金田少年の生徒会日誌   作:珍明

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前回の続き、猟奇殺人事件は原作では前半30年前、後半50年前とナニコノヒラキ? 作中では40年前にしています。

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C5.吸血桜殺人事件・承

 整理整頓され、清潔な厨房には北屋敷(きたやしき)が1人。メイン料理に使った食器は既に洗い済、追加された注文を丁寧に皿へ盛り付ける。手際の良い動きに見惚れてしまう。葉崎(はざき)が料理を持って行くのを見届け、開いたままの扉をノックした。

 

「すみません、北屋敷さん。お話良いですか? 僕達、高校のミステリー研究会でして……40年前の未解決事件を取材させて下さい」

「……!?」

 

 佐木(さき)のハンディカムは気にせぬが、北屋敷は取材内容に表情を強張らせる。事件を恐れている地元の人間ならではの反応。(いち)は学帽を脱いで、礼儀正しく頭を下げた。

 

「ここは昔の写真が多くあります。事件当時の写真がありましたら、そちらをお貸し頂けるだけでも……」

「あっいえ。私も直接、知っているワケわけでは……どうぞ、こちらへ」

 

 突然の訪問にも関わらず、北屋敷はお茶を入れて持て成す。わざわざ、サナトリウム時代のアルバムまで用意してくれた。

 人が良い。取材を放り出してでも、氷室(ひむろ)伯父の話を聞きたい衝動を堪えた。

 

「この2人は医者ですか?」

「ええ……こちらの鬼方 桜柳が……件の犯人です」

「「「!?」」」

 

 白衣の医師が2人、その写真があるページを見せられる。事の発端は如何にもエリートな眼鏡・鬼方(きがた) 桜柳(おうりゅう)が東京の大病院から、夜桜郷のサナトリウムへの異動だった。

 1950年代後半の当時、2人の医師による交代制でどうにか事足りた。

 患者が1人また1人、何も言わずに消えて行く。その都度、鬼方医師は様々な理由を告げたと言う。やがて、院内でも彼が勤務時期だと気付く者も現れた。

 そして、冬が終わる頃。巡回中の看護婦により、鬼方医師が患者を桜の木の根元へ埋める様子が目撃された。通報により警官が駆け付けたが、彼は院内の何処にも姿はなかった。

 

(……的場先生の『頭文字Mの教師』と似てる……)

「動機は……何ですか?」

 

 佐木がそんな感想を抱いているとは知らず、白峰(しらみね)先輩も北屋敷の話に聞き入る。後は新聞の記事と同じ複数の遺体発見だ。

 

「わかりません。ただ、残された彼の診察日誌には……【今年のちすい桜はきっと血のように紅く咲き誇る事だろう。楽しみでならない】と……。それからしばらくして、春になり……」

 

 ――死体の埋められていた桜の樹が一斉に血を吸ったように紅い花びらを咲かせた

 

 本来、『ちすい桜』は『治水桜』と書く。雨で土が流れてしまう程、緩い地面に土留めとして桜の木をたくさん植えたのが由来だ。だが、事件後は報道もあってか、『血吸い桜』が定着してしまったのだ。

 

「つまり、殺しちまったから埋めたんじゃなく……」

「埋める為に殺した……」

「……こちらの先生はどうなったのですか?」

 

 鬼方医師の動機に気分を悪くした2人をそっちのけで、(いち)はもう1人の医者を指差す。新聞にも彼にする記述はなく、話にも登場しない。蚊帳の外だ。

 

「……さあ、私は知らないですね。事件後も患者は残っていましたし、これ以降に別の医師は写ってませんから、閉鎖まで勤められたと思います」

 

 最後の医者だと言うのに、名前すら伝わっていなかった。

 殺人鬼と同僚の上に扱いが不憫すぎる。否、後処理の件もあり、わざと伏せられた。あるいは報道に配慮される代わりに、口を閉ざしたのだろう。

 

