金田少年の生徒会日誌   作:珍明

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いつきさん、プール入ってますが、原作描写そのままです。本編でもツッコミがある


Q36 ○○の殺人?・承

 ベストセラー作家の別荘、応接間にて家主の(たちばな)先生へご挨拶する中、桜樹(さくらぎ)先輩が失礼の無い様に手を挙げた。

 

「橘先生。金田一(きんだいち)君が、いつきさんの自慢していた名探偵の孫です」

「ほ~っ、キミが噂の……背氷村、四ノ倉学園の連続殺人もキミが解決したそうじゃないか」

「……橘さんも、俺のコト知ってんの? どんな事件に関わったかなんて、一般には公表されてないハズなのにっ」

 

 桜樹先輩から単刀直入に紹介され、橘先生は興味深そうにハジメを見やる。と言うよりも、何処か挑戦的な雰囲気を醸し出していた。

 

「ハハハッ、金田一(きんだいち)君は面白いなあ。あれだけ活躍しておきながら、目立ってないつもりかね」

「……そう言うもんスか」

 

 橘先生の含んだ笑いに気を許さず、ハジメは驚きを隠さない。

 

「四ノ倉学園?」

「東京にあった予備校ですよ。今年の2月に事件が起きて、閉校しました。元々、苛烈な指導に生徒がすぐ去っていくと……嫌な噂の絶えないトコで……」

金田一(きんだいち)君が一時期、通ってたらしいわ」

(何で知ってるのかしら? 桜樹先輩……)

 

 (いち)の知らない学校名に思わず、呟く。竜太(りゅうた)と桜樹先輩がコッソリと教え、七瀬(ななせ)は何とも言えない表情となった。

 

え!? このウスラトンカチが……金田一(きんだいち) 耕助(こうすけ)の孫!?」

「あ~本当にそう、……なんだ。てっきり、同姓だから……からかってんのかと……」

 

 和田(わだ)宇治木(うじき)のビックリ仰天。ハジメの第一印象と名探偵の孫という肩書きのギャップに、衝撃を受けた人は久しぶりに見た。

 

「宇治木さんに前、教えた時のリアクションが薄いと思ってたら……まあ、良いですよ。和田さんが期待通りですから、フフフ……」

 

 竜太は誰の反応も逃さず、じっくりと撮影する。

 

「そして、キミだ(・・・)。金田君、まさか……こうして、お会いできるとは……」

「……自分、ですか?」

 

 橘先生の笑みを崩さず、標的を変えた物言い。(いち)の警戒心は募り、目上への挨拶も忘れた。

 

「もしかして、金田君の舞台も知られてるんじゃない?」

「ああ……知ってるよ、お嬢さん。金田君のお父上を襲った惨劇の舞台を、ね」

 

 ポジティブ思考な七瀬を羨ましく思う間もなく、橘先生はニヤリと不敵に笑った。

 

 ――!?

 

 ハジメと桜樹先輩、七瀬さえも事の重大さに息を呑む。ただ、(いち)は露見したショックよりも、違う問題に直面してしまい、焦り出す。

 

 ――ど、どっち!?

 

 橘先生がほのめかす『金田君のお父上』、(いち)は2人の人間が思い浮かぶ。

 娘が『幻想魔術団』に籍を置いた経歴があり、自身も元マジシャン・残間(ざんま) 青完(あおまさ)

 甥と瓜二つの顔を持つ伯父、悲劇の画家・氷室(ひむろ) 一聖(いっせい)。ホンの少し前ならば、即座に後者を連想しただろう。実際、隠し子と間違えられた事例もある。

 但し、現時点で実父は昨日のバルト城炎上事件、当事者なのだ。

 橘先生は情報通に長け、県内の最新情報も筒抜け間違いなし。

 

(わっがんねぁ~!!)

 

 (いち)は内心を面に出さず、歯を食いしばる。どれだけ判断に困ろうと結果は同じ、認めてしまえば、面倒事は避けられない。

 

(金田先輩のお父さんって、PTA会長がメロメロになった……あの人?)

