金田少年の生徒会日誌   作:珍明

144 / 144
Q38から翌日の出来事
90年代、警察病院は千代田にあったなと思い、ネット検索したら「コナンの聖地」で紹介された


Q40 箱根行きを勝手に決めないで

 元夫婦がお互いに引き取った子供達を連れ、千代田区の警察病院へ向かう。

 文面だけ見れば、意味不明。

 入院中の鹿島(かしま)元船長へ面会する。きっちりした理由はあれど、さとみがいなければ、(いち)はとっくに逃げ出していた。

 建物に取り付けられた青い文字が仰々しく、これまで目にした民間の病院とは違う。敷地内へ足を踏み入れるだけで、胃が竦んだ。

 だが、父・残間(ざんま)と姉・さとみは堂々としており、悔しい。(いち)も負けじと背筋を伸ばし、平静を保つ。

 

「無理、もう帰る」

「はやっ!」

 

 母・にいみは自動ドアの前へ立った瞬間、クッタクタ。掠れた声で弱弱しく告げられ、(いち)は場所を弁えずに大声を上げてしまう。

 

「お母さん、まだ言ってるの? ここまで来たんだから、観念しなさい」

「にいみ、私に負ぶさるか?」

「……歩く」

「……母さん、手を離してください」

 

 さとみが呆れ、残間は悠長に背中を見せ付ける。にいみは渋々と歩き出し、(いち)の肩をガッチリと掴む。服越しに爪が食い込んで、ちょっと痛い。

 しかし、彼女を振り払わない。肩に伝わる指先の震え、何に対するモノか見極める。そうする事で、燻っていた想いを鎮められるだろう。

 

「意外と……普通の病院だね、いっくん」

「確かに……」

 

 制服警官などウロついておらず、病院特有の消毒液が鼻に付く。他の病院と変わらぬ風景に少し、気が緩んだ。

 

「お電話した残間 青完です」

「お待ちください……はい、こちらです」

 

 残間が受付案内員へ名乗り、数字がひとつ書かれた紙をそっと見せられた。彼は礼儀正しく会釈し、(いち)達も続く。

 こちらから、電話連絡をしていない。

 明智(あけち)警視より、指示された方法。警察病院とは言え、鹿島元船長の居場所を嗅ぎまわる情報屋(ブン屋)は多い。その対策らしい。

 実際はどこぞの逃亡犯へ向けたものだが、(いち)は知らぬ。

 

 手順を踏んだ先、目的の病室へ辿り着く。その向こう側を想像し、(いち)は耳の後ろが煩かった。

 

「……帰る」

「お母さ……っ」

 

 にいみは怖気づき、さとみが諭す前に病室のドアが待ち構えたように開いた。

 

「にいみさんっ」

 

 洋子(ようこ)の活発な声を久しぶりに聞き、(いち)も肩がビクッと痙攣する。にいみは気まずそうに、さっと残間の後ろへ隠れた。

 

「さあ、入って。父もお待ち……お父さん!」

あ……ああ!!

 

 洋子は病室へ招こうとしたが、それより先に鹿島船長が血相を変えて飛び出してくる。点滴のチューブも気にせず、廊下へ這い蹲った。

 彼の顔色や肉付きが以前より、良い。順調に回復している様子が見られ、(いち)は頭の片隅で喜んだ。

 

「もうしわけ……ございません。アナタの厚意を無下にし……ご家族にまで迷惑を……」

「謝るな。貴様の意思を尊重しなかったのは、こちらも同じだ。積もる話をするなら、ベッドに戻れ」

 

 鹿島元船長の謝罪を遮り、にいみは毅然とした態度で病室を指差す。残間を盾にした姿はちょっと格好付かなかったが、人嫌いの彼女にしては及第点だ。

 

「お父さん、さあ……ゆっくり起きて」

 

 洋子に肩を預け、鹿島元船長はベッドへ戻される。(いち)達も病室へ入り、廊下を警戒しつつ、ドアを閉めた。

 

