金田少年の生徒会日誌   作:珍明

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今回は金田一がタロット山荘でフィジカルを発揮している間、北海道へ行っていた。そんな話です



F.16 【タロット山荘殺人事件】は青森で・前編

 北海道の背氷村は春休みの時期へなろうとも、残雪が地面に積もる。それだけ温暖な気候だが、東京の冬しか知らぬ者には真冬並み寒気と変わらないだろう。

 1月の家宅捜索から誰も出入りしておらず、本館も別館も寒さで冷え込んだ挙句の埃まみれだ。

 この土地へ住む予定もなく、邸宅の維持費も馬鹿にならない。一介の高校生では、持て余す財産。売却は弁護士・村上(むらかみ)先生の提案であり、地元不動産や本庁にもご相談して頂いた。

 更に銭形(ぜにがた)警部補が何度も上へ掛け合い、別館だけでも道警が買い取ってくれた。

 弁護士・黒沼(くろぬま)先生が立ち会いの下、取引は成立済み。売却して得た金は本館の維持費やその他諸々の支払に当てるのだ。

 

(……別館が早々に売れて良かった……かな……)

 

 (いち)に邸宅への思い入れが無いとは言わない。偽者が住み着くまで、氷室(ひむろ)画伯が創作に没頭する為のアトリエだった。

 愛する伯父が住んでいた。

 それを考えるだけで目頭が熱くなるが、埃を拭う仕草で誤魔化す。来月までに別館を明け渡す為、清掃業者が入る。その前に残された家具など、本館へ移動させに来た。

 これだけは自分の手でやりたい。

 しかし、独りでは重労働過ぎる。金田祖父母は留守番もあり、来られない。悩んだ末、ある程度の事情を伏せ、生徒会執行部に掃除のバイトと称して相談してみた。

 結果、貴重な春休みを潰してまで、先輩方が3人も来てくれた。

 ちなみに同学年は全滅。帰宅部の和泉(いずみ)でさえも、春休みは沖縄へ旅立った。

 

「うっそ、ここって……あの殺人事件が遭った邸宅じゃないの。……素敵な場所へ連れて来てくれて、ありがとう。金田君っ」

「……無理やり、着いて来たんでしょう。桜樹先輩っ」

「まあ~、1人でも多い方がいいんじゃないか~? 僕は引率だから~掃除は手伝えないし~」

 

 ミステリー研究会、略してミス研の会長・桜樹(さくらぎ) るい子先輩。蠱惑的な魅力を持ちながら、口説いて来る男子生徒には見向きもしない。彼女曰く、頭の良い男が好きと公言しているそうだ。

 帯広空港に到着した先で予定なく現れ、引率する美術部顧問・美術担当の中津川 賢人(なかつがわ けんと)先生が借りたレンタカーへさっと乗り込んだ強者。

 

「は~っ。大雪山にある村で掃除って……まさか過ぎる。津雲先生も惜しい事したなあ」

「けど、中津川先生が来てくれたのは津雲先生のお陰だよ。日程の調整が出来れば、来てくれるつもりだったしっ」

 

 写真部の部長・江塔 大樹(えとう だいき)先輩は遠野(とおの)先輩から誘われ、引き受けてくれた貴重な善人。そんな彼が言うように中津川先生の引率は何と、写真部顧問の津雲(つくも)先生が話を付けてくれた。

 

「あの事なかれ主義の津雲先生がねえ。本当、珍しいっ」

「吹雪にならないと良いですね」

「こらこら。桜樹君、金田君っ。執行部顧問の先生なんて、バイトの為に引率とかしてらんないって断ったんだよ。津雲先生は純粋に僕らを心配してくれているんだからっ」

 

 津雲先生を怪訝すれば、人の善意を疑わない遠野先輩に咎められる。事なかれ主義以上の日和見主義の執行部顧問に最初から、期待などしていない。そんな不毛な会話の中、トラックのブレーキ音がした。

 

「不動高校の方々ですか? 画商の鷲尾です。こっちは金森、石川県で古物商を営んでいまして。ここの話をしたら、どうしても力になりたいと」

「絵画がなくても、値打ち物は何処にでもありますんでね」

 

 約束した画商の鷲尾(わしお) ケイゴが見知らぬ古物商・金森 民夫(かなもり たみお)を勝手に連れて来る。このような行動に信頼が置けず、彼との間に銭形警部補を挟む。(いち)が直接会うのは初めてだ。

