金田少年の生徒会日誌 作:珍明
アニメ版で唐突に「想子さん」と呼んでいたので、地の文も想子にしています
【ミステリー界の鬼才! その遺産相続人は、綾辻 真理奈!? 生前の山之内 恒聖は同じ北海道出身の画家・氷室 一聖の父親と懇意の関係であり、背氷村殺人事件に心を痛めていた。
事故当時は佳作も取れず、その日暮らしの極貧生活。財を成した時、真相解明へ動かったばかりに事件は起こってしまった。そんな苦悩を語ったという。
うら若きタイムキーパーの支援団体を設立、旅客機墜落事故の関係者にも少なからず、援助を申し出ていた……】などの美談が、これ見よがしに載せられていた。
「なんだよ、これ……」
そして、気掛かりだった露西亜館殺人事件は四面記事に【北海道、ミステリー評論家殺害、犯人逮捕】と想像より慎ましい扱い。
はじめは学校をサボり、いつき
常談社近くの喫茶店にて待ち構えたフリージャーナリストは、神妙な面持ちで『第3の遺言状』にまつわる話を語ってくれた。
「宝田から聞いた話なんだが……俺も信じられねえぜ」
(どういう事だ……山之内は、にいみさんを愛してたんじゃないのか? 隠し金庫の番号、あの手紙に書いてあったんだぞ)
はじめは
一方的な執着、その結果にしてはチグハグだ。
「
「……
「よく分かった。宝田には絶対、詮索すんなって言っておくっ」
(いつきさん……
昨日、いつきと空港で再会した折、同級生は冗談抜きで怖かった。緊迫した状況の中、週刊誌記者が気を利かせてくれた。文字通り、同級生を引き摺って行ったのだ。
「それと代表の梶原って女……驚くな、綾辻に殺された比留田 雅志の元女房だ」
「……は?」
「明石と加納、そこの元嫁と元亭主も所属してんだとよ。綾辻へ償いたいって意思を……山之内が尊重してくれたとか……」
「……っ」
いつきの話を何も知らずに聞けば、はじめさえも「世の中、そういう事もあるんだ」と捻くれながら、受け入れていただろう。今は、ゾッとする。
山之内がビデオメッセージに込めた亡き天才画伯の名には、こんな裏があった。
「後……気になるネタは、コイツっ。上がったばっかのゲラ刷りだ」
「……山之内の未発表遺作、持ち出していいのかよ?」
「お前相手なら、いいんだ。そいつを捲って、タイトルとトリック発案者の名前……見てみろ」
「……!?」
クリップで止められた分厚い紙束を渡され、はじめは素直に捲った。
――【露西亜館新たなる殺人】、トリック発案・
想子の父親の名が、そこにあった。タイトルよりも重要な情報に、硬直した。
「お前らが北海道へ行った後、
山之内はカミングアウトの準備を整えていたと言われても、はじめは全く納得できない。
「……アイデアに、著作権はないんだろ?」
「そう、法律上は盗作にならない。けど、読者からのクレームは殺到するだろうし、最悪……出版停止だぞ! 今になって、それを明かして……後書きに純一郎の名を記して欲しいじゃあなんだと……無茶苦茶だ」
いつきが乱暴に前髪を掻き上げ、出版社の心情を代弁した。
「宝田さんは、なんて言ってる?」
「神明の事もあるしな、……アイツは公表しない方向で行く気だぜ。遺稿だけは、希望に沿うらしい」
想子は、何の恨みもない評論家を手に掛けた。
副編集長の判断は仕方がないと分かっていても、吐き気がした。
「金田一、宝田さんに思う事はあるかもしれなん。けど、ひとつだけ約束する。例のトリックノート、必ず……桐江 想子へ渡すっ」
「! それは……っ」
「これだけは、宝田さんも協力的でな。心配すんな、絶対に何とかする」
「いつきさん……」
いつきの真摯な態度を向けられ、はじめは緊張が緩んでいく。運命に翻弄された父娘を思いやる表情を見せられ、全面的に委ねたくなった。
「父親の形見は、娘の手に渡った方が……美談だぜ」
「……そう、だな。俺もそう思うよ」
何故、いつきがそんな顔をしたのか、考えもしなかった。
いつきと別れ、はじめは公園のベンチへ腰かける。彼にとっての本題、ゲラ刷りを読み耽る為だ。
逝去した作家が残した暗号、解読による遺産相続、5人の候補者、弦楽器を演奏する素人楽団、犯人はメイドの少女・
第1ヴァイオリンの少年・
とても後味が悪く、疲労感だけが残った。
「……この話の作家、多岐川さんと名前……似てるな」
「次、読んでいいか?」
ゲラ刷りをベンチへ置き、ふうっとひと息吐く。
山之内が
模倣犯と悟られぬよう、嘘を吐かれた。一瞬だけ、疑ってしまった。
だが、もうひとつの可能性は、実現に足るのだろうか?
