金田少年の生徒会日誌 作:珍明
90年代、警察病院は千代田にあったなと思い、ネット検索したら「コナンの聖地」で紹介された
元夫婦がお互いに引き取った子供達を連れ、千代田区の警察病院へ向かう。
文面だけ見れば、意味不明。
入院中の
建物に取り付けられた青い文字が仰々しく、これまで目にした民間の病院とは違う。敷地内へ足を踏み入れるだけで、胃が竦んだ。
だが、父・
「無理、もう帰る」
「はやっ!」
母・にいみは自動ドアの前へ立った瞬間、クッタクタ。掠れた声で弱弱しく告げられ、
「お母さん、まだ言ってるの? ここまで来たんだから、観念しなさい」
「にいみ、私に負ぶさるか?」
「……歩く」
「……母さん、手を離してください」
さとみが呆れ、残間は悠長に背中を見せ付ける。にいみは渋々と歩き出し、
しかし、彼女を振り払わない。肩に伝わる指先の震え、何に対するモノか見極める。そうする事で、燻っていた想いを鎮められるだろう。
「意外と……普通の病院だね、いっくん」
「確かに……」
制服警官などウロついておらず、病院特有の消毒液が鼻に付く。他の病院と変わらぬ風景に少し、気が緩んだ。
「お電話した残間 青完です」
「お待ちください……はい、こちらです」
残間が受付案内員へ名乗り、数字がひとつ書かれた紙をそっと見せられた。彼は礼儀正しく会釈し、
こちらから、電話連絡をしていない。
実際はどこぞの逃亡犯へ向けたものだが、
手順を踏んだ先、目的の病室へ辿り着く。その向こう側を想像し、
「……帰る」
「お母さ……っ」
にいみは怖気づき、さとみが諭す前に病室のドアが待ち構えたように開いた。
「にいみさんっ」
「さあ、入って。父もお待ち……お父さん!」
「あ……ああ!!」
洋子は病室へ招こうとしたが、それより先に鹿島船長が血相を変えて飛び出してくる。点滴のチューブも気にせず、廊下へ這い蹲った。
彼の顔色や肉付きが以前より、良い。順調に回復している様子が見られ、
「もうしわけ……ございません。アナタの厚意を無下にし……ご家族にまで迷惑を……」
「謝るな。貴様の意思を尊重しなかったのは、こちらも同じだ。積もる話をするなら、ベッドに戻れ」
鹿島元船長の謝罪を遮り、にいみは毅然とした態度で病室を指差す。残間を盾にした姿はちょっと格好付かなかったが、人嫌いの彼女にしては及第点だ。
「お父さん、さあ……ゆっくり起きて」
洋子に肩を預け、鹿島元船長はベッドへ戻される。
「初めましてだな、鹿島 伸吾。洋子から聞いているだろうが、金田 にいみだ。それと息子の
「
((……大人げない))
にいみの紹介を受け、残間はグイッと前に出る。空回りで強気な発言に、姉弟は呆れた。
「……鹿島です。娘の洋子が大変、お世話になりました。特に……息子さんには、本当……感謝してもし切れない……」
「……いいえ、洋子さんが母を信じてくれた。ただ、それだけです」
鹿島元船長に詫びる眼差しを向けられ、
経緯はどうであれ、にいみは洋子を孤独にした。
恨むどころか、行方を捜す為に我が身を顧みず、仇の懐へ飛び込む程の勇気。讃える他ない。
「ありがとうございます、洋子さん。自分は貴女を尊敬します」
「金田君……」
洋子の愁いを帯びた瞳に浮かぶ涙は、感謝だろう。
さとみが無表情になり、にいみの背を押し出す。息子にばかり喋らせず、己の口から洋子へかけるべき言葉を発しろ、そんな凄みがある。
「洋子、本当に……よく頑張ったな。肝心な時、傍にいなくて……すまない」
((声、小っちゃ……))
にいみは深呼吸した後、か細い声で謝罪する。姉弟でも聞きづらいが、忸怩たる思いは伝わったらしい。洋子はフッと、緊張の解けた笑みを見せた。
「……にいみさん、それは違うわ。あたしの傍にいなくちゃいけなかったのは、