「初めましてだな、鹿島 伸吾。洋子から聞いているだろうが、金田 にいみだ。それと息子の(いち)、娘のさとみ。……2人の父親の残間 青完だ」

夫の(・・)青完です。妻共々(・・・)お見知りおきを

((……大人げない))

 

 にいみの紹介を受け、残間はグイッと前に出る。空回りで強気な発言に、姉弟は呆れた。

 

「……鹿島です。娘の洋子が大変、お世話になりました。特に……息子さんには、本当……感謝してもし切れない……」

「……いいえ、洋子さんが母を信じてくれた。ただ、それだけです」

 

 鹿島元船長に詫びる眼差しを向けられ、(いち)の胸が痛む。

 経緯はどうであれ、にいみは洋子を孤独にした。

 恨むどころか、行方を捜す為に我が身を顧みず、仇の懐へ飛び込む程の勇気。讃える他ない。

 

「ありがとうございます、洋子さん。自分は貴女を尊敬します」

「金田君……」

 

 洋子の愁いを帯びた瞳に浮かぶ涙は、感謝だろう。

 さとみが無表情になり、にいみの背を押し出す。息子にばかり喋らせず、己の口から洋子へかけるべき言葉を発しろ、そんな凄みがある。

 

「洋子、本当に……よく頑張ったな。肝心な時、傍にいなくて……すまない

((声、小っちゃ……))

 

 にいみは深呼吸した後、か細い声で謝罪する。姉弟でも聞きづらいが、忸怩たる思いは伝わったらしい。洋子はフッと、緊張の解けた笑みを見せた。

 

「……にいみさん、それは違うわ。あたしの傍にいなくちゃいけなかったのは、あくまでも(・・・・・)……お父さんよ」

「……っ」

 

 思いの外、洋子はズバッと言い切った。鹿島元船長は顔を逸らさず、グサッと刺さった言葉の重みを噛み締めていた。

 

「お父さんはこうして、帰って来た。もう、あたしは大丈夫。だから、にいみさん……ご自分の家族を心配しなくちゃ。ね? 金田君、一度だって……アナタを悪く言わなかったわ」

(……話しすら、してねえよ)

 

 洋子は己の父親へ微笑みかけ、(いち)を見やる。同類への親近感を込めた眼差し、予想以上に心の距離が近い。気付かぬフリをした。

 

「案ずるな、洋子。こちらはどうにでも……いやまあ……説明くらいはする。納得してもらえるとは、思わんさ」

(お母さん、説明する気はあるのね)

 

 にいみは洋子を気遣おうとしたが、さとみの執拗な視線に言葉を変えた。姉はため息を殺し、やれやれと肩を竦めた。

 

「にいみ、私は……いつだって貴女の味方だ」

「残間、ちょっと黙っていてもらえます?」

 

 残間が真剣な表情で口を挿もうとした為、(いち)はイラッとする。

 

「……さとみ、2人を連れて行ってくれ。大人だけで話したい」

「うん? それは良いけど、お母さん。お父さん、置いて行って大丈夫? ちゃんと鹿島さんと話、出来そう?」

「……私は貝になる」

 

 にいみに頼まれ、さとみは念の為に問う。愛娘から遠回しに邪魔者扱いされ、残間はへこんでいた。

 以前から見慣れた微笑ましい家族の光景だが、(いち)の心は氷点下だ。

 

 行き交う人の邪魔にならない場所を求め、廊下を右往左往する。

 

「洋子さん、お父様の退院はいつ頃なんですか?」

「来月にね、それが決まった直後に来てくれるんだもん。これって、運命かな? 金田君♪」

「……そんな偶然が、あるのですよ」

 

 流石、コミュニケーション能力の高い見習いマジシャン。

 さとみは一切、洋子へ物怖じせずに接している。彼女達を視界の隅に入れ、(いち)は適当に返事した。

 朗らかで天真爛漫な少女2人はまるで、姉妹のよう。

 直視するには、勇気がいる。

 

「洋子さん、自分達の他に……訪ねて来られた方を聞いても?」

「そうね~。警察の人は除外するとして……岡崎君、佐木君……竜太君と竜二君の両方ね、白神さん……」

 

