金田少年の生徒会日誌   作:珍明

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金田一達が旧校舎に集まっていた時、どんな行動を取っていたかという話です。

これを以て、章の終わりとします。


F.20 学園七不思議殺人事件さえなかったら

 北海道より帰宅した翌日。

 不動高校の生徒会室へ赴き、執行部による緊急会議。生徒会長・七瀬(ななせ)は旅行中の為に連絡が付かず、結局、前生徒会長・遠野(とおの)先輩、ミス研会長・桜樹(さくらぎ)先輩、午前の部活帰りの副会長が旧校舎の調査計画を立てた。

 急遽決まった取り組みにも関わらず、校長の許可は簡単に下りる。スキー部顧問の尾根(おね)先生、写真部顧問の津雲(つくも)先生の協力も得られ、順調に調査日程まで決まった。

 ミス研顧問の的場(まとば)先生は旧校舎に受け持ち教科教室と部室を構え、不動高校に長年勤務した最古参。彼には調査そのものを伝えないように桜樹先輩へ頼み込む。お陰でミス研と写真部の合同会議活と思わせられた。

 脅迫状が再び送り付けられた時期、旧校舎取り壊し工事の日程は校長を除けば、生徒会執行部顧問と的場先生しか知らないはずだった。

 疑わしきは罰せず、3名共に泳がせるしかなかったのだ。

 

 其の足で弁護士・黒沼(くろぬま)先生の事務所へ向かう。先ずはTV局を相手取った件について吉報を受けた。

 氷室(ひむろ)伯父の自画像を撮影した映像、そのビデオテープを勝ち取ったのだ。

 裁判沙汰まで発展せず、双方の代理人による話し合いにて早期決着したのは幸い。要点は肖像権もあるが、TV局スタッフだった綾辻(あやつじ)が本物の自画像を処分した事実も有利に運んだ。

 

「事件当時に音響係だった方から、名刺を預かって参りました。映像に関する質問など、この方が対応致します。アナタに対し、協力的な姿勢です」

(……伯父さん……、これで……会える……)

 

 念願のビデオテープ。証拠品用のビニール袋に詰められた状態だが、確かに存在する。指先で触れただけで、歓喜の電気信号が脳髄から全身に生き渡り、(いち)は知らずと口元が緩んだ。

 黒沼先生の優しい咳払いを聞き、まだ自宅ではないと実感。折角の協力者・(ひびき) 史郎(しろう)の名刺をそっちのけにしたのは反省しよう。

 まだまだ、話は終わらない。

 本館の売り出しは停止、邸宅の不用品売却は画商の鷲尾(わしお)並びに古物商の金森(かなもり)へ依頼。ただ立ち合いの証人に黒沼先生ではなく、弁護士・有頭(ありとう) 大介(だいすけ)先生を薦められた。

 

「……? 黒沼先生がいるのに……他の弁護士の方へ依頼して、問題はないのですか?」

「はい、弁護士にも得意とする分野があります。同じ依頼人でも、相談内容によって別々の弁護士へ依頼するのは一般的です。有頭先生は現在、とある画家の顧問弁護士をされています。画商の方とのやり取りも、私より経験があります。この件に関してだけでも、任せてはいかがでしょうか?」

 

 刑事や教師と同じく弁護士にも担当分野がある。自分の知る小説やドラマにその表現はなく、社会勉強にもなった。

 そもそも、売却の立ち合いは弁護士の範疇外。(いち)が未成年者の高校生である為、黒沼先生は色々と手配までしてくれる。ここで紹介するならば、信用に置ける方なのだろう。

 

「弁護士料は別にかかりますので、ご注意下さい」

「……!? ……一度、持ち返って検討致します……」

 

 即断即決しようとした瞬間、金銭面の負担に口ごもる。別の弁護士へ依頼する短所と長所も包み隠さず、説明してくれる。黒沼先生は本当に信頼できると実感した。

 

 持ち帰ったビデオテープは早速、待ち望んだ金田祖父母と一緒に観賞。台所のビデオデッキにて無事、再生された。

 若かりし頃の氷室伯父が鏡に映った己を描いた1枚、写真と違う圧倒的な存在感。

 

(……伯父さんだ……)

「……一聖っ、……髭を生やすようになった……あの頃ね……」

「せや……さとみが産まれる前やったな……」

 

