金田少年の生徒会日誌   作:珍明

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前回の続き、お昼ご飯を食べている最中です。


F.17 【タロット山荘殺人事件】は青森で・後編

 昼間が暖かく感じる程、冷え込んだ応接室を暖炉の炎が温める。夕飯はカレー。キチンとシーフードを作り分け、ご飯とナンもそれぞれ用意した。

 

「ナン? カレー用のパンってあるんだ……初めて見たよ」

「金田君、料理上手ねっ。スッゴく美味しい♪」

「オオカワってパン屋。そこの味が似てるわ」

「よく分かったね~、僕が~買って来たんだ~」

「「うまうまっ♪ あれ、金田先輩。もう召し上がらないんですか?」」

「もうお腹がいっぱいです」

「皆っ、こっち向いて~。ハイ、チーズ!!」

 

 遠野(とおの)先輩は初めてのナンに戸惑い、山根(やまね)はナンもライスもお代わり、桜樹(さくらぎ)先輩も上品にナンを齧り、中津川(なかつがわ)先生はライス大盛り、佐木(さき)兄弟はゆっくりと味わい、(いち)は1膳でご馳走様。

 江塔(えとう)先輩がカメラを構えた瞬間、各々の表情で全員が振り返った。

 

「次はボクが撮ります。江塔センパイもどうぞ」

「お、悪いね。え~と、新入生の佐木君だったかな? ここを押せば良いよ」

「次は私が撮るわ、学校の皆で写らないとねっ」

 

 今度は竜二(りゅうじ)、その次は山根が順番に撮影してくれる。騒々しくも素敵な晩餐はあっという間に過ぎて行った。

 女性陣と男性陣は時間帯を分け、入浴。

 その間、大人組はそれぞれの連絡先へ報告の電話を入れる。山奥のド田舎であり、携帯の電波など通じない。別館に一台しかない電話を使った。

 

「じゃ~、僕はもう寝るね~。……寝れないかもしれないけど~、寝るね~」

「中津川先生……まだ9時ですけど……。そんなに偽者が使ってた部屋で寝るのが楽しみなんですか? ……私が起きてますね……」

 

 糸目が開眼しそうな程、中津川先生は浮足立つ。希望していた部屋で眠れるとなれば、本末転倒な徹夜だろう。引率でもない山根が生徒の為、気を遣った。

 全員の入浴を確認し、湯抜き栓を抜く。浴槽を簡単に洗い終えた。

 

「先輩がお風呂掃除しなくてもっ」

「浴槽を水で濯いだだけです。これくらいなら、掃除の内に入りませんよ」

 

 一切、手伝わずに竜太はハンディカムを回し続ける。されど、未使用のタオルを差し出し、(いち)の濡れた足を拭く手伝いはしてくれた。

 風呂場の水道、電灯の消灯、問題なし。

 

「金田先輩。僕達はお婆さんに言われるまま来ただけで、詳しい事情は知らないんですけど……。遠野先輩はどうやって、バイトの伝手を得られたんですか? 鷲尾さんは道警から依頼されたって、言ってましたし……」

「……佐木君()、遠野先輩はとある大企業の御曹司なのです。ちょっとした訳ありのバイトなら、先輩達の手にかかれば、簡単に得られます。他の方には内緒にして下さい」

 

 心の底から遠野先輩へ必死の詫びを入れ、事情を誤魔化した。

 

「遠野先輩が御曹司!? そう言えば、あの人……金田先輩と違って品がありますよね」

「仰る通りです。自分、庶民です」

 

 正直な竜太(りゅうた)の感想が(いち)の胸にグサッと刺さる。当然の報いだが、心に血の涙が流れた。

 気落ちした自らを宥めつつ、応接室にいるはずの竜二達の元へ急いだ。

 

「遠野君、人当たりが良くなったわよねえ。前は言われた事だけやってて、心が籠ってない感じだったのに。そう機械人間……いえ、人形かしら?」

「手厳しいなあ、桜樹君はっ。確かに先生達の言いなりになってたって、自覚はあるぜ。先生どころか……色んな大人の言いなりだよ、僕は……」

 

