金田少年の生徒会日誌 作:珍明
「では、参加意思がお有りの方は……」
「その前に有頭さん、山之内先生のメッセージにあった『新見』というお嬢さんはどちらに? まさか、金田君じゃないですよね?」
(……当たり、キッツ……)
「山之内先生にとって、子供は男女とも『お嬢様』なのではありませんか?」
「確かにそうだ。これだから素人探偵気取りは、余計な深読みする。私はコントラバスだっ」
「よろしくお願いするわよ。助っ人のローゼスさん?」
「……」
幽月先生はそっとソファーへ座り、相方のローゼスへ意味深に微笑む。仮面の彼は無言、2人の関係性がイマイチ掴めない。
ともあれ、5人全員の参加が決まった。もう後戻り出来ず、
「さあて、この暗号の答えを考えようじゃないか」
「パッと見たところ……」
「実は僕も、この人形の大きさの違い……」
神明先生が意気揚々と仕切る中、梅園先生と犬飼も見解を述べ合う。大金に釣られた連中と蔑んでしまい、自己嫌悪に陥った。
(……
「金田先輩、僕のここ空いてますよ」
察しの良い
体温が心地良く、眠りそう。
「ダメですよ、金田さん。眠らずにちゃんと見届けて下さい」
「うへえっ、有頭さん……激しいです」
うつらうつらと眠りかけ、有頭弁護士から容赦なく叩き起こされた。
「何だと小僧!!」
目を離した隙に、神明先生は怒鳴り声を上げ、ニヒルに笑う犬飼の胸ぐらを掴む騒動に発展していた。
揉め事、早。
「おやおや、皆さん……仲がよろしいのは結構ですが、あまり知恵をひけらかしては他の方に出し抜かれるかもしれませんよ? 競争相手に塩を送りたいなら、別ですがね。気を付けなくては……!」
劇場の緞帳から囁くような深みのある声、ローゼスの警告は幽月先生以外を見事に黙らせる。神明先生は鼻を鳴らし、さっさと応接間を後にする。梅園先生も煙草を吹かしながら、続いた。
マジックショーの最中に騒ぎ出した
「……ローゼスさんは海外で、活動されている方ですか?」
「ええ、外国暮らしが長いモノでね」
好奇心で問えば、ローゼスはさらりと答える。芝居じみた言い方だが、その曖昧さがミステリアスに感じた。
「あら、立会人さんは奇術師に興味がおありで?」
「金田君、マジシャンの知り合い方が多いんです」
「マジシャン……ね。同じ
(……知らんがな)
幽月先生に探られ、
この手合いは相手にしない。
「金田君はお遊戯じゃな……」
「七瀬さんの人脈の広さには、敵いませんよ。ねえ、ハジ……そのひとつは、どちらへ行かれました?」
ムッとした七瀬が言い返そうとしたが、
「
「宝田さん、ありがとうございます。有頭さん、田代さんのところへ行きますので後をお願いします」
「あ、はい。金田さん、くれぐれも勝手な行動は慎んでくださいね」
宝田の推測を聞き、
「金田様、お昼の支度が整いましてございます。どうぞ、客間へお越しくださいませ」
「はい、田代さん」
階段を降りている最中、田代執事と無事に合流。ここに来て、やっと客間へ案内された。
本当なら、到着した際に
ここもまた豪華な家具が揃えられ、ライトスタンドは応接間と同じ型だ。ソファーへ置かれた自分の旅行鞄が安っぽく見える。
「こちらがお部屋の鍵に御座います。複製出来ない特殊な作りですから、どうか紛失されないようにお願い致します」
「分かりました(『夜桜亭』を思い出すなあ)」
田代執事から鍵を受け取った直後、ドタバタと廊下を駆け抜ける足音が聞こえてきた。
「美味そうな匂い! ずり~、金田だけ飯あんの~?」
「……田代さん、食器をもう1セットお願いします。彼と半分ずつ、取り分けてください」