「……鬼方 桜栁は生きていれば、お歳の頃は?」

「恐らく、60代半ばかと……」

 

 的場(まとば) 勇一郎(ゆういちろう)に近い年齢。仮に近くで潜伏中だったとしても、余程の怪力老人でない限りは対応できる自信がある。だが、ここで思い返す。的場は背後から襲撃し、被害者の後頭部を殴打した。

 

「ここにいる間は後ろに気を付けましょう。部屋に入る前も必ず、一度は振り返るようにっ」

「僕、それ。1人暮らしを始める時、大家さんに言われました」

(いち)っ、厨房に来てまで何を話してるの! こちらの方が入りずらそうにしてるじゃないっ」

 

 提案した瞬間、かほる先生に注意される。背後からの声に3人でビビった。厨房の扉を振り返れば、彼女の奥にそっと虎元(とらもと)が立つ。

 

「……いや、急いでない。食事が終わったので、片付けに来てくれんか?」

「わかりました。虎元様、すぐに参ります」

 

 虎元はマスクで表情は読みにくいが、怒ってはない様子。北屋敷が笑顔で応じれば、すっといなくなった。

 

「……虎元さんは物静かな方ですね。ご高齢の方はお喋りが好きだと思っていました」

「確かに……虎元様がお話になるのは先程のようなは時だけですね。ですが、とても礼儀正しい方です。私達に感謝を態度で伝えてくれます」

 

 クスッと笑い、北屋敷は虎元の人間性を良い様に語る。接客業抜きで物凄く良い人。ただ、氷室伯父と瓜二つの顔に見覚えがないらしく、目を合わせても何の反応もない。

 日記の相手とは別人、もしくは歳月により忘れられた。前者はないと信じたく思い、後者ならば仕方ないが、少し寂しい気持ちになった。

 

「多岐川先生は厨房に用事が?」

「……白峰さんだっけ、(いち)に用事よ。夜桜散歩をしないと勿体ないわ。ほら、来なさいな」

「……はい」

 

 腕を掴まれた為、大人しく連れて行かれる。これ以上は我慢できず、個人的な質問をしてしまう。それを防ぐ為でもあった。

 

「そうだっ。2人とも、食堂に戻るのは止めておきなさい。斧田とか言う酔っ払いに絡まれるわよ。三夜沢さんなんて、部屋へ引っ込んだわ」

「だったら、僕も夜桜散歩にお供します。白峰先輩は?」

「……いや、俺は部屋で寝る。学校が終わって、そのまま来たからな。北屋敷さん、お茶ご馳走様でした」

「どういたしましてっ」

 

 答えた白峰先輩は無意識的に右足を擦りながら、行く。スキー部の習慣と違う行動、じわじわと疲労感が症状として出始めていた。

 

「学校から……そのまま? お2人とも私服ですが……」

「僕らは学校から、母の車でバスの停留所に来たんです。車の中で着替えました」

 

 学校の来客用駐車場にあった見慣れぬ車、その正体が判明した。

 

 星空の下、ライトアップされた桜の庭園は脳髄さえも夢見心地にさせる。散歩の客人を歓迎するように、肩へ花びらが舞い落ちた。

 パシャパシャ。

 

「多岐川先生、写真も撮れるんですか?」

「小説の資料に写真も必要ですもの。見て、あの子……一昔前の時代からタイプスリップして来たみたいじゃない? 雰囲気あるわ~。昭和……いえ、大正浪漫ねっ」

 

 勝手に被写体扱いされる。一瞬だけ呆れたが、(いち)の写真がかほる先生の小説に役立てるように祈った。

 

「おや、藍染オーナー。お独りで……」

「あら、本当っ。オーナーも散歩かしらっ」

「……!? 皆さん……夜桜散歩はお楽しみ頂けて、金田さんも桜の下に映える方だわ」

「ありがとうございます。藍染さんも桜に映えます」

 

