金田少年の生徒会日誌   作:珍明

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前回の話に入りきれなかった部分を村山視点でお送りします♪

誤字報告により、修正しました。ありがとうございます


F.15 午前4時40分の銃声は鳴らない-村山

 村山 智彦(むらやま ともひこ)は朝から、とにかく機嫌が悪かった。

 人気絶頂アイドル歌手が失踪なんて大事件。それなのに捜査一課刑事の雪峯(ゆきみね) 美砂(みさ)は呑気にデートと大はしゃぎ。貴重な休日を潰される形で静岡まで連れ出され、イラつく原因が重なった。

 

「昨日のホワイトデー、な~んにもしてくれなかったんだから~♪ 今日をプレゼントしてねっ」

「……自分で言うなよ」

 

 これが一流魔術団の観覧でなければ、逃げ遂せた。

 現実的な刑事という職でありながら、非現実的なまでにロマンチスト。正直、面倒臭い女だと思う。美人でなければ、出会う事さえもなかった。

 だが、その縁も切れた。正確には切られた。

 

「子供にあんな事言うなんて、最低!! 見損なったわ!!」

「上等だ! 二度と俺に近寄るな! てめえの代わりなんざ、いくらでもいるんだぞ!

 

 軽蔑し切った美砂からショーのチケットを投げ付けられ、智彦は幸か不幸か顔面で受け止める。咄嗟の暴力は意外と痛い。怒りのまま、売り言葉に買い言葉で負けじと言い返した。

 

「私はアナタよりも良い男を見つけるわよ!! 精々、私の代わりで満足してなさい!!」

「……な!?」

 

 智彦にメロメロだった美砂と思えぬ。強気な態度と迫力に物怖じしてしまう。野次馬な視線とクスクス笑い声に気付き、羞恥心が湧き起った。

 

「痴話喧嘩?」

「いや、フラれたんだろ。男の方が……」

「……フンッ」

 

 軽蔑し切った美砂は鼻を鳴らし、踵を返す。智彦は悔しさでチケットを握りしめただけで、追いかけなかった。

 たかが、親会社の社長の息子に媚びを売っただけで辱めを受けるなど、何かの間違いだ。

 自尊心を守る為、スタッフ専用の通路へ勝手に入り込む。曲がり角の向こうから、聞いた覚えのある声がした。

 

「僕にそんな権限はありません。もう、こんな事は止めて下さい。津雲先生っ」

(遠野?)

 

 別れ話の原因である社長の息子・遠野 英治(とおの えいじ)だ。

 そっと様子を覗けば、眼鏡をかけた中年男性と大きめの帽子を被った少女がいる。どう見ても、教師と生徒の禁じられた逢引き現場。如何に誠実な遠野でも、目くじらを立てる状況だ。

 

「私が悪いんだ! 彼女は関係ないっ。だから、私が学校を辞める。それで事を収めてくれ」

「先生っ!? 誘ったのは私よ。先生が好きなの! 私が辞めるわ」

 

 3人は出来るだけ小声で言い争うが、耳聡い智彦には十二分に聞き取れる。教師は写真部の顧問・津雲(つくも) 成人(しげと)、女子生徒は六野 冬花(ろくの ふゆか)だと智彦は知らない。

 帽子やコートで隠しても、口元や首筋、体の曲線から色気がありありと感じ取れる。美砂には負けるが、六野は良い女だ。

 遠野と同じ学校なら、東京の人間。コレを強請りのネタにして、六野と関係を持つのも悪くない。悪巧みと知りつつ、気分が高揚してほくそ笑んだ。

 途端、雰囲気が一変した。

 空調が変わったとか、館内の放送が入ったとか、誰かが来たとか、そんな変化ではない。

 

「そういう話じゃないんですよ」

「……遠野……?」

 

 表情こそ変えず、遠野の声は殺意に満ち満ちている。智彦はこれまで女絡みの暴力沙汰を何度も経験したが、それが可愛く思える程に身の毛がよだつ。盗み聞きが知られたら、殺される身の危険さえも感じた。

