金田少年の生徒会日誌 作:珍明
千家、有森、相田は不参加です
1編 魔犬は静かに啼く-八尾と冴子
東京よりも暑く、陽射しは優しい。夏服を持ち込んで正解だった。
ついに沖縄へ来たと胸躍らせ、不動高校がゾロゾロと空港を歩く。校長が目印の如く、堂々と立ち尽くしていた。
(つ~か、なんで高校生の修学旅行に校長が付いてくんだよ。義務教育かっての)
(キンダニのせいだろ)
(あいつ、七瀬さんと上海へ行った時も警察沙汰になったらしいぜ)
(予備校に行ったら、潰しちまったとか……)
(よせよせ、折角の修学旅行が嫌な気分になるぞ)
聞こえないはずの皆の不満が、1組の
「おう、シーサーじゃんえか。久しぶりだな~」
「置物と友達ゴッコすんな、金田一」
金田一がその都度、足を止める。
「「「金田一~自由時間にさ、古武術の見学に行こうぜ」」」
「あ~ん? お前ら、格闘術オタクだっけ?」
「沖縄の空手・古武術は、県の無形文化財に指定されたんだよ。金田一は知らないかもしれないね」
1組の3人トリオまで売店の書籍コーナーを指差し、ワイワイ騒ぎ出す。金田一もどれどれと本棚を覗き込み、
「金田一、村上。こっちも見てみろよ。萬屋病院の続報が載ってるぜ、息子の萬屋 透じゃなくて、渡辺 鐘を主犯にする感じか? これ……」
「「岡持……ここまで来て、ミステリーオタクみたいな話はやめようぜ」」
4組の
「こらあ、そこお!! さっさと並ばんかあ!」
「んだよ、ノモッツァン。旅行でテンション上がってんのか?」
「いや……並べっつってんだよ、金田一」
ノモッツァンの怒声に、金田一達は渋々と並ぶ。
クスクスと笑いが起こり、徹平は我関せずと修学旅行のしおりを開く。彼を見ると先日の山梨県へ行った出来事を思い出してしまう。
別荘が火災に見舞われ、幸いにもボヤ程度で済んだ。女子大生とも知り合えたが、自宅へ帰った後は父親にこっぴどく叱られた。
同じ目に遭わない事を祈る。
「添乗員の方々を紹介するっ。絶対に、ご迷惑をかけないように!」
「5組を担当します、小野寺 将之です」
「「よろしくお願いします」」
学年主任に紹介され、各組のガイドが挨拶してくる。徹平の5組担当は、眼鏡の優男だ。
1組と4組は美人の女性、羨ましい。
(千家も来りゃあ、良かったのになあ。つまんねえ)
そう思ったのは、首里城到着までだ。
太陽の下に照らされた朱い城、歴史ある荘厳さにゾワゾワッと粟立つ。カメラのネガフィルムが足りるか、心配になってきた。
「首里城は14世紀中頃、察度王の政治下で……」
添乗員の淡々とした話を一先ず、メモる。その美しい声は、男の徹平でもドキッとさせられる色気があった。
インテリア系眼鏡でその声は、ズルイ。
首里城の見学はちょっとした自由時間になり、他の組とも混ざって行動する。
「美雪、そのカチューシャ。沖縄にピッタリじゃない?」
「ホント、なんか色合いって言うかさ~。この辺のワンポイントとか」
「そう? へへ、良いでしょう?」
「良かったねえ、美雪ちゃん」
1組の
七瀬の靡く髪へ嵌め込まれたカチューシャ。金田一からのプレゼントだと、徹平と村上、朝木は知っている。
「金田一、七瀬さんにプレゼントしたアレ……結構、良いモンか?」
「んだよ、八尾。奮発したんだぜ、これでも」
「お前……そこまで準備しておいて、……それでも高校生かよ」
徹平が何気なく聞けば、金田一は胸を張る。村上の言う通り、微笑ましさよりモヤモヤした気持ちが付き纏った。何故、あのタイミングで告らないのだろう。
「「「おうおう、金田一。羽振りが良いなら、オレらに奢れよ♪」」」
「やなこたった! クリスマスが迫ってんだぜ、金が要るんだよ、金がっ」
「え? クリスマス……七瀬さんと過ごす気か?」
「落ち着けよ、村上。そんな度胸、金田一にねえよ」
1組の3人トリオに強請られ、金田一は鼻で笑う。村上の嫉妬を抑えようと、徹平は宥めた。
徹平の言葉が聞こえ、金田一のムッとする様子が伝わった。
「俺のコトはいいから、てめえの心配でもしてな。来年は受験なんだぜ、今を楽しまねえと!」
「キミにだけは言われたくないよ、恋も勉強も中途半端……いっそ、退学して就職したらどうだい?」
「「朝基に賛成っ」」
「「「金田一、先ずは3年に進級してから、物言いな。なんつって♪」」」
金田一はプリプリと話題を逸らそうとしたが、朝基から冷笑される。ご尤もな意見、誰も反論せず、段々と普段のように楽しいひと時を過ごした。
