金田少年の生徒会日誌   作:珍明

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金田一不足に陥って、書いたオマケ。
C8の間、彼が行なった動きです。


C9.吸血桜殺人事件に吹雪を見る‐はじめ

 金田一(きんだいち) (はじめ)は部活紹介をサボろうと思った。

 演劇部に所属している身だが、形だけの幽霊部員。新任の国語担当・月島(つきしま) 亮二(りょうじ)が副顧問に着任しそうだが、一回も顔を合せていない状態だ。

 帰宅部と同等の立場、はじめが抜けても何の支障もない。午前の授業は居眠りで乗り切り、欠伸をひとつした。

 

「はじめちゃん、帰らないで! 一緒に演劇部へ来て!!」

「げっ、美雪。お、俺は別に……ちょっとトイレに行こうとしただけで……っ」

「帰る準備万端のくせに~。金田一って、七瀬さんと同じ演劇部だっけ?」

 

 鞄を手にした途端、幼馴染の七瀬(ななせ) 美雪(みゆき)が切羽詰まった表情で引き留める。貴船(きふね) 葉平(ようへい)を含めた数人からクスクスッと笑い声がした。

 

「ただの幽霊部員っつの。俺が行ってどうすんだよ、な~んも出来ねえぜ」

「来てくれるだけで良いからっ。後、喋らないでっ。動かないでっ。何もしないでっ

 

 必死に廊下を歩きながら、美雪は理不尽な要求をして来る。意味不明過ぎて、はじめをげんなりさせた。

 

「本物の幽霊扱いか!! 美雪ぃ~、理由くらい言えよっ」

金田(かねだ)君も連れて行くって……、月島先生と約束したの。あたし、彼が午後は帰るって知らなくて……。はじめちゃん、まだ月島先生と会ってないでしょう? 妥協してくれるかなって」

 

 美雪と同じ生徒会執行部・金田(かねだ) (いち)、彼もまた演劇部の幽霊部員。

 はじめは身代わりどころか、妥協と言う雑な扱い。実は美雪に頼られ、ほんの少しだけ胸が弾む。それが今ではただの虚しさに早変わり、純粋な男心を返して欲しかった。

 純粋と言えば、アイドル歌手の速水(はやみ) 玲香(れいか)。昨日は彼女と過ごした遊園地のひと時を思い返し、口元が緩んだ。

 

金田(かねだ)先輩、いないんですか?」

「……!?」

ぎゃあ! なんだ……佐木か……。驚かすなって……美雪が言った通り、金田(かねだ)は帰った? んだよ」

 

 気配なく近寄り、佐木(さき) 竜太(りゅうた)は現れる。常にハンディカムを持ち歩き、教職員も注意さえしない。春休み中にミステリー研究会の旧校舎調査へ何故か加わり、事件に遭遇。入学早々にミス研へ入部し、新入生の中でも特化して変な奴だ。

 

「おめえは何してんだ?」

「演劇部の部室に行く途中です。金田先輩が教室にいなかったので、てっきり……そちらかと思いまして」

「もしかして……佐木君、金田(かねだ)君をミス研に誘う気……? 残念、文化部の掛け持ちは校則で禁止よっ」

 

 美雪はジト目で佐木を牽制、どいつもこいつも金田(かねだ)目当てだ。

 

「金田一君、ミス研はいつでもアナタを歓迎するわ。寧ろ……今すぐに」

「……桜樹先輩っ、……部活紹介の準備っスか?」

 

 ミス研会長・桜樹(さくらぎ) るい子先輩は目の下に隈を見せ、すっと現れる。麗しい先輩に珍しい表情はビビったが、堪えた。

 