 

「津雲先生。止めろと言うのは、今の関係を止めろと言っているんです。今日まで生きたアナタなら、彼女が成人するまで待てるでしょう? 今すぐじゃなくて、いい。違いますか?」

 

 その手に斧があれば、津雲なる教師は今頃、頭をカチ割られていただろう。そう断言出来る程、遠野が恐ろしい。彼の前に立つ、許されざる恋人達も同じ恐怖に怯え、口を閉ざした。

 

「お返事は?」

「「……っ」」

 

 一歩近付き、遠野は2人へ問う。声をかけられた瞬間、津雲はビクンッと肩を痙攣させたが、声を出せない状態。智彦にはその心理がよくわかり、同情心が湧いた。

 

お返事っ

「は……はい……っ、今すぐじゃ……なくて……いいです……」

「はい……」

 

 更に一歩近付き、遠野は眼光にさえも殺意が宿らせる。ほとんど脅された形で、津雲と六野は首振り人形のようにガクガクと頷く。それでも2人の手は固く握られ、決して離さないと誓い合っていた。

 危機的状況な為、智彦はその光景が美しく見える。それ程までに人を愛してみたいとさえ、思った。

 

「遠野……、いや……遠野君。せめて……ショーだけは……観ていいかな? 彼女、ずっと……楽しみにしてて……。これが終わったら、……帰りも別々にする……。卒業、いや……成人、いや……大学卒業まで待つ……た、頼むよ」

「ショーだけですよ……。これからはくれぐれも、注意して下さい。僕に見つかったんですからっ」

 

 津雲は泣きべそで眼鏡を外し、遠野へ必死に懇願する。警告も含まれていたが、恋人達の逢瀬を許した。

 偶然とは言え、智彦は現場に居合わせた身。それでも血みどろの結末にならなくて、心の底から喜ぶ。思わず、目を伏せてまで安堵の息を吐いた。

 

「……!?」

 

 遠野に睨まれるような視線を感じ、恐怖で体の芯が凍り付く。絶対に振り返らず、逃げた。

 逃げ切れたならば、次の恋人は生涯、愛し抜こうと勝手に決める。それだけ必死だったのだ。

 

「そこのアンタ、お連れさんに逃げられたんでしょ。チケット、余ってるんじゃない。一枚、売って貰えないかしら? 今日の公演はどうして観ておきたいのに、チケットが売り切れだったのよ」

「どうぞ、どうぞ! 俺、もう帰りますんで!!」

 

 飛び出した通路には開場待ちの観客が多く、智彦の失態を見物していた中年女に取引を持ち掛けられる。反射的にチケットを2枚とも投げ渡した。

 

「ちょっと、お金!」

「本当、いらないんで!!」

 

 急いでいた為、相手がキミサワブランド社長・君沢(きみざわ) ユリエとは後にも先にも気付かない。彼女の着ている服が時代遅れのセンスだったのも、理由だろう。

 

「1人だろ! チケットを1枚、売ってくれ」

「私が貰うわ!」

「何よ、アンタ達!? こっちは連れを車に待たせているの!」

 

 背後でチケット争奪戦が行なわれても、智彦には全く関係のない話だ。

 

 命の危機に晒されながら、人の性格はおいそれと変えられない。この先も女性問題で何度も痛い目に遭いつつも、村山 智彦はゆっくりと誠実な男に成長し、愛しき生涯の伴侶を得た。

 雪峯 美砂もほぼ同時期に婚約し、お互いの子供が意図せずに幼馴染として仲睦まじくなっていくが、それはまだ未来の話である。




丸谷「丸谷 留奈です。この後、私と智彦が付き合うのかなあ? まあ、付き合って損はないから、良いけどね。さて、次回は『タロット山荘殺人事件は青森で』!! 3月後半で暖かくなってるし、雪もそんな積もってないでしょう」

津雲 成人、六野 冬花
不動高校学園祭殺人事件、ゲストキャラ

キミサワブランド社長・君沢 ユリエ
仏蘭西銀貨殺人事件、ゲストキャラ
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