金田少年の生徒会日誌 作:珍明
又、登場キャラの皆さんはゲーム感覚でやってますので、本来の推理力を発揮していません
食堂には絢爛豪華な調度品が並ぶ。
エリザベート・フリードリヒの肖像画は見栄え良く飾られ、城主としての威厳を放つ。
この煌びやかさこそ、バルト城の本来の姿に近い。
城壁へ降り注ぐ雨音が楽団の演奏に聞こえ、マリアは心地良い気分だ。
「うっひゃあ……マジもんの城だ、コレ~」
「俺達の部屋もこんくらい、豪華にしてくれよ……」
そして、『レッドラム』を視界の隅に入れての観察。
進行役の彼女にも、参加者と同じメニューコースが振る舞われる。フォークとナイフのぎこちなさは及第点だが、顔のサングラスを取って欲しい。
「『レッドラム』。アンタもそうだが、私達までこのフザけた恰好は何故だ? 蠟人形にも着せて、悪趣味だぞ」
「知らん、それも主催者の意向だ」
「……呆れた。司会進行なら、舞台の設定くらい把握しておきなさい」
流石、推理合戦に挑む者達だ。
「至らぬ点は許せ、多岐川。こちらも突然、任されたのだ。こんな英文だらけの手紙を押し付けられて……主催者の顔も知らん」
『レッドラム』が懐から二つ折にした便箋を取り出し、和やかな食事の席に緊張感が走った。
「英語はワタシの領分、見せてクダサイ」
「リチャード、引っ込んでてイイデスヨ。ワタシ、英語くらい読めマス。」
リチャードとメグレ伯爵が食事中にも関わらず、席を立つ。彼らの張り合いに「またか」とウンザリとした雰囲気が漂った。
「当麻、貴様が読め」
「ご指名とあらば、仕方ないわね」
『レッドラム』が告げた瞬間、
彼女は探偵の表情になり、白い手袋越しを整える。慎重な手付きは便箋にも、敬意を払っていた。
黙読に気を遣い、全員沈黙。
南山は音を立てずに空の食器を回収、デザートへ入れ替えた。
「……確かに司会進行の役目しか、頼まれてないわ。開幕の挨拶、討論会の指定まで……疑り深い坂東さん、この手紙は彼女の自作自演でなくってよ。筆跡から察するに、アメリカ人……初老、或いは中年の男性と言ったところね。それに……かなりの愛煙家、葉巻を吸っているわ」
「そ、そんな事まで分かるのか?」
「『Mr.レッドラム』はアメリカ人……」
当麻の説明に、坂東はビックリ。
マリアも便箋が読みたくて、食事のマナー違反と知りつつソワソワしてしまった。
「「この癖の強い字、アメリカ人に違いない」」
「アンタ達、煩い。お返しするわ」
勝手に内容を覗き込んだリチャードとメグレ伯爵に挟まれ、当麻はウンザリ。読み終えた便箋を南山の持つオボンへ返した。
「……届いたのではなく? ……押し付けられた? にいみ、アメリカに居たのか……?」
「……ウソでしょう。ちょっと待って、余計に混乱して来たわ。にいみ、アナタ……」
「『レッドラム』と呼べんなら、棄権したとみなすが?」
『レッドラム』の静かな警告は2人への解答を拒む。彼ら3人だけの諍いを肌で感じた。
「ねえねえ、あの絵……さっきから気になってたけど。マリアさんによく似てるよねえ? 綺麗な人~」
明るい声を出し、金田一は肖像画へ笑いかけてくれた。その無邪気さが愛らしくて、マリアは口元が緩んでしまう。
「金田一……ひょっとして、ギャグで言っているのか? どこが面白い?」
サングラスをズラし、『レッドラム』は金田一へ冷たく言い放つ。食堂にある全ての燭台を灯す炎が、彼女の強い感情に合わせて、揺らいだ気がする。
「にいみ。貴女が司会進行であるように、金田一さんにも役割がある。そう、目くじらを立てるな」
(ど~いう意味? 奥さん、マジ怖……)
残間の宥め方はよく分からず、金田一の困惑した内心も伝わって来た。
「あ~あれは多分、エリザベート・フリードリヒじゃあねえかな? ほら……400年前にバルト城の主だった……知っている人、いる?」
