金田少年の生徒会日誌 作:珍明
ベストセラー作家の別荘、応接間にて家主の
「橘先生。
「ほ~っ、キミが噂の……背氷村、四ノ倉学園の連続殺人もキミが解決したそうじゃないか」
「……橘さんも、俺のコト知ってんの? どんな事件に関わったかなんて、一般には公表されてないハズなのにっ」
桜樹先輩から単刀直入に紹介され、橘先生は興味深そうにハジメを見やる。と言うよりも、何処か挑戦的な雰囲気を醸し出していた。
「ハハハッ、
「……そう言うもんスか」
橘先生の含んだ笑いに気を許さず、ハジメは驚きを隠さない。
「四ノ倉学園?」
「東京にあった予備校ですよ。今年の2月に事件が起きて、閉校しました。元々、苛烈な指導に生徒がすぐ去っていくと……嫌な噂の絶えないトコで……」
「
(何で知ってるのかしら? 桜樹先輩……)
「え!? このウスラトンカチが……
「あ~本当にそう、……なんだ。てっきり、同姓だから……からかってんのかと……」
「宇治木さんに前、教えた時のリアクションが薄いと思ってたら……まあ、良いですよ。和田さんが期待通りですから、フフフ……」
竜太は誰の反応も逃さず、じっくりと撮影する。
「そして、
「……自分、ですか?」
橘先生の笑みを崩さず、標的を変えた物言い。
「もしかして、金田君の舞台も知られてるんじゃない?」
「ああ……知ってるよ、お嬢さん。金田君のお父上を襲った惨劇の舞台を、ね」
ポジティブ思考な七瀬を羨ましく思う間もなく、橘先生はニヤリと不敵に笑った。
――!?
ハジメと桜樹先輩、七瀬さえも事の重大さに息を呑む。ただ、
――ど、どっち!?
橘先生がほのめかす『金田君のお父上』、
娘が『幻想魔術団』に籍を置いた経歴があり、自身も元マジシャン・
甥と瓜二つの顔を持つ伯父、悲劇の画家・
但し、現時点で実父は昨日のバルト城炎上事件、当事者なのだ。
橘先生は情報通に長け、県内の最新情報も筒抜け間違いなし。
(わっがんねぁ~!!)
(金田先輩のお父さんって、PTA会長がメロメロになった……あの人?)
(金田君、お父さんいたんだ)
(あっ、
竜太、
(はじめちゃん、金田君に助け舟出さないと……)
(この状況で何、言えばいいんだよっ)
(七瀬さん、こう言う時こそ……黙っていた方が吉よ)
3人の念話じみた会話が聞こえ、有難い。下手なフォローは却って、逆効果だ。
「パパ~、何のお話?」
「橘先生~イジワルせんと、私にも教えてや~」
「フフフ、それよりも
勿体ぶった言い方で煙に巻き、橘先生は応接間を後にした。
大時計の秒針がチッチッチと刻む度、不愉快さが室内を満たしていく。
「ヤな感じのオッサンだぜ」
「ごめん、ゴメン」
「若様……橘先生、あれで結構、ええトコもあるき。大目に見てやってください」
「……あ、はい」
ハジメがブ~垂れた顔をして感想を呟き、宇治木が何故か、謝る。
でも、ムカついた。
「失礼致します。和田様、お部屋へご案内致します。昼食もご用意しておりますので。どうぞ、そちらへ」
「ああ、これはおおきに。行こうか、朋美。お薬も飲まんと。ほな、皆さん。私らは失礼します」
「またね~、お兄ちゃん、お姉ちゃん」
目元に黒子のあるオカッパ頭の少女・
「葵さんに案内されるなんて、和田さんも宇治木さんと同じ賓客なんですね。いつきさんでさえ、鴨下さんと同じ扱いなのに」
「比呂も賓客だろ。どういう選び方?」
「僕の場合は同じ土地で活躍する物書きとして、じゃないかな」
竜太が感心すれば、ハジメは荒木に何気なく問う。橘先生は意外にも、若手と交流したいのかもしれない。尚の事、どういう人間か、見極めたい。
『邪宗館』のネタ捜し。その可能も視野に入れよう。
「桜樹先輩、暗号ゲームは解けましたか?」
「ええ、金田君。あんなの簡単よ」
「
「おうよ、比呂。考える時間も要らねぜ」
余裕綽々の謎解き組、即答である。
「2人とも、もう解けたの!? ……それなら、いつきさんに教えてあげた方が……」
「う~ん……何と言うか、今回は正直……乗り気になれないのよねえ」
「あ、やっぱり。暗号を発表してから、桜樹先輩のテンションが下がっていると思いました」
呆気に取られた七瀬がいつきの心配をすれば、桜樹先輩から笑みが消える。竜太は既に、納得していた。
「橘のオヤジが、気に入らないとか?」
