金田少年の生徒会日誌   作:珍明

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Q43の翌日、学園祭前日の出来事。タイトルの事件は、前日の準備中に起こるはずでした


Q44 【瞬間消失の謎】を生徒会に知られるな・前編

 お祭りの日より前の日、そんな諺がある。

 不動高校学園祭も同じであり、生徒諸君の準備する様子は生き生きと輝いている。校内外を問わず、学校関係者が幾度となく事件に巻き込まれた。

 蓄積された鬱憤を晴らす目的もあるだろう。宿泊届申請書の山がそれを物語り、書記と庶務は受理に苛立つ。

 (いち)も演劇部とD組の催し、生徒会執行部と風紀委員会の連携による校内巡回、神経細胞がオーバーヒートしそうだ。

 校舎は垂れ幕やポスターに彩られ、校門には来校者を歓迎するアーチの設置完了。飲食の出店はテントを張り、試し焼きの為に香ばしい匂いを漂わせた。

 明日の日曜日を待たずして、本番の気分に浸れた。

 そこへ七瀬(ななせ)は生徒会室に面倒事……サプライズを持ち込んだ。

 

「……今、何と言いましたか?」

「だから、玲香ちゃんよ。速水 玲香ちゃんっ。お忍びで、学園祭に来てくれるの。あ、明日だけね。本当は内緒なんだけど、生徒会の皆には伝えておこうと思って」

 

 ニコニコ笑顔の七瀬が、憎たらしい。

 そう思っているのは、(いち)だけではない。元副会長のピリピリとした威圧感に、室内は執行部顧問も含めて全員沈黙。

 

「美雪ちゃん……今の状況じゃあ、マズイんじゃない? アイドルがお忍びで来るって……」

「秋絵ちゃん、どうして? 玲香ちゃんはスケジュール的にも大丈夫だって、言ってくれたわ」

 

 秋絵(あきえ)が遠慮がちに言葉を選ぶも、七瀬はキョトンと皆の顔を見渡す。そちらのスケジュールより、こちらの心情を気にかけて欲しい。

 

「俺も、反対の理由……分かんなくて、説明してもらえたら……。つ~か、七瀬さん……アイドルと知り合いって純粋にスゴクね?」

「あたしと言うより、はじめちゃん。玲香ちゃんに学園祭があるって話してくれたの」

 

 恐る恐る村上(むらかみ)がそ~っと手を挙げる。更に場を和ませようと、疑問と言う名の話題を振った。

 七瀬の返事に事情を知らぬ者は半信半疑、余計に空気は濁る。

 

「しゃ~ないっスね、ここは新生会長の海峰がご説明をば。昨今、不動高校は近隣にお住まいの皆様から不安の声を頂いております。そこに来ての……ドキ☆学園祭にアイドル歌手がやってきた! 良いと思いますよ」

「……でしょう?」

 

 得意げに席を立ち、海峰(かいほう)はにこやかに指先でシャーペンをクルクルと弄び。七瀬が首を傾げれば、元会計は「普段ならね」と呟いた。

 

「さっき……校長から聞いたばっかりなんスけど、明日またTVカメラが取材に来てくれます。玲香ちゃんは年末、春、つい先日も事件に巻き込まれてるんス。お忍びがバレたら、学園祭どころじゃあなくなりますよ」

 

 海峰の真剣な表情は、鍵盤へ指を這わせる緊迫感があった。

 TV局来校は初耳だが、(いち)の心情は後者に近い。

 学園祭は生徒の活躍する場、今を(とき)めく人気アイドル歌手がいては添え物にされてしまう。

 流石の日和見主義な執行部顧問もやれやれと頭を掻き、「今回は、外部から参加してくれる方々いる。それを忘れるな」と教師らしく言い放ち、逃げるように退室しやがった。

 

