金田少年の生徒会日誌   作:珍明

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学校での初事件、オリ主不在回。
桜樹 るい子の視点です。

ここから血生臭い描写を入れていきますので、『残酷な描写』を必須タグ追加します。


F.18 学園七不思議殺人事件

 東京都不動山市・私立不動高校。創立の歴史は戦時下にまで遡り、校舎の増築、制服のデザイン一新。戦後の教育改革に適応しながら、現代まで存続し続けた。

 古びた木造校舎の取り壊しもその一環、跡地には鉄筋校舎を建設する予定だ。

 

 その旧校舎にミステリー研究会の部室はある。

 会長の桜樹(さくらぎ) るい子に呼び出され、部員の真壁(まかべ) (まこと)と下級生の尾ノ上(おのうえ) 貴裕(たかひろ)は現れたが、鷹島(たかしま) 友代(ともよ)は珍しく来なかった。

 

「急な呼び出しでも、これだけいれば十分か……。会議を始めます」

「桜樹君、会議の前に説明してくれよ。どうして、部外者がいるんだ?」

 

 ハンディカムを持つ新入生・佐木(さき)は不動高校の制服を着込み、不機嫌な真壁が示す部外者では決してない。入学式もしていない春休みどころか、まだ3月。その判断は仕方ないだろう。

 

「彼の紹介も含めた会議でもあるわ。新入部員の佐木 竜太君よ。まだ不動中学に在籍中だけど、先生方から校舎への立ち入りを許可されているわ」

「……桜樹先輩、佐木君? じゃなくて……。なんで……部員以外の生徒がこんなにいるのかって……」

 

 苦笑を張り付け、尾ノ上は部室を見渡す。ようやく、るい子は質問の意図を理解した。

 生徒会執行部より生徒会長・七瀬(ななせ)、演劇部幽霊部員・金田一(きんだいち)

 写真部より部長・江塔(えとう)伊志田(いしだ) (じゅん)、下級生・鷹杉(たかすぎ) なぎさ、並びに顧問の先生方が2名。

 ミス研の呼び出しに他の部がいれば、当然の反応。自覚なしに気の逸り。るい子は説明不足を反省した。

 

「春休み返上で学校に来てるってのに、その態度。流石は『推理大賞』に入選された真壁君がいるミス研、僕らにとって雲の上のお人ってヤツですかねえ? あのポスター、ちょっと曲がって貼ってません?」

「分かっているじゃないか、伊志田君。推理なんて、キミには一生縁がない知的ゲームだろっ」

 

 るい子が口を開く前に、伊志田と真壁の睨み合いが勃発。お互いに嘲笑いながら、低レベルな会話はまさに同族嫌悪。顧問も含め、全員の冷ややかな視線を物ともしない。

 

「歓談は会議が終わってからにしてっ」

 

 瞬間、自惚れ屋2人はわざとらしく鼻を鳴らし、顔を背けた。

 

「去年、校長の元に送られて来た脅迫状を覚えているわよね。この旧校舎を取り壊せば、『放課後の魔術師』と名乗る人物から〝七つの呪い〟が降りかかる……。工事の延期によって、何も起こらなかった。それが卒業式の日、再び脅迫状が届くようになったわ。そう、来月に取り壊し工事を行うと決まったからよ。つまり、今度こそは何かが起こる。その前に『放課後の魔術師』を究明する!」

 

 口が動く度、るい子の気分が高揚感していく。これは生徒を脅かす得体の知れない人物を解明したい欲求が神経を通じて、髪の毛先にも伝わっていく錯覚さえした。

 

「桜樹君、顧問と言うか……教師として今回の件は賛同しかねる。『七不思議』に関わるのもそうだが、佐木君は入学が決まっているとは言え、3月末までは中学生だ。彼まで巻き込むのは……」

「ご心配なく、両親の許しも得ています。『放課後の魔術師』の究明に是非、参加させて下さい」

 