「吸血鬼と呼ばれた女城主、自らの美貌を保つ為……うら若き乙女の生き血を啜った。その犠牲者、3桁に及ぶそうよ」
「へえ~博識っスね、2人とも……」
その場の空気を和ませようと、真木目が必死に答える。当麻もスラスラと解説してくれたが、吸血鬼伝説を語られてしまい、マリアは複雑な気分だ。
金田一から素直に感心され、2人は得意げになる。
「大学の専攻が中世ヨーロッパ史だったの。あたし達の部屋が囚人部屋なら、……拷問部屋もあるはずよね、南山さん?」
「はい、現在は展示室になっております」
「……ああ、マリアさんはフリードリヒ家の末裔なのね。名字も一緒だし……」
当麻に確認され、南山は礼儀正しく答える。多岐川の口調も同じただの確認だが、マリアは返事を躊躇った。
食後のコーヒーを飲み干し、『レッドラム』は暖炉の前へゆっくりと歩く。誰もが妙な緊張感。
「――さあ、諸君。1回目の
「先ず、私だ。犯人は外国人、事件後に母国へ高飛び! よって! まだ時効は成立していない」
「「あ~坂東さん、ずりぃ!! 俺達の会話、盗み聞きしてたな!!」」
『レッドラム』が討論会開始を宣言し、坂東が勢いよく持論を述べた。マリア達が大暖炉の間にて、意見し合った内容によく似ている。勿論、金田一と真木目がブーイング。
「外国人だけでは土地勘がありすぎよ、犯人は複数。主犯は日本人、それに法律に詳しいわ。民事の時効が成立するまで、盗んだ金を使わず、身を潜めていた。かなりの知能犯ね」
「マドモアゼル多岐川に同意、ワタシ、そこにドイツ、イギリスの国籍を付け加えます。その国に、殺人の時効アリマセン。仲間の罪に気を配った!」
「Mr.メグレ、それなら最初から外国人を仲間にしまセン。犯人は日本人だけのグループ、担当した捜査官モノスゴク怪しい。時効の後に仕事、辞めてマス」
「報道でも推測された暴力団関係者、盗んだ金の使い道を考えれば……その辺が妥当ね」
多岐川、メグレ伯爵、リチャード、当麻と個人的見解を述べていく。激論の中、マリアの入り込む隙がない。段々と焦り、手の平が汗ばんでいく。
明智は口を閉ざし、静観の構え。現役故、滅多な発言は出来ないのかもしれない。
金田一は一見、退屈そう。椅子に深くもたれかかり、その大きな瞳は人々の表情を見逃さない様に忙しくなく、動かしていた。
討論会は明日もある。2人に倣い、今回は様子見が良い。そう思えば、少し肩の力が抜けた。
「やれやれ……思い付きだけで、言ってやがる。残間さんも何か、ない? 奥さんにカッコイイとこを見せないと、惚れ直してもらうチャンスでっせ」
「……成程、真木目さん。ありがとう」
真木目は早々に降参のポーズを取り、残間も討論へ巻き込ませようとする。からかう口調なのは、代理参加の彼が『レッドラム』を執拗に眺める為だろう。
やる気を出した残間は挙手、全員の視線を集める。多岐川は仏頂面になり、『レッドラム』へ抗議の視線を投げた。
案の定、無視された。その男にも、発言権はあるらしい。
「複数犯、主犯は法学部の大学生。共犯者は同じ大学のサークル仲間だ。その中に、外国人留学生もいた。当時の警察は末端ともなれば、外国語に疎い。検閲は通過しやすく、運び役を任せられる。金の行方だが、10年前に投資、或いは
「「え?」」
残間は意外にも理に適った仮説、『レッドラム』と多岐川は驚きを声に出す。
誰かが息を呑んだかと思えば、視線を合わせずに意識し合う。そんな気配を肌に感じ、マリアは皆の表情をさりげなく探ったが、特定は出来なかった。
「10年前? まだ、時効じゃないですよね」
「金田一さんには馴染みがないかな? バブル経済だよ。全国的に多くの人々が、大金を湯水の如く使っていた。あの流れに乗り、4億円を使ってしまえば……警察も見付けられない。完璧な証拠隠滅になる」
(……? バブル?)