「だ、大丈夫よ。あたしとはじめちゃんで、玲香ちゃんだってバレない様にするから。何なら、ミス研の皆にも協力してもらうわ。部長の権限あるもん」

「じゃあ、村上も頑張らないと……俺の方で来賓者受付の当番は引き受けるから、七瀬さんを手伝ってやってくれ」

「……お、おう。そうか……サンキュー、千家(アイドルを間近で見れて、嬉しいような……複雑)」

 

 非難的な視線を受けても、七瀬は負けずに対策を提案した。

 千家(せんけ)がさらりと協力的な姿勢を見せ、村上は己に負担が来ると今頃、気付いた。

 と言うか、七瀬の部活動及び、執行部の当番にも影響が出る。イラッとした。

 

「そこまでおっしゃるなら……分かりました。七瀬さんは募金活動でしたね、自分が引き受けましょう」

「金田君……」

 

 (いち)は席を立ちながら、生徒手帳へ書き込んだ学園祭の予定表を見やる。七瀬の感謝を込めた声は、ある種の引き金だった。

 

「但し、問題が起きたら……ミス研は学園祭の日付を以て、廃部にしますっ」

 

 冗談扱いされぬ様、七瀬から視線を外さない。彼女は事の重大さに目を丸くし、あんぐりと口を開けていた。

 

「生徒会長として、認めま~す」

ええ!?

 

 (いち)の本気を汲み取り、海峰は明るく宣言してくれる。剽軽な態度はこれ以上、場の雰囲気を深刻にしない為だ。元副会長も「異議なし」と同意した。

 誰も反対意見を出さないまま、本日の業務終了。

 

「はじめちゃ~ん!」

「七瀬さん、鞄! 鞄、忘れてるって!」

 

 七瀬は血相を変え、戸締りもせずに廊下へダッシュ。村上も彼女の分の通学鞄を持ち、追いかけて行った。

 狙い済ましたように、ミス研では『ホームズの孫』のよる怪奇文書が発見されたらしいが、生徒会にその報告は上がらなかった。

 

「秋絵さんが反対しなかったのは……意外でした」

「そう? あたし、結構……金田君寄りだと思うよ。ねえ、庶務……あれ……いない?

 

 (いち)が窓の鍵を閉めながら、隣にいる秋絵へ何気なく声を掛ける。彼女は普段通りに明るく答え、後ろを振り返ったが、本当に誰もいない。足音もなく、あまりの早業にギョッとした。

 鍵の返却を押し付けられた気分で、(いち)は秋絵と廊下を歩く。彼女も先に帰ってよいはずが、一緒に来てくれた。ちょっと嬉しい。

 

「……金田君、学園祭のコト……なんだけど!」

「はい……」

か~ね~だ~ク~ン♪

 

 秋絵は俯き加減に手をモジモジさせ、大きめの声で呼んでくる。(いち)の返事は甘ったるい呼び声に、掻き消された。

 

「学園祭、一緒にぃ~……キャッ!!

 

 (いち)が声の方角へ振り返ったものの、そこには誰の姿もなし。廊下を飛び跳ねる足音、確かに聞こえたのだ。

 

「今、宗像先輩の声が……」

「金田君、気のせいよ。それか……チア部の掛け声が偶々、金田君を呼んでいる様に聞こえたとか?」

 

 あの声は3年4組・宗像(むなかた) さつき先輩に間違いないが、秋絵の推測はあり得る。チア部の声量ならば、校庭からでも校舎内に声は届く。きっとその通りだろう。

 

「そ……それで、金田君……学園祭……」

金田く~ん! キミって奴は全く!! ミス研廃部とはどういう……ゴフッ!!

