金田少年の生徒会日誌   作:珍明

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はじめちゃん達が知る事のない、大人の事情
残酷な表現があります。苦手な方はご注意ください
誤字報告により、修正しました。ありがとうございます


Q39 ○○の……‐いつき

 俺、いつき 陽介(ようすけ)はフリージャーナリスト。

 特ダネ探しは日常茶飯事、出版社との縁は絶やさない。

 音羽出版・鴨下(かもした) あきらへ借りを作ろうと、(たちばな) 五柳(ごりゅう)先生の暗号ゲームへ参加した。だがしかし、酷い目に遭った。

 数人とは言え、公衆の面前で俺の性癖を誤解され、精神的なダメージを負わされた。

 金田(かねだ) (いち)から受けた後頭部への痛みより、重傷だ。

 殴られた原因は、おもっくそ心当たりある。不用意な発言だったと認め、勘弁してやろう。

 それがなくても、彼とは後味の悪い縁で繋がった関係。金田一(きんだいち) (はじめ)に頼まれでもしなけりゃあ、顔を合せらんねえ。

 謝罪など要らないから、次は絶対に会わぬ様、心掛けてやる。

 

「いつき君、考え事かね?」

「!? いいえ、橘先生……」

「面白かったな、あの高校生達……大切にしたまえよ」

「いやあ、ハハハ……。アイツらのコトなんざあ……考えてませんって」

 

 橘先生から不敵な笑みを向けられ、我へ返る。今はタクシーの中、帰宅ラッシュに捕まっている最中だ。

 星空を消す程に眩い、夜のネオン。

 向かうのは極東TVディレクターの都築 哲雄(つづき てつお)が住まう自宅マンション。橘先生が彼と待ち合わせ、俺は付き添い。

 俺、必要かな? と思いもしたが、都築からの指名らしい。きっと意味があるはずだ。

 

 目的地のマンションへ到着、都築に恭しく出迎えられる。つい昨日、会った時はゲームのせいで、切羽詰まった表情が嘘のよう。それを抜いても、貫禄のある顔付き。

 

「橘先生、お待ちしております。いつき君、ありがとう」

「いえいえ、都築さんに呼ばれちゃあ……駆け付けるしかないですって♪」

 

 玄関からリビングに至るまで、無駄なモノがひとつもない。

 奥方は4年前に他界、父子家庭。ディレクターという職業柄、仕事関係の書類の多い自宅に清掃業者を入れるとは考えにくい。都築自ら、整理整頓を心掛けているなど流石だ。

 彼と娘・瑞穂(みずほ)が仲睦まじく写った写真立て。

 リビングの何処に居ても眺められる配置、それだけで家族への愛情を深く感じ取った。

 俺には縁の無い話。

 不意に1人の女の横顔が脳裏を掠めたが、瞬きする間に消した。

 

「都築さん、お子さんの名前……瑞穂ちゃんでしたよね。いくつになりましたか?」

「今年で……10歳だよ」

 

 都築はテーブルへコーヒーを運びながら、感慨深げに答えてくれた。

 俺は微笑ましい気分になり、ソファーへ腰かけた。

 

「いつき君。今から、ここだけの話をする。よおく、聞きたまえよ」

「……っ」

 

 橘先生から笑みが消え、俺に命令する。これに返事せず、傾聴の準備万端だと態度で示した。

 暗号ゲームの賞品となった新作。

 そこに『実名』が記される予定だった人物とは、都築だった。

 

「は?」

 

 俺は驚きを隠せず、間抜けな声しか出なかった。

 

「いやいや、都築さんがそんな……事をするワケが……」

「したんだよ、いつき君。私は……」

 

 俺の知る都築は、ディレクターとして尊敬できる数少ない人物。社会悪に加担するような人では決してない。橘先生の情報を疑うつもりはないが、何かの間違いと信じたかった。

 だが、彼は認めた。あっさりと。

 耳の後ろへ心臓の鼓動が響き、騒がしい。

 

「娘、瑞穂の為だったんだ……。いや、そうなると……信じていたんだ」

 

 俺の口が「何故」と問う前に、都築は懺悔のように語り出す。

 瑞穂が重い腎障害を患い、腎臓移植しか助かる手はなかった。一度は自らの腎臓を移植させようとしたが、病院側のミスで失敗。無駄になった彼の臓器は勿論、戻らず。再手術、不可能。

