金田少年の生徒会日誌   作:珍明

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学園祭2日目!
不動高校学園祭殺人事件を読む限り、学園祭は三日間ですが、作中の学園祭はこれで終わり


Q46 【瞬間消失の謎】を生徒会に知られるな・後編

 11月の早朝7時、ヒンヤリと肌寒い。

 掲示板を見やれば、一般客へ向けた張り出しが数多くある。

 学校新聞には、写真部のメイド喫茶が大々的に取り沙汰されていた。次点の注目は2年5組のふれあい広場、昨日の夕方報道番組に放送されたせいだろう。

 人気アイドル歌手のお忍びは、バレなかった。

 ふうっと、胸を撫で下ろす。

 

(……今日は、秋絵さんと……)

 

 (いち)は胸の高鳴りに合わせ、金木犀の香しい匂いも心安らぐ。

 気の早い自分を抑えつつ、昇降口へ向かう職員室へ生徒会室の鍵を取りに向かう。途中、廊下のあちこちで出し物の相談が聞こえた。

 

「神津さんっ。美術部も早描きとか、やってみたら……どうかな? 写真部は、メイドとツーショット写真なんだよ」

「ウチの部員数では1人抜けただけで、大変なんです。どうしてもと言うなら、先生が描いて下さい」

轟先輩……そこまで言わなくても

 

 新美術部顧問の先生は眼鏡の縁を押さえ、逆に生徒へ打診。

 何故か、3年D組・(とどろき) 美和子(みわこ)先輩が反対意見を述べる。肝心の神津(かみづ)は美術部の鍵を手に、慌てふためいていた。

 

「大塚先生、囲碁部は出し物無しでしたよね。その分、お暇ですね?」

「いやいや、尾根先生。ほら、非常時に備え……離して! 吉長先生、アナタも暇でしょう!! 部活、持ってないんですから!」

「いえ……私、担任ですけど?」

 

 厳しい目付きの尾根(おね)先生は囲碁部顧問・大塚(おおづか)先生の返事を聞かず、連行。2年1組担任・吉長(よしなが)先生は困ったように笑い、ドナドナを見送った。

 

 生徒会執行部の当番確認を終え、正門にてゲスト参加者を出迎える。片倉(かたくら)が来れば、昨日と同じ流れでD組の教室へ向かった。

 

「金田君、他の当番はどうなってるんだ?」

「午後に巡回があります」

 

 片倉から予定を聞かれ、(いち)は生徒手帳を開く。隙間に空いたスケジュールは、もう先約で埋まっている。口元のニヤケを自覚し、隠そうと手で覆った。

 

「だったら、今日は俺と回ろうよ♪ 昨日は忙しそうだったから、遠慮したけどな。俺達の未来、占ってもらおうぜ♪」

 

 途端、彼は気取った笑顔で手を握ってくる。クラスメイトの女子が「あたしと行きましょう」「私よっ」と間に入ってくれた為、どうにか断れた。

 

「金田、未来の兄貴……必死だな」

「……神矢君、違いますって」

 

 神矢(かみや)の曇りなき眼は真剣に、片倉を憐れんでいた。

 こんなに人の良い彼には、彼女がいない。そっちの方が心配だ。

 

「金田、余計なお世話だぜ」

「!? な、何も言ってないですよっ」

 

 神矢の呆れた口調、(いち)は心を見透かされている。心臓が飛び出る程、驚いた。

 

 マジックショーは昨日より、客入り良し。

 クラスメイトに後を託し、(いち)は弁当と水筒入りの巾着袋を手にする。ウキウキ気分で目指すのは、校庭。犬のふれあい広場が、待ち合わせ場所だ。

 犬種様々な彼らを一目見ようと、多くの見物客で賑わう。

 

「待て、お座り」

 

 ドッグトレーナー・水沢(みずさわ)は口に笛を咥え、犬達へテキパキと指示していく。彼らの統制の取れた動きは、彼女の信頼に満ちている。老若男女問わず、人々から歓声が上がった。

