金田少年の生徒会日誌 作:珍明
年末の大掃除も終えても、門松や鏡餅を飾らない。
去年も事件の後始末に追われ、正月飾りにまで手は回らなかった。
TV番組は『激動の1年を大追跡!!』と銘打ち、どこのチャンネルも様々な事件を振り返る。不動高校の旧校舎は勿論、死骨ヶ原湿原ホテル、竜王丸船長の帰還……etc。
先月の遺産相続により、背氷村殺人事件の当事者達も引っ張りだこ。
イラついて、レンタルビデオ店から
台所のテレビを独占し、若きスターの演技を見ながら、宿題に励む。
「あ……この人、万代 鈴江よ。わっか~い♪ ほらほら、海峰君……あれ? 映画に興味あったっけ?」
「ないっス、でも『アマデウス』は観てますよ。あれを見ないでピアニストにゃあ、なれません」
何故、
可愛い後輩にして生徒会長・
「七瀬さん、
「はい、お願いしますっ」
「……七瀬さん、ハジメちゃんから逃げているのですか?」
金田祖母がそっと台所を覗き込み、悪戯っぽく笑う。七瀬は満面の笑みで返し、
「どうせ、
「だって、あたしだけで金田君の家へ来たら……秋絵ちゃんに悪いし……」
「ハジメちゃん、雪影村から帰って来たのですね。お土産はないのでしょうか?」
海峰は落ち着き払った様子で、煎餅を頬張る。彼も七瀬の突発的な行動に慣れてきた。
しかし、彼女のズレた気遣いはそこまでにして、
「さあねっ。昨日の夜に帰って来た時なんて……あたしに挨拶せずに、さっさと寝ちゃってたわ。今日、買い物に付き合ってくれるって約束だったのよ、正月飾りっ」
「その辺のスーパーで、買えばいいだけじゃないですか……」
「いいや、年末セールに男手は必要っス」
七瀬はプリプリッと怒り出し、
「ハジメちゃん……こうやって、探してくれているじゃありませんか」
「いいのよ。ちょっとくらい困ったら、いいんだわ。大体、はじめちゃんは日頃から、あたしのやる事なす事、文句ばっかり! この前、ケーブルテレビでフェンシング大会観てて、あたしも親戚から教わろうか~って言ったら、まあ出るわ出るわ……宇佐美選手の悪口……」
「それ、俺もダチん家でTV観てましたよ。星野が大ファンなんでねって……ええ!! あの宇佐美 乙也を悪く言う奴なんているんスか? 長野オリンピックにフェンシング競技があったら、確実に金メダルを獲っていたと目された男ですよ!?」
唐突に2人の話題は、今月に開催されたフェンシング大会に切り替わる。
「オリンピックと言や~、スキー部から渋沢先輩が選ばれるかもってヤツ。どうなったんスか?」
「今は強化合宿に行ってるから、それが終わった後に分かるかなあ。……どの道、新学期に入らないとね」
「……渋沢先輩が選ばれる? 何ですか、それ……。白峰先輩から、大学の推薦入試に合格したとは聞きました」
「ええ~……今月入ってから結構、話題になってやしたよ? 金田先輩、朝木先輩とイチャイチャして……話聞いてなかったんスね?」
「もう……金田君ったら、しょうがないわねえ」
スキー部3年生の話になり、ビックリ仰天。
不動高校から、栄えあるオリンピック選手が出る可能性を知った。
しかし、イチャイチャとは心外。
「修学旅行での笑い話なら、各方面から聞きましたよ」
「あ~、俺も聞きやした」
「あたしを見ないで。それは、はじめちゃんの仕業なんだから」
和みながら、
「そっちの、海峰くん? 確か、囲碁が強い子やったろ。ワシと打と」
「お、いいッスか? 金田先輩のご家族でも、手加減しませんぜ」
「海峰君は先月の囲碁部大会で、とっても良い成績残したんです。来月も個人戦に出るのよねっ」
「お祖父ちゃん、負けても泣かないでください」
今度は金田祖父がひょっこりと顔を出し、海峰を誘う。彼なりの持成しだが、念の為に実力は教えておく。
「なんやねん、
「……難易度が上がった!」
金田祖父はニンマリと笑い、海峰の判断に全てを委ねていた。
「大人げない……」
「フフフ、良いお祖父ちゃんじゃないの……」
「秋絵ちゃんが長野へ帰っちゃうから、落ち込んでるかと思ってたわ。……時雨ちゃん、そんなに……悪いの?」