 

 深呼吸した秋絵は言いかけたが、3年3組・真壁(まかべ) (まこと)先輩の喚き声に邪魔される。それも直後、フワッと消えた。

 学園祭準備に浮かれているにしても、何かおかしい。声のあった方角を凝視すれば、秋絵に腕を掴まれた。

 

「金田君。あたしと明後日、学園祭を回りましょう! ふ……2人でっ

「……それは……」

 

 張り上げたつもりが、掠れてしまった声。可憐な頬を真っ赤に染め、指先まで震えた手。

 自惚れでなければ、ロマンスの神様どうもありがとう。そう言う展開だ。

 兆候を考えるなら、やはり秋絵呼びをした夏休みだろうか? 金田祖父の指摘通り、下の名前で呼ぶのは特別感を抱かせる。

 そもそも、秋絵の想い人は別にいたはず。

 自分なんか、彼女の学園祭パートナーに相応しくない。しかし、こうして声をかけた勇気を無下にするなど失礼千万。

 ――(遠野先輩)はきっと、許してくれる。

 無駄な自問自答を0.1秒の間に済ませ、(いち)は静かに息を吸う。自分の腕にある秋絵の可憐な手を、そっと握りしめた。

 

 

「喜んで、秋絵さん」

「……っ、うんっ」

 

 緊張に声は震えず、しっかりと誘われた感謝を込める。秋絵は耳まで真っ赤に染まり、返事を喜んでくれた。その鼓動が手を通して、お互いの神経を繋げた心地だ。

 (いち)の感覚は研ぎ澄まされ、秋絵のまつ毛の細さ、瞳孔の揺らぎ、髪の毛まで意識してしまう。

 

離せぇ~!! 金田先輩の青春メモリーを間近で、撮るんだぁ~!!

(お前、ちっとはデリカシー持てや!!)

 

 廊下の曲がり角から、無音の煩い気配を感じた。

 

「秋絵さん、ご自宅まで……送ります。演劇部が終わるまで、待っていてもらえますか?」

「……うん、うん」

 

 聴覚的に騒がしくなる前に、待ち合わせをして解散。胸の高鳴りを静め、(いち)はさっと校舎を走り抜けた。

 

 行先は教職員専用駐車場。

 昨日付で退職、本日は最後の挨拶回りとなる教師がいる。ちょうど、車のトランクへ荷物を積んでいた。

 

「中津川先生!」

「金田君、どうしたの? そんなに慌ててぇ~」

 

 (いち)の呼び掛けに応え、中津川(なかつがわ)先生はのんびりと振り返ってくれた。

 失礼の無い様に、呼吸を整える。糸目は不思議そうに垂れ下がり、絵の具に汚れた手はそのまま。傍から見れば、普段通りの退勤だろう。

 明日の学園祭にも、顔を出さないなど信じられない。

 

「……中津川先生、お疲れ様でした」

「……ああ、そっか……。……ありがとう、わざわざ……」

 

 (いち)の挨拶が意外だったらしく、中津川先生は困ったように眉間へシワを寄せる。学園祭の準備に、はしゃぐ人々の声は彼への見送りBGMに聞こえてきた。

 

「昨日もね、美術部の皆から……花束を貰ったんだ~。あ、花を催促してるんじゃないよ? ホント、嬉しくて……」

「分かっています。次のお仕事はどちらに?」

 

 お互い、花を贈る関係ではない。少しの後悔はあったが、言葉のみに留めた。

 

「それが、中々……。そんなコトより、あの絵! 美術準備室に置いてあるよ~。校長が、残していいってさ……いつでも、見てくれ。僕の代わりにっ」

 

 中津川先生は転職活動が難航しているらしく、話題をすり替える。

 彼が丹精込めて仕上げた『ミロのヴィーナス』。完成した嬉しさは一瞬だけ、去って行く者からの餞別に胸が痛んだ。

 

「……中津川先生こそ、いつでも……学校へ遊びに来てくださいね」

 

 返事は、もらえなかった。

 下駄箱にて、ため息を吐く。上靴へ履き替えながら、中津川先生との別れを惜しむ。

 

「金田センパイ、そんなに感情を浮き沈みさせて……ドMですか?」

「……竜二君。中津川先生の再就職先に伝手、何かありませんか?」

 

