金田少年の生徒会日誌   作:珍明

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一晩経ったので、マリアの片言が少し消えてます
誤字報告により修正しました。ありがとうございます


Q31 REDRUMを名乗る女・第2討論会-脱落

 鉄格子を填めただけの窓。

 昨夜から続く雨音と冷気が目覚めを与え、マリアは粗末なベッドから起き上がった。

 (すこぶ)る気分が良い。

 食堂にある肖像画が見たくて、部屋を出る。小暖炉の間を抜けた廊下の先にある広間、ソファーには先客の残間(ざんま)が座り込む。彼は長い紐を片手に絡め、真剣に遊んでいる様子だ。

 

「残間サン……それは?」

「……」

「おはようございます、フリードリヒ様」

 

 マリアは紐の意味を訊ねるが、熱心な残間はこちらを見向きもしない。

 南山(みなみやま)がティートローリーを押しながら、礼儀正しくご挨拶。テーブルへ温めた飲み物を用意してくれた。

 

「南山サン、残間サンが紐を持っていました。イベントに使うんですか?」

「いいえ、あれはただのタコ糸です。残間様があやとりをしたいと申されまして、私が料理に使う予備をお渡ししました」

「おはよ~ございます! 早いっスねえ、マリア姫はよく眠れた? 俺はもう興奮して寝付けなかったぜ」

 

 マリアは出来るだけ小声で、質問する。折角、南山も声を潜めたが、真木目(まきめ)の眠そうな挨拶が暖炉の炎すら揺らす。

 それなのに、残間はあやとりに没頭。

 

「残間さん、おはようっス」

「! 真木目さん? ああ……すみません、皆さんが来ていると気付かず……」

「元気ねえ、皆さん」

「ハッ!? シマッタ……リチャードより先に、起きた……ぐぬぬ」

 

 真木目に声をかけられ、照れた顔付きで残間は周囲を見渡す。当麻(とうま)やメグレ伯爵も身支度を整えており、意外にも早起きの面子は多かった。

 

 朝食の時間、『レッドラム』が最後に席へ座った。

 昨日と同じ中東系の衣装、サングラスと手袋もそのままだ。

 

「アンタ……まだ、その恰好か……」

「貴様が言うな、坂東。今日は日曜日だぞ、イギリス人でもあるまいに……何故、眼鏡をかけている?」

「……WOW、『レッドラム』……よくご存じデ~ス♪ ワタシ、賢い人にしか見えない眼鏡シテマ~ス」

 

 朝から不機嫌な顔の坂東(ばんどう)に指摘され、『レッドラム』は欠伸を噛み殺す。リチャードが朗らかに両手の指で眼鏡の形を作った。

 

「明智さん、イギリス人だったのかよ」

「金田一君、まだ夢の中ですか?」

「ジョークだよ、金田一さん。日曜日に眼鏡をかけておけば、月曜日にうっかり忘れて……会社に行かずに済む……だったかな? リチャードさん」

「その解釈でOKネ♪ ご夫婦でイギリスに詳しいの、嬉しいデス」

 

 金田一(きんだいち)がじっと明智(あけち)を眺めた後、残間の説明にリチャードは上機嫌。

 

「ワタシもソレ、知ってマス」

 

 メグレ伯爵がグイッと割り込んだ。

 

「ひょっとして、お2人の新婚旅行がイギリス……なんでもないです」

 

 真木目がからかおうとしたが、『レッドラム』の睨みを感じ、口ごもった。

 

「新婚と言えば、残間はロイヤルウェディングを生で見たのだったな……」

「ロイヤルウェディング! もしかして、11年くらい前のヤツ?」

「いいや、24年前だけだよ。とても美しい光景だった……滞在中に見られるなんて、私は運が良かった。リチャードさんは他の挙式も、ご覧になられたのでしょうな。羨ましい」

「yes♪ 11年前は勿論、16年前もバッチリで~す。スケジュール調整、大変デシタ~」

 

 『レッドラム』が眠そうに呟く。金田一が敏感に反応し、残間は懐かしそうに物語る。彼はリチャードと歳が近い。今頃になり、そんな印象を受けた。

 もっと若い世代と思い込んでいた。

 

