金田少年の生徒会日誌 作:珍明
話し合いの末、
――これでトリックノートは、誰の目にも触れない。
元フロントだったカウンターに備え付けられたキーストッカーを見るまでは、そう思った。
「このヒモは細い金属と炭素繊維で組み織られ、ワイヤーに負けず丈夫な代物です」
「……そうですか」
田代執事の丁寧な説明を受けながら、
特注リングに束ねられたマスターキー。ヒモの通し方もユーリ・イワノフの発案らしく、ツッコめない。
ローゼスをチラ見したが、その口元は爆笑を堪えていた。
「ここに置かずとも、田代さんが常に持ち歩いてくれた方が……自分としては安心です」
「ですが、皆様がいらっしゃる間はキーストッカーへ必ず保管するようにと……山之内先生のご指示です。私も基本的には、こちらへ掛けております」
余計な指示にイラッとする。
「まあまあ、そこの鍵は田代さんが管理してて、大丈夫だって」
(マジで言ってんのか、この聖人……)
ハジメが気付かぬなら、他の人達も同様だろう。それでいいと断念した。
「夕食は夜10時半です。10時には、東の塔の応接間へお越しください」
「……田代さん、自分は夕食要りません。夜9時以降の飲食は、控えていますので……」
「畏まりました。では、寝る前のお飲み物をご用意致します」
「金田……飯、食わねえつもり? 俺、今からでも腹減ったてんのになあ。美雪~お菓子……」
「あたし、お菓子じゃないわ。金田君、もっと探索しましょう。遊戯室見た? ビリヤードもあったわよ」
「いえ……自分は、ローゼスさんとユーリ・イワノフ談義で盛り上がろうかとっ」
「金田先輩……いつの間に、ローゼスさんと仲良くなったんです?」
ハジメの空腹を気にせず、各々これからの行動を伝え合う。
「随分と気に入られたわね……クスクス」
「金田君、生憎ですが……ここまでにしておきます」
「残念です……」
「有頭さん、時間まで仮眠を……」
「それはちょっと……せめて、皆さんの様子を見るとか」
一気に暇となり、欠伸を必死に噛み殺す。
有頭弁護士は眠るのを許さず、されど別行動はOK。隠れて睡眠を取れる為、彼の判断基準はよく分からない。これも山之内の指示ならば、もう少し臨機応変にお願いしたい。
行き着く先は、ハジメの部屋。
ベッドのシーツは肌触りの良く、頬に触れた肉枕が格別。外の気圧の影響もあってか、心地好い暖かさ。ついでに羽毛布団も頂戴した。
「金田、
「今夜は竜太君と、ここで寝ます」
「このままだと……僕、足枕じゃないですか」
「佐木君、寝るのはOKなの?」
「金田君。にいみさん、山之内先生とどんな関係か聞いてもいい?」
「いいえ」
「そう……まあ、にいみさんは多岐川先生ともお友達だし……何かあるんだろうなあと思ったわ。他に知り合いはいるの?」
「……神明先生が、母と知り合いです」
好奇心旺盛な
「やっぱり♪ にいみさんの名前が出てから、金田君への態度が違うし……そんな気はしてたわっ」
「そういや、幽月さんって挿絵画家じゃん。金田、知ってる人?」
「あの犬飼さん、金田先輩に当たり強いですけど……何かあったんですか?」
「いいえ、覚えはありませんね。後……ハジメちゃんにも言いましたが、犬飼君も知りません」
七瀬が予感的中に喜ぶ中、ハジメと竜太は矢継ぎ早に質問を投げてくる。
「こちらからも質問ですが、宝田さんはどっかのフリーライターさんの紹介ではありませんよね?」
「「「……」」」
ベッドから起き上がり、3人へ満面の笑みを向けての質問。沈黙は肯定だった。
脳裏に浮かぶは、煙草を咥えたフリーライター。
先月に続いて、またもや高校生を醜い争いへ巻き込む
「……思ったんですけど、山之内先生も
「そうなると、梅園先生かしら? 師弟のようなもんだって、言ってたし……。そうじゃなくても、トリックノートだけは渡したいんじゃない? 候補者の部屋割りは山之内先生の指示だって、犬飼君が言ってたモノ」
竜太は気まずそうに前例を持ち出し、七瀬もわざとらしくベラベラと喋り出した。
