金田少年の生徒会日誌   作:珍明

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事件の舞台がまた長野(絶句)年に何回、行ってるんスかね……
アニメ版では誰かさんの書いた小噺になっていたので、こっちもそうしよう
この頃は23日が祝日でした
誤字報告により修正しました、ありがとうございます


5編 クリスマスに【迷い込んだ悪魔】・前編

 終業式が近付くにつれ、気もそぞろで演劇に集中出来ない。

 それどころか、2月模試申込書の記入欄まで書き間違え、担任の先生に物凄く心配された。

 

「金田、クリスマスイブが楽しみなのは分かるぜ~。俺も、冬子へ会いに行くしよ。でも、役には集中しような。1年に示しつかねえだろ?」

「はい、すみません……」

 

 2年部長・有森(ありもり) 裕二(ゆうじ)から笑顔の叱責を受け、一(いち)は猛省する。

 クリスマスに浮付いたと思われているが好都合、本当の理由は函館からの返事だ。

 内容は、聖夜を過ぎた26日に留置場の面会室への呼び出し。硝子板で隔たれているとは言え、今から緊張してきた。

 

(わざわざ、冬休みを選んでくれたのか……)

 

 或いは、向こう側の都合もあるだろう。どの道、カモフラージュに宇治木は同行させるつもりだ。

 先の予定に対する思考は昇降口へ来れば、パッと愉快な気持ちへ切り替わった。

 

「秋絵さん、お待たせしました」

「一(いち)君、全然……待ってないよ」

 

 待ち惚けの朝木(あさき) 秋絵(あきえ)が笑顔で振り返り、手櫛で髪を整えるが可愛い。今日はお互いにヘルメットを着け、彼女をバイクの後部座席へ乗せる。一(いち)はゆっくりと愛車を押し、グラグラと揺れる感触を楽しんだ。

 

「明日も部活?」

「はい、冬休みに帰省される方が多いので……少しでも」

「毎年思うけど、どうせなら……今日を終業式にして、明日から冬休みにすればいいのにね」

「自分も、そう思います」

 

 言い終えてから、バイクへ跨る。周囲に衝突する危険が無いか確認し、発進させた。

 秋絵はキャッと元気に叫び、一(いち)の胴体へしがみつく。

 彼女を自宅へ送り届け、玄関先でお互いに手を振り合う。これだけの時間が楽しくて、最近は下校が待ち遠しかった。

 バイトを終えて、金田家へ帰宅する。玄関に並んだ訪問者の靴、嬉しくて疲れも吹き飛んだ。

 

「かほる先生、こんばんは。長野の件、ひと段落したのですか?」

「フフフ……お帰り、一(いち)。そう、本当にひと段落よ。まだまだやる事あるわ」

 

 多岐川(たきがわ) かほる先生、先月の電話越し以来だ。

 居間の卓袱台へもたれかかり、わざとらしく疲労感丸出し。それでも元気そうな姿は、一(いち)を安心させた。

 

「母なら、背氷村ですよ」

「本人から聞いたわ。大分……警察というか、明智警視にやられちゃってみたい。少し休んだらいいのよ」

「かほる先生も、やられたのですか?」

「……私は多分、加減してもらったんじゃないかしら。にいみ、事情聴取が終わる度に愚痴の電話を寄こすんだもの」

 

 明智(あけち)警視の取り調べ、想像するのも嫌だ。

 

「それと、神明先生……ご遺体が戻ったみたい。ご家族の希望で、密葬になるそうよ」

 

 かほる先生の本題は、これだと感じる。頭の片隅へ置いていたが、聞いた瞬間に胸がザワッと騒がしい。司法解剖を終える程の日数が経ち、世間は年末の映画特集、来年の長野オリンピックへ注目している。報道陣も気に掛けないだろう。

 

「……安らかに、眠れますね」

 

 葬儀に駆け付けられないからこそ、教えてもらえて良かった。

 

「そうそう、金田一(きんだいち)さんはお元気? 七瀬さんとは、上手くいってる?」

「ええ、まあ……ハジメちゃんは先日、七瀬さんの誕生日にプレゼントを渡しました。進展と言えば、進展ですね」

 

 真面目な話はお終いと言わんばかりに、全然違う話題。かほる先生の切り替えに付いて行けず、一(いち)は卓袱台から転びそうになった。

 