「畏まりました」
案の定、涎を垂らしたハジメ。田代執事は快く、追加の食器を用意してくれた。
10代には嬉しい脂身たっぷりのステーキ肉や分厚いポテト、
「田代さん、すいません。神明先生が……他のボディソープをお探しで……」
「桐江君、他のボディソープとは……これまた。金田様、すぐに戻って参りますので」
「はい、田代さん」
「
眉を八の字にした
扉が閉まり、ハジメの表情はすっと探偵になる。肉汁まみれの汚い口元で、凛々しさは台無しだ
「なあ、金田。山之内先生のメッセージにあったアレって……」
「母です」
「だよなあ~、いやあ……冷や汗掻いたぜ。つ~か、お嬢様ってなんだよ。ひょっとして、またお前の伯父さん関係?」
「……言いたくありません」
流石はハジメ。
但し、関係性は伏せておく。余程意外だったらしく、クリッとした瞳が驚きに見開かれた。
「理由は?」
「キモ……死者に鞭打つ行為になります」
「隠す気ねえだろ。……それ、お前のお母さんが来なかったのと関係ある?」
「分かりません。自分は黒沼先生に頼まれただけです。正確には、有頭さんが泣き付いてetc……(早口)」
山之内は話に聞くだけでも、気持ち悪かった。
喪も明けておらず、田代執事は亡き主人の為に客人へ尽くしている。そんな状況下で、山之内を悪く言いたくない。
その為、無言で手紙をハジメへ渡す。読んだ彼の眉間が、より深く刻まれた。
「わ~ったよ、んじゃあ……犬飼は? なんか因縁あんだろ」
「いいえ。彼は山之内先生の隣人……神奈川の方だとしても、中学は確実に別です。同じ年頃ですし、勝手にライバル認定されたのでは?」
「あ~俺と握手した時も……な~んか、誰かさんを彷彿とさせる感じだったぜ」
「フフフ、比べモノになりませんよ」
ハジメは犬飼をエリート警視と同列に置いたが、彼らの実力の差はあり過ぎる。
遅めの昼食を終え、2人で館内散策へ乗り出す。ボディソープ騒ぎは終わったらしく、桐江も同行してきた。
「この館は元々、ホテルでございました。ロシアから日本に居着いた貿易商が半分、趣味で建てられたんです」
「じゃあ、相当に古いんですね」
「!?」
人里離れた湿地帯且つ湖のど真ん中、ホテルにしても立地が悪い。半分趣味とは、あながち間違いではないだろう。
田代執事の説明を受け、竜太は感想をポツリ。唐突の出現、我々先輩は慣れっこ。桐江だけがビクッと慄いた。
「何故、山之内先生は……ここを買い取ったのでしょう? 街から随分と離れています。神奈川にご自宅をお持ちのはずですが……」
「最初のオーナーがロシア人の奇術師であり、トリックだらけの謎の館。そこがミステリー作家のご自分にピッタリだと、先生はおっしゃられていました」
「へえ、トリック!」
ハジメが初めて、興味深そうな声を上げた。
「……金田先輩、抜け穴とか確認しときます?」
「そうですね……何かの拍子に、壁が外れて壊したと大騒ぎになっては……推理の妨げになるでしょう」
「佐木1号、グッドアイデア。面白そうじゃん♪(金田……やけに、実感込めてな~)」
「言われてみれば、私もどこにトリックが仕掛けられているのか……存じませんな」
かつての騒動を活かし、竜太と
「でも、あの……あんまり、騒いだら……それこそ、怒られ……」
「田代君、何の話だね?」
オドオドした桐江が言い終える前に、神明先生から声を掛けられる。
スリッパだった履物は革靴に変わり、ボサボサ頭は櫛を入れたオールバック、バスローブはアイロン仕立ての背広、酒の匂いも爽やかな香水で消えていた。
先程までの酔っ払いは、どこにもいなかった。
――誰?
