金田少年の生徒会日誌 作:珍明
結果だけ言えば、地区大会は
都大会進出は2位まで、つまりは
部員一同、胸が伽藍の洞であろうと、手は他校への拍手を忘れない。
バスへ向かい、駐車場を歩く頃には陽が暮れており、夜空はただ暗いだけ。
前向きに、楽観的に、肯定的に考えてみたが、慚愧の念に耐えかねる。
微かに割れたコンクリートの花壇には、枯れた彼岸花の茎が折れ、土に頭を垂れていた。それは自分の姿だった。
稽古に取り組む段階が遅く、練習量は圧倒的に足りなかった。
「……金田君、金田君ってば!!」
「何でしょうか? 七瀬さん。トイレなら、まだ平気です」
学校へ戻る前のトイレ時間、まだ部員の何名かは建物にいる。
そんな思考を基に口を開けば、彼女は内緒話と言わんばかりに顔を寄せた。
「黒沢さんが来てるの。金田君と話したいって、ちょっと個人的に聞きたいそうよ」
「……黒沢オーナーが?」
「金田君、黒沢さんはもうオーナーじゃないのよ」
「……七瀬さんは知っていたかもしれませんが、自分達は寝耳に水なのです」
リゾートホテル『オペラ座館』のオーナー・
数年前に引退した演出家本人、今日のゲスト審査員として最前列へ座わる姿に誰も彼も心臓が飛び跳ねる。
七瀬はあくまでも、演出家である事実を知るのみ。審査員姿には動揺を隠さず、ここにいないハジメの名を連呼していた。
その黒沢先生に呼ばれた。
「こんばんは、金田さん。こんな格好ですみません。ちょっと油断したら、色んな人が追いかけてくるもんでね」
「本日の審査、ありがとうございました。自分にお話と言うのは?」
サングラスにマスク、パーカーフード。怪しさ満点の出で立ちだが、頬の傷は黒沢先生に間違いない。
「七瀬さん、こちらに誰も来てないか……見張りをお願いします」
黒沢先生に頼まれ、七瀬は指ポーズにて了解を示す。姿は見えるが、声の届かない位置まで離れた。
2人だけで話す内容、緊張した心臓の脈が騒がしい。
「率直にお伺いします。
「……――っ」
予想しない名前。
黒沢先生の声は弾み、期待に胸を躍らせている。それに反して、
動じるなと脳髄の奥から、誰かに囁かれた気がする。
「――どういった方でしょうか? ――」
「『遊民蜂起』の出資者の代理と言えば、変ですが……要は我々の恩人なんです。私、今はそこの劇団を任されましてね。連絡先が分からず、アナタならと思いまして」
そんな人、知らない。
そう演じながら、
「――思い付きませんね。そもそも、その方と自分に何の関係性があるのですか? ――」
「私とした事が、気が逸ってしまいました。実はですね……その水沼さんから、中学生の金田さんを紹介されたんです。写真付きでね。実際は静……響先生ですが、目に適うなら入団させて欲しい。そう、話していたそうです」
黒沢先生から繋がりを聞かされ、
有り得ない。在り得ない。
否定の文字が幻覚となって、視界を防ぐ。実際、
黒沢先生が彼の人相を知らない可能性もあるが、確かめたくない。
「――すみません、黒沢先生。親戚ではありません――」
「そうですか、ありがとうございます。
本当の関係性を告げ、黒沢先生はふうっと息を吐く。残念そうだが、こちらの言い分を受け入れてくれた。
「金田君、集合~っ」
「はい、七瀬さん。黒沢先生、またお会いしましょう」
「金田さん、今日は本当にお疲れ様でした。お気を付けてっ」
七瀬の呼び声を救いに感じ、
バスの車内は沈黙ではなく、静粛。
発進前に、部長の
「今日の結果、俺は納得してない。もっと演れたはずだ。それを忘れず、1月の大会に励んでくれ。俺を含めた3年生は……出演しない。でも、観に行くからな」
「はいっ」
布施先輩の声は力強く、叱咤激励にしか聞こえない。反省点を責めるよりも、課題として後輩へ託す。
その意思を汲んだのは、
「はい……」
バスの車内は疲労感に満ち、無言。
その為、
(……中学生って『遊民蜂起』が設立した頃?)