「さて、名探偵と『地獄の傀儡師』の勝負の行方は!?」
よく通る声、耳に入った瞬間にベンチから立ち上がった。
操り人形を手に、子供達へ人形劇を行う仮面の男。誰かなんてすぐに分かり、はじめは自然と睨みつけた。
仮面越しでも、彼と視線がかち合ったと感じた。
「今日はここまで、さあお帰り……恐ろしい怪人がやってくる前に……」
無邪気な子供達は次の舞台を期待して、解散。はじめはゴクリと唾を飲み込み、ゆっくりと人形師との距離を詰めた。
「奇遇だな、スカーレット・ローゼス……高遠 遙一っ」
「読書に夢中だったようなので、お待ちしていました」
仮面を取った素顔はまさしく、逃亡犯・
奇術師と偽り、はじめ達の前に姿を現した。その正体を明かす事無く、同級生に協力して先に脱出。無事にパトカーを呼んでくれたものの、露西亜館へ戻らずに行方を晦ました。
挿絵画家を問い質す時間はなく、彼の素性を知っていたのかは不明のまま。
「……アンタも読んだのか?」
「ええ、それでハッキリと分かりました。そう……惨劇を企てた本当の指揮者は、山之内本人だ」
こちらの心を見透かしたような笑み、不安が的中した。
山之内は想子の正体に気付き、財産相続を餌に殺人へ
だが、認めたくない。人の意思が小説の展開が如く、思い通りになんてならない。
「だとしても、動機はなんだっ。山之内にとって、5人は遺産を譲ってもいい間柄だろ。ゲーム中止も、視野に入れてたじゃないか」
「幽月さんは以前、挿絵でネタバレ騒動を起こしてしまったそうです。山之内は笑って許したと……彼女は言っていましたが、あの男の本心は憎悪で煮えたぎっていた……」
動機を問えば、些細な出来事が上げられる。
担当編集は締切りの厳しい取り立て、評論家は酷評と作品の落選工作、弟子の作家は盗んだアイデアで大賞受賞。
「犬飼は、ただの隣人……」
「彼の飼っていた猟犬は、とんでもなく騒がしい鳴き声を発していたそうです。作家として集中しなければならない山之内にとって、一番……殺してやりたい相手だったのかもしれません」
人の命を奪う理由には、程遠い。はじめは本心からそう思い、青褪めた。
「仮に桐江 想子が失敗しても……『第3の遺言状』を用意する人間が、そんな事を企むはずがない。候補者は誰も疑わない。気付いたとしても遺産を貰った手前、口を閉ざすでしょう」
高遠は手にした操り人形をアタッシュケースへ片付けながら、考察完了を示した。
「じゃあ、どうして……
「……その点においては、私も遺憾です」
愛した人の息子を傷付けてまで、山之内は何を求め、得た。
はじめの叫びが、死んだ作家の代弁者となった高遠へ問う。意外にも、彼は初めて不快そうに笑みを消した。
「あのようなやり方で、
高遠は己の思い浮かべた舞台に酔いしれ、拳を力強く握りしめた。
その意味を、はじめは知っている。
「まさか、
「それこそ、まさかっ。私の腕前があんな物だと思われては、犯罪芸術家の名が廃る」
かつて、舞台へ上げた道化師に対して、高遠は冷ややかに笑う。彼には終わった出来事らしく、何の愛着も感じなかった。
「金田一君、お礼を言わせてください。キミなら、
「……高遠っ」
――ああ、この男とは分かり合えない。どうして、同級生はこんな奴を頼ったのだろう。
脳髄にこびり付いた文面と共に、怒りが着火する。瞬間、紙の束を背に感じ、ビックリした。
「返す。……もう、十分だ」
何事かと振り返れば、ウェーブのかかった髪に黒い口紅、トーク帽を被った喪服の女が、ゲラ刷りを持っていた。
「……にいみさん! いつから、そこに!?」
「やはり、聞こえていなかったか。貴様が読み終わった後、借りたのだがな」
突然の闖入者に驚愕しつつ、バッと高遠を振り返る。滅多に見ぬビックリ仰天顔で、まだ居た。
話は途中だったが、逃亡犯を同級生の母親に会わせたくない。このやり取りの間、漫画みたいに消えて欲しかった。
にいみは、はじめと高遠を交互に見つめ、勝手に頷く。
「……続けるがいい、アタシは帰る」
「ちょちょ……待ってくれ、にいみさん! アナタ、どうしてここに?」
にいみはあっさりと背を向け、はじめは必死に呼び止める。彼女はジト目を向け、己の腕を指でトントンと叩きだした。
「
「……すいませんでした」
生々しい捜索時間を告げられ、はじめはポケベルを忘れていたと気付く。素直に謝れば、高遠のクスリッと笑う声が聞こえた。