「……私、頭が良い人が好きなの。作家も同じでね……こんなやり方、人死にが出るわ。冗談抜きで」
ハジメもすっと探偵の表情になり、桜樹先輩は眉間にシワを寄せて、橘先生への嫌悪を露わにした。
「「「!?」」」
「……桜樹さん、良ければ……詳しく聞かせてくれる?」
「時田 朋江を知ってるかしら? ルポルタージュ作家よ」
「……っ、そんな名前の方がいるのですか」
「はい、東京であった強盗殺人事件をモチーフにした方です。犯人の家族を中心に描かれ、事件に至るまでのリアリティーさが高く評価されました。時事ネタだったのも大きく話題を呼び、ベストセラー入りしています」
桜樹先輩の口から、知り合いが混在した名前を聞く。
不愉快さが、より増した。
「思い出した……元ネタの親子……本が出版された後に、……すぐに亡くなったんだ。本人達と特定できるような書き方してて、自宅にマスコミが押し寄せたって話だ。その作家も、行方知れずに……」
宇治木が言い方を変えても、嫌悪に満ちた表情から1冊の本がもたらした悲劇を教える。あまりにも惨たらして、
「ええ……そんな酷い話が……。……じゃあ、桜樹先輩は今回も同じ事が起こると?」
「そうよ、七瀬さん。ノンフィクション作家だからって……人の罪を作品にして、あげつらう真似は好きじゃないわ」
同時に朋美のような少女の前故、桜樹先輩は憤りを堪え、笑顔を必死に保っていた。
その心情を深く理解した。
彼女に後味の悪い思いなど、させたくない。
「でしたら、尚の事。自分達で手に入れましょう。橘先生には実名で出版せぬ様、説得するのです。宇治木さんがっ」
「俺!? ごめん……責任重大なんだけど……?」
「確かに僕達の中で、橘先生が話を聞いてくれそう人……宇治木さんだけだよ」
「あ、だったら……朋美ちゃんのお父さんは? 結構、仲良さげだったしっ」
「……しょうがねえなあ……俺もいつきさんに、頼んでみっか」
荒木がやれやれと呟けば、七瀬はナイスアイディア。ハジメも少し、緊張を解いた、
志がひとつと成れば、重かった空気も呼吸がしやすい。皆の協力的な姿勢から、
「私も木根さんに頼んでみますか、当てにならないけどね」
「木根さん?」
「桜樹先輩が聖正病院の事件で、知り合った自称医療ジャーナリストです。例の萬屋病院の件にも、協力してくれた人とかで……暗号ゲームに夢中で、外にいますよ」
桜樹先輩が思い付いた相手に、竜太は窓の外を見やる。肩書だけなら心強そうだが、彼女の曇った表情に期待は薄そうだと失礼ながら、思った。
話が纏まったら、動くのみ。
「……自分、家探しします。橘先生の寝室と書斎は、どちらにありますか?」
「別館にあるけど……橘先生が居ない時は、鍵がかかってるはずだよ」
「え? 金田……まだ俺達、暗号の答え……言ってないぞ。なんで、その2つ?」
「どれだけ歳を重ねようが、男は大切な物を寝室か書斎にしか、隠しません」
これまでの人生観である。
「すげえ偏見!?」
「……あ~、ちょっと分かるかも」
「僕も寝室ですね、手元にないと落ち着きませんし」
「ごめん、否定できない。書斎なんて贅沢なモン、ウチにないけど……」
「「暗号の意味は?」」
ハジメ、荒木、竜太、宇治木は各々の反応を見せる中、女性陣はゲンナリした様子でわざとらしく咳払い。
「そこは桜樹先輩とハジメちゃんにお任せます。運良く発見出来ても、橘先生に暗号解読してないから無効と判断されかねません」
「成程、私達が解くのが先か、金田君が見付けるのが先か、勝負と言うワケね♪」
「反則じゃね? 俺は良いけどよ」
人には得手不得手がある。
「そういう事なら、僕は書斎をお勧めするよ」
「比呂はなんでまた、そこに?」
「今回、男の人が多く参加をしている。あの橘先生が暗号の為とは言え、寝室に男を入れるとは考えにくいからさ」
「はあ~、説得力あるなあ」
荒木のさらりとした助言にハジメを含め、皆は感心した。
「それじゃあ、書斎の鍵を借りる方法を考えないと……」
「いえ、橘先生が居る時を狙いましょう。挨拶するフリをして、室内を物色します。自分だけでは心許ないので必ず、宇治木さん、和田さん、木根さん……いつきさんを連れて……」
七瀬の案も良いが、他者の目もある。
「金田、いつきさんの名を呼ぶ時だけ、感情を殺すな。お前1人が何度も行ったら、怪しまれるだろうが」
「私と
「了解です」
「はいっ」
