金田少年の生徒会日誌   作:珍明

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Q9の後半に繋がる話ですね
※本当に紛らわしいですが、死別の表現があります


6編 クリスマスに【迷い込んだ悪魔】・後編

 白い息を吐きながら、迎えたクリスマスの朝。

 雪と言う毛布に包まれた庭へ、一歩踏み出す。赤いジャケットと借りた半纏のお陰か、寒さも平気だ。

 欅の木の下で、秋絵(あきえ)とのプレゼント交換に胸を躍らせたにも原因だろう。

 バイク乗りには嬉しいネックウォーマー、彼女の優しさを感じる。自分の送った毛糸の手袋が慎ましく見えた。

 

「ここの雪、土みたいだ……」

「フフフフ……一(いち)君、ちょっと作ってみる?」

 

 足元にある雪を寄せ集め、壺の形へ固めた。

 

「一(いち)君……あたし、一晩考えたの……」

「うん」

「ここが、故郷なんだって……」

「うん」

 

 秋絵がひと言、ひと言、話す度に雪が降り、落ちる。彼女の滑らかな頬を濡らしたが、動じない。それは自分も同じだ。

 

「もう……東京は十分、楽しんだわ」

 

 秋絵の瞳に、深い決意を見る。予想していたものの気付けば、雪に濡れた手で彼女の腕を掴んだ。

 一(いち)は自然と下へ向き、靴と雪を視界へ入れる。寝室で眠る少女(時雨)が脳裏を過ぎり、「自分もここに……」などと身勝手な言葉は、飲み込んだ。

 

「夏の雷祭……、必ず来る」

「うんっ、時雨と待ってる」

「電話しよう、毎日」

「毎日はちょっと……」

 

 秋絵は『雲場村』へ残る。だが、別れたりしない。離れ離れになろうとも、連絡は絶やさないと話し合った。

 そのせいだろうか、心は穏やかに現状を受け入れていた。

 

 

 そんな昨日の出来事を思い返しながら、一(いち)は函館へ来ていた。

 警察署は積雪のせいか、物々しさが若干、半減している。それでも、緊張による汗だくは止まらず、寒気で風邪引きそうだ。

 

「……旭川留置場とは、全然違うのですね」

「金田君、旭川留置場に……行った事あるの? ごめん、後で聞かせてっ」

 

 宇治木(うじき)と連れ立ち、受付へ向かう。意外とあちこちへ案内され、やっと座れる。年末が近く、他の方々もいる為、長い順番待ちを覚悟した。

 一(いち)はマスクで顔をしっかりと覆い、宇治木と肩を寄せ合った。

 

「俺のコト、気にせず……ストーブの前へ行きなって」

「うっかり離れたくないのです」

 

 石油ストーブの傍は、大人気。その隙にトイレにでも行かれたら、見失ってしまう。実際はそんな事ないだろうが、今は独りになりたくない。

 幸い人数も多さから、空気は暖かい。

 自分達が呼ばれた時も、後から来た人により密集状態は変わらなかった。

 

 面会室は建物と繋がった造り、硝子板は妙に薄く感じた。

 一(いち)が椅子へ座り、マスクを取れる。緊張が治まる代わり、挑戦的な程に高揚した。

 

「金田君、なんか……ワクワクしてない?」

「……そうですか。会えるから……ですかね、不破警視に……」

 

 宇治木に指摘され、一(いち)は胸の高鳴りに気付かされる。かつて、自分がファンだと伝えた相手との再会だ。

 硝子板の向こう側にある戸が開き、先ずは係官。その奥から、知った顔が現れて頬の紅潮を自覚した。

 

「本当に来たわね、金田君。そっちが、手紙の主……挨拶はいいわ」

「不破警視……ご無沙汰しております」

「……」

 

