金田少年の生徒会日誌   作:珍明

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やはり、主人公の家にお泊まりする展開は美味しい
佐木兄弟と明智警視は今回がファーストコンタクト
〇●……――は視点変更に使います


Ⅽ11.魔術列車殺人事件の前触れ・後編

 待ちに待ったお泊りの日。

 午前の授業を終え、バイトもアイドルタイムで退勤。急いで帰宅し、私服へ着替える。お泊まりの荷物、金田一(きんだいち)家へのお持たせ、準備万端だ。

 

金田一(きんだいち)くんの家に着いたら、電話を頂戴ね。くれぐれも失礼のないように」

「ええか? 金田一(きんだいち)くんの部屋でベッドの下とか、探ったらアカンぞ」

「分かっていますよ、お祖母ちゃん。お祖父ちゃん……それは金田一(きんだいち)くんがベッドで寝ている前提ですね」

 

 孫よりも緊張した金田祖父母はアワアワと心配事を口走り、苦笑した。

 

「「大丈夫ですよ、お婆さん。金田先輩は礼儀に事欠かない人です。僕らが保証します」」

「「「!?」」」

 

 (いち)が玄関の戸を開けた途端、後輩の竜太(りゅうた)が弟の竜二(りゅうじ)と共に現れる。しかも、話の内容を聞いていたような口調だ。ビックリし過ぎて、3人とも悲鳴が出なかった。

 

「……こんにちは、佐木君。佐木君()に会うのは久しぶりです。2人とも、迎えに来てくれたのですか?」

「「こんにちは。はいっ、迎えに来たのもあります。先輩に良いモノを持って来ました!」」

 

 お揃いのハンディカムを向けながら、佐木兄弟はソレを見せた。

 

〇●……――七瀬(ななせ) 美雪(みゆき)は隣に住む幼馴染を自宅前まで引っ張り、待ち人を待つ。

 

「美雪……俺まで待つ意味あんのかよ? 俺ン家の住所を教えてんなら、勝手に来るだろうにっ」

「ここで待っていないと……金田(かねだ)君、途中で帰ろうとするかもしれないでしょう。何があったか知らないけど、はじめちゃんに顔向けできないとか言ってたしっ」

 

 美雪が知らぬ間、はじめと金田(かねだ) (いち)は出会ったそうだ。

 どちらに聞いても、詳細は教えてくれない。現場にいたクラスメイト3人もケタケタ笑うばかりだった。

 結果的に金田(かねだ)は泊ってくれる為、良しとしよう。

 

「あれは……ちょっと俺にも……、おっ? 佐木君か……!?」

「先ぱ~いっ」

「――先ぱ~いっ――」

「佐木君が……ローラースケートでこっちに来る!?」

 

 待ち人来たれり。後輩の佐木 竜太がローラースケートを履き、道路を軽やかに滑って来る。彼と全く同じ格好の少年がもう1人いた。事前に弟・竜二の存在を聞いていなければ、意味不明な光景。

 動揺した気分を落ち着けていれば、後ろから肩を叩かれた。

 

「金田一センパイ♡」

うわああ!! あれ……佐木!? あ、弟って2人?」

「佐木君……いえ、竜太君には竜二君以外にも弟がいるのね……」

 

 ニッコリ笑顔の佐木にハンディカムを向けられ、美雪もはじめと一緒に混乱した。

 

「いえ、先輩方の後ろにいるのは弟です。僕が竜太です」

「へへへっ、ボクが竜二です♪ ちなみに兄の隣にいるのは金田(かねだ)先輩です」

「こんばんはっ。七瀬さん、金田一君。本日はお招きに預かり、ありがとうございます」

「「金田(かねだ)(君)」」

 

 ローラースケートを履いた佐木はそっといつものハンディカムを取り出す。しかも、彼と一緒に現れたのは金田(かねだ)。わざわざ、佐木の同じ眼鏡を掛けていたのだ。

 颯爽な滑り方が同じだった為、見間違えたのだろう。

 