「そっか……その手があったか、完全犯罪じゃん」
金田一の質問に淡々と答えるが、残間の説明は半分も理解できない。マリアには意味不明な単語だが、真木目は物凄く納得していた。
「バブル……あ~アレネエ、思い出シタ」
「無理せずとも、ヨロシイデス。メグレ伯爵、あれは瞬く間に終わった泡の夢……」
メグレ伯爵の笑顔は知ったかぶりになっており、リチャードの深刻な表情はバブル経済とやらを理解している。イギリス人なのに随分と日本に詳しく、優勝者候補だ。
マリアはリチャードへの警戒を強めた。
「いやいや、残間さん……するって~とアンタは何か? あいつ……犯人はバブル経済が来ると見越していた。そう言うのかね?」
「その通りです、坂東さん。主犯は20年を待たずして、大金を使う機会が訪れる。そこまで景気を測り、犯行に及んだ。私はそう考えます」
「……だとしても、無茶苦茶な計画だわ」
汗だくの坂東は愕然とし、残間への質問は独り言に近い。当麻はボソリッと吐き捨て、食後の一服を苦そうに味わった。
何故だろうか、金田一が「親子だなあ」と小さく呟いた。
「……は~、信憑性高けえなあ。どうだい、明智さん。残間さんの推理は?」
「……警察の立場を忘れて申し上げるなら……素晴らしい、一言に尽きます」
真木目に話を振られ、明智は上品に口元へ弧を描く。マリア達の人種に近い容姿である為、麗しい仕草にちょっとだけ胸が高鳴った。
「確かに、完成された犯罪は芸術……まさに『
――ダアン!
意気揚々とした多岐川が犯罪計画へ賛辞を送ろうとした瞬間、打撃音にビックリ。
『レッドラム』が暖炉に拳を叩き付け、深呼吸。その物々しい雰囲気に、残間さえも問いかけられない。
「多岐川……二度と口にするな。『芸術犯罪』など、甚だ不愉快だっ」
「にいみ……?」
サングラスの下にある眼光は見えずとも、『レッドラム』の犯罪に対する激しい憎悪が伝わった。
或いは事件の理不尽さに、怒っている。気がした。
「――素晴らしい討論であったが、今宵はここまで! 2回目は朝食後――」
「ちょっ、まだ喋ってない人も……!!」
多岐川の戸惑いに答えず、激情を抑え込んだ『レッドラム』の宣言に時間切れを察す。金田一が抗議しても、彼女は続けた。
「――そこでは1人ずつ、推理ショーを行ってもらう。犯人は参加者から選べ。一度でも選ばれた者は、二度と選べない。その条件に合うならば、諸君らで事前に決めても構わん。以上だ! さあ、明日まで好きに過ごすがよい。但し、時間を無駄にするなよ――」
『レッドラム』は司会進行の役目を終え、食堂を後にした。
荒々しい足取りから『4億円事件』をお題にした理由は決して、推理ゲームの為ではない。そう、マリアは確信を持つ。
「にいみ!」
「残間さん、いけません。金田一君、行きなさい」
「……また、俺……。わ~ったよ~!」
残間が慌てて追いかけようとしたが、明智に引き留められる。代わりに指名され、金田一はブツクサ言いつつも承諾。チリンチリンと鈴を鳴らしながら、廊下へ飛び出た。
「地下の展示室、遊戯室をご利用の方はお申し付けください。ご案内致します」
「南山さんは冷静ね、そこを買われたんでしょうけど」
空のティーカップを片付けながら、南山は騒動を見ていなかったように礼儀正しい。当麻は感心を吐き出した煙へ込め、灰皿に煙草を押し付けた。
「私が……面白くない事を言ったから、にいみを怒らせてしまった……」
「それよりも明日の討論会、どうしまショウ? ワタシ、皆さんをよく知りマセン。失礼なコトを言ってしまうかも……」
「気にしないで……私達に推理させるのが、向こうの目的なんだから」
残間が激しく落ち込み、マリアは他の方々に不安を打ち明ける。多岐川の言葉は嬉しかった。
「ワタシ、リチャードを犯人にしマス」
「ワタシ、メグレを犯人にしマス」
「はいはい、誰も止めねえよ。俺は……マリア姫、推理ショーのエスコートをしても?」
「
メグレ伯爵とリチャードが笑顔で火花を散らし、真木目はニンマリとこちらへ会釈した。彼はマリアに好意的、怖い追及の仕方はしないだろう。