 本人どころか、絵。絵ですらなく、ブラウン管越しの映像。ただの代償行為に過ぎないが、心は再会の気持ちで満たされていた。

 隠しカメラの映像に所々、スタッフや役者が通り過ぎる。これ以上は別の感情が揺さぶられかねない為、本日は見納めよう。2人も同意見らしく、金田祖母の手で再生を止めた。

 仏壇にビデオテープを供え、家族会議。黒沼先生の提案を相談すれば、有頭先生は今回に関して父・残間(ざんま)に雇わせる手筈となった。

 

「これ以上、(いち)は他の奴に会わんでええ。青ボンは厳ついきぃ、鷲尾とやらも詮索してこんじゃろ。アイツにはワシが話し付けたらあっ」

「……残間に借りを作りたくありません」

「……(いち)、これは貸し借りの問題じゃ……そもそも……、いいえ……何でもないわ。兎に角、この件だけは押し付けてしまいなさいっ。一応……ちゃんと話し合えているか、聞いています」

 

 名案とばかりに金田祖父は廊下にある電話へ走ってしまい、気が重い。つい先日の出来事もあり、(いち)は頼りたくなかったのが本音だ。

 頼ってしまえば、残間は何の躊躇いもなく応じるだろう。そこにあるのは息子への配慮ではなく、義両親たる金田祖父母へ詫びる為だ。

 これが最善と信じる金田祖母が去り際、厳しい口調で諭さす。悶々としつつも承諾するしかなかった。

 ただ邸宅で合宿するだけ、それが面倒臭い状況になりつつある。

 

(もう……桜樹先輩にあやかって、皆で花見に変更ってワケに行かねえかな……。……ん? あの時、先輩が言っていた夜桜郷……どっかで……)

 

 ビデオテープより更に奥へ置いた氷室伯父の日記、最後に書かれたページを開く。夜桜郷の名があった。

 

(……北屋敷 剛三さんから『夜桜亭』を紹介されて……春に連れて行こうとしてくれたんだ……。……改めて見るとこの人、蒲生画伯みたいな名前してやんの。……雑誌でしか知らないけど、素晴らしい絵を描く割に性格は個人的に好きじゃねえしっ)

 

 会った事もない北屋敷(きたやしき) 剛三(ごうぞう)の性格を勝手に蒲生(がもう) 剛三(ごうぞう)画伯と重ね合わせた。

 日記に名前があるにも関わらず、北屋敷なる人物からの連絡は未だなし。通りすがりの人から親切にされ、印象に残っていた。或いは『夜桜亭』にて会う約束を交わした。可能性を考えれば、キリがない。

 合宿にかこつけて、行きたい気持ちが芽生えた。

 

(『夜桜亭』がどんな場所か、知らないけど……ここなら大人数で合宿。……やめとくか……あれもこれも手が回んねえ! 『白蛇村』にも行きたいし……、大人しく……本館の片付けしよう。あ~、黒沼さんに残間の話をしておかないと……お祖父ちゃん、電話終わって……)

「このアホンダラ!!」

 

 金田祖父の怒鳴りと共に会話の内容は丸聞こえ、(いち)は無心で電話が終わるのを待つ。黒沼先生への説明に関し、思考は働いた。

 

 ――幸か不幸か、有頭先生にとって残間と知り合えたのは後々の仕事で助かったと直に知った。

 

 

 旧校舎の会議が行われた日、長野県の尾高山へ赴いた。

 道警と長野県警の尾高山合同捜索がついに開始され、居ても立っても居られない。事前にどんな結果も電話連絡される運びだが、些細な状況も把握したかった。

 

「巴さん、ありがとうございます。助かりましたっ」

「良いって事よ。俺も道すがら、キミとの会話も楽しかったぜっ。これ、俺の名刺っ。本も出してるから、読んで欲しいな♪」

 

 公共機関とヒッチハイクを乗り継ぎ、トレジャーハンター・(ともえ) 荘十郎(そうじゅうろう)の運転にて到着。

 尾高山の麓には案の定、捜索関係者以外にも野次馬が押し寄せる。地元リポーターは勿論、各都道府県の主なTV局員の姿もあった。

 無理もない。旅客機墜落事故の当時、一世を風靡した勇敢なTVスタッフによる天才画家救出劇は虚実虚像。悪質にして残虐なる真実が露見し、尾高山は再び世間の注目の的となったのだ。

 

「キミ、東京でしょ」

 

 金田祖父からお古のジャンパー、ニット帽やスノーゴーグル、マスクを完備。一眼レフカメラ・ニコンFを構え、水筒も肩にかければ、雑誌新聞記者に紛れ込める。実際、似たような恰好のライターやジャーナリストは何人もいた。

