金田少年の生徒会日誌   作:珍明

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はじめ達の答え合わせ……という話
アニメ版で唐突に「想子さん」と呼んでいたので、地の文も想子にしています


Q55 第3の遺言状-はじめ

 金田一(きんだいち) (はじめ)が東京へ戻った翌日、朝刊の一面に言い知れぬ恐怖を覚えた。

 【ミステリー界の鬼才! その遺産相続人は、綾辻 真理奈!? 生前の山之内 恒聖は同じ北海道出身の画家・氷室 一聖の父親と懇意の関係であり、背氷村殺人事件に心を痛めていた。

 事故当時は佳作も取れず、その日暮らしの極貧生活。財を成した時、真相解明へ動かったばかりに事件は起こってしまった。そんな苦悩を語ったという。

 うら若きタイムキーパーの支援団体を設立、旅客機墜落事故の関係者にも少なからず、援助を申し出ていた……】などの美談が、これ見よがしに載せられていた。

 

「なんだよ、これ……」

 

 そして、気掛かりだった露西亜館殺人事件は四面記事に【北海道、ミステリー評論家殺害、犯人逮捕】と想像より慎ましい扱い。

 桐江 想子(きりえ そうこ)は未成年、余計な注目を浴びなくていい。などと、楽観的に思えなかった。

 

 はじめは学校をサボり、いつき 陽介(ようすけ)へ連絡を取った。

 常談社近くの喫茶店にて待ち構えたフリージャーナリストは、神妙な面持ちで『第3の遺言状』にまつわる話を語ってくれた。

 

「宝田から聞いた話なんだが……俺も信じられねえぜ」

(どういう事だ……山之内は、にいみさんを愛してたんじゃないのか? 隠し金庫の番号、あの手紙に書いてあったんだぞ)

 

 はじめは金田(かねだ)家と山之内(やまのうち) 恒聖(こうせい)の関係性を、正確に把握していない。同級生曰く「キモ」だった。

 一方的な執着、その結果にしてはチグハグだ。

 

金田(かねだ) にいみって……やっぱ、あいつの?」

「……金田(かねだ)のお母さんだ」

「よく分かった。宝田には絶対、詮索すんなって言っておくっ」

(いつきさん……金田(かねだ)に相当、キレられてたもんなあ)

 

 昨日、いつきと空港で再会した折、同級生は冗談抜きで怖かった。緊迫した状況の中、週刊誌記者が気を利かせてくれた。文字通り、同級生を引き摺って行ったのだ。

 

「それと代表の梶原って女……驚くな、綾辻に殺された比留田 雅志の元女房だ」

「……は?」

「明石と加納、そこの元嫁と元亭主も所属してんだとよ。綾辻へ償いたいって意思を……山之内が尊重してくれたとか……」

「……っ」

 

 いつきの話を何も知らずに聞けば、はじめさえも「世の中、そういう事もあるんだ」と捻くれながら、受け入れていただろう。今は、ゾッとする。

 山之内がビデオメッセージに込めた亡き天才画伯の名には、こんな裏があった。

 

「後……気になるネタは、コイツっ。上がったばっかのゲラ刷りだ

「……山之内の未発表遺作、持ち出していいのかよ?」

「お前相手なら、いいんだ。そいつを捲って、タイトルとトリック発案者の名前……見てみろ」

「……!?

 

 クリップで止められた分厚い紙束を渡され、はじめは素直に捲った。

 

 ――【露西亜館新たなる殺人】、トリック発案・純一郎(じゅんいちろう)――

 

 想子の父親の名が、そこにあった。タイトルよりも重要な情報に、硬直した。

 

「お前らが北海道へ行った後、代理人から宝田さん宛に(・・・・・・・・・・・)送りつけられたもんだ。山之内の直筆で……これまでの小説に起用したトリックは、亡くなった友人のアイデアだったと……告白文が添えられていたらしい」

 

