金田少年の生徒会日誌 作:珍明
誤字報告により、修正しました。ありがとうございます
どれだけ心温まろうと、秋の風は肌寒い。ヤシの木の葉がカサカサと揺れ、空のプールを何気なく覗き込んだ。
「兵どもが夢の跡……な~んて、ごめん……季節違うね」
「いえ、雰囲気は合っていますよ」
「金田先輩、お待たせしました!」
「金田先輩は雨どいを伝って、屋根へ登ったんです。別館と本館は2メートルですが、屋根の部分は1.5メートル弱しか離れていません。先輩なら、屋根の勾配を利用すれば、飛び移る事も可能です」
「……証拠はありますか?」
「金田先輩の服と靴です。僕が部屋へ運んだ時、ズボンの腰や膝、靴の裏、そこだけが僅かに濡れていました。濡れた屋根に触った証拠としては、十分です」
「……はい、正解です。竜太君、よく出来ました」
竜太は自信満々に屋根を指差し、澱みのない解説を行う。物的証拠を確認してみれば、キチンと用意している。
後輩の成長に拍手。
「本当に……こんな簡単な手口かよ。
「いつきさん、俺だってそんなすぐには思い付かねえよ」
「話は聞かせてもらった! 事実は小説より奇なり、物事は単純だな」
2人がヒソヒソ話すれば、書斎の扉が開く。元気溌剌な
「大変、お騒がせ致しました」
「構わんよ、金田君。いつき君の狼狽える姿は、良い余興だった」
「橘先生、わざと怒ったフリを……ホント、勘弁してくださいよお~」
「じゃあ、本当は怒ってなかったんですか」
「まあ、最初は……けしからんと思ったとも。合意なしで高校生を押し倒すなど……そう言えば、
「いやあ、チョイと気になる事があっただけで……今はもう、いいです」
竜太にハンディカムを向けられ、橘先生は上機嫌にピースサイン。ふとした疑問を投げかけられ、ハジメはお調子者の笑顔で誤魔化した。
彼の笑い方から、知りたい情報があったに違いない。詮索は止そう。
(……あ、和田さんの話……聞くタイミング逃した……)
「お話し中、失礼致します。橘先生、多岐川様がお見えです」
そのひと言に臓物が締め付けられ、
「おお、ついに来たか……! 金田君、行こう。実は私、多岐川先生にお会いするのは初めてでな」
「はい、橘先生……」
パアッと表情を輝かせ、橘先生は
「日本ミステリー界の女王のお出ましとありゃあ、俺もご挨拶を……」
「佐木1号、俺が比呂と知り合ったキッカケ……聞きたくない? 今なら話していいかも」
「あ~是非、お願いします。でも、僕だけ聞いちゃっていいんですか?」
煙草を消し、いつきは気合を入れて立ち上がる。そこへハジメと竜太は棒読みを開始し、フリーライターの探究心を擽った。
「おいおい、お前ら。俺抜きで面白い話しようとすんじゃねえよ」
「「どうぞ、お構いなく」」
いつきはまんまと釣られ、こちらに付いて来なかった。
元いた応接間へ通され、ソファーに座る面子を見やった。
「あっ、多岐川先生。金田君です」
左手の薬指に、指輪がない。珍しいと思ったが、それだけ。
「橘先生……初めまして、多岐川と申します。この度は身内がお世話になりました」
「初めまして、多岐川先生。金田君には十分、楽しませてもらったのでね。私の方が礼を言いたいくらいです」
かほる先生はすっと立ち上がり、橘先生へご挨拶。上品な笑顔の裏に作家同士の気迫を感じ、
視界の隅で応接間を見渡すが、両親の姿形はない。緊張していただけに、肩透かしを食らった気分だ。
「大丈夫、ご両親も軽井沢にいるわ。正野刑事と一緒に、お土産を選んでるそうよ」
(……正野さん。あっちこっち行かされて、大変だな)
七瀬からそっと説明され、
「先日、お誕生日のパーティーをされたとかで……おめでとうございます」