 ハンディカムを回す最中、佐木は藍染(あいぜん)オーナーを見つける。かほる先生が声をかければ、彼女は自身の驚きを誤魔化した。

 

「フフフ、気さくで優しいのね。……本当、昔の事を思い出すわ」

「……っ」

 

 藍染オーナーの視線は学ランから花びらへ転じる。彼女の脳裏に蘇った思い出とやらは知らないが、弧を描く口元は笑っていた。

 過ぎ去った日を想い、笑う。哀愁に似た表情故、思い出話とやらは聞かずにおいた。

 

「皆様、そろそろ消灯のお時間です。ライトアップも消えますので、ご注意ください」

「もう消しちゃうの? 9時なんて……まだまだ、これからよ」

「かほる先生、ここは郷です。街みたいに夜更かしは出来ませんよ。自分はお風呂入りますっ」

「病院時代の名残でしょう。消灯になるなら、僕は部屋で情報を整理してみます」

 

 開放された食堂の窓から、敷島(しきしま)が告げる。残念に思いつつ、解散。

 浴場は元病院と思えぬ程、快適。心地良い入浴を済ませ、部屋着になる。眠る時間ではないのに、妙に眠気が付き纏う。廊下に出た時、電灯が最低限の明るさまで落とされていたが、足元の誘導灯もあって十分に把握出来た。

 寝る前に絵を見たくなった。

 薄暗い廊下の写真に目もくれず、鉛筆書きの絵だけがハッキリと視界に捉えられた。

 

(……この絵……、ここの桜じゃない……。そっか……、来てないんだから……当然か……。じゃあ、北屋敷さんと会った場所で描いた……!?)

「うお! ……いや、すまない……金田君っ」

 

 考察中に肩を掴まれ、ビックリして相手も確認せずに裏拳をかます。咄嗟に避け、宇治木(うじき)はすぐに謝った。流石は記者、暴力沙汰に慣れた動きだ。

 

「宇治木さん、謝りませんよ。ちゃんと声をかけて下さい。……お酒飲んでいますか?」

「驚かせたのはこっちだしね、良いよっ。斧田さんに勧められて……ちょっとね。やっぱり、匂う? お風呂を頂こうと思ったら、キミを見かけて……。また絵を見ていたけど、好きなんだね。三夜沢さんが画家って知ってたし、この絵も知ってる人が描いたのかな?」

 

 宇治木の鋭い洞察力に胃が竦む。何か喋っただけでも、尾高山で出会った相手とバレそうだ。

 

「こんな時間まで絡まれていたのですか? 斧田さん、食堂でも酔っ払ったと聞きました」

「ああ、そうだよ。葉崎さんに凄く絡むから、部屋で飲み直しましょうって事で……食堂から連れ出したよ。20分? いや30分くらい前に解放されたかな~。一回、着替えに部屋でちと寝入って~」

「……絵東さんや冬部さんの4人で飲まれたのですか?」

「いや、斧田さんと2人だけっ。絵東さんは食堂でも……もうぐでんぐでんになって……冬部さんは一口も飲んでなかったねえ。去年もそんな感じだって、敷島君は言ってたよ。多分、冬部さんは2人を見張ってるんじゃないかなあ。あっ、途中で白峰君とブツかっちゃったんだ。本人、ケガはないって~」

「……っ」

 

 話を逸らそうとすれば、予想外の話を聞く。ほろ酔い加減な宇治木の物言いから、ブツかったのは斧田(おのだ)社長。しかも、白峰先輩に謝罪もなかったと分かった。

 熱が首の後ろを一気に走り抜け、(いち)は目を見開いた。

 

「分かりました。ご報告、感謝します」

「え? ちょっと、金田君!?」

 

 ギョッと引き留める声を無視し、斧田の部屋へ向かう。同じ扉の客室を見渡し、僅かに開いた扉を見つけた。

 そこだと確証はなく、ノックもせずに勢いで扉を押し開いた。

 