 山之内はカミングアウトの準備を整えていたと言われても、はじめは全く納得できない。

 

「……アイデアに、著作権はないんだろ?」

「そう、法律上は盗作にならない。けど、読者からのクレームは殺到するだろうし、最悪……出版停止だぞ! 今になって、それを明かして……後書きに純一郎の名を記して欲しいじゃあなんだと……無茶苦茶だ」

 

 いつきが乱暴に前髪を掻き上げ、出版社の心情を代弁した。

 

「宝田さんは、なんて言ってる?」

「神明の事もあるしな、……アイツは公表しない方向で行く気だぜ。遺稿だけは、希望に沿うらしい」

 

 想子は、何の恨みもない評論家を手に掛けた。

 殺人犯の父親(・・・・・・)が生み出したアイデアと知られれば、書籍全ての絶版は免れない。いつきは、そう言いたいのだ。

 副編集長の判断は仕方がないと分かっていても、吐き気がした。

 

「金田一、宝田さんに思う事はあるかもしれなん。けど、ひとつだけ約束する。例のトリックノート、必ず……桐江 想子へ渡すっ」

「! それは……っ」

「これだけは、宝田さんも協力的でな。心配すんな、絶対に何とかする」

「いつきさん……」

 

 いつきの真摯な態度を向けられ、はじめは緊張が緩んでいく。運命に翻弄された父娘を思いやる表情を見せられ、全面的に委ねたくなった。

 

「父親の形見は、娘の手に渡った方が……美談だぜ

「……そう、だな。俺もそう思うよ」

 

 何故、いつきがそんな顔をしたのか、考えもしなかった。

 

 いつきと別れ、はじめは公園のベンチへ腰かける。彼にとっての本題、ゲラ刷りを読み耽る為だ。

 逝去した作家が残した暗号、解読による遺産相続、5人の候補者、弦楽器を演奏する素人楽団、犯人はメイドの少女・片桐(・・)

 第1ヴァイオリンの少年・犬石(・・)と共に惨劇を生き延び、結婚という幸福を得る。今度は、夫の財産を虎視眈々と狙い続け、幕を閉じた。

 とても後味が悪く、疲労感だけが残った。

 

「……この話の作家、多岐川さんと名前……似てるな」

次、読んでいいか?

 

 ゲラ刷りをベンチへ置き、ふうっとひと息吐く。

 山之内が逝く前に(・・・・)完成させた小説の内容が、今回の殺人事件と酷似している。文字通りに死ぬまで面倒を見ていたなら、想子が読んでいても不思議ではない。

 模倣犯と悟られぬよう、嘘を吐かれた。一瞬だけ、疑ってしまった。

 だが、もうひとつの可能性は、実現に足るのだろうか?

 

「さて、名探偵と『地獄の傀儡師』の勝負の行方は!?」

 

 よく通る声、耳に入った瞬間にベンチから立ち上がった。

 操り人形を手に、子供達へ人形劇を行う仮面の男。誰かなんてすぐに分かり、はじめは自然と睨みつけた。

 仮面越しでも、彼と視線がかち合ったと感じた。

 

「今日はここまで、さあお帰り……恐ろしい怪人がやってくる前に……」

 

 無邪気な子供達は次の舞台を期待して、解散。はじめはゴクリと唾を飲み込み、ゆっくりと人形師との距離を詰めた。

 

「奇遇だな、スカーレット・ローゼス……高遠 遙一っ」

「読書に夢中だったようなので、お待ちしていました」

 

 仮面を取った素顔はまさしく、逃亡犯・高遠(たかとお) 遙一(よういち)

 奇術師と偽り、はじめ達の前に姿を現した。その正体を明かす事無く、同級生に協力して先に脱出。無事にパトカーを呼んでくれたものの、露西亜館へ戻らずに行方を晦ました。

 挿絵画家を問い質す時間はなく、彼の素性を知っていたのかは不明のまま。

 

