金田少年の生徒会日誌   作:珍明

148 / 148
Q63の翌日、学園祭前日の出来事。タイトルの事件は、前日の準備中に起こるはずでした


Q44 【瞬間消失の謎】を生徒会に知られるな・前編

 お祭りの日より前の日、そんな諺がある。

 不動高校学園祭も同じであり、生徒諸君の準備する様子は生き生きと輝いている。校内外を問わず、学校関係者が幾度となく事件に巻き込まれた。

 蓄積された鬱憤を晴らす目的もあるだろう。宿泊届申請書の山がそれを物語り、書記と庶務は受理に苛立つ。

 (いち)も演劇部とD組の催し、生徒会執行部と風紀委員会の連携による校内巡回、神経細胞がオーバーヒートしそうだ。

 校舎は垂れ幕やポスターに彩られ、校門には来校者を歓迎するアーチの設置完了。飲食の出店はテントを張り、試し焼きの為に香ばしい匂いを漂わせた。

 明日の日曜日を待たずして、本番の気分に浸れた。

 そこへ七瀬(ななせ)は生徒会室に面倒事……サプライズを持ち込んだ。

 

「……今、何と言いましたか?」

「だから、玲香ちゃんよ。速水 玲香ちゃんっ。お忍びで、学園祭に来てくれるの。あ、明日だけね。本当は内緒なんだけど、生徒会の皆には伝えておこうと思って」

 

 ニコニコ笑顔の七瀬が、憎たらしい。

 そう思っているのは、(いち)だけではない。元副会長のピリピリとした威圧感に、室内は執行部顧問も含めて全員沈黙。

 

「美雪ちゃん……今の状況じゃあ、マズイんじゃない? アイドルがお忍びで来るって……」

「秋絵ちゃん、どうして? 玲香ちゃんはスケジュール的にも大丈夫だって、言ってくれたわ」

 

 秋絵(あきえ)が遠慮がちに言葉を選ぶも、七瀬はキョトンと皆の顔を見渡す。そちらのスケジュールより、こちらの心情を気にかけて欲しい。

 

「俺も、反対の理由……分かんなくて、説明してもらえたら……。つ~か、七瀬さん……アイドルと知り合いって純粋にスゴクね?」

「あたしと言うより、はじめちゃん。玲香ちゃんに学園祭があるって話してくれたの」

 

 恐る恐る村上(むらかみ)がそ~っと手を挙げる。更に場を和ませようと、疑問と言う名の話題を振った。

 七瀬の返事に事情を知らぬ者は半信半疑、余計に空気は濁る。

 

「しゃ~ないっスね、ここは新生会長の海峰がご説明をば。昨今、不動高校は近隣にお住まいの皆様から不安の声を頂いております。そこに来ての……ドキ☆学園祭にアイドル歌手がやってきた! 良いと思いますよ」

「……でしょう?」

 

 得意げに席を立ち、海峰(かいほう)はにこやかに指先でシャーペンをクルクルと弄び。七瀬が首を傾げれば、元会計は「普段ならね」と呟いた。

 

「さっき……校長から聞いたばっかりなんスけど、明日またTVカメラが取材に来てくれます。玲香ちゃんは年末、春、つい先日も事件に巻き込まれてるんス。お忍びがバレたら、学園祭どころじゃあなくなりますよ」

 

 海峰の真剣な表情は、鍵盤へ指を這わせる緊迫感があった。

 TV局来校は初耳だが、(いち)の心情は後者に近い。

 学園祭は生徒の活躍する場、今を(とき)めく人気アイドル歌手がいては添え物にされてしまう。

 流石の日和見主義な執行部顧問もやれやれと頭を掻き、「今回は、外部から参加してくれる方々いる。それを忘れるな」と教師らしく言い放ち、逃げるように退室しやがった。

 

「だ、大丈夫よ。あたしとはじめちゃんで、玲香ちゃんだってバレない様にするから。何なら、ミス研の皆にも協力してもらうわ。部長の権限あるもん」

「じゃあ、村上も頑張らないと……俺の方で来賓者受付の当番は引き受けるから、七瀬さんを手伝ってやってくれ」

「……お、おう。そうか……サンキュー、千家(アイドルを間近で見れて、嬉しいような……複雑)」

 

 非難的な視線を受けても、七瀬は負けずに対策を提案した。

 千家(せんけ)がさらりと協力的な姿勢を見せ、村上は己に負担が来ると今頃、気付いた。

 と言うか、七瀬の部活動及び、執行部の当番にも影響が出る。イラッとした。

 