「桜樹先輩っ、……寝てないんですか? 部活紹介、気合入ってますね」

「当然よ。佐木君ったら、週末の旅行で事件に遭遇して……犯人逮捕まで見届けたのっ。実に羨まし……もとい、先輩として負けていられないわ」

「え? 佐木……お前、事件に遭遇って……大丈夫かよ」

「はいっ。金田(かねだ)先輩がちょっとケガしましたが、僕らは大丈夫です。金田一先輩と違って、推理ショーがなかったので……犯人の方に悪いですが、物足りなかったです

 

 佐木はさらりと流したが、金田(かねだ)がケガした時点で大問題な気がする。しかも、事件に直接遭遇しながら、客観的過ぎる物言いが他人事であった。

 

「それはそうと金田(かねだ)君はいないの?」

「はいっ、お家の用事と聞いてます」

 

 桜樹先輩が何気なく問い、美雪の答えに納得した。

 警察が尾高山を捜索し、発見された白骨遺体はDNA鑑定の結果・氷室(ひむろ) 一聖(いっせい)と断定。週末の新聞にて、一面記事を飾った。

 金田(かねだ)は氷室画伯の甥、遺体の引き取り手も彼だろう。家の用事とはソレに関する事だ。

 今、ここにいる面子で彼の事情を知るは2人、はじめと桜樹先輩だけだ。彼女もすぐに理解し、お互いの視線が絡んだ。

 

「佐木君、私達も部室へ行きましょう。演劇部に負けてられないわっ。アナタだけが頼りよっ」

「!? はいっ、部活紹介もお任せ下さい」

「佐木君も部活紹介に出るの? すご~い、大役じゃないっ」

 

 桜樹先輩が新入生を頼りにし、美雪は感心した。

 はじめはミス研の部員を思い返す。会長と同じ3年生真壁(まかべ) (まこと)……先輩と鷹島(たかしま) 友代(ともよ)先輩がいる。正直、ちょっと当てにならない。不気味な奴だが、ヤル気に満ちた佐木の方が信用できると断言しよう。

 

 さて、はじめは部活紹介が始まる前に逃げ出す。美雪の望み通り、月島先生と顔合わせは済ませた。

 十分だ。

 

 自宅と反対方向の電車に乗り、金田(かねだ)家へ向かう。地味な坂道を登りながら、何故に今日の通学を自転車にしなかったか後悔した。

 通り過ぎる乗用車を逆恨みの気持ちで一瞥した途端、急停止される。ブレーキ音にビビり、素知らぬ顔でそっと避けた。

 

「金田一君っ、久しぶりだね」

「……あっ、アンタ……銭形警部! 北海道の刑事さんが……なんで……」

 

 北海道警察・銭形(ぜにがた) ケンタロウ、背氷村の事件後を引き継いだ地元刑事。

 車からひょっこりと顔を出し、以前のようにキザな態度で挨拶する。本人曰く、彼の有名な御用聞き・銭形(ぜにがた) 平次(へいじ)の六代目になるそうだ。

 

「警部補っ。警部はフィクションの人だよ。ちょっと用事でね、ある人の家にご挨拶へ行くんだ。キミはこの辺で暮らしてたっけ? 不動山市って聞いた気がするけど……」

「あ~そうだった、あはは……警部補。俺は同級生の家へ行く途中なんスよ……。……? あっ、銭形のオッサンはもしか……」

「……オッサン呼びはやめようか。僕、27歳だしっ。フィクションの人と被るしさ。次にそう呼んだら、大人げなく怒ろうかな?」 

「すいません……、銭形刑事は金田(かねだ)の家に行くんスか?」

 

 目だけ動かし、周囲を確認。そっと銭形刑事へ耳打ちする。ギョッとした表情が正解を教えてくれる。ついでに車へ乗せてもらい、楽々と金田(かねだ)家へ到着した。

 お留守だった。

 

「「電話して来なかったの?」」

 

 お互いに語尾は違えど、冗談半分に責め合う。車に乗り込んで待つ羽目になった。

 