「ハハハ、これはご丁寧に……時間があれば、多岐川先生にもお越し頂きたかった」
「多岐川先生、すみません。新幹線の時間が迫っています」
社交辞令に次ぐ、社交辞令も早1時間。宇治木はそこを見計らい、わざとらしく乗車時間を緊迫気味に伝えた。そうでもしなければ、延々と話が続いてしまう。
「もうそんな時間、大変。楽しい時はあっという間ですわ」
「全くですな。思った以上に、素敵な方だ。こうして、知り合えたんだ。今度はゆっくり、お話したい」
名残惜しそうにソファーから立ち、かほる先生は橘先生と再びの社交辞令。
「僕が橘先生の代わり、多岐川先生を駅まで見送ります」
「おお、荒木君。そうしてくれるかね。次に私が軽井沢へ来た時は、『邪宗館』へお邪魔させてもらうよ。絵馬夫妻にもよろしく言ってくれ。いつき君は残って、私を手伝うんだ」
「……お? あ……はい」
荒木は見送りする体で、橘先生へ別れを告げる。いつきも便乗しようとしたが、引き留められた。
「僕達はもう少し、ここにいます。パーティーの映像を確認してもらわないと行けませんし」
「センパ~イ、また東京で~。父さんもそう言ってます」
「お2人とも、今日の学校は最初から休む気だったのですか?」
佐木親子ともここで別れ。彼らは仕事に来ていたとすっかり、忘れていた。
「葵さん、棗さん。世話になったわ、またね」
「はい、是非とも」
「勝手に来ても、持て成さないわよ。ちゃんと連絡してよね」
桜樹先輩は
「菊さん、ありがとうございました」
「またのお越しを……」
「橘先生の隣にいた人、挨拶せずに来ちゃったわ」
「彼はフリーライターです。どうか、お気になさらず」
かほる先生はハッとしたが、荒木が優しく宥めてくれた。
(……いつきさんに、謝ってねえや……)
彼とは望まずとも、また会うだろう。嫌な予感は当たるモノだ。
館が徐々に離れ、ふと名の知らぬ男を思い返す。彼に焼けたコテージはもうないと、伝えたい気持ちに駆られた。
「荒木君。前にここへ来た時、お会いした方から連絡はありませんか?」
「……ああ、
荒木は素っ気なく答えたかと思えば、とても理に適った提案を聞かせてくれた。
確実に『遊民蜂起』の関係者だった人。演劇を続けていれば、いつか再会するはずだ。
「あら、
「男同士の秘密です」
「言い方、ヤダな」
かほる先生へ正直に答えたが、荒木には不評だ。
行きと違い、軽井沢駅への距離が縮んだように到着は早かった。
ドアを開けられても、タクシーから降りたくない。
足が地面に触れ、胃液が逆流しそうな感覚。緊張が限界突破だ。
「ハジメちゃん、優しくしてください」
「本当、お前らは似た者親子だよ。往生際が悪いったら、ありゃしねえ……」
ふうっと息を吐き、彼は顎で歩道橋を指す。何も考えず、反射的に見上げた。
父・
「母さん」
たったひと言が、あっさりと声に出た。
思いの外、平坦な口調は自分でも無関心に聞こえた。
にいみは一瞬だけ、肩を震わせる。深呼吸を風に混ぜた後、躊躇いながらも確実に息子を振り返った。
最後に言葉を交わした時よりも、痩せた体躯。遠目からでも目の下にある隈が濃く、まともな睡眠を取れていない証。不摂生な生活を送っていたのだろう。
再会の涙を流すより、置き去りにされた怒りを露わにするより、伝えねばならない。
「小林さんは、悪くなかった。何も悪い事してない……ただ、巻き込まれただけだったよ」
「……!?
「ごめん、2人とも。……金田君、なんて言った?」
「……さあ……風が強くて、サッパリ」
「あたしも……」
その為だろうか、少し離れた宇治木と桜樹先輩には、ほとんど聞き取れなかった。七瀬の場合、ある程度の事情を察して、誤魔化してくれたような気もする。
(……小林さんが巻き込まれただけ?
