金田少年の生徒会日誌 作:珍明
誤字報告により、修正しました。ありがとうございます
人気絶頂アイドル歌手が失踪なんて大事件。それなのに捜査一課刑事の
「昨日のホワイトデー、な~んにもしてくれなかったんだから~♪ 今日をプレゼントしてねっ」
「……自分で言うなよ」
これが一流魔術団の観覧でなければ、逃げ遂せた。
現実的な刑事という職でありながら、非現実的なまでにロマンチスト。正直、面倒臭い女だと思う。美人でなければ、出会う事さえもなかった。
だが、その縁も切れた。正確には切られた。
「子供にあんな事言うなんて、最低!! 見損なったわ!!」
「上等だ! 二度と俺に近寄るな! てめえの代わりなんざ、いくらでもいるんだぞ!
軽蔑し切った美砂からショーのチケットを投げ付けられ、智彦は幸か不幸か顔面で受け止める。咄嗟の暴力は意外と痛い。怒りのまま、売り言葉に買い言葉で負けじと言い返した。
「私はアナタよりも良い男を見つけるわよ!! 精々、私の代わりで満足してなさい!!」
「……な!?」
智彦にメロメロだった美砂と思えぬ。強気な態度と迫力に物怖じしてしまう。野次馬な視線とクスクス笑い声に気付き、羞恥心が湧き起った。
「痴話喧嘩?」
「いや、フラれたんだろ。男の方が……」
「……フンッ」
軽蔑し切った美砂は鼻を鳴らし、踵を返す。智彦は悔しさでチケットを握りしめただけで、追いかけなかった。
たかが、親会社の社長の息子に媚びを売っただけで辱めを受けるなど、何かの間違いだ。
自尊心を守る為、スタッフ専用の通路へ勝手に入り込む。曲がり角の向こうから、聞いた覚えのある声がした。
「僕にそんな権限はありません。もう、こんな事は止めて下さい。津雲先生っ」
(遠野?)
別れ話の原因である社長の息子・
そっと様子を覗けば、眼鏡をかけた中年男性と大きめの帽子を被った少女がいる。どう見ても、教師と生徒の禁じられた逢引き現場。如何に誠実な遠野でも、目くじらを立てる状況だ。
「私が悪いんだ! 彼女は関係ないっ。だから、私が学校を辞める。それで事を収めてくれ」
「先生っ!? 誘ったのは私よ。先生が好きなの! 私が辞めるわ」
3人は出来るだけ小声で言い争うが、耳聡い智彦には十二分に聞き取れる。教師は写真部の顧問・
帽子やコートで隠しても、口元や首筋、体の曲線から色気がありありと感じ取れる。美砂には負けるが、六野は良い女だ。
遠野と同じ学校なら、東京の人間。コレを強請りのネタにして、六野と関係を持つのも悪くない。悪巧みと知りつつ、気分が高揚してほくそ笑んだ。
途端、雰囲気が一変した。
空調が変わったとか、館内の放送が入ったとか、誰かが来たとか、そんな変化ではない。
「そういう話じゃないんですよ」
「……遠野……?」
表情こそ変えず、遠野の声は殺意に満ち満ちている。智彦はこれまで女絡みの暴力沙汰を何度も経験したが、それが可愛く思える程に身の毛がよだつ。盗み聞きが知られたら、殺される身の危険さえも感じた。
「津雲先生。止めろと言うのは、今の関係を止めろと言っているんです。今日まで生きたアナタなら、彼女が成人するまで待てるでしょう? 今すぐじゃなくて、いい。違いますか?」
その手に斧があれば、津雲なる教師は今頃、頭をカチ割られていただろう。そう断言出来る程、遠野が恐ろしい。彼の前に立つ、許されざる恋人達も同じ恐怖に怯え、口を閉ざした。
「お返事は?」
「「……っ」」
一歩近付き、遠野は2人へ問う。声をかけられた瞬間、津雲はビクンッと肩を痙攣させたが、声を出せない状態。智彦にはその心理がよくわかり、同情心が湧いた。
「お返事っ」
「は……はい……っ、今すぐじゃ……なくて……いいです……」
「はい……」
更に一歩近付き、遠野は眼光にさえも殺意が宿らせる。ほとんど脅された形で、津雲と六野は首振り人形のようにガクガクと頷く。それでも2人の手は固く握られ、決して離さないと誓い合っていた。
危機的状況な為、智彦はその光景が美しく見える。それ程までに人を愛してみたいとさえ、思った。
「遠野……、いや……遠野君。せめて……ショーだけは……観ていいかな? 彼女、ずっと……楽しみにしてて……。これが終わったら、……帰りも別々にする……。卒業、いや……成人、いや……大学卒業まで待つ……た、頼むよ」
「ショーだけですよ……。これからはくれぐれも、注意して下さい。僕に見つかったんですからっ」
津雲は泣きべそで眼鏡を外し、遠野へ必死に懇願する。警告も含まれていたが、恋人達の逢瀬を許した。
偶然とは言え、智彦は現場に居合わせた身。それでも血みどろの結末にならなくて、心の底から喜ぶ。思わず、目を伏せてまで安堵の息を吐いた。
「……!?」
遠野に睨まれるような視線を感じ、恐怖で体の芯が凍り付く。絶対に振り返らず、逃げた。
逃げ切れたならば、次の恋人は生涯、愛し抜こうと勝手に決める。それだけ必死だったのだ。
「そこのアンタ、お連れさんに逃げられたんでしょ。チケット、余ってるんじゃない。一枚、売って貰えないかしら? 今日の公演はどうして観ておきたいのに、チケットが売り切れだったのよ」
「どうぞ、どうぞ! 俺、もう帰りますんで!!」
飛び出した通路には開場待ちの観客が多く、智彦の失態を見物していた中年女に取引を持ち掛けられる。反射的にチケットを2枚とも投げ渡した。
「ちょっと、お金!」
「本当、いらないんで!!」
急いでいた為、相手がキミサワブランド社長・
「1人だろ! チケットを1枚、売ってくれ」
「私が貰うわ!」
「何よ、アンタ達!? こっちは連れを車に待たせているの!」
背後でチケット争奪戦が行なわれても、智彦には全く関係のない話だ。
命の危機に晒されながら、人の性格はおいそれと変えられない。この先も女性問題で何度も痛い目に遭いつつも、村山 智彦はゆっくりと誠実な男に成長し、愛しき生涯の伴侶を得た。
雪峯 美砂もほぼ同時期に婚約し、お互いの子供が意図せずに幼馴染として仲睦まじくなっていくが、それはまだ未来の話である。
丸谷「丸谷 留奈です。この後、私と智彦が付き合うのかなあ? まあ、付き合って損はないから、良いけどね。さて、次回は『タロット山荘殺人事件は青森で』!! 3月後半で暖かくなってるし、雪もそんな積もってないでしょう」
津雲 成人、六野 冬花
不動高校学園祭殺人事件、ゲストキャラ
キミサワブランド社長・君沢 ユリエ
仏蘭西銀貨殺人事件、ゲストキャラ