「……ん? あっ! 金田一君と金田(かねだ)君……不動高校か!?」

「ああ、そっスよ。俺も事件の後に知ったんスけどね」

「……そうか。キミが金田君の傍にいてくれるなら、安心だ。不動高校の事件もキミが解決したって? 明智警視に聞いたよ。事件が遭った日、僕は尾高山にいたんだ。……金田(かねだ)君もね」

「……っ、金田(かねだ)が尾高山に!?」

 

 はじめ達が旧校舎の事件に遭遇している最中、金田(かねだ)は尾高山の遺体捜索に駆け付けていた。

 

「けど、事件の報せが来てね。東京に帰されちゃったんだ。金田(かねだ)君はかなり、抵抗したそうだ。ほらっ、番組スタッフだった音響係の響君。彼が自宅まで送ってくれたとかっ」

「……っ」

 

 真剣な眼差しで銭形刑事は状況を説明し、はじめはゾッとする。

 写真しか見てないが、金田(かねだ)は氷室画伯の形見の品である学ランを着込んでいた。毅然とした態度で写る姿に、伯父への強い思い入れを感じた。

 無理やり帰された金田(かねだ)の気持ちを汲み、胸がジクッと痛む。

 

「彼、学校で元気かい? 僕は尾高山以降、会ってなくてね。遺体の引き取りも、明智警視が付き添ったし……聞いてる?」

「聞いてますっ。金田(かねだ)は……元気っスよ。生徒会執行部で……滅茶苦茶、活躍してるとか……」

 

 同じ学校にいながら、会った事ない。意図せず、本当に行き違うのだ。

 

金田(かねだ)君は生徒会か、キミも活躍しているんだろうね。そのIQを使ってっ」

「あはは……学校ではなりを潜めていると言うか……」

 

 あまり詮索されたくない学校生活。気まずい雰囲気の中、天は客人である我々を見捨てなかった。

 

「あら、金田一くん……? それに銭形さんまで……すぐにお茶をご用意します」

「お久しぶりです、金田(かねだ)さん。すみません、突然っ」

「どうも、銭形さん。ご無沙汰しております。どうぞ、中へ。んで、アンタ誰さんや? 孫の学校と同じ制服やけど……」

 

 ホンの数分後、夫妻が車で帰宅。金田(かねだ)婆さんは急な客人に歓迎の態度にて、さっさと持成しの準備に取り掛かる。玄関先に残った金田(かねだ)爺さんは銭形刑事に挨拶したかと思えば、はじめを不審そうな目付きで探った。

 金田(かねだ)爺さんと初対面とは言え、高校生相手に露骨な敵意。それでも、居間へ通してくれるのは銭形刑事が一緒にいる故だろう。

 

金田(かねだ)さん、彼が件の金田一君ですっ」

「は? 銭形さん、冗談がお好きでっ。こないなウスラトンカチが名探偵のお孫さんとか、ヘソで茶~沸かすわ!」

……ぐっ……ウスラトンカチ……っ

 

 銭形刑事に紹介されたが、金田(かねだ)爺さんの馬鹿笑い。関西弁はより、馬鹿にされている感が強くて胸にグサッと来た。

 

「あなたっ、淹れたてのお茶……頭から味わってみる?」

「いやあ、金田一くん♪ 利口な顔されますなあ。数々の難事件を解決しはったんやて~? おたくの生徒会長さんに聞きましたわ~」

(態度変えすぎだろ……。どんだけ、婆さんが怖いんだ……この人)

 

 夫妻の力関係がよく分かった。

 はじめが呆れている間、銭形刑事はすっと位牌へ手を合わせる。それを目の端で捉え、すぐに倣った。

 

「わざわざ、一聖の為にお越し頂き……ありがとうございます。先程、納骨も済ませました。皆様のお陰で、私共も一区切り付いた心地です」

「ああ、やっぱり……納骨に行っていたンすね。金田(かねだ)……(いち)君は?」

「寄る所ある言うて、どっか行きましたわ~。(いち)は自分の原付バイク、持ってますんで。休みの日ぃなんかはソレ乗ってウロチョロしますよって」

「……そうですか、(いち)君にも会いたかったですね」

 