 一応、ニット帽を深く被り、口元をマフラーで覆う。鷲尾も画商であるならば、氷室伯父の素顔は知っているだろう。甥の存在は教えていないが、顔を見られず済むに越した事はない。

 

「バイトのリーダーは遠野君と聞いてますが、どなたですかな?」

「あ、はいっ。僕です。この後、助っ人の方が1人来る予定になっています」

 

 鷲尾に問われ、遠野先輩が慌てて返事。(いち)に威厳がない為だと半分だけ嘘を吐き、事前に頼んでおいた。

 

「それではっ。私と金森は物色させてもらいます」

「鑑定はお任せあれっ」

「僕が取材陣を追い払うの~? 上手く出来るかな~」

 

 各々が役割分担を確認し、マスク、手袋、頭巾、エプロンを装着。掃除開始。

 

「本物の血痕だわ……。何だか、ワクワクしてきちゃう」

「……怖くないのですか、桜樹先輩」

 

 高嶺の花が清掃道具に身を包み、意気揚々と殺人現場の掃除を手伝っているなど、誰が信じよう。

 

「金田君っ、鍵サンキュー! 本館も撮り終わったぜ。いやあ~ニュースに映った場所に僕が立つなんて、プロのカメラマンになった気分だ。同じ部の奴も出し抜けて、感謝カンゲキ雨嵐♪」

「ご満足頂けて、何よりです。江塔先輩」

 

 寒い中、江塔先輩だけ汗だく状態。目的を忘れたらしく、自前のカメラで連写し続けていたミーハー根性が丸分かりである。皮肉も通じず、イラッとした。

 

「しっかし、事件と関係なく、氷室画伯って変わってんな。他人を招く為じゃなく、自分の絵を飾る為だけに私設美術館を造っちまうとか」

「折角なら、展示している時に来たかったわ。なりすましは詐欺罪に該当するから、作品も事件の証拠品として押収されるとか……。金田君、こうやって片付けた後に邸宅をどうするか、聞いてる?」

「ここの別館は道警が買い取りましたよ。建物を使い回すか、取り壊すかは警察が決めるでしょう」

 

 流石はミス研の桜樹先輩、事件罪状の知識が豊富。それに免じて正直に別館の行く末を教えれば、江塔先輩ともガッカリしていた。

 

「金田君、山根さんがいらっしゃったよ」

「初めまして、山根です。椿さんの紹介で来ました」

「お話は伺っております。遠い所をわざわざ、ありがとうございます」

 

 頭巾を被った遠野先輩に連れられ、山根 優香(やまね ゆか)は高校生相手でも丁寧に挨拶してくる。詳細は省くが、彼女は椿 陽造(つばき ようぞう)に頼まれたという体で背氷村くんだりまで掃除しに来た。

 

「江塔です! お姉さんも東京の人?」

「桜樹と言います。女子は私だけです」

「勿論、東京よ。アナタ、女子高生なんですか? 私なんかより、ずっと大人っぽい……」

言われた通り、僕がバイトのリーダーって説明したけど……、本当に良いのかい? お祖母さんの知り合いが頼んでくれた人だろ?

鷲尾さんと話が食い違ったら、面倒な事になります。このまま、お願いします

 

 遠野先輩に耳打ちされ、念押し。山根も表向きの事情しか、聞かされていない。裏向きの事情など、(いち)だけが把握していれば、良いのだ。

 

「確か、学校の先生が引率してくれているって……どちらに?」

「はい、その通りです。さっきまで……そこに。あっ、中津川先生! 助っ人の山根さんですよ」

「はあ、どうも……。中津川です」

 

 のそっと現れ、中津川先生は引率の威厳がまるでない。

 

「……ちょっと頼りない先生だね」

「あはは……中津川先生もお忙しい中、北海道まで来てくれて……」

「暇なのが、僕しかいなかったって言って良いよ~。まあ~、まさか日本代表の画家が使ってたアトリエだとは思わなくて~。年甲斐もなく、はしゃいじゃって~」

 

 クスッと笑い、山根は素直な感想を告げる。遠野先輩が折角、気を遣ったにも関わらず、中津川先生は自ら台無しにした。

 本来、春休みは新年度に向けて教職員は誰もが慌ただしい。春の大会を控えた部の顧問は尚更。美術部と美術学科生徒も都内高校生作品展示会があり、中津川先生も多忙のはず。そう、副顧問や学科担任の先生だけで事足りてしまった。

 

「中津川先生、お仕事。来ました」

「はい~。今、行きま~す」

 

