金田少年の生徒会日誌 作:珍明
暖炉と燭台の炎が揺らぎ、椅子へ座らされた蠟人形達は黙して語らず。
マリアは今こそ、彼らの心境を知りたくなった。
「あの『レッドラム』さん、残間さんに帰れって……冗談ですよね?」
「本気も本気だ。代理参加は認めん。南山、追い払え」
「はい、『レッドラム』様。残間様、お帰りはこちらです」
必死に笑いながら、
「にいみ……やっと、口を利いてくれたね」
「残間さん! マジ、空気読んで! そんな場合じゃないから!」
微笑んだ
「待ちなさい、……アナタにそれを決める権利があるのかしら? 招待状やパンフレットに、代理参加を禁止するような記載はないはずよ」
「多岐川、この男がいると……折角の推理ゲームが引っ掻き回されるぞ。暗号を出題しても、解かずに『この置物が仕掛けくさい』とか言い出しかねん」
「「「……」」」
まるで先程のやり取りを見ていたような言い分に、全員が沈黙。マリアもそっと目を逸らす。
「流石、にいみ……私をよく分かっている」
((褒めてねえよ))
残間が勝手に照れ出し、金田一と
「それもそうね、残間さんは追い返しましょう」
「多岐川さん!? アンタ、どっちの味方だよ!」
「金田一様、そこを退いて下さい」
あっさりと多岐川は残間を見捨て、金田一は再び喚く。それでも、南山を必死に防いだ。
マリアはどうしたものかと他の人を見やるが、彼を手助けする者はいない。
「多岐川さんは、にいみの味方だよ」
「残間さん、金田一君の……!」
のほほんと残間は答え、明智が失礼の無い様に間へ入ろうとした瞬間、マリアも異変を察知する。暖炉の間にある燭台がカタカタと微弱に揺れ、振動を床の下、地面から感じ取った。
――ゴゴッ
「何だ、この音……!?」
真木目は動揺しても、すぐに唯一の窓へ駆け寄る。外を見やれば、跳ね橋が上がった。
「タイマーが作動しました。皆様は4日間のミステリーナイトに集中して頂く為、外へ出られません」
「何!? 私達を閉じ込める気か! おい、アンタ……どういうつもりだ!」
「主催者の趣向とだけ、言っておく」
(主催者……)
南山の淡々とした説明に
彼女は
「となると……アイツをどうするか……南山、川に投げ捨てようか? 麓の村へ流れ着くだろ」
「『レッドラム』様、暴力はよくありません。銭形様の代理として、おもてなししませんと……」
「南山さん、諫める部分が違うでしょう!!」
物騒なコソコソ話は丸聞こえ、金田一はまたもや律儀に喚く。数分の間に大声を出し続け、彼の声が枯れないか、マリアは心配になってきた。
「皆様、外部との連絡も禁止です。携帯電話をお持ちの方、こちらでお預かりします」
「……え、ミステリーツアーとは言え、やり過ぎじゃないの?」
南山は懐から、箱を取り出して連絡手段を没収。多岐川はブツクサ言いながら従い、皆もそれに倣った。
「俺、ポケベルしか持ってねえけど、これもダメ?」
「へえ、今の高校生。ポケベル持ってんだ。俺はPHSだから持って来なったぜ、こんな山ん中じゃあ……電波届かねえし」
金田一の持つポケベルを見ながら、真木目は持ってないポーズ。
マリアもそんなハイテクな物を持っておらず、メグレ伯爵やリチャードも同様で安心した。
「フフ、面白いじゃない。古城に閉じ込められたクローズド・サークル、ここまで手の込んだ段取り……お題とやらも、期待出来るわ」
「マドモアゼル当麻の言う通りデス。さあ、『レッドラム』! 聞かせてクダサイ。
余裕の表情たる
リチャードを含めた数人の対抗心に火を付け、冷たい視線をメグレ伯爵へ向けた。
「良かろう。
「畏まりました」
メグレ伯爵の絶対なる自信へ鷹揚と笑い、『レッドラム』は蠟人形達の空席へ腰掛ける。命じられた南山は奥の扉へ引っ込み、パーティションを慎重に運んで来た。
「一体……何をするつもり?」
「多岐川さん、静かに。これから……にいみが喋る」
「残間さん、アンタなあ……」