「……あら、クスクス。一(いち)ったら……疲れてるわね。アナタと七瀬さんが上手くいっているかって、聞いたのよ」

「……仲良いですよ、友達としてっ」

 

 かほる先生の質問の意図を理解し、一(いち)は愛想笑い。そこへオボンを持った金田祖母がスッと割り込み、湯吞を卓袱台へ置いた。

 

「多岐川先生、一(いち)には恋人が出来たんです」

「「!?」」

 

 何の捻りもなく、単刀直入に言いやがった。

 一(いち)は咄嗟に居間から逃げようとしたが、金田祖父が廊下にて待ち構えてディフェンス。午後9時過ぎた時間帯、これ以上の騒ぎはご近所に響く為、大人しく座った。

 

「相手は誰なの? 同級生? 社会人?」

「……同級生です。……陶芸家の朝木先生……その娘さんと言えば、伝わりますかね」

「あら~あら~あら~♪ あの方の娘さんねえ、良いじゃない~♪ にいみも知ってるのかしら?」

「言ってないですよ、さとみさんにも言っていません。お祖父ちゃん、お祖母ちゃんは盗み聞きで知っただけです」

 

 かほる先生の目が輝き、好奇心のままに質問攻め。

 一(いち)は金田祖父母へ、恨みがましい視線を向ける。様々経験を積んだ老夫婦には、甘えた反抗に見えるのだろう。微笑ましそうな表情がムカつく。

 

「照れんなや、コイツ~♪ クリスマスイブも予定入れてんねんで~(朝帰りになるんやったら、ワシにだけ言うとけ。誤魔化しとくわ)」

「……ウザッ」

「あなた、丸聞こえよ」

「フフフフ……そう、素敵なクリスマスね」

 

 金田祖父に耳打ちされ、一(いち)は思わず悪態吐く。金田祖母の目が据わり、かほる先生は可笑しそうに口元を押さえた。

 かと思えば、卓袱台へ文芸雑誌をポンッと置かれた。

 

「今月発売の分……これが、何か?」

「一(いち)……、雨竜 あかね先生をご存じ?」

 

 唐突過ぎて、一(いち)達は目を丸くする。かほる先生は質問に答えず、質問で返した。

 心当たりに、冷や汗でビッショビショ。

 

「アナタと雨竜先生がいつの間にか、知り合っていたなんてね。それも……まさか、作品のモデルになるくらい親密な関係に……」

「違いますっ、誤解です。雨竜先生とは偶然、同じ列車に乗り合わせてお話した……だけです!」

「私だって、アナタを登場させたいって思った事もあったわ。でも、物語だろうと血生臭い事件に関わらせたくなかったのよ」

「分かっています。かほる先生、本当……そんな悲しそうな顔しないでください」

 

 かほる先生はご機嫌斜めになり、一(いち)は必死に弁明する。これではまるで、浮気を疑われた亭主になった気分だ。

 

「……本当、名前は全然違うのだけれども。これは、一(いち)だと分かるわ。先月号に別の話が載ってたなんて、バックナンバーを取り寄せないと……」

「……メッチャ、エエ話やん……」

 

 金田祖母は知らん顔で雑誌を開き、短編を読む。感動的な内容らしく、金田祖父は目尻に涙を浮かばせた。

 一(いち)も読みたい衝動に駆られたが、ここは我慢。

 

「かほる先生、次の新作はいつでしょうか? 先生さえ宜しければ……自分を」

「ああ、大丈夫よ。次の主人公はもう、決めてるの。赤沢さんには来年の春を目指しましょうって事で、話は進んでるわ。楽しみにしてて♪」

 

 一(いち)は勇気を振り絞り、自分を売り込む。途端に、かほる先生はケロッと態度を変え、次回作の告知を行った。

 自意識過剰な高校生となってしまい、恥ずかしさに卓袱台の下へ潜った。

 流石にからかい過ぎたと反省したらしく、かほる先生は春の新刊【蝋人形城殺人事件】をサイン付きでプレゼントしてくれる。今はそれを知らず、一(いち)は羞恥心と戦った。

 

 

 翌日の部室、何やら奇妙な小説誌が机に置かれている。誰の仕業か、ピンと来た。

 一(いち)は稽古の邪魔と判断し、速攻でゴミ箱へ投げ入れようと構える。2年生の仙道(せんどう) 豊(ゆたか)がそっと優しい手付きで、取り上げた。

 