「……アンタも読んだのか?」

「ええ、それでハッキリと分かりました。そう……惨劇を企てた本当の指揮者は、山之内本人だ

 

 こちらの心を見透かしたような笑み、不安が的中した。

 山之内は想子の正体に気付き、財産相続を餌に殺人へ(いざな)った。

 だが、認めたくない。人の意思が小説の展開が如く、思い通りになんてならない。

 

「だとしても、動機はなんだっ。山之内にとって、5人は遺産を譲ってもいい間柄だろ。ゲーム中止も、視野に入れてたじゃないか」

「幽月さんは以前、挿絵でネタバレ騒動を起こしてしまったそうです。山之内は笑って許したと……彼女は言っていましたが、あの男の本心は憎悪で煮えたぎっていた……」

 

 動機を問えば、些細な出来事が上げられる。

 担当編集は締切りの厳しい取り立て、評論家は酷評と作品の落選工作、弟子の作家は盗んだアイデアで大賞受賞。

 

「犬飼は、ただの隣人……」

「彼の飼っていた猟犬は、とんでもなく騒がしい鳴き声を発していたそうです。作家として集中しなければならない山之内にとって、一番……殺してやりたい相手だったのかもしれません」

 

 人の命を奪う理由には、程遠い。はじめは本心からそう思い、青褪めた。

 

「仮に桐江 想子が失敗しても……『第3の遺言状』を用意する人間が、そんな事を企むはずがない。候補者は誰も疑わない。気付いたとしても遺産を貰った手前、口を閉ざすでしょう」

 

 高遠は手にした操り人形をアタッシュケースへ片付けながら、考察完了を示した。

 

「じゃあ、どうして……金田(かねだ)を巻き込んだんだ! 下手をすれば、あいつが想子さんを……」

「……その点においては、私も遺憾です」

 

 愛した人の息子を傷付けてまで、山之内は何を求め、得た。

 はじめの叫びが、死んだ作家の代弁者となった高遠へ問う。意外にも、彼は初めて不快そうに笑みを消した。

 

「あのようなやり方で、金田(かねだ)君の殺意を無理やり引き出すなど……美しくないっ。彼には、もっと相応しい舞台がある。赤い薔薇に彩られた……荒れ狂う吹雪の舞台が!」

 

 高遠は己の思い浮かべた舞台に酔いしれ、拳を力強く握りしめた。

 その意味を、はじめは知っている。

 

「まさか、金田(かねだ)を……真奈美さんみたいに……」

「それこそ、まさかっ。私の腕前があんな物だと思われては、犯罪芸術家の名が廃る」

 

 かつて、舞台へ上げた道化師に対して、高遠は冷ややかに笑う。彼には終わった出来事らしく、何の愛着も感じなかった。

 

「金田一君、お礼を言わせてください。キミなら、金田(かねだ)君に人を殺させはしないと……信じていましたよ。ありがとうございます

「……高遠っ」

 

 同級生()に殺人を犯させない、その理由(想い)は正反対。もしやと感じた一縷の望み(改心)は、完全に消え失せた。

 ――ああ、この男とは分かり合えない。どうして、同級生はこんな奴を頼ったのだろう。

 脳髄にこびり付いた文面と共に、怒りが着火する。瞬間、紙の束を背に感じ、ビックリした。

 

「返す。……もう、十分だ」

 

 何事かと振り返れば、ウェーブのかかった髪に黒い口紅、トーク帽を被った喪服の女が、ゲラ刷りを持っていた。

 

「……にいみさん! いつから、そこに!?」

「やはり、聞こえていなかったか。貴様が読み終わった後、借りたのだがな」

 

 金田(かねだ) にいみの声を聞くまで、思い付かない。それ程、印象が違い過ぎた。

 突然の闖入者に驚愕しつつ、バッと高遠を振り返る。滅多に見ぬビックリ仰天顔で、まだ居た。

 話は途中だったが、逃亡犯を同級生の母親に会わせたくない。このやり取りの間、漫画みたいに消えて欲しかった。

 にいみは、はじめと高遠を交互に見つめ、勝手に頷く。

 

