金田少年の生徒会日誌 作:珍明
不動高校学園祭殺人事件を読む限り、学園祭は三日間ですが、作中の学園祭はこれで終わり
11月の早朝7時、ヒンヤリと肌寒い。
掲示板を見やれば、一般客へ向けた張り出しが数多くある。
学校新聞には、写真部のメイド喫茶が大々的に取り沙汰されていた。次点の注目は2年5組のふれあい広場、昨日の夕方報道番組に放送されたせいだろう。
人気アイドル歌手のお忍びは、バレなかった。
ふうっと、胸を撫で下ろす。
(……今日は、秋絵さんと……)
気の早い自分を抑えつつ、昇降口へ向かう職員室へ生徒会室の鍵を取りに向かう。途中、廊下のあちこちで出し物の相談が聞こえた。
「神津さんっ。美術部も早描きとか、やってみたら……どうかな? 写真部は、メイドとツーショット写真なんだよ」
「ウチの部員数では1人抜けただけで、大変なんです。どうしてもと言うなら、先生が描いて下さい」
「轟先輩……そこまで言わなくても」
新美術部顧問の先生は眼鏡の縁を押さえ、逆に生徒へ打診。
何故か、3年D組・
「大塚先生、囲碁部は出し物無しでしたよね。その分、お暇ですね?」
「いやいや、尾根先生。ほら、非常時に備え……離して! 吉長先生、アナタも暇でしょう!! 部活、持ってないんですから!」
「いえ……私、担任ですけど?」
厳しい目付きの
生徒会執行部の当番確認を終え、正門にてゲスト参加者を出迎える。
「金田君、他の当番はどうなってるんだ?」
「午後に巡回があります」
片倉から予定を聞かれ、
「だったら、今日は俺と回ろうよ♪ 昨日は忙しそうだったから、遠慮したけどな。俺達の未来、占ってもらおうぜ♪」
途端、彼は気取った笑顔で手を握ってくる。クラスメイトの女子が「あたしと行きましょう」「私よっ」と間に入ってくれた為、どうにか断れた。
「金田、未来の兄貴……必死だな」
「……神矢君、違いますって」
こんなに人の良い彼には、彼女がいない。そっちの方が心配だ。
「金田、余計なお世話だぜ」
「!? な、何も言ってないですよっ」
神矢の呆れた口調、
マジックショーは昨日より、客入り良し。
クラスメイトに後を託し、
犬種様々な彼らを一目見ようと、多くの見物客で賑わう。
「待て、お座り」
ドッグトレーナー・
見事な手腕だが、
人混みを掻き分け、やっと合流できた。
「金田君、お待たせ」
「秋絵さん、今来ましたよ。さあ、自分の手を……」
今日は現時点で、一般客の来校が多い。
「フフフ……あたしから、お願いしたかったわ」
秋絵は迷いなく、この手を握り返してくれた。
触れた皮膚と陽射しの強さ、人の体温を意図せず上げる。彼女の首筋が動く度、ジャスミンの香りがフワッと匂うのも原因だろう。
普段しない匂いは、特別感がある。
よく見れば、ニーハイソックス。ルーズソックスより、清楚感が増す。
「金田君、ジャックオーランタンいかが?」
「……っ、御堂さん……素敵な彫り物です」
ぬっと栗カボチャが視界を遮り、白ける。
「御堂さん……可愛いカボチャね」
「ジャックオーランタンよ、朝木さん。ハロウィンをご存知?」
「またの機会に、させてください」
秋絵の引き攣った愛想笑いへ、御堂嬢はズイッと栗カボチャを突き出す。面識のある関係だと記憶していたが、暗雲立ち込める気配だ。
「金田君、見~つけた。ねえねえ、これなんだけど……読んだ?」
「朱鷺田先生、おはようございます。……文芸雑誌? ……雨竜先生の作品が、載っているのですかっ」
「金田君……雨竜 あかねを知ってるんだ♪ 成程ね」
「どういう意味……」
「忍先生、少し手を貸してください」
物凄く意味深な笑み。彼女に真意を聞こうとすれば、ミス研顧問の歴史担当・
「金田君、雨竜 あかねって知り合いの方?」
「……小説家ですよ。それよりも見てください、秋絵さん。コーヒーカップです」
普段なら、気になる。でも今は、秋絵と過ごしたい。
行列の先に、サッカー部と野球部合同の出し物・コーヒーカップ。4つの木箱とパイプを組み立て、手作り感満載。ひとつひとつは乗り手が自力で回し、全体は筋肉隆々の部員が人力で回してくれるのだ。
「久里君、動かないんだけど? ……あんっ、誰の体重が重いですって!?」
3年4組・
「加背、こっちも動かないぜ。……俺と笑美の愛が、重い?」