 ――開いた窓から紅い花びらが舞い込み、床へ仰向けとなった男の体に散らばっていた。

 

「……斧田さん? そんな所で寝ているから……お腹に花びらがたくさん付いていますよ? 口の周りとか、床にも……」

 

 まるで花びらの毛布に包まれた雰囲気に見入る。斧田の瞼は開いていた。瞬きもせず、開いたままだった。

 

「!? 金田君、見るなっ。救急車ぁ! オーナー、救急車だ!」

 

 焦った宇治木に廊下へ出される。彼は廊下中に響き渡る大声を張り上げ、ベッドのシーツを乱暴に引っ張り、斧田の腹に押し付けた。

 

「斧田さん、聞こえますか! 斧田さん!」

「――お客様の中にお医者様はいらっしゃいませんか! 繰り返します! お客様の中にお医者様はいらっしゃいませんか! ――」

「金田、なんだ?」

 

 宇治木の必死な呼びかけを聞き、(いち)は斧田の状態をようやく理解した。我ながら、滑稽な呼びかけを行う。廊下の騒ぎを聞きつけ、扉が次々と開く。白峰先輩が冬部(ふゆべ)弁護士と一緒に同じ部屋から、顔を見せた。

 

「斧田? ……!?」

「どうしました!」

 

 冬部弁護士は異常事態を察し、すぐに斧田の部屋へ飛び込む。困惑した敷島(しきしま)に問われ、(いち)は緊張のあまりに無言で部屋を指差す。

 

「斧田……っ」

「冬部さん……あ、そうだ。絵東さんを呼んで下さい! 敷島さん、絵東さんを!」

「は、はい!」

 

 冬部弁護士は愕然としながら、宇治木と一緒に斧田へ呼びかける。指示され、敷島はすぐに絵東医師の部屋へ走った。

 

「何事ですか? 救急車を呼ぶ声がしたので、お電話はしました」

「藍染さん、ありがとうございます。斧田さんが倒れています。医師の絵東さんに診てもらいたいのですが、ご覧の通りに反応しません。この近くに診療所はありませんか?」

「……」

 

 駆け付けた藍染オーナーに状況を説明している間、すっと虎元が通り過ぎる。彼は懸命な呼びかけを手で制し、触診する手付きで斧田の目元、首筋と手首の脈拍を診る。そして、冬部弁護士に対し、小さく頭を振った。

 宇治木と冬部弁護士の顔色が見る見る青褪めた。

 

「先輩……これって……」

「一……っ、どうしたの?」

「……金田、こっちに来てろ」

 

 佐木は呻きながらも、ハンディカムを忘れぬ。かほる先生は血の気が引き、震えた手付きでこちらの腕を掴む。慄いた白峰先輩は出来るだけ、(いち)を現場の部屋から離そうとした。

 

「ウルサイわね、何時だと思ってんの……。消灯時間よ……」

「絵東さん……斧田さんが……」

 

 酔っ払い独特の赤らめた頬を隠さず、絵東(えとう)医師はようやく敷島に連れて来られる。部屋の惨状を目にし、酔いは覚めたと一目でわかった。

 

「死、……死んでんの? 斧田……」

 

 絵東医師の絞り出した声を聞き、斧田の死を実感した。

 目の前に死体がある。ほんの数時間前まで生きていた人間。医者の身なればこそ、背筋が凍る恐怖を味わう。

 

「警察を呼んで、藍染オーナーっ。それと食堂の広間を開けて下さる? 他に寝ている人も起こして……少なくとも、呼んでもらった救急車が来るまでは皆、一緒にいた方がいいわ」

「そうですね。敷島さん! 北屋敷さんを起こして、葉崎さんも呼んで頂戴っ。彼女は2階のお風呂を清掃しているはずです。通報は私がしますっ」

「わ、分かりましたっ」

 