 ハンディカムを持つ中学生にツッコまず、質問を投げる。彼は首を横に振るのみ。

 

 午後は演劇部の稽古。

 

「布施君。今月の泉鏡花演劇祭、写真部の3年生も何人か連れて行くわ。あちらに写真撮影を任せたから、有森君と一緒にメンバーの確認をお願い」

「……分かりました。有森、行けるか? (六野君でありますように)」

「はい(美人で評判の六野先輩が良いな)」

 

 緒方(おがた)先生に指示され、布施(ふせ)先輩と有森(ありもり)は写真部へ直行。真面目な顔付きの彼らから、下心が見えたのは何故だろう。

 泉鏡花演劇祭だけでなく、面打ち師にも会える。(いち)には、それで十分だ。

 

(辻口先生へのお土産、どうしよう? 東京バナナ? お泊まりじゃないから、あんまり大袈裟にしたら……)

 

 遠い金沢の地から「要らんよ~」という声が聞こえた気もする。

 

「金田君、七瀬さんが明日の本番は来ないそうよ。ミス研の方が忙しいとは言っていたけれども、何かご存知?」

「ハジメちゃんがご存知です」

 

 緒方先生に問われ、(いち)は全力の愛想笑い。彼女も慣れたモノで、それ以上の質問はなかった。

 

 下校時、秋絵を自宅へ送る。バイクの2人乗り、彼女のしなやかな手は否応なしに触れてくる。そこだけ、燃えるような熱さを感じた。エンジン音より、心臓の音が騒がしくて、速度が狂いかけた。

 バイト先は片倉とマジックショーの打ち合わせ、帰宅後はD組の学園祭実行委員へ電話連絡。休む暇がなく、ゲンナリ。

 風呂も入り、後は就寝のみ。

 余裕の出来たタイミングで、ハジメがひょっこりと参上。彼の手にあるお泊りセット、目的を察して追い返そうと思ったが、金田祖父母は大歓迎と招き入れた。

 抱き枕にして、寝てやる。

 

「ミス研も宿泊届を提出していましたが、準備は万全ですか?」

「3年だけが、残ってんだよ。鷹島先輩は帰ったけど……。明日の朝一に集合して、完成の流れだ。しかしよお……らしくねえなあ、金田。美雪を廃部で脅すなんてよ。ケケケッ

「……ハジメちゃん、愉しんでいます?」

「まあな、桜樹先輩も『最初の試練ね』って大笑いしてたぜ。大体、ミス研なんていかがわしいクラブ。美雪が部長やるこたあねんだよ」

 

 ハジメ曰く、ミス研の部室は七瀬と真壁先輩だけが廃部の危機に騒ぎ。他は、有名人のお忍び情報に盛り上がったらしい。人数も増え、存続の危機感が欠如している。

 

「玲香ちゃんが学校に来るのって、俺が頼んだんだ。中学ン時の友達に、会わせたくて……」

「お友達? ……ハジメちゃんにしては、珍しいですね」

 

 ハジメは深刻な表情になり、理由を語り出す。彼はどれだけの人脈があろうとも、同級生や友達に自慢しない。引き合わせるなど、余程の事情だろう。

 

「社 冬美って奴でな。夏の演劇コンクール……ああいうの、別の日に放送やってんだろ? それで、お前のクリスティーンに惚れちまって……不動高校へ転校したいんだとっ」

「命知らずな方ですね」

 

 木造の建物を背景に雪の降る中、ポリバケツを囲んだ中学生の男女8人。彼らとの集合写真を布団の上へ置き、ハジメは眼鏡でお下げの少女を指差した。

 その友人はタレント志望の為、元々高卒を機に上京する予定だったそうだ。

 正式な手続きを踏む前に、不動高校を見学したい。そこまでの決意に感銘を受け、ハジメは一肌脱ごうとプロを呼んだ。話を纏めると大体、こんな感じだ。

 遠方の秋田県に知人がいるなど、どこまでも顔が広い名探偵の孫。ツッコミどころ満載の為、要点だけに着目した。

 