 適合するドナーを待つ以外、手段なし。

 それがどれ程の絶望か、俺にも十分伝わった。

 追い詰められた父親が「適合する腎臓を最優先で回す」という甘言に惑わされ、臓器密輸に手を染めてしまった。元凶たる医師・前田(まえだ)の卑劣さに、俺は腸が煮えくり返った。

 

「俺、刑事に伝手があります! 正確には、知り合いの知り合いって言うか……」

 

 咄嗟に、本庁捜査一課の面々が浮かぶ。名探偵の孫と親しい彼らを当てにならば、都築の弁明に耳を傾けてくれる。そんな思いから、口走ってしまった。

 

「いつき君っ、急にどうした?」

 

 橘先生の驚いた声に、我へ返った。

 俺達は警察を頼れない。理由は2つ。

 橘先生がこれまで手掛けた社会悪の告発本。警察や検察の汚職も含まれており、前田のような悪徳医師と癒着を警戒している。

 去年の刑事部長狙撃事件により、警察の腐敗は白日の下に晒された。それも氷山の一角、ダニのようにまだまだ『悪』は巣食う。

 だから、橘先生は世間を味方に付け、前田の孤立を狙う。

 幸いにも今年に入り、萬屋病院、死神病院、帝王大学病院の残虐非道な悪事。噂の段階だが、桜恵大学生による傷害事件、病院関係のスキャンダルが次々と報じられた。

 この流れに乗れば、医師会は前田を切り捨てる。間違いない。

 

「……すいません、都築さん」

「良いよ、いつき君の気持ちは嬉しかった。どの道……警察には、前田を逮捕してもらわないとな」

 

 そして、俺達は彼らの天敵。

 捜査中の情報であろうと仕事になるなら、記事にもすれば、報道に流す。その結果、容疑者に警察の情報が伝わり、未解決に陥ったケースも少なくない。

 こちらから臓器密輸の情報をリークしても、話題作りの偽情報(デマ)か、特ダネ狙いに警察をはめる罠だと判断される場合もある。

 警察と情報交換する記者は、いる。あくまでも、利害関係。

 だから、橘先生は出版という手段で世論を動かし、警察が逮捕に動くしかない状態を作り出す。

 

「それで、都築君。いつき君にこの話を敢えて、聞かせた理由は何だね?」

 

 橘先生の詰問を聞き、俺はハッとする。こんな重大な話をされたなら、重要な役割を振られるはずだ。協力は惜しまない。

 拳を握り締め、俺は前のめりになった。

 都築は不安や緊張を吐き出すように、深呼吸。眼鏡を取り、額に纏わり付いた汗を拭っていた。

 

「瑞穂に関してです。私がいなくなった後……いつき君に、あの子を頼みたい」

「俺!?」

 

 想定外の頼み事。しかも、責任重大。簡単には、頷けない。

 つい、大声で叫んでしまった。

 だが、当然の提案と理解していた。

 都築が自首すれば、瑞穂にも影響が出る。被害者どころか、加害者の立ち位置。警察は守ってなど、くれない。

 

「いや、でも……俺、独り身で子供を育てた経験もねえし……何で、デスカ? 失礼ながら、親戚とか……」

「……キミの言う通り、瑞穂を引き取ってくれる親戚は探せば、見付かるだろう。しかし……仕事ばかりで、亡くなった妻に親戚付き合いも任せきりだった。……こんな時だけ、頼るのは虫が良すぎる。私達はお互いによく知っている……それに」

 

 口走る言葉は決して、断る為なんかじゃない。橘先生ではなく、俺に託される理由。こちらから質問しなければならない。要は承諾前提の前振り。

 都築も重々承知の上、先ずは建前。

 

「キミは、瑞穂に同情しない」

 

 その返しは、ズルい。

 

「……瑞穂は必ず、不幸な境遇の子供と……必要以上に憐れみを受ける。私のせいだ。だが、いつき君は……そんな目であの子を見ない。話を聞いた今もっ。そこを見込んでの……頼みだ。どうか、瑞穂を……お願いします」

「都築さん!」

 

 立ち上がった都築が頭を下げそうになり、俺は切羽詰まった声を出す。そんな事をしてくれなくても、答えは聞いた瞬間に決めていた。

 後は、俺の覚悟だけ。

 

「瑞穂ちゃんを養うくらいの稼ぎ、俺にはあります!」

「……プッ、……キミらしいよ」

 