 恐怖に怯えた表情と声だが、かほる先生は藍染オーナーと頷き合う。指示を受け、慌てた敷島はまた走らされた。

 

「現場保存しておかないと……。シーツは俺が引っ張ったんだが、ベッドに戻した方が良いかな?」

「いや……、どうか、このまま。アナタが斧田に応急処置を取ろうとした証拠でもある。シーツが吸った血の量も検証に必要だ。絵東、ここは俺と宇治木さんでやっておく。三夜沢さんに声をかけて、食堂に行ってくれ。虎元さんは彼のビデオを借りて、俺達が必要以上に触っていない証拠を撮って欲しい。キミ、ビデオを貸してくれ」

「僕、撮れますよ。前にも現場を撮った事がありますから」

 

 宇治木と冬部弁護士が動揺を堪え、的確に指示していく。佐木の冷静沈着な声が不気味に聞こえた。

 

「……殺人事件なのか?」

「白峰先輩、違います。ご遺体を発見した場合、警察への通報義務があるのです。事件か事故の判断は警察が判断します……あっ、藍染オーナー」

「はい? 金田さん、何か?」

 

 一見、冷静に見えるが白峰先輩は錯乱気味。彼に答えながら、(いち)は不意に閃く。フロントへ行こうとするに藍染オーナーを引き留めた。

 

「警視庁捜査一課の剣持警部、雪峰刑事に来て頂けるか、お願いして貰えませんか? 先日の事件でも、自分達はお世話になりました。不動高校の生徒がいると言えば、きっと来てくれます」

「……ええ、頼んではみるわ」

 

 緊迫した事態に事件捜査員を指名するなど、我が儘にも程がある。それでも、藍染オーナーは事情を汲み取ってくれた。

 

 斧田以外、全員が着の身着のまま食堂に集う。他に誰も欠けていない事実に安堵の息を吐いた。

 

「斧田さんが……お亡くなりに……」

 

 しかし、同じ建物内に死体がある現状は変わらない。叩き起こされた北屋敷、呼ばれた葉崎と三夜沢画伯は藍染オーナーの説明を聞いて愕然とした。

 

「斧田さんが……殺されたって……」

「そ……そうとも限らないんじゃないですか? 例えば自殺とか……」

「あり得ないわ、斧田みたいな男が……。そ、そうよ……凶器が見当たらなかったわ! 窓も開いてたし……強盗の仕業じゃあ……」

「物取りにしては部屋の中どころか……荷物も荒らされてなかった……」

 

 夕食時とは違う衣服の葉崎は顔を伏せ、口元を覆う。敷島が他殺を否定すれば、絵東が自殺を強く否定した。宇治木は窓の向こう外を警戒し、状況だけを語った。

 

「『血吸い桜』だわ。鬼方 桜柳、伝説の殺人鬼が舞い戻って来たのよ。紅い桜に誘われて……」

「「……」」

 

 三夜沢(みやざわ)沢画伯が怯えた表情で告げ、藍染オーナーと虎元は黙り込んでいた。

 

「多岐川さんはどう思いますか? ご意見を賜りたいです」

「……どうって言われても、私……こんな事件に遭遇なんて、初めてで……。佐木さん……意外と冷静ね」

 

 かほる先生はすっかり怯え、(いち)の腕を掴んだまま離さない。物凄く痛いが我慢。痛みが恐怖を誤魔化してくれるのだ。

 彼らの様子を見ながら、確かに凶器そのものが気になる。花びらで傷口が見えず、切り口も判断出来なかった。

 

「すみません、斧田さんの傷口を見て行ってもいいですか?」

「!? ダ、ダメに決まってるでしょう。流行の高校生探偵の真似事!? これは小説じゃないのよ!」

「多岐川さんの言う通り、現場は荒らしちゃ行けない。警察が来るまで、キミも大人しくしていなさい」

 

 確認で問えば、かほる先生に烈火の如く叱られる。冬部弁護士にまで注意を受ける。ある程度のお叱りは覚悟していたが、へこんだ。

 