「……メグレ伯爵、フランスの大統領選挙もそのくらいだったかな? 前任者が急死して、臨時大統領は選挙に立候補しなかったとか……」

「OH、ムッシュ残間。我が国にも関心を寄せて頂き、嬉しく思いマス。ちなみに、翌年の出来事デス」

「残間さん、そこはフランスのロイヤ……モグッ!!」

「金田一君、それ以上はいけない。日本の高校生が全員、キミみたいだと思われる」

 

 不意に首を傾げ、残間は世間話程度に語り掛ける。メグレ伯爵の嬉しそうな顔を見て、金田一は何気なくゾッとする発言を言いかけた。

 彼の口にパンを突っ込んだ明智へ、マリアは小さな拍手を送った。

 

「金田一クン、この後……フランスの歴史を教えて差し上げマショウ。ワタシが親切丁寧にネ。さあ、『レッドラム』! 討論会を始めてクダサイ」

ヒェッ……

「……まだ食後の紅茶を飲んでいるんだが……まあ、良かろう」

 

 メグレ伯爵は迫力ある笑みを金田一へ向け、ビビらせる。急かされた『レッドラム』は飲んでいたカップを下ろし、鷹揚に頷いた。

 

「――名探偵諸君、犯人は目の前だ。言い逃れしようのない名推理を披露せよ――」

 

 昨夜と同じように暖炉の前へ立ち、芝居かかった宣言――命令を告げた。

 朝食の朗らかな雰囲気は一変し、殺伐とした鋭い視線が飛び交う。

 誰が何を語るか、期待と不安、好奇心と敵愾心が血生臭さく、マリアは視線を落とす。

 皆の皮膚の下に流れる血潮さえ、手に取るように分かる程、高揚している。舌なめずりはお行儀悪いが、唇の隙間から零れる涎を拭う為だ。仕方ない。

 

「では、私が先行する! 犯人は……残間 青完、アンタだ! 他国の情勢にも詳しく、外国人の友人もさぞ多いだろ。アンタは昨夜、法学部の大学生がどうの言っていたが……それはアンタ自身。……何より、司会進行役が奥さんとくれば……夫婦揃っての犯行に違いない! このミステリーナイトも『4億円事件』を探偵に推理させて、本当に迷宮入りになったか、調べる為の大掛かりな茶番だ!」

 

 真っ先に席を立ち、坂東は己の推理を語る。あまり自信がないらしく、頬を流れる汗は暖炉の炎による熱気が原因とは思えない。

 

「……流石、推理小説評論家。私でなければ、自首してしまいそうな見事な名推理です。但し、妻を巻き込んだ為に却下しますっ

「……残間、ゲームの趣旨が違う……」

 

 残間は面白そうにフフッと笑い、片手に絡ませたタコ糸を用いて「×」の形を作る。『レッドラム』はサングラス越しに目元を覆い、ため息を殺した。

 

「ふう……、まあ……こんなモンだ」

 

 言い終えた坂東はテーブルを眺め、椅子へ座り込む。達成感が見えず、何かに緊張していた。

 

「次は私よ、犯人は……真木目さん。アナタは犯罪ルポライターとして、多くの事件を取り扱ってらっしゃる。その分、法律にも明るいわ。犯行当時、まだ幼かったと教えて下さったけど、それは私達を騙す為のハッタリよ。本当は整形して、歳も誤魔化しているんだわ。昨日も随分と余裕のご様子でしたし、ご自分が犯人だから、真相はご承知の上と言うワケね」

「は~成程……。今度、その設定で俺をアンタの小説に出してくれよ」

 

 多岐川(たきがわ)から推理され、真木目は満足そうに頷く。お茶目に笑い、社交辞令まで述べた。

 

(勢いがない……生身の相手だから?)