 説明している最中、正面玄関に招かれざる客が現れる。早速、中津川先生の手腕を見せられる機会だ。

 

「私が見たいのは、氷室画伯の亡霊です。申し遅れましたが、心霊研究家の首木と言います」

「はあ~……亡霊。けど~画伯って長野で亡くなったから、ここにはいないんじゃあ~」

 

 心霊研究家の首木 友郎(くびき ゆうろう)が名刺を差し出し、自信満々に来館の理由を語る。全く興味のない中津川先生の正論が自分の胸にチクッと刺さった。

 

(亡霊……幽霊はここにいないか……)

 

 幽霊がいたとしても、殺害された4人だろう。そう思えば、不愉快な気分に陥った。

 押し問答の末。中津川先生のふわふわした疑問に言い負け、首木は不満そうな態度で帰って行った。

 

「山根さん、自分達は掃除に専念します。あのように取材へ来た方は先生が対応されますが、勝手に撮影してくる人もいるでしょう。顔は隠して下さい」

「あっ。本館に行ったら、フリーライターの猫間さんって、人が取材に来てたっ。鷲尾さんが追い返したよ。ああ、鷲尾さんは画商です。古物商の金森さんもいます。今は多分、2階を物色中かな? 後で降りて来ると思います」

「わかったわ、江塔君。ここには色んな方がいるのね、面白いっ」

 

 納得した山根も掃除道具を完全装備、男女の二手に分かれて掃除の続きを行った。

 

「記者の醍醐 真紀と申します。事件について……」

「僕ら片付けに来ただけなんで~」

「フリーライターのいつき陽介ってモンですが、あなたが新しい持ち主で?」

「そう見えます~?」

 

 館内を走り回りながら、中津川先生はのらりくらりと取材をかわしていく様子が聞こえる。のんびりと口調と煮え切らない態度が相手を帰らせてしまうのだ。

 意外な役どころである。

 マスクで表情が見えないけれども、遠野先輩は正面玄関のやり取りを時折、興味深そうに凝視した。

 

 昼を過ぎても、1階すら終わらない。最終的に清掃業者へ託すが、段取りを甘く見積もり過ぎた。

 弁当を広げて咀嚼しながら、午後の予定を皆で話し合う。

 

「金田君、今夜はこっちの建物に泊まるんだっけ?」

「いいえ、本館です。寝る為にも、向こうの寝具を整えに行きます」

「う~ん、金田君だけだと取材の対応があるから……遠野君も着いて行った方がいいわね。こっちの片づけは15時までに切り上げて……」

「思ったんだけど、事件が直接遭ったのはどっち? 本館の中でも、血の痕があったけど……」

 

 遠野先輩に確認され、桜樹先輩は夜までの時間を逆算する中、江塔先輩は根本的な疑問を口にする。全員が動揺を隠せず、食事中の手がピタリッと止まった。

 

「最近の高校生って……肝が据わっているのね……」

「怖いもの見たさと怖いもの知らずってヤツかな~。ま~、報道じゃあ邸宅としか言ってないしね~」

「民宿に泊まる私らには関係ありゃしませんし、のお? 鷲尾さんっ」

「金森、ビビってんですかい? 手が震えてますけど……」

 

 山根は感心したように呆れ、中津川先生は適当に答え、金森は今頃になって実感し、鷲尾はからかった。

 

「両方ですよ。この別館では加納 りえ。明石 道夫の殺害は外ですが、遺体は本館の玄関脇にて発見されました。残りの比留田 雅志と水沼 高雄も本館です」

「「「「「こっちに泊まろうっ」」」」」

 

 隠す必要も無い。正確に教えてみれば、民宿組以外の面子が語尾は違えど、強く懇願した。

 解決したとは言え、殺人現場にて夜を越す。金森のように恐怖心が芽生えて然り、ただ、目を輝かせる桜樹先輩は理由が違う。

 

「泊まり込みの番組収録だったわよねっ。加納 りえが最初に殺されたから、こっちで寝泊まりしていたんでしょ? 私、彼女が使ってた部屋で寝るわっ」

「……お嬢さん、別嬪やのにエライ豪胆ですわ。東京モンは変わってはりますわ」

「桜樹君が強いんですよ」

 

 意気込んだ桜樹先輩に対し、驚いた金森は地域性と判断する。遠野先輩は苦笑しつつ、彼女の性格を称えた。

 