 見事な手腕だが、(いち)の目的はその隣にいる。相手はこちらの視線に気付き、腕時計をチラ見。そのタイミングで、次の当番・八尾(やお) 徹平(てっぺい)とバトンタッチした。

 人混みを掻き分け、やっと合流できた。

 

「金田君、お待たせ」

「秋絵さん、今来ましたよ。さあ、自分の手を……」

 

 今日は現時点で、一般客の来校が多い。

 (いち)は逸れない様、秋絵(あきえ)へ手を伸ばす。我ながら、ちょっと大胆に思う。

 

「フフフ……あたしから、お願いしたかったわ」

 

 秋絵は迷いなく、この手を握り返してくれた。

 触れた皮膚と陽射しの強さ、人の体温を意図せず上げる。彼女の首筋が動く度、ジャスミンの香りがフワッと匂うのも原因だろう。

 普段しない匂いは、特別感がある。

 よく見れば、ニーハイソックス。ルーズソックスより、清楚感が増す。

 

「金田君、ジャックオーランタンいかが?」

「……っ、御堂さん……素敵な彫り物です」

 

 ぬっと栗カボチャが視界を遮り、白ける。御堂(みどう)嬢はわざわざ屋台から抜け出し、行く手を阻んだ。愛嬌ある笑顔、段々と冷やかしに見えるというモノだ。

 

「御堂さん……可愛いカボチャね」

「ジャックオーランタンよ、朝木さん。ハロウィンをご存知?」

「またの機会に、させてください」

 

 秋絵の引き攣った愛想笑いへ、御堂嬢はズイッと栗カボチャを突き出す。面識のある関係だと記憶していたが、暗雲立ち込める気配だ。

 (いち)は見えない火花を察知し、秋絵の繋いだ手を離さないように駆け出した。

 

「金田君、見~つけた。ねえねえ、これなんだけど……読んだ?」

「朱鷺田先生、おはようございます。……文芸雑誌? ……雨竜先生の作品が、載っているのですかっ」

 

 朱鷺田(ときた)先生に呼び止められ、今月発売の文芸雑誌を見せられた。表紙にいくつもの著者と作品が羅列され、(いち)は知り合いの名を発見。思わず、声に出してしまった。

 

「金田君……雨竜 あかねを知ってるんだ♪ 成程ね」

「どういう意味……」

「忍先生、少し手を貸してください」

 

 物凄く意味深な笑み。彼女に真意を聞こうとすれば、ミス研顧問の歴史担当・須貝(ずがい)先生に呼ばれて行ってしまった。

 

「金田君、雨竜 あかねって知り合いの方?」

「……小説家ですよ。それよりも見てください、秋絵さん。コーヒーカップです」

 

 普段なら、気になる。でも今は、秋絵と過ごしたい。

 行列の先に、サッカー部と野球部合同の出し物・コーヒーカップ。4つの木箱とパイプを組み立て、手作り感満載。ひとつひとつは乗り手が自力で回し、全体は筋肉隆々の部員が人力で回してくれるのだ。

 

「久里君、動かないんだけど? ……あんっ、誰の体重が重いですって!?」

 

 3年4組・小角(こすみ) 由香里(ゆかり)先輩が3年E組・久里(くり)先輩を怒鳴り散らす姿も一興だ。

 

「加背、こっちも動かないぜ。……俺と笑美の愛が、重い?」

「もう~加背先輩ったら♪」

 

 渋沢(しぶさわ)先輩と鈴森(すずもり)のカップも動かず、3年E組・加背(かせ)先輩はキレイな音のツッコミを受ける。生徒では対応し切れず、蝶田(ちょうだ)先生と羽田(はねだ)先生達も修理に集まった。

 無事に直り、(いち)と秋絵も乗り込んだ。手作り故の絶妙な安定感、癖になりそう。

 

「へえ~、白石君かあ。この後、時間ある?」

 