「絵東先生のお言葉通り、凶器が分かりません。傷口から推測出来ますし、物によっては伝説の殺人鬼は無関係とわかるでしょう。一つでも、不安要素は取り除いた方が良いかと……」

「それは警察が調べるんだろ? ここは学校じゃねえんだ。お前が気を張る必要はねえよ」

 

 白峰先輩の正論にぐうの音も出ない。

 

(……白峰先輩と佐木君が巻き込まれた時点で……気を張るに決まってんじゃん……)

 

 しかも、斧田は不動高校とは縁のない会社の社長。執行部にいるノリで、遺体の傷口を調べようなど常軌を逸している。どうやら、(いち)の危機感も狂っていた。

 せめて警察が到着するまで、言動も控えようと決めた。

 

「金田先輩。凶器はこの際、置いて来ましょう。仮に鬼方が戻って来たとしても、なんで斧田さんを狙ったんでしょう? 酔っぱらっていたからとか?」

「……その可能性はありますね。元々、医者の立場を利用して寝たきりの患者を狙っていた方です。窓を開けたまま、ベッドで寝ていたところ……斧田さんは物音に気付いて……逃げようと?」

 

 だと言うのに、佐木だけが現状把握に努める。致し方なく、自分なりの解釈はしてみるものの腑に落ちない。鬼方医師が生存ならば、ご高齢。酔っぱらいでも、如何にも体力が有り余った斧田を狙うのは不自然だ。

 

「北屋敷さん、すみません。鬼方医師の犠牲者に共通点はありますか?」

「……患者だったと言う以外は特に聞いてないですね……」

 

 青褪めた北屋敷に答えてもらっても、益々謎は深まる。せめて男女、あるいは年齢の若さなどが知りたかった。古来より、吸血される側は若い美女と相場は決まっている。鬼方医師の診察日誌から、『血吸い桜』もその類に違いないだろう。

 

(美女……)

 

 壁に飾られた数々の写真、その一つに写る若き藍染オーナーは格好の標的と言える。勿論、葉崎と三夜沢画伯、そして、かほる先生も年相応に魅力的だ。そんな彼女らを差し置いて、斧田を優先した理由が思い付かない。

 

(……あれ? なんで……斧田さんは殺された前提(・・・・・・)で話が進んでんの?)

 

 警察も到着せず、事件の判断もされず、凶器も不明。死因は夥しい血の量から見ても、出血死。

 

「金田先輩、起きていても大丈夫なんですか? 時間っ」

「佐木君、時間って? 今は……もう夜11時過ぎていますね」

 

 浮かんだ疑問を脳内で整頓中、佐木に心配される。壁に掛かった時計を見た瞬間、(いち)の意識が飛んだ。

 徹夜だったのも体に響いただろう。

 

「うわあっ、金田君!?」

「……嘘だろ……、今寝るのか……金田……」

(いち)っ、起きなさい! (いち)!」

 

 唐突に人が倒れ込めば、場は騒然となる。宇治木が大慌てなり、白峰先輩は驚きよりも呆れる。焦ったかほる先生がどんなに肩を揺さぶっても、起きない。時間まで決して、起きられないのだ。

 

「お馬鹿~!!」

「すみません、多岐川さん。流石の金田先輩も……こんな時は起きているつもりかと……」

 

 反省した佐木が散々、かほる先生に怒鳴られたと後で聞いた。

 




七瀬「閲覧ありがとうございます。はじめちゃん、事件です! 敷島さんもカッコイイし、北屋敷さんなんて、剣持警部と同じ歳と思えない程に若々しい♪ 自然が澄んだ場所は健康的に良いし……紅い桜の効果かしら? さて、次回は『吸血桜伝説殺人・転』!! 佐木君……ブレないなあ」
 
鬼方 桜柳
桜が大好きな伝説の殺人鬼。
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