 ミス研顧問の物理担当・的場(まとば) 勇一郎(ゆういちろう)先生は普段通り、気弱な態度。若々しい佐木の方が勇敢に見えてしまう。しかし、彼のハンディカムはずっと金田一だけを撮影中。出来れば、会議全体を撮って欲しいが、今はそっとしておこう。

 

「けど……桜樹先輩っ。旧校舎の『七不思議』を全て知った者は『放課後の魔術師』に殺されるって噂があるじゃないですか! 去年、脅迫状の時期にも噂が流行って……怖くて学校を休んだ子もいますし……。そもそも……なんで、写真部まで一緒に?」

 

 怯えながらも、鷹杉はハッキリと意見した。

 

「学校への脅迫状はミス研だけの問題じゃない。来週、生徒会執行部が本腰で旧校舎を調査する事になったから、今回の私達は前調査みたいなモノだ。その記録に写真部は打って付けだろ?」

「は、はあ……確かに……見たところ、ミス研でまともに記録出来そうなのは佐木君だけっぽいですし……」

 

 写真部顧問の津雲(つくも)先生が緊張した態度ではあるものの、意外な正論を述べる。自身に火の粉が降りかからなければ、対応も注意も禄にしない。事なかれ主義にしては積極的だ。

 珍しすぎる津雲先生の様子に躊躇いつつも、鷹杉は納得して見せた。

 

「え? 私、何も聞いてないが、七瀬君……生徒会では、そんな事になったのかね? 桜樹君は勿論、知っているようだが……」

「え!? た、多分……はいっ」

「この会議でお伝えしようと思いましてっ」

 

 生徒会長でありながら、七瀬は何も知らずに来た様子。てっきり執行部からの連絡を受けたと思ったが、金田一を電話で呼び出した際、勝手に着いて来ただけだった。

 的場先生にはわざと情報を伏せておくように、とある執行部員から助言されたのだ。

 意味はあるのだろうが、今のところ判断付かない。

 

「今回の調査対象は『七不思議』の舞台となった場所。既にいくつかは封鎖されて、鍵さえも紛失状態。校舎の外から見る形になるわ。レポートを配るわね……あら、ありがとう。江塔君っ」

「文字通りに長年、出入りもされてない教室……。放置された死体が出てきたら、どうしよう……」

 

 江塔が進んでレポートを配りながら、ゾッとする。彼がそんな発想に至るのは、つい先日に殺人事件現場となった邸宅を訪問した為だろう。

 

「ば、馬鹿な事を言うんじゃない! 我が校に……そんな恐ろしい物が……」

「……そう言えば、2月くらいだったかな? 市内の雑木林で白骨化した遺体が見つかったってニュース……。ここから……近いと言えば……近くないか?」

「や、ヤダなあ。津雲先生まで……っ」

 

 ビクンッと肩を痙攣させ、的場先生は哀れな程に狼狽した。

 レポートに目を通し、青褪めた津雲先生は2月のニュースを思い返す。完全に怯え、苦笑したままの尾ノ上は震え上がった。

 

「それ、良いね。真壁君の書いた小説よりも面白いですって♪ 旧校舎に伝わる『七不思議』の秘密、それは校舎に埋められ……」

「伊志田君! 本当に冗談はやめなさい!」

 

 からかった伊志田が悪くない推論を口にしかけた途端、鬼気迫る的場先生がドスの聞いた怒り声を上げてまで、厳重注意した。

 ビックリし過ぎて、部内の空気が騒然となった。

 

「すみません、遅くなりましたっ」

「「「六野(さん)(先輩)!?」」」

 

 そこへ教室の戸が開き、息を切らせた六野(ろくの) 冬花(ふゆか)の登場に張り詰めた空気も少し変わった。

 