(金田君、お父さんいたんだ)

(あっ、まさか(・・・)……)

 

 竜太、荒木(あらき)も多少は困惑しつつ、落ち着いた様子。しかし、宇治木は橘先生が関心を示す程の人物と、勘付いてしまった。

 

(はじめちゃん、金田君に助け舟出さないと……)

(この状況で何、言えばいいんだよっ)

(七瀬さん、こう言う時こそ……黙っていた方が吉よ)

 

 3人の念話じみた会話が聞こえ、有難い。下手なフォローは却って、逆効果だ。

 

「パパ~、何のお話?」

「橘先生~イジワルせんと、私にも教えてや~」

 

 朋美(ともみ)も大人達の妙な雰囲気に物怖じし、和田の服を掴む。娘の緊張を察し、彼はニッコニッコとおねだりするフリ。

 

「フフフ、それよりも金田一(きんだいち)君。途中からでもゲーム参加は大歓迎だ。精々、おじい様の名に恥じぬようにな」

 

 勿体ぶった言い方で煙に巻き、橘先生は応接間を後にした。

 大時計の秒針がチッチッチと刻む度、不愉快さが室内を満たしていく。

 

「ヤな感じのオッサンだぜ」

「ごめん、ゴメン」

「若様……橘先生、あれで結構、ええトコもあるき。大目に見てやってください」

「……あ、はい」

 

 ハジメがブ~垂れた顔をして感想を呟き、宇治木が何故か、謝る。(いち)は和田に宥められずとも、橘先生が慎重に言葉を選んだのは分かっているつもりだ。

 でも、ムカついた。

 

「失礼致します。和田様、お部屋へご案内致します。昼食もご用意しておりますので。どうぞ、そちらへ」

「ああ、これはおおきに。行こうか、朋美。お薬も飲まんと。ほな、皆さん。私らは失礼します」

「またね~、お兄ちゃん、お姉ちゃん」

 

 目元に黒子のあるオカッパ頭の少女・花村(はなむら) (あおい)に呼ばれ、和田親子はいそいそと退室した。

 

「葵さんに案内されるなんて、和田さんも宇治木さんと同じ賓客なんですね。いつきさんでさえ、鴨下さんと同じ扱いなのに」

「比呂も賓客だろ。どういう選び方?」

「僕の場合は同じ土地で活躍する物書きとして、じゃないかな」

 

 竜太が感心すれば、ハジメは荒木に何気なく問う。橘先生は意外にも、若手と交流したいのかもしれない。尚の事、どういう人間か、見極めたい。

『邪宗館』のネタ捜し。その可能も視野に入れよう。

 

「桜樹先輩、暗号ゲームは解けましたか?」

「ええ、金田君。あんなの簡単よ」

金田一(きんだいち)もどうせ、暗号は解けてるんじゃない? ここへ来るまで、内容は聞いたんだろ」

「おうよ、比呂。考える時間も要らねぜ」

 

 余裕綽々の謎解き組、即答である。

 

「2人とも、もう解けたの!? ……それなら、いつきさんに教えてあげた方が……」

「う~ん……何と言うか、今回は正直……乗り気になれないのよねえ」

「あ、やっぱり。暗号を発表してから、桜樹先輩のテンションが下がっていると思いました」

 

 呆気に取られた七瀬がいつきの心配をすれば、桜樹先輩から笑みが消える。竜太は既に、納得していた。

 

「橘のオヤジが、気に入らないとか?」

「……私、頭が良い人が好きなの。作家も同じでね……こんなやり方、人死にが出るわ。冗談抜きで」

 

 ハジメもすっと探偵の表情になり、桜樹先輩は眉間にシワを寄せて、橘先生への嫌悪を露わにした。

 

「「「!?」」」 

「……桜樹さん、良ければ……詳しく聞かせてくれる?」

 

 (いち)と七瀬、荒木がゾッとしても、宇治木は真摯に問う。

 

「時田 朋江を知ってるかしら? ルポルタージュ作家よ」

「……っ、そんな名前の方がいるのですか」

「はい、東京であった強盗殺人事件をモチーフにした方です。犯人の家族を中心に描かれ、事件に至るまでのリアリティーさが高く評価されました。時事ネタだったのも大きく話題を呼び、ベストセラー入りしています」

 

 桜樹先輩の口から、知り合いが混在した名前を聞く。(いち)は別の意味でも驚いた。その間、竜太は澱みなく、解説してくれた。

 不愉快さが、より増した。

 