「金田君、事件について詳しいのね。ほとんどの報道は巻き込まれた速水 玲香ちゃんとか、……その4人の話ばっかりなのに……」

「こちらの新聞に載っていましたよ(半分嘘)」

「そっか、地元新聞なら詳しく載せるか……」

 

 言葉を選ぶ山根の質問に(いち)はしれっと答え、江塔先輩は納得してくれた。

 

「無期懲役だってね~、犯人のタイムキーパー~。僕としては~氷室画伯の仇を取ってくれたようなもんだし~。情状酌量でも~良かったのにね~」

「いやいや、中津川先生。画商の間じゃあ、綾瀬は5千万の絵をこの世から消した大悪党ですよ。……今だったら、価値は跳ね上がって億は下らんのに……勿体ない事を!! 私が遺族なら、器物損壊罪で訴えるところです!」

「……っ。……そういう考え方もあるのですね……」

 

 中津川先生は世論のように被疑者へ同情的だが、激昂した鷲尾の観点は強く胸へ突き刺さる。まるで、感化されて同じ意見を叫びたい衝動に駆られた。

 何故だろうと思いつつ、お茶を濁す程度に感心しておいた。

 

「「「5千万の絵を……消したって何?」」」

「ああ、報道はされてませんがね。綾瀬は計画の一環として、本物の氷室画伯がお描きになった自画像を処分しはりましてな。ホンマ、惜しい事なさってま~」

「「中津川先生!?」」

 

 先輩方が鷲尾の態度にキョトンとする。絵を惜しんだ金森が丁寧に説明した途端、状況を飲み込んだ中津川先生がショックのあまり倒れ伏す。自分と山根は思わず、彼を受け止めた。

 

「わかります! 私も刑事さんから聞いた時、卒倒しました~」

……画集にも……未収録の絵が……ごふ……

 

 感情が高ぶり、鷲尾は半泣き状態で青褪めた中津川先生を抱き締める。むさ苦しい成人男性の抱擁を見せ付けられたが、決して他人事ではない。

 実は今現在、黒沼先生が自画像を撮影した映像の権利に関し、TV局を相手に応戦中である。彼の弁護士ならば、勝ちを得るだろう。だが、もしもの場合は強引な手段に出る覚悟だ。

 

(絶対に……伯父さんの絵は……映像は取り戻す)

 

 無自覚に拳を強く握れば、(いち)の胸にあった蟠りが一先ずは治まった。

 

 結局、別館での宿泊が強制的に決まり、布団干しを先に行った。

 

「さてと、遠野君。目ぼしいモンはコレらやね。家具もアンティークで結構な値打ちもんですわ。売る気があるなら是非、この金森を! 北海道の伝手なら、任せて下さいっ」

「ええ、そう伝えます。持ち主の方に……っ」

 

 取捨選択した家具はトラックへ積み込み、鷲尾の運転で(いち)は本館に向かう。遠野先輩と金森は荷台へ乗り込んで、家具の売却について話し合った。

 到着した本館には案の定、カメラを構えた人影が待ち構えていた。

 

「げっ、羽沢!? 同業者ですけど、かな~り嫌な奴です。金森も顔を隠してっ」

 

 鷲尾の本気で嫌がる態度から、画商・羽沢 星次(はざわ せいじ)の人柄を察する。他の相手は金森に対応を任せようと思ったが、取材陣にしてはハンディカムしか見当たらない。(いち)は妙な違和感に助手席から降りた。

 

「佐木君!? どうして、北海道にいるのですか?」

「「……あ、先輩。やっと見つけたっ。お婆さんに聞いて来たんです。お掃除のバイトだそうですね」」

「双子……知り合いかい? 金田君っ」

 

 ドッペルゲンガー兄弟・佐木 竜太(さき りゅうた)竜二(りゅうじ)、初見の遠野先輩も双子と誤解する。意外な場所で対面し、自分も純粋に驚く。しかも、(いち)が頭巾とマスクで顔を隠していても即刻、正体を見破られた。

 

「遠野先輩、紹介します。こちらは来月からの新入生で佐木 竜太君。その弟は来年の新入生、竜二君です。お2人とも去年の生徒会長、遠野先輩です」

「「初めましてと言っておきます。遠野先輩、佐木です」」

「新入生!? そっか、よろしくね。佐木君っ」

 

 身近な人間と知り、警戒を解いて遠野先輩は丁寧に1人ずつ、佐木兄弟と挨拶を交わす。流石にハンディカム越しは無礼、そっと彼らのビデオを下へズラした。

 