「そこまでおっしゃるなら……分かりました。七瀬さんは募金活動でしたね、自分が引き受けましょう」

「金田君……」

 

 (いち)は席を立ちながら、生徒手帳へ書き込んだ学園祭の予定表を見やる。七瀬の感謝を込めた声は、ある種の引き金だった。

 

「但し、問題が起きたら……ミス研は学園祭の日付を以て、廃部にしますっ」

 

 冗談扱いされぬ様、七瀬から視線を外さない。彼女は事の重大さに目を丸くし、あんぐりと口を開けていた。

 

「生徒会長として、認めま~す」

「ええ!?」

 

 (いち)の本気を汲み取り、海峰は明るく宣言してくれる。剽軽な態度はこれ以上、場の雰囲気を深刻にしない為だ。元副会長も「異議なし」と同意した。

 誰も反対意見を出さないまま、本日の業務終了。

 

「はじめちゃ~ん!」

「七瀬さん、鞄! 鞄、忘れてるって!」

 

 七瀬は血相を変え、戸締りもせずに廊下へダッシュ。村上も彼女の分の通学鞄を持ち、追いかけて行った。

 狙い済ましたように、ミス研では『ホームズの孫』のよる怪奇文書が発見されたらしいが、生徒会にその報告は上がらなかった。

 

「秋絵さんが反対しなかったのは……意外でした」

「そう? あたし、結構……金田君寄りだと思うよ。ねえ、庶務……あれ……いない?

 

 (いち)が窓の鍵を閉めながら、隣にいる秋絵へ何気なく声を掛ける。彼女は普段通りに明るく答え、後ろを振り返ったが、本当に誰もいない。足音もなく、あまりの早業にギョッとした。

 鍵の返却を押し付けられた気分で、(いち)は秋絵と廊下を歩く。彼女も先に帰ってよいはずが、一緒に来てくれた。ちょっと嬉しい。

 

「……金田君、学園祭のコト……なんだけど!」

「はい……」

か~ね~だ~ク~ン♪

 

 秋絵は俯き加減に手をモジモジさせ、大きめの声で呼んでくる。(いち)の返事は甘ったるい呼び声に、掻き消された。

 

「学園祭、一緒にぃ~……キャッ!!

 

 (いち)が声の方角へ振り返ったものの、そこには誰の姿もなし。廊下を飛び跳ねる足音、確かに聞こえたのだ。

 

「今、宗像先輩の声が……」

「金田君、気のせいよ。それか……チア部の掛け声が偶々、金田君を呼んでいる様に聞こえたとか?」

 

 あの声は3年4組・宗像(むなかた) さつき先輩に間違いないが、秋絵の推測はあり得る。チア部の声量ならば、校庭からでも校舎内に声は届く。きっとその通りだろう。

 

「そ……それで、金田君……学園祭……」

金田く~ん! キミって奴は全く!! ミス研廃部とはどういう……ゴフッ!!

 

 深呼吸した秋絵は言いかけたが、3年3組・真壁(まかべ) (まこと)先輩の喚き声に邪魔される。それも直後、フワッと消えた。

 学園祭準備に浮かれているにしても、何かおかしい。声のあった方角を凝視すれば、秋絵に腕を掴まれた。

 

「金田君。あたしと明後日、学園祭を回りましょう! ふ……2人でっ

「……それは……」

 

 張り上げたつもりが、掠れてしまった声。可憐な頬を真っ赤に染め、指先まで震えた手。

 自惚れでなければ、ロマンスの神様どうもありがとう。そう言う展開だ。

 兆候を考えるなら、やはり秋絵呼びをした夏休みだろうか? 金田祖父の指摘通り、下の名前で呼ぶのは特別感を抱かせる。

 そもそも、秋絵の想い人は別にいたはず。

 自分なんか、彼女の学園祭パートナーに相応しくない。しかし、こうして声をかけた勇気を無下にするなど失礼千万。

 ――(遠野先輩)はきっと、許してくれる。

 無駄な自問自答を0.1秒の間に済ませ、(いち)は静かに息を吸う。自分の腕にある秋絵の可憐な手を、そっと握りしめた。

 

 

「喜んで、秋絵さん」

「……っ、うんっ」

 

 緊張に声は震えず、しっかりと誘われた感謝を込める。秋絵は耳まで真っ赤に染まり、返事を喜んでくれた。その鼓動が手を通して、お互いの神経を繋げた心地だ。

 (いち)の感覚は研ぎ澄まされ、秋絵のまつ毛の細さ、瞳孔の揺らぎ、髪の毛まで意識してしまう。

 

離せぇ~!! 金田先輩の青春メモリーを間近で、撮るんだぁ~!!