 桜樹先輩と遠野先輩は窓の施錠を確認しながら、聞いてはならぬ雑談をしていた。

 

「前はって、言ったでしょう? 去年、『放課後の魔術師』から脅迫状が届いた時だって、工事を延期するように校長先生へ掛け合ってくれたじゃないの。その時間帯に旧校舎を使う私達、ミス研が一番危ないからってね。そこまで、皆の心配をする人じゃなかったのに……。本当は……そいつの正体を暴いてやろうって思ってたけど、……校長先生を説得するアナタを見て、私も様子を見る事にしたわ」

「……キミ、そんな危険な事を企んでいたのかい? それに関しては僕の手柄じゃない。金田君だよっ。あの時、脅迫状が怖かったんだろうね。すっかり怯えて……中止が無理なら、延期にって……。犯人の目的が工事そのものなのか、それとも時期なのか、判断する為にもね」

 

 桜樹先輩が前生徒会長武勇伝を語れば、後輩を立てる遠野先輩から語弊と誇張の合わせ技が炸裂した。

 

(怯えてたのは……七瀬さんが噂にビビっちゃって、遠野先輩……お冠だったんでしょうが! それが怖かったんだよ~

 

 旧校舎の『七不思議』を全て知れば、『放課後の魔術師』に殺される。

 何世代も前から続く迷信。

 ほとんど忘れられていたにも関わらず、去年の脅迫状と共に復活し、生徒の間で流行ってしまう。学園祭の準備と重なり、実行委員だった七瀬(ななせ)は生徒会長任期中の遠野先輩と話す機会も多かった。

 忍気呑声な遠野先輩へ進言する際、絶命を恐れて言動へ細心の注意を払っていただけなのだ。

 その光景を思い返し、胃が竦む。先輩方がこちらへ来る為に階段へ足元を立てず、そっと避難。竜太も無言、無音で着いて来た。

 

「へえ、金田君がねえ。……ちょっと彼への考えが変わったわ。それで『放課後の魔術師』の件だけど、また脅迫状が届くようになったのよ」

「え!?」(え!?)

 

 物凄く呑気な口調で言われ、驚いた遠野先輩と一緒に聞き違いを窺う。彼女は少しも恐れた様子はない。寧ろ、楽しそうにも見えた。

 

「卒業式が終わった辺りからだって、その件で校長先生に呼び出されたの。前回みたいに噂が広まらない為にも、ミス研で対策してくれないかってね」

「僕の耳に入ると……今度は工事中止を訴えると思われたんだろうな。という事は……脅迫状の狙いは工事そのもの……旧校舎を取り壊して欲しくない人か……」

 

 一生徒たる桜樹先輩へ校長先生は無茶振りが過ぎる。色々と呆れつつ、遠野先輩は憶測を口にした。

 

「それでねっ、白神さんと一緒に『放課後の魔術師』を調査する事にしたの。校長先生には私から話すわ。馬鹿正直に言っても、駄目だろうから……不動高校の歴史を取材したいって名目でね♪ どう? 良い案でしょうっ」

「桜樹君っ、今日会ったばかりの人を信用し過ぎだよ! それこそ、『放課後の魔術師』が白神さんかもしれないだろ? キミに取り入って、自分の思惑を果そうとしていないって、言い切れるかい?」

 

 期待と不審。先輩方の白神(しらがみ)への正反対な判断に対し、目眩が起こりそうだ。

 

「私がここに来たのはね、脅迫状の件を遠野君に相談したかったからなのよ。アナタの言う通り、犯人の狙いが工事そのものの中止なら……学校関係者を疑うべきでしょうね。だったら、外部の人を味方に付けるべきだわ。あくまでも、ミス研としての勘よっ」

「……事実は小説より奇なり……、始業式が来るまでに片を付けた方が良さそうだ。もっと言うなら……白神さんが来るよりも、先にね」

 