(……小林? あの悲恋湖キャンプ場で死んだ画家も確か……そんな名前……まさか、ね)
だが、かほる先生や荒木の耳には微かに届き、それぞれの考察を伏せてくれた
「……金田、お前……」
ハジメは真横に居る為、知られてしまう。彼を辛くさせると分かっていても、にいみに伝えるべきは今なのだ。
にいみは目を瞠ったまま、重苦しい歩みにて階段を下りる。瞬きもせず、息子の前へ立つ風貌は母親と言うより、歴戦の猛者を思わせた。
その物々しい気迫に、肌が粟立つ。追及が来ると確信し、
「……星二を……」
「それと! 洋子さんに会って下さい。貴女を心配して、探したのです。水崎さんに取り入ってまで……この意味、分かりますねっ」
にいみの言葉を遮り、
途端、彼女の眉は痙攣し、開いた口は強張る。スッと目を伏せ、肺へ取り込んだ息を吐き出す。深呼吸とは違う仕草、募った感情を一先ず、鎮めていた。
「……
「はい、さとみさんに似て……素敵な方です」
狙い通りの反応、にいみは
天真爛漫な彼女は、さとみと似通った部分がある。愛娘に似た少女へ父親を返し、安寧な暮らしをさせてあげたかった――今、確信した。
(……あれ? 母さん、確か……死骨ヶ原湿原ホテルに……)
そこまで思い至り、一瞬だけ階段にいる残間を見やる。にいみは彼の愛した人が亡くなった劇場まで出向き、支配人へいくつか質問していたのを思い返す。死そのものを疑っている節があった。
「……洋子に会おう。
腑に落ちそうな何かが浮かびかけたところで、にいみの声に我へ返る。もう彼女から厳しさは消え、洋子に会わせてもいいだろう。但し、問題がひとつ。
「警察病院にいます。お父様が入院中ですのでっ」
「……それはそうとして、知らん顔がいるな。多岐川、紹介してもらえないか?」
「スルッと話を逸らしたわね、この人……」
場所を伝えれば、にいみは気にも留めなかった人々へ視線を移す。散々、警察の世話になっておきながら、白々しい態度だ。
かほる先生は呆れを隠さず、わざとらしくため息まで吐いた。
「あの……あたし、七瀬 美雪と言います。金田君の同級生です。生徒会活動も、ご一緒させてもらってます」
――この状況で、よく自己紹介出来るな
七瀬は待ち焦がれたように、声を弾ませたご挨拶。恐れ入った男性陣の心の声が、ひとつになった。
「……そうか、多岐川が話してくれた生徒会長だな。
「こちらの桜樹先輩は、そうです。荒木君はここ、軽井沢にお住いの友人です。宇治木さんは週刊誌の記者をされています。皆さんには、日頃からお世話になっています」
にいみは七瀬へ慣れない笑顔を向け、桜樹先輩達を見渡す。
「初めまして、桜樹です」
「荒木 比呂です」
「宇治木 政宗です。息子さんもそうですが、多岐川先生にも大変お世話になっております」
桜樹先輩と荒木は上品な姿勢で名乗り、宇治木も丁寧に頭を下げる。さっと名刺を差し出した手は、微かな緊張で震えていた。
「……多岐川は分かるが、
「宇治木さんは、不動高校演劇部の取材をした事があるんだよ。それと……鹿島さんの記事を真っ先に扱ってくれた方だ」
「うお!? 残間さん、さっきまで階段にいませんでした?」
にいみは名刺を繁々と眺め、残間へ告げる。気配なく佇む姿は、完全に背後霊。
ハジメ達はギョッと目を見開き、残間と階段を交互に見比べた。
「面白いお父様ね、クスクス」
「……桜樹先輩がおっしゃるなら、そうなのでしょうが……。自分、宇治木さんに父を紹介しましたか?」
「ごめん、言ってなかったっけ? 金田君が入院した時、佐木君から紹介してもらったんだ」
「入院?」
宇治木の答えに納得したが、にいみのブチ切れた低い声に場が凍り付く。早い冬の訪れを感じさせる寒さに襲われ、鳥肌が立った。
ハッとした残間が頭を手で覆った瞬間、にいみの回し蹴りがその後頭部へ直撃した。
鈍い音はしたものの、腕のガードは成功だ。
「ヒィッ……金田君、入院してたの?」
「はい、7月……いえ、6月末に転倒事故を起こしまして……」
「「「「……っ」」」」
荒木は唐突の暴力現場に青褪め、
「……息子の入院を知らぬ程、愚かではあるまい。さとみの近況ばかり、報告しおって! 何故、貴様はいつもそうなのだ!」
「……にいみ、落ち着いて……ちゃんと折を見て、話すつもりだった。いや、本当……」
にいみが一方的な暴力に訴え、残間はどうにか防いでいる。一見すれば、組み手に見える。空気を切る音が段々と強くなり、野次馬根性の視線を感じ始めた。
「やめなさい、2人とも!」
元夫婦喧嘩は推理小説家が食う。
そんな造語が似合う程、2人の動きがピタッと止まる。大人達の胸中は兎も角、収束してくれた。
「金田君のお母さん、正野さんは? 一緒だと聞きました」
「彼なら、そこだ。荷物番を任せた」