 鹿沢(しかざわ) 直美(なおみ)は2年F組・白石(しらいし)を逆ナン、サッカー部の人気者を盗られまいとする視線が怖い。

 

「あのコーヒーカップ……再々、止まっちまうらしくてな。あ~んま、おススメしないぜ」

「そっか……いや、でも……学校でコーヒーカップ乗るとか、超レアだしなあ。……よし、焼けた。金田の分、お待ちどおさま♪」

 

 陣馬と2年A組・岡崎(おかざき) 浩司郎(こうしろう)が焼きそば屋台の当番をする中、そんな会話で盛り上がる。何も言っていないのに、ひとつオマケしてくれた。

 

「どこで食べましょうか? 生徒会室……渡り廊下、演劇部の部室なら……今日は誰もいないはず」

「えっ……うん、あたしは金田君がいいなら……そこでも」

 

 廊下の隅で食べようにも、グループやカップルにより占領されている。誰もいない部室が、マシかもしれない。そうと決まれば、職員室だ。秋絵を赤面させる程、誤解させたなどと全く気付かなかった。

 

「あの……生徒会の方ですよね。すみません、美雪はどこにいますか?」

「……藍沢 茜さんですね、七瀬さんと同じフラワーアレンジメント教室の……。この時間でしたら、2年1組にいますよ。案内……」

 

 藍沢(あいざわ) (あかね)七瀬(ななせ)の居場所を聞かれ、(いち)は仕方なく案内しようとする。偶然、通りかかった庶務がそっと引き受けてくれた。

 職員室を覗けば、部室の鍵がない。他の鍵もない。

 

「三谷教頭先生、ここにあった鍵はどちらに?」

「全て、私が預かっている。昨日も使わない教室へ勝手に入って、サボっている生徒がいてな。キミは確か、演劇部だったな。何か急用かね?」

 

 三谷(みたに)教頭の言い草から、教師の巡回で発見したのだろう。生徒側にも、共有して欲しかった。

 行き着く先は、屋上踊り場。

 ちょうど空いた為、(いち)は遠慮なく秋絵を座らせる。移動だけで普段の倍、疲れた。

 

「秋絵さん、自分のハンカチを座布団代わりに……」

「ううん、無くても大丈夫。焼きそば、まだ温かいねえ。食べよ、食べよ~♪」

「秋絵さん、よろしければ……お弁当とお茶です。自分が、作りました」

「あたしに? 嬉しい……ありがとうっ。金田君、お料理上手だって聞いてたから……食べてみたかったのっ。イタダキマ~ス♪」

 

 (いち)のハンカチは断られ、秋絵は陽気に割り箸を割る。その拍子に肩と肩が、触れ合う。手を握っていた時より、緊張が増した。

 焼きそばと人参の微妙な焼き加減、青海苔の濃さ、美味に感じた。

 

「金田君のご飯、美味しい……。出し物、こっちでも良かったんじゃない?」

「いいえ、マジックショーで良かったです。知らない方に沢山、作るより……秋絵さんに食べてもらえましたから」

「……っ、そっか~……。今度、あたしが作ってくるね。金田君のお弁当っ」

「! 嬉しいです。楽しみにしますね」

 

 秋絵が(いち)の為に、手料理を振舞ってくれる。その約束に心が踊り、焼きそばを一気に食べ切ってしまった。噛まなかった分だけ、食い足りなさに襲われた。

 

「金田君……良かったら、肉団子……食べる? ハイッ」

 

 頬を赤らめ、秋絵はお弁当に残った最後のひとつを箸で摘まむ。迷いなく、(いち)の口へ運んできた。

 まさかの「ハイ、ア~ン」な展開。

 噛む箇所によっては、間接キスになってしまう。

 (いち)の顎が反応に困り、迫ってくる肉団子を受け止めようと口が開く。箸に唇が当たらぬ様、首を伸ばした。

 

(いち)君、ここに居たんだ」

「うぐぅ……ごふ、ごふ黒沼先生!?)」

「あ~……金田君、お茶お茶っ」

 