「……秋絵さんから、聞いた通り……そう答えておきます」
七瀬の本題は、それだった。
学校側への転校の手続きは終わり、
「秋絵ちゃん、年明けに荷物取りに……東京へ戻るって言ってたけど、会う?」
「いいえ、引っ越しの人手は足りていると聞きました。別れではありませんから、無理して会う必要ないでしょう」
七瀬の心配そうな視線を見つめ返しても、シャーペンを動かす手は止めない。秋絵との電話越しデートは、教えてやらぬ。
「自分達の話はここまでにして、そちらのクリスマスは? まさか、事件に巻き込まれたとか……」
「ないない、ミス研のクリスマスパーティーも問題なく終わったわよ。……はじめちゃんったらね、あたしへのプレゼント……頑張ってくれたの」
微笑ましくても相変わらず、進展はない様子。
「素敵なヘアピンですね。ハジメちゃん、その為にバイトを頑張ったのでしょう」
「そうみたい♪ それに、はじめちゃん……三が日も年賀状配達のバイトをするの。あたしもだけどね。金田君、お正月のお店は休み?」
「……一応、店は4日から仕事始めです」
「じゃあ、元旦は大丈夫ね。初詣、一緒にどう?」
バイトの話から一転、さらりと元旦の初詣に誘われる。七瀬の場合は、ハジメ達も一緒が前提だとすぐに分かるが正直、断りたい。
その日は、愛する伯父・
しかし、それを七瀬へ伝えると気を遣わせてしまう。只でさえ、喪中の金田家に正月飾りが無い点へ触れない様、配慮してくれているのだ。
ここは無理な要求をして、諦めさせよう。
「剣持さんが行くなら、行きます」
「剣持警部はご家族と行くはずよ。三が日どころか、今この瞬間だって……事件で忙しいんだから。ちょっとでも、家族だけの時間を過ごさせてあげなくちゃ」
小さい子供をあやすような口調で、窘められた。
今すぐ、喪中ハガキを投げ渡したい気分。短気な自分を妄想の中で、必死に宥めた。
「その言い方ですと……皆さんは毎週のドラマの如く、事件捜査で会っている様ですね。自分抜きでっ」
「あらまあ、違うわよ。剣持さんとは事件以外でも、会うわ。旅行へ連れて行ってもらったりとか……」
からかってみれば、まさかの親戚同然の付き合い。
「何よ、その嫉妬全開の顔。……一応、冬休みに約束してるけど……一緒に来る? 長野のスキー場……」
「繁盛期に、よくホテルの予約が取れましたね。2月のオリンピックも控えて……」
「剣持警部は、長野が地元なの。お友達から招待券とか、譲ってもらえるのよ。今回もそうっ」
「……出身地まで知ってる……間柄?」
七瀬は物凄く遠慮がちに声を掛けてきたが、
そこまで仲睦まじい彼らの邪魔は、出来ぬ。断るしかない。
「……いえ、お気持ちだけ頂いておきます」
「そ、そう言えば、発表会……剣持さんが観に来てくれるって」
そのひと言にやる気満々、演劇部の発表会に気合が入る。
男気溢れる警部との過ごせる時間はきっと、巡ってくる。無意識にシャーペンを食卓へ置き、両手を組む。傍から見れば、完全に祈る姿勢になった。
「なんで……金田君、そんなに剣持警部が好きなの? 明智さんにも色々と、お世話になっているじゃない。歳も近いし……」
「……何でって、それは……」
七瀬から困った奴を見る眼差し、
具体的に説明しようにも、言葉にならない。
しかし、パトカーを見掛ける度、会えると期待する気持ちは本心だ。
「人を好きになるのに、理由がいるのですか?」
「……相手によるかなあ……、秋絵ちゃんに言っちゃだめよ」
「当たり前です。剣持さんと秋絵さんは、学校の事情聴取で会った程度……。ほとんど面識ありません。そんな方の話をしても、秋絵さんが退屈してしまいます」
「そう言う線引きは、出来るのねえ」
思わず質問で返してしまったが、七瀬は半分諦めたように忠告してくる。
ふと電子音が聞こえると思いきや、
このタイミングなら、予想は付く。
「ハジメちゃんですか?」
《……! よく分かったな、金田。今、大丈夫か? 俺、冴子ン家から掛けてんだけどよ。美雪、知らねえ? どこ探しても見付からなくてさ》
その意思を汲み取ろう。
「海峰君なら、祖父と囲碁を打っています。ハジメちゃんもご一緒にいかがですか?」
