金田少年の生徒会日誌 作:珍明
C8の間、彼が行なった動きです。
演劇部に所属している身だが、形だけの幽霊部員。新任の国語担当・
帰宅部と同等の立場、はじめが抜けても何の支障もない。午前の授業は居眠りで乗り切り、欠伸をひとつした。
「はじめちゃん、帰らないで! 一緒に演劇部へ来て!!」
「げっ、美雪。お、俺は別に……ちょっとトイレに行こうとしただけで……っ」
「帰る準備万端のくせに~。金田一って、七瀬さんと同じ演劇部だっけ?」
鞄を手にした途端、幼馴染の
「ただの幽霊部員っつの。俺が行ってどうすんだよ、な~んも出来ねえぜ」
「来てくれるだけで良いからっ。後、喋らないでっ。動かないでっ。何もしないでっ」
必死に廊下を歩きながら、美雪は理不尽な要求をして来る。意味不明過ぎて、はじめをげんなりさせた。
「本物の幽霊扱いか!! 美雪ぃ~、理由くらい言えよっ」
「
美雪と同じ生徒会執行部・
はじめは身代わりどころか、妥協と言う雑な扱い。実は美雪に頼られ、ほんの少しだけ胸が弾む。それが今ではただの虚しさに早変わり、純粋な男心を返して欲しかった。
純粋と言えば、アイドル歌手の
「
「……!?」
「ぎゃあ! なんだ……佐木か……。驚かすなって……美雪が言った通り、
気配なく近寄り、
「おめえは何してんだ?」
「演劇部の部室に行く途中です。金田先輩が教室にいなかったので、てっきり……そちらかと思いまして」
「もしかして……佐木君、
美雪はジト目で佐木を牽制、どいつもこいつも
「金田一君、ミス研はいつでもアナタを歓迎するわ。寧ろ……今すぐに」
「……桜樹先輩っ、……部活紹介の準備っスか?」
ミス研会長・
「桜樹先輩っ、……寝てないんですか? 部活紹介、気合入ってますね」
「当然よ。佐木君ったら、週末の旅行で事件に遭遇して……犯人逮捕まで見届けたのっ。実に羨まし……もとい、先輩として負けていられないわ」
「え? 佐木……お前、事件に遭遇って……大丈夫かよ」
「はいっ。
佐木はさらりと流したが、
「それはそうと
「はいっ、お家の用事と聞いてます」
桜樹先輩が何気なく問い、美雪の答えに納得した。
警察が尾高山を捜索し、発見された白骨遺体はDNA鑑定の結果・
今、ここにいる面子で彼の事情を知るは2人、はじめと桜樹先輩だけだ。彼女もすぐに理解し、お互いの視線が絡んだ。
「佐木君、私達も部室へ行きましょう。演劇部に負けてられないわっ。アナタだけが頼りよっ」
「!? はいっ、部活紹介もお任せ下さい」
「佐木君も部活紹介に出るの? すご~い、大役じゃないっ」
桜樹先輩が新入生を頼りにし、美雪は感心した。
はじめはミス研の部員を思い返す。会長と同じ3年生
さて、はじめは部活紹介が始まる前に逃げ出す。美雪の望み通り、月島先生と顔合わせは済ませた。
十分だ。
自宅と反対方向の電車に乗り、
通り過ぎる乗用車を逆恨みの気持ちで一瞥した途端、急停止される。ブレーキ音にビビり、素知らぬ顔でそっと避けた。
「金田一君っ、久しぶりだね」
「……あっ、アンタ……銭形警部! 北海道の刑事さんが……なんで……」
北海道警察・
車からひょっこりと顔を出し、以前のようにキザな態度で挨拶する。本人曰く、彼の有名な御用聞き・
「警部補っ。警部はフィクションの人だよ。ちょっと用事でね、ある人の家にご挨拶へ行くんだ。キミはこの辺で暮らしてたっけ? 不動山市って聞いた気がするけど……」
「あ~そうだった、あはは……警部補。俺は同級生の家へ行く途中なんスよ……。……? あっ、銭形のオッサンはもしか……」
「……オッサン呼びはやめようか。僕、27歳だしっ。フィクションの人と被るしさ。次にそう呼んだら、大人げなく怒ろうかな?」
「すいません……、銭形刑事は
目だけ動かし、周囲を確認。そっと銭形刑事へ耳打ちする。ギョッとした表情が正解を教えてくれる。ついでに車へ乗せてもらい、楽々と
お留守だった。
「「電話して来なかったの?」」