「指示された部屋割り……?」
「うん、正確には犬飼君が桐江さんに聞いたんだって」
「美雪……お前、いつの間にか聞きだしやがって~」
隠し金庫の部屋は偶然、梅園先生が選んだのではない。ならば、疑問点がひとつ。
「ハジメちゃん、山之内先生はどうしてトリックノートを処分しなかったのでしょう?」
「……へ? ……それは……疚しいコトがねえからだろ。宝田さんと有頭さんみたいな……プロからしたら問題ないって言ってたしよ」
「ですが、プロではない犬飼君のような読者に発見されれば、盗作疑惑が掛けられてしまいます。用心深い人が、証拠のノートを残しておくなんて……何の意味が……」
「……その意味があったとして、誰に対する罠だ?」
語れば語る程、胸がざわつく。
以前、
ここにいる全員が、ジワリと思い返した。
「……やっぱり、金田先輩のお母さん?」
「か……考え過ぎよ。神明先生も余計な深読みは良くないって……言ってたわよね? はじめちゃん……」
「いや、俺も……あのノートには何かあると思う。なんて言うか、近宮 玲子とは違う……
現状、竜太の推測が近い気がする。
七瀬の言う通り、神経質過ぎるかもしれない。
ハジメは不吉な前兆を感じ取っても、対策が立てられない様子だ。
予断を許さない状況なら、
ボートは湖の対岸にあり、迎えは5日後。この時期の北海道は、初冬と変わらない寒さ。
完全にクローズド・サークル。
「……こういう時、
「は?」
凍えた唇が口走った願いを自分自身こそ、理解していなかった。
――ピピッと鳴り響く電子音にビビりながら、
着信相手は
「ぜ……銭形さん」
〈やっと繋がった!
「はい、知っています。よくお世話になります」
〈その人に連絡付いて、
顔馴染みの道警の声から、嬉しい驚き。
正確には、月刊編集者から週刊誌記者へ繋いでもらったと後で聞いた。
頼れる存在が近くへ来る。これだけでも、凍り付いた心臓は解かされ、緩んだ足はバスタブへもたれかかった。
「あ、あの……この館は湖の真ん中にありまして。ボートは……」
〈ああ……成程。分かった、宇治木さんには伝えておくよ。僕に連絡出来なかったら、花火とかで緊急を報せるように〉
5日間の縛りによる外部との遮断を伝え、銭形警部補は頼もしい返事をくれた。
礼を言う前に通信を切られてしまったが、会えた時に言おう。
(……携帯電話は、肌身離さず持っとこ……)
バスルームの戸が勝手に開き、革靴の足音が床板を踏み締めても、気にしない。
「金田さん、携帯電話……使わないで下さいと言いましたよね?」
「キャアア、バレたあ!?」
有頭弁護士の表情は部屋から差し込む照明が影となり、見えない。だがしかし、その平坦な口調に鳥肌が立ち、甲高い悲鳴を上げさせた。
「悪い……金田がバスルームへ行った途端、入って来たんだよ……」
「いいですか? 外部との連絡を絶っているのは、山之内先生のご指示です」
「自分、候補者じゃありません!」
ハジメに詫びられても、携帯電話は言うまでもなく取り上げられる。
コントのような騒動のお陰で、不安は少しだけ和らいだ。
「宇治木さんが近くにっ。それは心強いですが……どうやって、連絡を取ります?」
「昼間も相当、霧が濃くては……狼煙も見えませんねえ」
「狼煙って……何を燃やす気だね、キミ達。物騒だな……」
探索の続きと出歩けば、神明先生とバッタリ出くわす。彼は妙に物静かだ。
「すみません、神明先生。対岸の方へ緊急を報せるなら……と考えていました」
「……素直に、モールス信号を使いなさい。時計の塔が一番高いから、対岸でも灯りが見えるはずだ」
「確かに、この霧なら……フレア現象もあります。信号を送っても伝わりますよ」
自分達の会話が原因と思い、事情を伝える。
竜太の冷静な判断へ頷いたが、神明先生の笑い方は引き攣る。さっきまでの陽気の欠片もなくて、怖い。
「神明先生、酒が抜けたんですか? さっきまでと違います」
(オイイ!! 失礼過ぎんだろ!!)
