金田少年の生徒会日誌   作:珍明

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前回から翌日の出来事、オリ主の判断
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Q56 第3の遺言状

 亡き小説家による服役囚への莫大な遺産相続は、多くの人々に深い感銘を与えた。新聞雑誌、各情報番組でも一斉に報じられた。

 事前に父・残間(ざんま)から伝えられなければ、金田家は阿鼻叫喚の状態に陥っただろう。

 

……氷室への恩を、仇で返しよって! 何が人格者じゃあ……

「あなた……」

「お祖父ちゃん……」

 

 普段は柔軟な金田祖父でさえ、新聞を握り潰す。(いち)と金田祖母は彼こそが倒れてしまわないか、血の気が引く程に心配した。

 

 学校、バイト先も同じ話題で盛り上がり、気分が悪い。

 修学旅行のグループ分けに神矢(かみや)を引き入れなければ、ハジメを言い訳に学校をサボっていた。

 彼は木曜日に欠席し、金曜日に姿を見せたものの、深刻な様子を隠してもいない。

 

「山之内の遺稿、掲載決まったんだと……お前は読むな」

 

 何とも、ご親切なアドバイス。

 心優しき名探偵の孫、まだ事件を引き摺っているのかもしれない。母・にいみへ彼と話す様に頼んだ為、言い争いになった可能性もある。彼女からは「ローゼスと3人で話しただけで終わった」としか、知らされていない。

 

「どう思いますか? 竜太君」

金田一(きんだいち)先輩は単純に、金田先輩が心配なんですよ。昨日から『オイデプス王』への交響的前奏曲ばっかり……」

「1月の発表会へ向けた演目なのです」

「お昼休み、終わっちゃいますって」

 

 竜太(りゅうた)のハンディカムに反射した時計を見やり、鍵盤へ這わせた指を止める。グランドピアノを弾く手応えは良くても、胸の痞えは取れない。

 

「竜太君は……聞かないのですね、あのビデオメッセージのコトも……」

「……今は、知らなくていいと思います。金田先輩が元気溌剌に「聞いて聞いて、竜太君」って言ってくれる日まで、待ちます」

「……竜太君のイマジナリーな自分、阿呆過ぎません?」

「通常運転です」

 

 自分と後輩との認識のズレ、地味にショック。けれども、違う視点は新しい発見と同じ。

 愛する氷室(ひむろ)伯父について語るならば、今はダメだ。脳髄に纏わり付いた吹雪(憎悪)が騒がしく、話が逸れる恐れもあった。

 

 放課後、部活を終えた自分に待ち人あり。

 

「犬飼君……ハジメちゃんなら、もう帰りました」

「いや、キミに用があって……」

 

 犬飼(いぬかい)の疲労感溢れる表情や、ちょっとくたびれた服装は学校帰りとは思えない。警察の事情聴取に疲れたのだろうか、一応は気にした。

 こちらがバイク通学だった為、『Donny,s』へ立ち寄る。七瀬も無理やり、引っ張ってきた。

 

「いいの? あたしも一緒に来て……」

「神矢君は巻き込めませんから、それに犬飼君も知っている顔が多い程……安心では?」

「……喧嘩を売りに来たんじゃないよ」

 

 3人は微妙な距離感を保ち、席へ着く。時間帯的にも、喋り声が内緒話を掻き消してくれるだろう。

 

「キミが田代さんを疑わなかった理由……それを知りたい。あの館に一番詳しいのは、あの人だ。部屋のからくりや、マスターキーの仕組みも、知らなかったなんて……どうして言える?」

「……桐江さんのお仕事が、雑だったからです

「!?」

 

 犬飼の質問に正直に答えれば、偶々お冷を運んだウェイトレスが、ビクッと痙攣した。

 

「……と言うと?」

「メイドとして至らない点は多々ありますが、決定的だったひとつだけをお教えします」

(……多々……)

 

 同世代からの小姑を見る目付き。イラッとする。

 

「……神明先生がブランデーを頭から被った時、桐江さん……タオルも差し出しませんでした。お客様がずぶ濡れになったら、それくらいします。しなかった時点で、彼女にとって自分達は……金目当てのハイエナに過ぎなかったのです」

 