金田一がいるか、いないかで笑う回数が段違いだ。
その後はホテルへ到着し、夕食の後は就寝前の自由時間。
これといった問題もなく、嘘のように順調だ。
「あ~快適。山梨は、誰かさんのせいで行けなかったし……。今回もなんかあると警戒したわ~」
「冴子、言い過ぎ~。金田一君の自業自得だけど~」
お土産コーナーにいる1組の
冴子は、山梨行きを妨害されて駅のトイレに閉じ込められた。
誘わなかった徹平も悪いが、手段を選ばない金田一にも問題ある。結局、東京へ戻った後に七瀬が間へ入り、冴子の怒りは治まったという。
「八尾……今更だけど、別荘はどうなった?」
「おっそ、まあ……親父がどうにか修繕するよ。千家への土産、どうしよっか? 最終日にする?」
村上に心配されたが、徹平は苦笑いを返すしかない。
初日の今夜は、お土産の下見をするのみ。他の生徒も集まってきた。
「平嶋さん、岡崎君へのお土産買う?」
「!? ビックリした……朝木さんか。アナタも、金田君に?」
「うん、男の子って何が好きなんだろう。あ、見て。これなんか本物の弾丸をキーホルダーにしてるんだって♪ 火薬を抜いてあるから……危険はなし」
「……カッコイイけど、ちょっと物騒かな?」
可愛くて素直な良い子には、カレシがいる。他の良い子は、自然と金田一に惹かれる。残りは我の強い猛者のみ。徹平は同級生との恋愛を諦めた。
「村上、まだ七瀬さん狙ってんのか?」
「……っ、べ……別にいいだろ」
七瀬は全学年上位にモテようと、誰とも付き合わない。理由は単純、金田一の想い人だからだ。交際にも発展しないくせに、下手に仲を遮れば、別荘のように災いがもたらされる。
それでも、村上は金田一よりも正直者。恋が実るのを祈ろう。
「沖縄の最南端、紺碧島。行きたかったです……リゾート開発は進んでらっしゃるんですか?」
「はい、来年の3月にはオープンの予定です。とは申しましても、大手の旅行会社でもない限り、旅行プランに組み込められないのが……現状でして。お客様を自分の手でご案内できず……残念っ」
1組担任・
「なあ、村上……俺と一緒に年上を狙わないか。あれ、村上?」
徹平がちょっと癒されて、村上へ冗談めいた提案を投げる。振り返っても、いない。自動販売機のところで、3組の
「草太君、明日は別行動でしょう。だから、このカメラを使って……」
「俺……そんなに上手く撮れないんだけど、高そうなカメラ」
カメラ操作の説明を受けているだけだが、2人の距離は近い。傍から見れば、十分、恋人同士。
「裏切ったな、村上……」
「二股、二股っ」
「村上君、最低。あたしとは遊びだったの?」
「うお!! なんだよ、お前ら……。誤解されるような事、言うなって!」
3人トリオにからかわれ、村上は本当に意味不明と混乱している。鷹杉はキョトンと目を丸くし、取り敢えずカメラを背に隠した。
そう、完全に2人は無自覚だ。金田一と七瀬よりも、ピュア。
(心配して損した……)
徹平は不貞腐れ、ロビーのソファーへダイブ。3組の書記が怪訝そうな顔で、通り過ぎた。
○●――……冴子はどこにでもいる真面目な女子高生。髪の長さは耳元まで短くスポーツ女子と思われがちだが、体育の成績は可もなく不可もなし。
少なくとも、『オチコボレ』より運動神経は良い。
最近の悩みと言うか、高校入学からの強烈な願いがある。
――友達には、真っ当な恋愛をして欲しい。
同じ部屋にいるクラスメイトの寝顔を見ながら、そう思う。
「う~ん……おはよう、冴子。一番乗りだね、まだ朝6時よ」
「おはよう、美雪」
特に、七瀬 美雪。元生徒会長にして、ミステリー研究会を部へ昇格させた貢献者にして部長、清純派アイドルに負けない可憐さ、成績優秀品行方正、そして高校生と思えぬナイスバディ。
『オチコボレ』には、勿体無い。
幼馴染だからと構い、庇い、交際へ至っていないのが幸い。
「おっはよう、皆さ~ん♪ ちょっと聞いて、金田一君ったらさあ……先生達と同じ部屋で眠らされたんだってさ。超ウケる~♪」
「ええ~、何ソレ……。修学旅行でどんな思い出作ってんのよ~、アイツ」
「はじめちゃん、何やってるのよ……」
隣の部屋にいた太田 千明がハイテンションに現れ、『オチコボレ』の武勇伝を伝えてきた。
冴子は朝から憂鬱、美雪は恥ずかしさに耳まで真っ赤だ。
他のクラスメイトもノソノソと起き上がり、「流石、キンダニ」「ダメキンよ」とクスクス笑い出した。