(お前、ちっとはデリカシー持てや!!)

 

 廊下の曲がり角から、無音の煩い気配を感じた。

 

「秋絵さん、ご自宅まで……送ります。演劇部が終わるまで、待っていてもらえますか?」

「……うん、うん」

 

 聴覚的に騒がしくなる前に、待ち合わせをして解散。胸の高鳴りを静め、(いち)はさっと校舎を走り抜けた。

 

 行先は教職員専用駐車場。

 昨日付で退職、本日は最後の挨拶回りとなる教師がいる。ちょうど、車のトランクへ荷物を積んでいた。

 

「中津川先生!」

「金田君、どうしたの? そんなに慌ててぇ~」

 

 (いち)の呼び掛けに応え、中津川(なかつがわ)先生はのんびりと振り返ってくれた。

 失礼の無い様に、呼吸を整える。糸目は不思議そうに垂れ下がり、絵の具に汚れた手はそのまま。傍から見れば、普段通りの退勤だろう。

 明日の学園祭にも、顔を出さないなど信じられない。

 

「……中津川先生、お疲れ様でした」

「……ああ、そっか……。……ありがとう、わざわざ……」

 

 (いち)の挨拶が意外だったらしく、中津川先生は困ったように眉間へシワを寄せる。学園祭の準備に、はしゃぐ人々の声は彼への見送りBGMに聞こえてきた。

 

「昨日もね、美術部の皆から……花束を貰ったんだ~。あ、花を催促してるんじゃないよ? ホント、嬉しくて……」

「分かっています。次のお仕事はどちらに?」

 

 お互い、花を贈る関係ではない。少しの後悔はあったが、言葉のみに留めた。

 

「それが、中々……。そんなコトより、あの絵! 美術準備室に置いてあるよ~。校長が、残していいってさ……いつでも、見てくれ。僕の代わりにっ」

 

 中津川先生は転職活動が難航しているらしく、話題をすり替える。

 彼が丹精込めて仕上げた『ミロのヴィーナス』。完成した嬉しさは一瞬だけ、去って行く者からの餞別に胸が痛んだ。

 

「……中津川先生こそ、いつでも……学校へ遊びに来てくださいね」

 

 返事は、もらえなかった。

 下駄箱にて、ため息を吐く。上靴へ履き替えながら、中津川先生との別れを惜しむ。

 

「金田センパイ、そんなに感情を浮き沈みさせて……ドMですか?」

「……竜二君。中津川先生の再就職先に伝手、何かありませんか?」

 

 ハンディカムを持つ中学生にツッコまず、質問を投げる。彼は首を横に振るのみ。

 

 午後は演劇部の稽古。

 

「布施君。今月の泉鏡花演劇祭、写真部の3年生も何人か連れて行くわ。あちらに写真撮影を任せたから、有森君と一緒にメンバーの確認をお願い」

「……分かりました。有森、行けるか? (六野君でありますように)」

「はい(美人で評判の六野先輩が良いな)」

 

 緒方(おがた)先生に指示され、布施(ふせ)先輩と有森(ありもり)は写真部へ直行。真面目な顔付きの彼らから、下心が見えたのは何故だろう。

 泉鏡花演劇祭だけでなく、面打ち師にも会える。(いち)には、それで十分だ。

 

(辻口先生へのお土産、どうしよう? 東京バナナ? お泊まりじゃないから、あんまり大袈裟にしたら……)

 

 遠い金沢の地から「要らんよ~」という声が聞こえた気もする。

 

「金田君、七瀬さんが明日の本番は来ないそうよ。ミス研の方が忙しいとは言っていたけれども、何かご存知?」

「ハジメちゃんがご存知です」

 

 緒方先生に問われ、(いち)は全力の愛想笑い。彼女も慣れたモノで、それ以上の質問はなかった。

 

 下校時、秋絵を自宅へ送る。バイクの2人乗り、彼女のしなやかな手は否応なしに触れてくる。そこだけ、燃えるような熱さを感じた。エンジン音より、心臓の音が騒がしくて、速度が狂いかけた。