 

 昨夜の多岐川に比べ、マリアは物足りなさを感じた。

 

「ワタシの華麗なる推理によれば、……リチャード・アンダーソンが犯人デス! この国に詳し過ぎマス。言葉も実に堪能。ワタシでさえ、仕事の都合でようやくここまで覚えマシタ。ムッシュ、それだけ言葉を覚える歳月、この国に滞在してイタ。犯罪心理学者が何故、そこまでシタカ! 民事の時効を待っていたんデス!」

((アンタも十分、堪能だよ))

 

 意気揚々と席を立ち、メグレ伯爵は舞台役者が如くリチャードへグイッと詰め寄る。金田一と真木目のツッコミが聞こえた気がした。

 

「更にリチャード、時効が切れるまで、何度もイギリスへ帰国してイマス。その歳月を合計すれば、時効に足りないでショウ」

「オーマイゴッド、メグレ。それではワタシ、逮捕されてシマイマ~ス♪」

 

 メグレ伯爵の付け加えた推理にも、リチャードは余裕綽々の笑みでわざとらしく肩を竦めた。

 

「次、ワタシです。メグレが犯人ネ。ユーが日本語を覚えたの、仕事の都合? ウソウソ、捜査情報を詳しく知ろうとした。探偵になったのも、誰かが『4億円事件』を依頼してきても、すぐ分かるようにする為デス。メグレがMiss当麻を知り、彼女が金田一サンを知っているように、ゴシップは野火のように広がりマス。探偵は、逃げるに打って付けのお仕事デス」

「ブラボー、リチャード。全世界の探偵、敵回しマシタ。その勇敢さに乾杯!」

 

 リチャードは今までより片言を強くし、小さな子供へおとぎ話を語るような優しい。そんな口調でズケズケと言い返す。メグレ伯爵のコメカミに血管が浮き出ても、笑顔はそのままだ。

 

「次は、あたしね。犯人は明智さんよ、『4億円事件』の担当だった刑事……明智 省吾。年齢的にも、アナタのお父様か、何かでしょうね」

「……え?」

 

 ――!?

 

 煙草に火を付け、当麻は煙と共に口から衝撃的な憶測が語られ、マリアは不意打ち過ぎて、反射的に呻き声が出た。

 

は……はあ!? 明智……さんが、あの刑事の(・・・・・)……息子!?

「ただの偶然だよ、坂東さん。推理に含めるとは、流石は現役の探偵……ゲームだろうと遠慮がない」

 

 過剰なまでに驚愕した坂東は立ち上がった拍子、椅子から転げ落ちてしまう。そんな彼をひょいっと起こし、残間は当麻へ賛辞を送った。

 

「そう、正確に犯人と呼ぶべきは……明智元刑事(・・・)。このミステリーナイトの主催者……『Mr.レッドラム』もアナタよ。理由はそうね、仲間の裏切りかしら? 『4億円事件』の分け前を貰うはずだった……なのに、お父様は何も得られなかった。警察として捜査したけど、共犯者は見付けられない。失意の中、亡くなられた。アナタはお父様から、その意思を継いだ……そんなところね」

「仮に私が犯人だとして、わざわざ……こんな山奥でイベント開催した理由は?」

 

 当麻がひと言、話す度に紫煙が明智へ絡み付く。犯人を追い詰める鎖のように見え、マリアはここで優勝者が決定してもおかしくない。そんな不安に駆られた。

 

「この場所が、犯行後の集合場所だったのよ。テーマパークとして建設中だったし……事件当時は冬、工事の休止中だったはず。見張りも置かれておらず、隠れ家に打ってつけだわ。共犯者は驚くでしょうね。かつての待ち合わせ場所でイベントを行うなんて……主犯の仕業じゃないかと、戦々恐々としてしまうわ」

「……筋が通っていますよ、当麻さん」

 

 明智はどこまでも、涼しい顔。想定内なのか、全く動揺が見えない。

 

「くう、探偵対刑事の推理バトル……面白れぇ」

(明智さんの……親父が、亡くなってる? 『レッドラム』はそれを知ってる?)

