金田少年の生徒会日誌 作:珍明
そして、通報者はお馴染みの
「金田一……、青森県から帰った途端にコレか……」
「それは言いっこなしだぜっ」
自身の登校する学校での事件故、流石の『オチコボレ』金田一も既に勇ましい表情。情けない話だが、剣持よりも頼りになる。名探偵の血筋に相応しい頭脳と推理力を発揮するのだ。
被害者は3人。
ミス研・
写真部・
ミス研・
尾ノ上の遺体の第一発見者、写真部顧問・科学教師の
先月の四ノ倉学園連続殺人事件に続き、金田一はよくよく見立て殺人事件に縁がある。いっそ、刑事になってくれた方が事件解決に対する対価が正式に得られるだろう。
「俺のカメラ……」
「終わったら、すぐに返してやるって」
江塔のカメラで発見時を撮影した為、すぐに現像へ回す。彼は後輩の遺体を発見しただけでも、相当のショックだろうに愛用品を証拠品として取り上げられ、更に落ち込んだ。
搬送された伊志田もカメラを持っており、同じく現像へ回した。解決への意図口が写っていれば、幸いだ。
「私は彼らと一緒でした。ビデオカメラを見て頂ければ、分かります」
「けど、僕のカメラは桜樹先輩に持って行かれました……」
伊志田と真壁を発見した警備員の
「職員室にいた美雪と……写真部の六野先輩、それと鷹杉は的場先生達と一緒だったから、旧校舎にいなかった」
「ああ、正野が話を聞きに行っている。それよりも、金田一……あの桜樹って子……大丈夫か?」
10年前の生徒失踪、脅迫状から今回の調査に至るまでの経緯を丁寧に説明。桜樹は教師よりも大人びており、さながら探偵の如く捜査にも協力的だ。
だが、ハンディカムを再生し続けている表情は青褪め、今にも倒れそうな心配をさせた。
「桜樹先輩……、後はやっと来ますよ」
「何を言っているの、金田一君。本物の刑事さんと話せる機会なんてないわ。それよりも、アナタも見てごらんなさい」
金田一が話しかけても、明るい声で桜樹はハンディカムを差し出しただけだ。
「まだ現場検証中だ。取材は後、後!」
「私は招かれています。桜樹さんという生徒に取り次いでくださいっ」
急に旧校舎入り口が騒がしい。事件を聞き付けた新聞や雑誌記者の中、ミステリールポライターを名乗る
「白神さん!」
「桜樹さん!?」
ハッとした桜樹は白神へ駆け寄り、安堵の表情で頬に涙を流す。年相応な泣き顔に周囲の男性陣はビックリした。
「私のせいで……尾ノ上君が……死んじゃった……。気を付けてたのに……」
「……!? どうか、こちらへっ。刑事さん、良いですか?」
「ああ、勿論。彼女が落ち着くまで傍に居てやってくれ……」
桜樹の態度から、白神へ信頼を寄せていると分かる。そのまま、2人は旧校舎の外へ出て行った。
「警部、校長先生がお見えになりました」
「津雲先生、立花さん。一度、校長室へお願いします」
「「……はい……」」
入れ違いで警官が現れ、校長の到着を教える。金田一に視線を投げれば、何故か、ハンディカムを手にしたまま付いて来た。
途中で職員室に寄れば、そこには
「的場先生は事件発生時、職員室にいなかった?」
「そ、そうと言えば……そうです。誰も帰って来ないので、2階の渡り廊下から旧校舎へ入りました……。そしたら、あちこちで悲鳴が上がって……」
生徒が亡くなり、的場は哀れな程に汗だくでガタガタと怯え続けた。
「剣持警部っ、あの……お願いが……。小田切先生はもう少し、私達の傍に居てもらって良いですか? その……鷹杉さんがすっかり怯えちゃって、六野先輩もあんまり平気じゃなくて……」
「ああ、構わんよ。必要なら、こっちから行く」
本当なら、教職員の全員を揃えての改まった事情聴取をしたかった。だが、外ならぬ
校長室で更なる事情を聞く。去年も脅迫状が届いていた事実を知った。
「細心の注意を払っていたのに、何処から情報が漏れたんだ……。もう……工事は中止にするしか」
慄いた校長は生徒に被害が出た事で、旧校舎の取り壊し中止を宣言。途端、金田一は食い付いた。
「校長、情報が漏れたってどういう意味ですか?」
「なんだ! 金田一っ、貴様には関係ないだろっ」
「校長先生、彼の言葉は私からの正式な尋問だと思ってお答え下さいっ」