 桜樹先輩は脅迫状を『放課後の魔術師』からの挑戦状として受け取り、闘う姿勢を見せ付ける。ため息を吐き、遠野先輩は彼女を手助けする雰囲気だ。

 

「どうして、遠野君は白神さんを警戒するのかしらね。彼は良い人よ、頭がっ

「キミは気付かなかったかい? あの人、ずっと金田君に目を付けてた。今日、大人しく引き下がったのは……きっと、キミが不動高校へ招いたからだよ。白神さんの目的がなんであれ、金田君に近付けたくないんだ」

 

 切ない口調で遠野先輩は後輩への心配を語る。謎の威圧感を怖れている身だが、今は彼を心から信じたくなった。

 

「本当に……人が良くなったわね……。遠野君」

「応接室へ戻ろうか……。江塔君が『UNO』の準備をして、待ってくれてるよ」

 

 先輩方は階段にいる後輩に気付かず、足音が遠ざかる。緊張が解けた途端、深刻そうに竜太はスッとビデオを下す。電源まで落とした。

 

「金田先輩、遠野先輩が怖いんですか? 今日ずっと……あの人に対してだけ、怯えていると言うか……」

「ひ、人聞きの悪い事を言わないで下さい。頭脳明晰、成績優秀、清廉潔白、温厚篤実な遠野先輩の靴を毎朝、磨いているのも、自分が好きでやらせて頂いている事ですよっ」

 

 冷汗で額が濡れ、表情筋が強張り、目が泳いだ状態だが、早口言葉よりも饒舌に言い切り、満足である。

 納得し難い表情で眼鏡の縁を押さえ、竜太は考え込む。

 

「……畏怖の念を抱いていると解釈しても、良いですかね。それっ」

「……あくまでも、自分が勝手にそう感じているのですよ」

 

 初対面の折、温厚な態度で挨拶してくれたはずの遠野先輩が怖かった。

 逆らえば、殺される。そんな身勝手な強迫観念が付き纏ったのは(いち)だけ、圧倒的な力に恐れ戦くという意味合いでは該当するだろう。しかし、命惜しさの保身に使う言葉ではない。

 

「……遠野先輩については……分かりました。白神さんは何故、先輩に興味を持ったんですか?」

(……ブレーカーの場所を正確に知っていたから……とは言えねえなあ……。あんなに心配してくれるなら、遠野先輩にもいずれ、本当の事を言わないと……。……せめて、脅迫状の件が片付いてから……)

 

 散々、遠野先輩を厄介事に巻き込んでおきながら、真相を話す勇気が出ない。

 

「すみません、先輩……。理由が分かれば、スッキリするかと思ったんですが、余計に悩ませちゃったみたいで……」

「いえ、全く! こちらが勝手に悩んでいるだけですから! 寧ろ、ここに佐木君()がいてくれて心強かったと言いますか……。……独りで考えこんだら、余計に悪い方向へ行っていたと思いますし……助かりましたっ」

「兄さんばっかり、ズルい。ボクもセンパイと喋りたいっ」

 

 申し訳なさそうに詫びる竜太へ必死に感謝を伝えれば、第三者こと竜二のおどろおどろしい声にビビった。

 

「もう! 兄さんが金田センパイ独り占めしているから、10時になっちゃう! 今、皆で『UNO』で盛り上がってるのに! センパイとも『UNO』やりたかった!」

「そんな時間か……それは悪かったな、竜二。先輩、もう寝ますか?」

 

 佐木兄弟は午後10時に就寝すると一度だけ、説明した。覚えているどころか、気まで遣ってくれる。少しでも、彼らの想いへ応えたくなった。

 

「……折角です。皆さんと過ごす為、徹夜に挑戦してみます!」

「やったあ♪ 寝ても、大丈夫ですよ。ボク、また枕になります!」

「竜二はまた先輩の足枕だからな」

 

 以前も夜更かしに挑んだが、あえなく時間通りに眠り込んでしまった。

 ならば、今までにない覚悟で徹夜に挑もうと決めた。

 

 