「仕事の横取りに来るとは、頂けないねえっ」

「何の事だが……。顧客に詐欺で訴えられているんでしょう? ここの絵画も警察に押収されて……ククッ」

「ほな、順番に下ろして行きましょっ」

「は、はいっ」

 

 一方、画商2人は大人げなく、喧嘩腰のご挨拶。我関せずと金森がトラックから、軽い順に荷を下ろしていく。遠野先輩は慌てて手伝い、自分も本館の鍵を開けた。

 

「あの羽沢さんと来たのですか?」

「「いえ、父とです。そこにいますよ」」

「「うわおっ!!?」」

 

 佐木兄弟が答えた瞬間、画商達の悲鳴が聞こえる。ハンディカムを持つ眼鏡の男・佐木 連太郎(さき れんたろう)に驚いたのだろう。気配どころか存在も感じさせず、流石は佐木兄弟の父親だと感心した。

 

「佐木君、手伝いに来てくれたのですよね。早速ですが、家具を運んで貰えますか?」

「「僕らは今、忙しいので……」」

 

 人手が増えたと喜んだのも束の間、佐木兄弟の不気味なまでの撮影癖にゾッとした。

 

「……佐木君はそういう人でしたね、忘れていましたよ。何しに来たのですか?」

「「先輩の冷たい態度、久しぶりです♪」」

 

 佐木父の手前、罵りの言葉は控える。しかし、蔑みの態度は隠し切れず、されど佐木兄弟は愉快そうに微笑んだ。

 結局、ハンディカムが3台に撮影されるという奇妙な状態で荷下ろしは進んだ。

 

「やはり、東京モンは変わってはりますなあっ」

「「一緒にするな!!」」

 

 ケタケタッと金森が馬鹿受けすれば、画商2人は必死に否定。気付けば、羽沢は自主的に手を貸す。壺などの手軽な物だけだが、十分に有難い。

 

「佐木君、1人だけでもこっちへ貸してくれないか?」

「「いえ、僕らも忙しいので……」」

「佐木君、3人も撮る必要ないだろ?」

「「ですから……」」

「佐木君?」

「「……っ。じゃ~んけ~ん」」

 

 遠野先輩に根負けし、佐木兄弟はジャンケンにて助っ人を決める。ずっと無言の佐木父はそんな息子を撮り続けた。

 勝った竜太が荷運びを手伝い、程なくしてトラックは空になった。

 

「ここを施錠して別館へ行きますが、皆さんはどうしますか?」

「僕が着いて行きます。お婆さんから、泊まりだって聞いてますんで。先輩と同じ宿で寝ます。父と竜二は置いて行きますので、ご心配なくっ」

「置いて行っちゃうの?」

 

 さも当たり前のように竜太は答え、遠野先輩は呆れる。周囲を見渡せば、羽沢はいなくなっていた。

 

「羽沢さんは?」

「あの人に追い回されて、逃げましたっ」

 

 鷲尾曰く、佐木父が原因。その彼は竜二とお互いを撮り合い、無言で大きく頷き合った。

 

「センパイ、ボクも一緒に行きます! 父がそうしろって♪」

「ジャンケンで勝った方が先輩と行くって話だったのに……父さんは全く、竜二に甘いんだから……」

「「「今……その人、喋った?」」」

 

 弟を贔屓する父へ竜太は不満そうだが、自分達の語尾が違う疑問に答えてくれなかった。

 

 2人増えた言い訳を考えながら、別館へ戻る。こちらも人が増えていた。

 

「遠野君、バイトしたいって人が来てるよ~」

「こんにちはぁ、僕は岸 一成っ。村で馬の世話をしてたんだけど、ここでもバイトを雇ってるって聞いて~」

 

 間延びした喋り方、糸目の岸 一成(きし いっせい)は見た目と雰囲気が中津川先生そっくりだ。

 

「……中津川先生、ご兄弟ですか?」

「「まさか~、僕はここまで悠長じゃないよ~」」

 

 まさにビックリ仰天。遠野先輩が抱く当然の疑問を2人同時に否定した。

 

「手伝って貰いましょう。人手は多い方が助かります」

「……金田君がそう言うなら、金森さん。2階にいる江塔君と一緒に組んで貰えますか?」

「ほい、来たっ。お兄さん、何か見つけたら、私に言うて下さいよ」

「何かですかぁ。何でも良いんですか~」

 