神明先生がお洒落な紳士へ大変身を遂げ、高校生男子一同はキョトンとした。
「神明先生、実は屋敷のトリックを……」
「ほお……是非とも、調べさせてくれ。暗号文のヒントへ繋がるかもしれんしな」
「確かに。山之内先生の【露西亜人形殺人事件】は、この館の影響を受けてます。作品を読み込んだ人にしか解けない、そういう仕組みかもしれないです」
動じない田代執事から事情を説明され、神明先生も大賛成。竜太も天井や壁を今一度、見渡した。
「自分、その小説を読んでおりません。ハジメちゃん、どのような内容ですか?」
「俺も知らん」
今更ながら打ち明ければ、ハジメも大真面目に答える。田代執事以外がズッコケた。
「……
「佐木1号、俺はともかくってど~いう意味だ?」
竜太の動揺にハジメはムッとしたが、いつもの馴れ合いだ。
「神明先生、教えて頂けませんか?」
「やれやれ……いいかね、先ずは館に集められた5人が……(大まかなあらすじと結末)……とまあ、大体こんな感じだ」
現国の授業より分かりやすく言語化され、頭へ入り込む。現役評論家の能力を初めて思い知り、感心が胸に広がった。
「ありがとうございます……神明先生って本当に『先生』なのですね。未着手の自分にも、話がしっかりと伝わりました」
「……ま、まあな。さあ、他の連中にも声を掛けてやろうじゃないか。後から、抜け駆けと言われては堪らんっ」
素直に尊敬し、敬語が崩れかける。照れを隠したい神明先生は尊大に振る舞い、ルンルン気分で歩き出した。
(なんだ……このオッサン、金田にだけ優しすぎじゃね?)
(……出た、金田先輩のオッサン殺し)
ハジメは訝しげに眉を寄せ、竜太は感情を殺した目付きだった。
ゾロゾロと連れ立っては手間暇がかかり、2階の広間を待ち合わせ場所にしておく。
誰を呼びに行くか、恨みっこなしのジャンケン勝負。
コンコンコンッと扉を控え目にノックすれば、幽月先生の「どうぞ」の返事。まさかとドアノブに手を回せば、鍵は開いていた。
「失礼致します、金田です」
「フッ……これはこれは」
「立会人さんじゃない、何かしら?」
フワッと微かな煙草の匂いがする。ローゼスは仮面を着けたまま、腕組み。幽月先生は淑やかに椅子へもたれかかり、こちらを見上げた。
灰皿へ押し付けられた吸い殻の本数から、30分以上は話し込んでいただろう。
「館の抜け穴について、調べようと……」
「……成程、佐木君は鋭い着眼点をお持ちの様だ。今、思い出しましたが……オーナーのユーリ・イワノフは当時、世界に名の知られた奇術師です。何も仕掛けていない方が、不自然というモノ……」
「ローゼスさんがそうおっしゃるなら、私もお付き合いするわ」
ローゼスは心底、興味深そうに席を立つ。幽月先生は真意の分からぬ笑みだが、嫌とは言わない。
ふと、気になる点。
「……ローゼスさん、ユーリ・イワノフと言いました?
「アナタもご存じでしたか。そうですよ、その方です」
意外な事実にビックリ仰天。
先人の遺産と知り、
一度見たはずの室内を感慨深く見渡し、無意識に仕掛けを探す。クローゼットの隣にあるチェスト、これは自分の部屋にはない。
「幽月先生、あのチェスト……触っても良いですか?」
「クスクス……ええ、どうぞ」
探究心のまま、隠し部屋を発見。そこは、見事なワインセラーだった。
2階の広間へ集結し、
「まあ、50年物のワインですって!!」
「それ程の隠し財産が……他にも?」
「こりゃあ、散策し甲斐もある……」
梅園先生と宝田は純粋に驚き、神明先生も嬉しそう。
「どうせ、ローゼスさんが見付けたんでしょ」
「あら、犬飼君。立会人さんの心眼は、見事なモノだったわ。ローゼスさんの弟子になってもイイくらいよ、ねえ?」
「……フッ」
犬飼は含み笑いを見せ、幽月先生は
「スゴイじゃない、金田君♪」
「抜け駆けすんなよ」
七瀬は目を輝かせ、ハジメにもチラチラと期待の眼差し。彼はわざとらしく辟易した。
「すみません、あのユーリ・イワノフが手掛けた屋敷とお聞きし……辛抱堪りませんでしたっ」
「……金田先輩、有頭さんも呆れてますよ」
「……コメントは、控えさせて頂きます」
「お見事です、金田様」
素直に反省したつもりだが、眼鏡2人からの視線は厳しい。田代執事の称賛に癒された。
「そう言えば、神明先生はどうして……急にお着替えを? 素敵ですけど……」
「よせよせ、美雪。そこにツッコむな」
神明先生の変貌ぶりに余計な関心が向かう。ハジメの小声による注意は遅い。
「何を言うんだね、遺産争いは始まったばかり。ここは言わば、戦場。スーツは紳士の鎧だよ」
――アンタ、誰よりも寛いでたよな?