多岐川が緊張のあまり、ゴクリッと唾を飲み込む。残間の呑気な言い草に、金田一は呆れ果てていた。
「――さて、諸君らが待ち望んだお題だが、とある未解決事件へ挑んでもらう!! 日本の警察が手を尽くしながら、虚しくも時効を迎えた……その名も『4億円事件』!! ――」
『レッドラム』が台本のような言い回しで告げた瞬間、マリアは言い様のない寒気に襲われる。こちらへ向けられていないが、この感覚は知っている。強烈な
「あの……どんな事件デスカ?」
「名前だけ、知ってマスガ……ワタシも内容、サッパリ……」
「こんな大事件も知らないなんて、ユーは何しに日本へ?」
マリアがコッソリとメグレ伯爵へ尋ねるが、リチャードから小馬鹿にされた。
「静かにっ。今、にいみが喋っている」
「「「ゴメンナサイ」」」
半眼の残間に睨まされ、3人は咄嗟に口を押さえた。
「――当時の報道を参考に、資料を用意した! 実際の捜査資料とは若干の違いはあるが、諸君らの想像力で補ってくれたまえ! ――」
その間、『レッドラム』の意気揚々とした口上は続く。自分達以外は誰も彼女から目を離さず、真剣に聞き入っていた。
南山はパーティションを広げ、そこへ貼られた新聞の切り抜きや写真を見せ付けた。
「――諸君らの明晰な頭脳が導き出した〝答え〟、私はそれに期待する。4日間を使い、主催者を納得せしめた者に褒美が与えられるであろう――」
「へえ……、よく纏まってんじゃん」
『レッドラム』はそう締め括り、パーティションの前に立つ。真木目は資料を眺め、感心そうな表情を浮かべる。他の皆も似たり寄ったりだが、各々の緊張は伝わってきた。
26年前の東京、雨の中を走る現金輸送車。白バイに扮した犯人、犯行現場に残された数多くの『遺留品』。
事件そのものを知らないが、マリアもどうにか概要を把握。
「ちょっと待ってくれ……迷宮入りの事件なんて、どうやって解けって言うんだ! か、仮に犯人が分かっても……肝心の答え合わせは、どうする!? なあ、そうだろ!」
「OH~ムッシュ坂東。コレ、
目を見開き、坂東は激しく狼狽える。皆に同意を求めたが、メグレ伯爵しか返事をしない。
「良い着眼点だ、セバスティアン・ルージュ・ド・メグレ。流石、本場の名探偵は違うな」
「メルシー、マドモアゼル」
「……ぐっ」
『レッドラム』はサングラスをズラし、メグレ伯爵へ賛辞を送る。坂東は納得できず、歯を食いしばった。
「本場、ワタシの国デス……」
リチャードはわざとらしく肩を竦め、対抗剥き出し。その仕草に、クスクスと笑いが起こった。
「マリアさん、ヒップホップダンスって何?」
「……ぷっ」
「金田一君に説明するなら、体験型シミュレーションイベントですよ」
金田一に耳打ちされ、マリアは言い間違いの面白さに吹きだしてしまう。明智が代わりに答えてくれた。
「1回目の
「どうぞ、こちらです」
「そんな……にいみ、私もそっちがいい」
「NO~Mr.残間、レディの指示に従うのが賢い選択デス」
さっと歩き出し、『レッドラム』は奥の扉へ向かう。
マリア達は言われた通りに南山へ着いて行こうとしたが、残間が初めて駄々を捏ねだす。リチャードがハッハッハッと笑いながら、彼の肩へ手を添えた。
「ところで多岐川、
「そうよ、
(……11人の参加者に、
彼女達の話題を耳にし、マリアも疑問しながら薄暗い廊下へ出た。
「南山さん、携帯電話を少しだけ返して貰えませんか? 家族へ連絡したい」
「例外は認めません」
足音が響く中、残間は切実に南山へ頼む。一蹴され、また彼は落ち込む。
「ところでMr.残間、『レッドラム』とはどういうゴ関係デ? かなり、親密に見えマス」
「……妻、です」
「!? やっぱり、アンタら……裏で手を回したな!」
リチャードは好奇心旺盛に残間の事情へ踏み込む。返事に驚き、坂東は過剰な程に震え上がった。