「金田~。気持ちは分かるけど、待てって~。それ、七瀬さんが持って来たんだ。鷹島先輩の作品が載ってるから、どうぞってさ~」

「鷹島先輩? そうですか、おめでとうございます。はい、褒めました」

 

 仙道に宥められても、ここは演劇部。ミス研関係の書物は不要。石油ストーブを眺め、薪にならないか真剣に考えた。

 

「まあまあ、金田。読んでみれば、割と面白かったぞ。犯人は元劇団所属の役者でさ、雪山の山荘へ逃げ込むんだよ」

「……喧嘩、売られていません?」

 

 クラスメイトの照明係・神矢(かみや) 修一郎(しゅういちろう)にまで勧められ、一(いち)は渋々と小説誌を手に取る。栞が挟んであり、目的のページを開いた。

 季節は雪解け、場所は長野。その時点で脳髄が音読を拒み、そっと本を閉じた。

 もう12月、去年と同じ日が再び巡る。

 頭の隅では理解していたが、事件現場として認識すると思いの外キツイ。舞台設定は重要だ。

 

「おはよう……あ♪ 金田君、それ……読んでくれてるのね」

「七瀬さん、おはようございます。そちらの部室へ、お戻しください」

「……冷た……。何よ、気に入らなかったの? あたし、とっても面白かったわ。オチが好き」

「そうではなく……」

 

 七瀬(ななせ)は寒そうにマフラーを外しながら、一(いち)にも愛想が良い。それに構わず、小説誌を突き返して、部室の隅っこへ導いた。

 

「苦手なのです。長野の雪山が……」

「……!? ごめん、場所って大事よね。そっか、どうしよう」

「? 何ですか……気になる言い方ですね」

「まだ内緒なんだけど、春の大会はこれを演目にしようかって……緒方先生と話してて。鷹島先輩から、出版社に確認してもらってる最中なの」

 

 一(いち)が素直に伝えれば、七瀬は申し訳なさそうに教えてくれる。意外な演目にゲンナリしたが、そこまで拒むのは役者として違う。ため息は口中で殺した。

 

「そういう事でしたら……読みますよ。しかし、現代物とは珍しいですね」

「そこは俺の案な。いっつも歌劇ばっかじゃあ、味気ねえもん」

「! 有森君……驚かさないで。でも、その通りよ。新ジャンルへの挑戦は必要だわ」

 

 小説誌をもう一度、開いた時に有森がヌッと間へ入る。七瀬は驚きながら、やる気満々に拳を握りしめる。演じるのは自分達で、彼女は進行役の裏方作業だ。

 微妙に、腑に落ちない。

 

「七瀬さんも何か、役を演じますか? 探偵役の相棒さんが、貴女にピッタリです」

「ええ! ちょっと、勝手に決めないで!」

「何々~?」

「美雪さん、大きい声出して……どうしたんだ?」

 

 一(いち)が小声で提案しても、七瀬の悲鳴でバレる。仙道達が、ワラワラと寄って来た。

 

「金田君、ご自宅から電話よ。職員室の電話を使いなさい」

「緒方先生……、分かりました。ありがとうございます」

 

 そこに演劇部顧問・音楽担当の緒方(おがた) 夏代(なつよ)先生が現れ、挨拶せずにこちらへ耳打ちしてくる。冷静沈着な視線から、不穏な気配を感じ取った。

 七瀬達の心配そうな眼差しに振り返り、手振りで大丈夫と伝えた。

 

「最近、金田と七瀬さん……距離近くね?」

「もしかして……七瀬さん、金田の弱み握ったとか?」

「有森の言う通りだけど、なんで仙道はそっち方面に考えるんだよ。金田の彼女って、美雪さんの友達じゃん。彼女の友達には、優しくなるもんだろ」

 

 そんな会話があったと、緒方先生から聞いた。

 

《一(いち)……、朝木さんが……》

 

 職員室へ向かい、一(いち)は受話器を取る。金田祖母からの急報に驚き、足は勝手に学校を飛び出した。

 

 ヘルメットも中途半端に装着し、バイクを出来る限り飛ばす。心臓の脈拍を耳の後ろで感じる度、秋絵に会いたい気持ちが募った。

 秋絵の自宅へ到着したものの、焦りは止まらない。碌に停車させず、玄関のドアを叩いた。

 

「秋絵さんっ、秋絵さん」

 