強気な神明先生はネクタイをギュッと締め、堂々と胸を張る。彼は僅か1時間前の記憶を紛失したらしく、田代執事以外の心がひとつになった。
「なんだ……この微妙な空気は? さあ、他も探索してしまおう!」
「もっぺん、ブランデー浴びせたろか?」
「はじめちゃんっ」
「?」
場を仕切る神明先生へ、ハジメはジト目を向ける。七瀬は即座に諫めたが、その意味は分からない。
犬飼の部屋は隠しクローゼット、アンティークドレスがズラリ。
宝田の部屋は扉そのものに隠し扉、鍵をかけても廊下から侵入できる。
七瀬の部屋はマジックミラーの鏡、隣の部屋であるハジメに丸見え。
「あ……、あの絵の後ろか!! チクショ~、断っておけば……」
「桐江さん、目隠し用にシーツか何か、貸してください!!」
「は、はい……」
悔しがるハジメにスパーンッとツッコミを入れ、七瀬はシーツを要求。唐突な夫婦漫才に皆、呆気に取られた。
梅園先生は絵画の裏に、隠し金庫と遊び心をくすぐられた。
「梅園先生、開けてもよろしいですか?」
「……あたし、番号なんか知らないわよ」
「今なら、ユーリ・イワノフのご加護で開けられる気がしますっ」
「……ああそう、好きにしたら?」
一はゴリ押しで、解錠へ挑戦したが残念。イリュージョニストの神様は、微笑んでくれなかった。
「しゃ~ねえなあ、金田君よ~。こんなのは、ダイヤルの音に耳を澄ませてだな」
「やめなさいよ、はじめちゃん。コソ泥みたいだわ。それにこういうのって、山之内先生の誕生日とかじゃない?」
頭をガリガリ掻きながら、ハジメが金庫明けに挑戦。金庫へ耳を当て、ダイヤルを回す姿は確かに泥棒っぽい。忘れがちだが、彼は探偵の孫だ。
七瀬が恥ずかしそうに幼馴染の腕を掴んだ途端、カチッと音が鳴った。
「……え? うそ……」
桐江の驚いた声に構わず、ハジメは目に喜びを浮かべる。得意げに金庫を開いて見せた。
「……これは本? いえ、ノートですね……」
「もしかして、ユーリ・イワノフの日記!?」
傍観していた有頭弁護士は初めて興味を抱き、中を覗き込む。彼の言う通り、洋書風の古いノートが2冊、置かれていた。角の磨り減った装丁、ここ数年の物ではない。
偉人の記録と思い当たり、
「山之内先生の、日記かもしれない……」
「犬飼君……案外、夢壊しですね。山之内先生なら、ご自分の日記は処分するか、顧問弁護士に預けているでしょう。少なくとも、ここには置きません」
「全くだ。あの用心深い山之内が、隠し金庫とは言え……こんなところに日記を置くもんか」
犬飼に水を差され、不愉快極まる。
「田代さんと宝田さんなら、山之内先生の筆跡とか分かりますよね。見てもらえますか?」
「左様です」
「では、失礼ながら……日記だったとしても仕事上、読み慣れてますからね。何を書かれていようが、驚きませんよお」
七瀬の提案を聞き、田代執事と宝田は別々のノートを手に取る。桐江だけが段々と青褪めていくも、気に留めない。
「これは……山之内先生の字と違いますね」
「田代さんの言う通りだが……様々なトリックが、ビッシリ書き込まれている。これなんか、去年に出された最新刊の……!! なんてこった……こいつは、トリックのネタ帳かっ」
適当なページを黙読した2人から、憶測の果てに衝撃の結論へ至った。
誰もが目の色が変わりつつ、ある疑念も生まれる。それは、彼らの呼吸にまで表れた。
「ユーリ・イワノフの……トリックノート?」
「いいえ、それにしては日本語が堪能過ぎます」
嫌な符号が脳裏を掠め、寒気が走った。
すっとローゼスに囁かれ、
「
「いえいえ、七瀬さん。この場合は盗作に
「そう……なんですか?」
七瀬が物凄く遠慮がちに問えば、宝田は余裕綽々にノートを見せびらかす。桐江はどこなく、知っていたような驚き方だった。
「他人のアイデア……なんスよね?」