 桐江(きりえ)の普段の仕事ぶりなど、知らない。だが、田代(たしろ)執事が誠心誠意込めて持て成す中、彼女はあまりにも客人に無関心過ぎた。

 犬飼の瞳が、感心と恐怖に歪む。

 

「キミは……感情的に物を言う。彼女が、気に食わなかったのか?」

「いいえ、物事は単純明快。桐江さんだけ、アリバイがなかったのです。何の……なんて、ありきたりな質問は()してくださいね」

「……っ」

 

 トリックノートが、隠し金庫から消えた。

 それを確認した時点で、桐江を疑った。後は辻褄を合わせの言い掛かり、推理には程遠い。

 隠し金庫、『第2の遺言状』、時計の隠し戸に残された指紋。応接間にあったはずのライトスタンドが、桐江の部屋の物と交換されていた。

 竜太のビデオ映像も立派な証拠、自首していなくても逮捕へ繋げただろう。

 

「アリバイ、そんな物がなくても……最初から、桐江さんを疑ってたんじゃないか?」

「……ご挨拶した時から、彼女の接客態度に違和感を覚えたのです」

 

 犬飼の剣呑さに、(いち)の声も自然と尖らせる。

 

「犬飼君、あたし……ずっと思ってたけど……金田君と会った事ある?」

「……実は、宝田さんから聞いた話が……」

「犬飼君、自分も知りたくありませんが……言いたい事があるなら、聞きますよ」

 

 七瀬の素朴な疑問に、犬飼は速攻で話を変える。問い詰めれば、彼は諦めたように両手を上げ、観念した。

 

「……キミが中学の時、付き合ってたカノジョ……いただろ?」

「……っ」

「……え!? 金田君、カノジョいたの?」

 

 犬飼は躊躇いがちに、物凄く言葉を選ぶ。(いち)中学校時代の忌まわしい(1回目のデートで振られた)記憶が蘇り、椅子から転げ落ちる。七瀬の驚きに耳を塞いだ。

 

「お客様、大丈夫ですか!?」

はい……平気デス

 

 ウェイトレスの手を借り、よろよろと椅子へ戻る。改めて、犬飼を凝視した。

 

「あの人と……同じ学校?」

「……うん。入学した頃、少しだけ……付き合ってた」

 

 失礼を承知で犬飼を指差し、震えた声で問う。彼の目が窓の向こうにある夕陽を眺めた後、死んだ。

 

「あ! 振られた理由が、金田君ね」

「……っ」

「七瀬さん……レジ横のお菓子コーナーで、デリカシーを買って来てください。すぐにっ」

 

 七瀬にトドメを刺され、犬飼はテーブルへ突っ伏す。(いち)も流石に憐れみを感じ、ツッコミの煩い元生徒会長を追い払おうとしたが、彼女は頑として席を立たなかった。

 敵愾心の理由は、高校生男子にありがちな巡り合わせ。

 これだけ分かれば、十分だ。

 

「……話を戻しますが、宝田さんから何を聞いたのですか?」

「……今度、山之内先生の遺稿が……掲載される」

「ハジメちゃんからも、聞きました」

「……キミは、それを事前に読んでいたんじゃないか?」

 

 下がりまくったテンションを必死に戻しながら、犬飼は縋るような視線を向けてくる。

 (いち)は背筋を伸ばし、真っ向から見据えた。

 

「いいえっ。言い忘れましたが、自分は山之内と面識はありません。ご自宅なんて行きませんし、別荘も今回が初めてです」

「……うん、そうだと思った。キミを責める理由が欲しかったんだ……すまない」

 

 犬飼は落胆を滲ませ、素直に頭を下げた。

 

「……あの、犬飼君……どういう意味?」

「……大まかな、あらすじだけ聞いたんだけど……、今回の事件と同じ内容なんだ。第1の被害者がコントラバス……犯人がメイドって部分も……」

「……桐江さんが、以前からその原稿を読んでいた……?」

 

 最初に受けた印象は、模倣犯

 だが、桐江はあくまでも『第2の遺言状』を読み、衝動的に犯行を決意した。ハジメはそう、語ってくれたはずだ。

 

「七瀬さん、犬飼君。例の遺言状、内容を覚えていますか? 何をどうしたら、桐江さんにも相続チャンスが巡って来るという部分です」

「ええとね、……犬飼君達5人が暗号解読の期限になった時点で、誰も館に居なかった場合だったはずよ」

「……ああ、桐江さんの名前はなくて、暗号解読者本人に譲る……そういう内容だった」

 