「……続けるがいい、アタシは帰る」

「ちょちょ……待ってくれ、にいみさん! アナタ、どうしてここに?」

 

 にいみはあっさりと背を向け、はじめは必死に呼び止める。彼女はジト目を向け、己の腕を指でトントンと叩きだした。

 

(いち)が、貴様と話せと言うから……学校へ行った。サボりは程々にな、凡そ3時間15分かけて捜し回ったぞ」

「……すいませんでした」

 

 生々しい捜索時間を告げられ、はじめはポケベルを忘れていたと気付く。素直に謝れば、高遠のクスリッと笑う声が聞こえた。

 

「じゃなくて! アンタは何を、どこまで知ってるんだ」

「質問は明確にしろ、答えられん。貴様が名探偵なのは、認めるが……こちらはパンピーだ。アタシに合わせてもらえるかな?」

 

 説明を求められるのには慣れた身だが、大人はいつも尊大に教えを乞う。ちょっとイラッとした。

 はじめは数ある質問の中から、一番知りたい事だけに選別した。

 

「……っ。どうして……露西亜館へ来てくれなかったんだ。そのせいで、金田(かねだ)が……あんな目に……」

「……山之内なんぞより、優先事項があった。……それが無くても、断っていたがな。だが……この結果にも(・・・・・・)、奴は満足しているだろうな」

 

 せせら笑った返事が何を意味するか、一瞬で理解してしまった。

 

「……最初から(・・・・)金田(かねだ)が狙われていたんだ。アナタは、ミスリード(見せかけの歓迎)……」

「……まさか、アタシがやっと気付いた奴の狙いを……こうもあっさり見抜くとは……。辛いな、金田一……」

 

 はじめが呻けば、にいみは憐れんできた。物事の真意が分かってしまうIQ、それを不運のように語ったのは誰だっただろうか、名探偵たる祖父だったような気もする。

 

「ローゼスも同じ考えか?」

金田(かねだ)君に関しては、概ね一致していますよ。彼がどうなるのか、全て(・・)桐江 想子に掛かっていました」

 

 にいみの誤解は、後で訂正しよう。逃亡犯だと知られたら、余計に厄介だ。

 それよりも、高遠の補足が臓物を騒がしくさせる。はじめは、またひとつ気付く。

 

「山之内は、ずっと想子さんを試していた?」

「ええ、ですが……何を選ぼうと(・・・・・・)、桐江 想子は苦しむでしょう。彼女が満足する結果など、用意されていないんですから」

 

 はじめが高遠へ視線を向け、胸中の更なる奥にあった推測と同じ言葉をブツけられた。

 遺稿のように少年と結ばれても、殺人の後悔に苛まれる人生を送っただろう。

 万一、その場を堪えてゲームを見届ければ、遺産が人手へ渡る苦痛を2度も(・・・)味わう事になる。

 盗作問題が露見したところで、出版社は書籍を絶版して、この件から手を引く。既に公表されたアイデアはほとぼりが冷めた頃、他の作家が勝手に使うだけだ。その人達は、想子の苦しんだ思いを決して労わってくれない。

 

「……山之内はなんで、想子さんをそこまで……」

「桐江だけではないさ。山之内は……何もかも、恨んでいた。氷室と金田(かねだ)はひっくるめて、自分を置き去りに死んだ両親も、トリックノートを見せた友人とやらも、真相を黙っていた綾辻も……恨みに恨みぬいて、勝ち逃げだ」

 

 にいみの明かした数々の憎悪。聞くだけならば、見当違いも甚だしい。

 

「綾辻さんに、同情したんじゃあ?」

「綾辻 真理奈は再び世間の注目を浴び、彼女の支持者は……山之内の作品を買わざるを得ない。増刷もあり得ます」

「想子さんの……お父さんには、恩もあっただろ?」

「ノートが無ければ、山之内は小説家として成功せず、締切りに追われる日々を送らなかった……ですか?」

 