 ――午前6時。目覚めれば、応接室。暖炉もキチンと消火済み。

 佐木兄弟をそれぞれ上枕と足枕にし、毛布がかけられている。自分達だけでなく、江塔先輩と遠野先輩まで毛布を被っての雑魚寝状態。女性陣は誰もいない。

 竜太の心音を聞きながら、昨夜を思い返す。

 

(……「ウノ」って叫んだのは……覚えてる……)

 

 上がりの寸前だったが、意識が先に終わった。

 

「寒~。ここで寝たの~?」 

「中津川先生、おはようございます。よく眠れ……幸せそうで何よりです」

 

 糸目の下にあるクマに反し、中津川先生は満足そうに口元が緩い。朝の寒気に白い息を吐きながら、彼は恥ずかしそうに照れ出した。

 

「布団も信じられないくらい肌触りの良くて~、寝ちゃうのが勿体ないって~」

「おはようございます。……結局、男子はここで寝ちゃったのね。可愛いっ」

 

 山根には高校生男子が寄せ集まり、眠る姿が微笑ましい光景に映るのだろう。こちらも気恥ずかしくなり、照れた。

 朝の日課、全員の朝食を順番に済ませ、素顔を晒さぬようにマスクと頭巾は装着完了。掃除を始めた頃に大人3人がトラックでやって来た。

 

 (きし)に力仕事を任せられた為、昨日よりも段取り良く進む。備え付けで取り外しに手間がかかる家具は諦め、他は小物に至るまで本館へ無事に移動させられた。

 

「岸さんは中津川先生より、頼りになりますね」

「しっ、今日は取材が誰も来てないんだっ。しょうがないって」

 

 (いち)が正直な感想を溢せば、江塔先輩に窘められた。

 マスクはそのまま、頭巾の代わりにニット帽。マフラーと手袋も忘れない。

 別館のブレーカーを最低限まで落とし、全ての施錠を確認。玄関口に鍵を掛けた瞬間、2度と足を踏み入れない場所と思えば、情緒で胸が痛んだ。

 今後は道警が役立ててくれる。そうやって自分を納得させ、谷川の向こうにある本館へ向かった。

 

 食堂での早めの昼食中、岸はメルヘンチックな話を語ってくれた。

 

「川に綱を何本も渡して~、木の枝か藁をかけ~、雪を積んで~、水をまくと~、凍っちゃうから、あっという間に~氷の橋が出来たんだって~。オジーサンが言うにはぁ、ワゴン車くらい平気で通れるんだって~。見てみたい~って言ったら、もう暖かくなっちゃったって~作れないんだぁ」

「……へえ、冬の奇跡って奴ですか? ……撮りたいけど、今よりも寒いよな」

「だったら冬の合宿、ミス研と写真部で合同にしない? 生徒会執行部もいかがかしら?」

「桜樹君……持ち主の人に悪いよ。勝手に決めたら……」

(本当だよ……)

 

 江塔先輩が冬の寒気を警戒し、桜樹先輩が勝手に提案し、遠野先輩は苦笑する。誰も持ち主が(いち)と知らぬ。仮に直接、頼まれたとしても断固拒否しよう。

 

「話に割り込むがね、皆さん。真冬はこの村、全面通行止めっ。天候によっては今も危険なんです。夏場でしたら、避暑地にピッタリの穴場スポット。夏休みでの合宿をお勧めしますね」

「それやったら、夏までにここも大掃除が必要でっしゃろ。お片付けには是非、お呼びください!」

 

 言葉を選んでいる間に、鷲尾(わしお)が有難い反対意見を述べる。しかし、代わりに夏場と時期が早められる。金森(かなもり)まで大賛成だ。

 

「皆、部活は別々なのね」

「「はい、遠野先輩と金田先輩は生徒会執行部、江塔先輩は写真部、桜樹先輩はミス研です」」

「……佐木君……、何故……知っているのですか?」

 

 山根の何気ない質問を何故か、佐木兄弟が即答した。

 

「遠野君、僕らって~後は帰るだけかな~」

「はいっ、飛行機の時間がありますから……? 中津川先生……そのイーゼルは?」

 