 バイト先は片倉とマジックショーの打ち合わせ、帰宅後はD組の学園祭実行委員へ電話連絡。休む暇がなく、ゲンナリ。

 風呂も入り、後は就寝のみ。

 余裕の出来たタイミングで、ハジメがひょっこりと参上。彼の手にあるお泊りセット、目的を察して追い返そうと思ったが、金田祖父母は大歓迎と招き入れた。

 抱き枕にして、寝てやる。

 

「ミス研も宿泊届を提出していましたが、準備は万全ですか?」

「3年だけが、残ってんだよ。鷹島先輩は帰ったけど……。明日の朝一に集合して、完成の流れだ。しかしよお……らしくねえなあ、金田。美雪を廃部で脅すなんてよ。ケケケッ

「……ハジメちゃん、愉しんでいます?」

「まあな、桜樹先輩も『最初の試練ね』って大笑いしてたぜ。大体、ミス研なんていかがわしいクラブ。美雪が部長やるこたあねんだよ」

 

 ハジメ曰く、ミス研の部室は七瀬と真壁先輩だけが廃部の危機に騒ぎ。他は、有名人のお忍び情報に盛り上がったらしい。人数も増え、存続の危機感が欠如している。

 

「玲香ちゃんが学校に来るのって、俺が頼んだんだ。中学ン時の友達に、会わせたくて……」

「お友達? ……ハジメちゃんにしては、珍しいですね」

 

 ハジメは深刻な表情になり、理由を語り出す。彼はどれだけの人脈があろうとも、同級生や友達に自慢しない。引き合わせるなど、余程の事情だろう。

 

「社 冬美って奴でな。夏の演劇コンクール……ああいうの、別の日に放送やってんだろ? それで、お前のクリスティーンに惚れちまって……不動高校へ転校したいんだとっ」

「命知らずな方ですね」

 

 木造の建物を背景に雪の降る中、ポリバケツを囲んだ中学生の男女8人。彼らとの集合写真を布団の上へ置き、ハジメは眼鏡でお下げの少女を指差した。

 その友人はタレント志望の為、元々高卒を機に上京する予定だったそうだ。

 正式な手続きを踏む前に、不動高校を見学したい。そこまでの決意に感銘を受け、ハジメは一肌脱ごうとプロを呼んだ。話を纏めると大体、こんな感じだ。

 遠方の秋田県に知人がいるなど、どこまでも顔が広い名探偵の孫。ツッコミどころ満載の為、要点だけに着目した。

 

「……余計なお世話では、ありませんか?」

「ハッキリ言うなよ。冬美の奴、地元の祭りのミス桜雪祭に選ばれて……電話越しでも、な~んか芸能界を甘く見てる気がしてな」

 

 憂いを帯びた眼差しは、現在(ここ)ではない過去(現場)を見ている。

 

「あそこは、生半可な気持ちで生きていける場所じゃねえしな。俺に出来る事は、やっておきたいんだ」

 

 友達の夢を壊したくない。でも、危険な目に遭わせたくない。

 ハジメは意外にも、心配性だ。その優しさは当人に伝わっていると、願おう。

 

「ハジメちゃんは七瀬さん以外、放任主義だと思っていました」

「美雪以外は余計だっ。それとマジな話……金田は、玲香ちゃんに会わないつもりか? 箱根の時も、避けてたろ」

 

 ちょっとからかえば、痛い所を衝かれた。

 大騒ぎの中、意図的に避けていた部分もある。流石、ハジメ。そのジト目は伊達ではない。

 

「自分は、会いたくありません。ハジメちゃんを盗られた気分になります。どうしても、妬いてしまうのです」

「おめえなあ、……分かったよ」

 

 本心を伝えれば、ハジメは複雑そうに頭をガリガリと掻きだす。否定せず、こちらの意思を尊重してくれた。

 お人好しにも程がある。聖人過ぎて、悪用されないか心配だ。

 

「その代わりじゃねえが、冬美には会ってくれ」

「……それは、はい。演劇部は午後から、体育館で舞台があります。そちらへお越し頂けたら……」

 

 よくよく考えれば、遠方の友達に利用されている。写真を仕舞う彼はもう、手遅れ。せめて、相手を値踏みさせてもらおうと決めた。

 

「んじゃあ、次は本題♪ お前さ……秋絵と学園祭、回るんだってぇ~? このこの色男♪

「!? ……耳が早いですね、ハジメちゃん

 

 これまでの話は只の前置き、ハジメは世話焼きジジイが如く両手の拳で口元を隠す。大きな瞳を半月にさせ、ニヤついた笑み。

 ゾワッと背筋が凍り付いたかと思えば、耳の後ろが熱い。羞恥心に体温の調整が追い付かず、(いち)は咄嗟に口元を覆った。

 