「私は最後にします。その時まで、指名されなかった人が犯人です」
「……明智さん、それは全員を……いえ、刑事さんなら……当然なのかしら」
明智は静かに告げ、眉ひとつ動かぬ表情に余裕が窺える。多岐川の指摘通り、現役刑事は既に舌戦の用意が整っているのだろう。
「南山さん、展示室へ案内してくださる? 折角の古城、見て回りたいわ」
「ああ、俺も」
「ワタシ、遊戯室行きマス」
「ワタシもっ」
「畏まりました」
「私は失礼する~って、おいい!! 離せえ!!」
当麻と真木目、リチャードとメグレ伯爵を案内する為、南山は食堂を離れる。坂東は客室に戻ろうとしたが、遊戯室組に拉致らされた。
「さて、金田一君を追いかけますか」
「……? ああ、明智さんは……最初から、にいみと話すつもりで金田一さんを行かせたのか……」
「……そういう算段ね、現役の方は違うわ」
「! 他の皆さん、いなくなるまで待っていたんデスカ」
当然のように明智が歩き出し、マリア達も追いかける。正面玄関へ通じる扉が半開き状態、そこに金田一の鈴がひとつ。彼からの目印だ。
相変わらずの蠟人形を通り過ぎ、探し求めた2人を発見。
『レッドラム』は衛兵の槍を構え、文字通りに矛先を金田一へ向ける。彼は両手を上げ、蝋燭の灯りでも分かる程に青褪めていた。
「……どういう、状況?」
「あわわ……残間さん。お助けえぇ~!!」
完全に度肝を抜かれ、多岐川の呟きが妙に響く。怯え切った金田一は残間へ追い縋り、槍から身を隠した。
「にいみ、金田一さんは素人だ。一先ず、槍を下ろそう。な? お互いの言い分を聞かせてくれ」
「彼が、アタシの肩を掴んだっ。それで十分だろ」
「……だから、謝ったじゃないスか~」
残間に窘められたが、『レッドラム』は怒り心頭。サングラス越しに睨まれ、金田一は半ベソ。マリアは我が事ように臓物が震え、一歩下がった。
「……はあ~。要するに……こんな暗がりの中、触られてビックリしちゃったのね。でも、ソレはやり過ぎよ。ハッ……別に、槍にかけてないから!」
「多岐川……言わなければ、気付かんぞ。ふう……雁首揃えて、アタシに何の用だ? 主催者については本当に、何も知らないのだが……」
呆れた多岐川が注意と弁明を繰り返し、『レッドラム』は渋々と槍を元の場所へ戻した。
「イベントの話じゃないですよ。『レッドラム』……いや、
「金田一君、
途端、金田一は怯えた態度を消す。さっきまでの年相応な表情から、当麻と同じ探偵の顔付きと化す。マリアがその豹変ぶりに驚けば、明智が彼に発言を控えさせた。
2人の視線は『レッドラム』に向けられたが、マリアを意識していた。ミステリーナイトとは無関係の個人的な身内沙汰、それに巻き込まない為だ。
「……成程、個人的な話か。……そちらの明智が言うように、今は勘弁してもらいたい。多岐川の小説風に言うなら、アタシの事情は後日談だ。金田一、先ずはゲームクリアを目指せ」
それ以上、答えない。確固たる意思が『レッドラム』の語調に込められた。
「……後日談って、アンタ……本気で」
「待って、金田一さん。にいみ……後日談って言ったわね。じゃあ、前日譚があるはずよ。アナタ、このミステリーナイトの為に……私達と連絡を絶った。そう言うの?」
金田一の憤慨を諫め、多岐川は確認した。マリアに彼らの事情は分からないが、そこが重要らしい。
「……違う。このイベントは
「分かった……信じよう、にいみ」
『レッドラム』が歯がゆさを込め、サングラスに触れる。彼女の指先が微かに震え、抱え込んでいる事情の重さを察した。
残間が切なげに告げ、視線にて皆を諫める。『レッドラム』を広間側へ行かせる為、すっと道を開けた。
「『レッドラム』、ひとつ質問があります」
「……今、この状況で? ああ、うん……どうぞ」
歩き出そうとした『レッドラム』は明智に引き留められ、気が抜けた口調になった。
「法学部の大学生とは、どのようなご関係ですか?」
「……ッ」
((明智さ~ん!!))