 階段下から呼ばれ、(いち)は様々な意味で動揺。肉団子を噛めずに丸々飲み込み、喉が詰まる感触に咳き込む。秋絵は慣れた手付きで、さっと背中を撫でてくれた。

 差し出されたお茶を流し込み、ふうっと息を吐く。

 

「ありがとうございます、秋絵さん」

「ううん、大したコトしてないよ」

 

 真っ先に、秋絵へ目を向ける。その後、階段下にいる待ち人を意識した。

 

「……私達、お邪魔だったかな?」

 

 氷垣(ひがき) 岳史(たけし)氏がニッコリと問う。資産家と思えぬ庶民的な恰好で、同じく普段着の黒沼(くろぬま)先生を伴っていた。

 

「全然、邪魔じゃな……」

「氷垣さん、お久しゅうございます。黒沼先生、先日はどうも。立ち話もなんですから、どこかでお茶でも……」

「あの……(いち)君が」

「奇遇ですやん、黒沼先生。メイド喫茶、知っとります?」

 

 (いち)は慌てて弁明しようとする前に、金田祖母が音もなく現れる。お気に入りの着物と簪、気合十分の出で立ち。何に対してだろう。

 黒沼先生がこちらを見上げても、金田祖父は遠慮なく連れて行った。

 

(お祖父ちゃん、お祖母ちゃん……盗み聞きしてやがったな)

 

 帰ったら、確実に冷やかされる。想像しただけでゲンナリ、竜太の住むアパートへ逃げ込もう。どうせ、明日は代休日故に何の問題もない。

 その瞬間、視線を感じた方角へ振り返る。ハンディカムが2つ、物陰から見えた。

 

「体隠して、レンズ隠さず……」

「……クスクス、金田君……人気者ね」

 

 やれやれと呟き、(いち)はお弁当を片付ける。秋絵も楽しげに笑いながら、焼きそばの空ケースを畳んでくれる。そのゴミは巾着袋に忍ばせたビニール袋へ入れ、立ち上がった。

 

「金田君、本当に用意良いわ」

「去年の教訓を生かしたのです。ゴミ箱を設置しても、すぐ満杯になりますから。次は占いにでも、行ってみましょうか?」

 

 階段を降りた先、怪しさ満載の『占い♡霊の館』を発見。

 七瀬の知り合い・(もり) 宇多子(うたこ)の出し物、相田(あいだ)とオカ研の話をしたせいか、微かな興味を持つ。雰囲気あるカーテンへ触れた途端、教室の3年A組・成瀬(なるせ)先輩が涙目で飛び出してきた。

 (いち)と秋絵は顔を見合わせ、そっと方向転換。

 

「さあ、どうぞ。……金田君、朝木さん」

「「!?」」

 

 ふわりとカーテンが揺れ、薄暗い声に呼ばれる。名乗ってもいないのに、存在がバレた。

 怖い過ぎる為、どうしたものかと2人で首を傾げた。

 

「行ってみましょう。美雪ちゃんの知り合いだし、悪い様にはならないはずよ」

「……はい、秋絵さんが一緒なら」

 

 秋絵は度胸がある。(いち)は彼女の手を握り、恐る恐るとカーテンを潜った。

 アメジスト、しめ縄、水晶、壺、鏡餅、占星術、謎の壺……そして、ラジカセ。統一を感じられず、まさに節操なし。

 

「……その水晶を、使われるのですか?」

「お2人の未来、前途多難ね。特に金田君……、別れを恐がらないで。会者定離は世の習い、アナタを必ず……活かすわ」

 

 (いち)は思わず質問したが、森の赤い唇は諭す口調で告げる。口元の黒子が気になったせいか、脳髄に直接、語り掛けてくる感覚だ。

 

「あの……森さん、前途多難って……」

「朝木さんは、ご自分の決断に自信を持ちなさい。何をどう選ぼうと、アナタは独りじゃないわ。ウフフフ……」

 