「じゃなくて! アンタは何を、どこまで知ってるんだ」
「質問は明確にしろ、答えられん。貴様が名探偵なのは、認めるが……こちらはパンピーだ。アタシに合わせてもらえるかな?」
説明を求められるのには慣れた身だが、大人はいつも尊大に教えを乞う。ちょっとイラッとした。
はじめは数ある質問の中から、一番知りたい事だけに選別した。
「……っ。どうして……露西亜館へ来てくれなかったんだ。そのせいで、
「……山之内なんぞより、優先事項があった。……それが無くても、断っていたがな。だが……
せせら笑った返事が何を意味するか、一瞬で理解してしまった。
「……
「……まさか、アタシがやっと気付いた奴の狙いを……こうもあっさり見抜くとは……。辛いな、金田一……」
はじめが呻けば、にいみは憐れんできた。物事の真意が分かってしまうIQ、それを不運のように語ったのは誰だっただろうか、名探偵たる祖父だったような気もする。
「ローゼスも同じ考えか?」
「
にいみの誤解は、後で訂正しよう。逃亡犯だと知られたら、余計に厄介だ。
それよりも、高遠の補足が臓物を騒がしくさせる。はじめは、またひとつ気付く。
「山之内は、ずっと想子さんを試していた?」
「ええ、ですが……
はじめが高遠へ視線を向け、胸中の更なる奥にあった推測と同じ言葉をブツけられた。
遺稿のように少年と結ばれても、殺人の後悔に苛まれる人生を送っただろう。
万一、その場を堪えてゲームを見届ければ、遺産が人手へ渡る苦痛を
盗作問題が露見したところで、出版社は書籍を絶版して、この件から手を引く。既に公表されたアイデアはほとぼりが冷めた頃、他の作家が勝手に使うだけだ。その人達は、想子の苦しんだ思いを決して労わってくれない。
「……山之内はなんで、想子さんをそこまで……」
「桐江だけではないさ。山之内は……何もかも、恨んでいた。氷室と
にいみの明かした数々の憎悪。聞くだけならば、見当違いも甚だしい。
「綾辻さんに、同情したんじゃあ?」
「綾辻 真理奈は再び世間の注目を浴び、彼女の支持者は……山之内の作品を買わざるを得ない。増刷もあり得ます」
「想子さんの……お父さんには、恩もあっただろ?」
「ノートが無ければ、山之内は小説家として成功せず、締切りに追われる日々を送らなかった……ですか?」
はじめの浮かんだ疑問を高遠が淡々と答える。まるで自問自答だ。
「正解だ、ローゼス。山之内にしてみれば、死んだ人間が使いそびれたネタを使ってやった。その程度の気持ちしかない。盗用した自覚さえ、ないだろうな」
にいみは忌々しく付け加え、ゲラ刷りを指で突く。
はじめはやっと、山之内が抱えていた憎悪を理解した気分になる――ああ、これは確かに気持ち悪い。
「……アタシから質問するが、純一郎とやら……原稿は書いていなかったのか?」
「……いや、想子さんは暗号を見せられたり、舞台設定を聞いただけみたいだ。……ストーリーそのものは、完成させてないはず……」
にいみから切なげに問われ、はじめは正確に思い返すが、自分でも残念な返答しか出来なかった。
「そう、か……。どうしようもないな……本当に」
途端、にいみは冷淡な反応を見せる。それは、想子に対する敵意と感じた。
はじめは咄嗟に、彼女の前へ立ち塞がった。
「にいみさん、アナタまで想子さんを……!」
「案ずるな、恨みはせん。だが、許しもしない」
「……にいみさんっ」
「金田一、アタシが桐江 想子を許してしまえば、あまりにも……神明は報われん。これ以上……求めてくれるな」
トーク帽の鍔から覗く鋭い眼光、『雪夜叉』の刃そのもの。
想子にとっては偶然が重なり、評論家を最初に殺したに過ぎない。だが、遺稿の内容でも見立て殺人の最初の犠牲者。ゲームが始まった時点で、助からない命だった。
「……それも、山之内の計算の内なんでしょうね。アナタはどうしても、……金田一君と歳の近い方へ情けをかける。……ご心労の程、深くお察し申し上げます」
「ローゼス、心にもない慰めは
高遠は笑みを消し、頭を下げる。にいみは疲れたように笑いながら、悔しさに唇を噛んでいた。
連日の事件調書、度重なる私用。彼女は
どこかで情報が行き違っても、確かめる余裕もなかったのかもしれない。
〝自分は黒沼先生に頼まれただけです〟
同級生の参加は、ささやかな善意。彼がこの遺稿を読めば、絶望と後悔に苛まれる。それにより、山之内の復讐は完遂する。
おぞましい悪意が喉元へ浸食し、眼球が渇く。
