金田少年の生徒会日誌   作:珍明

153 / 153
前回の翌日、北海道
我慢できなくて、フ○ーツバス○ットのネタを使ったけど後悔はない
ここからアンチ・ヘイトのタグを追加します


Q49 露西亜人形殺人事件・五重奏との対面

 騙された。

 北海道の空港へ降り立った瞬間、(いち)はそう確信した。

 黒沼(くろぬま)先生に呼び出され、遠路はるばる駆け付ける。大役を任され、勝負服でもある学ランに袖を通しての来訪だ。

 だが、合流先で待っていた予想外の相手。携帯電話を握りしめ、手元を見ずに彼の電話番号へ繋いだ。

 

(いち)君、有頭さんに会えたんだね〉

――謀ったな、黒沼――

 

 電話口の様子は大変、申し訳なさそう。

 普段ならば許してしまうが、今回は違う。あの逝去したミステリー作家が関与しており、黒沼先生に頼まれなければ、絶対に引き受けない内容だ。思わず、礼儀を忘れた。

 

「黒沼先生、次のお出掛けは一緒だと言ってくれたのは……嘘だったのですか? 本気で、楽しみにしていたのに……」

〈俺、今日が当番なんだ。どうしても、事務所で待機していないといけなくて……本当、ゴメン! 何にもなかったら、明日にはそっちへ行くようにする! 絶対だから!〉

 

 恨みがましく訴えれば、黒沼先生は来られない事情を語った。

 弁護士の当番。

 残間(ざんま)の顧問弁護士・村上(むらかみ)先生から聞いた覚えがある。半年前に日程が決まり、当日は予定を入れずに待機するという。

 そこまで重要ならば、先に言え。

 こちらとら折角の二連休も潰れ、足りない日数は学校も休まねばならない。夜遅くに学校へ電話連絡し、偶々当直だった担任の先生から「そういう事情なら……公欠扱いに出来ないか、校長と検討してみる」と有り難い配慮まで頂いたのだ。

 この時に聞いたが、異人館ホテルの事件捜査も公欠扱いだった。

 

(こんなの絶対、おかしいよ!)

 

 憤ったままに罵詈雑言が飛び出しそうで、学帽を深く被った後、深呼吸を繰り返す。暗い視界と北海道特有の冷たい空気が肺に取り込まれ、カッとなった頭が冴えていった。

 

「……残間の方が、良かったのではありませんか? 有頭さんと面識ありますし……」

〈それは俺も言ったけど、これは金田姓の人にしか任せられないんだってさ。……ハイ、分かりました。ゴメン……そろそろ、切るよ。有頭さんには、くれぐれも失礼のないように言ってあるからね……プッ〉

 

 意味深な言葉を残し、通話は一方的に切られる。

 完全に、騙された。(いち)は落ち込んだ心情のまま、その場へ座り込む。ヤンキー座りになったが、気にしない。

 

「金田さん。そろそろ、宜しいですか?」

「宜しくないです」

 

 今回の発端、有頭 大介(ありとう だいすけ)弁護士はどこ吹く風。お互いに、名前だけは知っていた。

 つまり、初対面。

 (いち)はお構いなしに、難色を示す。座っていては通行人の邪魔になる為、学帽の鍔を強く握ったまま立ち上がった。

 

「確認でお伺い……」

「いえ、すぐにでも出発します。行きすがら、情報のすり合わせをしておきましょう」

 

 業務的に告げられ、イラッとする。

 しかも、駐車場での盗難騒ぎに巻き込まれ、迂闊にも有頭弁護士が空港警察から容疑者扱いされてしまう。(いち)は必死に名探偵の孫の代理人となり、紛失物を発見。

 ものの20分、人生最速の解決だった。

 

「金田さん、もっと早く助け舟を出してください」

(……感謝は期待してねえけど、文句を言われる筋合いもねえわ……)

 

 有頭弁護士の頼りない姿を不安に思い、顔見知りの道警へ連絡しておく。行き先を告げれば、「断りなさい」と切れ気味であった。

 

「早く乗って下さい、時間が押してます」

「……誰のせいだ

 