 金田(かねだ)婆さんがお茶請けを出し、はじめは遠慮なく口に入れる。伏して礼を述べられ、金田(かねだ)の所在を問う。靴がない時点で彼は不在と分かっていた。

 金田(かねだ)爺さんは陽気にバイクを運転する素振りを見せる。はじめも自分のバイクが欲しい身、同級生が自前の原付バイク持ちとは羨ましい。

 銭形刑事も目礼にて、茶を啜る。尾高山の件もあり、妙に金田(かねだ)を気にかけていた。

 電話が鳴った。

 途端、金田(かねだ)婆さんが廊下へダッシュ。応対中、金田(かねだ)婆さんは緊迫した様子。この異様な雰囲気に銭形刑事が目線にて、沈黙を促した。

 

「氷垣さんやったわ。黒沼さんから連絡行って、納骨の話を聞いたとっ」

「……まあ、わざわざ……」

 

 電話の相手を知り、金田(かねだ)婆さんはほっこりとした笑顔になる。銭形刑事の緊張も解け、はじめも安心してお茶請けを更に齧った。

 

「失礼ですが、氷垣さんや黒沼さんと言う方は?」

「氷垣さんは登山家で昔、一聖とも登山された方です。黒沼さんは氷垣さんの顧問弁護士でいらっしゃいます。お2人とも、(いち)に良くして下さって……感謝しております」

(いち)の奴、黒沼さんの事務所にでも行ったんやないかな? 納骨の話もそこからや」

 

 銭形刑事は一瞬、仕事の顔になる。夫妻の和気藹々とした会話ですぐに解けたが、彼は何かを探っている様子だ。

 

「銭形刑事、何か聞きたい事があるんですか? それとも伝えたい情報とか……」

「……金田一君に関係ないよ。もう背氷村の事件は解決したんだ。キミに渡す情報はないっ」

 

 警察が事件現場から、野次馬を遠ざける。銭形刑事はそんな目だ。

 

「かまへん、かまへん。金田一くんに何、聞かれても。ワシら、この前学校へ行って来てん。誰もワシらが一聖の親や知らんかったわ。金田一くんが誰にも話してへん証拠や。口の堅さは信じとる!」

「……あなたっ、他所の家庭事情に金田一くんを巻き込んでどうしますか? ごめんなさいね、金田一くん」

「……俺が邪魔なら、帰ります。今日来たのは氷室さんに……手を合わせに来ただけで……」

 

 銭形刑事の思惑は知りたくない。彼らに関わる事なら、尚更だ。訪問の理由は氷室画伯へ手を合わせたかった。本当にそれだけなのだ。

 

「金田一くん……何とお優しい。銭形さん、どうぞ……お話し下さいっ」

 

 金田(かねだ)婆さんに物凄く感激され、胸が苦しい。はじめは深刻な話から逃げるタイミングを失ってしまった。

 

「……分かりました。つい、先日に綾辻さんからお手紙を頂きました。氷室 一聖のご遺体が発見された際、勝手ながら手紙でご報告した為です。そのお返事がこちら……」

 

 はじめを一瞥し、銭形刑事は座布団を座り直す。卓袱台に手紙が置かれ、空気を一変させた。

 狼狽した夫と違い、妻は表情の変化を見せない。はじめも緊張し、口に入れたお茶請けを噛むのも忘れた。

 

「拝見致します。……っ、そうですか……これを聞きにいらしたんですね」

「はいっ」

「……??」

「おい……婆さん。知ったような顔せんと何書かとんのか、教えてぇや」

 