「もう~加背先輩ったら♪」
無事に直り、
「へえ~、白石君かあ。この後、時間ある?」
「あのコーヒーカップ……再々、止まっちまうらしくてな。あ~んま、おススメしないぜ」
「そっか……いや、でも……学校でコーヒーカップ乗るとか、超レアだしなあ。……よし、焼けた。金田の分、お待ちどおさま♪」
陣馬と2年A組・
「どこで食べましょうか? 生徒会室……渡り廊下、演劇部の部室なら……今日は誰もいないはず」
「えっ……うん、あたしは金田君がいいなら……そこでも」
廊下の隅で食べようにも、グループやカップルにより占領されている。誰もいない部室が、マシかもしれない。そうと決まれば、職員室だ。秋絵を赤面させる程、誤解させたなどと全く気付かなかった。
「あの……生徒会の方ですよね。すみません、美雪はどこにいますか?」
「……藍沢 茜さんですね、七瀬さんと同じフラワーアレンジメント教室の……。この時間でしたら、2年1組にいますよ。案内……」
職員室を覗けば、部室の鍵がない。他の鍵もない。
「三谷教頭先生、ここにあった鍵はどちらに?」
「全て、私が預かっている。昨日も使わない教室へ勝手に入って、サボっている生徒がいてな。キミは確か、演劇部だったな。何か急用かね?」
行き着く先は、屋上踊り場。
ちょうど空いた為、
「秋絵さん、自分のハンカチを座布団代わりに……」
「ううん、無くても大丈夫。焼きそば、まだ温かいねえ。食べよ、食べよ~♪」
「秋絵さん、よろしければ……お弁当とお茶です。自分が、作りました」
「あたしに? 嬉しい……ありがとうっ。金田君、お料理上手だって聞いてたから……食べてみたかったのっ。イタダキマ~ス♪」
焼きそばと人参の微妙な焼き加減、青海苔の濃さ、美味に感じた。
「金田君のご飯、美味しい……。出し物、こっちでも良かったんじゃない?」
「いいえ、マジックショーで良かったです。知らない方に沢山、作るより……秋絵さんに食べてもらえましたから」
「……っ、そっか~……。今度、あたしが作ってくるね。金田君のお弁当っ」
「! 嬉しいです。楽しみにしますね」
秋絵が
「金田君……良かったら、肉団子……食べる? ハイッ」
頬を赤らめ、秋絵はお弁当に残った最後のひとつを箸で摘まむ。迷いなく、
まさかの「ハイ、ア~ン」な展開。
噛む箇所によっては、間接キスになってしまう。
「
「うぐぅ……ごふ、ごふ(黒沼先生!?)」
「あ~……金田君、お茶お茶っ」
階段下から呼ばれ、
差し出されたお茶を流し込み、ふうっと息を吐く。
「ありがとうございます、秋絵さん」
「ううん、大したコトしてないよ」
真っ先に、秋絵へ目を向ける。その後、階段下にいる待ち人を意識した。
「……私達、お邪魔だったかな?」
「全然、邪魔じゃな……」
「氷垣さん、お久しゅうございます。黒沼先生、先日はどうも。立ち話もなんですから、どこかでお茶でも……」
「あの……
「奇遇ですやん、黒沼先生。メイド喫茶、知っとります?」
黒沼先生がこちらを見上げても、金田祖父は遠慮なく連れて行った。
(お祖父ちゃん、お祖母ちゃん……盗み聞きしてやがったな)
帰ったら、確実に冷やかされる。想像しただけでゲンナリ、竜太の住むアパートへ逃げ込もう。どうせ、明日は代休日故に何の問題もない。
その瞬間、視線を感じた方角へ振り返る。ハンディカムが2つ、物陰から見えた。
「体隠して、レンズ隠さず……」
「……クスクス、金田君……人気者ね」
やれやれと呟き、
「金田君、本当に用意良いわ」
「去年の教訓を生かしたのです。ゴミ箱を設置しても、すぐ満杯になりますから。次は占いにでも、行ってみましょうか?」
階段を降りた先、怪しさ満載の『占い♡霊の館』を発見。
七瀬の知り合い・
「さあ、どうぞ。……金田君、朝木さん」
「「!?」」
ふわりとカーテンが揺れ、薄暗い声に呼ばれる。名乗ってもいないのに、存在がバレた。
怖い過ぎる為、どうしたものかと2人で首を傾げた。
「行ってみましょう。美雪ちゃんの知り合いだし、悪い様にはならないはずよ」
「……はい、秋絵さんが一緒なら」
秋絵は度胸がある。
アメジスト、しめ縄、水晶、壺、鏡餅、占星術、謎の壺……そして、ラジカセ。統一を感じられず、まさに節操なし。