 はじめの浮かんだ疑問を高遠が淡々と答える。まるで自問自答だ。

 

「正解だ、ローゼス。山之内にしてみれば、死んだ人間が使いそびれたネタを使ってやった。その程度の気持ちしかない。盗用した自覚さえ、ないだろうな」

 

 にいみは忌々しく付け加え、ゲラ刷りを指で突く。

 はじめはやっと、山之内が抱えていた憎悪を理解した気分になる――ああ、これは確かに気持ち悪い。

 

「……アタシから質問するが、純一郎とやら……原稿は書いていなかったのか?」

「……いや、想子さんは暗号を見せられたり、舞台設定を聞いただけみたいだ。……ストーリーそのものは、完成させてないはず……」

 

 にいみから切なげに問われ、はじめは正確に思い返すが、自分でも残念な返答しか出来なかった。

 

「そう、か……。どうしようもないな……本当に

 

 途端、にいみは冷淡な反応を見せる。それは、想子に対する敵意と感じた。

 はじめは咄嗟に、彼女の前へ立ち塞がった。

 

「にいみさん、アナタまで想子さんを……!」

「案ずるな、恨みはせん。だが、許しもしない」

「……にいみさんっ」

「金田一、アタシが桐江 想子を許してしまえば、あまりにも……神明は報われんこれ以上……求めてくれるな

 

 トーク帽の鍔から覗く鋭い眼光、『雪夜叉』の刃そのもの。

 想子にとっては偶然が重なり、評論家を最初に殺したに過ぎない。だが、遺稿の内容でも見立て殺人の最初の犠牲者。ゲームが始まった時点で、助からない命だった。

 

「……それも、山之内の計算の内なんでしょうね。アナタはどうしても、……金田一君と歳の近い方へ情けをかける。……ご心労の程、深くお察し申し上げます」

「ローゼス、心にもない慰めは()せ。ミスディレクション(操られた取捨選択)であろうと……受け入れるさ、この結果を……」

 

 高遠は笑みを消し、頭を下げる。にいみは疲れたように笑いながら、悔しさに唇を噛んでいた。

 連日の事件調書、度重なる私用。彼女は金田(かねだ)家へ寄り付かず、家族の誰も巻き込まない様に対策しているつもりだった。

 どこかで情報が行き違っても、確かめる余裕もなかったのかもしれない。

 

〝自分は黒沼先生に頼まれただけです〟

 

 同級生の参加は、ささやかな善意。彼がこの遺稿を読めば、絶望と後悔に苛まれる。それにより、山之内の復讐は完遂する

 おぞましい悪意が喉元へ浸食し、眼球が渇く。

 

「……金田一、大丈夫か? 具合が悪いなら……家まで送ろう。暫し待て、車を回そう。2人ともここから、動くなっ」

 

 はじめの異変に気付き、にいみは即座にベンチへ座らせる。走り去るまでの手際の良さから、初めて母親らしさが窺えた。

 高遠の推察通り、息子の歳に近い人間には甘いのだろう。

 

「どうやら、正義感気取りのキミにも、少しは理解して頂けたようですね。誰でも持っている……心の闇をっ」

「……本当に悪いのは、その闇を利用する……アンタのような人間だ!

 

 失笑され、はじめは負けじと切り返した。

 

「結構! 所詮、私とキミは決して交わるコトのない平行線。だからこそ、いつも隣にある。まるで双子の兄弟のようにね」

 

 高遠は満足げに微笑み、やっと背を向ける。はじめはこれ以上の会話を望まず、立ち去れと願った。

 

「そうそう、くれぐれも……金田(かねだ)君から目を離さないように。彼の吹雪に魅入られた観客(ファン)は、どうやら……私だけではないようです」

「どういう……」

「いずれ、お2人とも私の舞台へ招待しますよ。約束ですからね

「……っ」

 

