金田少年の生徒会日誌 作:珍明
洋子を「香取さん」と呼んでいます
実家の弁当屋に差し障りのなくて、そこまで気合の入っていない部活動。寧ろ、在籍するだけでも良い。それだけで、選んだ。
コバルトマリン号へ乗船したのは、まぐれ。夏休みくらい遠出しろと、両親から労われた。
『幽霊船長』騒動に巻き込まれたが、ビックリ仰天の再会に立ち会った。
――まさに、善いこと尽くめ。
武則はそう思っていたが、
船上に偶然、居合わせただけの彼は何かしらの手段を用いて、事件を解決した。
報道される事のない武勇伝。
「岡持君、自分も鹿島さんのお見舞いに行きました」
「ああ、あのオジサン……元気してた?」
「はい、ベッドから飛び起きる程です。洋子さん、近々……岡持君のお店へ伺うそうです」
「それは嬉しいな。いつでも、大歓迎だぜ」
中間テスト前にその報せを受け、「行くの、遅っ」と思いはしたものの、口を噤んだ。
学園祭の準備中、それは英断と確信した。
「桜樹先輩、
「人聞きの悪い、
人目を避けた場所、桜樹先輩と
「でもまあ……そうね。
「……桜樹先輩……、ありがとうございます」
会話の内容はほとんど聞き取れない。けれども、
「ところで話は変わるけど、『4億円事件』犯人逮捕の記事も展示していい? どうせ、
「桜樹先輩……今、真面目な話してたんスけど……」
「え!? あの3人、
衝撃的ニュースを聞き、話へ割り込んでしまった。
「……岡持、聞いてのかよ。ったく……俺はマジで、何もしてねえ。言えんのはそんだけ」
意外だった。彼の謙虚な一面を知り、お調子者の認識を少し改めようと思った。
約束通り、
案の定、
「竜二君、高校生ばっかりで緊張してる~?」
「い、いいえ……」
(……良いなあ、初々しい)
「佐木、彼女達を頼むわ。俺、弁当取りに行ってくる」
「了解しました。色々巡って、ミス研の部室へ案内します」
「んじゃあ、あたし……コーヒーカップ行きたい」
「つ~か、今のどっちが喋ったん? 佐木君、兄弟で声も似すぎ、ウケる」
昨日に引き続き、ミス研の昼飯に弁当を頼んだのだ。しかも、1年生・
去年より一般客が多くて、活気溢れている。
賑やかな雰囲気は、好きだ。
「キミ、キミ。それ、すっげえ良い匂い。どこの出し物? あ、俺は敷島。そこの屋台でスイートポテト、売ってんだ。ひとつやるよ」
「ごめん、これは俺ン家で用意したヤツなんだ。俺は2年の岡持、家が弁当屋でさ。タダじゃあれだし、俺の分と交換っ」
「そんなつもりじゃなかったけど、サンキュー。もうひとつ、やろう。店の住所、聞いてもいいか?」
「勿論っ」
「聞こえたちゃったけど、ご実家が弁当屋さんなの? ここで、模擬店出せばいいじゃい」
「……っ、あ~ウチの部はミス研なんで……弁当とは無縁って言うか。家族で経営してるから、作れる量も限られてくるんだよ」
「だったら、尚の事。先着何名様まで、弁当販売って形にするのよ。売れ残ったら、それこそ部で買い取ってもらえばいいわ」
「……お、おう。ありがとう……参考にするわ」
通りすがりの
「そのチラシ、
「あら、目敏い。これ、父の会社がスポンサーなの。夏に始まったばかり……(以下省略)」
虹枝の持つチラシについて触れしまい、延々と宣伝された。弁当を持っていなければ、解放してもらえなかっただろう。
「なあ、そこのお前。ミス研の場所、知らないか? 俺は五十嵐、こう見えても大学生だ」
「俺、ミス研なんで。案内しますよ」
三城大理工学部3年・
受付にいる
「岡持先輩、僕が運びます」
「京谷、すまんな。頼む」
働き者の京谷が弁当箱を隣の生物標本室改め、貴重品展示室へ運ぶ。
「はっは~、蘆屋病院の事件記事も展示してんだな。こっちはコバルトマリン号……やっぱりこれも、桜樹 るい子が解決したのか?」
「そちらは、岡持君の活躍ですよ」
「白神さん、誤解を招くからっ」
五十嵐の質問に白神が勝手に答え、武則はやんわりと否定。事件後も文字通りに走り回ったルポライターに比べれば、活躍とは呼べない。
不意に、入口から聞き慣れた声で騒がしい。
「腹減った~、岡持……弁当持って来た? それ楽しみで、朝飯抜いたんだぜ」
「はじめちゃんったら、嘘吐かないの。
「クスクス……
「!?」
武則がドキッと胸を高鳴らせたのは、生徒ではない少女。帽子とサングラスで顔を隠しても、人気アイドル歌手のオーラは隠せない。
TV画面や雑誌で見るより、可愛い。体も細くて、華奢。人形のような作り物めいた美しさとは、まさにこの事。
「
「してない、してない。気付いてないだけだって」
「……ひょっとして、雪影村の社さんですか?」
もう1人の連れ・
「べ、弁当は届いてるぜ。七瀬さん」
「フフフ……それじゃあ、今いる人から食べちゃって。お客さんいるから、廊下へ出て、順番にお願い」
玲香ちゃんを意識せずには、いられない。七瀬に見抜かれ、温かい眼差しで笑われた。
「私は要りませんので、誰かどうぞ」
「白神さん、いいんスか♪ じゃあ、れ……ポ~ちゃん食べる? 食事制限とか、なければ……」
「は~い、ポ~ちゃん食べま~す♪」
ポ~ちゃんって呼び名、どこから来たんだろうか? 意味不明で可愛い。飼っている猫の名前から捩ったと、数年後に何となく気付いた。
「俺さ、昨日も食べたし……社さん、どうぞ」
「……ありがとう」
「あ~ん、
「!?