「思い出した……元ネタの親子……本が出版された後に、……すぐに亡くなったんだ。本人達と特定できるような書き方してて、自宅にマスコミが押し寄せたって話だ。その作家も、行方知れずに……」

 

 宇治木が言い方を変えても、嫌悪に満ちた表情から1冊の本がもたらした悲劇を教える。あまりにも惨たらして、(いち)は不快のあまりに口を押さえた。

 

「ええ……そんな酷い話が……。……じゃあ、桜樹先輩は今回も同じ事が起こると?」

「そうよ、七瀬さん。ノンフィクション作家だからって……人の罪を作品にして、あげつらう真似は好きじゃないわ」

 

 同時に朋美のような少女の前故、桜樹先輩は憤りを堪え、笑顔を必死に保っていた。

 その心情を深く理解した。

 彼女に後味の悪い思いなど、させたくない。

 

「でしたら、尚の事。自分達で手に入れましょう。橘先生には実名で出版せぬ様、説得するのです。宇治木さんがっ」

俺!? ごめん……責任重大なんだけど……?」

 

 (いち)は不快さを拳に込め、決意を表明する。気付いて放置できずに関わるのならば、最後までやり遂げよう。肝心な部分を宇治木に頼れば、悲鳴が上がった。

 

「確かに僕達の中で、橘先生が話を聞いてくれそう人……宇治木さんだけだよ」

「あ、だったら……朋美ちゃんのお父さんは? 結構、仲良さげだったしっ」

「……しょうがねえなあ……俺もいつきさんに、頼んでみっか」

 

 荒木がやれやれと呟けば、七瀬はナイスアイディア。ハジメも少し、緊張を解いた、

 志がひとつと成れば、重かった空気も呼吸がしやすい。皆の協力的な姿勢から、(いち)が言い出さずとも、ハジメは独りで勝手に行動を起こしている気がする。

 

「私も木根さんに頼んでみますか、当てにならないけどね」

「木根さん?」

「桜樹先輩が聖正病院の事件で、知り合った自称医療ジャーナリストです。例の萬屋病院の件にも、協力してくれた人とかで……暗号ゲームに夢中で、外にいますよ」

 

 桜樹先輩が思い付いた相手に、竜太は窓の外を見やる。肩書だけなら心強そうだが、彼女の曇った表情に期待は薄そうだと失礼ながら、思った。

 話が纏まったら、動くのみ。

 

「……自分、家探しします。橘先生の寝室と書斎は、どちらにありますか?」

「別館にあるけど……橘先生が居ない時は、鍵がかかってるはずだよ」

「え? 金田……まだ俺達、暗号の答え……言ってないぞ。なんで、その2つ?」

 

 (いち)が閃いた場所を確認すれば、荒木とハジメはキョトンする。他の人も同じく、興味津々の眼差しを向けてくるが、そこまで期待される理由はない。

 

「どれだけ歳を重ねようが、男は大切な物を寝室か書斎にしか、隠しません」

 

 これまでの人生観である。

 

「すげえ偏見!?」

「……あ~、ちょっと分かるかも」

「僕も寝室ですね、手元にないと落ち着きませんし」

「ごめん、否定できない。書斎なんて贅沢なモン、ウチにないけど……」

「「暗号の意味は?」」

 

 ハジメ、荒木、竜太、宇治木は各々の反応を見せる中、女性陣はゲンナリした様子でわざとらしく咳払い。

 

「そこは桜樹先輩とハジメちゃんにお任せます。運良く発見出来ても、橘先生に暗号解読してないから無効と判断されかねません」

「成程、私達が解くのが先か、金田君が見付けるのが先か、勝負と言うワケね♪」

「反則じゃね? 俺は良いけどよ」

 

 人には得手不得手がある。

 (いち)は以前、楽譜探しに関わった。あれは最初から、決められた人間へ渡るように段取りが組まれていた。今回、初対面の橘先生の仕掛けでは、大して役に立てないだろう。

 

「そういう事なら、僕は書斎をお勧めするよ」

「比呂はなんでまた、そこに?」

「今回、男の人が多く参加をしている。あの橘先生が暗号の為とは言え、寝室に男を入れるとは考えにくいからさ」

「はあ~、説得力あるなあ」

 

 荒木のさらりとした助言にハジメを含め、皆は感心した。

 