金田一を睨む校長に剣持は即座に返答を促す。困惑した態度を見せつつ、校長は去年の脅迫状を受け、今回の取り壊し工事は日程のギリギリまで極一部だけにしか、伝えなかった。
「間違いないですか? 的場先生、津雲先生、立花さんっ」
「はい……私は先月、執行部顧問から通達を受けました……」
「私はつい先日です。生徒会から今回の調査を任された際、工事の日程が決まっていたと聞きました」
「私なんて、今朝です。小田切先生から聞きましたよっ。彼も昨日、聞かされたような言い方でした」
まさに極秘。剣持は『放課後の魔術師』の存在など信じないが、僅かな情報も脅迫状の主には筒抜けだったのだ。
金田一の眼光が一瞬、輝く。何か解決の糸口を拾った様子だ。
「刑事さん、生徒の様子を見に行っても? ……小田切先生に任せっぱなしだし……」
「ええ、どうぞ」
津雲先生が校長室を出て行くのと同時、金田一も着いて行く。校長と的場にまだ現場検証が終わるまで待機するように指示し、探偵の孫を追った。
「オッサン、こっち」
「金田一っ、てっきり保健室かとっ」
「いや……先に桜樹先輩と話したい」
「桜樹君って、あんなに動揺している状態で何を話す?」
旧校舎の周辺、封鎖された井戸へ着く。
そこに桜樹と白神が書類を捲りながら、井戸へ腰掛ける。美男美女が揃えば、怪談の現場も恋人の秘密スポットに見えてしまう。
「早かったわね、金田一君」
「いや、遅いくらいだ。桜樹先輩に比べればねっ」
目に涙の跡を残し、桜樹は微笑む。様子の違いに、さっきまでは演技と疑った。
「どういう事だ? 金田一……まさか、もう犯人が分かったのか?」
「ええ、刑事さん。彼女も見当が付いているようです。アナタが噂の金田一君? 初めまして、白神と申します」
「アンタが桜樹先輩の言ってたプロのライターさんか、どんな情報を持って来たんだ?」
桜樹の手にある書類、白神が彼女に頼まれた資料だそうだ。
「旧校舎が以前、製薬会社の研究所だった――そこで行われた忌まわしい出来事に関してよ」
忌まわしいと口にしながら、桜樹は恋愛小説でも読むように胸を高鳴らせていた。
新薬の人体実験による6人の被験者の死亡。後、研究所は建物ごと、不動高校へ寄付された。
「……6人が死んだ……?」
「製薬会社は破産していますので、実験の公式記録も残っていません。ただ、この建物が不動高校の所有物となる前、確かに研究員以外の6人が雇われたのは事実。彼らの消息は以前、不明です」
「そして……不動高校の『七不思議』、本当は『六不思議』だったの。それがいつの間にか、増えていたのよ。金田一君、どういう事か……分かる?」
「10年前、行方不明になった生徒……」
剣持の疑問に白神、桜樹が謎を紐解くように答えて行く。金田一が軽蔑したように呟いた途端、背後から音がした。
「立花さん!」
「……その話、本当なのか?」
顔面蒼白の立花は怒りのような感情を必死に抑え、問う。その怒り方は剣持のよく知る被害者遺族に似ていた。
「……立花さん、失礼を承知で聞くが……その10年前にいなくなった生徒と言うのはアナタの……」
「!? おっしゃる通り……私の……娘です……」
出来るだけ怒りを刺激しないように、剣持は言葉を選ぶ。立花は涙を堪えつつ、
金田一と桜樹は予想外の状況を目の当たりにし、ハッと息を呑む。
「立花……いえ、青山さん。どんな真相であろうと……犯人には必ず、罪を償わせます……。どうか、我々警察に任せて下さい」
剣持は事件を担当する刑事として、立花に願う。そうしなければ、ならない。これまでの刑事人生で培われた勘がそう告げていた。
願いは聞き遂げられ、己を律した立花は頭を下げた。
「それで……金田一……犯人は分かっているんだな?」
「ああ、動機も何もかも……。佐木のカメラが撮ってくれていたよ」
確認で問えば、金田一はハンディカムを大切に掴む。立花の10年間を思いやるような切ない表情を見せた。
金田一と桜樹の推理通り、『放課後の魔術師』は的場 勇一郎であった。
尾ノ上の死亡推定時刻にアリバイがなく、工事の再日程を知っていた数少ない人物、また不動高校創設以来の勤務。状況証拠は揃っていた。