「はじめちゃん、さっさと食べちゃって!」
美少女2人……否、3人に囲まれ、羨ましい。と言うか、ムカつく。
武則以外の男子部員も同じ気持ち。嫉妬の炎を消化するが如く、停電。
それは『ホームズの孫』による盗難事件発生だった。
生徒会にバレたら、容赦なしの廃部。この危機を
「俺に推理勝負を挑もうなんて、百万年早いわ」
「……っ」
「京谷君、タイミングを間違えたみたいね」
「「
「あ~あの子が、噂の……」
桜樹先輩の笑い声に、ハッとする。香取を含めた野次馬の数は増え、佐木兄弟もハンディカムを回していた。
「あれ、七瀬さんは?」
「社さんと演劇部に顔を出すって、ちょっと前に行っちゃったよ。岡持君、見・過・ぎっ」
「さっすが、
「いいや。桜樹先輩……犯人の見当、とっくに付いてたんだろ」
「あらっ。後輩の可愛い挑戦を受けるのも、先輩の務め。皆さん、愉しんで下さりまして?」
玲香ちゃんに抱き締められ、
「
五十嵐は満足そうに呟き、生物室を去っていった。もっと話し込んでいれば、彼の先輩達が如何なる末路を辿ったか、この場で知る事が出来ただろう。
祭の雰囲気にそぐわぬ情報、それを知らなくて良かったとも言えた。
「京谷、このトリックの為に金かけたなあ……」
「よっぽど、
武則は村上と一緒に、京谷の犯行に利用された弁当箱を片付ける。まだ手付かずの分を発見し、
「岡持君。それ、貰ってもいい?」
「香取さん、そんな……冷めちまってるぜ。帰りに俺ン家、寄りなよ。出来立てを食わしてやるから」
香取に残りを強請られたが、とんでもない。彼女の分はキチンと用意したい。弁当屋の従業員としての小さな誇りから、家に誘っていた。
「……そうね、お父さんの分も買いたいから。そうするっ。佐木君、次のおススメに案内してくれる?」
「「それなら、3年1組です。飯島さん、美里さんも行きましょう」」
「「は~い」」
香取は柔らかく微笑み、佐木達と校内を巡った。楽しそうな彼女達に、学園祭へ来てくれて良かったと心から思った。
「白神さん、洋子さんに付いて行かねえんスか? 知り合いなんっしょ?」
「私は十分、彼女と話しています。
その後、武則は玲香ちゃんへ付き添う。
ミス研や組の当番を考えれば、時間があるのが自分だけ。万歳三唱の衝動を堪えた。
「征丸、神矢達と一緒だったのか」
「ああ、うん。正確には……七瀬さんと言うか、社さんに引っ付いていたよ」
(……う~ん? どっかで見た顔だ)
七瀬と合流しようと演劇部の部室へ向かったところ、
「
「……あ、ありがとう。ポ~ちゃん……」
武則が必死に記憶を辿っていれば、玲香ちゃんに耳打ちされた。吐息が聞こえる距離まで詰められ、
征丸以外にも、巽家の人間は他にもいる。
スキー部による猫の出し物、そこに
「宮園、どうだ? ウチの学園祭っ」
「
「アナタ、午前中もここにいたけど……猫好き?」
「さあ、どうかしらね」
物静かな2人の会話を聞き、武則は無意識にグッズを買った。
「岡持君、もしも……ポ~ちゃんに渡すつもりなら、ダメよ。形に残る物は、受け取っちゃいけないの」
「なん……だと?」
七瀬に注意されたが、会計前に言って欲しかった。二重の意味で、残念。
「あたし……それ、欲しい」
「そう? 東京記念にどうぞ」
もえぎからおねだりされ、武則は何も考えずに渡す。行き場のない猫グッズは、遠方まで足を運んでくれたプレゼントへ変わった。
巽家の事情を深く知らず、彼女は気の利く良い人だと呑気にそう思った。
「森さんの占い、行った? 水晶とか、タロットカードでも占ってくれるよ」
「「「……」」」
宮園がお勧めした瞬間、
玲香ちゃんの実家だったタロット山荘の惨劇を報道でのみ知る身としても、非常に居た堪れなかった。
ただでさえ非日常の学園祭、玲香ちゃんの存在が更に時間を加速させる。
放送委員より本日終了の放送がかかり、先ずは一般客が校門を抜けていく。武則達は玲香ちゃんを見送ろうと、ギリギリまで傍に張り付いた。
「皆さんのお陰で、楽しかった♪ 今日はありがとう、