「大丈夫か? 無理して来なくても……、キミ以外にも来ていない生徒はいるんだし……」

「津雲先生……はあぁ、大丈夫です。今朝、旅行から帰って来て……江塔君からの留電を聞いたから、こんな時間に……」

「先輩、……今回の話です」

 

 深呼吸を繰り返す六野の為に津雲先生がさっと椅子を用意し、座るように勧める。そっと鷹杉が耳打ちでこれまでの会議内容を簡単に説明してくれた。

 

「あれって六野だろ? あんな美人が写真部!?」

「痛いっ、痛いって」

 

 まさに可憐な美女、仰天した真壁が動揺のあまりに伊志田の肩をぐいぐい揺さぶった。

 

「津雲先生、反対してくれ。桜樹君にも何度も言ったが昔、『七不思議』に関わって行方不明になった生徒もいたんだ。生徒にもしもの事があれば……」

「……行方不明? 的場先生……そんな話、私は初めて聞いたが……」

「そりゃあ、的場先生は最古参だもの。不動高校の生き字引に勝てませんって」

 

 10年前、当時17歳だった青山(あおやま) ちひろは謎の解明に力を注ぎ、下校途中、つまり放課後に行方不明となった。

 そんな悲しい前例を持ち出されても、赴任歴の浅い津雲先生は思い至らない。それもそのはず、的場先生は創立より今日まで勤め上げた大ベテラン。苦笑の尾ノ上が笑い話として語るのは、経歴に見合う威厳がない故だろう。実際に気も弱く、るい子にしてみれば、都合よい顧問である。

 だが、今回はやけに口を挟む。

 

「このレポート、3つしか書いてないけど。判明しているのが、これだけって事?」

「いいえ、そっちは写真部用。ミス研用には4つあるわ。『七不思議』を全て知る者は『放課後の魔術師』に殺されるんでしょ? 分けたんだけど……撮ってる佐木君は7つを知っちゃったわね」

「記録は会議から始まってますんで……」

 

 六野に質問され、レポートの詳細を話す。巻き込んだ以上、出来るだけ配慮したつもりだが、佐木には無用であった。

 

「では、一時解散します。放課後の時間、旧校舎の入り口に集まって頂戴。生徒会から、簡単な軽食が用意されているわ。欲しい人は職員室の小田切先生に声をかけてね」

「……生徒会から……軽食……」

「イタッ。なんだよ、美雪っ」

 

 またしても何も知らない生徒会長、仲間外れな気分になり七瀬は金田一の腕をつねった。

 

「やったあ♪ 何も食べずに来たから、お腹ペコペコっ。行こう、鷹杉さん」

「は、はい……」

「桜樹、食事は我々の分もあるかな?」

「勿論、あります。津雲先生、調査のルートについて問題ないか、的場先生とよく話して下さい」

 

 お昼ご飯目当てに各々が出て行く中、俯き加減の的場先生は落ち着かない。調査にも非協力的だ。津雲先生に見張りを任せよう。

 2階の渡り廊下を歩けば、音のなる木材からリノリウムへ踏み入れる。まるで時代の移り変わりを体験でき、るい子はこの瞬間がとても好きだ。

 

「七瀬ってミス研じゃなくて、生徒会なんだっ。こんなに可愛い奴が真壁と同じ部とか、気苦労が多いだろうって思ってた」

「いやあ、七瀬君が写真部じゃなくて、良かったよ。なんせ、パパラッチもどきの伊志田君がいたんじゃあ、心配でしょうがないよ」

「美雪は生徒会長っスよ」

「「!?」」

 

 伊志田と真壁の器の小さい争いが始まったが、金田一の一言で絶句した。

 

「「あ……そう言えば、そうだった……」」

「……!?」

 

 江塔と尾ノ上にまで今、気付かれる。悔しそうな七瀬の役職が浸透されなさ過ぎ、るい子も流石に憐れんだ。

 

「七瀬さんも真壁先輩みたいにポスターを貼っとくと良いよ。何なら部室のポスター、貼り替えておくよ」

「う、ううん……私のポスターなんか……なくていいよ。尾ノ上君っ」

 