 こんなにも動揺する自分を、他人事のように眺める。ガチャッと開いたドアの向こう側に、秋絵を見た時には視界と脳髄が合わさった。

 

「一(いち)君……」

 

 昨日と違い、秋絵は曇った表情。一(いち)の胸へ飛び込む体は、怯えている。その肩を迷わず、それでも強すぎないように抱き締めた。

 

「時雨が……倒れて、病院に……。ずっと、薬飲んでるのは……知ってたけど、ここまでなんて……あたし……知らなくて……」

「うん……、うん」

 

 胸元にかかる呼吸は動揺と困惑が入り混じり、涙に濡れていた。

 一(いち)は何度も頷きながら、秋絵をゆっくりと玄関へ押し込む。片手で玄関ドアを閉めた。

 

「お医者さんから、元々……夏が終わるまで持たないだろうって……薬を飲んでも半年で、もうとっくに……余命過ぎてて、いつ……何が起こっても、おかしくない……」

 

 虚弱だからとあまり人前に出ず、バイクの後ろに乗せた中学生の少女。病魔に侵され、余命幾ばくも無い事実など、自分達は知らなかった。

 見るとはなしにキッチン、リビング、カーテンを見やる。

 お香の類だろうか、『雲場村』の土に似た匂いが鼻腔を擽る。朝木家の人達が脳裏に浮かび、夏に過ごした日々を思い返す。

 只、楽しかった時間に隠された事情、胸が締め付けられた。

 

「一(いち)君、あたし……帰る。時雨の傍に……居たい、ごめんなさい……」

「……? なんで、秋絵さんは謝るのですか……」

 

 腕の中にいる秋絵は泣きじゃくり、一(いち)の腕に縋った。

 謝罪される理由は、何だろう。

 東京を離れ、長野へ帰郷する。それはつまり、お互いの別れ。そう言う意味だと段々、理解してきた。

 腕の中の温もりが、消えるなんて昨日まで想像もしていなかった。

 だが、納得している自分もいる。

 

〝私だって、最期の最後まで……傍にいたかった。幸せだった頃のまま……愛して、看取りたかった……〟

 

 悲痛な叫びが呼び起こされ、一(いち)は共鳴する。大切な人が死の淵を彷徨うならば、彼女の願いは当然の感情。自分も同じ状況を迎えれば、相手が息絶える瞬間まで、その手を握っていたかった。

 決意が固まり、ゆっくりと秋絵を引き離す。彼女の肩を掴んだ手に、力を入れた。

 

「秋絵さん、行こう……『雲場村』へ。自分も時雨さんに会いたいっ」

「……!? 一(いち)君……」

「クリスマス、秋絵さんの家で過ごそう。良いかな?」

「……良いに決まってるじゃん。あたしが断る理由……どこにもないもんっ」

 

 秋絵の眼から、溢れた涙は喜びも混ざっている。その涙を拭ってやりたいと思い、柔らかい頬に親指を滑らせる。すっと彼女の手が重なった。

 唇は動いていないのに、目は口程に物を言う。

 秋絵の瞳に映る自分も同じような表情。顎の位置を整える為、足を少しだけ屈めた。

 ――ガンガンッ。

 

「秋絵~、いるんでしょ。邪魔して悪いけど~金田君のバイク、あのままじゃあ~エンジンがヤバいわよ」

 

 背後の音にビックリした拍子、ゴチンッと色気のない音が鳴る。ファーストキスは唇よりも、歯がぶつかり合った感触が強かった。

 朝木家の一大事、ロマンスの神様から警告されたと思う事にしよう。

 

 秋絵が最低限の荷造りをしている間、一(いち)も急いで金田家へ帰宅。

 金田祖父母に事情を説明し、明日の終業式をサボると宣言しておいた。

 

「それは構わんが……朝木さんのお嬢さん、そのまま……『雲場村』へ帰るんちゃうか? お前はどうすんねん?」

「クリスマス……いえ、年末の大掃除までには戻ります」

 

 快く承諾されたが、金田祖父に重要な問題も突き付けられた。

 秋絵と話す時間を得られれば、2人のこれからを考えよう。彼女がどんな選択をしようと、尊重したい。但し、継続する方向で行こう。

 

「一(いち)ったら、そういうところ……淡白ね。そんなもの気にせず、朝木さんのお宅に居ていいのよ。向こうの迷惑にならないなら……」

「いくら……親しくさせてもらっていると言いましても、他人がいるとあちらも家族会議出来ませんよ」

 