 語彙力に問題はあったが、俺の気合は十分。都築は張り詰めた緊張感から、吹き出してしまう。眼鏡越しでも分かる涙、そこに込められた感謝が伝わって来た。

 詳細は後日、今夜はお開き。

 俺と橘先生は再び、タクシーへ乗り込む。見送ってくれる都築は少しだけ、肩の荷が下りた様に穏やかだった。

 

「いつき君、私からも礼を言う」

「いえいえ、俺なんかが……でしゃばっちまってすいやせん。本当は……橘先生が、瑞穂ちゃんを引き取りたかったんじゃあ……」

 

 橘先生の素直な感謝は、何年振りだろう。一応、謙遜したものの、彼の本心は聞いておきたい。

 

「馬鹿を言え、私のせいで……親子離れ離れになるんだぞ。あの子が真相を知った時……憎めなくなるじゃないか」

 

 普段の貼り付けたような笑み。勿論、目は一切笑わず。

 その憂いを帯びた眼差し、橘先生は瑞穂を憐れんでいる。だからこそ、引き取れないのだ。

 

(憎む……)

 

 都築が警察へ自首してくれれば、実名報道は避けられるかもしれない。

 だが、人の弱みに付け込む前田(外道)は逮捕時に、足掻くだろう。子飼いの部下や、面会に来る取材陣へ情報を流す可能性はゼロじゃない。

 裁判になれば、都築も法廷に立たされる。傍聴席の記者は余すところなく、記事にする。

 橘先生が実名公開を思い留まろうとも、そこだけは防ぎようがない。都築は深く感謝していた。彼はそれをどんな形でも、瑞穂へ伝えるはずだ。

 

 ――恨まれたりなんか、しない。

 

 それを口に出来る程、俺は青くない。

 

「そうそう……都築君な。あえてキミに言っとらんかったが……教えておく。いつき君が、私を説得したと思っとるぞ。高校生達を使って、何度も掛け合ったと」

「え!? 買い被り過ぎじゃあ……橘先生、ちゃんと訂正してくれたんでしょうね」

 

 橘先生から煙草の箱を向けられ、「一本吸う?」的な軽い口調で語られ、ビックリ。

 それは、週刊ケンタイ編集・和田(わだ) 守男(もりお)の手柄。

 知らん間に新作原稿を発見したかと思えば、出版権を自分から手放した強者。そこに至った経緯を知らんが、鴨下へ譲ってくれた為に感謝はしておく。

 そう言えば、彼の娘・朋美(ともみ)は渡米治療したはず。似た境遇の親子、繋がりがあるかもしれない。

 

「あ~……一応、否定はしておいたとも」

「なんスか、橘先生。そのヘッタクソな口笛……ハッ! もしかして、都築さんが俺に娘を預ける決意したのって、それが原因じゃあ……」

 

 愉快痛快と口笛を吹き、橘先生はすっとぼけ。俺はわざとらしく困ったように笑い、煙草を一本頂戴した。

 こんなくだらないやり取り、駆け出しの頃を思い起こさせる。つい懐かしくなりながら、これからの段取りを脳内で組み立てた。

 脳髄は忙しさを喜び、気分は高揚していた。

 

 入院中の瑞穂と引き合わされ、都築から「仕事で海外出張の間、同居してくれる」と表向きの事情を話してくれた。

 

「瑞穂ちゃん、おじさんの作るご飯。食べてくれるかい?」

「大丈夫よ、おじさん。瑞穂もお料理、そんなに上手じゃないの。交代で作ろうね」

 

 突然の話にも拘わらず、瑞穂は無邪気に家事を当番制にしようと提案して来た。小さな指先が微かに震えた理由は、やせ我慢だろう。

 彼女の勇気を振り絞った笑み。俺は一生、忘れない。受けて良かったと――この時は、心から思った。

 

 世間が未解決事件の実行犯逮捕、蔵元(くらもと)コンツェルン倒産騒ぎの中。俺は瑞穂と正式に、養子縁組を結んだ。

 都築も長年勤めたTV局を退職。退職金を仕事の報酬として、俺の口座へ振り込まれた。

 預金通帳をそのまま渡せば、贈与税がどうのと説明され、俺は納得する。自家用車や住まいも売却、身辺整理を進める様子に、何の疑問も浮かばなかった。

 

 顔見知りの女性陣や、父親の大先輩たる和田に教えを請う。彼と話す際、気がかりだった部分も確認した。

 