 彼は自身を棚に上げ、人を急かす。(いち)のぶっきらぼうな声は聞こえたはずだが、無視された。

 後部座席へ乗ろうとしても、助手席を指差される。話がある為に渋々、従った。

 

「有頭さんは、とある画家の顧問弁護士と伺いました。山之内……先生と、どういう関係ですか?」

「……そちらの方との契約は、終わりました。申し遅れましたが、私は今回、山之内先生の顧問弁護士代理人として派遣されました。実際に先生の指示を受けたのは、顧問弁護士である私の上司です」

 

 顧問弁護士代理人、とても便利な言葉に聞こえる。黒沼先生がやって欲しかった。

 

「自分は母に代わり、山之内……先生が残した推理合戦の立会人を頼まれました。5日間、先生の最期を迎えた別荘へ滞在するようにと」

「はい、概ね一致(いっち)します」

 

 シートベルト装着後、車を発進させてから急ぎ早に説明がなされる。

 山之内(やまのうち) 恒聖(こうせい)は天涯孤独の為、莫大な遺産の相続人にとある5人を候補に指名していた。山之内本人を含め、六重奏(セクステット)の素人楽団を組んだ親しい間柄だが、相続資格は1人だけ。

 この時点で、泥沼。

 事前に配られた『暗号』の謎を解き、定められた期間(今日から5日間)内に別荘へ隠された『景品(第2の遺言状)』を手に入れる。

 先日に関わったばかりの暗号ゲームと同じで、ゲンナリ。

 

「……有頭さんは『答え』を知っているのですか?」

「いいえ。公平を期す為に上司と私自身にも、遺言状の内容や隠し場所は知らされておりません」

「……でしたら、監督役の有頭さんだけで十分では? 自分と言うか……金田家の人間、要ります?」

「先生は、是が非でも……金田 にいみ様、つまり……アナタのお母様に全てを見届けて欲しいと願われていたそうです。こちらが、そのお手紙です」

 

 山之内の思惑に心当たりがあり、ゾッとする。

 【にいみ様】と宛名書きされた花柄の便箋、へりくだった文章で立会人を頼む旨と、4桁の数字……にいみの誕生日が綴られていた。何の嫌がらせだろうか、帰りたい。

 

「……何の数字ですか、これ……」

「お母様の誕生日と伺っておりますが……それ以外は何とも」

 

 と言うか、母・にいみは『様付け』で、息子の(いち)は『さん付け』。この扱いの差、地味にムカつく。

 

「お母様はおろか、金田家の誰も参加されず、5日目を迎えた場合……『第2の遺言状』は効力を失います。その場合、相続は『第3の遺言状』の内容に従って執行されます」

(……3つ!? どんだけ用意してんだ……)

 

 執念を感じて、気持ち悪い。にいみが逃げた理由も、分かる。

 

「あちらに着きましたら、外部との連絡は取れません。館の通信手段は全て取り外され、携帯電話も場所によっては電波が入りません。期限内は絶対に、使わないで下さい

「……左様ですか(ウザ……)」

 

 車が進めば進む程、道路は濃霧に包まれる。ガードレールの向こう側に見える湖による自然現象、遺産争いさえ、水に流せそうな美しい光景だ。

 湖の上に不自然なタマネギ型の人工物が5つも見え、到着を教えた。

 

「……ロシア風建築?」

「はい、その見た目通り……露西亜館と言います」

 

 (いち)は車から降り、寒さに学ランの襟を掴む。

 浮島にひっそりと建てられ、湖を渡れば完全に世俗から切り離された異国の建物。気温の低い霧の中でぼんやりとした輪郭故、夢の中にいるような夢見心地な気分だ。

 遺産相続の舞台には、壮麗過ぎる。

 

「有頭様……お疲れ様でございます。そちらが金田様でございますね。私、山之内先生の執事、田代と申します。ようこそ、お越し下さいました」

「どうも、田代さん」

 

 (いち)がひと呼吸したタイミングを計り、霧から抜け出たような現実味のある声。還暦を越えた田代(たしろ) 富士夫(ふじお)は執事に相応しく、歓迎の挨拶を述べた。

 有頭弁護士と同じ丸い眼鏡だが、気品が段違い。

 