「いやいや、坂東さん。グルだったら、夫に対して「ウザ」とか「帰れ」なんて言う? 当麻さんにマリアさん、同じ女としてどう思う?」
「夫婦喧嘩は犬も食わないものよ」
「犬……?」
真木目に話を振られたが、マリアは当麻の返しに気を取られる。ニュアンスから、日本の諺とは思う。
「マリア、カップルのケンカは放って置けば良い。そういう意味デス」
「ナルホド」
親切に教えてくれたリチャードはとても、博識だ。助かる。
「お部屋に衣装をご用意しております。そちらを着用し、夜7時までに小暖炉の間へお越しください」
それぞれに部屋番号が割り振られ、南山から鍵を受け取った。
部屋の中は鉄格子、粗末なベッドとテーブルと椅子、カーペットはなし。シーツとテーブルクロス以外は元々、ここにあった家具だろう。
清掃はされているらしく、石壁特有の匂いもない。
やっと1人になれ、ひと息吐く。だが、油断は出来ない。決まっていない〝答え〟を自分自身で用意するなど、想定外だ。
(着替えて、さっきの資料を見ないと……)
蠟人形と同じ衣装、布地の肌触りの良さが嬉しくて笑みを溢す。ただ、マリア1人では着替え方が分からず、悪戦苦闘した。
廊下を駆け抜ける足音が聞こえ、マリアを更に焦らせた。
どうにか、着替えたマリアは大暖炉の間へ戻り、中途半端に開いた扉を覗き込む。
金田一と明智、メグレ伯爵、残間がパーティションを眺めている。
4人とも衣装に着替え済みだが、残間だけはキッツキツ。タートルネックの上に無理やり着込んだ為、見るからに布地が悲鳴を上げていた。
「やっぱり、ここへ来るわな。ちぇ、出し抜こうと思ったのに」
「2人も来たんスね。は~、マリアさん……本物のお姫様みたい」
「金田一さんは……何を、言っているんだね?」
マリアの後ろから、真木目が出遅れたとため息を吐く。金田一が道化師の衣装に着いた鈴を鳴らし、こちらを見惚れてくれる。残間は首を傾げ、彼を胡乱な目付きを向けた。
「マリア、グッドタイミング。ムッシュ明智が事件の詳細を教えてくれマス。でも、リチャードは……放置してOK♪」
「……リチャード、この事件を知っている様子デシタ」
「海外でも、有名ですからね」
メグレ伯爵からウィンクされ、マリアは納得する。明智はこの場に居ないリチャードに代わり、蠟人形を一瞥した。
「そりゃあ、そうだろ。俺、当時は文字も読めねえガキだったけどよ。ニュース見て、幼心に震えたのを覚えてるぜ。ケガ人なし、死人なし! 大金が盗まれただけ! 『レッドラム』は何で、この事件にしたんだ? そっちはオマケで、理由とか聞いてない?」
「ないない、部屋の鍵を渡されて……衣装に着替えろ。19時にここへ集合ってだけ……」
「司会進行の役目に、徹しているんでしょう」
真木目と金田一が情報交換し、いよいよ明智から事件の詳細が語られた。
流石は現役刑事、マリアにも分かりやすい。資料では把握できない部分も、理解出来た。
「人を殺さなかった……犯人、賢いデス。ドイツなら、今でも追われてマシタ」
「マリアの言う通り、ドイツに殺人の時効なし。素晴らしい……我が国、20年だけデス」
「へえ、日本は15年なのに……国によって違うんスね」
マリアは犯人の計画性に恐れをなし、呟く。メグレ伯爵も深刻そうに肩を竦めた時、金田一は法律の違いを知り、素直な反応を見せた。
「……もしかして、この事件の犯人。外国人じゃね? マリア姫みたいなドイツ人とか、殺人の時効がない国の……。それなら、ここまで慎重になる理由も分かるぜ」
「……何故だね、真木目さん。外国人が罪を犯そうとも、時効まで日本に滞在すればいいだけではないか? 15年はキツイかもしれんな……ビザ申請とか」
真木目がハッと閃いたが、残間は素朴な疑問を投げかけた。
「いいえ、残間さん。真木目さんの言う通りなんです。何故なら、殺人の時効がない国の人間は……日本の時効に関わらず、殺人罪に問えます」
「そう、なんスか?」