ハジメが呆れた口調で指摘し、桜樹先輩は的確に割り振りしてくれる。竜太と七瀬はニッコリと受け入れた。
「僕は宇治木さんと行こうかな」
「え……荒木君、宇治木さんを取らないでください。いつきさん、あげますよ」
「本人のいないところで、押し付け合いすんな!」
荒木が先に宇治木を選んでしまい、
「なんか、ごめん」
何も悪くないはずの宇治木が申し訳なさそうに、ハジメへ謝った。
竜二と佐木父へ会いに行くついでに、いつきを探そうとプールへ向かう。
完成されたばかりのサイドは太陽の光を上品に反射し、輝かしい。植え込まれたヤシの木など、別荘よりもリゾートホテルの風格を備え、個人が持つには贅沢な仕上がり。
むさ苦しい男達が上半身裸ビッショビショ、陽射しがあろうと涼しい秋の季節では、初冬の寒さを体感するだろう。段々と血の池地獄に見えてきた。
椅子に座り、煙草を吸う人は賢明だ。
「金田センパ~イ、昨日の大会はお連れ様デシタ♪ 観に行けなくてスミマセン、どうしても時間的に厳しくて~。父も次は行くって、言ってま~す」
「こんにちは、竜二君、お父様。お気になさらず、都大会には進めませんでした。次の日程はまた佐木君を通じて、お知らせしますね」
「……金田先輩、いつきさんはあそこです」
竜二と佐木父に挨拶され、
男達に混ざり、いつきは水面から顔出す。彼は空気を思いっ切り、肺に取り込んでから、また潜っていた。
(……水、平気なんだ……)
氷点下な気分以上に、白ける。
「金田センパイ?」
「いつきさんがひと段落したら、話しかけてみます。皆さんはお仕事を続けてください」
佐木家3人から不思議そうにハンディカムを向けられ、
いつきのプール探索は意外と時間はかかり、他の者達が書斎の物色を済ませてしまう。サイドへ集まり、周囲の目を盗んで情報交換に励んだ。
「朋美ちゃんと机の中を見せてもらったわ。あれだけ堂々としてたら、机はないかなあ?」
「水槽の金魚に餌をあげたよ。フロッピーディスクは精密だし、ないね」
「物に触らないなら、撮影OKと……書斎の中を撮らせてもらいました」
七瀬、荒木の見解を聞き、竜太からビデオを借りる。壁に掛けられた絵画、本棚、パソコンとプリンターが整理整頓されている。家具の配置から、実に神経質な性格も窺えた。
「それと金田先輩、僕らの後に橘先生は寝室に行きました。書斎には、鍵がかかっています」
「今、行っても無駄足ですね……となると」
「お、集まってんな。全員、書斎に行けたか?」
竜太に補足され、
「はじめちゃん、後は金田君だけよ。そっちは?」
「なんだよ、まだ行ってねえのか。こっちは大体、揃った感じだぜ。いつきさ~ん、ちょっといいか? 金田も来いっ」
「ハジメちゃん、積極的です。――ドギマギしちゃう――」
「俺の方こそ、呼ばれたかったぜ」
七瀬に答えたハジメは用意されたタオルを手に取り、
「いつきさん、金田を橘さんの書斎へ案内してやってくれ」
「おん? 俺は構わねえが……そっちは大丈夫か?」
「いつきさんが居てくれたら、心強いです」
ハジメの頼み事を不思議がり、いつきは
(目付きヤバ……俺、殺されるんじゃねえだろうな?)
いつきは訝しげに眉をひそめたが、断らなかった。
書斎のある別館は本館の裏にあり、切り離された建物そのものに年季が入っていた。
「驚いたろ、コイツは移築されたんだ。橘先生は別館には思い入れがあってな、本館だけを新しくしたんだぜ」
「……橘先生と仲がヨロシイのですね」
「まあな、駆け出しのライターだった頃から世話になってんだ。お前ら、葵ちゃんと棗ちゃんには会ったか? あの佐木って坊主みたいに、ソックリの双子なんだぜ」
「佐木君はひとつ違いの兄弟です」
いつきはどうにか話題を振るうも全然、和めない。双子の話題になれば、否が応にでも
「俺、いらなくね?」
「馬鹿言え、
「……違うのですか?」
ジト目のハジメがいつきへ訴えかければ、何と核心を突かれた。ビックリした拍子に、
「……プッ、やっぱり……そうか。どうせ、
「そ、そうとも言い切れねえぜ。橘さんは、いつきさんみたいな人の裏を掻いて……」
「ないない! 書斎に原稿があるなんてぇのは、出版社関係者は勿論、TV局員だって真っ先に思い付く。そんな陳腐な隠し場所だったら、ヘソで茶を沸かすわ! ハッハッハ~!」
(阿呆~! それ以上、喋んな!?)