「金田と申します。田代さん……遅くなりましたが、この度はお悔やみ申し上げます」

「……これは、ご丁寧に。山之内先生もきっと、喜んでおられます」

 

 主人を亡くしても尚、執事と名乗る彼の心情を思えば、言わずにはおれない。

 田代執事の穏やかな表情が更に綻び、優しく頭を下げてくれた。

 だが、山之内本人は(いち)の参上など快く思わない(・・・・・・)。波風立てる発言を慎んだ。

 

「先生呼びしているのですね……旦那様とか

「はい。山之内先生の希望に御座います。ご自分はあくまでも、世話を頼んでいる身だからと……」

「金田さん、行きますよ」

 

 人が話すにも構わず、有森弁護士はまたもや急かす。(いち)は舌打ちを堪え、ボートの操縦士へ会釈しながら、乗り込んだ。

 

「ここからは船になります。向こう側は、メイドの桐江が館へ案内致します」

「田代さん、他の方の到着を待たれるのですか?」

「田代さんは、最後に来られた方と戻る事になっています。さあ、行ってください」

 

 有頭弁護士の声に答え、操縦士は発進させた。

 湖を掻き分ける水音と水飛沫が肌寒く、学ランで良かったとつくづく実感。

 

 ――リーンゴ―ン、リーンゴーン

 

 美しい鐘の音が霧と重なり、子守歌にも聞こえた。

 

 岸へ到着し、操縦士は会釈だけしてボートと共に元の場所へ向かった。

 より近付いた露西亜館、ローマ字表記の文字盤時計と簡易梯子がよく見える。腕時計と同じ、午前11時を過ぎていた。

 

(カリオストロの城っぽい……)

 

 家紋らしき紋様はなく、のっぺりとした外装。無機質さが却って、訪問者を夢と現実の狭間に立たせる。何とも、ロマンチックだ。

 失礼ながら、山之内の終の住処に相応しくない。

 正面玄関の扉が開かれ、髪をひと結びにした少女が現れる。エプロンが無ければ、件のメイドと分からない身軽さだ。

 

「桐江さん、こちらが金田さんです。金田さん、メイドの桐江さんです」

「金田と申します。お世話になります」

「はい。有頭さん、幽月さんと犬飼さんが到着しています」

 

 有頭弁護士に紹介され、桐江 想子(きりえ そうこ)は控え目に笑うのみ。客人の荷物を持つ素振りさえ、見せない。

 

「ああ、やっぱり……。金田さん、急ピッチで支度しますっ」

「皆さんへご挨拶……」

「午後2時に集まりますから、そこで構いません」

(適当過ぎ……)

 

 上等なカーペットや調度品を眺める間もなく、有頭弁護士は先を急ぐ。こちらが荷物を持っていようと、遠慮がない。彼の視線から行き先に予測を立て、階段を段飛ばしてやった。

 

(……あの人に荷物、預ければよくね?)

 

 ちょっとした疑問に階段途中から、玄関ホールを見下ろす。桐江は正面玄関を閉め、別の方角へ歩いて行くだけだった。

 

「有頭さん。桐江さんは最近、雇われた方ですか?」

「……さあ、私は知らないですね。それが何か?」

「挨拶されませんでした」

「は?」

 

 廊下の壁に飾られた絵画を見ながら、疑問をひとつ。案の定、有頭弁護士は困惑を示す。

 

「田代さん向こう側で、桐江さんが待っていると言っていました。実際は、館の中です。有頭さんが紹介しても、名乗りを上げないどころか……何の挨拶もありませんでした。誰かの変装とは、考えられませんか?」

「……変装って、ミステリーの読み過ぎでは? やらない人は、そんなモノですよ」

 

 自分は、前例のある身。

 疑いの目は摘んでおきたかったが、有頭弁護士の素っ気ない言い回しは一理ある。

 それはそれで、桐江の接客態度は如何なものかと思った。

 

 時計の塔・応接間は、大時計の真上に当たる位置だ。

 マントルピースの彫りこみ、飾られた絵画、ライトスタンド、ソファー。どこに目を向けても高級品、今まで見た別荘は職場の雰囲気が強かったが、ここは客を持て成すホテルの印象を受けた。