「……っ」

 

 真木目が興奮して笑う中、金田一は深刻そうに『レッドラム』へ視線を向ける。彼女は何か気になるらしく、怪訝そうに窓辺へ近付いた。

 

「……南山、この音は何だ? 稲妻ではあるまい」

「音? 『レッドラム』、前を失礼します」

 

 怪訝そうな『レッドラム』に指摘され、南山はすぐに窓をそっと開ける。強風と豪雨が窓の隙間から入り込まぬ様、必死だ。

 マリア達も耳を澄ませ、自然とは違う異質な――低音楽器の共鳴管に近い音を聞いた。

 

 ――ファン、ファーン、ファンファン。ファーン、ファーンファーン

 

 繰り返される〝音〟。

 

「確かに……雷にしては、規則性があります」

「明智さん! どこ行くんだ!?」

 

 南山が頬に雨を受け、そっと窓を閉める。ふうっと息を吐き、音の違和感を伝えた。それより先、金田一に答えず、明智は食堂を飛び出す。

 

「ま、まさか……『レッドラム』、主催者の仕掛けか?」

「知らん」

 

 緊張した坂東が『レッドラム』に問い詰めても、文字通りに知らん顔。

 

「金田一クン、Vite(ヴィット)! モタモタしない!」

「ふへ? メグレ伯爵!」

「追うぞ!」

 

 メグレ伯爵はハッとした途端、金田一の手を取る。物凄く軽やかな足取りにつられ、リチャードも駆け出す。マリアも必死に追いかけた。

 

「メグレ伯爵、何事ですか?」

「マリア、説明まだデス。ムッシュ残間……ええ?」

 

 マリアにメグレ伯爵が答えた時、最後尾の残間は美しいジョギングのフォームを保ちながら、あっという間に先頭を走った。

 

 衛兵の蝋人形を抜け、正面玄関の扉を開け放つ。

 

 ――ファーン、ファン、ファーン、ファン、ファーン。ファン、ファーンファーン。ファーン、ファンファン、ファーン!

 

 豪雨の中でも、クラクション音はハッキリと聞こえた。

 中庭に駐車した明智の高級車ではなく、城の外――跳ね橋の向こう側から響いている。

 

「誰かが、車で来ている!」

「遅れた参加者じゃないか? 1人、まだ来てないだろ」

 

 金田一と真木目がお互いの顔を見合わせている間も、クラクション音は鳴り続けた。

 

 ――ファーン、ファンファン。ファン。ファン、ファーン。ファーン、ファンファン!

 

「運送のトラックと、音が違うわね」

「yes、この音色……メルセデス級デス」

「……!」

 

 多岐川が雨を警戒し、扉の内側から音を聞き分ける。リチャードが頷いた時、明智の強い意志を瞳に宿らせ、自らの愛車へ駆け寄る。運転席のドアを開け、ハンドルへ触った。

 

 ――ファン、ファーン、ファン!

 

 見事な共鳴音を鳴かせた直後、クラクション音がピタリと止んだ。

 その音のテンポ、マリアは『モールス信号』に聞こえた。周囲を見渡せば、何人も直感的に感じていた。

 

「明智さん……」

外部と交信したな

 

 金田一が問い質す前に、『レッドラム』の低い声が雨音を通り抜ける。言葉の意味を瞬時に理解し、マリアは息を呑んだ。

 

「明智様。外部の方との連絡は、禁止と言ったはずです。棄権された……そう見なしても宜しいですか?」

 

 明智が雨に濡れたまま車へ触り、何かの合図と推察するのは当然。南山は厳しい口調で咎めた。

 

「待ってくれ。明智さんは……」

「私は、失格で構いません。『レッドラム』、跳ね橋を下ろしてください」

 

 残間が釈明しようとしたが、明智はあえて遮った。

 驚きの提案に騒然となった。

 

!? 明智さん……金田(かねだ)のお母さんが、ここにいるっていうのに……!!」

 

 刑事に去られる。

 その事態に直面し、金田一の押し殺した声には不安が滲み出ていた。

 

「明智さん……何も、そんな慌てて出て行かなくても。この雨だし、車だろうと山を下りるのは危険よ」

「おいおい、多岐川さん。折角、ライバルが減るチャンスを……」

 