 場の空気を変えようと質問したが、聞いた名前にビックリ。

 新学期から今日までの間、彼と碌に話していない。正確には、(いち)が学園祭の準備や地区大会の稽古に追われ、事件の話をする余裕がなかった。

 見舞いを欠かさぬ姿勢は流石、佐木兄弟。しかし、竜二(りゅうじ)は好奇心旺盛で無作法な一面もあり、警察病院に迷惑をかけていないか心配。

 

「そっか、……竜二君もコバルトマリン号に乗ってたんだっけ? フフフ……色んな場所に現れるのね、あの子」

「全くその通りです、さとみさん」

 

 乗船した際、竜二の存在が有難かったのは内緒だ。

 

「若王子さんも来たみたい。あたしがいない時に……。あんまり、人と会えないのよ。お父さんを見付けてくれた逃亡犯が、接触するかもしれないからって」

「……っ」

(そうだった~……)

 

 窓の向こうを見つめ、洋子は何気なく余計な単語を呟いた。

 さとみの表情が一瞬だけ、曇る。すぐに普段の表情を見せたものの、(いち)は自身の迂闊さを嘆いた。

 

「岡崎君、来てくれたのですね。知りませんでした」

「そうなの? まあ……それでも、1回だけよ。竜二君は何度も来てくれるけど、金田君の話ばっかり……あっ。時原さんから聞いたかもしれないけど、あたしね……今は彼女の家でお世話になってるの。近々、お店にも行くね♪」

 

 更に話題を変えようとしたが、洋子による笑顔の圧が強い。やはり、時原(ときはら)が『大草原の小さな家』へ務めた原因は、彼女にある。慄いた体から、汗が噴き出た。

 

「それなら、洋子さん。あたしと行きません? ゆっくりお話ししたいです」

「ホント? 嬉しいなあ、残間さんって言うのも……変ね。うん、さとみちゃんにしよう♪」

 

 さとみと洋子の意気投合する姿、絶対に緊張してしまう。その日が来れば、バイトを休むと決めた。

 

「岡崎君、お弁当屋さんだったわね。お父さんが退院してから……行こうかな? う~ん、(いち)君はどう思う?」

「……いつでも、岡崎君は待っていると思います」

 

 洋子から唐突に名を呼ばれ、(いち)の肩が痙攣した。心の距離がより、迫ってくる。

 

「……それじゃあ、(いち)君。彼に伝えてくれる? 必ず、お店に伺いますって」

「ええ、勿論です」

 

 こちらを覗き込むように、洋子は頼む。何の含みの無い笑み、他人への心から感謝が伝わった。

 にいみはあらゆる面で彼女の助けとなったが、同級生の功績は大きい。彼がいなければ、鹿島元船長は警察へ出頭しなかった。

 打算の無い親切心が、本当の意味で人を助ける。その事実を改めて実感し、腹落ちした。

 心優しき同級生を持ち、(いち)は誇らしく思う。

 

(……今更、話しづらいとか……言ってる場合じゃねえ……)

 

 待たせた約束をひとつ、果そう。心に誓った。

 

 先ず、場所。

 有森(ありもり)を新部長に迎えた演劇部、七瀬(ななせ)を新部長に据えたミス研。2つの部室を候補にしたものの、人目が厳しい。

 

「海峰君、千家君、遅くなったけど……。次期会長、副会長の当選おめでとう♪」

「あざ~す、七瀬先輩。まあ、当然の結果っスね♪」

「……ありがとう、七瀬さん。当選したからには、見合った働きしないとな」

 

 来期生徒会役員も無事に決まり、盛り上がる雰囲気の生徒会室は論外。合宿で勝利を収めた囲碁部も考えたが、学校は却下だ。

 

「どう思いますか? いつの間にか、ミス研と生徒会へ入り込んだ期待の新人……村上君」

「!? 何の話だよ、金田。会計に決まって、イラついてんの?」

 

 2年1組・村上(むらかみ) 草太(そうた)のアドバイスを参考にし、ハジメを金田家へ招待したのは中間テストから解放された――当夜

 