 

「先ず、こちらにビデオメッセージがあります。午後2時と午後10時に、ここで流します。金田さんもご覧下さい」

「あの人形、何ですか?」

「山之内先生の暗号です。スタンドと楽器、カーテンも取っ払って……指示通り、リモコンも動くと……」

(人形に同じ楽器、持たせてんな。第1ヴァイオリン、第2ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ、コントラバス……本物と違って、同じサイズかあ……凝ってんな)

 

 キッチリと密封された封筒、手にした感触からビデオテープが入っている。その間、有頭弁護士はひとつ、ひとつ、確認。ただ気なるのは手袋もせず、平然と素手でそれらを触る様子だ。

 雑なのか、几帳面なのか、彼の性格がよく分からない。

 

「有頭さん、ピアノはありませんか?」

「ありません」

 

 こんなやり取りを繰り返し、準備完了。

 昼間だと言うのに薄暗い室内、湿気も相俟って、(いち)は段々と眠気が襲ってくる。黒沼先生とお泊まりにハイテンションとなり、徹夜だったのが災いした。

 

「有頭さん、横になっていいでしょうか? 眠くて……」

「ああ……私達の分、お昼が用意されてますが……」

「いえ……折角ですが」

「分かりました。金田さんは起きた時に、召し上がれるとお伝えします」

 

 テレビの前に置かれた大きめのソファーへゴロンッと仰向けになり、学帽で顔を覆う。背中が眠る体勢になれば、前頭葉にピシピシとした眠気、四肢の筋肉を引っ張る疲労感、体は正直だ。

 

(……そういや、あの人の作品……読まずに来ちゃったなあ。【露西亜人形殺人事件】って、やっぱし……ここがモデル……)

 

 5体の人形に見守られながら、寝息を自覚した。

 

(いち)……、山之内には何があっても関わるな。奴の人生は、恨みしかない。貴様も……薪にされるぞ

 

 にいみの警告が脳髄の奥から、囁いてくる。

 ゆりかごに揺さぶられるような浮遊感、心地好い。

 

「……さん、金田さんっ。起きて下さい!

「……後30分

「皆さん、お集まりですよ!」

「……5日後に起こして下さい」

 

 有頭弁護士の語尾は強く、焦りを感じる。夢見心地な気分に浸り、条件反射で言葉を紡いだ。

 スパーンッと学帽を奪われ、眩しさに目元を腕で塞ぐ。深呼吸が脳髄の覚醒を促し、気怠さに負けまいと起き上がった。

 室内の気配は彼1人。半開きの扉から微かな物音が凡そ9人分も聞こえ、田代執事と桐江も勢揃いだろうと思った。

 

「有頭さん……もっと優しくして下さい」

「皆さん、どうぞ中へっ」

 

 奪われた学帽をひったくり、(いち)は有頭弁護士へジト目を向ける。彼は全く物ともせず、相続人候補を招き入れた。

 

「やれやれ、いつまで待たせるんだ」

「ミステリー評論家の神明先生です」

(パジャマに……バスローブ? 酒クサ……頭から被った?)

 

 完全に寛ぎモードの男・神明 忠治(じんめい ただはる)先生は口髭を撫でながら、粗暴な視線を投げつける。辛口で有名と聞いたが、あまりに無作法過ぎてショック。

 

「……犬飼君と変わんないじゃん。こんな子が立会人なんて務まるの?」

「ミステリー作家の梅園先生です」

(今度は煙草クサ……)

 

 赤い唇に咥え煙草、胸元の谷間を目立たせた女・梅園(うめぞの) (かおる)先生は小馬鹿にして笑う。ミステリー大賞に輝いた処女作【死者の砂時計】しか、知らない。

 

「でも、絵になる方ね。最近、読んだ右竜先生の短編に出てくる主人公みたいだわ。ねえ、宝田さんもそう思わない?」

「挿絵画家の幽月先生です」

(は? 右竜先生の短編って、あれか!)