「アイデアそのものには、著作権がない。人から聞いた話や、実際に遭った事件を、作品に取り込んだりするだろ? それと一緒さ。これが小説の走り書きや台詞の箇条書きだったら……違ったんだがな」
(……
ハジメから真面目に質問をされ、神明先生はさも残念そうに舌打ち。
「有頭さん、ワインとかドレスや金庫って……残留物扱いになるから、売主に返さないといけないんじゃないですか? 僕、今の部屋へ引っ越した時、前の住人の私物が残ってたせいで……大家さんがわざわざ郵送してたんです」
竜太は己の体験から、純粋な質問を投げかける。一瞬、相続人候補達の表情が強張った。
「お屋敷を見る限り、現状のまま引き渡す契約だったと思われます。その場合、残留物は山之内先生が
「じゃあ、このノートも……自然と山之内先生の物になったってワケね」
有頭弁護士の法的解釈を聞き、納得した七瀬の結論は彼らをホッとさせた。
「宝田さん。なら、奇術師さんのご遺族がノートを参考にした小説だから、利益を寄こせと言って来たらどうなるのかしら?」
「ハハハ、無理無理。よく勘違いされますが、トリックはあくまでも素材です。それを活かす
幽月先生のちょっとした質問にも、宝田は涼しい顔だ。作品に対する評価基準は以前、かほる先生からも聞いた覚えがある。
「でも、山之内先生の作品はどれも文章は平坦じゃないですかっ。このノートがあったからこそ……」
「フッ、どうやら……犬飼君はミステリー愛好家としても素人のようだな。本当にトリックだけが良かったなら、精々……佳作止まり。最悪、他の書き手と組まされて、
犬飼は笑みに焦りを含ませ、急に山之内を批判し出す。神明先生は作品の出来を認めたくないと言わんばかりに、悔しそうだ。
「アイデアなんて、どっかで被るんだから……売れたのは、山之内先生の腕前よ」
「相続に問題なら、それでいいです……っ」
紫煙を吐く梅園先生にまで言い負かされ、犬飼は分が悪いと思考を切り替える。その視線は一瞬、桐江を見ていた。
どうやら、いい格好したかったらしい。
「……有頭さん、法律上でも……想定された主張は通らないのですか?」
「控え目に申しますと、
口から滑り出た例え話はこの場ではなく、逃亡犯の殺人動機に対してだったと思う。
有頭弁護士の現実的な返事を聞き、
――リーンゴ―ン、リーンゴーン
「もう5時ですね、我々は夕食の仕込みを始めます。桐江君」
「はい」
鐘の音が優しく割り込み、田代執事は腕時計を見やる。粛々と桐江を連れ、退室して行った。
「宝田さん、このノートどうします? 今回の暗号文の草案とか、書いているかもしれません」
「ああ、佐木さんの言う通りだ。……念の為、私が……いや、ここへ閉まっておこう。その代わり、梅園先生は部屋を変える。と言うのは、どうでしょうか?」
竜太の質問に、宝田はノートを物欲しげに眺める。葛藤の末、キチンと隠し金庫へ片付けた。
抜け駆けせず、偉い。
「ええ~……あたしの部屋の物よ、貰ってもいいじゃないっ」
「今はまだ、山之内先生の財産です」
ハッとした梅園先生が抗議したが、スカした犬飼に止められた。
「この坊や、ダイヤルの番号知ってるのよ。宝田さんにも、有利だわ!」
「へ?」
「でしたら、私が預かりましょう。公平な立場ですので……」
不服を隠さぬ梅園先生へ、有頭弁護士は手を差し出す。理に適った提案のはずが、相続人候補達は誰1人賛成しなかった。
にいみ「……和田、貴様……謀ったな。叔父貴の何を調べていた。あん? ……次回予告が、先? 話を逸ら……朋美ちゃん……分かった。……さて、次回は『露西亜人形殺人事件・母を知る人』……? 息子が、露西亜館に……? ……和田、連れ戻せ!!」
佐木 竜太
ドラマ版に犬飼の立ち位置で登場
トリックノート
原作にて、犯人が机のある部屋で読むシーンがある。山之内の死後は書斎にあったと思われる。作中にて、金庫へ保管されていた