「お~ん? 照れてんの? 照れちゃってんの~? グフフ……いや~ポーカーフェイス気取りの金田クンが恋とは、青春ですな~♪」

「恋……」

 

 お調子者から弾ける笑顔を向けられ、ふと眼鏡を掛けた彼女(和泉 さくら)が脳裏を掠める。あれは決して、恋じゃない。

 

「ハジメちゃんの恋は、実るのですか?」

「……へ? 俺は……色恋沙汰なんて……柄じゃねえしぃ~。それを言うなら、千家。5組の出し物、犬のふれあい広場だろ。そこに例の彼女を呼ぶんだってさ~、ドッグトレーナーだからよ」

 

 己の話になれば、ハジメの視線はぎこちなく窓を向く。カーテンは閉まっており、夜空は見えない。

 予想通りの反応、皮肉も出やしない。

 

「これだから、ハジメちゃんは一生童貞なのですよ」

「!? また言いやがったな、それ! 俺だってな、37歳くらいには親になってるわ!

「七瀬さんのお子さんと、養子縁組される予定でも?」

「美雪……子は、……がぁ~!!

 

 (いち)は生温かい眼差しを向け、純粋な感想を伝えた。

 狼狽しながら、ハジメが本性丸出しに布団で悶絶する。実に面白く、竜太を呼べばよかったかもしれない。だが、今夜は心のアルバムへ仕舞い込む。自分だけの思い出、優越感に浸った

 

「お手洗いへ行きます。ハジメちゃん、何か飲み物は要りますか?」

「コーラ」

 

 炭酸飲料はない為、牛乳にしよう。

 

 携帯電話をトイレへ持ち込むのは、衛生的に好かない。しかし、今はここしか内緒話出来ないのだ。

 いくつかのコール音が鳴り、相手は電話を取った。

 

〈……うるさいぞ、(いち)

「残間、お願いがあります。鷲尾さんと連絡を取って下さい」

 

 電話向こうの父・残間(ざんま)は、眠そうな気配を隠さない。(いち)は挨拶を抜きに本題へ入った。

 

〈……なんで?〉

「自分の学校にいた……中津川先生を紹介して欲しいのです」

 

 予想外の用件だったらしく、残間の困惑がありありと伝わってくる。(いち)の順序立てた説明を聞き終えても、その様子は変わらなかった。

 

〈……余計なお世話だろう? 中津川先生が、ご自分から鷲尾さんを頼るならまだしも……〉

「はい、自分のお節介です。……それでも、中津川先生には絵を描き続けて欲しいのです」

 

 中津川先生が二度と不動高校の教壇へ立たないなら、美術界への道を歩んで欲しい。彼はそもそも、人に教える立場ではなく、キャンパスへ向かうべき人間だ。

 商売敵の多い業界、成功する保証はない。

 危険な目に遭うかもしれないが、キッカケは与えたい。

 これは、自分の我が儘だ。

 

「お願いします、父さん。中津川先生に、鷲尾さんを頼らせてください」

 

 その為なら、心にもない呼称を口にしよう。胃の竦みも、吐き気も堪えよう。

 

〈……父さん(・・・・)か……、心にもないな。……北見さんに免じて、叶えてやろう。あまり、期待するなよ〉

「……ありがとうございます(バレテて~ら)」

 

 声だけでも見抜かれた本心、残間はそこを責めずにため息ひとつ。言い訳に出てきた名前は、遠回しに函館の事件について知った。そう、伝えてきたのだ。

 (いち)がどんな事件に巻き込まれようが、何の興味もない男だ。心から、感謝はしておこう。

 

〈それと……今週、明智さんから連絡来たか?〉

「? ……いいえ、自分の方にはありません」

〈そうか……ならいい、にいみを頼んだぞ……プッ

(え~……気になるトコで、切りやがった……)

 

 急に話題を変えたと思いきや、挨拶なしに切られた。

 こちらがやろうと思っていた手前、先を越されてイラッとする。

 このムカつきを洗い流そうと手を洗い、タオルで拭いてから廊下へ出た。

 

「なっげえ便所やんけ」

 

 ハジメが毛布に体を包み、廊下に佇んでいた。座敷童の如き、可愛らしさ。

 

「ハジメちゃん、独りで淋しかったですか?」

「ちゃうわい、秋絵にラブコールしてんのと思っただけです~。紛らわしいんだよ、つまんねえ」

 