一瞬、『レッドラム』の纏う空気が張り詰め、視線はより鋭く尖る。また槍を振り回される恐怖に襲われ、マリアと金田一はハラハラした。
「個人的な質問に当たり、返答は控えさせて頂く」
機械的な返答だけでも、十分な刃が込められていた。
『レッドラム』の姿が扉向こうに消え、ひと安心。マリアは取り繕うのも忘れ、深くため息を吐いた。
「あ~怖かった。にいみったら……何を怒っているのかしら? 寧ろ、こっちが叱ってやりたい気分よ」
「ごめんな、マリアさん。俺達の事情に巻き込んで……」
「いいえ、ワタシは平気デス」
多岐川が腕を組んでプリプリと怒り出し、金田一はマリアへ詫びる。こちらが勝手に付き添った為、彼には何の責任もない。寧ろ、こちらが遠慮するべきだった。
「……明智サン。大学生について、『レッドラム』へ質問した意味は……一体?」
「そう、そこだ。残間さんも何か、知ってるんですよね。説明してください」
「……
「また……この人はっ。もういいわ、明智さん……お願いできる?」
マリアは感じた疑問を明智に投げかける。緊張した金田一の問いに残間がキョトンとすれば、多岐川が深いため息だ。
「いえ、私からは遠慮します。残間さん、先程の推理……根拠をお聞かせ下さい」
「……根拠と言うか、犯人のモデルが……にいみの友人だったんだ。法学部の方で、いつも突拍子もない……分かりやすく例えれば『僕が考えた最強犯罪計画』を聞かせてくれたそうだ」
「……なんスか、ソレ……」
明智にせがまれ、残間は記憶を辿る。癖なのだろうか、緩慢な動きでタートルネック越しに首へ触った。
子供っぽいネーミングセンスを聞き、場は一気に緊張感を失う。金田一は脱力し、大袈裟に転ぶ。その陰で、マリアは少し和んだ。
「残間さん……私は、そこまで聞いていませんが?」
「……明智さんに、そこまで話す必要性を感じなかった」
明智が眼鏡を不気味に反射させ、距離を詰める。残間はその分を後退り、見えない火花が放たれた。
「多岐川さんは知ってます?」
「ごめんなさい……金田一さん、にいみからは聞いた事ないわ。……誰でしたっけ、残間さん。その学生さん……」
「名前は伏せさせて欲しい。ゲームとは言え、面識のない相手を……犯人呼ばわりしてしまうのは……些か、軽率だった」
ヨイショッと起き上がり、金田一は確認。目を伏せ、多岐川は
彼らの話を聞かねば、『4億円事件』を深く理解できない。
「それに、向こうも二度と現れないさ。よしんば、会えたとしても……にいみの事は忘れているだろう。話を聞く限り、彼は……そんな印象だ」
「彼、男の人デスカ?」
「もしかして、奥さんの元……なんでもないです」
残間から重要な点を告げられ、マリアは夫婦間の嫉妬を感じ取る。金田一が気まずい部分に触れかけ、すぐに口を噤んだ。
「着替える……衣装が破れそうだ」
ボソッと呟き、残間は重い雰囲気を残して、行ってしまう。誰も引き留めなかった。
「明智さん、その大学生……素性は分かってんだろ」
「いいえ、とだけ答えておきます。何にせよ、イベントが終わるまで……
金田一に詰め寄られても、明智は涼しい顔。そして、初めて挑戦的に口元を引き締めた。
刑事が市民の少年へ話しかけるのとは違い、同僚……或いは対等な立場にある探偵への問いかけであった。
瞑想に瞼を閉じた金田一から、あどけなさが消える。雄々しき眼差しに〝誓い〟を込め、明智と向き合った。
「……するさ。それで
それはまさに、姫を守らんとする騎士が如く。
ジッチャンとやらが何者か知らずとも、マリアはすっかり魅入られてしまう。ここへ来た目的を忘れかけた。