「……余計なお世話では、ありませんか?」

「ハッキリ言うなよ。冬美の奴、地元の祭りのミス桜雪祭に選ばれて……電話越しでも、な~んか芸能界を甘く見てる気がしてな」

 

 憂いを帯びた眼差しは、現在(ここ)ではない過去(現場)を見ている。

 

「あそこは、生半可な気持ちで生きていける場所じゃねえしな。俺に出来る事は、やっておきたいんだ」

 

 友達の夢を壊したくない。でも、危険な目に遭わせたくない。

 ハジメは意外にも、心配性だ。その優しさは当人に伝わっていると、願おう。

 

「ハジメちゃんは七瀬さん以外、放任主義だと思っていました」

「美雪以外は余計だっ。それとマジな話……金田は、玲香ちゃんに会わないつもりか? 箱根の時も、避けてたろ」

 

 ちょっとからかえば、痛い所を衝かれた。

 大騒ぎの中、意図的に避けていた部分もある。流石、ハジメ。そのジト目は伊達ではない。

 

「自分は、会いたくありません。ハジメちゃんを盗られた気分になります。どうしても、妬いてしまうのです」

「おめえなあ、……分かったよ」

 

 本心を伝えれば、ハジメは複雑そうに頭をガリガリと掻きだす。否定せず、こちらの意思を尊重してくれた。

 お人好しにも程がある。聖人過ぎて、悪用されないか心配だ。

 

「その代わりじゃねえが、冬美には会ってくれ」

「……それは、はい。演劇部は午後から、体育館で舞台があります。そちらへお越し頂けたら……」

 

 よくよく考えれば、遠方の友達に利用されている。写真を仕舞う彼はもう、手遅れ。せめて、相手を値踏みさせてもらおうと決めた。

 

「んじゃあ、次は本題♪ お前さ……秋絵と学園祭、回るんだってぇ~? このこの色男♪

「!? ……耳が早いですね、ハジメちゃん

 

 これまでの話は只の前置き、ハジメは世話焼きジジイが如く両手の拳で口元を隠す。大きな瞳を半月にさせ、ニヤついた笑み。

 ゾワッと背筋が凍り付いたかと思えば、耳の後ろが熱い。羞恥心に体温の調整が追い付かず、(いち)は咄嗟に口元を覆った。

 

「お~ん? 照れてんの? 照れちゃってんの~? グフフ……いや~ポーカーフェイス気取りの金田クンが恋とは、青春ですな~♪」

「恋……」

 

 お調子者から弾ける笑顔を向けられ、ふと眼鏡を掛けた彼女(和泉 さくら)が脳裏を掠める。あれは決して、恋じゃない。

 

「ハジメちゃんの恋は、実るのですか?」

「……へ? 俺は……色恋沙汰なんて……柄じゃねえしぃ~。それを言うなら、千家。5組の出し物、犬のふれあい広場だろ。そこに例の彼女を呼ぶんだってさ~、ドッグトレーナーだからよ」

 

 己の話になれば、ハジメの視線はぎこちなく窓を向く。カーテンは閉まっており、夜空は見えない。

 予想通りの反応、皮肉も出やしない。

 

「これだから、ハジメちゃんは一生童貞なのですよ」

「!? また言いやがったな、それ! 俺だってな、37歳くらいには親になってるわ!

「七瀬さんのお子さんと、養子縁組される予定でも?」

「美雪……子は、……がぁ~!!