 多岐川が心配そうに明智を引き留め、坂東は不快そうに怒り出す。この天候ならば、車のスリップ事故もあり得るだろう。

 

「構わん、途中離脱を認める。最終日には戻り、優勝者の発表に立ち会え」

「はい、必ず」

 

 司会進行の声は、思った以上に冷徹。彼女のサングラスが雷光に反射し、一瞬だけ蠟人形のように無機質な印象を受けた。

 とても不気味だが、明智は堂々と向き合う。雨粒さえも舞台の照明が如く、輝いて見せた。

 

「明智様、お荷物を……」

「必要はありません。部屋には(・・・・)着替えしか、置いていませんからね」

 

 南山の気遣いを丁寧に断り、明智は部屋の鍵を渡す。さっと車へ乗り込んだ。

 

「明智さん、アンタ……何をするつもりなんだ?」

「金田一君、木箱の中には何が入っているんでしょうね。いつもカサカサと音がしていて、気になります」

(箱、どこに?)

 

 詰め寄る金田一へ明智はそう告げ、エンジン音を吹かせる。マリアが意味を汲み取る前に、跳ね橋が豪快な音を立てて、下ろされた。

 雨の中でも、橋の向こうに1台のメルセデスが見える。流石に視界が悪く、運転席は人影がボンヤリとしていた。

 

「明智さん、家族に連絡を……」

「残間、それ以上は余計だ」

 

 残間の痛切な願いは『レッドラム』により冷たく、阻止された。

 

「金田一君、お祖父様の名にかけた誓い……忘れないように」

「……あ」

 

 何の迷いや後悔もなく、明智は素っ気なく告げる。金田一の返事も聞かず、車を発進させた。降り注ぐ雨が脱落と呼ぶより、彼を新たな課題へ向かわせた。

 

 ――ガガガガ、ガチャン!

 

 車が橋を渡り切り、南山は黙々と装置を動かす。再び跳ね橋が上げられ、マリアの心に使命感が戻って来た。

 

「フリードリヒ様、どうぞ中へ」

 

 南山に急かされ、雨に打たれているのは自分だけだと気付いた。

 

「南山、ご苦労だった。明智の部屋の鍵はそのまま、貴様が持て」

「仰せの通りに」

 

 マリアが正面玄関へ飛び込んだ時、『レッドラム』は南山を労った。

 

「――諸君らの推理、楽しませてもらった。次の討論会(ディスカッション)は明日の朝食までに行う。共犯者の意見が多い故、従って……次は参加者の中から犯行グループを選んだ、推理ショーを披露してもらおう。勿論、外部の人間を犯人にしても構わん。遠慮するな、これはあくまでもゲーム(・・・・・・・・)。ここだけの話だ――」

「「ええ!? 俺達の順番が、まだですけどお!?」」

 

 仰々しく告げ、『レッドラム』はスタスタと行ってしまう。思いもよらない展開に金田一と真木目は抗議するが、無視された。

 勿論、マリアも絶句した。

 

「皆様、遊戯室と展示室の出入りは自由です。代わりに食堂は正午まで、閉めさせて頂きます」

「あ、あの南山サン。ワタシ達は……?」

 

 南山も討論会終了を受けて入れてしまい、マリアは慌てた。

 

「それについて、ワタシが説明シマス! コレ、昨晩と同じ状況デス。何人かが推理したら(・・・・・・・・)、次のステージに進行スル。そういう手順デス。あのクラクション、ムッシュ坂東の推理通り……脱落のトラップ♪」

「うわぁ、やられた!」

「確かに『レッドラム』は全員に推理ショーさせるとは、言ってなかったわ(・・・・・・・)。発表してない人は……真木目さんとマリアさん、明智さんと残間さん、金田一君。ちょうど半分ね」

 

 メグレ伯爵は気分上々に解説し、真木目は頭を抱える。当麻は発表した側である為、冷静に状況を分析していた。

 

「明智サン、罠に掛かったんですね」

 

 マリアは結論を口にしつつ、注目すべき点を脳裏に浮かべる。

 クラクション音は確かに、『モールス信号』を発していた。手の込んだ罠で、終わるはずがない。

 