「それじゃあ、書斎の鍵を借りる方法を考えないと……」

「いえ、橘先生が居る時を狙いましょう。挨拶するフリをして、室内を物色します。自分だけでは心許ないので必ず、宇治木さん、和田さん、木根さん……いつきさんを連れて……」

 

 七瀬の案も良いが、他者の目もある。(いち)は勇気を振り絞るが、いつきの名を意識した時点で気分は氷点下。

 

「金田、いつきさんの名を呼ぶ時だけ、感情を殺すな。お前1人が何度も行ったら、怪しまれるだろうが」

「私と金田一(きんだいち)君は駄目ね。佐木君、木根さんと書斎へ行ってくれる? 七瀬さんは和田さんよ、朋美ちゃんもいるし……バランスも丁度良いわ」

「了解です」

「はいっ」

 

 ハジメが呆れた口調で指摘し、桜樹先輩は的確に割り振りしてくれる。竜太と七瀬はニッコリと受け入れた。

 

「僕は宇治木さんと行こうかな」

「え……荒木君、宇治木さんを取らないでください。いつきさん、あげますよ」

「本人のいないところで、押し付け合いすんな!」

 

 荒木が先に宇治木を選んでしまい、(いち)は胃が竦む。ハジメのツッコミは正論だが、2人で知らん顔を決め込んだ。

 

「なんか、ごめん」

 

 何も悪くないはずの宇治木が申し訳なさそうに、ハジメへ謝った。

 

 竜二と佐木父へ会いに行くついでに、いつきを探そうとプールへ向かう。

 完成されたばかりのサイドは太陽の光を上品に反射し、輝かしい。植え込まれたヤシの木など、別荘よりもリゾートホテルの風格を備え、個人が持つには贅沢な仕上がり。

 むさ苦しい男達が上半身裸ビッショビショ、陽射しがあろうと涼しい秋の季節では、初冬の寒さを体感するだろう。段々と血の池地獄に見えてきた。

 椅子に座り、煙草を吸う人は賢明だ。

 

「金田センパ~イ、昨日の大会はお連れ様デシタ♪ 観に行けなくてスミマセン、どうしても時間的に厳しくて~。父も次は行くって、言ってま~す」

「こんにちは、竜二君、お父様。お気になさらず、都大会には進めませんでした。次の日程はまた佐木君を通じて、お知らせしますね」

「……金田先輩、いつきさんはあそこです」

 

 竜二と佐木父に挨拶され、(いち)は地区大会の苦さを思い返す。只の世間話だが、竜太は若干の嫉妬めいた苛立ちを見せて、プールを指差した。

 男達に混ざり、いつきは水面から顔出す。彼は空気を思いっ切り、肺に取り込んでから、また潜っていた。

 

(……水、平気なんだ……)

 

 氷点下な気分以上に、白ける。(いち)は大人達のプール遊びに背を向け、デッキテーブルに置かれた軽食をひとつまみ頂く。そのまま、チェアへ寝そべった。

 

「金田センパイ?」

「いつきさんがひと段落したら、話しかけてみます。皆さんはお仕事を続けてください」

 

 佐木家3人から不思議そうにハンディカムを向けられ、(いち)は悶々とした感情を落ち着かせるまでの言い訳を並べた。

 いつきのプール探索は意外と時間はかかり、他の者達が書斎の物色を済ませてしまう。サイドへ集まり、周囲の目を盗んで情報交換に励んだ。

 

「朋美ちゃんと机の中を見せてもらったわ。あれだけ堂々としてたら、机はないかなあ?」

「水槽の金魚に餌をあげたよ。フロッピーディスクは精密だし、ないね」

「物に触らないなら、撮影OKと……書斎の中を撮らせてもらいました」

 

 七瀬、荒木の見解を聞き、竜太からビデオを借りる。壁に掛けられた絵画、本棚、パソコンとプリンターが整理整頓されている。家具の配置から、実に神経質な性格も窺えた。

 

「それと金田先輩、僕らの後に橘先生は寝室に行きました。書斎には、鍵がかかっています」

「今、行っても無駄足ですね……となると」

「お、集まってんな。全員、書斎に行けたか?」

 

 竜太に補足され、(いち)は別の方法を取ろうと模索する。そこへ現れたハジメの明るい表情から察するに、暗号解読は順調の様子だ。

 