「え~と……あ~、確かに兄弟で髪型が微妙に違うような……。~ったく、手の込んだイタズラしやがって」

「「お気に召しませんでした?」」

「自分は好きですよ。ご自身の特徴をよく理解しています」

 

 はじめはじっと佐木兄弟を見比べ、僅かな髪型の違いを見付ける。美雪には見分けが付かず、幼馴染の観察力に驚かされる。クスリッと笑い、金田(かねだ)は後輩を褒め称えた。

 4人の男子は相性が良いと確信し、美雪はほっこりした。

 

金田(かねだ)君がこんなイタズラをするなんて、意外ねえ」 

「? 七瀬さんが言うなら、誉め言葉として受け取っておきましょう」

「「金田(かねだ)先輩は僕らの前だと、こんなにノリが良いですよ」」

 

 それに金田(かねだ)の子供っぽい一面も見られ、美雪も称賛の意味で呟く。ニッコリと彼も首を傾げれば、佐木兄弟が誇らしげな態度だ。

 

「……まあ、いいや。立ち話も何だし……入って来いよ。お母さんも首を長くして、待ってっからさ」

 

 はじめはやれやれと呟き、客人を家へ招いた。

 

「いらっしゃい~、はじめの母です」

「「初めまして、佐木です」」

 

 はじめの母親は満面の笑みにて、出迎える。彼女は気立てが良く、息子の客人を快くおもてなす性格。美雪も大好きだ。

 

金田(かねだ)と申します。初めまして、お母様。日頃より、息子さんにはお世話になっております。こちら、皆様方のお口に合えばとお持ち致しました」

「「こっちは母からです」」

「まあ! わざわざ、こんな……ひゃああ!? 金田(かねだ)君、なんて……高級なお肉っ。佐木君は外国のお菓子を!? はじめの友達にしては礼儀正しい子達ねえ♪ 何日でも泊まって頂戴~っ」

 

 キレイな角度でお辞儀し、お持たせを渡す。3人とも目上の人への対応に慣れており、おばさんの心を鷲掴みにした。

 

「ウルセ~。おら、俺の部屋に来いよっ」

 

 はじめは不貞腐れた態度だが、キチンと彼の部屋へ招いてくれた。

 

「はじめちゃん、部屋を片付けてないじゃない!」

 

 本棚の漫画は溢れんばかりに突っ込まれ、TVゲーム機のソフトが隅っこに山積み、ベッドの下から押し込まれた衣類が見え隠れしている。普段よりは片付いているものの、恥ずかしさに怒りの沸点が頂点へ到達した。

 

「「良い部屋ですね♪」」

「片付けてるだろっ。ほら、座布団も置いたぜ! 適当に座れよ、佐木。……金田(かねだ)は?」

「お邪魔します。お母様がお茶を……素敵なお部屋ですっ」

 

 美雪も含めた4人分の座布団、微妙に準備が出来ている。佐木兄弟は迷いなく、座った。

 感じ入った金田(かねだ)は客人でありながら、皆へ茶を配る。思わず、美雪は部屋の主をジト目で睨んだが、無視された。

 

「なんで、金田(かねだ)君がお茶を持ってくるの?」

「お電話をお借りして、家へ電話を。お母様にお手間を取らせましたので、これくらいはさせて頂きました」

「そんなに畏まらなくていいだろ。ウチみたいな貧乏一家っ」

 

 美雪が嫌味たっぷりに問えば、金田の礼儀正しさが眩い。オボンを手に座布団へ正座する様子さえ、はじめと同世代の男子に思えなかった。

 

「美雪はベッドに座れよ、その方が楽だろ?」

「え? ……あ、うん」

 

 何気なく、美雪が金田(かねだ)の隣へ座ろうとすれば、はじめは茶を渡してまでもベッドを譲ってくれる。確かに床へ4人も座れば、窮屈。急な優しさに胸がドキンッと高鳴った。

 