 金田祖母に呆れられたが、線引きは必要。

 喋りながらも準備完了、携帯電話の充電も確認済み。クリスマスプレゼントもリュックサックへ詰め込んだ。

 金田祖父の車で最寄り駅へ向かう途中、宇治木にも連絡。26日の函館行き、待ち合わせ時間を変更する為だ。

 

「はい……ありがとうございます。お待ちしています」

「『雲場村』以外にも、どっか行くんか? 浮気は感心せんな」

「宇治木さんですよ、いつもお世話になってるっ。マジックショーに連れて行ってもらったから、そのお礼です」

「……ワシはええけど、婆さんには気取られんなよ」

 

 宇治木の了承も頂き、一(いち)は通話を切る。金田祖父から珍しく行先を勘繰られ、表向きの言い訳をスラスラと述べた。

 北海道、特に函館は彼にとって癇(かん)に障る。冗談でも口にしない、絶対だ。

 

「一(いち)……、ホンマにワシらの事は気せんでええ。『雲場村』に住みたいんやったら、そうしいや」

「……何言ってるのんでも、高校卒業まで一緒さ暮らすって約束だ~」

 

 金田祖父は少し、深刻な表情。一(いち)は思わず、方言が出た。

 

「せやかて、一(いち)……。婆さんと暮らすん、息苦しゅうないんか? アイツ、自覚せんとお前を一聖の代わりにしよるやろ」

「……まあ、最初は……そうでしたよ。でも、今は……2人と居られて……良かったと思います」

 

 今日は随分と、東京外の暮らしを勧めたがる。違和感はあったが、これまでのギクシャクした関係を考えれば、当然かもしれない。

 ずっと抱えていた本音を吐き出し、金田祖父はギョッとする。その反応は、どういう心情なのだろう。

 

「それに、お祖母ちゃんは、お祖父ちゃんが思う程……自分を伯父さんの代わりにしていませんよ。見た目以外、似ていませんし……」

「ホンマ、お前……中身は青ボンによう似とる」

「そう言えば、お祖母ちゃんはどうして残間を「娘婿」って呼ぶのでしょうね」

「話逸らすなやっ」

 

 金田祖父の追及は駅到着まで続き、イラッとしたまま電車へ飛び乗った。

 

○●――……朝木(あさき) 春子(はるこ)は、ブティック経営者。

 故郷の長野県『雲場村』では、先祖代々から続く窯元の家に生まれた。実兄の朝木(あさき) 冬生(とうせい)はそれに相応しき跡継ぎ、人間国宝と謳われる陶芸家だ。

 ――くだらない。

 物心つく前から、春子は将来、都会に住むと夢見ていた。高校進学を機に上京、誰も自分を知らない環境が心地好かった。

 姪の秋絵は自分に似て、可愛い。

 だからこそ、東京の暮らしを知って欲しかった。『雲場村』では味わえない解放感、秋絵も自分と同じ道を歩むと思い込んでいた。

 ポルシェの後部座席にて、恋人と手を繋ぐ姿から、姪の故郷へ帰る覚悟が見えた。

 

 雪化粧の美しい田舎村、幻想的な光景は生まれ故郷と忘れそうな程に他人事だ。 

 継姪・時雨(しぐれ)は奥座敷で静かに眠っていたが、呼吸しているのかさえ怪しい。

 夏に会った頃より、陶器の如き色白さ。冬を越えられるか、その段階に来ていた。

 

「すまんな、春子。世話になった」

「……時雨の為に本当、ありがとうございます」

「や~ね、姪っ子に会う為だもん。このくらい、平気よ」

 

 兄は普段の尊大な態度はどこへやら、妻・葉月(はづき)共々、しおらしい。

 こんな時こそ、春子は陽気に振る舞う。思った以上に自分も不安に胸がざわつき、打ち消したかったのもある。時雨に巣食う病魔、電話越しで伝えられただけでも、死の恐怖は十分に伝わった。

 葉月が夕飯の支度にとりかかった隙に、兄へ確かめる。

 

「時雨……本当に、どうにもならないの?」

「……何人もの医者に診せたが、変わらんよ……」

「海外で治療させる方法もあるでしょう?」

「儂も……考えたさ。ロシアの伝手も頼ったが、……時雨は何十万人に1人が罹る稀な病……治療どころか、延命の術さえ……今の医学では……」

 