 突然、尾ノ上に提案され、七瀬は冷静になった。

 ポスターの件は一転し、真壁への嫌味にもなっている。いつも尾ノ上は彼からネチネチ攻撃され、爆発寸前の風船状態。今日は伊志田が標的にされ、上機嫌なのだろう。

 しかし、こんなに生徒が多い中、佐木は金田一しか撮っていない。るい子と同じ理由で目を付けたのか、気になるところではあった。

 職員室では小田切(おだぎり)先生がクーラーボックスを開き、六野と鷹杉にサンドイッチや焼きそばパン、メロンパンを選ばせていた。

 

「保健室は開いてるから、そこで食べていいよ。あっ、養護教諭さんには内緒ね」

「ありがとう、小田切先生。保健室でご飯とか、背徳感~♪」

「先輩、寝ちゃっても良いんじゃないですか?」

 

 そそくさと女子2人は保健室へ入っていく。

 

「やあ、皆。お疲れ! パンは好きなの、選んでね。先生もほらほらっ」

「当直とは言え、すまないね。小田切先生っ」

「キミ。休みに入ってから毎日、欠かさず学校を見回ってくれてるんだって? 駄目だよ、ちゃんと休みなさいね」

 

 新任の若輩者、中堅、引退間近。それぞれの年代の教師が集い、面白い場面だ。

 

「江塔先輩、そっちのレポートを貸して下さい。僕は部室で『七不思議』について、考えるので……」

「ああ、いいよ。俺はもう頭に入っているからっ、あ! ここ、蝶田先生の席……ちょっとだけ、座ってもいいですかね?」

「僕、緒方先生」

「んじゃあ、僕は朱鷺田先生」

「い、椅子だけにしてね。机の上のモノは触っちゃダメだよっ!」

 

 尾ノ上は焼きそばパンを持ち、部室へ戻っていく。江塔が少しだけ悪ノリで教員の椅子に腰かけ、真壁と伊志田も女性教員の椅子へ堂々と座った。

 小田切先生の注意すべき点がズレているが、先輩教員は無言。

 

「あれ? はじめちゃんは?」

「金田一君なら、すぐ選んで行っちゃったよ。他はほとんど施錠しているから、行くなら校庭かな?」

 

 七瀬が周囲を見渡せば、小田切先生は優しく教える。鍵置き場を何気なく一瞥すれば、屋上の鍵が消えていた。

 

 陽射しは良くても、まだ肌寒い。そんな屋上に金田一はレポートを顔にかけ、寝転がる。空の紙袋も散乱していた。

 

「どうだった? 金田一君っ」

「美味かったっスよ、サンドイッチ。……先輩はなんで、俺に声かけたんです? かな~り、場違いな感じ~でしたよ」

 

 レポートの内容について聞いたが、とぼけた金田一は予想通りにわざと違う返答をした。

 

「北海道の背氷村で起こった殺人事件、アナタが解決したんでしょう? 聞いちゃったのよねえ、ある人からっ」

「い!? ……まさか、生徒会の誰かさんとか……」

 

 起き上がった拍子にレポートを落とし、金田一は狼狽する。そして、名前は出さない相手にも気を遣っていた。

 すぐに閃く頭の回転の速さ、その堅実さ。以前から目を掛けたとおりだ。

 

「正しくは聞こえちゃっただけよ。それがなくても……『七不思議』の謎を解いて欲しいの。アナタにね、金田一君」

「謎を解くって、今回は前調査なんでしょう。大体~生徒会も来週じゃなくて、今日やっちまえばいいのにさ」

「スキー部の予定に合わせたの! 今週は春季大会があって、来週からじゃないと無理なのよ。でも、来週は入学式の準備で生徒会が忙しくなるから、すぐに終わらせられるように今日の調査が必要なんですって!」