フハハ、どうやらオレ達の方が一歩リードしたようだな! ど~れ、気晴らしに展示室へ出向いてみるか♪ 発言し損なった残間さんも、どうだね?」

「……元気になったな、坂東さん。一人称がオレになっている……」

 

 愉快痛快と言わんばかりに、坂東は大口を開けての大はしゃぎ。残間は興味なさそうに踵を返しつつ、誘いを断らない。

 

「南山さん、明智さんが言ってた『木箱』って……キッチンに置いてあるアレかしら?」

「いいえ、多岐川様。明智様はキッチンへ入られてなど、いません。食糧の管理もありますので、出入り際に小まめな施錠を心掛けています」

「金田一サン、心当たりアリマス?」

「な~いない、木箱の中身なんて知らねえって」

 

 多岐川と南山のやり取りから、バルト城にある家具家財とは違う。リチャードはすぐに問うが、金田一は困った笑顔でボリボリと頭を掻く。

 

「金田一君が、活躍した事件を暗示しているんじゃない?」

「……そうは言っても、最近はクジ引きに使った箱かなあ。でも、あれ……木箱?」

「んだよ、頼りねえなあ」

 

 当麻が優しく記憶を辿らせるが、同じ。金田一は腕を組んで、大げさに首を傾げる。もどかしそうに真木目からため息を吐かれ、ちょっと可哀想だ。

 

「ハックション!」

「あら大変、雨に打たれたせいだわ。金田一さん、着替えましょう。南山さん、大暖炉の間に温かい飲み物を運んでおいて」

「はい、直ちに」

 

 金田一はクシャミをした途端、震え上がる。多岐川がさっと気遣い、行ってしまった。

 

「俺も着替えるか」

「ムッシュ南山、キッチンを見学したいデス」

「ワタシも!」

「あたしも見ておこうかしら」

 

 皆が口々に、これからの行動を決める。

 マリアはまだ、話が終わっていない。『モールス信号』、誰もそこを指摘しない理由。

 自分以外、気付いていないのか? 絶対にない。坂東の意見を使うならば、全員がライバル。情報を秘匿し、有利に運ぼうとしているのだ。

 

(……ここへ連れて来てくれた……明智サンは城から出た……)

 

 残りは2人、金田一か残間――どちらに頼るかなんて、もう決まっている。

 彼らを追いかけ、大暖炉の間へ急いだ。

 

「金田一サン、多岐川サン」

「マリアさん、アナタの部屋は西の塔でしょ?」

「どうしたんですか?」

 

 2人は東の塔へ続く扉に手をかけたところ、マリアの為に足を止めてくれた。

 

「クラクションの音、あれは『モールス信号』だと思います」

 

 親切な対応に感謝を込め、先ずは結論を述べた。

 

「……マリアさんも、奇遇っスね。ただ、なんか音の羅列が合わないって言うか……」

「私もある程度は聞き取れたけど、……明智さんがどんな信号を伝えたか、分からなかったわ。メグレ伯爵がトラップだって言うし……」

「ワタシ、その信号が分かります。但し、最初は聞き取れませんでした」

 

 やはり、信号と理解してくれていた。少しの安心を得て、マリアは協力を申し出た。

 

「それなら、ちょうど情報交換できますね」

「……ちょっと、金田一さん。いきなり信用してもいいの?」

 

 目を輝かせた金田一を多岐川の小さく、窘めた。彼女の警戒は尤もだ。

 ひとつの家庭が絡んだ事情と違い、ゲームに関する手持ちの情報。雌雄を決する鍵となるだろう。

 彼らの力が必要なのは、マリアの方だ。

 今こそ、こちらも自らを曝け出すべきである。淑女としての慎みを忘れず、礼節をわきまえた。

 マリアは跪き、深々と首を垂れる。

 

「ワタシ、バルト城をドイツへ持ち帰らなければならないんです。エリザベート・フリードリヒの名にかけて。どうか、お力添えを……」

「マリアさん……」

 