「……あ、ああ。酔いが醒めてしまった私なんて……大体こんな感じだよ。ハハハ……」
竜太の質問に何の意図もなく、寧ろ勇敢に思えた。
神明先生の卑屈で自嘲的な笑みが、本人の弱さを物語っていた。酒の力、凄まじい。
「神明先生……樹海へ行かれた時、飲んでいらしたのですか?」
「……!? ……にいみ君に、聞いたな。その辺へ座ろうか、ちょっと長い話になる」
富士の樹海は噂でしか知らないが、気弱な人間が踏み入れる場所ではない。
少しだけ演技を疑い、
誰もいない遊戯室の灯りを点け、ビリヤードの玉が来訪者を歓迎するように揺らぐ。
どれもこれもロシアからの調度品だが、その華やかさも今は楽しめない。3人はお互いが離れない程度に腰かけた。
「にいみ君から、どこまで聞いた?」
「かほる先生と3人でお出掛けしたとだけ……」
「……彼女らしいよ。あれは……去年の1月だったな。にいみ君と多岐川先生に拉致……お誘いを受けて、樹海へハイキングしに行ったんだ」
「「危険すぎでしょっ」」
ほろ苦い思い出を語る言い方だが、真冬の樹海など只の危険地帯。命知らず以前の大問題だ。
「にいみ君が先導して、私が中間地点、多岐川先生は樹海の入り口で見張り……私達を繋いだロープが切れないように見守ってくれた」
((地元のパトロールから、逃げ隠れしたな))
神明先生は腰元にローブを巻く素振りにて、当時の状況を再現。地元住民に大迷惑な行為は別の意味で緊張し、冷や汗が止まらない。
「毎日、出発点を変えて……3日くらいしてからかな、遭難者と出会ったんだ。もう映画に出てくるゾンビ……失礼、幽霊みたいな見た目で……私はもう殺されるかと思って、へたり込んでしまったね」
想像しただけで、怖すぎる。
「でも、にいみ君はそんな彼に……『生きたいか? 生きたいなら、こっちへ来い』と呼び掛けたんだ。彼は掠れた声で『生きたい、生きたい!』と叫んで……にいみ君の手を取った。どんなミステリー小説より……心躍らされたよ。魅入られた……とも言えるな」
素晴らしい作品を読んだ。
神明先生は声を弾ませ、そう訴えている。その熱意は恐怖心を好奇心へ変え、物語へ誘う。樹海を彷徨う男がにいみへ救いを求めて、縋り付く姿も目に浮かぶ。
「その方はどうして……樹海に? いえ、聞いてはいけないのかもしれませんが……」
「さあねえ、警察は駄目だと言うから……連れて行った病院には大金払って口止めしたり、てんやわんやさ。にいみ君は私達にも……あっいかん。この話、秘密だった……」
事情を詮索してはならないが、遭難者の素性がどうにも気になる。
神明先生はここへ来て、今更とんでもない事実を思い返す。血の気が失せ、哀れな程に白くなっていた。
「母には、黙っておきます」
「……うう、すまない」
「お2人って……今日が初対面っぽいですよね。神明先生、金田先輩がにいみさんの息子って、よく気付きましたね」
落ち込んだ神明先生を励ましている最中、竜太の淡々とした質問にゲンナリ。何故、彼は唐突に空気が読めないのだろう。
「山之内のビデオメッセージを聞いて、ピンと来たんだ。にいみ君に子供がいるのは、知っていたしね。お母さんに似なくて良かっ……想像していたより、ずっと礼儀正しくて驚いたよ」
「それは、神明先生が自分にお優しいからです」
ちょっと元気を取り戻し、神明先生は言葉を慎重に選び直す。そこへ鐘の音が時を告げ、反射的に時計を確かめた。
「まだ7時か……ちょっと仮眠を取って来るかな。夕食が夜10時半なんて、夜食だろうに……」
「お休みなさい、神明先生」
グッと背伸びした神明先生は軽くストレッを行い、体を解す。やれやれと夕食時間に文句を言いながら、扉を開ける。思い立ったように、振り返った。
「金田君、そんな畏まった喋り方はしなくていい。犬飼君や
「はい……いえ、うん」
スッとこちらへ人差し指を向け、神明先生は敬語を指摘してくる。
意表を突かれ、心が温かくなる。そう言ってくれる大人は何人もいて、『
神明先生も『にいみの息子』をキッカケにし、
「金田先輩、割と子供っぽいですよ。それに僕も敬語のつもりですが?」
「キミのは、敬いを感じんから……そのままで」
「……ぷぷぷ」
首を傾げる竜太への返事が面白過ぎて、笑いがこみ上げる。彼が高校生を子供扱いするのは、対等に思うからこそだ。
辛口という噂は本当だが、
東の塔の応接間には時間より早く、人が集まる。一部のカーテンを閉められ、窓の向こう側は雷雲立ち込める夜空だ。
仮眠でも取ったのだろうか、皆の表情は活き活きとしている。
田代執事も深夜帯にも関わらず、テキパキとした動き。
(神明先生、まだ来ないなあ。爆睡?)