 

「キミだよ、キミっ」

「……? 自分ですかっ」

 

 さっきから煩わしいと思えば、(いち)が呼び掛けられたと気付く。肩を叩かれ、振り返ってしまった。

 剃り忘れたような顎髭と人懐っこい笑顔が目に付いても、知らぬ顔。北海道の邸宅を取材しに来た面子にもいなかったと断言しよう。

 

「あっごめん。俺は週刊誌の記者でね、宇治木って言うんだ。変な事を聞くようだけど、もしかして……キミ、取材じゃないだろ? なんか、俺や他の奴と違う感じがしてさ……ここじゃなんだし、ちょっと向こうで話せない?」

「……っ」

 

 取材陣を甘く見ていた。

 顔さえ見せなければ、自分の素性は明かされない。だが、宇治木(うじき) 政宗(まさむね)のようには事実や真実を見抜こうとする記者には通じなかった。

 周囲から離れる提案は親切故か、特ダネ狙いか、今の段階では計り知れない。

 

「――これは失礼、私はこういう者です――」

「え? へえ、ミステリールポライター……」

 

 (いち)がいくつもの貰った名刺から無意識に選んだ白神(しらがみ)、それを堂々と手渡す。不思議そうに宇治木は目を丸くしているが、疑ってはいない様子だ。

 

「だったら、情報交換と行かないか? 実は俺……」

大門 優作だ!! 背氷村の事件に遭遇した俳優の!」

「ボランティアの捜索隊に参加するんだと!!」

 

 宇治木が何かを提案しかけた途中、幾人かの視線が俳優・大門 優作(だいもん ゆうさく)へ注目。変化を待ち望んできたように、流れがそちらへ向かった。

 

「はあ~ただのボランティアなのに……すげえ騒ぎ……って、白神さん!? まだ話が……!」

 

 その隙を突き、(いち)は群れと反対方向へ逃げる。決しては走らず、足元への注意は払って行けば、宇治木の声は遠くなった。

 

「大門さん! 一言!」

「私は当然の事をしに来ただけです。どうか、皆さん騒がないようにっ」

 

 山の捜索に相応しい装備で現れ、カメラ慣れした大門はそれだけ告げた。彼の存在に助けられた等、思わない。

 どれだけ離れても、取材陣の数は減っても途切れない。周囲の音よりも、自分の呼吸音と心拍音が煩くなる。体の限界を感じ、仕方なく足を止めた。

 

(絶対……バイク買おう……、山越えもできるヤツ……)

 

 深呼吸しながら、暑さに負けてマスクとゴーグルを外す。途端、目の前に停車していたバンが勢いよく開いた。

 ビックリして顔を上げれば、相手は宇治木よりも年若く細い男。丸い眼鏡越しでも、彼の驚愕が伝わった。

 

「氷室……?」

「……あ……!?」

 

 (いち)は認めるように声を上げてしまい、焦燥感に視界と脳髄の認識がズレる。この感覚は脱水症状に近く、反射的に水筒へ手を伸ばすが、動揺のあまりに蓋が上手く開けられない。眼鏡の男は助け舟のつもりか、代わりに開けてくれた。

 

「ありがとうございます……」

「いえ……」

 

 取り敢えず、感謝して水分補給。眼鏡の男は感慨深く、それでいてやり切れない表情を見せて来る。報道関係者と思われるが、決して悪い人ではない印象を受けた。

 

「金田君……、こんな所で何をしているんですか?」

「……!? 明智さん……!」

「明智さんっ。……知り合いですか……?」

 

 バンの反対側から、本庁捜査一課・明智(あけち)警視まで現れる。これで眼鏡が2人、などという冗談っぽい思考を必死に振り払った。

 

「彼は響君です。そして、こちらは金田君です」

「どうも……」

「……響 史郎さん、お話は伺っております。先日、ビデオテープの件に関しまして大変、お世話になりました。この場を借りて、お礼申し上げます」

 

 響の厚意でバンへ乗せて貰い、明智警視を通してお互いに自己紹介。(いち)は名字だけで響 史郎だとすぐに判断出来た。

 

「……そっか、テープの所有権を訴えたのは……キミか。……映像、ちゃんと見られた?」

「……ええ、しっかりと……」

 

 ビデオテープが無事、再生された。真正面から、映像を見られた。二重の意味を込めた。

 詳細を知らぬはずの明智警視は会話から、大体の事情を推測。関与すべきでないと判断したらしく、話題に触れて来なかった。

 