「ブラボー、ムッシュ明智。金田一クン、司法試験を受けるとイイデスヨ。その辺りの知識も自ずと、分かりマス」
明智の補足を聞き、キョトンとする金田一へメグレ伯爵は勉強を勧めた。ちょっと嫌味っぽく聞こえた。
「……つまり、にいみは……殺人を疑っている? 或いは『Mr.レッドラム』が……?」
「可能性アリマス。ムッシュ残間、奥様、この事件に興味がおありで?」
「……いや、事件よりも担当した刑事かな」
「ほお? 興味深イ」
残間の独り言をメグレ伯爵が追求すれば、そこへ奥の扉がゆっくりと開く。着替えた多岐川が慣れない衣装の為、慎重な足取りで現れた。
「あら、考える事は皆さん同じね」
「多岐川さん、おキレイです」
「ありがとう、残間さん。……アナタは無理して、着なくて良かったんじゃない? まあいいわ、どこまで何を話していたの?」
「担当刑事が退職した記事を……にいみが読んでいた話をしようとしたところです」
残間からの世辞を受け、多岐川はスッと本題へ入る。
「マリアさんとメグレ伯爵に説明すると……有名な事件の担当が退職した時、新聞に載ったりするんだぜ」
金田一の親切は嬉しいが、マリアは話を進めたくてウズウズした。メグレ伯爵は余裕の笑顔にて、どこからともなく喫煙パイプを取り出した。
「それの何処が、不思議なの? 私も執筆の参考に、退職記事くらい目を通すわ」
「多岐川さん、貴女もご存知でしょう……にいみは警察が嫌いです。……そうだ、それなのに……にいみが……可哀想だと言っていた。〝
「残間さん、もしも~し! ダメだこりゃあ……自分の世界に行っちまった」
多岐川が首を傾げ、残間も目の焦点を合わせずにブツブツと呟きだす。真木目が呼んでも、無視する様子は不気味でしかない。
「多岐川さん、知ってます? その担当刑事」
「読んだ記憶はあるけど……忘れちゃったわ。明智さん、ご存知ない? 退職したとは言え、先輩でしょ」
「……さあ、会った事あるかもしれませんね」
金田一に聞かれ、多岐川はやれやれと肩を竦める。明智が知らないなら、マリアには担当刑事とやらを知る術は廊下側の扉にいる3人だ。
彼らは息を潜め、こちらの話を盗み聞く。マリア以外に明智やメグレ伯爵、残間と多岐川の4人が気付いているが、素知らぬ振り。
「まだ来てない人にも、聞いてみる?」
「リチャード、絶対、知らナイデスネ!」
金田一が廊下側の扉を見やった時、メグレ伯爵はわざとらしく大声を出して鼻で笑う。扉の向こう側が音もなく、煩かった。
「……なんで、メグレ伯爵はリチャードをライバル視してんだよ。怖いんだけど……」
「……国がそうデス。フランスとイギリスは中世の頃から……争いがあると必ず、対立シマス」
「こういったゲームでは、場を盛り上げてくれますよ」
金田一にコソコソと耳打ちされ、マリアは率直に答える。明智はさも当然という表情だ。
「ハッ! 俺、閃いちゃった! 『Mr.レッドラム』の正体、その担当刑事だよ! 犯人を逮捕出来なかった……その無念を、俺達に晴らして欲しいんだ!」
「……ムッシュ真木目、良い線デス!」
「……っ」
真木目は意気揚々と閃き、メグレ伯爵だけが目を輝かせる。マリアも賛同しようとしたが、他のメンバーの緊迫した表情に口ごもった。
「確かに……ミステリーの設定としても、アリだわ。にいみがその刑事と結束して、今回のミステリーナイトを開催した。だとしたら……?」
「……そんな理由で……」
「違う」
多岐川が遠慮がちに推測を述べ、金田一の表情は否定的に眉を吊り上げた。残間の深く重い声が暖炉の炎を消す程、泥に満ちていた。
その泥がマリアへ纏わりつくような威圧感を持ち、恐れに生唾を飲み込んだ。
「私も、同感です」
明智はとても冷静に眼鏡の縁を押し、奥の扉へ行ってしまった。
「『レッドラム』なら、誰とも会わないわよ……明智さん、行っちゃった……」
「メグレ伯爵、『レッドラム』は部屋に?」
「一番奥の部屋へ入っていくの、見マシタ」