お互いに語尾は違えど、冗談半分に責め合う。車に乗り込んで待つ羽目になった。
「……ん? あっ! 金田一君と
「ああ、そっスよ。俺も事件の後に知ったんスけどね」
「……そうか。キミが金田君の傍にいてくれるなら、安心だ。不動高校の事件もキミが解決したって? 明智警視に聞いたよ。事件が遭った日、僕は尾高山にいたんだ。……
「……っ、
はじめ達が旧校舎の事件に遭遇している最中、
「けど、事件の報せが来てね。東京に帰されちゃったんだ。
「……っ」
真剣な眼差しで銭形刑事は状況を説明し、はじめはゾッとする。
写真しか見てないが、
無理やり帰された
「彼、学校で元気かい? 僕は尾高山以降、会ってなくてね。遺体の引き取りも、明智警視が付き添ったし……聞いてる?」
「聞いてますっ。
同じ学校にいながら、会った事ない。意図せず、本当に行き違うのだ。
「
「あはは……学校ではなりを潜めていると言うか……」
あまり詮索されたくない学校生活。気まずい雰囲気の中、天は客人である我々を見捨てなかった。
「あら、金田一くん……? それに銭形さんまで……すぐにお茶をご用意します」
「お久しぶりです、
「どうも、銭形さん。ご無沙汰しております。どうぞ、中へ。んで、アンタ誰さんや? 孫の学校と同じ制服やけど……」
ホンの数分後、夫妻が車で帰宅。
「
「は? 銭形さん、冗談がお好きでっ。こないなウスラトンカチが名探偵のお孫さんとか、ヘソで茶~沸かすわ!」
「……ぐっ……ウスラトンカチ……っ」
銭形刑事に紹介されたが、
「あなたっ、淹れたてのお茶……頭から味わってみる?」
「いやあ、金田一くん♪ 利口な顔されますなあ。数々の難事件を解決しはったんやて~? おたくの生徒会長さんに聞きましたわ~」
(態度変えすぎだろ……。どんだけ、婆さんが怖いんだ……この人)
夫妻の力関係がよく分かった。
はじめが呆れている間、銭形刑事はすっと位牌へ手を合わせる。それを目の端で捉え、すぐに倣った。
「わざわざ、一聖の為にお越し頂き……ありがとうございます。先程、納骨も済ませました。皆様のお陰で、私共も一区切り付いた心地です」
「ああ、やっぱり……納骨に行っていたンすね。
「寄る所ある言うて、どっか行きましたわ~。
「……そうですか、
銭形刑事も目礼にて、茶を啜る。尾高山の件もあり、妙に
電話が鳴った。
途端、
「氷垣さんやったわ。黒沼さんから連絡行って、納骨の話を聞いたとっ」
「……まあ、わざわざ……」
電話の相手を知り、
「失礼ですが、氷垣さんや黒沼さんと言う方は?」
「氷垣さんは登山家で昔、一聖とも登山された方です。黒沼さんは氷垣さんの顧問弁護士でいらっしゃいます。お2人とも、
「
銭形刑事は一瞬、仕事の顔になる。夫妻の和気藹々とした会話ですぐに解けたが、彼は何かを探っている様子だ。
「銭形刑事、何か聞きたい事があるんですか? それとも伝えたい情報とか……」
「……金田一君に関係ないよ。もう背氷村の事件は解決したんだ。キミに渡す情報はないっ」
警察が事件現場から、野次馬を遠ざける。銭形刑事はそんな目だ。
「かまへん、かまへん。金田一くんに何、聞かれても。ワシら、この前学校へ行って来てん。誰もワシらが一聖の親や知らんかったわ。金田一くんが誰にも話してへん証拠や。口の堅さは信じとる!」
「……あなたっ、他所の家庭事情に金田一くんを巻き込んでどうしますか? ごめんなさいね、金田一くん」
「……俺が邪魔なら、帰ります。今日来たのは氷室さんに……手を合わせに来ただけで……」
銭形刑事の思惑は知りたくない。彼らに関わる事なら、尚更だ。訪問の理由は氷室画伯へ手を合わせたかった。本当にそれだけなのだ。
「金田一くん……何とお優しい。銭形さん、どうぞ……お話し下さいっ」
「……分かりました。つい、先日に綾辻さんからお手紙を頂きました。氷室 一聖のご遺体が発見された際、勝手ながら手紙でご報告した為です。そのお返事がこちら……」
はじめを一瞥し、銭形刑事は座布団を座り直す。卓袱台に手紙が置かれ、空気を一変させた。