いつきは大爆笑の果てに煙草を咥え、火を点ける。ハジメの心の叫びは届かず、冷や汗でビッショビショ。
だが、素人なりの矜持はある。誰かの助けは確かにあったが、事件解決に貢献して来たのは事実。憤怒と羞恥に脳髄の奥は毛細血管も焼き切れんばかりに熱くさせ、目の前は真っ白だ。
「そうですか……陳腐で浅知恵な自分はこれにて、お暇します」
「か、金田! おい、ちょ……待てよ!」
「……俺、なんかマズった?」
愛想も忘れ、足は方向転換。ハジメの必死な引き留めも構わず、本館の扉を乱暴に開け放った。
「金田っ、いつきさんはその……業界の基本を言っただけで、お前を馬鹿にしたワケじゃあ……」
「……馬鹿にだなんて、とんでもない。いつきさんは至極当然の一般常識をこの上なく、明確に教えて下さっただけです。ただ、厚顔無恥で、世間知らずな高校生が、勝手に腹を立てているだけです。それとも、ハジメちゃんは……自分に、怒るなと言うのですか? 感情を殺して、馬鹿みたいに笑っていろと?」
ハジメのいつきを庇う態度が気に入らなくて、意図せずに睨んだ。彼も本当は
乗り気になった皆へ水を差さぬ様、黙っていた。それも、腹が立つ。
「……いや、その……悪かっ……」
「わっかんねえ奴だな! ハジメは……何にも、悪くねえだろ。
一喝したのも束の間、後悔が脳髄に纏わりつく。ハジメと言い争いなど、したくなかった。
彼の凛々しい眉が哀愁に歪み、
もう、追って来なかった。
屋敷を出ようにも、竜太のハンディカムに先回りされる。理由を聞かれたくなくて、渋々と応接間に籠った。
控え目かつ上品な調度品に囲まれ、独り反省会。せめてピアノがあれば、ネガティブ思考を発散できるというのに、楽器類は何もない。
大時計の秒針をメトロノームに見立てて、テーブルに指を這わせた。
そこへ疲れた顔の荒木、暇を持て余した七瀬と朋美も現れる。彼らの手にある分厚い童話集がテーブルへドンッと置かれた。
イラッとした。
「金田君も読んで、どうせ暇でしょ」
「……七瀬さん、今は猛省の嵐です。」
「
「お兄ちゃんとお姉ちゃんが、何回も読んでくれたの~♪」
容赦のない七瀬からプイッと顔を逸らせば、荒木に本を差し出された。朋美の嬉しそうな笑顔から、2人はずっと子守りをしていたらしい。
和田は同業者へ挨拶巡りか、休憩中といったところだろう。
彼には、母・にいみも世話になっている。これから橘先生を説得するのに欠かせない人物、朋美の機嫌は取っておくべし。
「……『オオカミと七ひきの子ヤギ』……」
「あれ、またそのページだわ。あたしと荒木君が開いた時も、そこになったの。本に癖がついてるみたい」
「この本、朋美ちゃんの持ち物だっけ?」
「ううん、パパと朋美が寝る部屋に置いてあったの。きっと橘先生が朋美の為に用意してくれたんだって、パパは言ってた」
タイトルを読み上げ、七瀬はふと首を傾げる。荒木も何気なく問えば、朋美はニッコニッコで教えてくれた。傍から見れば、幼い子を退屈させない大人の配慮に思える。
否と脳髄の奥が囁く。
「……橘先生が、
「――おかあさんじゃない、オオカミだあ! 隠れろ~! ――」
「すごい、すごい♪ お兄ちゃん、上手♪」
一文字一文字、逃すまいと朗読開始。朋美は迫真の演技を喜び、何度も拍手してくれた。
絵本と違う文脈だが、話の内容や結末に変化はなし。
読み終えた途端、大時計が高らかに午後3時の時報を告げる。それはゲームセットに聞こえ、
「朋美ちゃん、あの大時計……子ヤギさんが隠れられそうですね。開けてみます?」
「うんっ。朋美、開けたい♪」
「……そっか」
「! 朋美ちゃん、あたしも子ヤギさんがいないか、傍で見てるね」
朋美は好奇心のまま、大時計へ駆け寄る。荒木と七瀬も気付き、彼女の行動を微笑ましく見守った。
時任「時任 亘です、閲覧ありがとうございます。いつきさん、そういうトコですよ~ww。さて、次回は『○○の殺人?・転』!! う~ん、こりゃあ……鬼の編集長から大目玉喰らうなあ。まっ、いっか」
佐木 竜二
原作にて、父・連太郎と共に初登場。竜太とは前髪の分け目がちょっと違う
花村 棗と葵
一卵性双生児、正反対の性格。泣きホクロが見分けるポイント、容疑のかかったはじめちゃんに対する態度も正反対で、好き