「どうしたモノかしらね……」
ふうっとため息を吐き、多岐川は自らの口元を手で覆う。彼女の疲弊を表す独り言が、何を意味しているかなど、マリア達は知る由もなかった。
○●……――深夜11時、【4】の部屋を訪問しようと扉の前に立った。
他の参加者――高校生と刑事の密談する気配あり。こちらの動きに気付かれるかもしれないが、それでも自分は彼女と話さなければならない。
その想いが通じたのか、ノックに拳を握りしめた瞬間。ドアが開いた。
「にいみ!? ……いえ、『レッドラム』……」
「にいみでいい、かほる……。少し、個人的に話したい」
かほるはギョッとしつつも小声で呼び、こちらの頼みにさらなる困惑を見せた。
迷っている。
眉間に寄せられたシワ、床を泳ぐ視線、左手の薬指にある指輪を無意識に弄ぶ仕草。
明らかに、判断を迷っている。
事情も説明せず、行き先も告げず、行方を晦ました。かほるにも、心配や迷惑をかけただろう。
すぐに追い返さない彼女の態度に図々しく、甘えた。
「……あの子は今、どうしている?」
「……!! ……入って……」
かほるの親切心に付け込み、畳み掛ける。我ながら、卑怯だと思った。
彼女は強く唇を噛みしめ、人生最大の決断であるかのように深呼吸。部屋へ招き入れてくれた。
「……あの子は東京よ。アナタがいなくなってから、金田さんと暮らしているわ」
「……!?」
ドアを閉め、かほるは率直に告げた。
彼女の視点から、息子の様子を知りたかっただけだが、あまりにも予想外過ぎる。臓物が痙攣して、脳髄の奥が混乱した。
何故なら、その返答は
「……山之内はどうした? 小説家の山之内 恒聖だ」
かほる以外のミステリー作家との関係性を伝えていたか、思い返せない程に動揺してしまう。彼の
「ああ……知り合いだったわね、アナタ達。その人なら、去年の秋から北海道よ。なんでも心臓病を患ったとかで、療養中らしいわ」
口走っただけの質問にも、かほるは何気なく世間話のつもりで答えてくれた。
それは絶望するに十分な情報。
――
足の力が無くなり、椅子も間に合わずに倒れ込む。頬に受けた床の冷たさは、我が心そのものだ。
「にいみ!? どうし……顔色真っ青じゃない! 南山さんを……」
「ダメ……駄目だ、かほる……」
突然の事態に驚きながら、かほるは必死に抱き留めてくれた。彼女の香りと温もりが思った以上に暖かく、堰き止めていた後悔が全神経を駆け巡った。
〝にいみお嬢様、よくぞ……この山之内を頼って下さいました。一聖坊ちゃんに真の安らぎをもたらすその日まで、死力を尽くします〟
また、見抜けなかった。
再び、間違った人を信用した。
――我々兄妹への恨みを
突き付けられた現実に目眩が起こり、気を失いそうだった。
「こうしていて……そしたら、落ち着く……」
「ああ、もう……夫婦揃って……」
吐き気を堪え、かほるの腕へ縋った。悪態付きながら、彼女は優しく手を握り返してくれた。
絶対に離さないように強く、朝まで――ずっと。
山田「山田 隆明です。私はドラマ版に出てます……はい。……いや、私は山之内先生のお言葉を伝えただけですから。さて、次回は『REDRUMを名乗る女・第2回討論会-脱落』!! クラクション音、うるさ……」
山田 隆明
ドラマ版ゲストキャラの弁護士、3人目の犠牲者
作中にて、事件と無関係。山之内の顧問弁護団代表的存在。にいみが帰国後、真っ先に連絡を取った人物。言付けを頼まれただけで、真偽の確認はしていない
エリザベート・フリードリヒ
バルト城の女城主だった人、金田一世界のエリザベート・バートリー(カーミラ)