「……っ」
思いの外、洋子はズバッと言い切った。鹿島元船長は顔を逸らさず、グサッと刺さった言葉の重みを噛み締めていた。
「お父さんはこうして、帰って来た。もう、あたしは大丈夫。だから、にいみさん……ご自分の家族を心配しなくちゃ。ね? 金田君、一度だって……アナタを悪く言わなかったわ」
(……話しすら、してねえよ)
洋子は己の父親へ微笑みかけ、
「案ずるな、洋子。こちらはどうにでも……いや、まあ……説明くらいはする。納得してもらえるとは、思わんさ」
(お母さん、説明する気はあるのね)
にいみは洋子を気遣おうとしたが、さとみの執拗な視線に言葉を変えた。姉はため息を殺し、やれやれと肩を竦めた。
「にいみ、私は……いつだって貴女の味方だ」
「残間、ちょっと黙っていてもらえます?」
残間が真剣な表情で口を挿もうとした為、
「……さとみ、2人を連れて行ってくれ。大人だけで話したい」
「うん? それは良いけど、お母さん。お父さん、置いて行って大丈夫? ちゃんと鹿島さんと話、出来そう?」
「……私は貝になる」
にいみに頼まれ、さとみは念の為に問う。愛娘から遠回しに邪魔者扱いされ、残間はへこんでいた。
以前から見慣れた微笑ましい家族の光景だが、
行き交う人の邪魔にならない場所を求め、廊下を右往左往する。
「洋子さん、お父様の退院はいつ頃なんですか?」
「来月にね、それが決まった直後に来てくれるんだもん。これって、運命かな? 金田君♪」
「……そんな偶然が、あるのですよ」
流石、コミュニケーション能力の高い見習いマジシャン。
さとみは一切、洋子へ物怖じせずに接している。彼女達を視界の隅に入れ、
朗らかで天真爛漫な少女2人はまるで、姉妹のよう。
直視するには、勇気がいる。
「洋子さん、自分達の他に……訪ねて来られた方を聞いても?」
「そうね~。警察の人は除外するとして……岡崎君、佐木君……竜太君と竜二君の両方ね、白神さん……」
場の空気を変えようと質問したが、聞いた名前にビックリ。
新学期から今日までの間、彼と碌に話していない。正確には、
見舞いを欠かさぬ姿勢は流石、佐木兄弟。しかし、
「そっか、……竜二君もコバルトマリン号に乗ってたんだっけ? フフフ……色んな場所に現れるのね、あの子」
「全くその通りです、さとみさん」
乗船した際、竜二の存在が有難かったのは内緒だ。
「若王子さんも来たみたい。あたしがいない時に……。あんまり、人と会えないのよ。お父さんを見付けてくれた逃亡犯が、接触するかもしれないからって」
「……っ」
(そうだった~……)
窓の向こうを見つめ、洋子は何気なく余計な単語を呟いた。
さとみの表情が一瞬だけ、曇る。すぐに普段の表情を見せたものの、
「岡崎君、来てくれたのですね。知りませんでした」
「そうなの? まあ……それでも、1回だけよ。竜二君は何度も来てくれるけど、金田君の話ばっかり……あっ。時原さんから聞いたかもしれないけど、あたしね……今は彼女の家でお世話になってるの。近々、お店にも行くね♪」
更に話題を変えようとしたが、洋子による笑顔の圧が強い。やはり、
「それなら、洋子さん。あたしと行きません? ゆっくりお話ししたいです」
「ホント? 嬉しいなあ、残間さんって言うのも……変ね。うん、さとみちゃんにしよう♪」
さとみと洋子の意気投合する姿、絶対に緊張してしまう。その日が来れば、バイトを休むと決めた。
「岡崎君、お弁当屋さんだったわね。お父さんが退院してから……行こうかな? う~ん、
「……いつでも、岡崎君は待っていると思います」
洋子から唐突に名を呼ばれ、
「……それじゃあ、
「ええ、勿論です」
こちらを覗き込むように、洋子は頼む。何の含みの無い笑み、他人への心から感謝が伝わった。