 2人は躊躇いつつもハッキリと告げ、(いち)は頭を抱えた。

 誰も殺す必要はなかった。相続人候補をどうにか言い包めて、館から追い出せば良かった。それだけの話だったのに、桐江は殺す選択をしてしまった

 怒りに浸食され、逆に脳髄が冴えてきた。

 

「……犬飼君は、桐江さんは原稿を読んでいたから……殺人に至っただけで、読んでいなければ……少なくとも、別の方法を取った。そう、言うのですか?」

「桐江さんを信じていいのか……僕には、分からない。山之内先生はあの館で一心不乱に原稿を書いていたって、田代さんも言ってた。それがどんな作品か、彼女が気にしなかったなんて……在り得るのかな?」

 

 犬飼は情報が錯綜し、迷っている。途端、姉・さとみと重なった。

 トリックノート、事情を知らずに笑い合った日々。微々たる類似点だ。

 高遠(たかとお)と桐江は全く違う。前者は完全なる復讐、後者は無関係の人間を犠牲に――。

 どうせ殺すなら、山之内本人であって欲しかった。青森にいる同級生(和泉 さくら)と似通った境遇に、いくらでも同情した。

 どうして、犬飼が遺産相続ゲームに勝つと信じて、待ってくれなかったのだろう。目の前にいる彼へ当たり散らしたとしても、失われた命は戻らない。

 

〝犬飼君や金田一(きんだいち)君みたいに生意気なくらいが、年相応だ〟

 

 神明(じんめい)先生の声が、(いち)の気持ちを後押ししてくれた。

 

「犬飼君は、桐江さんを信じてください。自分に言えるのは、それだけです」

「……キミは……強いな、金田君。その、ありがとう……」

 

 犬飼は納得し切れないが、希望を見出す笑い方だ。はにかんだ感謝に、もう迷いは見えない。

 返事をせず、(いち)は微笑む。顔も視線も、犬飼から逸らさずにいた。

 しかし、テーブルの下では自分の腕へ制服越しに爪を立てた。皮膚はとっくに麻痺し、痛みを感じなかった。

 

 コーヒー1杯分をご馳走になり、犬飼とはお別れ。

 愛車を押しながら、(いち)の手は怒りに震える。飲み干した黒い液体の如く、食道に吹雪(憎悪)がこびり付いた。

 

「金田君……あの、ハジメちゃん呼ぶ? 昨日……色々と調べてたみたいで……」

 

 七瀬は落ち着いた様子ながら、控え目に公衆電話を指差す。今、彼と話したい衝動に駆られていると見抜かれ、流石だと拍手を送りたかった。

 

「七瀬さん、少し……お時間よろしいですか? ハジメちゃんの代わりに、聞いて頂きたいのです。……友達として……」

「……っ、うん……いくらでも」

 

 話を聞かせる相手に選ばれた。

 七瀬はその重要性を深く理解し、友達として寄り添ってくれる。その凛々しき眼差しは、確かに美しかった。

 

 公衆電話から宇治木(うじき)の携帯電話へ連絡し、いくつか情報を確認した。

 

〈ごめん、軽井沢から帰った後……ちょっと調べたんだ。ただ、嫌な話になるよ……〉

 

 宇治木から粗方、聞き終えた後――判断材料は全て揃った。

 礼を述べた後、受話器を下ろす。

 露西亜館の件を機に、お互いの携帯電話番号を交換しておいて本当に良かった。

 

 七瀬に案内された河辺は、吹奏楽部の溜まり場。クラリネットやトランペットの演奏練習を尻目に、離れた場所のベンチへ腰かけた。

 前置きとして、金田家の事情を語った。氷室(ひむろ)祖父が35年前に亡くなり、金田祖父は母・にいみの継父である事実。案の定、七瀬は知らなかった。

 

「山之内は……氷室の祖父を愛していました」

「……愛?」

「はい。LIKE(ライク)ではなく、LOVE(ラブ)です」

「うん……続けて」

 

 山之内は氷室祖父の忘れ形見である兄妹に対し、屈折した感情を抱くようになった。

 

「桐江さんにも、同じ事が言えます。彼女のお父様へ恩を感じていたのだと思います。だから、亡くなられた後、アイデアを使ったのです。追悼の意味を込めて……」

 