「【ジョジョの奇妙な冒険】が全部、揃っていますっ。金田一君、後で読ませて下さい」

「へいへい。それで、美雪が金田(かねだ)に聞きたい話があるんだっけ? 何とかって有名な誰かのエピソードがどうとか……」

「はじめちゃんったら、説明したでしょう。小説家の多岐川先生が金田(かねだ)君のお母さんとお友達で、2人が知り合ったキッカケを話してくれるって!」

 

 金田(かねだ)はマンガに興味を示したと思えば、はじめはすっ呆けた質問をする。お泊りの説得をする際、あれだけ説明した苦労は何だったのだろう。忘れっぽい彼に美雪は呆れた。

 

「そうだった~、そうだった~。んな話、学校でもイイだろうにっ」

「……日本ミステリー界の女王と知り合いなんて、桜樹先輩に知られたら……どうなるか、わかるでしょう。これも説明したわよっ」

 

 ミステリー研究会・略してミス研の桜樹(さくらぎ) るい子先輩は部存続の為、手段を選ばない状態にある。はじめは以前から狙われており、金田(かねだ)まで目を付けられたくない。大事な生徒会執行部の仲間なのだ。

 

「七瀬さん。お気遣い頂き、ありがとうございます」

「僕も無理に誘おうとは思いません。けど、先輩方がミス研に入ってくれるなら、大歓迎です」

「……っ、入らねえよっ」

「……うん」

 

 感謝する金田(かねだ)が目礼すれば、竜太はぐいっとハンディカムをはじめへ近付けた。

 美雪もミス研に入部するつもりはないが、気になりつつある。幼馴染は立て続けに事件へ巻き込まれ、哀しき結末を見届けて来た。

 そんな彼を助けたい。腕力もない身では知識面しか役立てないだろう。そこまで思考が廻った時、聡明な桜樹先輩が思い浮かぶ。これは嫉妬ではない。ただ、幼馴染が心配なだけだ。

 

「それで♪ 金田(かねだ)センパイのお母さんはどうやって、多岐川さんと知り合ったんですか?」

「前置きとして、誰にでもある出会いです。特別な事はありません」

 

 期待に満ちた竜二の声に美雪も我へ返り、困ったように金田(かねだ)は念押しした。

 

「……母が自分を身籠っていた時期、人違いをしたのです。多岐川さんを知り合いだと思い、挨拶をしました。普通の挨拶だったなら、その場で終わりだったでしょう。この挨拶が問題だったのです」

「問題のある挨拶? 何だよ、俺らがやるような下品なヤツか?」

「もう、はじめちゃんってば……」

 

 昔語りを開始してくれたのに、はじめの茶々が入る。彼の言う下品な挨拶は美雪も目にした事はある。言葉にもしたくない程、お下劣だが、男子には本当にただの親しき馴合いだ。

 美雪がまた呆れた瞬間、金田(かねだ)は拍手にて感心を表す。

 

「流石は金田一君、お見事です。七瀬さんの前ですが、女性同士でも破廉恥な挨拶がありますよね。行動そのものは伏せさせて下さい。母は多岐川さんに後ろから、ソレを行いました。多岐川さんは勿論、母も驚きました。お互いに顔も知らぬ他人ですのでっ、母はショックのあまりに破水しました。多岐川さんは親切にも救急車を呼んで下さり、……父が病院へ駆けつけるまで……母に付き添ってくれたのです。言うなれば、恩人ですねっ」

「「「「破廉恥……っ」」」」

 

 大事件な展開に言葉を失う。多岐川(たきがわ) かほる先生を恩人と言いながら、金田(かねだ)に情緒はない。本当に普通の感覚で説明していた。そんな彼の口から飛び出した「破廉恥」も別の意味で衝撃だ。

 

「コホンッ、破廉恥はともかく……多岐川さんって立派な方ね。それがキッカケで仲良くなったなら、金田(かねだ)君が導いた縁みたい」

「……っ、この話は初めてしましたが……そんな風に言って貰えるとは嬉しいですね。自分、かほる先生が好きです」

 