 不破(ふわ) 鳴海(なるみ)を演じ続けた北見(きたみ) 蓮子(れんこ)、パジャマ姿の上に眼鏡を外していた。

 別の舞台が始まる。

 そんな場違いな感情が生まれ、一(いち)は傾聴せんと座り直す。不破警視の視線は皮肉に満ち、今にも煙草を吹かしそうな指の動きを見せた。

 

「生みの母親に捨てられた男が、名前を変えて潜入する話。愛憎渦巻く屋敷に、これから起こる惨劇を予想しろ……だなんて、随分と馬鹿馬鹿しい手紙を寄こしてくれたものね。人物相関図とか、これ見よがしに送り付けてきて……小説でも書いてるの?」

「はい、そうなのです。登場人物の設定だけは……お手紙の通りに思い付いたのですが、それを十分に活かせなくて……。そこで、不破警視のお力を拝借したいのです」

 

 狙い通りに小説のキャラクター設定と誤解してもらえ、一(いち)は創作に行き詰った書き手のフリをした。

 

「蝶マニアなんてロマンチックな題材……金田君には、まだ早いかもね。でも、優秀な相談相手がた~くさんいるでしょう? あの警視庁きっての切れ者を、味方に付けられるんですもの」

(剣持さん、そんなに評判が高いんだ……)

(……金田君、誤解してる……)

 

 不破警視は皮肉っぽく、誰か分からない相手を勧めようとする。警視庁と言えば、男気溢れる警部殿が真っ先に思い付く。切れ者と評判だったとは、流石だ。

 宇治木の視線が煩くても、気にしない。

 

「警視庁の方は日頃から、事件でお忙しいのです。高校生の創作話に、付き合う時間はありません」

「まあ……私なら、時間だけはあるものね」

「いいえ、刑事としての経験があります。警視に成れる程の、能力です」

「……素敵なお世辞だわ、並みの刑事なら……浮かれちゃうわね」

 

 このやり取りの間、不破警視の態度がドンドン冷たくなる。彼女の逮捕時を振り返れば、当然だ。

 

〝それじゃあ……、誰も救われねえよ〟

 

 名探偵の孫の代理として事態の収拾を急ぎ、不破警視の心に寄り添わなかった。

 再会を喜ばれない。そう、心のどこかでは分かっていた。

 だとしても、自分は不破警視の知恵が必要だ。

 ゆっくりと面会を繰り返し、信用を得る時間は無い。

 

 ――ペシンッ

 

 一(いち)は両頬を平手打ちし、2人をキョトンとさせる。怪訝そうな視線を受け、観客の立場(他人事な態度)を改めた。

 自分も彼女と同じ舞台に立ち、向かい合わねばならない。硝子板に触れないギリギリの距離まで、顔を寄せた。

 

「不破警視……その男の名前を変えてでも、何かを成し遂げたい……。そんな想いに共感できて、これからの行動を予測できるのは、貴女だけです」

 

 一(いち)は知っている。

 臥薪嘗胆の思いで、怨敵を前に刃を研ぎ続けた人々。

 成し遂げた者もいれば、優先順位を変えた者もいる。彼らの意見を求める手は、最初から考えなかった。

 己の事で手一杯であり、似た境遇の他人への介入は避けたがる。予測を立てられても、高校生を関わらせない様に先手を打たれてしまう。

 一(いち)がどうなろうと関心を持たない不破警視にしか、頼れないのだ。

 

「貴女にしか、分からない……彼の気持ち(計画)を教えて下さい」

 

 脳髄が騒いだ時――ガタンッと窓が音を立てた。

 我に返り、ふと窓の外を見やる。体が熱くなりすぎて、今が冬だと忘れていた。

 

「アナタ……東京の人間よね。明智警視と知り合うのは……分かるわ、でも……銭形君はどうして? 随分と、金田君を気に掛けていたように思えるわ」

 

 首を傾げた不破警視は一瞬だけ、驚きを瞳に宿す。すぐに鋭い眼光へ変わり、取り調べのような口調に変わった。

 彼女の質問には、はぐらかさずに答えた方が良い。

 瞬きの如き瞑想した後、一(いち)は膝の上へ置いた拳を握りしめた。

 

「……銭形さんとは、去年……知り合いました。背氷村で起こった殺人事件、現場になった……邸宅の持ち主は……伯父です」

「……! アナタの伯父は……」

(金田君……! それ、言っちゃう?)