 最初は小説家への足掛かりにするだけ、だったのかもしれない。

 それが思いの外、好評。富と名声により、本懐を忘れ去った。栄光の果てに心臓病を患い、全てが憎悪に変わった。

 

「その方……純一郎さんへの恨み(・・)を、桐江さんを殺人鬼に仕立てる事で……晴らそうとした(・・・・・・・)のです」

「……っ、暗号ゲーム自体が……その為の罠?」

 

 (いち)の導き出した結論を七瀬は否定せず、慄いた。

 

「……去年から、露西亜館に療養してたって聞いたわ」

「病名を宣告されたのは……もっと前、桐江さんと会った頃でしょう。布石を打てるだけ打ってから、露西亜館へ籠ったのです」

「……スナックで会ったのは、偶然じゃない?

「ご友人の忘れ形見です。元々、探していたのでしょうね。途中から、利用する目的に変わったのです」

 

 【露西亜人形殺人事件】の本を見せられ、桐江はまんまと盗作を疑い、身分を偽ってメイドとして潜り込んだ。

 トリックノートを発見しても、それだけでは訴えられない。正攻法で取り戻せない現状を徹底的に分からせ、屈辱を与え続けた。

 

「正直、候補者の皆さんを……金銭的に追い詰めるように仕掛けたと言われても、驚きません」

 

 誰も彼も、莫大な遺産へ執着するように導かれた。

 

「そんなの……上手く行きっこないわ。死んでからも、人を操るなんて……」

「はい、だから……桐江さんはご自分が復讐の対象になっているなど、露にも思わず……罠に掛かったのです。更に『第3の遺言状』が、候補者の目を誤魔化しました。予め5人の取り分を決めていた人が、桐江さんに自分達を殺させるはずがない……とね」

 

 遺稿が公開されれば、桐江は計画的に犯行を企てたと疑われる。他の候補者は知らないが、犬飼は疑心暗鬼に陥り、思い悩んでいた。

 絶対に読んでいないと立証できない限り、覆すのはほぼ不可能(・・・・・)だ。

 

「……分からないわ。それと金田君……にいみさんと氷室画伯が、どう関わってるの? アナタは所謂、愛した人の孫なのに。どうして、復讐されなきゃならないのよ。面識もないんでしょ?」

「坊主憎けりゃ袈裟まで憎い、ご自分を選ばなかった女の息子です。憎いに決まっています。……さとみさんはおそらく、高遠さんの事件に巻き込まれたから……見逃されたのです」

 

 死骨ヶ原湿原ホテル殺人事件。山之内がどこまで真相を突き止めたか、最早、知る術はない。

 

「……っ」

 

 ふと、七瀬が何かを言いかける。グッと拳を握り、堪えてくれた。

 

「綾辻 真理奈さんは、桐江さんへの当てつけ?」

「こちらも感謝と恨みが籠っています。綾辻が事件を起こすまで、伯父の資産は……あの4人に凌辱されたのです。山之内は、絶対に許せなかったと思います」

 

 莫大な遺産を得た服役囚、どう考えても厄介事が起こる。塀の中だろうと、安全とは限らない。その対策については、彼女の支援団体が行なうだろう。

 

「……宇治木さんから聞きましたが、あの3人の遺族の方々、連続して亡くなったそうです。場所や時間、方法もバラバラ……これらは綾辻が逮捕されてから……起こりました」

「!? 金田君、まさか……それも山之内先生の仕業って言うの?」

「……露西亜館の前座とでも、申しましょうか。加納 りえの父親、あの萬屋病院の入院患者で……例の不審死の犠牲者だったそうです」

「……っ」

 

 段々と気持ち悪くなり、(いち)は前屈みにため息を吐く。七瀬はもう真っ青を通り越して、白かった。

 緻密に計算尽くされた計画、それを彩る人間関係、これが只の物語であったならば、伏線を張り巡らせた長編大作だったかもしれない。

 

(……いや、設定てんこ盛り過ぎんだろ。胃がもたれるわっ)

 

 不快さの隙間に不満が入り込み、首の後ろの痙攣が少しだけ治まった。

 もう陽は完全に落ち、吹奏楽部の練習も終わりを見せる。木の葉の擦れる音は、七瀬の心情そのものだ。

 ちょっと後悔した。

 話して、聞かせる。これだけで、事情へ巻き込むと知っている。七瀬の覚悟に、甘えてしまった。

 