 多岐川先生の行動を尊敬し、美雪は思った通りの言葉を口にする。金田(かねだ)の柔らかい笑みは初めて見た為、胸が高鳴った。

 金田(かねだ)は普段からポーカーフェイスを気取り、すまし顔。しかし、眼差しや音調から素直な感情が物凄く伝わり、ある意味で嘘が付けない人間。本当に美雪の言葉を喜び、多岐川先生が好きなのだ。

 

「……お前のお母さんって普段から、破廉恥な挨拶する人なワケ?」

「いいえ、母は……極端な人嫌いです。知り合いがいたとしても、自ら挨拶するような性格でもないのですよ。正直、自分も不思議に思っています。母は人違いとは言え……何故、かほる先生に声をかけたのでしょうかねえ」

 

 はじめが真面目な顔で質問し、金田(かねだ)は気のない返事だ。多岐川先生への態度と全く違い、美雪は母子の溝を感じ取る。これ以上、母親の話題に触れない方が良いと察した。

 

佐木()君。約束通りにお話しましたが、ご満足頂けましたか?」

「お話を聞けて嬉しかったです。けど、満足なんてしていませんよ。もっと、金田(かねだ)先輩を知りたいです。勿論、金田一先輩もっ」

「俺もかよ! ビデオをこっちへ向けんなっ」

 

 話の発端である竜太へ金田(かねだ)が確認すれば、彼は親しげに笑い返す。はじめはいきなり、話を振られてあっかんべ~と舌を出した。

 

「………兄さんばっかり、ズルい。ボクもセンパイ達のいる学校に通いたい~っ」

 

 羨ましそうに見つめ、竜二はゴロンッと床へ転がる。仲の良い兄弟だと思い、美雪は微笑ましく思った。

 

「竜二も来年は不動高校だろ。待っていれば、すぐだぞっ」

「ボクが入学するまでに……兄さんは何度もセンパイ達と謎解きしたり、面白い事に出くわすんデショ!? 待てませ~んっ。決めた! 次にセンパイが遠出とか、調査をされるなら、ボクが行きます!」

「はあ~!? 何、勝手な事言ってんだよ! 金田(かねだ)も何とか言ってやれよっ」

 

 竜太に宥められても、竜二は余計に不貞腐れる。突然の閃きに本人は名案と言わんばかりだが、はじめは断固反対の姿勢だ。

 美雪は驚きのあまり、思考が停止した。

 

佐木()君、遠出の際はちゃんとご両親から了解を得て下さいね」

「勿論です♪」

「か~ね~だ~っ、そう言う事じゃなくてだなあ……っ」

 

 生徒会執行部の顔になり、金田(かねだ)は竜二に注意事項を述べる。論点の違う話をされ、はじめは頭を掻く。困っている時に出てしまう癖である。それでも、後輩を無下に扱わないのは幼馴染が持つ人の良さだろう。

 

「みんな~っ、降りてらっしゃ~い。ご飯出来たわよ~」

「へ~い、ほらっ飯にしようぜ。この匂いはすき焼きかなあ」

「「わ~い、ちょうどお腹が空いたところですっ(ぐ~っ)」」

「……佐木君はお腹の鳴る音も、兄弟で同じですね」

 

 おばさんの声を聞き、皆でぞろぞろと台所へ降りる。はじめの推理通り、夕飯はすき焼きであった。

 

 美雪は美味しい夕飯を終え、我が家へ帰るのみ。はじめが恨めしそうに玄関先まで見送って来た。

 

「はじめちゃん、今日はありがとう。今夜は金田(かねだ)君達をよろしくね」

「わ~ってる。……美雪は気にせず、家で寝てろ。ここからは男だけの時間だぜっ」

 

 美雪は素直に礼を述べたが、はじめはイヤらしい笑みで腕組みをする。またも呆れてしまい、感謝の気持ちを返して欲しかった。

 

「佐木君は分からないけど……、金田(かねだ)君は……はじめちゃんと違って初心(うぶ)なのよ。変な事を教えてないでっ」

「変な事って何だよ? 【ジョジョ】が好きな奴に初心な野郎なんていねえよっ」

 