 金田(かねだ)婆さんはゆっくりと手紙を読み終え、銭形刑事へ問う。全く話に着いて行けず、はじめと金田(かねだ)爺さんは置いてきぼりだ。

 

「……金田一くんに説明するとね。事件の直ぐ後、娘婿が綾辻さんと面会したのよ。その時、娘婿が余計な事をお聞きになったらしくて……お嬢さんに迷惑を」

「どれど~れ……、あ~あ~。これかあ……、アホンダラが……」

 

 今度は夫婦で理解し合う。はじめは変わらず、置いてきぼりだ。

 『娘婿』は十中八九、金田(かねだ)の実父。まさか、綾辻(あやつじ) 真里奈(まりな)に面会していたとは驚きだ。それを銭形刑事から手紙を貰っていたにせよ、今になって教えた意味は何だろう。

 

「迷惑だなんて、お手紙にもありますように……綾辻さんも娘さんの身をただ、案じているだけです。(いち)君のお母さん……金田(かねだ) にいみさんは今、どちらへいらっしゃるんですか?」

「……っ、さあ……いくつになっても自由奔放な娘ですからっ。実の兄がこんな事になっても、電話ひとつ寄こさなくて!

 

 凍り付いた表情になり、金田(かねだ)婆さんは手紙を銭形刑事へ押し返す。機敏な動きで居間から、去った。

 話の内容から、ぞわっと背筋が粟立つ。

 

「エライ、すんません。お客様の前で……、堪忍してや」

「いえ、ご家庭の事情に踏み入り……申し訳ないと思います。納骨の直後にする話ではありませんでした」

「……お爺ちゃんの娘さん、どっか行ってるんスか?」

 

 必死に頭を下げ、金田(かねだ)爺さんは詫びる。それに倣うように銭形刑事も伏す。情報から状況を把握し、はじめは思わず、口を挟んだ。

 

「……お恥ずかしい限りですぅ。娘のにいみは……去年の2月から行方不明になっとりまして……捜索願はぁ出しとるんです。事件性はないから、一般家出人扱いされて……警察も捜してはくれんのですよ。その辺の事情は神奈川県警にでも、聞いて下さい」

「……それと綾辻さんがどう繋がるって?」

「キミには後で話すよ。金田(かねだ)さんっ。娘婿である(いち)君のお父さんが綾辻さんにその質問をした事さえ、知らなかった……そう、おっしゃるんですね」

 

 頭を下げたまま、金田(かねだ)爺さんは辛そうな口調である。はじめの質問をそっと横に置かれ、銭形刑事は念押しする。完全に事情聴取の態度に見えた。

 今更ながら、聞くんじゃなかったと後悔した。

 

「アイツが綾辻さんと面会したんは知っとる。お嬢さんはワシらに会いとうないし、裁判の傍聴席にも来んといてくれぇ。そう言う取ったしか、聞いてません。まさか、アイツがにいみを知ってるかなんて、阿呆な質問しくさったとは思いも寄りませんわ。そのクセ、自分の娘ばっかり可愛がって、息子はほったらかし。にいみがおらんなった時も……(いち)をぎょーさん責め、向こうの親と一緒に取り押さえましたわっ」

「へえ~、親子で神奈川にっ。アルバムにあった写真、神奈川の中学で撮った奴?」

「そうそう! 横浜にね、住んどりましたよ。その町の中学校に通っとりました。エライ楽しゅう過ごしとったわ。……もしかしたら、横浜におるん時が一番……(いち)は幸せだったのかもしれんわ」

「東京の暮らしも楽しそうっスよ。美雪……俺らの生徒会長なんスけど、金田(かねだ)が生徒会の要って言ってたぜ。後輩(変わった奴)にも慕われてますし、スキーも滑るってスキー部の奴も褒めた……かなあ?」

 

 急に金田(かねだ)爺さんはグチグチと愚痴っぽくなり、婿を貶し出す。孫に対する罪悪感も混じっていた。はじめがどうにか話を逸らそうとすれば、もの悲しい雰囲気が立ち込める。必死に学校の話を振った。