「……その水晶を、使われるのですか?」
「お2人の未来、前途多難ね。特に金田君……、別れを恐がらないで。会者定離は世の習い、アナタを必ず……活かすわ」
「あの……森さん、前途多難って……」
「朝木さんは、ご自分の決断に自信を持ちなさい。何をどう選ぼうと、アナタは独りじゃないわ。ウフフフ……」
秋絵の質問さえも遮り、森は怪しさ全開に微笑むのみであった。
どうやら、占いは終わったらしい。
「……狐に摘ままれた気分です。別れと言われれば、やはり……先輩方ですかね。後、中津川先生……」
「分かる……。心当たり多いし……曖昧過ぎて、あたしも難解だわ」
「秋絵さんの場合、『選ぶ』となれば……進学でしょうか?」
「ああ~そっか、大学に行きたいかも。叔母さん、ブティックを開く為に服飾の専門学校へ進学したって言うし……」
2人で廊下を進みながら、折角の神託? について考えてみる。話も弾んで、行く意味はあった。
「自分は演劇の道を進みたいので……劇団の養成所か、もしくは音大でしっかりと勉強……」
「音大なら、音芸大へ行こう! OBとして、大歓迎だ。金田君っ」
秋絵が進路の話をしてくれた為、
そこに唐突な勧誘が背後から襲う。ビックリして振り返れば、音芸大出身・
「……城さん、どうしてここに?」
「昨日、夕方のニュースを見たんだよ♪ 学校に本物の犬、持ち込んでるとか……最高っ。それで進学の話だけど……」
「音大目指すなら、東大へ入ろう! 多くの音楽家を輩出した名門、入って損ナシっ。お2人の進学にどう?」
「は、はあ……」
城はニコニコ笑いながら、瞳を輝かせる。そんな彼を押し退け、東大出身・
気持ちは有り難いが、今はいらん。
「東大の話でしたら、この海峰 学にお任せを! 俺の友達、星 桂馬も東大を目指してます!」
「……あ、どうも。海峰、その言い方だと……音芸大を無視してないか?」
「海峰君は演劇コンクールで『悪魔組曲』を伴奏してくれたのよ。そっちのキミ、観客席にいた子ね。覚えてるわ」
「へえ、キミもか。しかし、東大狙いとは……残念だ」
「皆様のお陰で、ラベンダー饅頭は完売にございます」
「最後のひとつ……良かったです。小宮山さん、お疲れ様でした」
「秋絵さん、ラベンダー饅頭は今度……2人で食べましょう。祖父母には内緒ですよ」
「!? ……うん、そうね。あたし、最高にお勧めのお茶を持って行くわ」
名残惜しいが、お互いに当番へ出向く。でも、次の約束が心を温かくした。
完売御礼の札が目立ち始め、学園祭の終わりを肌に感じた。
「金田く~ん、俺も一緒に巡回させてくれ。今日、最後のマジックショーの宣伝にもなる」
「……片倉さん、お面……買ったのですね」
ぬっと現れた片倉は
そうまでして、
「分かりました。自分はあくまで、巡回ですからね」
「うんうん、それは勿論だぜ」
その後は何の問題もなく、体育館にて閉会式。
〈今年の売り上げ1位、写真部のメイド喫茶です〉
「「「「ヤッター!!」」」」
〈続いて、注目度アンケート1位は2年5組のふれあい広場です〉
「「「いやっほ~!!」」」
七瀬が元生徒会長として壇上へ立ち、マイクを片手に意気揚々と今年の成果を発表していく。あちこちで歓声が上がった。
(マジックショーも、かなり良かったんだけどなあ……)
唐突の行為に、津雲先生は困ったように笑ったが、決してハグを嫌がらなかった。
「売り上げとアンケートが別って、ズルくないですか? 総合1位とかで纏めたら、絶対にミス研が取ってましたよ~」
「……私も展示、見に行ったけど……どこに、そんな要素が?」
1年2組・
〈それでは最後に突然ですが……。新副会長の千家君より、ピアノの生演奏を披露します。曲目は『悪魔組曲』ですっ〉
紹介を受け、千家が壇上に立って一礼。グランドピアノへ腰かけた。
予定になかった進行、
微かな私語を物ともせず、千家は鍵盤へ指を這わせる。彼の長い指先でも、曲のリズムがズレたり、ワンテンポ遅れたりしている。それでも、止めない。必死に曲を追う姿は、美しいと思った。
ステージの脇が何気なく視界に入り、水沢の姿を目にする。愛する人の為、奏でている。全校生徒に向け、彼女への愛を語っていた。
凄まじい愛の重さを感じ、