 

 現れた七瀬はご機嫌斜め、るい子と金田一の間に割り込んだ。

 

「スキー部? お前、確か……前に仮入部してたよな。人数も多いし……、生徒会も頼みやすいってか」

「うん、そうっ。って言っても、頼んだのは遠野先輩だけどね。さっき、副会長に電話して詳しい事情を聞いたの。あたしにも連絡したんだけど、……ほらっ。昨日まで……はじめちゃんと青森にいたから……ねっ」

「アナタ達、昨日まで青森だったの? それは無理させちゃったわね」

 

 青森のタロット山荘にて、アイドル歌手の人生観を覆す事件に遭遇。今も2人は事件を引きずっており、彼女の身を案じている心理状態だとは知らなかった。

 

「六野先輩も旅行で帰って来たばかりなんだよなあ……アイドルみたいに可愛かっ……。イタッ!!」

「はじめちゃんってば! 桜樹先輩、はじめちゃんはこんな感じですから……あんまり力になれないかも、他の先輩方もいるし……もう帰っても良いですか?」

 

 鼻の下を伸ばしてまで、金田一が六野の容姿を褒め称える。眉間にシワを寄せ、七瀬は彼の耳を引っ張った。これで恋人ではない間柄、るい子は2人の関係が謎で仕方ない。

 

(七瀬さん、帰りたそうにしてるわね……。金田一君も乗り気じゃない……)

 

 重ねて言うが、2人がタロット山荘の事件直後だと知らなかった。

 

「先生にはまだ言ってないけど、調査に外部の人を呼ぼうと思っているの。プロのライターよ。事件記事にも携わっているし、警察と捜査を行った経験まであるんですって」

「ええ!? 先輩、プロの方とお知り合いなんですか? 流石、ミス研っ」

「……その言い方だと、誰かに反対されたんスね。美雪は今、知ったから……副会長とか……その辺の人に」

 

 流石、金田一。反対意見者もすぐに思い立った様子、探りの入れ方に関しても、人への気遣いが出来ている。本当に彼は頭が良いのだ。

 ミス研に是非、欲しい。

 

「その人を呼ぶ前に私達、学校関係者だけで片を付けたいって言われたの。理由も説明してくれて……私は納得出来たわ。誤解しないで、金田一君の力は前から借りたいって思ってたのよっ」

「理由……ライターに会いたくないとか……そんな感じですか?」

 

 名も事情も伏せているのに、見事に理由を言い当てた。

 だが、惜しい。金田一が想定している反対意見者がそもそも別人。前提が違うだけで、ライターを避ける事情も違う。その食い違い推理を見るのも、面白い。

 

「ええ、そんな感じよ」

 

 されど、るい子は訂正しない。

 

「何の話よ、はじめちゃん?」

「……わかりや~した! 今回だけっスから、調査に付き合……!?」

こらあ!! 誰だぁ、勝手に屋上へ入りよって!!」

「!?」

 

 状況の読めない七瀬が声をかけ、金田一がようやく協力する顔付きとなる。喜んだのも束の間、激怒した警備員・立花(たちばな) 良造(りょうぞう)の乱入があり、心臓が跳ねる程に驚いた。

 

「屋上の鍵がないと言うから、見に来てみればぁ! 春休み中は昼間でも人が少ないんだぞ! 何かあったら、どうする!!」

「すみません、すみませんっ。ほらっ、はじめちゃんも謝って!」

 

 立花に怒鳴られ、3人は職員室へ連行される。るい子と金田一は何処吹く風、必死な七瀬だけが頭を下げ続けた。

 

「まあまあ、立花さん。鍵は戻ったんだし……ね?」

「小田切先生っ、注意する時はしっかり注意せんと!」

 

 鍵を戻しながら、小田切先生は笑顔を取り繕う。厳しい表情のまま、立花の叱責が飛んだ。

 