「響さんも本日はお仕事でこちらへ?」

「いや、休みを取ったんだよ。捜索が気になったのは僕の個人的な興味でね。仕事にしたくなかった……。まさか、明智さんもいるとは思わなかったけど……」

 

 歯切れの悪い物言い、響なりの弁明にも聞こえた。

 

「私は銭形君に頼み込んで、周辺の警護を任せてもらいました。それで? 金田君はどうして、どうやって、独りで来たんですか? 身の安全を考えなかったんですか? 馬鹿なんですか? お婆様とお爺様は引き留めなかったんですか?」

「祖父母には気の済むようになさいと言われました。ここまで、ヒッチハイクで来たっ

 

 キラキラッと怖い笑顔の明智警視に包み隠さず、(いち)は馬鹿正直に答える。密閉された空間で、滅茶苦茶に説教された。

 命の危機と違う恐怖に襲われたが、涙は堪えた。

 

「銭形君にも、報告しますっ」

「え!? いや、あの……銭形さんは関係ないのでは……」

 

 眼鏡の縁を押し、明智警視は意地悪な笑みになる。言い終える前にバンを降り、行ってしまう。追いかければ、更なる説教が増えるだろう。留まれれば、今度は銭形警部補の説教が待ち受けるのだ。

 後者を選び、大人しく座った。

 

「キミを見た時……氷室が自画像から抜け出て来たと思ったよ。新聞で【葬儀終了掲載】を読んだけど、家族がいたって話は聞かないし……。金田君はやっぱり……氷室の……」

「甥です」

「……え、甥?

「甥ですっ」

 

 躊躇いがちな響の憶測を遮り、大事な事を2回も告げる。途端、彼はキョトンとした。

 

「……あ~、それで名字が……氷室は極端な人嫌いって、本当?」

「ええ、本当です。でも、甥である自分には……優しかったと記憶しています」

 

 勝手に納得し、響は差し障りのない質問に変えて来る。素直に答えれば、個人的な質問はピタリと止む。彼の人の良さが伝わってきた。

 

「捜索は最低でも3日はやるらしいけど……金田君はその間、どうする? 僕は一応、バンで寝泊まりするつもりで準備してきたよ」

「……山を行き来する方に便乗しようと思いました」

 

 準備万端の響に問われ、行き当たりばったりの計画を話す。実際、行きがけは順調だった。無言にして、無反応な態度が彼の呆れを教えた。

 

「一晩、ご一緒出来ませんか? 明日の朝には帰ります」

「……分かった。朝になったら、一番近い駅まで送るよ」

 

 図々しい願いを響は聞き入れ、本当に人が良い。それに免じて、明日は別の登山ルートで都合の良い人を探そうと企んだ。

 コンコンッ。

 何の前触れもなく、フロントガラスが軽く叩かれる。北海道警察・銭形(ぜにがた)警部補が憤怒の形相にて登場、2人は揃って背筋が凍り付いた。

 

 恐怖のお説教時間を終え、心配性の銭形警部補から明日の朝まで居座る許可を頂いた。

 

「……あの刑事さん、キミに対して親切だね」

「はい、そう思います。色々とご助力頂き、感謝しています」

 

 実際、銭形警部補は金田家に対して親身だ。警察は被害者遺族に対し、彼と同じような肩入れの仕方はしない。本当に感謝しているのだ。

 だが、明日の行動は変えない。如何にして銭形警部補を誤魔化すか、必死に策を練る。外の空気を吸ったり、ストレッチしたりと体を動かしたりしたが、良い案は思い付かない。

 

 段々と太陽は沈みゆく。

 街灯と縁のない大自然に夜の帳が下りる中、警察が準備した証明が照らされた。部隊も交代で夜通し行われるだろう。旅客機墜落事故の付近と限られていても、尾高山は人1人、体ひとつを探すには広すぎるのだ。

 

「金田君っ、すぐに東京へ戻りなさいっ! 学校で事件ですっ」

「は? 学校? ……失礼いたしました」

 

 午後7時を過ぎた頃、血相を変えた明智警視がバンを勝手に開け放つ。戸が壊れないか心配したが、それ以上の内容に混乱が起き、無礼な口調で返事してしまった。

 

「本庁から長野県警に連絡がありました。私宛にです。ここは携帯電話も繋がりませんし、事件処理の段階ですので……緊急性も低かったんです」

……尾ノ上君が……死んだ?

