
一日千秋の想い、弾ませた声にはそれ程の感情が宿っている。困惑したマリア達を置き去りに、感動の再会が果たされた。
「ウザッ、帰れ」
にいみと呼ばれた『レッドラム』はさも迷惑そうに、言い放つ。その拒絶は蠟人形よりも、冷たかった。
銭形「銭形 ケンタロウです。僕はドラマ版で活躍していますので、是非ともご視聴ください。原作・アニメは10人参加、ドラマは11人。ドラマ版の招待状は他の参加者の名前、アニメ版に城の見取り図付きなどパンフレットなど、ちょっと違う点も楽しんでくれたら、いいな。それにしても……探偵、刑事、小説家、推理評論家、ライター、監察医……そして、金田一君。……聞くだけで、楽しそう……。さて、次回は『REDRUMを名乗る女・開幕』!! ……未解決事件を推理する? 絶対、面白いヤツじゃん」
セバスティアン・ルージュ・ド・メグレ
仏蘭西銀貨殺人事件ゲストキャラ。作中にて、ミステリーナイトへ参加。この人がいなかったら、暗い雰囲気のまま話が進むところだった。マジ感謝しかない