 2階の窓を開け、江塔先輩が手を振る。マスクで表情は分かりにくいが、目尻の下がり具合から笑顔を連想した。

 偶然のバイトを装ったライター。そんな可能性を心配し、遠野先輩は不安げに眉をひそめる。岸の目的が何であれ、実際に人手が欲しい。それに氷室伯父と同じ「いっせい」の響きが警戒心を和らげていたのも事実だ。

 

「それで~この双子は?」

「「佐木です」」

「不動高校の新入生らしいですよ、……あの二枚目は?」

 

 中津川先生の尤もな疑問に対し、鷲尾は物凄く大雑把で簡潔に言い放つ。追及せずに納得してしまうのが、美術部顧問なのだ。

 それよりも鷲尾が気に掛ける相手は既に堂々と中まで入り込み、桜樹先輩と和気藹々に語り合う。

 

「『血吸い桜』……素敵な響きね。夜桜郷であった猟奇殺人事件を思わせるわ」

「それは鋭意、その猟奇殺人に関与している桜さ。あなたに負けずを取らず、美しい」

「桜樹君が入れちゃったんだ~。はい、名刺~。ミステリールポライターだって~」

「それを追い払うのが、アナタの役目では?」

 

 岸と違い、強い意思を持ち、真実を暴かんとする眼光はどっかのエリート警視に酷似していた。

 警戒に値するが、桜樹先輩は篭絡された様子。ここに来て役目を果たさない中津川先生に対して、鷲尾さえも呆れた。

 

「やれやれ、桜樹君ってば……」

「「遠野先輩。桜樹って……、ミス研の桜樹 るい子さんですか?」」

「白神……?」

 

 中津川先生から名刺を見せられ、その名に(いち)の心臓がドクンッと跳ねる。佐木兄弟の質問さえも遠くに聞こえた。

 

「すみません、白神さん! 白神屋白蛇酒造の関係者ですか?」

「え? ああ……そちらは白神(しらかみ)、私は白神(しらがみ)ですよ」

 

 一瞬の困惑を見せたが、白神 海人(しらがみ かいと)はすぐに丁寧な説明をしてくれる。残念な気持ちよりも、早とちりによる羞恥心が勝った。

 

(顔を隠しておいて良かった! 恥ずい!!)

 

 (いち)は適当な壁に頭を打ち付け、冷静さを取り戻そうとする。白神の不審そうな目付きもお構いなしだ。

 

「白神屋? 酒造だから、お酒よね。……金田君、お酒好きなの?」

「祖父が……はいっ」

「ほお、金田君でしたか? 良い舌をお持ちのお祖父様ですね。日本酒以外でも、白神屋には桜樹さん好みのお話がありますよ。社長夫人が『白蛇の呪い』で亡くなったとかね」

 

 後輩の無様さに触れず、桜樹先輩はとても個人的な趣味趣向に着目する。素直に答えてみれば、白神はミステリールポライターの博識振りを披露、白神屋白蛇酒造社長・白神 音松(しらかみ おとまつ)の身に起こった悲劇を語った。

 

(え~、白蛇って人を呪い殺すの?)

「いつ頃の話なの?」

 

 ゲンナリした(いち)と違い、桜樹先輩はまたも興味津々だ。

 

「そんな物騒な話よりも、白神さんも手伝ってくれるんですか?」

「彼は遠野君、バイトのリーダーよ」

「これは失礼っ。勿論、お手伝いしますよ。桜樹さんとお話させてくれるならね。こんなに話の合う方は初めてだ」

 

 不審者を見る目付きになり、遠野先輩は完全に警戒態勢。それを致し方なしと言わんばかりに、白神は桜樹先輩へ微笑みかける。困った事に彼女の好きな頭の良い男らしく、好奇心に満ち満ちた笑みを返した。

 それどころか、桜樹先輩は白神の腕へ絡めとる。彼を追い返せないようにする為だ。

 

「鷲尾さん、白神さんと組んで下さいっ」

「……まあ、当然ですね。ありゃあ、女慣れしてますよ。絶対っ」

 

 同級生を守る使命感が湧き起り、遠野先輩は今まで一番強い口調になる。引率の中津川先生が傍におり、頼れる大人がいる為だろう。恐ろしいまでの謎な威圧感はまだ身を潜めていた。

 

「すんませ~ん、ここに速水 玲香いるんっしょ~!? 俺の目は誤魔化せないって!」

「はいはい~」

 

 油断したところに新鋭犯罪ルポライター・真木目 仁(まきめ じん)が現れ、中津川先生がのんびりと立ちふさがった。

 