「……金田一、大丈夫か? 具合が悪いなら……家まで送ろう。暫し待て、車を回そう。2人ともここから、動くなっ」
はじめの異変に気付き、にいみは即座にベンチへ座らせる。走り去るまでの手際の良さから、初めて母親らしさが窺えた。
高遠の推察通り、息子の歳に近い人間には甘いのだろう。
「どうやら、正義感気取りのキミにも、少しは理解して頂けたようですね。誰でも持っている……心の闇をっ」
「……本当に悪いのは、その闇を利用する……アンタのような人間だ!」
失笑され、はじめは負けじと切り返した。
「結構! 所詮、私とキミは決して交わるコトのない平行線。だからこそ、いつも隣にある。まるで双子の兄弟のようにね」
高遠は満足げに微笑み、やっと背を向ける。はじめはこれ以上の会話を望まず、立ち去れと願った。
「そうそう、くれぐれも……
「どういう……」
「いずれ、お2人とも私の舞台へ招待しますよ。約束ですからね」
「……っ」
わざとらしく首だけ振り返らせ、高遠は好意的に誘ってきた――ゾッとする。
言い返さなければと思った時、クラクション音に振り返ってしまう。にいみが運転席から、手招きしていた。
当然ながら、高遠の姿は消えていた。
「なんだ、ローゼスは帰ったか。
「……にいみさん、幽月さんと知り合いなんですか?」
はじめは助手席のシートベルトを締めながら、人間関係を今一度確認する。逃亡犯を助っ人として招いた挿絵画家、帰ったら速攻で顔見知りの刑事へ連絡だ。
「アタシが絵画教室で働いた時の教え子だ。とは言っても、
「……っ」
にいみは懐かしそうにハンドルを握りしめ、目に涙を浮かべる。赤信号にひっかかっても、拭わないのは自覚がないからだ。
(……この人は、『芸術犯罪』を否定した。いや……憎んでいた)
そんな彼女は決して、息子の吹雪に魅入られたりしない。その手を握り、雪山から下山させてくれる人だと確信した。
吹雪に誘う者が誰か、今は分からない。
だが、ひとつだけハッキリした。
(高遠……お前の『芸術』なんざ……俺の『推理』で切り捨ててやる。俺自身の……誇りにかけて!!)
これまでの人生、何かを言い訳にしていた。
名探偵の血筋故、普通に生きたい。
幼馴染の傍にいたいから、同じ高校に通う。
警察に頼まれたから、捜査した。
今、心に刻んだ誓いは自分自身で背負おう。無意識に自らの胸ぐらを掴めば――信号が青へ変わった。
竜二「閲覧ありがとうございます。金田センパイ、何があったんですか? 七瀬センパイも元気ないし、金田一センパイも学校サボってるって言うし……。兄さんまで黙っちゃって、いっつも教えてくれるのに……。さて、次回は『第3の遺言状』!! なんだよ、兄さん。ボクは金田センパイに付いていこうと……。今はそっとしておく? 分かったよ……」
スカーレット・ローゼス
高遠の偽名、偶然にもバッタリと再会。速水玲香誘拐殺人事件の後なので、ギッスギス
原作にて、トリックノート絡みと言う点から、桐江へ同情し、人間味あふれる一面を見せる。幽月を失い、はじめちゃんと平行線と宣言した事件だけあって、思い入れがあるっぽい
37歳の事件簿にて、はじめちゃんが解決した事件のトリックを使い、佳作を受賞したフミちゃんの作品を酷評したのは「人のアイデア、パクんな」と激ギレしていたのかな?
作中にて、オリ主を舞台へ招待すると約束した
常談社
原作にて、副編集長が殺されても「時事ネタとして話題になるぜ」と遺稿の掲載を決定(人の心無いんか?)
出版社側がトリックノートの件を本当に知らなかったか、明かされていないのが、怖い
殺人事件にノートが関わっていると知られれば、90年代でも出版停止する可能性あり。原作の世界でも、公表していないと思われる
遺稿
山之内が仕掛けた最後の罠。桐江が犯行を成し遂げ、財産を得てもマスコミの餌食になる(人形島殺人事件、ルポルタージュ小説騒動がその例)
失敗して逮捕されれば、計画的犯行の証拠になり、裁判が不利になる(マジ最悪)
作中にて、4人まで殺害、メイドと最後の1人が結ばれる内容に変更。トリック考案者として、純一郎の名が記された(桐江への嫌がらせ)
山之内の両親
故人。おそらく純一郎が亡くなる前か、直後に逝去。露西亜館を二束三文で購入したのは、親の遺産もしくは保険金を使ったと思われる(資産家育ちの二束三文って、3桁4桁を越えるんで。当時の山之内に金を貸す人間はもういない)