 のそのそと現れ、中津川先生はイーゼルを大切そうに抱えている。この本館に元々、置かれた画材のひとつだ。

 

「僕はバイト代、貰えないし~。これ、持って帰って良いかな~?」

((((((この人……今日は大した仕事してないのに……見返り要求しやがった……))))))

 

 教師と思えぬ言動にビックリ仰天、生徒全員が呆気に取られた。

 

「中津川先生……それはちょっと……」

「目の付け所が良ろしいようで……そちら、10万します。高級な木材使ってるんでね……」

「お運びするんが、今日の仕事であってですね。持ち出すのと違いますわ」

 

 山根、鷲尾、金森からの冷ややかな視線を中津川先生は全く、物ともしてない。無表情の糸目が毅然とした態度に見えて来た。

 

「「持ち主の方に連絡出来ないんですか? 遠野先輩っ」」

「……なんて説明するんだい? 佐木君」

 

 佐木兄弟に質問され、遠野先輩は困り果てる。(いち)も中津川先生への対応に悩んだ。

 だが、ここにある画材どころか家具はいずれ、売却処分する。自分に絵画の才能はなく、その道を目指す気もない。道具とは必要とする人に使われてこそ存在意義があるだろう。

 

「遠野先輩、良いと思います。中津川先生がイーゼルを持ち帰られてもっ。但し、先生だけが好きな物を選んでは不公平です。自分達もひとつずつ、選んでは如何でしょう? 幸い、江塔先輩と佐木君のカメラがあります。誰が何を選んでも、証拠として残ります。持ち主の方にはキチンと経緯を説明すれば、分かって貰えますよ」

「……金田君がそう言うなら……(元々、金田君が持って来たバイトだし)」

賛成ッ

 

 (いち)も品を求めるような態度を示し、皆での持ち帰りを提案。中津川先生の威勢良い返事を初めて耳にした。

 

「だったら、私は文房具が欲しいわ。佐木君、一緒に来て」

「はい、竜二は他の人を頼むっ」

 

 イの一番に桜樹先輩は書斎へ向かう。竜太もハンディカムを構えて着いて行った。

 

「ほな、私もあの絨毯が!」

「それ、こっちが先に目を付けたヤツ!」

「鷲尾さん、金森さん。贈与税がかからない程度にっ。佐木君()、お願いします」

「は~い♪」

 

 この機を逃さんとばかりに2人は競いながら、廊下へ走り出す。出番を喜び、竜二は着いて行った。

 

「んじゃあ……俺はこの写真立て、写真の景色が好きでさ。え~と、遠野っ。俺のカメラで撮ってくれ」

「あ、うん。わかった」

 

 江塔先輩は棚に飾られた写真立てを選び、律儀に遠野先輩へ撮影を頼んだ。

 

「山根さんもどうぞ、遠慮なく」

「え……う~ん、そう言われたら……私はティーカップ。確か……ウェッジウッドよね、コレ」

 

 遠慮しがちな山根へ念押し、ティーカップとソーサーをセットで選んだ。

 その間、岸が落ち着かない様子で周囲を見渡す。物色中の態度とは違う気がした。

 

「岸さん……、どうしました? 貴方も選んでいいのですよ」

「いやぁ、その……物はいらないから……バイト代、割増して欲しいなあぁ、なんて~」

 

 無欲どころか、文字通りに現金な要求。岸の根性に思わず、敬意を表す。中津川先生と似ているのは顔立ちだけでなく、したたかさを秘めた中身も同じだった。

 

「岸さんとはここで別れるし、先にバイト代を払っておこうか?」

「ああ、助かるよ~。遠野君だっけ~? ありがとねぇ~」

 

 遠野先輩は緊急時の現金を預かっており、割増したバイト代を封筒へ入れ直す。岸へ礼儀正しく手渡し。余程、臨時収入が嬉しい様子。ペコペコと頭を下げ、彼は封筒を有難く受け取った。

 

「絨毯を貰いましたっ」

「私は花瓶です~」

「私、万年筆。2本、白神さんとお揃い♪」

「「僕らは撮れただけで十分です」

 