にいみはあらゆる面で彼女の助けとなったが、同級生の功績は大きい。彼がいなければ、鹿島元船長は警察へ出頭しなかった。
打算の無い親切心が、本当の意味で人を助ける。その事実を改めて実感し、腹落ちした。
心優しき同級生を持ち、
(……今更、話しづらいとか……言ってる場合じゃねえ……)
待たせた約束をひとつ、果そう。心に誓った。
先ず、場所。
「海峰君、千家君、遅くなったけど……。次期会長、副会長の当選おめでとう♪」
「あざ~す、七瀬先輩。まあ、当然の結果っスね♪」
「……ありがとう、七瀬さん。当選したからには、見合った働きしないとな」
来期生徒会役員も無事に決まり、盛り上がる雰囲気の生徒会室は論外。合宿で勝利を収めた囲碁部も考えたが、学校は却下だ。
「どう思いますか? いつの間にか、ミス研と生徒会へ入り込んだ期待の新人……村上君」
「!? 何の話だよ、金田。会計に決まって、イラついてんの?」
2年1組・
「……と言うワケです。ハジメちゃん……最後までお聞き頂き、ありがとうございました」
「……っ」
折角のお泊まりにする話ではなかったが、ハジメは熱心に耳を傾けてくれた。
「……どうして、そうなった?」
ハジメは眉間に深いシワを寄せ、後頭部をガリガリと掻く。ゆっくりと天井を仰いだかと思えば、前屈みになるなど、何とも腑に落ちない様子だ。
甲田と会った話辺りから、彼の表情は曇っていた。一度に話し過ぎたかもしれない。
「何か、モヤッとする点でもありますか?」
「点じゃねえよ、全部だっつの。……高遠に面会だの。残間さんの約束だの。しかも、高遠の実の父親だの。長崎さんに会っただの。……つ~か、金田……コバルトマリン号に乗ってたんかよ。知らんかった……」
「……剣持さんでなくても、桜樹先輩から聞いていると思っていました」
「真壁先輩しか、その話してねえんだわ。幽霊船の調査へ行って、岡持が大活躍したってな。佐木2号が何も言わねえなんて、妙だと思っちゃいたが……」
警察は守秘義務があれど、3年3組・
「お前のお母さん……、どこまで知ってたんだ?」
「今、お話した通り……伯父さんが別人だった事、オリエンタル号衝突事故の真相、近宮 玲子に子供がいる……要はこの3つです」
他にもありそうな雰囲気だったが、聞き出せた話はこれだけ。
「……全部、重要じゃねえか。……お前ら抜きで、ご両親は鹿島さんと何の話したんだ?」
「知りません。自分は興味ありませんが……さとみさんになら、話したかもしれません」
素直に答えたのに、「ああ、そう」と呆れられた。大人達の会話など、本当に興味ない。
「んじゃあ、お前のお母さんに直接聞くわ。何時に帰んだ?」
「帰りません。あの人は今、ホテル暮らしです」
「へ? なんで……」
「毎日のように呼び出され、警視庁近くのホテルにいた方が楽だと……」
ハジメがやれやれと肩を竦め、にいみの帰宅時間を知りたがる。
しかし、彼女は警視庁での事情聴取、この家では金田祖母との舌戦の連日。すっかり疲弊してしまい、ホテルへ逃げ込んだ。
「警察が嫌いだって聞いたけど、事情聴取には行ってんだな」
「ええ、剣持さんの時間を無駄にさせられません。多少、強引な手を使いました」
洗い浚い喋らなければ、自分達が知る悲恋湖キャンプ事件の情報を教えない。半ば脅迫めいた条件を聞き、にいみは渋々と承諾した。物凄く小声で「親父の気持ちを考えろ」とブツブツ呟いていたが、知らぬ。
「どこ泊ってんの?」
「ローズグランドホテルです。一応、言っておきますが……母は色んな場所に出掛けているらしく、いつホテルに戻っているのか、分かりません。行先もです」
登山家を始めとし、金田家と縁のある方々へ挨拶巡り。金田祖母の弟たる大叔父から得た情報だ。