 

 渡されたFAX用紙に不動高校で起こった事件のあらましが記されている。ミス研の尾ノ上(おのうえ)は殺害され、的場先生の逮捕まで知った。

 あまりにも身近な人間である同級生の死。しかも、犯人は面識のある教師どころか、脅迫状の容疑者候補だった相手だ。

 

「金田君、お婆様が心配される。私は警備の指揮があるので、代わりに……」

「じゃあ、僕が……」

 

 茫然自失と文章を読み返していれば、明智警視と響が勝手に話を進める。また(・・)氷室伯父に会えなくなってしまう事態こそが学校の事件よりも、(いち)は恐ろしく感じた。

 

「嫌ですっ。帰りません! 伯父さんが見つかるまで、ここに居ます!」

「金田君。聞き分けなさい、キミに出来る事はないっ」

 

 風船が割れたように感情が弾け、明智警視は語調を強くして諫めようとした。しかし、自分の感情を逆撫でされただけだ。

 

「聞き分けてきました! ずっと、会いたかった! 手紙を出したのに、返事をくれなくても! 誰も彼も会わせてくれなくても! 自分に会いに来てくれなくても! 生きていた奴が偽者だったと知っても! やっと……やっと、ここまで来た! これ以上、どうして聞き分けないといけないのですか! すぐ傍にいるのに……もう、離れた場所で待ちたくない……。……今度こそ、一緒に帰りたい……」

「……金田君……、やっぱり……キミも……」

 

 抵抗のままシートを無意識に掴み、声を荒げぬように再会を切望した日々を必死に訴える。

 

 全ての辛抱や我慢はこの日の為だった。

 

 同情し、息を呑んだ響の声も遠い。

 

「見つけます、必ず。骨の一欠けらでも、アナタの元へ返します。どうか、私を……私達を信じて下さい」

 

 照明は届かず、バンの車内ライトだけで明智警視の表情は読み取れない。だからこそ、彼は誠実に頭を下げた。

 色素の薄い髪質、その旋毛が見える程。

 大人の旋毛を眺めるなど、何年振りだろう。そう思った瞬間、記憶が刺激される。

 

 ――氷室伯父に肩車され、落ちないように髪を掴んでしまった幼い日の出来事を。

 

 (いち)は回想に懐かしみ、一瞬の無気力となる。その隙を付き、響はバンを発進させた。

 

「……!? 待って……っ、響さん!」

「やっぱり、すぐ帰った方がいい。どんな結果も……キミには……。いや、違うな……僕が居て欲しくない。……金田君、あの映像を局が手放すのに……僕も骨を折った。だから、じゃないけど……帰ってくれないか? 頼むよ」

 

 エンジン音に我に返ったが、切なげな響は(いち)の懇願を無視する。ビデオテープを恩に売ってでも、尾高山から下山させようと説得を試みている。捜索の結果は残された人の心を痛めるだけ、それを分かっている口ぶりだ。

 心遣いは嬉しいが、感謝はしない。

 捜索現場が遠退いて行く。久方振りの失望に涙さえも出なかった。

 

 3月が終わろうとする深夜、氷室画伯と思わしき白骨化した遺体が損傷の激しい状態で発見され、DNA鑑定待ちとなる。それでも報道陣を騒がせるのに十分であった。

 

「お寺に永代供養を頼みましょう。私達がいずれ、お世話になるお寺へ……」

 

 金田祖母は泣かなかった。

 墓を持たない夫婦は以前より、希望の寺へ任せる算段であった。まさか、息子が先に納まるなど夢にも思わなかっただろう。孫である自分も考えつきすらしなかったのだから、当然だ。

 まだ明智警視の約束は果されない――。




七瀬母「美雪の母です。閲覧ありがとうございます。こっちでも骨の話だったわね。長野のニュースは見るには見たけど、あまり気にしてなかったわ……。美雪が心配だったし……、教師が犯人なんて……学校はちゃんと私達保護者に説明してくれるかしら……。さて、次回は『学園七不思議殺人事件さえなかったら(新年度)』。ああ、美雪も2年生になるのね」

有頭 大介
露西亜館殺人事件、ゲストキャラ。作中にて、とある画家の顧問弁護士

トレジャーハンター・巴 荘十郎
亡霊校舎の殺人、ゲストキャラ

週刊誌の記者・宇治木 政宗
鬼戸・墓獅子伝説殺人事件、ゲストキャラ

音響係の響 史郎、俳優・大門 優作
雪夜叉伝説殺人、ゲストキャラ

北屋敷 剛三、蒲生 剛三
それぞれ吸血桜殺人事件、怪盗紳士の殺人、ゲストキャラ

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