 

 一(いち)は予想以上に震えた声を誤魔化す為、不破警視を睨んだ自覚がある。今度こそ、仰天した彼女は目を見開き、言い淀んだ。

 宇治木は動揺のあまり、目が泳いでいた。

 

(前も……こんな空気になったな、どこだっけ? 確か、葉崎さん……)

 

 緊張が限界突破し、頭の隅が非常に冷静と化す。既視感と懐かしさを感じつつ、不破警視を眺めた。

 

「綾辻 真理奈とは、お知り合い?」

「いいえ、他人です」

 

 好奇心の欠片もなく、念の為に問いかけただけの口調だ。

 すらりと本音が出た。

 自分の声なのに、吹雪(憎悪)が籠ったように騒がしい。

 

「……そう、よく分かったわ。今日の返事は、そちらの彼に出せばいいのかしら?」

「は、はいっ」

「不破警視……! ありがとうございます」

 

 不破警視は表情を崩さず、宇治木へ確認する。突然に話しかけられ、彼はビクンッと肩を激しく痙攣させた。

 頼み事を引き受けてくれると解釈し、一(いち)は喜びを抑えつつ、頭を下げた。

 

「その不破警視って嫌味? それとも、媚び? 私の本名、知ってるはずよね」

「? 貴女は今でも(・・・)、不破警視です。異人館ホテルでお会いした時と、何も変わりません。自分の話に、耳を傾けてくれました。北見 蓮子なら、絶対に(・・・)しないでしょう?」

 

 不破警視は不快そうに眉を寄せ、怒りを滲ませた。

 しかし、一(いち)には意味不明過ぎて、素で首を傾げる。一介の高校生に相談され、それに応える姿勢こそ、不破警視そのもの。だから、相応しい呼び方をしただけだ。

 

「「……っ」」

 

 何故だろうか、2人は揃ってあんぐりと口を開ける。但し、不破警視は呆れで、宇治木は驚愕と表情の意味は違っていた。

 ちょっと心外。

 

「全く……何を考えているか、分からないわ」

 

 不破警視は不敵に笑い、目元に手をやろうとする。指の動きは、眼鏡があった頃の癖だ。

 

「眼鏡、どうされたのですか?」

「……視力回復の運動を勧められて、やってみたのよ。大分、視えるようになったわ」

「それは良いですね。眼鏡のないお顔も十分、素敵ですよ。ファンとして、嬉しい限りです」

「……分かった、分かった。もう帰りなさい……」

 

 眼鏡は凶器にもなり得る為、取り上げられたのかと思った。

 素顔の不破警視だと改めて認識し、一(いち)は嬉しくなる。彼女は不躾な視線から逃れようと、手で顔を隠した。

 行動で拒絶され、とても残念な気持ちに陥る。まだ面会時間内だが、渋々と席を立つ。

 

「そこの記者さん、次に手紙を出す時……札幌拘置所の住所になっていると思うわ。1ヶ月は待たせないつもりよ」

「は、はい。分かりました……心に留めておきます」

 

 不破警視は顔を隠したまま、妙に沈んだ声。宇治木は背筋を伸ばし、見様見真似の敬礼を返した。

 一(いち)が聞き返そうとすれば、彼に背を押される。余韻もなく面会室を出てしまい、不破警視の目尻に浮かんだ涙を知る事はなかった。

 

 猛吹雪の中、どうにかタクシーを拾う。建物から数分も経たぬう内、防寒具に守らてれない肌が寒さで強張った。

 