「……と言うワケです。ハジメちゃん……最後までお聞き頂き、ありがとうございました」

「……っ」

 

 (いち)は敷布団の上に正座し、長広舌を振るった。

 折角のお泊まりにする話ではなかったが、ハジメは熱心に耳を傾けてくれた。

 

「……どうして、そうなった?」

 

 ハジメは眉間に深いシワを寄せ、後頭部をガリガリと掻く。ゆっくりと天井を仰いだかと思えば、前屈みになるなど、何とも腑に落ちない様子だ。

 甲田と会った話辺りから、彼の表情は曇っていた。一度に話し過ぎたかもしれない。

 

「何か、モヤッとする点でもありますか?」

点じゃねえよ、全部だっつの。……高遠に面会だの。残間さんの約束だの。しかも、高遠の実の父親だの。長崎さんに会っただの。……つ~か、金田……コバルトマリン号に乗ってたんかよ。知らんかった……

 

 (いち)が首を傾げれば、ハジメは必死にため息を殺す。意外な返答だ。

 

「……剣持さんでなくても、桜樹先輩から聞いていると思っていました」

「真壁先輩しか、その話してねえんだわ。幽霊船の調査へ行って、岡持が大活躍したってな。佐木2号が何も言わねえなんて、妙だと思っちゃいたが……」

 

 警察は守秘義務があれど、3年3組・真壁(まかべ) (まこと)先輩さえもお喋り自慢を控えている。学校の騒動を考えれば、桜樹(さくらぎ)先輩が緘口令を布いた可能性はある。

 

「お前のお母さん……、どこまで知ってたんだ?」

「今、お話した通り……伯父さんが別人だった事、オリエンタル号衝突事故の真相、近宮 玲子に子供がいる……要はこの3つです」

 

 他にもありそうな雰囲気だったが、聞き出せた話はこれだけ。

 

「……全部、重要じゃねえか。……お前ら抜きで、ご両親は鹿島さんと何の話したんだ?」

「知りません。自分は興味ありませんが……さとみさんになら、話したかもしれません」

 

 素直に答えたのに、「ああ、そう」と呆れられた。大人達の会話など、本当に興味ない。

 

「んじゃあ、お前のお母さんに直接聞くわ。何時に帰んだ?」

「帰りません。あの人は今、ホテル暮らしです」

「へ? なんで……」

「毎日のように呼び出され、警視庁近くのホテルにいた方が楽だと……」

 

 ハジメがやれやれと肩を竦め、にいみの帰宅時間を知りたがる。

 しかし、彼女は警視庁での事情聴取、この家では金田祖母との舌戦の連日。すっかり疲弊してしまい、ホテルへ逃げ込んだ。

 

「警察が嫌いだって聞いたけど、事情聴取には行ってんだな」

「ええ、剣持さんの時間を無駄にさせられません。多少、強引な手を使いました」

 

 洗い浚い喋らなければ、自分達が知る悲恋湖キャンプ事件の情報を教えない。半ば脅迫めいた条件を聞き、にいみは渋々と承諾した。物凄く小声で「親父の気持ちを考えろ」とブツブツ呟いていたが、知らぬ。

 

「どこ泊ってんの?」

「ローズグランドホテルです。一応、言っておきますが……母は色んな場所に出掛けているらしく、いつホテルに戻っているのか、分かりません。行先もです」

 

 登山家を始めとし、金田家と縁のある方々へ挨拶巡り。金田祖母の弟たる大叔父から得た情報だ。

 小林(こばやし)画伯の遺言を託された冬部(ふゆべ)弁護士にも、会うだろう。

 

「マジかよ……またフラッと海外にでも、行っちまうんじゃね?」

「いいえ、それに関してはエドワードさん達と約束しています。しばらく、日本にいるでしょう」

 

 エドワード・コロンボというより、彼の叔父たるロスの名刑事との約束。

 片言の日本語だが、初対面でも人を安心させる包容力の持ち主。彼との時間は心弾み、残間が嫉妬全開にメンチを切り、ヒヤヒヤさせられた以外は有意義だった。

 ハジメの空気がすっと変わり、看破しようとする目付きになる。質問タイムを察知、(いち)は姿勢を改めた。

 