《美雪だっつってんだろ。……本当、どこ行ったんだよ。見かけたり、連絡があったら……家へ帰る様に言ってくれ》
「分かりました。七瀬さんに必ず、伝えます」
《まさか……明智さんとこじゃあ……》
本当の事を聞いただけで、ハジメは追究せずに通話を切ってしまう。余程、焦っているのだろう。
「だそうですよ、七瀬さん。自分はこのまま、宿題を続けます。観たい映画があるなら、お好きにどうぞ。お茶のお代わりは自由です。……そこにいる祖母が、ピアノの演奏もしてくれますよ」
「っ」
「……フフフ、そうねえ。あたし、お祖母ちゃんのピアノお願いします」
やれやれとシャーペンを握り、宿題の続きに取り掛かる。覗き見していた金田祖母の息を吞む声が聞こえ、七瀬は勿体ぶってから、頼んできた。
「それを聴いたら、帰るわ。まだお正月の準備、終わってないし……」
「……そう、七瀬さんは本当に働き者だこと、さあ……いらっしゃい。何かリクエストは、あるかしら?」
七瀬と金田祖母は微笑み合い、ピアノの部屋へ消える。ようやく、人心地付いた。
取り敢えず、映画は止めておこう。多少の防音対策を効かせた部屋と言っても、演奏はどうしても聞こえてくる。ビデオを停止させた時、ドビュッシーの『雪は踊っている』が奏でられた。
弾むようなテンポは、外を走り回る子供達の喧騒そのもの。
金田祖母が今の状況に合わせた選曲、とても良い。
(……元旦、七瀬さん達と初詣……行こっかな)
心変わりを胸中に秘め、シャーペンを動かし続ける。45分程で予定範囲が終わった。
その間、金田祖母の演奏は続き、金田祖父と海峰の熾烈な対決は持碁で幕引き。
「お邪魔しました~♪ 良いお年を」
「ジイチャン、中々の腕前っスよ。俺が保証シマス」
「「いつでも、遊びにいらっしゃい」」
エネルギッシュな高校生2人を見送った後、老人2人はドッと疲れを露わにした。
「明日には、腱鞘炎ね……」
「ワシ……途中から、本気で勝ち取りに行ったんやで。最近の子はホンマ、プライド高いわ~」
「お疲れ様です。昼食は自分が作りますので、ゆっくり休んで……電話……」
2人を労おうとした時、廊下の電話が鳴り響く。電子版に表示された相手は、世界的作曲家の孫だった。
金田祖母がスッと、奥の部屋へ引っ込んだ。
仕方なく、
「金田でございます」
〈金田君、優歌よ。本日は、お暇かしら? 金田先生はいらっしゃる?〉
一瞬、金田祖父を見やる。彼は陽気にウィンクした。
「いますよ、これから昼食ですので……その後にでも、お越しください」
〈ヤッタ♪ お昼がまだなら、お持ちするわ。お腹を空かせて、お待ちなさい〉
師走はその名の通り、多忙な年の瀬。大晦日を明日に控えた今日、来客はまだまだ続く。
○●……――私の息子・
只、運だけは家系譲り。
8月の悲恋湖キャンプモニターツアー、10月のバルト城ミステリーナイト。立て続けに事件発生、はじめも多少の擦り傷を負った。
私はいつもの事だと思ったが、イベント企画の主催者から、賠償金が支払われるという臨時収入。合計で3桁に及んだ。
夫のヘソクリより多くて、羨ましい。
去年の夏、悲報島『宝探しツアー』でも事件へ出くわした。その時は何もなかった為、本当に驚いた。
大晦日の大掃除も手を止め、はじめの通帳を眺める程だ。
「はじめ、去年のツアーなんだけど。今からでも、貰えないの?」
「……考えること、一緒だなあ。お母さん、残念だけどそっちは無理。企画者の美作が、ツアーが始まる前に死んじまってたから、え~と……保険が免責になって、兎に角……払う奴がいないんだとっ。明智さんが言うには……」
窓拭きに励む息子から、予想外の返事。警視庁の若きエリート警視に、何たる恥知らずな質問をしている。母親として、顔から火が出そうな勢いだ。
「やだ、この子ったら! 明智さんにわざわざ、聞いたの? 恥ずかしい……」
「恥ずかしくねえよ、貰えるもんは貰っておかねえとっ」
そんな守銭奴みたいな言い方をしているが、はじめの本心は別にある。
愛らしいお隣さん・