「宇治木さん、札幌の住所になるとは……どういう意味でしょうか?」

「ごめん、知ってると思ってた。多分、あの人は近いうちに移送されるんだよ。留置場はあくまでも、逮捕者を一時的に入れる場所だからさ。時期的にも、とっくに拘置所へ居てもおかしくないし……函館にも拘置所はあるはずだけど……何でだろうね?」

 

 一(いち)がネックウォーマーを整え、宇治木は顎髭の雪を払った。

 起訴された人間は、拘置所へ送られる。ドラマや映画で何度も視聴したはずの知識が、彼に説明されるまで思い付かなかった。

 

「函館の拘置所は初犯か、犯罪の素人みたいな奴が入るんです。札幌まで移送されるなら、お客さんの相手は厄介な事件を起こした挙句に、厄介な身分って事ですよ」

「ごめん、運転手さん。聞こえちゃった? そんな事情もあるんでねえ、勉強になります~」

(高遠さん、旭川の留置場に居たけど……移送先が決まらなかったんだな)

 

 タクシー運転手の親切な説明を聞き、2人で納得。

 不破警視は素人どころか、犯罪を取り締まるプロ。ならば、扱いは慎重になると言うワケだ。

 

(……だったら、万代先生はそっちか。一応、初犯扱いのはずだし)

 

 戦後最大のスターを思い返した瞬間、ついでに好色家の脚本家まで脳裏を過ぎる。ゾッとした。

 

 函館空港へ到着し、フロアにて東京行きの遅延状況を知る。足止めされて、ゲンナリ。

 

「ハリストス正教会へ行けば、良かったです」

「今からでも行く? 急いでないなら、函館駅から東京を目指すって手も……うん?」

 

 これからの行動を決めようと相談していれば、急に宇治木は遠くを見やる。一(いち)も振り返り、視線の先にある公衆電話コーナーを視界に入れた。

 ――見慣れた眼鏡の親子がハンディカム片手に電話中。

 言わずと知れた不動高校・ミス研の1年1組・佐木(さき) 竜太(りゅうた)。その父・連太郎(れんたろう)がこちらに気付き、手を振って来た。

 

「!? 竜太君に……お父様?」

「金田先輩! 良かった……俵田刑事と連絡が付いたんですね」

「え、ごめん……佐木君。何かの事件? 俺達、その刑事さんとは別件で函館へ来たんだ」

 

 一(いち)がキョトンとしていてもお構いなしに、竜太は瞬時に距離を詰める。青森県警の名を聞き、宇治木は連絡の行き違いが起こったと思い、説明してくれた。

 ふと、一(いち)は携帯電話を確認。案の定、電源が入っていなかった。

 

「宇治木さん、自分のせいです。……竜太君、俵田さんに何かあったのですか?」

「……宇治木さんなら、良いか……。金田先輩、落ち着いて聞いて下さい。……万代先生が……」

 

 一(いち)は猛省し、宇治木へ詫びる。竜太は周囲を見渡し、躊躇いを見せつつも――万代(ばんだい) 鈴江(すずえ)先生の訃報を知らせた。

 

「は?」

 

 聞こえた瞬間に思考が停止、聴覚が音を拾わなくなった。

 視界はスローモーションのように、行き交う人々の動きさえも秒単位で把握出来る。言うなれば、世界に取り残された感覚だった。

 

「24日の夜に……巡回の方が、倒れているところを発見したそうです。身元引受人でもある花江さんへ連絡が行って、そこから俵田刑事へ……んで僕達に……今朝です」

(万代先生……確か、持病が……)

 

 それでも、竜太の声だけは明確に聞こえる。一(いち)の顎は動かし方を忘れたらしく、痙攣しかしない。

 病死。

 『雲場村』にいる朝木家の人々が、浮かんで消えた。

 

(……二神先生に頼めば、いや……オジサンだって手を尽くしたんだ。……これ以上、出来る事なんて……)

 

 別の病院へ診察させても同じ結果になるなら、絶望を突き付けるだけだ。

 

「ごめん、佐木君。俵田さんって人、青森県警だよね。道警から直接に連絡、行かないもんなの?」

「俵田刑事は元々、管轄違いなので……逮捕した後は関わらないんです。容疑者がどうなっても、その刑事へ申告する義務もないって……父が言ってます」

(俵田さんの電話……誰か、出たのか?)