何か、おかしいと必死に記憶を辿る。
水沼は持っていた。
年賀ハガキの住所は東京の金田家か、宮城の長屋アパート。つまり、水沼に神奈川のマンションを特定されていた。
理解した瞬間、身の毛がよだつ恐怖に襲われる。
見張られていた。監視されていた。あろう事か、『遊民蜂起』へ根回しされていた。
他の3人に氷室画伯の血縁を伝えず、それを行った意味とは何だ?
奴の目的が分からず、気味が悪い。
最早、狂気だ。
「金田、着いたぞ。どうした?」
「……神矢君、ああ……どうも」
心配してくれた
ほとんどの部員がバスを降り、部室へ運ぶ作業に取り掛かっていた。
「明日は休みですが、来週の中間テストを忘れない様に」
緒方先生から学生の本分を叩きつけられ、解散。
24時間営業のファミレスで打ち上げ、カラオケに興じる者など皆の行動はバラバラになる。
「神矢君、桐生さんの家に行きませんか?」
「!? いやいや、せめて明日にしようぜ。……どうしたんだよ、急に……」
するりと申し入れれば、神矢は慌てふためく。周囲を見渡し、汗だくになっても断らない。本当に人が良いクラスメイト。
「今日の結果を……桐生さんに、報せたいのです」
「……そう、だな。尚の事、明日だ。折角だから言っとくが、女子の家を夜に訪ねるもんじゃねえぞ」
伝えたい想いが込み上げ、素直に事情を話す。神矢に指摘され、
骨壺に納まろうと、
本当なら、夕食の時間帯。約束もなく訪問するなど、非常識にも程がある。
「素晴らしきご助言、ありがとうございます、神矢君。明日、一緒に行きましょう」
「……ああ、それは勿論……。俺、あいつらとファミレス行くけど、どうする?」
良識ある神矢に感謝し、
即、乗った。
ファミレスに行き、コンビニへ溜まり、金田家へ帰宅した時には夜9時。
玄関に男性物の革靴が並び、胸騒ぎが起こる。
「こんばんは、剣持さん」
「よお、
居間を覗き込めば、
心なしか、金田祖父母の表情も硬い。虚勢を張ってはいるが、ひと仕事終えた孫を労わる雰囲気ではない。
「今日の舞台、観られたぞ。桜樹君が隣にいてくれて、劇の解説してもらいながらだったが……良かったよ」
「……え!? 観に来てくれたのですが……気付きませんでした」
観客席を気にかける余裕がなく、素直に嬉しい。
「
金田祖母の落ち着き払った声が、文字通りに時を止める。
母・にいみが日本へ帰り、長野にいる。
瞬時に悲恋湖キャンプ場を連想してしまい、吐き気を催す。気を落ち着かせようと、
騒がしい心臓の脈拍が、徐々に静まり返っていく。自分の心を惑わせていた問題は、脳髄に浮かぶ想像の缶箱へ押し込んだ。
――後にしてくれと祈った。
金田祖母が起立し、足音もなく居間を去る気配に振り返った。
「
「行きません」
金田祖父に言われ、ようやく剣持警部の訪問理由を察する。だから、安心して口は開いた。
「……!?