「マジかよ……またフラッと海外にでも、行っちまうんじゃね?」
「いいえ、それに関してはエドワードさん達と約束しています。しばらく、日本にいるでしょう」
エドワード・コロンボというより、彼の叔父たるロスの名刑事との約束。
片言の日本語だが、初対面でも人を安心させる包容力の持ち主。彼との時間は心弾み、残間が嫉妬全開にメンチを切り、ヒヤヒヤさせられた以外は有意義だった。
ハジメの空気がすっと変わり、看破しようとする目付きになる。質問タイムを察知、
「……お前さ、お母さんは極端な人嫌いって言ってただろ。正直、エドワードさんやクリスと話してた時……とてもそんな風に見えなかったんだ。もしかして……お前、母親がどんな人間か……知らないんじゃないか?」
言い得て妙。
最近は自分でも薄々、感じ取っていた。
〝身近な人間程、その凄さが分からんもんや〟
かつて、金田祖父は言い放った。
にいみの凄さどころか、人格も分からない。氷室伯父の妹という括りに当て嵌め、『人嫌い』で『多少の絵心がある』と決め付けていた。
だが、反省はしない。
にいみは己がどんな人間か、息子へ語った事など一度もない。彼女の若かりし頃、夫婦の見合いも全て、さとみや、かほる先生などを通じて知るのみ。
何も教えてもらえず、理解してやれなど土台無理な話だ。
「知らなくても……支障はありませんよ」
「金田……まさか、お母さんを〝敵〟だなんて思ってるんじゃないだろうな」
思いの外、冷ややかに告げてしまう。ハジメは表情を強張らせ、とんでもない解釈を口走っていた。
「ハジメちゃん、自分は敵と暮らすような度胸はありません。それに……もしも、そうなら……こうなる前に手を打ったでしょう」
「……紅さんの時みたいにか?」
矢継ぎ早な質問には、ハジメの優しさがある。
眩しい。
だからこそ、真面目に濁さず、恥を捨てて答えよう。
「自分は……母に、怒っているのだと思います。父に駄目だったと言われて……味方をしてくれなかった事も。離婚を勝手に決めて、さとみさんと離れ離れにされた事も」
「……金田」
「横浜の暮らしは本当に、幸せでした。でも……高遠さんの実のお父さんかもしれない人が家に来てくれるまで、寂しかったのも……本心です。「彼」との半年間、母は家に居てくれたのですから……」
「……っ」
にいみは家族の誰にも、真相を話せなかった。
ガムシャラに働く母子家庭を装い、水面下で戦い続けた。その心情は理解しよう。
だが、
――どうして、教えてくれなかった! 知っていれば、この手であの4人を……水沼だけは必ず!!
毛細血管まで焼き切りそうな激情が吹雪となり、荒れ狂う。叫びたい衝動に駆られたが、耐えた。
「金田……!」
ハジメの切羽詰まった声が聞こえた。
――コンコンコン
静かなノック音、ハッとする。会話を妨げない気遣いを感じ、
「……どうぞ」
「……なんや、
言いたい事だけ告げ、眠そうな金田祖父はドアを閉めた。
突然の報せに高まっていた緊張は解け、高校生2人はキョトンとする。状況把握に時間が掛かった。
「二神って、お母さんの先輩だっけ? マンション貸してくれたっつ~」
「はい、ええ……多分。土曜日は学校ですし……日帰りでしょうか?」
(だったら、俺達とはニアミスか。玲香ちゃんに誘われたバイト、土曜だし)
「あ……本当、12時……」
ハジメの質問に答えつつ、時計の秒針もハッキリと視界に入れた。
それなのに――意識を保っており、眠らない。
「ハジメちゃん……眠りませんっ」
「俺も……寝るタイミング、逃しちまったな。へへ~ん♪ そんな事もあろうかと、ゲームボーイやら何やら持って来たんだ」
「どれもする? ニンテンドウ64はテレビに繋がねえと……台所でコッソリやっちまうか?」
まだひとつ、話したかった。