「金田君、眠そうな顔してるけど……大丈夫? すっかり涅槃のポーズ取っちゃってるし……」
「眠いです。有頭さんが寝かせてくれないのでっ」
「金田先輩が寝ちゃっても、僕がキチンと撮ってますから」
「俺……腹減り過ぎて、胃液が逆流しそう~」
相続人候補者が沈黙する中、自分達だけが騒がしい。静けさに耐えかね、天候まで土砂降りとなった。
対岸で待機しているはずの週刊誌記者の身を案じた。
(宇治木さん……ごめん)
しかし、鐘の音は明瞭に聞こえた。
「10時の鐘だわ」
((……あれ? 5分も遅れてる))
七瀬が鐘の方角を何気なく見やり、
「!? 金田先輩……寝てないですよ? ひょっとして……目を開けたまま、寝てます?」
「本当だわっ、金田君……瞼に目を描いてたりする?」
「10時になりましたので、再び山之内のビデオメッセージをご覧頂きます」
竜太と七瀬が騒ぎ立てても無視し、有頭弁護士はビデオテープをデッキへ挿入。人数が揃っていないが、時間優先らしい。困ったような笑顔に空腹が窺え、彼も食事にあり付きたいのだと思う事にした。
《にいみお嬢様、我が親しき友人であり、愛すべき
一瞬にして、眠気が吹き飛ぶ。
(……しまった! コイツ……伯父さんを、知ってる人だった!!)
「一聖……?」
山之内は画像越しでも血色が悪く、雨音に混じった言葉は一字一句違えずに耳へ届く。
ハジメと七瀬も息を飲み、竜太は状況を理解していないが沈黙。
犬飼の疑問が場を代表した。
《一聖坊ちゃまに関しまして、この山之内……力及ばず申し訳ございません。たった独りで逆境を跳ね返し、天才と謳われるまでになった氷室 一聖が……まさか、あのような末路を迎えるなど……不憫でなり……》
「黙れ!!」
ビデオメッセージが進む度、視覚と脳髄が切り離される。指先の感覚も無くなり、怒鳴った声が自分も物と思えない。他人の肉体を借り、ここにいる。そんな錯覚に陥った。
誰かの驚いた視線を感じたが、体はビデオデッキへ迷いなく突き進む。
《犬飼 貴志君、私の良き隣人……》
「金田さん、何をするんです……力強……」
「邪魔すんな! こいな話、聞いでられねあ~!!」
画面の外で行われる争いなど知らず、メッセージは続く。
気弱で貧弱な肩を突き飛ばすのは、容易い。それは暴力だ。僅かに残った冷静さが、おどろおどろしい叫びを上げさせた。
《梅園 薫君、私の良き後輩……プチンッ》
「
「有頭さん、俺達は外へ出てるよ。その後にでも、流してくれ」
メッセージが途切れ、ハッとして有頭弁護士はデッキを振り返る。ハジメが停止ボタンを押し、茶化さずにゆっくりと立ち上がった。
彼の手が肩に触れ、
雷は怒りで、豪雨は涙。
小説の一文にしても、平凡な表現が自分には合っている。
ハンカチで目元を拭い、暗闇が心音を落ち着かせる。隣にいるハジメの体温が優しくて、余計に涙が溢れてきた。
何も聞かず、話さない。無言だけの時間。
途中で足音が聞こえたが、こちらへ近付く気配ではない。誰かが様子をチラ見したのだろうかと、些細な事を気に掛けるまでに思考はクリアだ。
「……ありがとう、ハジメ」
「おいおい、いつもみたいに『ハジメちゃん』で良いんだぜ」
「ハジメちゃん、ハジメちゃん……」