 金田(かねだ)は同世代でありながら、「コウノトリ説」を持つ。正真正銘の初心だと、美雪は確信があるのだ。

 はじめの理屈は分からないが、洞察力は侮れない。金田(かねだ)がマンガやアニメを好きだと言い当てている。どんな接点でもあれば、彼らの友情はソレで深まる。そう、信じた。

 

〇●……――金田一(きんだいち)にHなビデオを見せられた。頼んでもないのに見せられた。自信満々に見せられた。

 

「お前らもこういうの好きなんだろ?」

「「金田一(きんだいち)先輩の好みがよく分かりましたっ」」

「……っ」

 

 吐き気がした。

 佐木兄弟のように返事も出来ず、照れたように振る舞う。手で目元を覆い、血の気が引く感覚を誤魔化すしかない。ここで拒めば良いのだろうが、金田一(きんだいち)はこちらの趣味趣向を知らぬ身。少しでもお泊りを楽しませようと、気を遣ってくれているのだ。

 

「まだまだあるぜ~♪」

「「レンタルビデオ店で借りたんですか? 年齢確認とか……」」

 

 白い紙袋から、他のビデオも取り出される。就寝時間を言い訳に出来るまで、TVから流れる下手くそな芝居の喘ぎ声が苦痛だった。

 

 早朝6時に目覚めれば、快適な気分。案の定、佐木兄弟を枕にしていた。

 日課の朝ジョギングを終えても、部屋の主はベッドで豪快なイビキを掻く。金田一(きんだいち)母に朝食へ呼ばれ、佐木兄弟はムクッと起き上がった。

 食卓に並んだキュウリのぬか漬けが美味しい。勿論、お吸い物も金田家と味わいが違う。金田一(きんだいち)父と挨拶が出来て、嬉しい。

 

「キミ達、双子じゃないのか……へえ。はじめには面白い友達がいるもんだな」

金田一(きんだいち)先輩の面白さには勝てませんっ」

「センパイは見ていて、飽きませんっ」

佐木君()、飽きる程……金田一(きんだいち)君と面識ありましたか?」

 

 そして、金田一(きんだいち)本人はいないのに話題となる。

 

「はじめったら、友達を放っておいて! ま~だ起きないのねっ」

「「夜遅くまで、僕たちとゲームで勝負してました。とても楽しかったです」」

「すみません。自分が寝てしまった為、金田一(きんだいち)君は1人で佐木君と遊んでくれたのです。客を持て成さずにいられない性格は、お母様に似たのですね。自分も見習いたいと思います」

 

 寝坊助な息子をプリプリ怒り、金田一(きんだいち)母は白いご飯をよそう。佐木兄弟と一緒に弁明すれば、彼女はパッと笑顔になった。

 

「本当、似た者親子だ……」

「もう何よ、あなたまで~♪ ……なんか、褒められた気がしないわね」

 

 ボソッと呟き、金田一(きんだいち)父はお吸い物を口にする。一瞬、喜んだ金田一(きんだいち)母は眉寄せ、疑問した。

 

「皆、お昼ご飯は食べてく? ウチはいつまで居てくれて構わないわっ」

「いえ、自分はバイトへ行きます。9時頃にここを発ちますね」

「「僕らも同じ時間に出ます」

 

 使い終わった食器を流し台へ持って行きながら、金田一(きんだいち)母に予定を聞かれる。もっと滞在したい気持ちはあったが、バイトは大事だ。

 

「金田君、アルバイトしているの?」

「ええ、佐木君もお家の仕事を手伝っていますよ」

「「僕らが父に、仕事を手伝わせてくれるように頼んだんです」」

 

 質問に答える度、金田一(きんだいち)母は大げさな程に感心。自分にしてみれば、学校のない休日に爆睡できる家庭環境が羨ましい限りだ。

 

「あのグ~タラも皆の垢を煎じて飲めばいいんだわ。誰に似たんだがっ」

(お前だよ、お前っ)

 

 わざとらしいため息を付き、金田一(きんだいち)母は嘆く。金田一(きんだいち)父は無言だが、心の声は聞こえた。

 部屋へ戻り、涎を垂らした金田一(きんだいち)の寝顔を見やる。当分は起きそうにない気配だ。

 