「「速水 玲香! 事件直後でもないのに、今日はやたらと取材が来ると思ったら……あのアイドルって失踪中でしたよね。ここにいるんじゃないかって、勘繰られているのでは?」」

「……迷惑ですね」

 

 閃いた佐木兄弟の推測通りならば、本当に迷惑千万である。

 青森県のご実家にて、速水 玲香(はやみ れいか)が身を裂くような真実を知らされ、絶望したと知らずに――。

 

 勝手な撮影係・竜二以外の手伝いが増え、一気に作業は進む。午後3時を過ぎる頃には邪魔者も来なくなり、中津川先生は各部屋の寝床を整え出した。

 

「寝泊まりの支度は掃除じゃないからね~。それに~、僕は氷室画伯の偽者が使ってた部屋で寝たいから、ちょっとでも活躍しないと~」

「……中津川先生、それ言わなかったら……見直したのに……」

「東京モンはホンマに変わってはりますわ~」

「皆さん~、東京の方なんですかぁ? ……? 氷室画伯? え!? あの死んでいたって話題になった画伯の家!? ……つまり、ここって殺人現場……」

 

 中津川先生は馬鹿正直に下心を話し、江塔先輩も呆れる。金森は何度も言い過ぎ、完全に口癖と化す。衝撃的な事実を知り、驚いた岸は腹から叫んだ。

 開けた窓を通じ、2階にいる彼らの愉快な会話は1階まで筒抜けだ。

 

「ウソでしょ、今頃になって気付いたとか……ウケるっ」

「本当、色んな人が来るわね」

 

 痛快な気分で竜太と山根は窓から2階を見上げ、クスッと笑う。

 

「東京だとは思っていましたが、どの辺りがお聞きしても?」

「不動山市よ、私達は同じ不動高校なの。白神さんも東京の方ね……とても気品を感じるわ」

 

 作業の手を休めず、白神と桜庭先輩の会話は続く。まるでデート中の恋人だ。

 

「え~と……キミは金田君でしたかね? 電灯のスイッチが入らなくて……まさか、電気が止められているとか?」

「あれ? トイレ、使えましたよね?」

「鷲尾さん、ブレーカーを確認してきますよ。佐木君()、ここで撮り続けて下さい。遠野先輩、少し離れます」

「OK、少し手元が暗くなって来たしね。明かりが欲しいよ」

 

 遠野先輩の了解を貰い、(いち)はブレーカーの設置場所へ向かう。見取り図は頭に叩き込んでおり、キッチンにてすぐに発見した。

 

(……ああ、部屋の電灯だけ切ってたのか……。水道の受水槽を動かせる分、電気が通るように……。節電か、漏電対策で……銭形さんの仕業かな? え~と、ほとんど1階で寝るし……)

 

 安全ブレーカーを必要分、上げて行く。(いち)以外の手がスッと後ろから伸び、ブレーカーをひとつ上げる。全く気配を感じず、心臓が跳ねる程に驚いた。

 

「!? 白神さん……どうして、こちらへ……ビックリしました」

「金田君はここの配線に、詳しいんですね。皆さん、初めてここを訪れたと……桜樹さんは言ってましたが……」

 

 桜樹先輩への親しげな態度と違い、機を逃さないライターの本性が表れる。白神はこの場に邸宅の関係者、あるいは氷室の血縁がいると憶測を立てたのだろう。どんな言葉を並べても、真相に辿り着いてしまう。そんな強い予感がした。

 ブレーカーを上げに来ただけで、目を付けられてしまうなど想定外だ。

 まだ世間にも学校にも、ましてや初対面のライターに関係性を明かしたくない。不意に浮かんだのは、本庁捜査一課の剣持(けんもち)警部。

 

〝困った事があれば、金田一(きんだいち)を頼ると良い。きっと何かの役に立つ!〟

 

「――そりゃあ、金田一(きんだいち)君から聞いたもンでね。ご存知でしょう? 彼の名探偵・金田一 耕助の孫! この邸宅で起こった惨劇、雪夜叉伝説になぞられた見立て殺人事件を解決したのは、彼なんですよ――」

「……!? ……名探偵の孫、ねえ?」

 

 快活に笑いながら、(いち)は剣持警部のように振る舞う。報道に高校生の名はなく、白神は新情報に目を丸くした。

 

「白神さん、見っけ♪ あれ、金田君はブレーカーを上げに行ったんじゃあ?」

「桜樹先輩っ。今、金田一(きんだいち)君の話をしていました。そうでしょう、白神さん」

「という事は、その方も不動高校なんですか……」

 

 ひょっこり、桜樹先輩が良いタイミングで現れる。金田一(きんだいち)が彼女のお眼鏡に叶う様、祈った。

 

「ええ、金田一(きんだいち)君は同じ学校よ。金田君と同じ学年って言った方が早いかしら。彼っ、とっても有名なの」

「ほ~っ、桜樹さんがそう言いますかっ」

(ありがとう、金田一(きんだいち)君!)