 盗み聞きを隠さないのは、彼なりの誠意だ。どの部分を聞いたか、詮索しない。

 

「朝木さんのお嬢さんにラブコールやと!?」

(いち)っ、どっちが告白したの!?」

「「!?」」

 

 暗がりに潜むのは、金田祖父母のシワだらけの形相。男子高校生2人を本気で、ビビらせた。

 その拍子にハジメが毛布の裾を踏んでしまい、廊下へ転んだのはお約束である。




京谷「京谷です。閲覧ありがとうございます。へえ、明日はアイドルが来るんだ……フフフ。さて、次回は『【瞬間消失の謎】を生徒会に知られるな・中編』!! さあ、覚悟してください!! 金田一先輩!! あ、言っちゃった」

真壁 誠
新部長を美雪に託しても、部に居座る。心配してんのかな? 学園祭中、出版社の人とのご挨拶で忙しかったらしい

新生徒会幹部
会長・海峰、副会長・千家、会計オリ主、書記と庶務は継続

元副会長、元会計は引退時期だが、ギリギリまで手伝ってくれている
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

平行線機能不全(作者:キユ)(原作:金田一少年の事件簿)

 自分のあずかり知らぬところで金田一一を殺されてしまった高遠遙一が、逆行転生したので「今回こそは」と会いに行ったら、なぜか平行線が女の子になっていて相手への感情を盛大に拗らせる話。▼ あるいは、過去の記憶を頼りに事件の芽を摘んでいるのに、なんだかんだと別の事件に巻き込まれてしまう金田一一の物語。


総合評価:238/評価:8.71/連載:48話/更新日時:2026年06月06日(土) 20:00 小説情報

殺人鬼達に救われる道はあるのか?(作者:コミカド)(原作:金田一少年の事件簿)

「罪を犯したモノは、その罪を償わない限り本当の幸せは得られない」▼「人の命を奪った者は、その十字架を生涯を掛けて背負わなければならない」▼「弁護士にとっての最大の使命は、罪を犯した者を心から反省させ、再び立ち上がれるように後押しする事である」▼そんな信念を持った弁護士が様々な『事件簿』に関わっていき、救われぬ悲劇に僅かな希望を掴もうと奔走する物語。▼金田一と…


総合評価:1497/評価:8.8/連載:32話/更新日時:2026年03月13日(金) 12:00 小説情報

小城探偵事務所(作者:無月)(原作:金田一少年の事件簿)

コンビニも、ゲームも、風呂もトイレもある。食事だって慣れた物だし、人種だって変わらない。▼けれど、けして安全とは言い難い世界。しかも、転生先は犯人です。▼でも、まずはお礼が言いたい。▼「コナンワールドじゃなくてありがとう! 神様!!」▼同じ推理物なら無差別に殺される可能性があり、銃刀法が欠片も仕事してないあの世界よりは大分マシ。▼なんか物理法則とか、一部化学…


総合評価:7046/評価:8.84/連載:58話/更新日時:2026年06月28日(日) 19:23 小説情報

厚い事件簿を薄くしたい(作者:あきゅおす)(原作:金田一少年の事件簿)

 二度目の人生を過ごしてきた男が巻き込まれた事件によって転生したのが『金田一少年の事件簿』の世界ということを認識してどうにかやっていくお話。▼※最初の1話以外は思いついたものから書いていますので、時系列がいきなり飛んだり戻ったりしています。なので、唐突に原作キャラと仲良くなったり、逆に知り合いじゃなかったりしますのでご了承くださいorz▼2022/3/27▼…


総合評価:4207/評価:8.42/短編:13話/更新日時:2022年03月27日(日) 04:47 小説情報

高遠遙一は、地獄の傀儡師となりえるのか(作者:wisterina)(原作:金田一少年の事件簿)

高遠遙一。金田一一のライバルにして、別名『地獄の傀儡師』と呼ばれる犯罪コーディネーターはどこで道を違えたのだろうか。▼最初の脱獄をした時か?魔術列車殺人事件の時か?彼が唯一尊敬するマジシャン近宮玲子が亡くなった時か?▼いやもっと前、高遠遙一が高校生の時。高遠が近宮玲子に似ていると評した彼女が、とある狂人によって殺されたときに狂い始めたのだろう。▼これは彼女―…


総合評価:1090/評価:8.64/完結:19話/更新日時:2026年02月02日(月) 07:25 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>