「……お前さ、お母さんは極端な人嫌いって言ってただろ。正直、エドワードさんやクリスと話してた時……とてもそんな風に見えなかったんだ。もしかして……お前、母親がどんな人間か……知らないんじゃないか?」

 

 言い得て妙。

 最近は自分でも薄々、感じ取っていた。

 

〝身近な人間程、その凄さが分からんもんや〟

 

 かつて、金田祖父は言い放った。

 にいみの凄さどころか、人格も分からない。氷室伯父の妹という括りに当て嵌め、『人嫌い』で『多少の絵心がある』と決め付けていた。

 だが、反省はしない。

 にいみは己がどんな人間か、息子へ語った事など一度もない。彼女の若かりし頃、夫婦の見合いも全て、さとみや、かほる先生などを通じて知るのみ。

 何も教えてもらえず、理解してやれなど土台無理な話だ。

 

「知らなくても……支障はありませんよ」

「金田……まさか、お母さんを〝敵〟だなんて思ってるんじゃないだろうな」

 

 思いの外、冷ややかに告げてしまう。ハジメは表情を強張らせ、とんでもない解釈を口走っていた。

 

「ハジメちゃん、自分は敵と暮らすような度胸はありません。それに……もしも、そうなら……こうなる前に手を打ったでしょう」

「……紅さんの時みたいにか?」

 

 矢継ぎ早な質問には、ハジメの優しさがある。

 (いち)が溜め込んだ不満や不安を形にし、吐き出させ、空になった心へ寄り添おうとしてくれている。

 眩しい。

 だからこそ、真面目に濁さず、恥を捨てて答えよう。

 

「自分は……母に、怒っているのだと思います。父に駄目だったと言われて……味方をしてくれなかった事も。離婚を勝手に決めて、さとみさんと離れ離れにされた事も」

「……金田」

「横浜の暮らしは本当に、幸せでした。でも……高遠さんの実のお父さんかもしれない人が家に来てくれるまで、寂しかったのも……本心です。「彼」との半年間、母は家に居てくれたのですから……」

「……っ」

 

 にいみは家族の誰にも、真相を話せなかった。

 ガムシャラに働く母子家庭を装い、水面下で戦い続けた。その心情は理解しよう。

 だが、氷室(ひむろ)伯父の死を知っていながら、黙っていたのは事実。

 

 ――どうして、教えてくれなかった! 知っていれば、この手であの4人を……水沼だけは必ず!!

 

 毛細血管まで焼き切りそうな激情が吹雪となり、荒れ狂う。叫びたい衝動に駆られたが、耐えた。

 

「金田……!」

 

 ハジメの切羽詰まった声が聞こえた。

 

 ――コンコンコン

 

 静かなノック音、ハッとする。会話を妨げない気遣いを感じ、(いち)は相手が誰か分かった。

 

「……どうぞ」

「……なんや、(いち)。まだ起きとんのか、もう日が変わるで。金田一(きんだいち)くんに言付けよう思うたが、言うとくわ。明日……箱根行くで。にいみとさとみ、んでお前の3人だけ。二神さんの誘いやから、断んなよ。ほな、オヤスミ」

 

 言いたい事だけ告げ、眠そうな金田祖父はドアを閉めた。

 突然の報せに高まっていた緊張は解け、高校生2人はキョトンとする。状況把握に時間が掛かった。

 

「二神って、お母さんの先輩だっけ? マンション貸してくれたっつ~」

「はい、ええ……多分。土曜日は学校ですし……日帰りでしょうか?」

(だったら、俺達とはニアミスか。玲香ちゃんに誘われたバイト、土曜だし)

「あ……本当、12時……」

 

 ハジメの質問に答えつつ、時計の秒針もハッキリと視界に入れた。

 それなのに――意識を保っており、眠らない。

 

「ハジメちゃん……眠りませんっ」

「俺も……寝るタイミング、逃しちまったな。へへ~ん♪ そんな事もあろうかと、ゲームボーイやら何やら持って来たんだ」

 