「母は、良い歳をした大人なのです。自分達が迎えに行く必要はありません。母に伝えて下さい。帰りたいなら、自力で帰って来いとっ」
座布団へ正座したまま、
剣持警部は目を丸くしたが、
だが、金田祖父は違う。
「お前、何言うとん! にいみは帰って来れん奴や! 罰が悪うて、合わす顔ない思うたら、帰るに帰れんのや。ワシらが引き摺ってでも、連れ戻さなアカンねん!!」
「だからこそ、都合よく迎えに来てもらおうなんて……烏滸がましいのです」
まくし立てる姿は、にいみの父親として当然だろう。ならば、
息子を置いていなくなる母親を迎え行くなど、お断りだ。
「あなた、剣持さんの前です。お控えなさい」
「せやかて、婆さん……」
金田祖母はオボンを手に戻り、金田祖父を諫める。湯吞みをそのまま、
「
「お祖母ちゃん……」
厳粛な物言いから、一転。娘を想う母親となり、深々と頭を下げる。シワだらけの指先が、微かに震えている。彼女は今すぐにでも、長野へ発ちたいのだ。
己が娘の無事をその目で確認しない限り、生きた心地がしない。そんな不安に駆られた気持ちと、闘うつもりだ。
「分かりました。詳細は追って、連絡致します」
「……こんな時間や、途中まで送りますわ」
一家の決意を受け入れ、剣持警部も雄々しくどこか大雑把に頭を下げた。善は急げと、彼は玄関に向かう。納得し切れず、反対もしない金田祖父が車の鍵を手に、追いかけた。
束の間の静けさ。
机の上に置いたままの携帯電話を手に取り、着信履歴を見やる。父・
演劇真っ最中、結果発表の時間帯。会場に携帯電話を持ち込んでいたとしても、出られない。今日が地区大会だと、残間は忘れたのかもしれない。取り敢えず、そっちのけ。
コール音が鳴る中、クローゼット式の押し入れを開く。氷室伯父の学ランを肩にかけ、学帽を被った。
〈……はい、こちら銭形〉
「
〈
「東京の家です。銭形さん……母が、見つかりました。……長野にいると、祖母が連絡を受けました」
前例から、
誤解されない様、その生存も語った。
自分達は迎えに行かず、剣持警部を送り出した部分まで知らせた。
〈……それから?〉
「……っ」
銭形警部補は否定も肯定もせず、
背氷村の事件から、始まった縁。
言葉を交わした時間は正直、ハジメ達よりも少ない。けれども、
――だって、にいみを探そうと最初に動き出したのは、彼なのだ。
まだ事件性を確認できず、只の家出人扱いだったにも関わらず、横浜に出向いてくれた。されど金田家の誰にも、それを悟らせなかった。
刑事だからと言う理由で、出来るはずがない。
「……母を探してくれて……ありがとうっ」
〈……どういたしまして、
感謝が涙と共に、溢れ出る。言葉だけはどうか、しっかりと発音した。
電話を通したせいか、誠実で実直な声が野太くて逞しい。服の擦れる音から、今度は敬礼の気配がする。
こちらも敬礼を返した。
お互いに見えないが、フッと吐く息は確かな意思疎通伝を教えてくれた。
普段通りの日課を済ませ、桐生家へ電話連絡。在宅を確認しておく。
受話器向こうから、意味深な口調で好都合だと呟かれた。
お言葉に甘え、神矢と合流した後に訪問。
喪服を纏ったご両親に歓迎され、高校生2人は素直にビビる。
桐生へ焼香し終えてから、詳細を知らされた。本日の午後、彼女は都内の墓地へ納骨されると言う。
どうやら、百日に定めていたらしい。
先月、皆に内緒で焼香を上げへ訪れたが、知らなかった。
四十九日はとっくに過ぎていた為、このままの状態だと勝手に思い込んでいた。いつまでも、変わらないはずはない。桐生のご両親も前へ進もうと、努力している。
「春美さんが、眠られる場所を教えてください」
「!?」
お2人は顔を見合わせ、「キミならそう言うだろうと思った」と複雑そうに笑う。決して良い意味ではなく、これを機に『
そんな悲痛な想いを、肌で感じた。
見送りを受け、近くの公園に足を運んだ。
祝日の為、老若男女問わず人が多い。ようやく神矢の緊張は解け、深いため息が聞こえた。
「金田はこれからも、桐生さんへ会いに行くんだな」
「はい、会いたい気持ちが……ある限り……」
神矢の賛同しかねる視線を受けようが、
ひとつの劇を終えると、無性に会いたくなる。
桐生の返事が聞こえなくても、演じた舞台の話がしたい。この気持ちは決して、恋じゃない。