朝食の席、『オチコボレ』の話題で賑わう。
「3馬鹿と女子風呂、覗こうとしたらしいぜ」
「添乗員さんの部屋に入ろうとしたとか……」
「こんなトコまで来て、よくやるぜ」
気のせいだろうか、昨日よりも皆の緊張が少し解けている。ような気がする多分。
「美雪~誤解だってぇ~!」
「金田一、お前の席はこっち!」
「もう、知らないっ」
『オチコボレ』はズケズケと美雪へ頭を下げ、村上 草太が強制連行。プイッと顔を逸らした美雪の髪には、オシャレなカチューシャが今日も着けられていた。
美雪が全然、怒ってない証拠に見えてイラつく。もぎ取ってやりたい。
「金田一君、聞いたよ。ホントは、何したの?」
「ええ、もう秋絵にまで伝わってんの? 早くね?」
朝木 秋絵が野次馬根性で『オチコボレ』へ話しかける様子に、冴子は悩む。ここにはいない彼女のボーイフレンド、美雪の方が圧倒的に接点はあったのだ。
「なんで、アンタは……金田君辺りにしておかないかねえ。同じ
「いやいや、冴子。金田君には、秋絵ちゃんが……」
「秋絵がいなかったら、OKだったわけ?」
「……いや、その……キッカケが……」
八の字の眉、美雪にその気がない癖だ。
「おはよう、皆。時間ちょうどに来たのに、早いね。なんか、盛り上がってるねえ」
「おはよう、千絵。知らない方がいいって、マジで」
そんな繊細な心の持ち主である彼女にも、カレシがいる。そちらの相手は問題なく、心から応援。末永くお幸せにと願う。
「食べてるとこ、写真撮っていい?」
「鷹杉さん、お願い♪」
「皆、美雪を中心にっ」
鷹杉 なぎさ達、写真部はカメラを片手に撮影タイム。冴子も食事中だろうが、口元をテーブルナプキンで拭き取った。
全員でピースサイン。
シャッター音とフラッシュに、瞬きした気がする。修学旅行の1コマが撮影された感覚に、胸が弾んだ。
それとグループとは別の邪魔者が、美雪の隣を陣取っている。それに対する苛立ちもある。
「「「キンダニ、邪魔」」」
「え? 俺?」
「他に、誰がいんだよっ」
「金田一君、草太君。こっち向いて」
冴子と一緒に女子陣で睨めば、『オチコボレ』は本当にキョトンとしている。また村上が彼の首根っこを掴み、再び連行。子守りと化した同級生へ、鷹杉はカメラを向けた。
「鷹杉、こんな奴……撮らなくていいよ」
「草太……俺をそんな風に言うだなんて~ヨヨヨ」
「フフフフ、楽しそうだよ。草太君っ」
村上は煩わしそうに『オチコボレ』を指差し、ポイッと椅子へ座らせた。
(おっと~コレは?)
見つめ合う2人にロマンスの神様が見え、冴子はガッカリ。また真面な男が、美雪から遠退いた。
今は無自覚だが、いつの間にか手を繋いで歩いているだろう。
「美雪ってさ~、ほんっとうに……男を選り好みし過ぎっ」
「冴子、そんな力いっぱい……言わなくても~」
冴子は美味しい朝ご飯を平らげ、美雪の頭をクシャクシャに撫でまわす。『オチコボレ』にしては、センスの良いカチューシャへ触れないようにだけ、気を遣った。
渡辺「俺のせいじゃない! 全部、透が……! 今日の接見、終わり!? まだ5分も経ってない……てめえ、ちゃんと弁護士の仕事しろよ。透が……加納りえの親なんて、性根が腐ってるに違いから……何しても平気だって言ったんだよお! 次回予告したら、俺の話聞いてくれんのか? 『魔犬は静かに啼く-千家』。……あん? 認可の下りてない薬を患者に投与した医者はどうなるかって……、一発アウトだろ。何当たり前なコト聞いてんだ?」
八尾 徹平
完全に巻き込まれキャラ。殺人現場に慣れたはじめちゃん達に、ドン引きしていた。アニメ版にて迷い犬の引き取り手を探すなど、好青年ぶりを発揮する
作中にて、別荘燃えるイベントから逃れられず。彼女募集中
冴子
原作にて、はじめちゃんのせいで駅のトイレに閉じ込められる。惨劇に遭遇せず済んだと言えば、強運の持ち主かもしれない
萬屋 透
三城大医大4年(本当に実力?)、院長の息子である立場を悪用するゴ〇
作中にて、手下同然の人達の家々を渡り、帰国したばかりの記念病院の息子と飲酒運転をやらかし、多くの死傷者を出す(90年代はまだ危険運転致死罪や過失運転致死罪も施行されてないから、業務上過失致死傷罪かなあ)。仮釈放中、被害者遺族により報復を受けて死亡
渡辺 鐘
三城大薬学部4年、プライドの高い〇ズ。傲慢な性格が災いしてか、碌な弁護士も付かず、禁固刑。十数年後に出所した後、刑を免れた参道へ報復し、再逮捕される