「すみません、こんな話……」

「ううん、ハジメちゃんも……多分、分かっちゃったんだと思う。でも……きっと話してくれないわ。あたしに心配かけたくないって、黙っちゃうの……」

 

 底知れぬ憎悪と悪意を浴びせられても、七瀬は気丈にも目を逸らさない。ハジメが惚れた理由を初めて、実感した。

 途端、七瀬は自らを抱き締める。可憐な指は悔しそうに震えていた。

 

「ただね、でもね、やっぱり……金田君には、何の関係もないわ。酷すぎる……本当に、勝手よ」

 

 友達を思いやり、悪を憎む。決して、憎しみに同調せず、哀しみへ同情するだけだ。やはり、七瀬も名探偵の孫と似た者同士で、人が良い。類は友を呼び、竜太も集まった。

 今の(いち)には持てぬ優しさが、少しだけ羨ましい。

 吹雪は治まらないけど、積もった雪で作った雪洞(かまくら)のように暖かい。

 

「……神明先生の事は、本当に残念でした。……ですが、幽月さんは無事です。それだけは、喜びましょう」

「……にいみさんの知り合いなの?」

「母が独身時代、子供だった幽月さんに会っているのです。母に教えたら、驚いていましたよ」

「……そう、そんな偶然、あるのね」

 

 そうっと顔を上げ、七瀬はクスクスッと普段のように笑った。

 

(いち)君、ここにいた!」

 

 緊迫した声に呼ばれ、2人でビックリ仰天。

 振り返れば、頬に凍傷痕がある黒沼(くろぬま)先生。暗がりの河岸でも、街灯に照らされたライダースーツはよく映える。

 

「……黒沼先生、どうして……。当番のお仕事は、大丈夫ですか?」

「俺の仕事を心配している場合じゃないぜ。宇治木さんから、連絡もらったんだよ。よく分からないけど、キミが深刻そうだったって……こんばんは」

「こんばんは、七瀬です(カッコイイ……)」

 

 先程までの震えは治まり、七瀬は頬を赤らめる。切り替えの早さは流石だ。

 彼女の性格に毒気を抜かれ、(いち)はやれやれと立ち上がる。

 

「七瀬さん、こちらは弁護士の黒沼先生です。いつもお世話になっております。黒沼先生、こちらは同級生の七瀬さんです」

「ああ、成程。何かあると金田君……黒沼先生を呼ぶって言ってます。頼りになる人だって、すぐに分かりました」

「それは光栄です」

 

 和気藹々と駐輪スペースへ行けば、黒沼先生のバイクもある。宇治木の電話を受け、探し回ってくれたと理解した。過保護が増している気がする。

 

「七瀬さんは自転車? 歩き? 家の近くまで送りますよ」

「あ、あたし……電車なんで、駅までお願いします……」

 

 黒沼先生の気遣いに、七瀬は最低限の見送りを頼んでくる。午後7時を過ぎ、吹奏楽部員もいない時間だ。本来なら、家まで送るのが紳士。だが、お隣さんが煩い。

 

(どっちのバイクに乗せても、ハジメちゃんが嫉妬全開……)

 

 結局、最寄り駅まで見送った。七瀬と同じ方向の同級生と鉢合わせ、ひと安心だ。

 

「……ありがとう、黒沼先生。七瀬さんと……重い話をしていたので、助かりました」

「! ……(いち)君、俺に礼なんて……言わないでくれ。あんな場所に行かせてしまって……しかも、仕事が立て込んで……本当に遅くなった。ごめん、キミを行かせるんじゃなかったっ」

 

 黒沼先生は(いち)の礼に驚き、申し訳なさそうに頭を下げる。彼に頼まれなければ、行かなかったのは確かだ。しかし、それを責めたりなんかしない。決めたのは自分自身だ

 山之内の仕掛けたミスディレクション(操られた取捨選択)など、有り得ない。

 

「黒沼先生、自分は……あの時、思いました。母がいなくて良かったと……それが、祖父母だったとしても同じです」

 

 にいみを立会人にした理由、神明先生と幽月(ゆづき)先生との人間関係も把握しての事だろう。

 或いは、桐江に殺させるリストへ入れられていた可能も十分にある。

 ハジメやローゼスという予定外の助っ人に恵まれ、被害を最小限に食い止められた。

 これが救いでなくて、何なのだ。

 

「ですから、黒沼先生……顔を上げてください。今日、家へ寄りませんか? 有頭さんの愚痴……話、聞いてください」

(いち)君、ありがとう。……お言葉に、甘えようかな。有頭さんの話ってなんだろ?