 秋絵の質問さえも遮り、森は怪しさ全開に微笑むのみであった。

 どうやら、占いは終わったらしい。

 

「……狐に摘ままれた気分です。別れと言われれば、やはり……先輩方ですかね。後、中津川先生……

「分かる……。心当たり多いし……曖昧過ぎて、あたしも難解だわ」

「秋絵さんの場合、『選ぶ』となれば……進学でしょうか?」

「ああ~そっか、大学に行きたいかも。叔母さん、ブティックを開く為に服飾の専門学校へ進学したって言うし……」

 

 2人で廊下を進みながら、折角の神託? について考えてみる。話も弾んで、行く意味はあった。

 

「自分は演劇の道を進みたいので……劇団の養成所か、もしくは音大でしっかりと勉強……」

「音大なら、音芸大へ行こう! OBとして、大歓迎だ。金田君っ」

 

 秋絵が進路の話をしてくれた為、(いち)も話したくなった。

 そこに唐突な勧誘が背後から襲う。ビックリして振り返れば、音芸大出身・(じょう)がいた。

 

「……城さん、どうしてここに?」

「昨日、夕方のニュースを見たんだよ♪ 学校に本物の犬、持ち込んでるとか……最高っ。それで進学の話だけど……」

「音大目指すなら、東大へ入ろう! 多くの音楽家を輩出した名門、入って損ナシっ。お2人の進学にどう?」

「は、はあ……」

 

 城はニコニコ笑いながら、瞳を輝かせる。そんな彼を押し退け、東大出身・山根 優香(やまね ゆうか)が母校をアピール。秋絵は反応に困り、目が点になるしかない。

 気持ちは有り難いが、今はいらん。

 

「東大の話でしたら、この海峰 学にお任せを! 俺の友達、星 桂馬も東大を目指してます!」

「……あ、どうも。海峰、その言い方だと……音芸大を無視してないか?」

「海峰君は演劇コンクールで『悪魔組曲』を伴奏してくれたのよ。そっちのキミ、観客席にいた子ね。覚えてるわ」

「へえ、キミもか。しかし、東大狙いとは……残念だ」

 

 海峰(かいほう)が開桜学院1年生・(ほし) 桂馬(けいま)と共に現れ、山根に紹介される。城は海峰へ関心を向け、本当に残念そう。そのままの流れで、4人は連れ立った。

 (いち)はやれやれと彼らに背を向け、ようやく歩き出せる。秋絵とラベンダー饅頭の屋台へ回った際、時間切れとなった。

 

「皆様のお陰で、ラベンダー饅頭は完売にございます」

「最後のひとつ……良かったです。小宮山さん、お疲れ様でした」

 

 小宮山(こみやま)小宮山 吾郎に微笑まれ、(いち)は純粋に働きを労った。彼がどのような行先にて不動高校を訪れたか、知るのはもっと先だ。

 

「秋絵さん、ラベンダー饅頭は今度……2人で食べましょう。祖父母には内緒ですよ」

「!? ……うん、そうね。あたし、最高にお勧めのお茶を持って行くわ」

 

 名残惜しいが、お互いに当番へ出向く。でも、次の約束が心を温かくした。

 (いち)は腕章を着け、元副会長と合流。

 完売御礼の札が目立ち始め、学園祭の終わりを肌に感じた。

 

「金田く~ん、俺も一緒に巡回させてくれ。今日、最後のマジックショーの宣伝にもなる」

「……片倉さん、お面……買ったのですね」

 

 ぬっと現れた片倉は(いち)へ肩組みし、離れない。元副会長の怪訝な視線を物ともせず、手の平で猫のお面をクルクルと弄ぶ。衣装と相俟って、ミステリアスな雰囲気を醸し出していた。

 そうまでして、(いち)と歩きたい彼の気持ちを尊重したい。

 

「分かりました。自分はあくまで、巡回ですからね」

「うんうん、それは勿論だぜ」

 