「「金田先輩、金田一(きんだいち)先輩を起こしますか?」」

「いいえ、このまま寝かせましょう。自分は【ジョジョの奇妙な冒険】を読みますっ」

 

 未読の巻もあり、期待に胸を躍らせる。途端、インターホンが鳴った。

 

「お客さんだ。兄さん、誰が来たんでしょうね?」

金田一(きんだいち)先輩に、用事っぽいな」

 

 (いち)は他人の訪問客に興味ないが、佐木兄弟は違う。ドアから顔を出し、玄関の様子を探った。

 

「ふわ~、あ? お前ら、まだいたのかよ」

金田一(きんだいち)君、おはようございます」

「「おはようございますっ」」

 

 唐突に目覚め、金田一(きんだいち)は手振りで朝の挨拶。言葉だけ聞けば悪態だが、こちらの行動を制限しない意図も含まれているのだ。

 

「お前らは飯食ったの? あっそ……ハラ減った~」

「「お供します」」

「行ってらっしゃい」

 

 まだ寝ぼけた態度の金田一(きんだいち)が台所へ向かえば、佐木兄弟も付き添う。自分は読書の為に堂々と部屋へ居座った。

 

ぎょえ~!?

「……!?」

 

 コントのようなドデカイ悲鳴が耳を打つ。金田一(きんだいち)の声とすぐに分かったが、ビックリして漫画を折りそうになった。

 

(ゴキブリか? ……佐木君いるし、いいか……)

 

 一切も心配せず、一気読みしてしまう。感無量の内容が脳髄を夢見心地にさせ、目尻に涙が伝った。

 近付く金田一(きんだいち)の足音に気付かず、涙を見られる。彼はギョッとした。

 

「金田……お前、泣いてんのか? 【ジョジョ】で……」

金田一(きんだいち)君っ、……すみません」

「いや、その……【ジョジョ】は面白れぇし、分かるぜ」

「ええ、名作ですっ。お礼に本棚を整えますね。50音順にして良いですか?」

 

 涙を拭いながら、本棚を整頓して行く。金田一(きんだいち)は涙に驚きはしたが、決して馬鹿にしない。それよりも朝食後のはずが、疲れた様子で着替えだした。

 

「俺、これから出かけなくちゃならねえんだわ……金田はどうする? 俺が居なくていいなら、寛いでくれても構わないぜ」

「8時半ですか……。では、お暇します。バイトがありますので、元々9時に発つ予定でした」

 

 流石に部屋の主・金田一(きんだいち)が外出しては、ご家族へ変に気を遣う。時間的にも丁度良い。

 

「金田君、佐木君。また来てね♪」

「「お邪魔しました。また来ますっ」」

 

 金田一(きんだいち)母に玄関先で見送られ、佐木兄弟も礼儀正しく挨拶した。

 

「シートベルトはしましたね。行きますよ、お2人共っ」

「へ~い」

……?

 

 気付けば、警視庁捜査一課・明智(あけち) 健吾(けんご)警視がいる。コバルトブルーに輝くBMWへ押し込まれ、助手席のシートベルトも装着させられた。

 (いち)は唐突過ぎる展開に思考が追い付かず、逃げられない。

 ちなみに金田一(きんだいち)は後部座席。余所行きの服を着込み、紙袋を大事そうに抱えていた。

 明智警視はキッチリした背広姿にネクタイ、整った髪型は決して非番の刑事ではない。勤務中の雰囲気は素人目でも分かった。

 

「はじめっ、明智さんに恥を掻かせないでよ」

「わ~ってる」

「佐木君は本当に良いのですか?」

「はいっ、先輩方をお願い致します」

「……センパイ、また会いましょう……」

 

 母親に念押しされ、金田一(きんだいち)はウンザリする。明智警視が問い直せば、竜太は気遣う視線を向けて来る。竜二は悔し泣きしながら、手を振った。

 