「そうそう。金田一君に中途半端に優しくするとっ、褒められてるって勘違いされますよ。小田切先生っ」

「いやいや、真壁君。金田一君だって、犬じゃないんだから。そのくらい分かるって、ねえ?」

「貴様らも勝手に先生の椅子に座るんじゃない!!」

 

 共闘したように真壁と伊志田は金田一を嘲笑したが、立花に注意される。途端、まるで叱られた犬が如くと、バッと起立した。自分を棚に上げ、小気味良い。

 

「的場先生と津雲先生……、それに江塔先輩は?」

「こっちだよ、江塔も一緒だ。的場先生はキミ達を探しに行ってくれた。ついでに尾ノ上も呼んできてくれる。立花さんの言う通り、時間までは集まって大人しくしていよう。普段なら、運動部の練習があるが……今日は私達しかいない。冗談でも隠れん坊なんて真似、止してくれっ」

 

 急に金田一は人数を確認し、津雲先生がひょっこりと職員室に顔を出す。向かいの保健室いたらしく、江頭も六野や鷹杉と手を振り、存在をアピールした。

 ちなみに佐木は職員室にいた様子。自分達が戻ってきた途端、そのカメラレンズは言うまでもなく、金田一を撮り続けた。

 それよりも、るい子は別の点に着目した。

 

「「「津雲先生が先生らしい事を言ってる……」」」

「さ、桜樹先輩まで……!?」

 

 るい子と真壁、伊志田が何の示し合わせもなく、感心して見せる。見事に声がハモり、保健室からコント受けした笑い声が発せられる。自覚があるらしく、津雲先生は恥ずかしそうに咳き込んだ。

 七瀬だけが困惑し、金田一は急に考え込む。

 

「小田切先生は旧校舎の『七不思議』とか、過去に行方不明になった生徒の話を知ってますか?」

「え、僕? ……『七不思議』はいくつか、皆が教えてくれたけど……。……行方不明になった生徒までいるんだ……気の毒にね」

 

 突然、話を振られた小田切先生は新任。当然、行方不明の青山について知りようがない。

 

「立花さんは知ってますか? 『放課後の魔術師』とか……」

「……そういう馬鹿げた噂話はある程度、知っている。10年前、女子生徒が行方不明になったのは確かだ。前任の警備員から、引き継いだから間違いないっ」

「「「!?」」」

 

 金田一に問われ、立花はため息交じりに答えてくれる。るい子以外の女子生徒が青褪めた。

 

「へ~、いなくなったのは女子なんですね。だったら、ヤバいのは桜樹じゃん。『七不思議』は全部、知ってるし~」

「桜樹さんはそうならないよ。だって、こんなに仲間がいるんだもんっ」

 

 脅かすような伊志田のからかいさえ、微笑んだ小田切先生が合理的に否定する。確かに青山は独りの瞬間を狙われたのだろう。今なら、そう考えられる。真相を追求すると決めた瞬間から、細心の注意を払っていたつもりだが、もう少し慎重になるに越したことはない。

 

「ちょっと気になるんだけど、『放課後の魔術師』って何なんだろう? 放課後は夕方とか、時間を示すんだろうけど……。魔術師は何を意味しているのかな?」

「ああ……そう言えば、魔術……?」

「旧校舎が建つ前?」

「昔、教会だったとか?」

「おやおや、魔術師は教会の敵だろ。魔女狩りの歴史ぐらい知っとけよ」

「え~、カルト教団の建物とか、俺ヤダぜ~」

「寺や神社だったって話は聞かないわね」

 

 小田切先生の素朴な疑問に生徒の口々から、憶測が飛び交う。江塔、鷹杉、六野、真壁、伊志田、七瀬の意見を聞きながら、るい子は金田一の様子を窺う。彼は旧校舎が学校たる以前に『七不思議』の謎があると踏んだ。