「和田ちゃんよ、橘先生の新作……内容知ってたん?」

「なんですねん、唐突に。知りませんけど……まさか、私の名前が出てるとか?」

「ちゃうちゃう。橘先生……本当は和田ちゃんに、出版権を渡したかったんじゃねえかな~って思ってよ。と言うか、ノンフィクション作家に目を付けられるような……悪い事した覚えでもあんの? なんつって

「……っ」

 

 冗談交じりに問えば、和田の顔色が青褪める。俺もギョッとした。彼までも何かあるのか、不安に駆られた。

 

「……悪事言うたら、そうかもしれません。私ね……発見したお宝、全部……独り占めしたんです」

「!? わ、和田ちゃんが……? 嘘だろ……そんな」

 

 和田は懺悔を交え、さらりと罪を告白した。

 宝を発見とは比喩ではなく、文字通りの意味と知っている。彼はトレジャーハンター協会にも顔が利き、厚い信頼も得ている。その行いは、大それた悪事と言えた。

 俺はふと、思い付く。

 

「……朋美ちゃんの渡米費用(・・・・)か?」

「……そうです。どうか、それ以上は……」

 

 俺の追究に、和田はそっと目を逸らす。次の推測が浮かんだ。

 

「……お前が黙ってちょろまかすはずねえ。そんな時に組んだ奴らへ、キチンと頭下げたんだろ。それを橘先生に見られた。違うか?」

「……流石、いつきさん……お見通しですな。いやあ……なりふり構わず土下座したもんで、恥ずかしいですわ。……橘先生も同情してまう程、みっともなく哀れに……」

 

 俺の真剣な問いかけに、和田はとても自虐的に笑う。胸が締め付けられた。

 

「和田ちゃん……全然、悪い事してねえよ」

「いいえ、私は悪鬼です。これだけは、譲れません」

 

 笑みを消した固い決意、その意味を知るのはもっと先だ。

 

 

 戸籍が反映された日、10月の最後を迎えた。

 俺と橘先生は再び、呼び出された。

 場所が瑞穂の入院する病院だと聞いた時点で、嫌な予感はしていた。

 

「お待ちしていました」

 

 駐車場にて、都築は喪服のような黒服を纏う。にこやかに微笑んでいた。

 覚悟を決めた穏やかさ。最近、覚えがある。

 次の瞬間(・・・・)、彼の腹にはナイフが突き刺さった。

 

 ――そう、俺はまた(・・)見抜けなかった。

 都築の目的――娘を病から救う。その為には――。

 

都築!!

 

 青褪めた橘先生は迷わず、倒れ伏す都築へ駆け寄った。

 深々と刺さったナイフ。それを抜こうものならば、都築は出血多量を引き起こす。彼は抜けぬように、柄をガッシリと押さえ込んでいた。

 

おい! すぐに誰か、呼んで来てくれ!

 

 俺は慄きながら、適当な通行人を捕まえる。必死に訴えを聞き、すぐに走ってもらえた。

 治療すれば、間に合うはずだ。

 

「橘先生……、書いて下さい……。私のような……女房の死に目にもあえず……、たった1人の娘すら……不幸にする……馬鹿な男がどんな結末を迎えたか……」

 

 か細い声は懇願だった。

 

「……都築! どこまでも、馬鹿が! 娘さんの顔を、ちゃんと見たか! あの笑顔の何処が、不幸だと言うんだ! お前は誰よりも、立派な父親だ! 違うか? なあ、違うかあ!?

「……橘先生、ありがとう。いつき……いや、信介君(・・・)……すまない。……本当に」

「都築さん!?」

 

 橘先生の怒声は正しい。

 俺も怒りたかった。都築へ怒鳴り付けたかった。それなのに、彼は不要な謝罪を最後に――息絶えた。

 

 そこからは怒涛の勢いで、臓器移植手術。

 病院側には都築が予め、今日この日に手術段取りを整えていた。大金を払い、かなり無理を通したと後で、聞いた。

 手術室の前で待機しながら、俺は言い様ない喪失感と闘った。橘先生はホンの数分の間で一気に老け込み、愕然と天井を仰いだ。

 無理もない。

 勝手に警察へ出頭すると決め付け、都築の意図を読み取れなかった。或いは、違和感から目を逸らしていたのかもしれない。

 

(……瑞穂に、なんて言おう……)

 

 手術成功を聞き、都築の物言わぬ姿を見ても、現実味は無い。彼が手掛けるドキュメンタリー番組を視聴している気分だった。

 

「私は……キミのような人こそ、守りたかった……」

 