「ふうん、司会なのに俺達と同じ扱いなんだな……残間さん?」
4人の会話が続く中、残間はフラフラと蠟人形達の間にある空席へ腰かけた。
「真木目さん、私は時間までここにいるよ。南山さんにそう、伝えて欲しい」
「はあ、そうっスか……お3方どうする? 俺、最初に集まった部屋を見に行くぜ」
「いいわね、ここに居続けるのも何だし……マリアさんもどう?」
「ハイ……行きマス」
「んじゃあ、俺も♪ しかし、この城……徹底してるよなあ。電灯はひとつもないし、どこもかしこもロウソクだらけ……」
真木目の提案に乗り、マリア達は残間を椅子に座らせたまま、暖炉の間を後にする。廊下にはリチャード達の姿はなく、煙草の灰だけが立ち聞きの証拠を残していた。
○●……――声がする。話し声だ。
「ど、どうするんだ。あの刑事、……
「まあ、落ち着け。俺を逮捕できるのは、
「けど、用心なさい。アンタがフランス人相手だと、あそこまで冷静さを欠くとは思わなかったわ」
3人分の囁き声がする。
戦慄、余裕、警戒。三者三様の態度を取りつつ、只管に周囲へ気を配り、お互いの名前を出さない。
燭台の火が少ない広間なら、姿も見えにくい。個々の判断はしにくいだろう。
だが、幸いにも彼らは特徴のある声。
自分には人相や表情も手に取るように――分かる。
(……『Mr.レッドラム』の標的は
心臓が痛い程、脈を打つ。耳の後ろに纏わり付いた寒気が一向に、治まらない。
元夫は相変わらず、黒目の大きな瞳に生気はなく、心も死んでいる。そんな状態でありながら、人の正念場に首を突っ込むなど、煩わしい。
一度は
3年前、航海日誌を読んだ時から、積み重ねた全てが――無駄になった。
――それもこれも、
――或いは、母に
悲恋湖の事件報道から、数週間。自分はTV画面に問い続けた。
バルト城の招待状を
『Mr.レッドラム』に
『雲場村』の窯元は良い壺を作ると話した矢先、バルト城の図面を見せてくれた。古城を舞台にした『完全犯罪』を練っている最中だと、いつものデリカシーのない話題を自慢げに語られたのは今でも、思い出せる。
悪い予兆として――。
〝にいみちゃん、完成された犯罪は『芸術』なんだぜ〟
机上の空論であるならば、そうだと認めよう。だが、現実は違う。
これまでの経験則に基づき、否定しよう。それにより、彼と最悪の形で再会しようが構わない。
――かほるが参加しているなら、尚更だ。
サングラスの触れた皮膚から、汗が滲む。手袋をハンカチ代わりに拭い、聴覚を必死に働かせ続けた。
「だが……あいつらの推察通り、『Mr.レッドラム』が……担当刑事だったら……」
「在り得ないわ。それだけは、
「
余裕を持った声が宣言し、上等な革靴の足音が階段を上がってくる。彼らの会話が終了なら、情報収集も切り上げよう。文字通り、暗闇へ潜り込んだ。
これが中々に重労働、堪える。歳を感じながら、最年少の男子高校生を思い浮かべた。
あの若さが羨ましい。
(……『金田のお母さん』? あの言い方だと……息子と同じ、
名探偵の孫と実に奇妙な縁で結ばれたと思ったが、新鮮な空気を肺へ取り込むのが先だ。
真木目「真木目 ひとみよ、私もドラマ版に登場するわ。ぶっちゃけ……仁よりも、良い活躍してるから……フフフ。さて、次回は『REDRUMを名乗る女・第1回討論会』!! 仁、私を差し置いての参加よ、ちゃんと発言しなさい!」
真木目 ひとみ
ドラマ版ゲストキャラ、ロス市警の日本人犯罪心理分析官
作中にて、真木目の従姉。自身の従弟として恥じないように、法律やら何やらを叩き込んだ。明智がロス赴任中、面識あり
真木目 仁
犯罪ルポライター、バルト城をハワイに移築し別荘する目的で参加。中世ドイツの城に詳しく、エリザベート・フリードリヒを知っていた。原作にて、事件の後半でその事を思い出し(おっそ)、マリアを犯人と疑った
作中にて、従姉から明智の存在を聞かされている