「私じゃない! 何で私が生徒を殺さないといけないんだ!」
最初は否認を続け、言い逃れを許さぬ金田一が部室の壁にあったポスターを剥がせば、白骨化した遺体――青山 ちひろを見せ付けた。
「尾ノ上を殺したのは、ポスターを剥がそうとしたからだ。伊志田先輩は校舎に死体が隠されていると冗談を言った! 真壁先輩はそもそも、そう疑わせた元凶ってとこだろう」
更に金田一は追尋し、的場の逃げ道を無くしていく。犯行の動機まで言い当てられ、慄いた『放課後の魔術師』は遂に屈した。
後日、旧校舎へ警察の捜査が入り、『七不思議』の舞台となった場所から残り6つの遺体が発見された。
娘は家族の元へ帰り、父親を喪主とした葬儀が静かに執り行われた。
剣持も焼香に青山家を訪れ、意気消沈した良造氏に頭を下げられる。それには感謝が込められていた。
校長などの学校関係者もチラホラ見られる。不動高校は経歴詐称について、良造氏を罪に問わない。逆に青山家が学校を訴訟すべき状況だが、双方が納得する形で決着とみなした。
「剣持警部っ」
「桜樹君、キミも来ていたのか」
青山家の敷地を出れば、礼儀正しく桜樹が着いて来る。大勢での参列は遺族に無礼と判断され、彼女が生徒代表だ。
「ええ、私にとっては大先輩ですもの。敬意を払わないとね……。昨日、尾ノ上君の家族にも会って来たわ……。彼には本当、悪い事をした……」
目を伏せる桜樹の仕草、皆の前で見せた涙は本物だったのだろう。何となく、帰路を共にした。
「キミは自力で『六不思議』や青山 ちひろの事を調べ上げたんだって? 大変だったろうに」
「いいえ。去年、的場先生が行方不明の生徒がいるからとか、私に何度も警告してきたのでっ。過去の新聞を調べました。立花さん、いえ……青山さんに聞けば、早かったですね。『六不思議』はそもそも、不動高校の歴史に記されていたんで、すぐに分かりましたっ。問題は増えた理由だったんです」
探求心と好奇心に見合う調査能力、決して諦めぬ不屈の精神。感服に値する。
「では、的場を最初から疑っていたのか?」
「まさか、顧問の先生ですよ。私でさえ、途中からでした。……でも、あの人は最初から疑っていたんでしょうね」
勿体ぶる桜樹の言い方から、白神を連想する。彼の記事は一連の騒動に忠実且つ、被害者への配慮が行き届く内容であった。
あまり、事件記事を読まない剣持も心を穏やかにして、目を通せた。
「ライターの白神かね?」
「……剣持警部、『放課後の魔術師』はいませんでしたね」
途端、桜樹は蠱惑的な笑みを見せ、はぐらかす。住宅地に植えられた桜の花びらが舞い散り、彼女の言葉をより意味深に魅せてくる。ならば、剣持も追及すまい。
「ああ、罪に怯えた……ただの人間だったな……」
罪を認めた的場は取り調べにて、自分勝手に泣いていた。一切の容赦なく、残りの人生を監獄で過ごすだろう。
同情などせず、剣持は当然のように的場を罪人と評した。
携帯電話が鳴り響く。視線にて、桜樹へ失礼を詫びてから応じた。
「はい、剣持……。聖生病院で……事件?」
「!? 伊志田君と真壁君が……入院している病院ですっ」
案の定、新たな出動要請。今度の場所はまさかの被害者達を搬送した聖生病院と知り、桜樹の目が好奇心に輝いた。
「剣持警部っ、ご一緒させて下さいっ」
「……!?」
この後、不動高校生3人――ほとんど桜樹による見事な推理力が『死神病院殺人事件』を解決へ導いた。
金田一同様、桜樹とも長い付き合いとなる。事件に巻き込む高校生が増えたと言う点において、決して褒められた物ではない。帰庁後にキャリア組の上司から、キラキラな嫌味を言われたのは別の話である。
七瀬父「美雪の父です。いつも娘がお世話になっています。1日足らずで事件を解決してしまうなんて、流石だねえ。悲しい別れはあったけど、美雪にケガがなくて何よりだ。さて、次回は『学園七不思議殺人事件さえなかったら』!! 事件中に金田君がどこにいたかって話だね。え? 長野にいたんだ。それは遠い……」
ミステリールポライター白神 海人
オペラ座館第三の殺人、ゲストキャラ。作中にて、桜樹の協力者となる。
校長
異人館村殺人事件と学園七不思議殺人事件のみ登場