「はじめちゃん、後は金田君だけよ。そっちは?」

「なんだよ、まだ行ってねえのか。こっちは大体、揃った感じだぜ。いつきさ~ん、ちょっといいか? 金田も来いっ」

「ハジメちゃん、積極的です。――ドギマギしちゃう――」

「俺の方こそ、呼ばれたかったぜ」

 

 七瀬に答えたハジメは用意されたタオルを手に取り、(いち)の腕を引っ張る。探索に飽き、いつきはやれやれとプールから這い出た。

 

「いつきさん、金田を橘さんの書斎へ案内してやってくれ」

「おん? 俺は構わねえが……そっちは大丈夫か?」

「いつきさんが居てくれたら、心強いです」

 

 ハジメの頼み事を不思議がり、いつきは(いち)へ確認してくる。笑みを絶やさず、心にもない言葉を吐いた。

 

(目付きヤバ……俺、殺されるんじゃねえだろうな?)

 

 いつきは訝しげに眉をひそめたが、断らなかった。

 

 書斎のある別館は本館の裏にあり、切り離された建物そのものに年季が入っていた。

 

「驚いたろ、コイツは移築されたんだ。橘先生は別館には思い入れがあってな、本館だけを新しくしたんだぜ」

「……橘先生と仲がヨロシイのですね」

「まあな、駆け出しのライターだった頃から世話になってんだ。お前ら、葵ちゃんと棗ちゃんには会ったか? あの佐木って坊主みたいに、ソックリの双子なんだぜ」

「佐木君はひとつ違いの兄弟です」

 

 いつきはどうにか話題を振るうも全然、和めない。双子の話題になれば、否が応にでも北見(きたみ)姉妹を思い出してしまう。実に、間が悪かった。

 

「俺、いらなくね?」

「馬鹿言え、金田一(きんだいち)。いるに決まってんだろ。ところで、本当は何が目的なんだ? まさかとは思うが、原稿が書斎にあるな~んて、考えてねえだろうな?」

「……違うのですか?」

 

 ジト目のハジメがいつきへ訴えかければ、何と核心を突かれた。ビックリした拍子に、(いち)は彼の質問を肯定する返事をしてしまった。

 

「……プッ、やっぱり……そうか。どうせ、金田一(きんだいち)じゃねえ奴の浅知恵だろうが……ククク」

「そ、そうとも言い切れねえぜ。橘さんは、いつきさんみたいな人の裏を掻いて……」

「ないない! 書斎に原稿があるなんてぇのは、出版社関係者は勿論、TV局員だって真っ先に思い付く。そんな陳腐な隠し場所だったら、ヘソで茶を沸かすわ! ハッハッハ~!

(阿呆~! それ以上、喋んな!?)

 

 いつきは大爆笑の果てに煙草を咥え、火を点ける。ハジメの心の叫びは届かず、冷や汗でビッショビショ。

 (いち)は素人と認めよう。所詮は名探偵の孫の代理、推理なんて呼べない。

 だが、素人なりの矜持はある。誰かの助けは確かにあったが、事件解決に貢献して来たのは事実。憤怒と羞恥に脳髄の奥は毛細血管も焼き切れんばかりに熱くさせ、目の前は真っ白だ。

 

「そうですか……陳腐で浅知恵な自分はこれにて、お暇します」

「か、金田! おい、ちょ……待てよ!」

「……俺、なんかマズった?」

 

 愛想も忘れ、足は方向転換。ハジメの必死な引き留めも構わず、本館の扉を乱暴に開け放った。

 

「金田っ、いつきさんはその……業界の基本を言っただけで、お前を馬鹿にしたワケじゃあ……」

「……馬鹿にだなんて、とんでもない。いつきさんは至極当然の一般常識をこの上なく、明確に教えて下さっただけです。ただ、厚顔無恥で、世間知らずな高校生が、勝手に腹を立てているだけです。それとも、ハジメちゃんは……自分に、怒るなと言うのですか? 感情を殺して、馬鹿みたいに笑っていろと?」

 

 ハジメのいつきを庇う態度が気に入らなくて、意図せずに睨んだ。彼も本当は荒木が勧めた時点で(・・・・・・・・・)、書斎を隠し場所候補から、外していた。

 乗り気になった皆へ水を差さぬ様、黙っていた。それも、腹が立つ。

 