 満足そうな鷲尾と少し残念そうな金森は贈与税、ギリギリの品物を選ぶ。流石だ。

 上機嫌な桜樹先輩はわざわざ、白神の分まで選んで差し上げた。佐木兄弟は品物よりも、ここでの映像に価値があるのだろう。

 

「「お2人は何にしたんですか?」」

「僕はいいよ、欲しい物って言われても……ピンッと来なくて……」

「それでしたら、桜樹先輩を見習って……。このグラス、同じ形が2つあります。これを自分と遠野先輩で分けましょう」

 

 (いち)は食器棚から適当に揃いになるグラスを選び、遠慮する遠野先輩へ片方を渡した。

 

「ほっほ~、それはバカラ言いましてな。ウィスキーとか、洋酒を飲むんにピッタリの品物ですわ」

「おや、それは気取った物を選んでしまいましたね」

 

 グラスを値踏みした金森に指摘されるまで、ブランドなど全く気に掛けなかった。彼が興味を示すならば、高級品に違いない。(いち)の手が急に緊張で震えて来た。

 

「お酒か……大人になったら、これで一緒に飲み交わそうか? 金田君」

「!? ……フフフ。だったら、お互いに大人になるまでグラスは使えませんよ、遠野先輩」

 

 グラスを考え深く眺め、遠野先輩は微笑む。麦茶でも注ごうと考えていた為、(いち)は将来の約束に心が躍った。

 

「「金田先輩、笑う時はマスクを外して下さい。折角の笑顔が撮れません」」

「――お黙りあそばせ――」

 

 2台のハンディカムを向けられ、素顔を要求される。事情を知らない佐木兄弟に対し、身の守る為にも金田祖母のように叱り付けた。

 

「今日は本当にありがとうございました」

 

 遠野先輩がバイトのリーダーとして締めの挨拶、各々解散。

 

「僕も~東京へ行く事があったら、不動高校に寄るねえ~。ところで~お三方、バイト要りませんか?」

「「「専門的知識が必要な仕事なのでっ」」」

 

 別れの挨拶をした後、岸は次の食い扶持と言わんばかりに自身を売り込む。3人はそれぞれの言い分で断った。

 中津川先生のレンタカーは後部座席のイーゼルが場所を取り、男子3人をすし詰め状態にした。

 車の中まで考えておらず、後悔。先輩方は苦笑を張り付け、ムサ苦しさを耐えた。

 

「実りのある時間だったわ。夏が楽しみねっ」

「今度の引率は的場先生にお願いしてね~」

 

 助手席にて優雅に足を組み、桜樹先輩は勝手に夏合宿を企画。それを窘めず、朗らかな中津川先生はレンタカーを発進させた。

 『放課後の魔術師』に関しての目的があったとしても、桜樹先輩は文句も言わずに丁寧な働きぶりを見せてくれた。

 本館の鍵を指先で弄りながら、その恩義に報いる方向へ考えが傾いた。

 

(しょうがない、1回くらいは合宿させよっ。ミス研と写真部に生徒会執行部……。大人数だけど、何とかなるだろ。掃除に、山根さんはもう誘えないとしても……岸さんみたいに力仕事に慣れた人をちゃんと雇うか……ん?)

 

 売り出しの停止、邸宅の掃除とひさしが頭を悩ませていれば、ルームミラーに映る桜樹先輩と視線が重なる。彼女の魅惑的な唇が弧を描いた。

 その表情から、桜樹先輩には邸宅の持ち主が(いち)と見抜かれている。それを誰にも気取られぬよう、配慮してくれたのだ。

 流石はミス研の会長、驚嘆に値する。

 

○●……――結城 英作(ゆうき えいさく)は一人旅が趣味。

 人気スポットよりは秘境の地、豪華な一流ホテルよりも慎ましいペンションでの宿泊を好む。

 タロット山荘を選んだ条件に合っていた為、殺人事件に巻き込まれるなど夢にも思わない。警察、救助も呼べぬ危機的状況の中、ただの高校生に過ぎない金田一 一(きんだいち はじめ)が己の祖父が如く、犯人を追い詰めた。