 あるべき物をあるべき場所に――その想いだけが、マリアの目的。

 願いが叶うなら、必ず何らかの形で恩を返そう。

 頭上に降り注ぐ金田一の声が神託のような錯覚を受け、マリアは心が清らかになっていく。とても心地よく、そして、誇りがより気高くなったと確信した。

 

「……ふう、マリアさん。頭を上げて、先に信号を教えて下さる? 当てずっぽうじゃあ、ダメよ」

「多岐川さん! ハイ……ワタシ達が外に出た時、聞こえた信号は……」

 

 多岐川に想いが通じ、マリアは嬉しさのあまりにパッと顔を上げた。

 

「『死』デス」

「「!?」」

「ビックリした……メグレ伯爵、……いつの間に」

 

 ぬっと笑顔を出したメグレ伯爵に驚き、マリアは飛び退く。多岐川は金田一を庇う様に立った。

 

「ムッシュ南山に代わり、お持ちしマシタ。さあ、マリアもどうぞ」

Danke(ダンケ)……」

 

 メグレ伯爵は紅茶のセットを手にし、優雅な手付きでテーブルへ置いた。

 

「それより、メグレ伯爵……なんで『死』?」

「音が……違うんじゃない? ピピーピピ―ピでしょ」

 

 驚かされて、ムッとした顔の金田一と多岐川は折角の紅茶で温まる。メグレ伯爵へ疑問を簡単に打ち明け、マリアはそっちに驚いた。

 

「あれは『D・E・A・D』とアルファベット信号で、伝えていたんです」

「ムッシュ明智、それに対し『了解』を返してマシタ。返信用の信号デス」

「……成程……私、五十音しか覚えてなかったわ。後は『SOS』……」

 

 マリアが詳細を伝えれば、メグレ伯爵は横から補足してくる。その部分も自分で言いたかった為、彼に対してちょっとだけ対抗心が芽生えた。

 

「……っ、そっか……。俺、てっきり『E・A・D』とばかり……メグレ伯爵、他の信号……俺は『かや』と『まさ』って聞こえたぜ。そっちも同じか?」

Moi(モワ) aussi(オッシ)! と言いたいデスガ、ワタシ……『さやま』だけデス」

「メグレ伯爵……五十音の信号も熟知しているのね、感心だわ」

「全て合わせると『死、かや、さや、ま』でしょうか?」

 

 皆が聞こえた信号を繋ぎ合わせたが、マリアには意味不明。ゲームのヒントか、参加者を混乱させる罠か、まだ判断出来ない。

 

「死、さやま……」

 

 呟いた瞬間、金田一の表情に真剣味が増す。口元に手を当て、視線を下げる。思考に耽る仕草に国境はないらしい。彼はスッと歩き出し、扉の向こう側を確認した。

 更に金田一は椅子に鎮座する蠟人形、資料を貼り出したパーティションにも睨みを利かせた。

 

「……すいません、今から……ここだけの話にしてください」

 

 切実な頼みにマリア達は勿論と頷き、金田一は深呼吸に唇を震わせた。

 

『さやまは死んでいた』。そう言う意味だと思う」

 

 重い口調は遺族へ訃報を伝えるかのような、憐みがあった。

 マリアとメグレ伯爵には誰の事か、皆目見当も付かない。だから、多岐川の口元を歪ませた哀しみの痙攣は――惜しくも、見逃してしまった。




エドワード「エドワード・コロンボです。閲覧ありがとうございます。おいおい、クリス。ボクを出し抜いといて、親子喧嘩に巻き込まれて、ニイミに置いて行かれた? 全く何やって……後ろの美人は、誰だい? 箱……? さて、次回は『REDRUMを名乗る女・第3回討論会-ゲームオーバー』!! 雷鳴轟き、古城燃ゆる……完全にホラー映画の終盤だよ」

南山 駿三
本来の司会進行と参加者のお世話係、秘書派遣会社に所属。名指しの指名だったのは、なんでだろう?
ドラマ版は冷静沈着、事件が起こっても全く動揺しなかった
作中にて、にいみから英文の手紙を見せられ、ゲーム内容の変更を信じた


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