第3楽章を弾き終え、自然と拍手が起こる。閉会式は、こうして終了した。
但し、大掃除が終わるまでは学園祭だ。
垂れ幕、ポスター、アーチが僅か1時間で撤去され、校内は普段の姿を取り戻す。
やっと終わった解放感、まだ続いて欲しかった名残惜しさ。生徒は正反対の想いを黒板へ書き込み、各々が打ち上げで盛り上がった。
「金田君、ちょっといいかしら?」
「白樹先生、どうしま……薔薇の花束?」
教室から出ようとした時、
「すげえ、白樹先生。金田にプレゼントですか?」
「フフフ……違うわ、神矢君。匿名で届いたのよ。昨日の演劇に、心打たれたってメッセージカードも入ってるわ」
「……わざわざ、ありがとうございます。担任の先生が持って来るところを……」
神矢達も見事な薔薇に誘われ、注目。白樹先生は花束をそっと渡してくれた。
添えられたメッセージカードには【大司祭へ】と宛て名書きされ、
「【血のように赤い薔薇をどうぞ】、……差出人不明ですか」
初めて目にした文言。
そのはずが、
「血のようにって、何だよ。流血シーンなんてねえじゃん」
「金田……これ、どうやって持って帰るんだ? お前はバイクだし、打ち上げも行くだろ」
クラスメイトの声に我へ返り、薔薇の行き場を考える。この美しい薔薇を自宅へ持ち帰る間、花弁が散っては勿体無い。
と言うワケで、演劇部の部室へ飾る。緒方先生の許可を得て、空いた花瓶も借りた。
夕暮れに咲く薔薇、何とも絵になる構図に感無量だ。
差出人へ会えたなら、是非とも感謝を伝えたい。心から、そう思った。
打ち上げ先で偶然、七瀬達1組と出くわす。高校生の行先は大体、同じだ。ハジメや3人トリオも会話に混ざり、お互いに感想や愚痴を言い合った。
「そうだ、美雪さん。金田にファンから、薔薇が届いたんだぜ。メッセージが洒落ててさ」
「血のように赤い薔薇……と。ちょっとロマンチックでした」
「「……へ?」」
神矢が薔薇の話を持ち出し、
途端、七瀬とハジメは顔面蒼。折角の打ち上げ中も、やたらとテンションが低い。秋絵との関係さえ、からかわないなど非常に心配だ。
(竜太ン家に行くなら、……携帯電話を持って来ねえとなあ)
本人の了承を得ていないが、無問題。
明日から代休日、2連休。
バイトは明後日にするとして、明日は完全に休もうと決め込んだ。
「只今、帰りました」
「おかえり~、
堂々と金田家へ帰宅し、金田祖父の好奇心は無視しておく。自室へダッシュし、適当な着替えをサイドバックへ詰めた。
充電バッチリの携帯電話を手にし、黒沼先生からの着信に気付く。嬉しさのあまりに早速、折り返した。
「
〈ごめん、
電話向こうの黒沼先生から、声だけでも苦悩が伝わった。
何かに途轍もなく、困り果てている。大の大人であり、普段から世話になっており、兄の如く身近に感じている。そんな相手に弱弱しい口調で頼られてしまえば、
「ハイ、喜んで!」
この返事が齎した結末を、後悔しない。
誰に問われたとしても、自分はそう答える。だって、他の誰でもない黒沼先生に頼られたのだから――。
鷹島「鷹島 友代です。本日は、本校にお越しいただきありがとうございます。……私もいますよ、ちゃんと行間を読んでください。さて、次回は『【瞬間消失の謎】を生徒会に知られるな-岡持』。アイドルに興味……ありますね、あくまでも小説の素材としてですが……」
轟 美和子、山吹 薫子
誰が女神を殺したか?ゲストキャラ
新美術部顧問の先生
金田一二三誘拐殺人事件、八咫烏村殺人事件の冒頭に登場。作中にて中津川の後任
囲碁部顧問・大塚、星 桂馬、小角 由香里
血溜之間殺人事件ゲストキャラ
はじめと美雪の担任・吉長、歴史の須貝
それぞれ雪鬼伝説殺人事件、魔神遺跡殺人事件モブキャラ
八尾 徹平、森 宇多子
それぞれ魔犬の森の殺人、首吊り学園殺人事件ゲストキャラ
氷垣 岳史、山根 優香
それぞれ雪霊伝説殺人事件、悪魔組曲殺人事件アニメ版ゲストキャラ
伊志田 純、鹿沢 直美
それぞれ不動高校学園祭殺人事件、証言パズルゲストキャラ
3年の久里、加背、成瀬、2年の白石
オペラ座館殺人事件、魔神遺跡殺人事件に名前のみ登場
薔薇の贈り物主
誰が女神を殺したか?原作漫画にて作者の遊び心で登場、変装もせず堂々と学校にいた。作中にて、一般客に紛れ込む