 (いち)の驚愕をよそに、ハジメはボストンバッグからゲーム機とソフトをいくつも取り出した。一晩のお泊まりに何を持ち込んだかと思えば、彼らしくて和んだ。

 

「どれもする? ニンテンドウ64はテレビに繋がねえと……台所でコッソリやっちまうか?」

 

 まだひとつ、話したかった。

 しかし、ハジメは完全に悪巧みモード。彼はわざと話を打ち切ったように思える。

 気勢を削がれ、(いち)は取り敢えずとニンテンドウ64のソフトを掴む。手にある堅い感触が初めて玩具に触れた幼子の様に、段々と心を弾ませた。

 疑問よりも、起きていられる喜びが勝った。

 

「静かにやりましょうね、ハジメちゃん」

「おっし、そうこなくっちゃ♪」

 

 中学以来の夜更かし。

 眠る祖父母を起こさぬ様に台所で声を出さず、はしゃいだ。

 朝方には眠りこけ、2人とも食卓に突っ伏す。しかも、TVつけっぱなしの状態で何をしていたか、丸分かり。

 目を吊り上げた金田祖母からお小言を頂いたのは、言うまでもない。

 

○●……――高校生の愉快なお泊まりより数時間前、剣持(けんもち)警部は警視庁のディスクにて項垂れる。

 

「剣持。その様子じゃあ、例の画家の妹……またダンマリか?」

「課長……一応、調書は進んでますよ」

 

 捜査一課・課長のご指摘通り、金田(かねだ) にいみは思ったよりも手強い。

 返事は「yesかno」、もしくは沈黙。

 長い前髪で表情は読み切れずとも、敵意はない。但し、金田家や残間家のような親しみや、気安さもない。

 彼女の警察嫌い、概念にすら思えた。

 寧ろ、感心してしまう。

 

「剣持……分かってるだろうが、慎重に行けよ。いくら……ロスの名刑事を味方に付けようが兄同様本人とは限らねえからな

「はい、重々承知しています」

 

 鋭い眼光に含まれた期待、そこへ答える意味も込めた。

 課長の疑いは、刑事として正しい。彼女が国々を渡り歩いていたならば、尚更だ。

 

(まあ……どう考えても、本人だな)

 

 但し、剣持の本心は正反対。

 絶対に課長と揉める為、敢えて教えない。これも処世術。

 真粕平交番の交番長、人間国宝の妹、御堂家に40年仕える執事、週刊ゲンダイの編集と身内以外の人間から、次々と証言は取れた。

 更に上司の明智警視が本日、事情聴取した横浜の女院長も彼女本人と断言した。このまま行けば、DNA鑑定へ持ち越さず、潔白は証明されるだろう。

 

「剣持警部。今、少しよろしいでしょうか?」

「雪峯か、どうした?」

 

 雪峯(ゆきみね)刑事が周囲を確かめながら、こっそりと耳打ち。

 

「金田 にいみと二神 育子の会話を偶然、小耳に挿みまして……」

偶然……何を、聞いたんだ?」

「彼女の父親、つまり……金田君のお祖父さんについてです。『警察なんぞに頼って、親父もさぞ辛かろう』と、父親に同情的でした」

「……金田さんが、辛い?」

 

 盗み聞きを疑ったが、意外な内容に驚いた。

 剣持の知る金田という老人は陽気な関西人、初見から警察にも協力的な姿勢だった。

 

「二神は、それに何と答えた?」

「二神 育子は『お父様、現役時代に警察と嫌な思い出でもあるの?』と質問していましたが、彼女は答えませんでした」

 

 金田老は元映画スタントマン、警察との嫌な思い出もひとつやふたつ、きっとある。寧ろ、絶対。

 問題は何故、沈黙したかという点だ。

 

「私の方で調べます。剣持警部は週末のご予定が……」

 

 雪峯の申し出は、実に有り難い。剣持はこの時期、どうしても人形島へ行かなければならない。

 

「そう……だな、頼む。雪峯、くれぐれも……課長には」

「……心得ています」

 