 (いち)は案内も兼ね、嬉しそうな片倉の同行を許す。元副会長は半分、諦めた表情で認めた。

 

 その後は何の問題もなく、体育館にて閉会式。

 

〈今年の売り上げ1位、写真部のメイド喫茶です〉

「「「「ヤッター!!」」」」

〈続いて、注目度アンケート1位は2年5組のふれあい広場です〉

「「「いやっほ~!!」」」

 

 七瀬が元生徒会長として壇上へ立ち、マイクを片手に意気揚々と今年の成果を発表していく。あちこちで歓声が上がった。

 

(マジックショーも、かなり良かったんだけどなあ……)

 

 (いち)は不満を殺し、1位達へ拍手を送る。3年4組・伊志田(いしだ) (じゅん)先輩が涙目で写真部の部員とハイタッチを交わし、津雲(つくも)先生へ勝利のハグ。

 唐突の行為に、津雲先生は困ったように笑ったが、決してハグを嫌がらなかった。

 

「売り上げとアンケートが別って、ズルくないですか? 総合1位とかで纏めたら、絶対にミス研が取ってましたよ~」

「……私も展示、見に行ったけど……どこに、そんな要素が?」

 

 1年2組・美浦(みうら) エミリは文句タラタラ。聞こえた3年1組・山吹(やまぶき) 薫子(かおるこ)先輩は元会計へ問うが、答えようがない。

 

〈それでは最後に突然ですが……。新副会長の千家君より、ピアノの生演奏を披露します。曲目は『悪魔組曲』ですっ〉

 

 紹介を受け、千家が壇上に立って一礼。グランドピアノへ腰かけた。

 予定になかった進行、(いち)達も顔見合わせてキョトンとする。先生方に動揺がない為、七瀬が捻じ込んだのだろう。

 微かな私語を物ともせず、千家は鍵盤へ指を這わせる。彼の長い指先でも、曲のリズムがズレたり、ワンテンポ遅れたりしている。それでも、止めない。必死に曲を追う姿は、美しいと思った。

 ステージの脇が何気なく視界に入り、水沢の姿を目にする。愛する人の為、奏でている。全校生徒に向け、彼女への愛を語っていた。

 凄まじい愛の重さを感じ、(いち)の目に涙が溢れた。

 第3楽章を弾き終え、自然と拍手が起こる。閉会式は、こうして終了した。

 

 但し、大掃除が終わるまでは学園祭だ。

 垂れ幕、ポスター、アーチが僅か1時間で撤去され、校内は普段の姿を取り戻す。

 やっと終わった解放感、まだ続いて欲しかった名残惜しさ。生徒は正反対の想いを黒板へ書き込み、各々が打ち上げで盛り上がった。

 

「金田君、ちょっといいかしら?」

「白樹先生、どうしま……薔薇の花束?」

 

 教室から出ようとした時、白樹(しらき)先生に呼び止められる。その腕にある赤い薔薇の花束、弁1枚1枚、茎1本に至るまで瑞々しい。夏休みに、よく似た咲き模様を見た気がする。

 

「すげえ、白樹先生。金田にプレゼントですか?」

「フフフ……違うわ、神矢君。匿名で届いたのよ。昨日の演劇に、心打たれたってメッセージカードも入ってるわ」

「……わざわざ、ありがとうございます。担任の先生が持って来るところを……」

 

 神矢達も見事な薔薇に誘われ、注目。白樹先生は花束をそっと渡してくれた。

 添えられたメッセージカードには【大司祭へ】と宛て名書きされ、(いち)は続く文字を読み上げる。

 

「【血のように赤い薔薇をどうぞ】、……差出人不明ですか」

 

 初めて目にした文言。

 そのはずが、(いち)は光栄に似た感情が浮かぶ。ずっと見守られているような安心感すらあった。

 

「血のようにって、何だよ。流血シーンなんてねえじゃん」

「金田……これ、どうやって持って帰るんだ? お前はバイクだし、打ち上げも行くだろ」

 