聞かれてもいない言い訳を、心に留めた。
「……無理はするなよ、ヤバいと思ったら……俺が止める」
「はいっ」
神矢は感嘆の息を吐く。感心したような、呆れたような。それでいて、「しょうがないなあ」と認める想いが込められていた。
「神矢く~ん! 金田く~ん!」
「……あれ、美雪さん?」
「げぇ、七瀬さんっ」
聞き慣れた呼び声は遊んでいる子供達に負けず、耳に届く。
神矢は純粋に疑問したが、
「神矢君、捕まえて!」
「え?」
「え!?」
七瀬の指示通り、神矢は迷いなく、
「はあ、はあ……ありがとう、神矢君。もう金田君ったら、携帯電話! 電源切ってるでしょう? 金田君のお父さん、連絡付かなくて困ってたわよっ」
(知らんがな)
肩で息をしながら、七瀬は文句タラタラ。残間は最終手段として、息子の同級生を利用しやがった。
厳密に言えば、ハジメからの連絡だとこの時は知る由もない。
「……着信が鬱陶しかったので、一応……持ってはいますが……」
「意味ないじゃない、そんなの!」
「金田、携帯電話持ってんのか、良いなあ」
ウェストポーチから、携帯電話を取り出す。案の定、七瀬はお冠だ。
こんな時でも、神矢は純粋に羨ましがる。彼の目が輝き、ちょっと得意げになった。
「ほら、行きましょう。はじめちゃんと軽井沢で、待ち合わせてるからっ」
「は? 嫌ですよ、あ~!! 神矢君、押さないで~!」
「こうなっちまったら、美雪さんは手に負えないぜ。金田、悪い事は言わん。覚悟決めちまえ」
七瀬は本当に当たり前の如く、
「大丈夫、佐木君もいるし、桜樹先輩も一緒よ。何なら、宇治木さんもね」
「馬鹿言うな、行ぎだぐねぁ~!!」
駄々っ子を宥めるような七瀬の言い分。顔触れに安心要素など、ありはしない。スリルとサスペンスの予感だ。
「バイクっ、バイクで来ていますから!」
「残念、金田のお祖父ちゃんに電車だって聞いてます~♪」
遠慮のない彼女の動き、軽井沢行きは金田祖父母の了解も得ていると確信した。
否、金田祖父に売られた。せめてもの意趣返しと、彼の腹立つせせら笑いが脳裏に浮かんだ。
「助けて、神矢く~ん!」
「駅まで送ったらいい?」
「うん、お願い」
人々の好奇の視線に晒されながら、
気のせいだろうか、桐生のクスクスとした笑い声が聞こえた気がする。
(ハッ!? 『邪宗館』の皆さん……荒木君へ会いに行けるチャンスでは?)
結論として言えば、軽井沢に行くべきではなかった。
後にも先にも、後悔しかない。
狭山「狭山です。何か、強い視線を感じるから……僕の意見は控えさせてもらうよ。それでも言わせてもらえるなら、あの高校生達はいる限り……ゆかりは、もう大丈夫さ。さて、次回は『○○の殺人?』!! 他人の作った暗号ゲームに、興味ないね」
銭形 ケンタロウ
私立探偵、作中では道警に変更。名俳優・内野さんが演じている
イベントでにいみと出会い、事件後にオリ主と再会させる流れにしたかったのに、不破警視の後始末でそれどころじゃないじゃんと今回は不参加(マジ、ゴメン)
決め台詞は「ご先祖様の名の下に」だが、作中で言わせるタイミングが掴めず(難問)
金田 にいみ
穴埋めオリキャラ、オリ主の母親、氷室画伯の妹
マットペインター。兄程ではないにしても、仕事に出来る程の画力はある
背氷村にいる『氷室』は『兄ではない』と気付き、亡き父の弟分だった・山之内を頼った
人の名前に関して覚えるのが不得意、油断すると兄の名前も忘れるレベル。オリ主の名前が兄と被っていたと出生届を出した後に気付き、覚えるように努力した
狭山の名前は強烈過ぎて、忘れられなかった
『保科』については現時点では、うろ覚え。「狭山のガールフレンドだった気もするけど……曖昧な事を言って、捜査をかく乱させたと難癖付けられたくない」と言う理由から、沈黙
バルト城イベントに割り込み参加だった為、マリアと肖像画は見えていなかった
残間 青完
穴埋めオリキャラ、オリ主の父親、さとみと同じ顔
元マジシャン、現在はデザイン事務所の広報担当
最初は「まどろっこしい!暴力で決めようぜ(意訳)」とミステリーナイトを物理的に進める展開にしたかったんですが、収集付かなくてやめました
代理参加だった為、にいみと同じくマリアと肖像画が見えず。参加者は主催者から、役割を振られていると思い込んでいた