 

 ふうっと笑い合った時、風が頬を撫でる。北海道の冷気に比べれば、東京の夜は涼しい風だ。

 バイクに跨りながら、ヘルメットを被る。黒沼先生もヘルメット越しに、お互いの準備万端を確認し合った。

 

ゲームが中止になっていれば(自分が行かなければ)、神明先生は……)

 

 ズキンッとした胸の痛みは、自分だけの贖罪。

 2台のエンジン音が荒れ狂う吹雪(ブリザード)を奏でたのは、きっと気のせいだ。




山之内「にいみお嬢様、如何でしたかな? ……どうやら、アナタ様の心に深く刻まされたようで、何より……。はて、叔父上様の件とは……何の事やら。私のような物書きを、刑事が相手にすると本気でお思いですか? 流石、多岐川先生のミステリーに入れ込んでらっしゃる……お嬢様らしい憶測ですな。さて、次回は『雪影村へようこそ』!! ……?」

犬飼 貴志
探偵気取りの高校生、部屋の仕掛けはクローゼット
自尊心高く、人を侮る癖がある。ミステリーファンだけあって、眠気の正体が睡眠薬だとすぐに気付いた。彼が最後の犠牲者予定だったのは、絶対に桐江を疑わないからだろう
よく吠える犬5匹と、親戚同然のお付き合いと称して、頻繁に山之内の執筆を邪魔していたと思われる(これ庇えないわ)
原作にて、桐江の出所を待ち、トリックノートが渡る様に尽力すると宣言した
作中にて、オリ主の元カノの元カレ。事件発生からの犯人逮捕がたった一晩で起こり、RTA状態で情緒が追いつかず、オリ主へ悩みを打ち明けた。
彼自身は改めて桐江を待つと決めたが、オリ主に暗い影を落としたと気付かなかった

桐江 想子
事件が始まる前から「詰んでいた」犯人
原作だと「桐江」が偽名、ドラマ版では「想子」が偽名?
父親が「見て、新しい暗号を閃いた」と最初に教える程、聡明だった
施設を逃げ出し、名前を変え、住む場所を転々としていた為、アイデアが盗まれた事実を知るのが遅れてしまう
トリックノートしか発見できなかった為、書きかけの原稿が本当になかったか、不明。ノートだけでは、盗作として山之内を訴えられないと知っていたと思われる
真相を探ろうと自分から雇われたが、金田一あるあるの盗み聞きによる言質取りをせず、しかも山之内は短命。第2の遺言状の「5人がいなければ」を「殺せば」と解釈、遺稿まで残された
期限付きのゲームだった為、神明と犬飼なら、盗用の事実を知れば、味方になってくれたかもしれないと考える余裕もなかった
原作にて、3人を殺し、高遠によって自害を妨害されて、自分を見つめ直すキッカケを得られた事だろう
作中にて、1人の殺害に留まり、出所後はいつきの紹介で橘の下で働く

山之内 恒聖
全国の「山之内」さんに謝って欲しいレベルの○○←あらん限りの罵倒、好きな言葉を入れてね
桐江曰く、陰湿な男。神明曰く、画策野郎
幽月でも見抜けない程、相当に性根を隠すのが上手い
梅園から受けた仕打ちを恨んでいた事から、自分自身の行いを「盗用」と認識していなかった
桐江とスナックで再会、幽月が火事にあったのも2年前。その時期から、心臓病を患い、虎視眈々と準備していたと思われる
原作にて、桐江が犯行を成し遂げると信じていた(どんな信頼?)
作中にて、氷室祖父の弟分
4年前、にいみに頼られた事で有頂天になっていたが、それまでは歯牙にもかけなかった恨みを、オリ主の希望する高校進学を妨害した事で晴らす
比留田達の遺族を露西亜館にいた状態のまま、密かに抹殺
相続レースもどんな結果になろうが、オリ主と桐江が何かしらの形で苦しむように段取りした
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