 

「金田一君の言う通り、(いち)君はお2人と暮らせる今も……十分、幸せですよ」

 

 銭形刑事は本心から、告げる。はじめの言葉を集約してくれた。

 金田(かねだ)爺さんは2人の若い顔を見比べ、籠った感情のままに口元を曲げる。それは悲哀のようでいて、歓喜も含まれていた。

 見送りへ現れたのは金田(かねだ)爺さんのみ。姿を見せられないだけで、金田(かねだ)婆さんの心理状態を察した。銭形刑事がはじめを自宅まで送ると申し出てくれ、遠慮なく車へ乗り込んだ。

 金田(かねだ)家が見えなくなった頃、はじめは頃合いと口を開いた。

 

金田(かねだ)のオカンと綾辻さんがどう繋がるのか、まだ教えて貰ってねえけどっ」

「繋がりなんてないよ。彼女は(いち)君のお父さんと面会するまで、氷室画伯に妹がいたと知らなかった。まあ……仮に出会ったとしても、共謀はしないだろう」

「……共謀とか絶対、ねえっス。綾辻さんはあの事故から、ずっと……独りでやろうとしたんだ」

「僕もそう思う。だから……僕の心配に綾辻さんは関係ないよ」

 

 銭形刑事の優しい物言いから、綾辻の手紙に例のやり取りを書いたのはただの親切心だろう。そこまで彼女が他人を思いやれるまでになってくれて良かった。

 

「だったら、銭形刑事の心配ってなんスか?」

(いち)君だよ。愛する人……実の伯父を失った悲しみがいずれ……彼を『雪夜叉』にさせる。それを食い止められるのは……きっと伯父と同じ血を持った彼の母親だけだろう。その母親……金田(かねだ) にいみも兄の訃報を知りながら、連絡ひとつ寄こさない……これはどういう意味を持つかなっ」

 

 金田(かねだ)が『雪夜叉』になる。馬鹿馬鹿しいと一蹴しかけたが、口を噤んだ。

 

「僕は金田(かねだ) にいみさんを探すよ。ご先祖様の名にかけてっ。キミも覚えている時でいいから、それらしい目撃情報があれば、僕に教えてくれ。ここまで話したんだから、協力して貰うよっ」

「……大げさっスよ」

 

 背氷村の事件は解決したが、銭形刑事にとってまだ終わらない。それどころか、新たな事件の火種を摘まんとするは、警察の鑑とも言えるだろう。悪い言い方をすれば、ただのお節介だ。

 だから、同意しなかった。だって、はじめは警察じゃない。ジッチャンの孫なだけの高校生だ。

 

金田(かねだ)が……『雪夜叉』ねえ。あんなに人の良い爺ちゃんと婆ちゃんに囲まれて……なれるもんかあ?)

 

 金田(かねだ)婆さんの言葉を借りるなら、氷室画伯の件は区切りが付いた。同じ学校でも会った事すらない同級生にこれ以上、深入りしようとは思わなかった。

 

 ――この時は。

 




バスの運転手「ご乗車ありが……間違えたっ、閲覧ありがとうございます! 『夜桜亭』でまた事件だって? 殺人鬼が舞い戻ったんじゃないかって、ビクビクだったけど……あの高校生達の会話を聞く限り、どうも違うらしい。さて、次回は『魔術列車殺人事件の前触れ』!! 同じ運転手として、胸騒ぎのするタイトルだなあ」

金田 にいみ
穴埋めオリキャラ。オリ主の母親、氷室の妹。

北海道警察・銭形 ケンタロウ警部補
ドラマ版蠟人形城殺人事件、ゲストキャラ。劇中では私立探偵、作中では道警の刑事。

貴船 葉平
吸血鬼伝説殺人事件、ゲストキャラ。
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