 

 右側を前髪で隠し、首のチョーカーが印象的の女性・幽月(ゆうづき) 来夢(らいむ)先生は殊更可笑しそうに微笑む。とんでもない情報を聞かされ、ビックリ仰天。

 その後ろに背が高く、目元と鼻を隠す仮面を着けた男が付き従う。晒された口元と首筋の肌は20代と推定されるが、彼の紹介は省かれた。

 

「生憎、ウチの出版物ではないので」

「大手出版社の副編集長、宝田さんです」

(……これで4人)

 

 愛想笑いに無関心を覗かせ、眼鏡を拭う男・宝田(たからだ) 光二(こうじ)は緊張気味に室内を見渡す。起き抜けにしては紹介が多くて、シンドイ。

 

「僕は犬飼 貴志。キミは誰だい?」

「山之内先生の隣人、犬飼さんです」

(紹介……雑っ)

 

 一見、友好的な高校生・犬飼(いぬかい) 貴志(たかし)貴志は手を差し出し、握手を求めてくる。一挙手一投足を見逃さない眼光は、探偵や記者に近い。しかし、どうにも素人丸出しで可愛げがある。

 

「金田と申します。皆様の推理合戦を間近で観戦できる機会を頂き、恐悦至極に存じます」

 

 その手を取らず、(いち)は極自然な動きで両手を後ろに組む。視線のみ動かし、顔触れを見渡す。肺に住まう緊張は深呼吸で胃へ流した。

 

「つきましては……そこな名探偵の孫と元生徒会長、帰れっ

 

 ――!?

 

 最後に入室した不動高校ミス研・お馴染みのメンバーに正直、一番ビビった。

 (いち)はブチ切れ笑顔で、指サインを送る。ギョッとした5人の視線が一斉に、彼らへ注がれた。

 

「ちょ……待てや、こら! なんで、俺と美雪だけなんだよ。佐木1号は!?」

「貴重な記録係で、可愛い後輩です」

「あ……やっぱり、金田君なのね」

今日日(きょうび)、学帽がここまで似合う人なんて、金田先輩以外いませんよ」

 

 ハジメは安定の喚き声を響かせ、七瀬(ななせ)はじっとこちらを確かめる。竜太(りゅうた)に動揺はなく、ハンディカムを回し続けた。

 

「金田さん、お知り合いですか?」

「――偶然、同じ星に生まれ、偶然、同じ国にいて、偶然、同じ学校に通う、赤の他人よ――」

てめえ、電波でも飛ばしてんのか?

 

 有頭弁護士に訊ねられ、(いち)は脳裏に浮かんだ言葉をツラツラと述べる。ハジメのキレッキレなツッコミはお見事。クスクスと笑い声も起こった。

 

「候補者でもないお三方が、何しにこの館へ?」

「助っ人だよ、助っ人。……宝田さんに、頼まれたんだっ」

「そ、そうよ。あたし達、宝田さんに頼まれたのっ」

「こちらのローゼスさんも、幽月さんの助っ人です。奇術師だそうです」

「……フッ」

 

 (いち)が嫌味たっぷりに問い質せば、2人は途端に白々しい態度。竜太はさりげなく、幽月の後ろに控えたスカーレット・ローゼスを紹介してくれた。流石だ。

 ローゼスは口元に笑みを浮かべるだけ、挨拶して来ず。(いち)は首を傾げ、仮面へ穿たれた穴を覗き込む。好奇心や歓喜に満ちた視線と絡んだ。

 

(……どっかで、会った?)

「いい加減にしたまえ!!」

 

 痺れを切らした神明先生がソファーへ乱暴に座り、進行を促す。他の候補も各々が椅子へ座り、ローゼスも幽月の隣へ腰かけた。

 満席になり、(いち)達はTV画面が見える位置へ立つ。

 

「では、山之内先生からのメッセージを公開させて頂きます」

 

 有頭弁護士は改めて自己紹介し、遺言状に関する質問を一切受けられないと説明した。

 彼の手で封は切られ、同封されたビデオテープがデッキへ挿入される。誰かの呼吸が荒くなり、物凄く殺気立った気配を肌で感じた。

 もう無理、帰りたい。

 

《やあ……親愛なる五重奏(クインテット)の皆さん》

(……六重奏(セクステット)から、自分自身を省いて……か?)