「う~す」
ようやく開いた口は感謝だが、もっと礼が言いたい。ハジメは陽気に笑い、肩をポンポンと撫でてくれた。
世の中が彼のような人間であれば、良い。想像の中にいる大勢のハジメが、七瀬1人を取り合う。そんな様子が勝手に再生され、笑いを堪えた。
「金田……笑ってる? お、終わったっぽい」
「……はじめちゃ~ん。あの後も、人の神経を逆撫でするようなメッセージだったわ。宝田さん、すっごい怯えてて……なんか可哀想」
ぞろぞろと大勢の足音が聞こえ、ハジメは曲がり角の向こう側へ首をグイッと伸ばす。七瀬と竜太に見付かり、聞きたくない報告を聞いた。
犬飼は父親の事業が失敗し、5匹の愛犬さえ抵当に入る程の多額の借金。
梅園先生は自動車事故による損害賠償。
宝田は株の投資失敗、病気に臥せった奥方の治療費。
幽月先生は、植物状態の弟の治療費。
神明先生は離婚の慰謝料。
「候補者の皆さん、今すぐ大金が必要みたいです」
「……田代さんと有頭さん、桐江さんの話はしましたか?」
「ううん、当然だけど……あたし達もなかったわ」
竜太はそう締め括り、七瀬の補足は不可解な点を増やす。
哀悼にかこつけたメッセージなど、にいみに聞かれれば、ビデオ画面ごと粉砕される。豪雨の中、寒中水泳してでも帰る人だ。そうなれば、『第3の遺言状』の内容が
目的が見えない。
途中退場ならば、例外かもしれない。だが、有頭弁護士の「帰るな~」と言わんばかりの態度は違う気がする。
「竜太君、神明先生は……」
「来ませんでした。僕が夕食の時にでも、メッセージの内容を教えておきます。他の方は多分、言いませんので」
「金田君、ここにいたのね。気分はどう?」
確認していれば、幽月先生が妖しげな笑みを向けてくる。呼び方も「立会人さん」から苗字呼びへ変わり、態度の軟化が窺えた。
そう、金の匂いを嗅ぎ付けた人間と言えよう。一番、真面な人だと思っていただけにショック。
「ハジメちゃん、食堂へ行きましょうか?」
「うっス」
「ちょっと2人とも! ゆ、幽月さん……来夢ってお名前なんですね。とっても魅力的です」
「ありがとう、金田君も是非……覚えて欲しいわ」
意外な事実にふと、足が止まる。にいみが若かりし頃、少年少女と撮った写真が脳裏を横切った。
「幽月さん、昔……埼玉に住んでいませんでしたか?」
「! ……ええ、ほんの数年。よくご存じね」
「私も、知りませんでした」
まさかと思い質問すれば、幽月先生は素の表情で驚いていた。
ローゼスも意外そうに、クスリッと笑う。流石、人の心理を見抜く奇術師。こちらの動揺が、丸分かりらしい。
にいみの元教え子ならば、今出せる最大級の礼儀をもって接しよう。
「――フッ、勘ですよ――」
堂々たる嘘を吐き、笑って見せた。
和田「どうも、和田です。皆さん、閲覧ありがとうございます。イタッ、にいみさん……宇治木さん、行かせましたんで……堪忍っ。私は……明日、娘の歯医者の予約が……。いや、娘を言い訳にしてませんって!! さて、次回は『露西亜人形殺人事件・首、刈られ』!! あわわ……」
ユーリ・イワノフ
露西亜館、最初のオーナー。屋敷中に色んな仕掛けをしたロシア人。ローゼス曰く、建設当時は世界的に有名な奇術師だった