 それについては勿論、徹底調査の真っ最中。但し、外部の人に依頼した。

 脅迫状を出した相手は学校関係者、その勘が働いている限り、全ての情報を晒すのは危険。このレポートも以前は『六不思議』であったという事実はあえて、記さずに配った。

 

「昔、そんな教師がいたそうだ……」

「的場先生?」

 

 戻ってきた的場先生は苦渋の決断と言わんばかりに語り出す。『頭文字Mの教師』による夜毎、繰り返された旧校舎における死の儀式、警察の突入した時には逃亡した後だった。

 あまりにも、胡散臭い話。

 まだ真壁――否、鷹島の推理小説が良い出来だ。

 

「ちょっと待って下さいっ。いくら何でも眉唾物が過ぎます。僕の小説に比べれば、起承転結もなってない……っ」

「お前の小説はどうでもいいわ。問題は的場先生が~、それを知ってて黙ってたんっしょ? まあ、校長に言っても信じて貰えないでしょうけど~」 

 

 あまりにも現実味がなく、るい子以外も的場先生の話を信じ切れない。微妙にビビっている真壁と違い、伊志田は舐め切っていた。

 だが、金田一だけは違う。的場先生の真意を汲み取ろうとする目付きだ。

 

「的場先生、何故……。今になって、その話を?」

「……!? ……尾ノ上君がいないんだ……。……代わりに部室のワープロに……『放課後の魔術師』から……メッセージが……」

「……『放課後の魔術師』のメッセージ!?

 

 金田一に追求され、的場先生は汗だくでガタガタと怯え出す。それだけで事態を把握した。

 

「部室に急ごう!!」

「ああ!」

「女子は全員、ここにいなさい! 小田切先生、頼みましたよ!」

「え、何? どういう事?」

「『放課後の魔術師』が現れたんですよ」

 

 真っ先に金田一が走り出し、緊迫した立花も続く。慌てた津雲先生の指示を聞き、困惑した小田切先生が質問すれば、佐木が緊張した口調で答えた。

 るい子は高揚し、気付けば駆け出す。尾ノ上の身の安全は二の次、『放課後の魔術師』の新たな展開を楽しんでいた。

 それを不謹慎とは思わなかった。

 

 部室の机に食べかけの焼きそばパンがそのまま置かれ、備品である古いワープロに文章が打たれていた。

 

「七つのめの扉を開けし者……」

「儀式の生け贄となる……」

「我が名は」

「放課後の魔術師なり……」

 

 るい子、佐木、伊志田、金田一の順番でそれぞれの感情を込めて読み上げる。息を飲んだ江塔がカメラのフラッシュを炊いた。

 

「……イタズラじゃないのか? 尾ノ上が……我々を脅かそうと……」

「……尾ノ上君はそこまで賢くないですよ……。人を騙せるような性格でもない馬鹿正直な奴で……」

 

 津雲先生のように恐怖が募れば、人は余計に現実的な解釈を求めようする良い見本。しかし、尾ノ上を見下しているからこそ、真壁が事態を重く見た。

 

「……尾ノ上君が持ってたレポート、何処にもない。そこに書かれているように……『七不思議』を全部、知ったから?」

「警察に連絡を!」

「まだ、いなくなっただけですって。ビビって、先に家へ帰ったんじゃ?」

「そ、そうだな。……桜樹……尾ノ上の自宅に電話してみてくれ……。……? 女子は職員室にいろと言わなかったか?」

「聞いてませんでした」

 

 机の下を探した江塔がゾッとすれば、深刻に立花が提案したが、伊志田の意見は尤もだ。津雲先生は指示した瞬間、るい子の存在にようやく気付いた。

 

 旧校舎の公衆電話から尾ノ上宅へかけてみたが、案の定。彼は戻っていない。

 

「津雲先生、この校舎を探しましょう。一通り巡って、尾ノ上君が見つからないなら、改めて警察に知らせると言うのは?」

「しかし……いなくなっただけで……警察は……」

「大丈夫です。警察に当てがありますっ」

 