 わざとらしく首だけ振り返らせ、高遠は好意的に誘ってきた――ゾッとする。

 言い返さなければと思った時、クラクション音に振り返ってしまう。にいみが運転席から、手招きしていた。

 当然ながら、高遠の姿は消えていた。 

 

「なんだ、ローゼスは帰ったか。(いち)に会わせたかったな」

「……にいみさん、幽月さんと知り合いなんですか?」

 

 はじめは助手席のシートベルトを締めながら、人間関係を今一度確認する。逃亡犯を助っ人として招いた挿絵画家、帰ったら速攻で顔見知りの刑事へ連絡だ。

 

「アタシが絵画教室で働いた時の教え子だ。とは言っても、(いち)に聞くまで存在を忘れていたさ。それでも、無事で……良かったよ」

「……っ」

 

 にいみは懐かしそうにハンドルを握りしめ、目に涙を浮かべる。赤信号にひっかかっても、拭わないのは自覚がないからだ。

 

(……この人は、『芸術犯罪』を否定した。いや……憎んでいた)

 

 そんな彼女は決して、息子の吹雪に魅入られたりしない。その手を握り、雪山から下山させてくれる人だと確信した。

 吹雪に誘う者が誰か、今は分からない。

 だが、ひとつだけハッキリした。

 

(高遠……お前の『芸術』なんざ……俺の『推理』で切り捨ててやる。俺自身の……誇りにかけて!!

 

 これまでの人生、何かを言い訳にしていた。

 名探偵の血筋故、普通に生きたい。

 幼馴染の傍にいたいから、同じ高校に通う。

 警察に頼まれたから、捜査した。

 今、心に刻んだ誓いは自分自身で背負おう。無意識に自らの胸ぐらを掴めば――信号が青へ変わった。




竜二「閲覧ありがとうございます。金田センパイ、何があったんですか? 七瀬センパイも元気ないし、金田一センパイも学校サボってるって言うし……。兄さんまで黙っちゃって、いっつも教えてくれるのに……。さて、次回は『第3の遺言状』!! なんだよ、兄さん。ボクは金田センパイに付いていこうと……。今はそっとしておく? 分かったよ……」

スカーレット・ローゼス
高遠の偽名、偶然にもバッタリと再会。速水玲香誘拐殺人事件の後なので、ギッスギス
原作にて、トリックノート絡みと言う点から、桐江へ同情し、人間味あふれる一面を見せる。幽月を失い、はじめちゃんと平行線と宣言した事件だけあって、思い入れがあるっぽい
37歳の事件簿にて、はじめちゃんが解決した事件のトリックを使い、佳作を受賞したフミちゃんの作品を酷評したのは「人のアイデア、パクんな」と激ギレしていたのかな?
作中にて、オリ主を舞台へ招待すると約束した

常談社
原作にて、副編集長が殺されても「時事ネタとして話題になるぜ」と遺稿の掲載を決定(人の心無いんか?)
出版社側がトリックノートの件を本当に知らなかったか、明かされていないのが、怖い
殺人事件にノートが関わっていると知られれば、90年代でも出版停止する可能性あり。原作の世界でも、公表していないと思われる

遺稿
山之内が仕掛けた最後の罠。桐江が犯行を成し遂げ、財産を得てもマスコミの餌食になる(人形島殺人事件、ルポルタージュ小説騒動がその例)
失敗して逮捕されれば、計画的犯行の証拠になり、裁判が不利になる(マジ最悪)
作中にて、4人まで殺害、メイドと最後の1人が結ばれる内容に変更。トリック考案者として、純一郎の名が記された(桐江への嫌がらせ)

山之内の両親
故人。おそらく純一郎が亡くなる前か、直後に逝去。露西亜館を二束三文で購入したのは、親の遺産もしくは保険金を使ったと思われる(資産家育ちの二束三文って、3桁4桁を越えるんで。当時の山之内に金を貸す人間はもういない)
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