「やっほ~……」
七瀬が純粋に疑問すれば、にいみは何気なく階段を見上げる。呼ばれた正野刑事が通行人に紛れ、柵からひょっこりと顔を出した。彼の足元にいくつもの土産袋。
扱き使い過ぎ。
「……母さん、お忙しい方をパシらないでください」
「アタシも奴らの送りなぞ、いらんと言ったが……残間には必要なのだろう? 事情はよく知らんが……」
通りすがりの人々へ余計な情報を与えないよう、お互いに気を配った。
「! 僕はここで失礼するよ。
「おう、またな……比呂。色々と助かったぜ」
荒木は後ろを振り返り、突然の別れを告げる。ハジメの肩を親しげにポンッと叩き、彼が颯爽と駆け出したには黒いリムジンが見えた。
『邪宗館』からの迎え、運転席には見知らぬ人がいた。
言葉が届かぬかと思い、
次に会えたなら、もっとゆっくり話したい――そう心から願う。
「そんじゃあ、後は東京に帰るだけかあ。な~んか、2ヶ月くらい経った気分だぜ」
「ハジメちゃん……中間どころか、期末も終わっていますよ……それ」
「ウフフフ……流石の私も、卒業出来ないわ」
「はじめちゃんもよ、留年しちゃう」
階段を上りながら、ハジメはぐ~んと背伸び。
桜樹先輩の余裕ある笑みは、何人かの通りすがりを魅力してしまう。七瀬と揃って歩けば、違うタイプの美少女高校生に振り返らざるを得まい。
「正野さん、昨日はありがとうございます。あたし、挨拶せずに別れちゃって……」
「……
「「……え?」」
七瀬の丁寧に挨拶した途端、正野刑事はキョトンとする。予想だにしない返事を聞かされ、
「……えっと……宇治木さん、正野さんと会いましたよね?」
「ごめん、和田さんと話してて……その人がいたか、どうか……」
「……和田?」
「母さん、後程……説明します」
七瀬が不安そうに宇治木へ問いかけ、にいみはピクッと眉を痙攣させる。話が逸れる為、
「正野さん、昨日……自分達と軽井沢行きの新幹線で偶然、お会いしたのです」
「無理無理、こっちは今朝まで……
高校生2人が真っ青になり、己自身を指差す。正野刑事から、更なる事実に絶句させられた。
場所が場所なだけに守秘義務を貫いたが、十二分に伝わった。
「……
「……待て、正野……さん。昨日の夜、アタシと残間に事情聴取したではないか」
「へ? いやいや、お2人と会ったのはあちらを出発する直前で……」
「……どういう状況?」
残間はゆっくりと首を傾げ、にいみも事の重大さに気付いた。
正野刑事の必死な態度に嘘はなく、かほる先生も焦りに口を手で覆った。
「……誰かの変装、怪盗紳士かもしれないわ。
「ええ!?
「いやあ~どちらかと言うと、俺が遊ばれたって言うか……え? 俺……アイツらに何にも話してねえけど……」
深刻な事態に、桜樹先輩も笑みを消す。宇治木の感心にされたが、ハジメは別の意味で恐れ戦いた。
「……そうだわ! 桜樹先輩の言う通りなら、怪盗紳士がこっそりとメッセージカードを渡してるかも! 金田君のお父さん、お母さん、ポケットやお土産袋を見せてください」
「怪盗紳士……モーリス・ルブラン、それともモンキー・パンチか?」
「……にいみ、気持ちは分からんでもないが……そっちじゃないよ。……ん?」
七瀬に急かされ、2人はポケットや襟元を探る。残間がタートルネックに違和感を覚え、手を突っ込む。すっと引き抜かれた逞しい指先には読み通り、白い薔薇模様のカードがあった。
全員、絶句。
「残間さん、ちょっと拝見……」
「……正野さん、お願いします。私も怪盗紳士に狙われる覚えは……」
白い手袋を着け、正野刑事はカードを改める。
「何々……【七夕の夜空を待たず、蒼穹に架けられた天の川を渡られし再会。心より、お慶び申し上げる。お2人に幸あらんことを祈って――地獄の傀儡師】……?」
水を打ったような静けさは戦慄を通り越し、脳髄を揺さぶった。
そっちかよ!?
「『地獄の傀儡師』? 何だ……このダンテの未発表作品みたいなフレーズは……」
「にいみ、『幻想魔術団』の事件よ。まさか知らな……海外にいたなら、そうよね」
「殺人犯……高遠 遙一の自称です」
今度は、にいみが何の事かと首を傾げる。
かほる先生は一瞬、目を据わらせたが、その状況を思い付く。狼狽えた宇治木は周囲に動揺が伝わらない様、必死に声を抑えた。
「ど、どうして……そんな人が、金田君のお父様に手紙を……」
(佐木君、その辺は桜樹先輩に話してないのね……そっか、さとみさんが絡んでるし……)
逃亡犯の関与に青褪め、桜樹先輩は七瀬の肩をガックンガックンと揺さぶった。
「皆さん、動かないで。すぐに剣持警部へ連絡するから、絶対だよ」
「……存外、高遠さんは空気を読まんな。帰りが、遅くなる……」
(……本当だあ~……)
(なんで? 高遠が……?)