 橘先生はそう告げ、歯を食いしばる。滝のような涙を流し続け、霊安室を去った。

 贖罪か、改まった決意か――胸に去来する想いが僅かでも消えぬ内に、文章へ書き起こす。それを都築への手向けとする為だ。

 そういう人だと、知っている。去り行く背中へ尊敬の眼差しを向け、俺もまた歩き出す。瑞穂の眠る病室へ行き、目覚めを待とう。そして、打ち合わせ通りに言うのだ。

 どうにか、言えたと思う。

 

 入院中も退院後も、橘先生は瑞穂へ会おうとしなかった。

 花村(はなむら)姉妹が言うには新作出版を待たずして、『次』の作品に取り掛かっているそうだ。

 

 ――その作品は完成までに長い歳月を要し、瑞穂が社会人として独り立ちした頃に出版された。

 また同年、臓器移植法も改正。移植目的で自害した親族の臓器は、提供されない。偶然であろうが、まさに都築と同じ悲劇を防げる。

 しかし、ドナーを待ち続ける人々にとっては最後の手段を封じられたに等しい。橘先生の新作が、彼らの支えとなるように祈った。

 ――大作は勿論、ベストセラー入りする。

 

 そんな遠い未来を知らない俺は、再び名探偵の孫と会う羽目になった。

 『大草原の小さな家』で待ち合わせ、噂のバイトちゃんはお休み。まだ面識ない俺は、酷く残念に思う。

 

「いつきさ~ん、なんスか。急な話って? 学祭の準備で忙しいんで、また暗号ゲームは勘弁して下さいよっ」

「はじめちゃん、サボってばっかりじゃない」

 

 金田一は元気溌剌な姿を見せ、妙に安心させられる。幼馴染・七瀬 美雪(ななせ みゆき)と相変わらずの仲良しっぷりに、疲労感も吹き飛びそうだ。

 いずれは2人にも、瑞穂を紹介しよう。絶対にその方が良いと、確信した。

 

「……あ~えっと……スマン。まただ……話をする前に、こちらは宝田さん。文芸常談の副編やってる人だ」

「どうも、いつきさんからお噂は伺ってます」

 

 高校生2人に愛想笑いし、文芸常談・副編集長の宝田(たからだ) 光二(こうじ)を紹介した。立て続けに暗号ゲーム参加させて悪いとは思うものの、彼には俺のつまらん原稿を偶に拾ってもらっている。

 今後の仕事を繋ぐ為にも、金田一の推理力を借りたい。相当のお礼も準備済み、前回も難なく解けた彼ならば、今回もあっさりと解決するはずだ。

 しかも今度は北海道、半分は旅行気分で行けるだろう。

 

 ――などと、軽い気持ちで頼んだつもりだった。

 遺産争いに託けた血生臭い殺人が起こり、かなり後味の悪い事件となった。急死したミステリー作家の恐るべき〝筋書き〟を聞かされ、流石の俺も戦慄させられた。

 

「何も……言いたくない。てめえなんかに……」

 

 結局、金田一をドス黒い悪意の渦中へ投げ込んでしまい、三眼目の坊主には完全に嫌われた。

 これまで関わった少年少女達は、最初こそ険悪な態度。何だかんだと俺の誠意が伝わり、心を許してくれていた。

 ちょいと、彼らの寛大な心に甘え過ぎたと反省したのは、別の話である。




栗田「く……栗田です。階級は巡査で……はい。警部も何か……え? あ、はい。さて、次回は『箱根行きを勝手に決めないで』!! ……タイトルの温度差に風邪引くわ」

都築 哲雄
TVディレクター、ただ娘を助けたかっただけの男
原作では橘を殺し、はじめちゃんがスケープゴートになったことで後に引けず、暗号解読と口封じを兼ね、犯行を繰り返した。
作中にて、実名出版は避けられたが、前田が逮捕されれば、世間に知られるのは時間の問題。報道関係者だったからこそ、親子共々、同業者達の格好の餌食にされると悟り、いつきと橘に『全て』を託して自害した
ドラマ道枝版では50過ぎのおっさんに「トリックが追いつかない」という事情から、若者に変更されている

都築 瑞穂
幼くして腎臓病を患った少女。おそらく人工透析で入院していると思われる。父親は海外出張という言葉を信じ、いつきと暮らす。原作では養子縁組をしていない
作中にて、いつきと養子縁組した。数年後、橘の口から父の死について真相を語られる

前田
元凶のク○。原作後は不明だが、ドラマ版にて逮捕シーンがある(皆で観ようぜ!)
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