 

 画面に映った山之内は、病的に痩せこけていた。

 もうこの世にいない死者の遺言、(いち)の胃が竦む。ハジメも言い知れぬ感覚に襲われたらしく、表情が強張っていた。

 

「おお……山之内先生」

「あんなにやつれて……」

 

 生前の姿を知る面々から、驚きと労わりに満ちた声がする。

 山之内は楽団の仲間へ詫びと感謝を伝え、本題に入る。『暗号』と対になったメッセージ部分に入り、有頭弁護士がタイミングを合わせて、ライトスタンドのスイッチを入れた。

 コンスタンチン、ターニャ、オリカ、エミール、イワンと5体のロシア人形を『第2の暗号』と紹介した。

 

《さあ、参加するなら受け取って欲しい。用意されたキミ達の楽器を!》

 

 ソファーへ並べられた楽器を指す様に、山之内の指はこちら側へ向けられる。楽器へ目が行くのは、自然な行為だ。

 勿論、(いち)も。

 

《お嬢様、にいみお嬢様……来てくれると信じていました

 

 弱弱しい声は打って変わり、艶を帯びた。ゾワッと背筋が凍り付く。

 

《これより起こるは、アナタ様へ捧げし……渾身のミステリー。どうか、存分にご堪能下さいませ》

 

 ずっと病魔に苦しむ表情を堪えていた顔が、にやりっと笑った。

 そこでテープは止められても、(いち)はどうしようもない不快感に襲われる。表情を隠そうと、学帽を深く被った。

 

(ああ、本当に……気持ち悪い人だ)

 

 にいみがここに居なくて、本当に良かった――息子として、そう思う。

 

○●……――息子の心持ちも知らず、金田(かねだ) にいみは警視庁捜査一課・剣持(けんもち) (いさむ)警部と待ち合わせた。

 『大草原の小さな家』は人気も少なく、内緒話に打ってつけ。友人(多岐川 かほる)からお勧められた場所だ。

 時間帯のせいもあり、自分達以外の客はいない。

 

「先日……お願いされた相手、見付かりました。ただ……アナタやお父上に関して、知らないと申されましてな……」

 

 コーヒーにも手を出さず、剣持警部は躊躇いがちに報せてくる。恐らく、こちらがショックを受けると見越しての事だろう。

 なんとも、情に厚い人だ。

 自分としては、想定内。寧ろ、予想通り過ぎて笑えた。コーヒーカップの水面程も、心は揺らがない。

 

「あの人なら、そう言われると思っておりました。ご無事なら、それだけで満足です。ご協力、ありがとうございます」

「……いや、その……大変、申し上げにくいんだが……金田さん。生憎、こちらが(・・・・)そうも行かず……」

 

 素直に感謝を伝えれば、剣持警部はハンカチで汗を拭い出す。刑事が物腰低く、冬へ入ろうする時期に発汗する場合は大概、嫌な前兆だ。

 

「あの人に、何か?」

「……それをお伝えする前に、確認をさせてもらいたい。お父上は本当に(・・・)、藤原 玄道の兄で間違いない……ですかね?」

 

 不安に駆られ、問う。しかし、疑問を返された。

 刑事が人の名前を呼び捨てる時は決まって、事件関係者。

 静かに胸騒ぎが起こり、動揺は指先へ伝わる。それを証明するように、手にしたカップが意図せず震えた。

 自分の唇が動かず、頷きにて肯定する。剣持警部は唇を強く噛み、覚悟を決めた眼差し。新聞の切り抜きを取り出し、【刑事部長狙撃事件、警察OB逮捕】の見出し記事を指差した。

 どちらを示しているかなんて、すぐに分かる。

 背筋が凍り付く恐怖、口の痙攣に歯がガチガチと鳴った。

 

 ――ああ、アナタもそちら側(・・・・)へ行ってしまった!!