 

 宇治木と竜太のやり取りから、ほとんど雑音に変わる。今朝方、金田家へ連絡が入ったならば、確実に金田祖父が受けたはずだ。 

 死別のショックと金田祖父の身を案じ、目眩が襲ってくる。

 肩を掴まれた感触を受け、顔を上げる。佐木父が大きく頷き、眼鏡の奥から心配そうな眼差しを感じ取った。

 混濁とした感情が吸い取られ、四肢の感覚が戻ってくる。人の温もりがもたらす、手当ての力だ。

 ――これ以上、背負い込むな。

 佐木父がそう言っている様に、聞こえた。

 

(……時雨さんには、秋絵が傍にいる……)

 

 仲良し姉妹の姿を思い浮かべ、ようやく息が整った。

 

「はい、大丈夫です。お2人は、どちらへ行こうとしたのですか?」

「警察署です。無理だと思いますが、色々と詳しい話を聞きたくて……。それに、金田先輩が……もう来てるんじゃないかと……」

「ドンピシャだったね。しかし……警察署か、俺から取材のアポ取ってみるか。あんま、期待しないでね」

 

 竜太に行動を見透かされた気分になり、ちょっと肌寒い。しかし、前半の理由には勇敢さ過ぎだ。

 宇治木が週刊誌記者として、警察署へ連絡してみたが「広報からの正式発表をお待ちください」と断られた。

 

「ごめん……」

「宇治木さんでそうなら、僕らも行き損でしたよ。金田先輩、どうします? 別件に、付き合いましょうか?」

「いいえ、自分の用事は終わりました。……ハリストス正教会へ、行きましょう。折角の……函館ですから」

 

 落ち込んだ宇治木を励ましながら、タクシー乗り場へ向かう。佐木親子の行動力を思えば、不破警視との面会を先に済ませて良かった。彼らにも、計画を知られたくない

 

 清浄なる空気を取り込み、冷静になりたかった。

 白い壁と緑屋根のコントラストが美しい教会は、雪に埋もれている。童話の世界へ紛れ込んだ高揚感に、自然と微笑んだ。

 しかし、冬期は聖堂拝観がお休み。土日のお祈りならば、参祷や見学も可能だが、今日は金曜日。つまり、来るだけ無駄足だった。

 哀惜の感情がジワリと脳裏へ滲み、ため息を殺す。ここまでの道中で、確かに冷静にはなれた。

 

「え~と、異人館ホテルに泊まる? 部屋あるかな……」

「……帰りましょう、宇治木さん。家での年末大掃除もありますし……竜太君の家は?」

「ウチは12月に入ってから、ちょこちょこ済ませていたので……後は細かい所だけです」

 

 結局、函館空港へ逆戻り。計ったように運航再開だ。

 搭乗手続きの最中、ふと思いつく。

 

「宇治木さん、万代先生の昔の知り合いって興味ありますか?」

「え? ……ごめん、メッチャある。そんな……ぶっといパイプが……?」

 

 軽い気持ちで問えば、宇治木の目が爛々と輝いて怖い。

 搭乗前に公衆電話から、自宅へ連絡。携帯電話は着信履歴に嫌な予感がした為、後にしよう。コール音の後に電話を取った金田祖父へ先ずは、訃報だ。

 

《そう……か、わざわざスマンな。鈴ちゃんの持病は……ワシらの間でも、有名やったし……遅いか早いかの違いや》

 