 

 狙い通り、桜樹先輩は白神の興味を金田一(きんだいち)へ向かう。こちらへの関心は消えた。

 まだ挨拶さえした事ない同級生へ、心から感謝した。

 

 トラックに再び荷を積んで午後4時、本日の作業終了。日の入りは午後5時頃、心なしか雲行きが怪しくなる。先に鷲尾と金森は、民宿へ行かねばならなくなった。

 

「岸さんと白神さんも民宿ですか?」

「僕はぁ、馬の世話で雇ってくれたオジーサンの家に~。明日の朝も~世話するんだぁ」

「生憎、泊まれる民宿は予約がいっぱいと言われたよ。明朝にはこの村を発たねばなりません……出来れば、キミと一緒にいたいですね」

「あら♪」

 

 今夜の宿を心配して聞いてみれば、岸だけまともに答える。白神は満更でもない桜樹先輩しか、見ていない。流石にイラッとした。

 

「「だったら、僕達が父と泊まるはずだった宿はどうです? 向こう側にいる父もOKだそうです」」

 

 佐木兄弟の言葉に全員、険しい谷川を挟んだ本館へ注目。館一つ分の距離でも、ハンディカムを持つ佐木父は確かに見えた。

 

「ずっと、独りでこっち撮ってた? ……怖っ」

「手~振ってくれてはりますやん。これらを向こうに運ぶさかいっ。白神さんはそのまんま、あのお人に着いて行ったら、ええでっ」

「……キミ達の父上に甘えようかな。また会いましょう、桜樹さんっ」

 

 怯えた鷲尾は呟き、トラックをコンコンッと叩いた金森に提案され、白神は妙に考え込む。それでも、結局は佐木父を選んだ。

 遠野先輩と共に胸を撫で下ろす。少し残念がる桜樹先輩を尻軽だとは思わないが、白神と一緒では気が休まらない。

 中津川先生と山根以外の大人達はトラックにて、出発。途端、雪が降り注いだ。

 

「「「「津雲先生が珍しい事するから……」」」」

「キミ達……」

「津雲先生?」

「「不動高校にいる化学の先生です」」

 

 何の示し合わせもなく、生徒達は遠野先輩さえ一緒に呟く。流石に中津川先生が苦笑し、蚊帳の外である山根だけが疑問。何故か、佐木兄弟が答えた。




小城「小城 拓也です。誰だ……雪なんて降らないとか言った奴……、猛吹雪じゃないか……。それが無くても、フィジカルいるのに……さて、次回は『タロット山荘殺人事件は青森で・後編』!! 何も考えず『UNO』で遊びたい……」

ミス研の部長・桜樹 るい子
学園七不思議殺人事件、ゲストキャラ

美術部顧問の美術担当・中津川 賢人先生、写真部の部長・江塔 大樹
誰が女神を殺したか? 不動高校学園祭殺人事件、ゲストキャラ

古物商・金森 民夫
嘆きの鬼殺人事件、モブキャラ

山根 優香、椿 陽造
悪魔組曲殺人事件、ゲストキャラ。※優香は本来、優歌だが後に御堂 優歌も出す為に漢字を変えている。

心霊研究家の首木 友郎、フリーライターの猫間 純子、ミステリールポライター白神 海人
それぞれが亡霊校舎殺人事件、吸血鬼伝説殺人事件、オペラ座館第三の殺人事件、ゲストキャラ

佐木 連太郎
金田一少年の殺人より登場

画商・鷲尾 ケイゴ(ドラマ版)、画商・羽沢 星次、フリーター岸 一成、美術雑誌記者・醍醐 真紀
怪盗紳士の殺人、ゲストキャラ

フリーライターいつき 陽介、新鋭犯罪ルポライター・真木目 仁
悲恋湖伝説殺人事件より登場の準レギュラー、蝋人形城殺人事件のゲストキャラ

白神屋白蛇酒造社長・白神 音松
白蛇蔵殺人事件、ゲストキャラ
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