正野刑事は真剣な表情で指示し、残間はゲンナリ。
結局、ハジメと顔見知りの長野県警・
再会に水を差され、残間も今回ばかりは逃亡犯へご立腹。「次に会ったら、叱ってやろう」と若干、ズレた決意を固めていた。
○●……――
住み込み先へ帰宅の連絡をした際、待ちに待った吉報に言葉を失った。人は本当に驚けば、声が出ない。脳の一部は冷静に、この状況を分析していた。
受話器向こうの
タクシーの中で通り過ぎる夜景を見ながら、先日の祖母とのやり取りを思い返す。
〝にいみが東京へ……帰って来たかもしれない〟
――「しれない」って何? お母さんは何処?
祖母の悲痛な表情に、さとみは問い返せなかった。
竜王丸元船長を匿い、その娘の生活を人知れずに支援。オリエンタル号元乗組員に脅され、更に竜王丸元乗組員の手で橋から落とされ、様々な不運とすれ違いの果てに消息を絶った。
姿を隠した竜王丸元船長の出頭には
否、素直に感謝したかった。
でも、現状を考えれば、難しい。それに彼は、さとみの想いを受け取らない気がした。
思考がグルグルと巡り、吐き気を催す。吐いてはならぬと自分を諫め、頬に爪を立てまで、口を押さえた。
到着した途端、タクシーの運転手へ釣りは要らぬと万札を渡し、転がり出る。それを見計らったように玄関の扉が慌ただしく開いた。
祖父母が目に涙を浮かべ、さとみを出迎えてくれた。
「よお……頑張ったなあ、さとみ。にいみ、居間におるで」
泣き上戸の祖父に告げられ、さとみは何を口走ったか、分からぬ。靴を乱暴に脱ぎ捨て、廊下に足を滑らせながら、居間へ駆け込んだ。
父、弟、そして……母が、畳の上で雑魚寝している。
幼い頃によく見た光景と重なり、さとみは胸を撫で下ろす。足の力が抜けて、その場へ座り込んだ。
服の擦れる音に反応し、母が逆再生のようにピョンッと起き上がる。寝惚けた顔をしているが、充血した瞳はこちらを捉えていた。
「……さとみ、ただいま」
不満とか、文句とか、質問とか……色々と言いたい事はあったけれども、やつれた顔を見てしまえば、どれもこれも引っ込んでしまった。
「……お帰り、お母さん」
だから、今はこれだけ言っておこう。頬に流れた涙の理由は教えずに――。
桂「桂 横平です~。閲覧ありがとうございます。いやあ、まさか『地獄の傀儡師』とはねえ。さっさと帰って正解でしたわ。橘先生、来年の誕生日パーティーも呼んでください♪ さて、次回は『○○の……-いつき』!! おおっと……「?」が消えたあ~」
橘 五柳
ノンフィクション作家、いつきや花村姉妹など、自分より若い世代の面倒を見たり、「良いトコ」ある人物
『社会悪』を真剣に取り扱う人は「大切な人を持つな、親戚とも縁を切っておけ」が常。マジ、業界からの恐ろしい報復が身内へ襲い掛かる(ガクブル)
大先生と呼ばれるまで生き抜き、尊敬を集めていると思われる。酒と女癖が悪いのも、若い頃に遊べなかった反動かな? それでも原作の「パ○ツ、売れ」やセクハラは……ドン引き
はじめちゃんにカツラをバラされたが、作中では生涯、隠し通した
描写抜かったが、現時点でオリ主を「氷室と多岐川の隠し子」と思い込んでいる
長島 滋
長野県警、原作にて初登場。真犯人にとって都合の良い推理をしてくれた人、はじめちゃんが来る度、惨劇が起こる為に「疫病神」呼ばわりしてくる(実際、長野が舞台の事件多いしなあ)
菊
老齢のお手伝いさん、耳が遠い。それでも解雇されないのは、橘からの信頼が厚い為だろう
荒木 比呂
邪宗館殺人事件ゲストキャラ。作中にて、橘の誕生会に招待される
正野刑事
剣持警部の部下、Q35は逃亡犯の変装だった