狼狽した夫と違い、妻は表情の変化を見せない。はじめも緊張し、口に入れたお茶請けを噛むのも忘れた。
「拝見致します。……っ、そうですか……これを聞きにいらしたんですね」
「はいっ」
「……??」
「おい……婆さん。知ったような顔せんと何書かとんのか、教えてぇや」
「……金田一くんに説明するとね。事件の直ぐ後、娘婿が綾辻さんと面会したのよ。その時、娘婿が余計な事をお聞きになったらしくて……お嬢さんに迷惑を」
「どれど~れ……、あ~あ~。これかあ……、アホンダラが……」
今度は夫婦で理解し合う。はじめは変わらず、置いてきぼりだ。
『娘婿』は十中八九、
「迷惑だなんて、お手紙にもありますように……綾辻さんも娘さんの身をただ、案じているだけです。
「……っ、さあ……いくつになっても自由奔放な娘ですからっ。実の兄がこんな事になっても、電話ひとつ寄こさなくて!」
凍り付いた表情になり、
話の内容から、ぞわっと背筋が粟立つ。
「エライ、すんません。お客様の前で……、堪忍してや」
「いえ、ご家庭の事情に踏み入り……申し訳ないと思います。納骨の直後にする話ではありませんでした」
「……お爺ちゃんの娘さん、どっか行ってるんスか?」
必死に頭を下げ、
「……お恥ずかしい限りですぅ。娘のにいみは……去年の2月から行方不明になっとりまして……捜索願はぁ出しとるんです。事件性はないから、一般家出人扱いされて……警察も捜してはくれんのですよ。その辺の事情は神奈川県警にでも、聞いて下さい」
「……それと綾辻さんがどう繋がるって?」
「キミには後で話すよ。
頭を下げたまま、
今更ながら、聞くんじゃなかったと後悔した。
「アイツが綾辻さんと面会したんは知っとる。お嬢さんはワシらに会いとうないし、裁判の傍聴席にも来んといてくれぇ。そう言う取ったしか、聞いてません。まさか、アイツがにいみを知ってるかなんて、阿呆な質問しくさったとは思いも寄りませんわ。そのクセ、自分の娘ばっかり可愛がって、息子はほったらかし。にいみがおらんなった時も……
「へえ~、親子で神奈川にっ。アルバムにあった写真、神奈川の中学で撮った奴?」
「そうそう! 横浜にね、住んどりましたよ。その町の中学校に通っとりました。エライ楽しゅう過ごしとったわ。……もしかしたら、横浜におるん時が一番……
「東京の暮らしも楽しそうっスよ。美雪……俺らの生徒会長なんスけど、
急に
「金田一君の言う通り、
銭形刑事は本心から、告げる。はじめの言葉を集約してくれた。
見送りへ現れたのは
「
「繋がりなんてないよ。彼女は
「……共謀とか絶対、ねえっス。綾辻さんはあの事故から、ずっと……独りでやろうとしたんだ」
「僕もそう思う。だから……僕の心配に綾辻さんは関係ないよ」
銭形刑事の優しい物言いから、綾辻の手紙に例のやり取りを書いたのはただの親切心だろう。そこまで彼女が他人を思いやれるまでになってくれて良かった。
「だったら、銭形刑事の心配ってなんスか?」
「
「僕は
「……大げさっスよ」
背氷村の事件は解決したが、銭形刑事にとってまだ終わらない。それどころか、新たな事件の火種を摘まんとするは、警察の鑑とも言えるだろう。悪い言い方をすれば、ただのお節介だ。
だから、同意しなかった。だって、はじめは警察じゃない。ジッチャンの孫なだけの高校生だ。
(
――この時は。
バスの運転手「ご乗車ありが……間違えたっ、閲覧ありがとうございます! 『夜桜亭』でまた事件だって? 殺人鬼が舞い戻ったんじゃないかって、ビクビクだったけど……あの高校生達の会話を聞く限り、どうも違うらしい。さて、次回は『魔術列車殺人事件の前触れ』!! 同じ運転手として、胸騒ぎのするタイトルだなあ」
金田 にいみ
穴埋めオリキャラ。オリ主の母親、氷室の妹。
北海道警察・銭形 ケンタロウ警部補
ドラマ版蠟人形城殺人事件、ゲストキャラ。劇中では私立探偵、作中では道警の刑事。
貴船 葉平
吸血鬼伝説殺人事件、ゲストキャラ。