 

 最後に顔を合わせた時、虚ろな瞳の答えはコレ。心のどこかで、腑に落ちた。

 

「お父上に関して……まだ、私の方で止めています(・・・・・・)。明智警視が東京へ戻られたら、お話を伺いたい……」

「……先にっ、ひとつだけ……確かめてくれっ」

 

 深憂に沈んだ今、無礼を承知で剣持警部の言葉を遮った。

 ギョッとした彼は気を悪くせず、こちらの視線を真摯に受け止めていた。

 

「何を、調べれば?」

「山之内 恒聖から、あの人に……接触があったか(・・・・・・・)、どうかだ」

 

 妄想にして、空想に過ぎない『復讐劇』が脳裏に纏わり付く。戦慄のあまり、暖かな店内にいても底冷えする程に、寒々しかった。




桐江「開かない……なんで、金庫の番号が変わって……アイツ、余計な事……。は? 次回予告? それよりも、こっちが先よ。タイトル見せられたって……え、『露西亜人形殺人事件・トリックノート』……!?」

弁護士の村上
村上 草太の親、作中にて残間の顧問弁護士

とある画家
蒲生 剛三。作中にて県外の弁護士と顧問契約を結び、1年くらいで別の人に切り替えていた
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

平行線機能不全(作者:キユ)(原作:金田一少年の事件簿)

 自分のあずかり知らぬところで金田一一を殺されてしまった高遠遙一が、逆行転生したので「今回こそは」と会いに行ったら、なぜか平行線が女の子になっていて相手への感情を盛大に拗らせる話。▼ あるいは、過去の記憶を頼りに事件の芽を摘んでいるのに、なんだかんだと別の事件に巻き込まれてしまう金田一一の物語。


総合評価:244/評価:8.71/連載:48話/更新日時:2026年06月06日(土) 20:00 小説情報

殺人鬼達に救われる道はあるのか?(作者:コミカド)(原作:金田一少年の事件簿)

「罪を犯したモノは、その罪を償わない限り本当の幸せは得られない」▼「人の命を奪った者は、その十字架を生涯を掛けて背負わなければならない」▼「弁護士にとっての最大の使命は、罪を犯した者を心から反省させ、再び立ち上がれるように後押しする事である」▼そんな信念を持った弁護士が様々な『事件簿』に関わっていき、救われぬ悲劇に僅かな希望を掴もうと奔走する物語。▼金田一と…


総合評価:1510/評価:8.76/連載:38話/更新日時:2026年07月06日(月) 12:00 小説情報

小城探偵事務所(作者:無月)(原作:金田一少年の事件簿)

コンビニも、ゲームも、風呂もトイレもある。食事だって慣れた物だし、人種だって変わらない。▼けれど、けして安全とは言い難い世界。しかも、転生先は犯人です。▼でも、まずはお礼が言いたい。▼「コナンワールドじゃなくてありがとう! 神様!!」▼同じ推理物なら無差別に殺される可能性があり、銃刀法が欠片も仕事してないあの世界よりは大分マシ。▼なんか物理法則とか、一部化学…


総合評価:7053/評価:8.85/連載:59話/更新日時:2026年07月05日(日) 21:28 小説情報

厚い事件簿を薄くしたい(作者:あきゅおす)(原作:金田一少年の事件簿)

 二度目の人生を過ごしてきた男が巻き込まれた事件によって転生したのが『金田一少年の事件簿』の世界ということを認識してどうにかやっていくお話。▼※最初の1話以外は思いついたものから書いていますので、時系列がいきなり飛んだり戻ったりしています。なので、唐突に原作キャラと仲良くなったり、逆に知り合いじゃなかったりしますのでご了承くださいorz▼2022/3/27▼…


総合評価:4209/評価:8.42/短編:13話/更新日時:2022年03月27日(日) 04:47 小説情報

高遠遙一は、地獄の傀儡師となりえるのか(作者:wisterina)(原作:金田一少年の事件簿)

高遠遙一。金田一一のライバルにして、別名『地獄の傀儡師』と呼ばれる犯罪コーディネーターはどこで道を違えたのだろうか。▼最初の脱獄をした時か?魔術列車殺人事件の時か?彼が唯一尊敬するマジシャン近宮玲子が亡くなった時か?▼いやもっと前、高遠遙一が高校生の時。高遠が近宮玲子に似ていると評した彼女が、とある狂人によって殺されたときに狂い始めたのだろう。▼これは彼女―…


総合評価:1093/評価:8.64/完結:19話/更新日時:2026年02月02日(月) 07:25 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>