「……いや、その……悪かっ……」

わっかんねえ奴だな! ハジメは……何にも、悪くねえだろ。他人(いつき)なんかの為に、謝るなよ!」

 

 一喝したのも束の間、後悔が脳髄に纏わりつく。ハジメと言い争いなど、したくなかった。

 彼の凛々しい眉が哀愁に歪み、(いち)は気まずさに駆け足で去った。

 もう、追って来なかった。

 

 屋敷を出ようにも、竜太のハンディカムに先回りされる。理由を聞かれたくなくて、渋々と応接間に籠った。

 控え目かつ上品な調度品に囲まれ、独り反省会。せめてピアノがあれば、ネガティブ思考を発散できるというのに、楽器類は何もない。

 大時計の秒針をメトロノームに見立てて、テーブルに指を這わせた。

 そこへ疲れた顔の荒木、暇を持て余した七瀬と朋美も現れる。彼らの手にある分厚い童話集がテーブルへドンッと置かれた。

 イラッとした。

 

「金田君も読んで、どうせ暇でしょ」

「……七瀬さん、今は猛省の嵐です。」

金田一(きんだいち)とのやり取りなら、聞こえてたよ。自問自答は悪くないけど、知恵は他人と触れ合って生まれるものさ。と言うワケで、音読を代わってくれ」

「お兄ちゃんとお姉ちゃんが、何回も読んでくれたの~♪」

 

 容赦のない七瀬からプイッと顔を逸らせば、荒木に本を差し出された。朋美の嬉しそうな笑顔から、2人はずっと子守りをしていたらしい。

和田は同業者へ挨拶巡りか、休憩中といったところだろう。

 彼には、母・にいみも世話になっている。これから橘先生を説得するのに欠かせない人物、朋美の機嫌は取っておくべし。

 (いち)は打算的に童話集を手に取り、適当にパラパラッと捲った。

 

「……『オオカミと七ひきの子ヤギ』……」

「あれ、またそのページだわ。あたしと荒木君が開いた時も、そこになったの。本に癖がついてるみたい」

「この本、朋美ちゃんの持ち物だっけ?」

「ううん、パパと朋美が寝る部屋に置いてあったの。きっと橘先生が朋美の為に用意してくれたんだって、パパは言ってた」

 

 タイトルを読み上げ、七瀬はふと首を傾げる。荒木も何気なく問えば、朋美はニッコニッコで教えてくれた。傍から見れば、幼い子を退屈させない大人の配慮に思える。

 否と脳髄の奥が囁く。

 

「……橘先生が、わざと(・・・)癖をつけた?」

 

 (いち)は冊子の背表紙をなぞり、ハッとする。橘先生が和田親子だけに与えた第2のヒントならば、必ず物語に意味があるはずだ。

 

「――おかあさんじゃない、オオカミだあ! 隠れろ~! ――」

「すごい、すごい♪ お兄ちゃん、上手♪」

 

 一文字一文字、逃すまいと朗読開始。朋美は迫真の演技を喜び、何度も拍手してくれた。

 絵本と違う文脈だが、話の内容や結末に変化はなし。

 読み終えた途端、大時計が高らかに午後3時の時報を告げる。それはゲームセットに聞こえ、(いち)はクスリッと笑う。

 

「朋美ちゃん、あの大時計……子ヤギさんが隠れられそうですね。開けてみます?」

「うんっ。朋美、開けたい♪」

「……そっか」

 朋美ちゃん、あたしも子ヤギさんがいないか、傍で見てるね」

 

 朋美は好奇心のまま、大時計へ駆け寄る。荒木と七瀬も気付き、彼女の行動を微笑ましく見守った。




時任「時任 亘です、閲覧ありがとうございます。いつきさん、そういうトコですよ~ww。さて、次回は『○○の殺人?・転』!! う~ん、こりゃあ……鬼の編集長から大目玉喰らうなあ。まっ、いっか」

佐木 竜二
原作にて、父・連太郎と共に初登場。竜太とは前髪の分け目がちょっと違う

花村 棗と葵
一卵性双生児、正反対の性格。泣きホクロが見分けるポイント、容疑のかかったはじめちゃんに対する態度も正反対で、好き
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