「……どうも」
玲香ちゃんと七瀬の火花に、男子一同は我関せずと口を噤んだ。
「お仕事、頑張ってくださいネ。
「「っ」」
「ほらほら、ポ~ちゃん。真北さん、来てるぜ。行って行って!」
美浦の余計なひと言に修羅場は悪化、
「俺も抜けるわ。佐木、後を頼む」
「「はい、岡持先輩。こちらはお構いなく」」
武則も約束を優先し、佐木兄弟達に今日の戸締りを任せた。
「岡持君、こっちこっち」
「……香取さん、そちらは?」
「……知らずとも好い」
待ち合わせ場所へ行けば、香取の傍には物々しい女がいた。黒いカーディガンとサングラス、武則の母親と歳近い。但し、立ち振る舞いはサスペンス劇場に登場しそうな刑事の如し。
つまり、おっかない。
女性ではなく、女。その呼び方がピッタリ。
「大丈夫、あたしを迎えに来てくれたの。乗って、乗って」
「は、はあ」
香取に笑顔で急かされ、武則はガクブルしながら、横浜ナンバーの後部座席へ乗り込む。全員のシートベルトを確認し、車がゆったりと発進した時には心臓が痛いくらい緊張した。
こんな事ならば、佐木兄弟にも声をかければ良かった。
「岡持と言ったな、貴様」
「は、はい!」
運転手の女の力強い声を聞き、言葉よりも先に肩が痙攣した。
「礼を言うぞ、岡持。よくぞ、鹿島 伸吾を助けてくれた」
「……はあ、あれは……香取さんのお父さんが、勇気を振り絞った結果です」
自分は自宅兼店舗の我が家を教えただけ、残りは本当に本人の勇気だ。
「いいや。貴様が諦めず、焦らず、奴が自分から話すのを待った。……もっと誇りに思え、警察の感謝状くらいにはな」
「ハハハ……感謝状なんて、貰ってないですよ」
「え?」
口元に笑みを見せ、彼女は武則を称賛してくる。芝居っぽい口調に段々と慣れ、どうにか笑い返した。
香取がギョッとした瞬間、急ブレーキ。
シートベルトがガクンッと肩へ食い込む。脳髄が揺さぶられた感覚に一瞬、意識を飛ばしかけた。
「岡持君……本当? 賞とか……何にもなし?」
「え、だって……俺は普通に道案内しただけだし……特別な事なんてしてねえよ?」
目を見開いた香取に問い質されても、武則は事情聴取以外、警察から音沙汰なし。竜王丸の冤罪についても、桜樹先輩達が報道や過去の新聞を探り、ようやく全容が分かったのだ。
例として
函館へ行った誰かさんが貰った話は、この時点では聞いていなかった。
「……そういうトコやぞ、警察……」
運転手の女は警察へブチ切れ、武則は他人事でも恐れ戦いた。
弁当を購入してくれた後、彼女達は抗議したのだろう。後日、警視庁から正式に感謝状が届いた。
感激した両親が店の神棚へ飾り、武則の羞恥心に構わず、お客さんへ自慢しまくったのは言うまでもない。
真壁「真壁です……、岡持君よ、僕を忘れてないかい? ああ、行間にいるってヤツだね。ぐぬぬ……まあ、アイドルが僕に恋したら、大変だしね。仕方ない、仕方ない。さて、次回は『【瞬間消失の謎】を生徒会に知られるな-フミ』!! 次の回も……僕は行間?」
岡持 武則
お家はお弁当屋さん。目閉じキャラだが、アニメ版ではカッと目を見開いていた
作中にて、玲香ちゃんのファン。ホームレスだった鹿島船長を警視庁へ案内し、感謝状をゲット
京谷 雅彦
自称ホームズの孫、美雪に好意的。はじめちゃんに恥を掻かせようと大失敗。金田一少年の決死行にも登場
作中にて、生徒会長に立候補したり、美雪へのアピールは続く
美浦 エミリ
はじめちゃんに好意的な準レギュラー、恋のライバルがアイドルだろうとお構いなし
村上 草太
脅迫状なんてただのイタズラと相手にしなかった。何回も読み返したけど、本当にいつの間にかミス研にいた
作中にて、生徒会執行部にも入った
巽 もえぎ
飛騨からくり屋敷殺人事件ゲストキャラ、誰が女神を殺したか?原作漫画にて、作者の遊び心で登場
作中にて、征丸と再会する
敷島 大吾、虹枝 光代、五十嵐 郁登、宮園 彰
それぞれ吸血桜殺人事件、飛込プールの悪霊、魔犬の森の殺人、首吊り学園殺人ゲストキャラ