 金田祖父の声は冷静で、取り乱した様子は微塵もない。寧ろ、一(いち)を気遣う優しい口調だ。

 

「お祖父ちゃん、……鈴ちゃんの話を……宇治木さんにしてもらえませんか?」

《……宇治木さん……ああ、なんや……お仕事させる気か?》

 

 一瞬にして、受話器の向こう側が冷たくなる。死者を記事にする行為そのものへ、嫌悪を感じた。

 戦後最大のスターの死が公になれば、報道陣はこぞって取り上げるだろう。ある事ない事を意味深に書き立て、面白おかしく抽象的に、死者へ鞭を打つ。

 だからこそ、どこよりも真っ先に週刊誌へ載せたい。

 

「……はい、鈴ちゃんの思い出を……大切に扱ってくれる。これは、宇治木さんにしか出来ない仕事です」

《……お前の宇治木さんに対する信頼は、なんやねん。……ワシの方で見極めたるさかい、ウチに連れて来んかい……ガチャンッ》

 

 一(いち)の本心を伝えれば、金田祖父はため息と嘆息の入り混じった捨て台詞を吐き、通話を切った。

 明らかな不機嫌な雰囲気に、ちょっとビビる。それでも、言質は取れた。

 

「宇治木さん、急ですが……わが家へお越しくださ……い?」

「……グスッ」

「金田先輩、ちょっと待ってください。宇治木さん、感激して泣いてます」

 

 一(いち)は受話器を置き、宇治木へ振り返る。彼は両手で顔を覆い、ワナワナと震えていた。

 竜太に教えられるまで、何事かと焦った。

 

「……祖父に会えるのが、そんなに嬉しいですか?」

「先輩が、宇治木さんに全幅の信頼を置いたからです(いつきさんとは、エライ違いだ)」

「いや……もう、ごめん。金田君に、そこまで言ってもらえて……嬉しくてさ」

 

 逸話を取材出来るチャンス到来、それを喜ぶ気持ちは分かる。しかし、涙の理由は違っていた。

 高校生の身で、週刊記者を感激させる。お互いの信頼あってこそだ。

 

「宇治木さんって本当、良い人ですね。祖父も……貴方に託すと思います」

「金田君……」

「先輩、これ以上……宇治木さんを泣かせないで下さい」

 

 自分なりの感謝を伝えたつもりだが、竜太に叱られた。

 

 金田家へ帰り着けば、隠居中の映画監督や大御所俳優達が待ち構えていた。

 宇治木は百戦錬磨の映画人に囲まれ、ビビりながらも取材を完遂。亡き大スターの秘話を語り尽くされ、記事として構成する方が難しかったらしい。

 その間、一(いち)は金沢の面打ち師へ連絡。2月に宿泊を約束し、蝶マニアとの食事会をやや強引に頼み込んだ。

 

 雑誌の特集で組むには惜しまれ、特大号として発売された。

 偶然にも、死去が報道される前日だった為、編集長もご満悦の売り上げを記録したそうだ。

 何故だが、ハジメはどこぞのフリーライターから「お前が情報源だろ! 俺に売れや、俺に!」と難癖をつけられたのは、別の話である。




鳳「鳳 辰馬です。閲覧ありがとうございまっス! ふうん、『金田一(かねだいち)』『金田一(きんだいち)一(はじめ)』って紛らわしくねえか? 名前はもっとちゃんと考えて付けてやれよ、本当にっ。さて、次回は『美雪とはじめのエトセトラ』!! 掃除は年末だけじゃなく、日頃からやろうぜ!」

不破 鳴海(北見 蓮子)、万代 鈴江
異人館ホテル殺人事件ゲストキャラ。作中にて、万代は金田祖父の昔の交際相手

佐木 竜太、連太郎
準レギュラー?とその父親。連太郎は原作も喋らない為、作中は竜太達が通訳してくれる
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