 

 (いち)は生温かい眼差しを向け、純粋な感想を伝えた。

 狼狽しながら、ハジメが本性丸出しに布団で悶絶する。実に面白く、竜太を呼べばよかったかもしれない。だが、今夜は心のアルバムへ仕舞い込む。自分だけの思い出、優越感に浸った

 

「お手洗いへ行きます。ハジメちゃん、何か飲み物は要りますか?」

「コーラ」

 

 炭酸飲料はない為、牛乳にしよう。

 

 携帯電話をトイレへ持ち込むのは、衛生的に好かない。しかし、今はここしか内緒話出来ないのだ。

 いくつかのコール音が鳴り、相手は電話を取った。

 

〈……うるさいぞ、(いち)

「残間、お願いがあります。鷲尾さんと連絡を取って下さい」

 

 電話向こうの父・残間(ざんま)は、眠そうな気配を隠さない。(いち)は挨拶を抜きに本題へ入った。

 

〈……なんで?〉

「自分の学校にいた……中津川先生を紹介して欲しいのです」

 

 予想外の用件だったらしく、残間の困惑がありありと伝わってくる。(いち)の順序立てた説明を聞き終えても、その様子は変わらなかった。

 

〈……余計なお世話だろう? 中津川先生が、ご自分から鷲尾さんを頼るならまだしも……〉

「はい、自分のお節介です。……それでも、中津川先生には絵を描き続けて欲しいのです」

 

 中津川先生が二度と不動高校の教壇へ立たないなら、美術界への道を歩んで欲しい。彼はそもそも、人に教える立場ではなく、キャンパスへ向かうべき人間だ。

 商売敵の多い業界、成功する保証はない。

 危険な目に遭うかもしれないが、キッカケは与えたい。

 これは、自分の我が儘だ。

 

「お願いします、父さん。中津川先生に、鷲尾さんを頼らせてください」

 

 その為なら、心にもない呼称を口にしよう。胃の竦みも、吐き気も堪えよう。

 

〈……父さん(・・・)か……、心にもないな。……北見さんに免じて、叶えてやろう。あまり、期待するなよ〉

「……ありがとうございます(バレテて~ら)」

 

 声だけでも見抜かれた本心、残間はそこを責めずにため息ひとつ。言い訳に出てきた名前は、遠回しに函館の事件について知った。そう、伝えてきたのだ。

 (いち)がどんな事件に巻き込まれようが、何の興味もない男だ。心から、感謝はしておこう。

 

〈それと……今週、明智さんから連絡来たか?〉

「? ……いいえ、自分の方にはありません」

〈そうか……ならいい、にいみを頼んだぞ……プッ

(え~……気になるトコで、切りやがった……)

 

 急に話題を変えたと思いきや、挨拶なしに切られた。

 こちらがやろうと思っていた手前、先を越されてイラッとする。

 このムカつきを洗い流そうと手を洗い、タオルで拭いてから廊下へ出た。

 

「なっげえ便所やんけ」

 

 ハジメが毛布に体を包み、廊下に佇んでいた。座敷童の如き、可愛らしさ。

 

「ハジメちゃん、独りで淋しかったですか?」

「ちゃうわい、秋絵にラブコールしてんのと思っただけです~。紛らわしいんだよ、つまんねえ」

 

 盗み聞きを隠さないのは、彼なりの誠意だ。どの部分を聞いたか、詮索しない。

 

「朝木さんのお嬢さんにラブコールやと!?」

(いち)っ、どっちが告白したの!?」

「「!?」」

 

 暗がりに潜むのは、金田祖父母のシワだらけの形相。男子高校生2人を本気で、ビビらせた。

 その拍子にハジメが毛布の裾を踏んでしまい、廊下へ転んだのはお約束である。




京谷「京谷です。閲覧ありがとうございます。へえ、明日はアイドルが来るんだ……フフフ。さて、次回は『【瞬間消失の謎】を生徒会に知られるな・中編』!! さあ、覚悟してください!! 金田一先輩!! あ、言っちゃった」

真壁 誠
新部長を美雪に託しても、部に居座る。心配してんのかな? 学園祭中、出版社の人とのご挨拶で忙しかったらしい

新生徒会幹部
会長・海峰、副会長・千家、会計オリ主、書記と庶務は継続

元副会長、元会計は引退時期だが、ギリギリまで手伝ってくれている
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