 春子は募っていく焦りが責める口調になってしまい、兄が悲痛に顔を背け、無言。震えた肩は涙を堪える癖だ。

 

「ごめん……兄さん」

「いや……春子がそれだけ、時雨を気に掛けてくれておる証拠じゃ。この村が嫌いなクセに、住み着いた余所者も拒絶する。変なところで、村の人間だ。だから、葉月と時雨を受け入れてくれたのは……意外じゃったよ」

「何よ、こんな時にっ」

「……こんなだから、言いたくなった……。礼を言う……」

 

 罪悪感に謝罪すれば、色々と図星を突かれた。

 今日の兄は気弱を隠す様に饒舌、その虚勢に付き合ってやろう。

 

 しかし、折角の夕食は夏に比べ、物凄く寂しい。誰も彼も気を遣った会話は、負のイメージが強かった。

 大黒柱をそっちのけに、一番風呂を頂く。

 

「このままだと……秋絵、出戻りかも……」

《意味、違くね? ……そもそも、何故……一(いち)がそこにおるのだ?》

 

 半纏を着込み、毛布を肩にかけても寒い廊下。春子は受話器を手に愚痴り、相手の金田(かねだ) にいみを困惑させた。

 

「にいみさん、知らないの? 息子さん、秋絵と付き合ってるのよ」

《なん……だと? え~嫌過ぎ……流石、春子の姪だな。独特の感性、恐れ入る》

 

 高校生の交際を知らず、にいみはビックリ仰天。彼女の驚いた表情も目に浮かび、殊更可笑しくて、腹筋が痛い。

 

「フフフ、にいみさん……ウチの兄が好きじゃないもんね。でも、それとこれとは別って、ちゃんと分かってる。母親の鑑だわ、クスクス」

《貴様、寛大だな。アタシだって、冬生の作品は好きさ。後……髭が無ければ、外見も好きになれたかもしれん》

「金田君、クリスマスまではこっちにいるみたい。にいみさんも来る?」

《いや……気持ちだけ頂こう。兄貴の命日は、背氷村で過ごしたいからな》

 

 こんな田舎にクリスマスの風習など、あまり浸透していない。家によっては、ケーキや七面鳥を食べるくらいだ。

 にいみの断り方に哀愁が漂い、知らずと体は尾高山の方角を向く。彼女の兄の遺体は、掘り返されるまでそこにあった。

 

「……そっか、……こっちよりも寒いでしょう?」

《暖炉があるし、諏訪さんもいてくれるからな……楽しいとも。……一(いち)を頼むぞ、春子》

「ええ、分かったわ。兄さんにも伝えとく。ええと~、お前に息子はやらんだっけ?」

《……ぷぷぷ……髭、次に会う時までに剃っておけと伝えろ》

 

 追及を控え、春子は天候について触れる。にいみは独りではないと知れたから、良しとしよう。

 受話器を置いた時、こちらへ向けられた視線に気付く。彼女の息子だ。

 整った顔を薄暗い中で見れば、ちょっと怖い。

 

「春子さん、今の電話は……母ですか?」

「金田君、ええそうよ。アナタの事、宜しくって。……その本、小説誌?」

「はい、秋絵さんが買ってきた分です。高校の先輩が、短編を載せています」

「へえ、ちょっと読ませてもらおうかな」

 

 秋絵の通う高校には、将来有望な生徒が多い。暇潰しになればと思い、小説誌を借り受けた。

 短編の内容。季節外れの猛吹雪により、お互いを知らない者達が山荘へ避難するサスペンス。文章も読みやすく、好みのオチ。

 作者とは、気が合いそうだと思った。




火口「火口 雪子です。閲覧ありがとうございます。小説の中の人物にされたら、もっと出番ないじゃない。まあ何度も、長野に行く口実を探すのは大変よね。さて、次回は『クリスマスに【迷い込んだ悪魔】・後編!! この場合、悪魔って誰の事を指しているのかしら?」

演劇部メンバー
オペラ座館殺人事件ゲストキャラ。作中にて、有森が新部長

『雲場村』の朝木家
雷祭殺人事件ゲストキャラ。作中にて、秋絵はオリ主と交際中。春子はにいみと友人

多岐川 かほる
蠟人形城殺人事件ゲストキャラ。作中にて、事件後の対応中
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