私の頼みで、美雪も悲報島に付き添ってくれた。事件の報せを聞いた時、はじめ以上に彼女の身を案じた。
今からでも、その行いが報われて欲しかった。しかし、そうは上手くいかないのが現実だ。
「ふう~ん、それで美雪ちゃんの誕生日とクリスマス。プレゼントを奮発してあげたの? 通りで、アンタにしては真面目に選んだと思ったわ」
「ち、ち、ち、違うしっ。美雪も高校生なんだぜ、ちょっとやそっとのもんじゃあ……満足しねえから、と、年相応のもんをだな……」
「お母さん、トイレの掃除終わったぞ」
ニヤリと笑って見せれば、はじめの狼狽っぷりは素直過ぎる。のんびりした夫へ「次は靴箱の裏!」と指示しておく。
「あ~あ、フミと丙助叔父さんにも……大掃除、手伝ってもらえば良かったんじゃね?」
「何言ってんの、フミちゃんは普段からお家事をやってくれたわっ。寧ろ、丙助の面倒を見ないといけないから、掃除よりも大変よ」
はじめは掃除に飽きてきたらしく、可愛い姪・
丙助は冬休みに入った途端、辺境の土地から舞い戻り、フミを連れて行った。
とは言っても、市内にあるアパートの部屋を借りている。徒歩でも十分、会いに行ける距離だ。
そのまま平穏に暮らして欲しいが、自由気ままな弟の性格を考えるならば、春先にはふらりと海外へ旅立つだろう。フミの父親でなければ、鉄拳制裁したいところだ。
私が姉として注意? とっくの昔からしているが、効果ゼロ。それに、あまり叱るとフミが悲しそうな顔をするのも、強く言えない理由のひとつだ。
あんなロクデナシでも、フミは父親が大好きなのだ。健気過ぎる。
「……そっスね」
はじめが遠い目になり、フミへ同情した。
丙助の存在が、子供達への反面教師になる。良い歳こいた中年オヤジの活用法がそれだけとは、情けない。もしや、はじめは奴に似てしまった。そう考えたら、しっくりくるというもの。
逆に、フミは私に似た。だから、とても可愛い。
「そうだ、はじめ。アンタ、剣持さんと長野に行くでしょ。フミちゃんも連れて行ってあげたら? 日頃の頑張りに、ご褒美をあげると思ってっ」
「……まあ、俺は別にいいけど……。オッサンに聞くだけ、聞いてみるわ」
弟以上に信頼できる現役刑事。
子供達が生意気な態度を取っても、寛大な心で許してくれる。はじめはその有難みが最近、当たり前になりつつある。推理するだけなら、今の私でも出来るだろう。しかし、警察が捜査方針へ取り入れてくれるかは、別なのだ。
かつての武勇伝と共に、語りたくない苦労を思い返し、段々と腹が立ってきた。
「お母さん。俺が何かやらかす前提で、睨まないでくれ」
「あら~顔に出てた? ちゃんと剣持さんにお願いするのよ。失礼のない様にっ」
「俺だって、オッサンから失礼な事言われてんのに……」
「それは本当の事だから、仕方ないでしょう?」
こうして会話していても、はじめから目上の人を敬う気持ちは見えない。まるで、対等な友人の話をしている様に馴れ馴れしい。
やはり、この息子は我が弟に似ている。その思い上がり、どこかで報いを受けるだろう。それでも、勝手に立ち直る姿が浮かんだ。
ふうっと、ため息をつく。
「お母さん、はじめ。玄関まで聞こえてるぞ。さっさと掃除しておかんと、出前の蕎麦が来る……」
「「は~い」」
夫の窘める声を玄関から聞き、返事の仕方が被ってしまった。
「全く、似た者親子だよ」
「そりゃあ、お母さんの子だもん」
夫がクスリッと笑う。はじめはさらりと認めるが、ここまでぐうたらではない。
そこだけは、譲らぬ。
青完「残間 青完です。皆さん、閲覧ありがとうございます。さとみは年始年末もマジシャンの仕事に励み……どうした、にいみ? そうだよ、さとみの活躍を告知……。……次回予告、いるかね? さて、次回は『金田一の報酬』!! よいお年をお迎えください」
海峰 学
血溜之間殺人事件ゲストキャラ。作中にて、新生徒会長
氷室 一聖
雪夜叉伝説殺人ゲストキャラ。作中にて、オリ主の伯父
金田一夫婦
母親が名探偵の娘
金田一 丙助
フミの父、自由人。原作にて、名探偵の血筋と明言されていない(婿養子の可能性がある)。作中にて、はじめちゃんの叔父