しかし、ハジメは完全に悪巧みモード。彼はわざと話を打ち切ったように思える。
気勢を削がれ、
疑問よりも、起きていられる喜びが勝った。
「静かにやりましょうね、ハジメちゃん」
「おっし、そうこなくっちゃ♪」
中学以来の夜更かし。
眠る祖父母を起こさぬ様に台所で声を出さず、はしゃいだ。
朝方には眠りこけ、2人とも食卓に突っ伏す。しかも、TVつけっぱなしの状態で何をしていたか、丸分かり。
目を吊り上げた金田祖母からお小言を頂いたのは、言うまでもない。
○●……――高校生の愉快なお泊まりより数時間前、
「剣持。その様子じゃあ、例の画家の妹……またダンマリか?」
「課長……一応、調書は進んでますよ」
捜査一課・課長のご指摘通り、
返事は「yesかno」、もしくは沈黙。
長い前髪で表情は読み切れずとも、敵意はない。但し、金田家や残間家のような親しみや、気安さもない。
彼女の警察嫌い、概念にすら思えた。
寧ろ、感心してしまう。
「剣持……分かってるだろうが、慎重に行けよ。いくら……ロスの名刑事を味方に付けようが兄同様、本人とは限らねえからな」
「はい、重々承知しています」
鋭い眼光に含まれた期待、そこへ答える意味も込めた。
課長の疑いは、刑事として正しい。彼女が国々を渡り歩いていたならば、尚更だ。
(まあ……どう考えても、本人だな)
但し、剣持の本心は正反対。
絶対に課長と揉める為、敢えて教えない。これも処世術。
真粕平交番の交番長、人間国宝の妹、御堂家に40年仕える執事、週刊ゲンダイの編集と身内以外の人間から、次々と証言は取れた。
更に上司の明智警視が本日、事情聴取した横浜の女院長も彼女本人と断言した。このまま行けば、DNA鑑定へ持ち越さず、潔白は証明されるだろう。
「剣持警部。今、少しよろしいでしょうか?」
「雪峯か、どうした?」
「金田 にいみと二神 育子の会話を偶然、小耳に挿みまして……」
「偶然……何を、聞いたんだ?」
「彼女の父親、つまり……金田君のお祖父さんについてです。『警察なんぞに頼って、親父もさぞ辛かろう』と、父親に同情的でした」
「……金田さんが、辛い?」
盗み聞きを疑ったが、意外な内容に驚いた。
剣持の知る金田という老人は陽気な関西人、初見から警察にも協力的な姿勢だった。
「二神は、それに何と答えた?」
「二神 育子は『お父様、現役時代に警察と嫌な思い出でもあるの?』と質問していましたが、彼女は答えませんでした」
金田老は元映画スタントマン、警察との嫌な思い出もひとつやふたつ、きっとある。寧ろ、絶対。
問題は何故、沈黙したかという点だ。
「私の方で調べます。剣持警部は週末のご予定が……」
雪峯の申し出は、実に有り難い。剣持はこの時期、どうしても人形島へ行かなければならない。
「そう……だな、頼む。雪峯、くれぐれも……課長には」
「……心得ています」
課長の席をコッソリと盗み見ながら、雪峯へ頼む。彼女はそそくさと廊下へ飛び出して行った。
頼れる部下に成長したと涙ぐみながら、ひとつ思い出す。
金田老はあくまでも継父、にいみによく似た実の父親もまたスタントマンであった。
『親父』とは、そちらを指している可能性がある。例え、本件と関係なくても確かめねばならない。
長年、培った刑事の勘が告げている――。
志月「志月だ。俺が監督していりゃあ、百太から連絡が来てくれるかと期待したが……トラブル多くね? あの女は勝手に事故って降板するし、玲香ちゃんはマネージャーに誘拐されるし……本当に黒霊の『呪い』かもなあ。さて、次回は『劇場版-黒霊ホテルの撮影裏』!! ん? ……あの後ろ姿……にいみか!」
捜査一課・課長
明智警部の事件簿に登場、ずっと眉間にシワを寄せるタイプ。基本的、上層部の意見に従う