 クラスメイトの声に我へ返り、薔薇の行き場を考える。この美しい薔薇を自宅へ持ち帰る間、花弁が散っては勿体無い。

 と言うワケで、演劇部の部室へ飾る。緒方先生の許可を得て、空いた花瓶も借りた。

 夕暮れに咲く薔薇、何とも絵になる構図に感無量だ。

 差出人へ会えたなら、是非とも感謝を伝えたい。心から、そう思った。

 

 打ち上げ先で偶然、七瀬達1組と出くわす。高校生の行先は大体、同じだ。ハジメや3人トリオも会話に混ざり、お互いに感想や愚痴を言い合った。

 

「そうだ、美雪さん。金田にファンから、薔薇が届いたんだぜ。メッセージが洒落ててさ」

「血のように赤い薔薇……と。ちょっとロマンチックでした」

「「……へ?」」

 

 神矢が薔薇の話を持ち出し、(いち)も気分良く報告する。

 途端、七瀬とハジメは顔面蒼。折角の打ち上げ中も、やたらとテンションが低い。秋絵との関係さえ、からかわないなど非常に心配だ。

 (いち)がどれだけ問い質しても、終ぞ教えてもらえなかった。

 

(竜太ン家に行くなら、……携帯電話を持って来ねえとなあ)

 

 本人の了承を得ていないが、無問題。

 明日から代休日、2連休。

 バイトは明後日にするとして、明日は完全に休もうと決め込んだ。

 

「只今、帰りました」

おかえり~(いち)! 朝木さんの話……」

 

 堂々と金田家へ帰宅し、金田祖父の好奇心は無視しておく。自室へダッシュし、適当な着替えをサイドバックへ詰めた。

 充電バッチリの携帯電話を手にし、黒沼先生からの着信に気付く。嬉しさのあまりに早速、折り返した。

 

(いち)です。黒沼先生、こんばんは。どうされましたか?」

〈ごめん、(いち)君。どうしても……キミを頼りたい〉

 

 電話向こうの黒沼先生から、声だけでも苦悩が伝わった。

 何かに途轍もなく、困り果てている。大の大人であり、普段から世話になっており、兄の如く身近に感じている。そんな相手に弱弱しい口調で頼られてしまえば、(いち)の返事はひとつしかない。

 

ハイ、喜んで!

 

 この返事が齎した結末を、後悔しない。

 誰に問われたとしても、自分はそう答える。だって、他の誰でもない黒沼先生に頼られたのだから――。




鷹島「鷹島 友代です。本日は、本校にお越しいただきありがとうございます。……私もいますよ、ちゃんと行間を読んでください。さて、次回は『【瞬間消失の謎】を生徒会に知られるな-岡持』。アイドルに興味……ありますね、あくまでも小説の素材としてですが……」

轟 美和子、山吹 薫子
誰が女神を殺したか?ゲストキャラ

新美術部顧問の先生
金田一二三誘拐殺人事件、八咫烏村殺人事件の冒頭に登場。作中にて中津川の後任

囲碁部顧問・大塚、星 桂馬、小角 由香里
血溜之間殺人事件ゲストキャラ

はじめと美雪の担任・吉長、歴史の須貝
それぞれ雪鬼伝説殺人事件、魔神遺跡殺人事件モブキャラ

八尾 徹平、森 宇多子
それぞれ魔犬の森の殺人、首吊り学園殺人事件ゲストキャラ

氷垣 岳史、山根 優香
それぞれ雪霊伝説殺人事件、悪魔組曲殺人事件アニメ版ゲストキャラ

伊志田 純、鹿沢 直美
それぞれ不動高校学園祭殺人事件、証言パズルゲストキャラ

3年の久里、加背、成瀬、2年の白石
オペラ座館殺人事件、魔神遺跡殺人事件に名前のみ登場

薔薇の贈り物主
誰が女神を殺したか?原作漫画にて作者の遊び心で登場、変装もせず堂々と学校にいた。作中にて、一般客に紛れ込む
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