 運命に翻弄された兄妹の悲しき真実。それを語る彼の表情は苦悩に満ちていた。

 和解など無く、大自然がまたも兄妹を引き裂いた。

 

 駆け付けた救助隊により、生存者は無事に山を下りた。

 警察の事情聴取、健康状態確認、碌な挨拶もせずに離れ離れとなる。犯人の企みにて長時間、猛吹雪を彷徨った金田一(きんだいち)は凍傷の疑いもあり、優先順位の高い扱いをされた。

 

「金田一君は毎回、……あんな目に遭っているのかな?」

「……毎回じゃないです。ただ……ここまで危険な目には何度か、遭っています」

 

 七瀬 美雪は切なげに打ち明ける。つまり、金田一(きんだいち)はこれからも同じような目に遭う。結城が患者と接すれば、自然に診察するような感覚なのだろう。高校生の身で難儀な生き方をしているが、否定も説教もしない。大人として力になろう。

 

「これを金田一君へ……私の名刺です。何かあれば、いつでも連絡してください」

「!? 結城先生、ありがとうございますっ。こういうの……本当に助かります」

 

 涙ぐみながら、七瀬は感謝してくれる。そんな表情を見られただけでも、名刺を渡して良かった。

 

「横浜だったら、神奈川県警ですね。お知り合いの刑事さんとか、いますか?」

「生憎、警察沙汰になるような縁が無く。……七瀬さんと言うより、金田一君のお知り合いがいるんですかね?」

「はい、茅警部と言います。とっても綺麗な女性の方なんです」

「……お2人は顔が広いですね。神奈川県の茅刑事、覚えておきましょう」

 

 さらりと人脈の広さを教えられる。それだけ事件に関わっていると思えば、同情してしまった。

 

 

 梅雨の頃に名刺は使われ、相手は噂の茅 杏子(かや きょうこ)警部。謎めいた魅力を持つ美しい人だった。

 

「二神 育子をご存知でしょうか? 結城さん同様に医師業の方です」

「ええ、勿論です。面識もありますし、連絡も取れます」

 

 まさかの二神病院院長・二神 育子(ふたがみ いくこ)。必要最低限の挨拶しかしたくない相手であり、警察の厄介になっても不思議に思わない。

 

「お名前と職業だけ控えられていて、連絡先が不明でしたの。参考人としてお話を伺いたく、思います。ご紹介して頂けますか? いきなり、私が相手ではあらぬ誤解を生んでしまいます」

「それは構いませんが……」

 

 正直に言えば、警察の頼みでも二神医師と話したくない。しかし、女性刑事との間を取り持つなど絶対に後が怖い。金田一(きんだいち)の為に耐えようと自身へ言い聞かせた。

 

「……余計とは思いますが、あの方と話されるなら……若い男性の刑事さんをお連れください」

「!? ウフフフ……ご安心ください。本当にお話を聞きたいのは、若い刑事です」

 

 細やかな気遣いを察し、茅警部はまたも微笑んで見せる。その若い刑事とやらには期待できると確信した。

 

 それとは別に偶然、鉢合わせた『オペラ座館』にて又も痛ましい事件に遭遇する。歌島を舞台とした3度にも渡る惨劇の序章に過ぎないが、今の結城達に知る由もない。




北条「閲覧ありがとうっ、北条 アンヌです。青森で大変な時に北海道はまあ……楽しそうっ。でも、タロット山荘へ行った事に後悔はないわ。速水 玲香の笑顔の意味を知れたんだもの。さて、次回は『学園七不思議殺人事件』!! このタイトル……事件がついに起きる!?」

結城 英作
純粋に善良な医師、作中にて今回が金田一達とのファーストコンタクト。名刺を渡す。

神奈川県警の茅 杏子警部
秘宝島殺人事件、ゲストキャラ

二神 育子
アニメ版吸血鬼伝説殺人事件、ゲストキャラ
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