 課長の席をコッソリと盗み見ながら、雪峯へ頼む。彼女はそそくさと廊下へ飛び出して行った。

 頼れる部下に成長したと涙ぐみながら、ひとつ思い出す。

 金田老はあくまでも継父、にいみによく似た実の父親もまたスタントマンであった。

 『親父』とは、そちらを指している可能性がある。例え、本件と関係なくても確かめねばならない。

 長年、培った刑事の勘が告げている――。




志月「志月だ。俺が監督していりゃあ、百太から連絡が来てくれるかと期待したが……トラブル多くね? あの女は勝手に事故って降板するし、玲香ちゃんはマネージャーに誘拐されるし……本当に黒霊の『呪い』かもなあ。さて、次回は『劇場版-黒霊ホテルの撮影裏』!! ん? ……あの後ろ姿……にいみか!」

捜査一課・課長
明智警部の事件簿に登場、ずっと眉間にシワを寄せるタイプ。基本的、上層部の意見に従う
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

小城探偵事務所(作者:無月)(原作:金田一少年の事件簿)

コンビニも、ゲームも、風呂もトイレもある。食事だって慣れた物だし、人種だって変わらない。▼けれど、けして安全とは言い難い世界。しかも、転生先は犯人です。▼でも、まずはお礼が言いたい。▼「コナンワールドじゃなくてありがとう! 神様!!」▼同じ推理物なら無差別に殺される可能性があり、銃刀法が欠片も仕事してないあの世界よりは大分マシ。▼なんか物理法則とか、一部化学…


総合評価:6150/評価:8.84/連載:46話/更新日時:2026年05月25日(月) 06:00 小説情報

殺人鬼達に救われる道はあるのか?(作者:コミカド)(原作:金田一少年の事件簿)

「罪を犯したモノは、その罪を償わない限り本当の幸せは得られない」▼「人の命を奪った者は、その十字架を生涯を掛けて背負わなければならない」▼「弁護士にとっての最大の使命は、罪を犯した者を心から反省させ、再び立ち上がれるように後押しする事である」▼そんな信念を持った弁護士が様々な『事件簿』に関わっていき、救われぬ悲劇に僅かな希望を掴もうと奔走する物語。▼金田一と…


総合評価:1485/評価:8.8/連載:32話/更新日時:2026年03月13日(金) 12:00 小説情報

コードギアス・フロントライナー(作者:なべを)(原作:コードギアス)

コードギアスの世界に転生した、カイ・アサト。▼日本がイレブンになったときに、前世を思い出した。▼が、親が居ないイレブンの子供に人権なんてなかった。▼存在しない兵士として、KMFに載せられ戦争の最前線に送られる。▼これは、KMFに愛されながらも、戦争からは逃げられなかった転生者の話。


総合評価:2490/評価:6.4/完結:45話/更新日時:2026年05月05日(火) 22:00 小説情報

ハンター協会の美食料理人(作者:火取閃光)(原作:HUNTER×HUNTER)

美食ハンターとか言う凄く面白い設定があったのに、序盤しか活躍しなかったのでオリジナルキャラを作り2次創作を書いてみました。▼気分転換に書き溜めたプロットを形にしてみました。温かく見守って頂ければ幸いです。▼2026/02/24 19:05頃▼日間ランキング177位を記録! ご愛好ありがとうございます!▼2026/02/26 23:39頃▼日間ランキング58位…


総合評価:4413/評価:7.42/連載:33話/更新日時:2026年04月26日(日) 00:30 小説情報

厚い事件簿を薄くしたい(作者:あきゅおす)(原作:金田一少年の事件簿)

 二度目の人生を過ごしてきた男が巻き込まれた事件によって転生したのが『金田一少年の事件簿』の世界ということを認識してどうにかやっていくお話。▼※最初の1話以外は思いついたものから書いていますので、時系列がいきなり飛んだり戻ったりしています。なので、唐突に原作キャラと仲良くなったり、逆に知り合いじゃなかったりしますのでご了承くださいorz▼2022/3/27▼…


総合評価:4207/評価:8.42/短編:13話/更新日時:2022年03月27日(日) 04:47 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>