 躊躇う津雲先生と違い、金田一は頼もしかった。

 

「んじゃ、バラけて探しますか。『七不思議』を全部、知ってる桜樹は津雲先生と一緒な。佐木は……金田一と……だな。僕は江塔と警備員さんっ」

「待て待て、江塔か伊志田が私達と来てくれ。そのカメラがいざという時、証拠写真を撮れるっ」

「だったら、僕は金田一君……桜樹君……。小田切先生のところへ帰ってますっ」

「男手は1人でも多い方がいいっ」

 

 妙に乗り気な伊志田が場を仕切りだし、津雲先生は慌てる。真壁は面子を見比べ、職員室へ逃げようとしたが、立花に捕まった。

 結局、るい子は津雲先生と江塔。金田一は佐木と立花。真壁と伊志田に分かれた。

 

「時計を確認しよう。今は午後3時……、1階を巡回して2階へ行き……そのまま職員室へ行こう。それぞれ、ジャンケンで決めた順路で尾ノ上を探すんだ。恨みっこなしだぞ」

「「なんで僕らが封鎖された階段を行くんスか……」」

 

 ブツブツと文句を言いながら、真壁と伊志田は先行。2人を見送りながら、るい子は柄にもなく、妙な不安に駆られた。

 

「先生、電話させて下さい。知らせたい相手がいるんです」

「あ、ああ……構わないが……」

 

 念の為、外部の協力者に連絡しておこう。生徒手帳へメモした携帯電話へかければ、快く話を聞いてくれた。

 受話器を置いた時、金田一達は別方向へ行ってしまう。津雲先生は緊張が限界突破したらしく、無言で歩き出す。江塔も何度も深呼吸し、カメラを構えた。

 立ち入り禁止の紙が貼られた空き教室。

 

「手首が這いずり回る印刷室……。ここは鍵が見つからなくて、施錠が出来ないから……皆が肝試しによく使ってるそうです……」

「では……私が開けるぞ……。江塔はカメラを構えて、桜樹は万一に備えて……後ろを見てくれ」

「はいっ」

 

 江塔が返事した瞬間、覚悟を決めた津雲先生は思い切り戸を開けた。

 いくつもの紙が床を覆うように散乱し、赤い線が滴り落ちている。紙の隙間に見えたのは手、そして生気の顔は尾ノ上だった。

 

「「尾ノ上!?」」

「!? こ、これは……っ」

 

 反射的に押されたカメラのシャッター音、津雲先生と江塔の悲鳴が耳を打つ。そして、遠くから誰かの絶叫が聞こえる。そこに何があったのか、興味を抱いた。

 後輩の無惨な姿を目にしながら、るい子は自身でも呆れた程に冷静であった。

 




青山「青山 ちひろです。皆さんも犯人らしき人と2人っきりにならないように自衛を心掛けて下さいね。さて、次回は『学園七不思議殺人事件‐剣持』!! お父さん、ずっと探してくれて……ありがとう」

ミス研会長・桜樹 るい子
大胆かつ刺激的な発言で読書ファンを魅了、頭の良い人が好き。作中にて何か、生き残った。

尾ノ上 貴裕
普段は笑顔だが、ストレスを溜めるだけ溜めて爆発するタイプ。ゴメン、マジ。

顧問の物理担当・的場 勇一郎先生
不動高校の開校以来の大ベテラン。気弱で威厳がない。定年を控えている。

警備員・立花 良造
不動高校のカミナリオヤジ。生徒だろうと遠慮しない。

真壁 誠
原作の性格も良いキャラだが、ドラマ版の活躍がとても好き。ドラマ未視聴の方は是非、観て!

鷹島 友世
作中にて執筆の為に登場せず。

写真部の伊志田 純、鷹杉 なぎさ、六野 冬花
不動高校学園祭殺人事件、ゲストキャラ。
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