「お2人がお泊りする仲だったとはっ。迎えを引き受けた甲斐があったと言うモノです」

「明智さん、おはようございます。先日は大変、お世話になりました。金田一(きんだいち)君、ご説明をお願いします」

「俺が表彰されるんだとっ」

 

 明智警視のキラキラッが派手に輝き、必死の愛想笑い。

 助けを求めるように金田一(きんだいち)へ問う。彼は非公式ながら、警視庁より感謝状と金一封が渡される。急遽決まった授与式は11時に行われる為、明智警視が迎えに参じた。

 名誉な話だと思う。だが、高校生が短期間に多くの事件へ遭遇し過ぎである。

 

「自分……要らないですよね? 降ります

「金田君の勤務先まで送りますよ。お店の住所は佐木君に聞きました」

「……大丈夫か、金田? 顔色が悪いし、声もメチャクチャ震えてるぜ」

 

 緊張ガッチガチの態度を見て、金田一(きんだいち)は心配してくる。

 全く、大丈夫ではない為に無言。予定外の出会いは礼儀に欠けてしまう。明智警視に多大なる迷惑をかけた身だ。恩を返せないなら、態度で感謝を貫きたい。その事前準備が欲しいのだ。

 

「明智さんっ、剣持さんはお元気ですか?」

「剣持君は相変わらず、元気にしています」

 

 感謝する相手から、明智警視の部下・剣持(けんもち) (いさむ)警部を思い浮かべる。このまま警視庁へ着いて行けば、男気溢れる彼にも会えるが、泣く泣くバイト優先しよう。

 

「金田、剣持のオッサンにも会った事あんの? って当たり前か、お前の婆ちゃんを俺に紹介したのはオッサンだし……」

「……その件に関して、剣持さんにはとても感謝しています。金田一(きんだいち)君のような元気溌剌な方と知り合えて、祖母も大変お喜びです。自分で言うのもなんですが、可愛げのない孫ですので……。金田一(きんだいち)君に会える度、元気になっています」

金田一(きんだいち)君の場合、元気が有り余っているだけだと思いますよ。それに金田君が可愛げ無いはず、ありません。お婆様とお爺様の教育が行き届いている証拠ですっ」

 

 明智警視の金田一(きんだいち)を卑下する感情が強い。怖いくらいだ。

 

「……祖父母は……本当に金田一(きんだいち)君みたいな、年相応に過ごす子供が好きなんですよ。それも含めて、ありがとうございます」

「金田?」

「……個人的な興味で伺いますが、小説家の多岐川 かほるとお知り合いだそうですね。正野君から聞きましたよ。特大号を拝見し、もしやとは思っていました」

 

 金田一(きんだいち)を庇うつもりはなく、(いち)は事実を口にした。それ以上は愚痴になる為、堪えた。何か察した雰囲気が車内に充満し、明智警視は話題を変えた。

 

「……明智さんも雑誌とか読むのですね」

「大学時代の知人から御堂 周一郎のインタビューが載ると聞きましてね。クラシックファンとして、見逃せません。やはり、彼ともお付き合いが?」

「……3歳の頃にお会いしたそうです。自分よりも祖母が詳しいでしょう。御堂先生は元教え子ですのでっ」

「ほおっ、それは興味深い。まさか、人間国宝の朝木 冬生とも面識がおありですか?」

「……朝木陶工の娘さんが不動高校に通っていますよ。ね? 金田一(きんだいち)君っ」

 

 著名人との人間関係を根掘り葉掘り聞かれ、ウンザリする。明智警視のミーハー根性は意外だったが、まるで事件の事情聴取を思わせた。

 

「え? あ、朝木 秋絵だろ? 1年ン時、同じ組だったぜ」

 

 段々と笑顔も取り繕えなくなり、素知らぬ顔の金田一(きんだいち)へ話を振る。ビックリし、彼は紙袋を抱き締めた。

 

「って事は……秋絵は金田が氷室画伯の甥だって、知ってんの?」

「いいえ、朝木さんは何も知りません。……おそらく、朝木陶工は娘さんに何も話されてないでしょう。学校で伯父との関係を知るのは、金田一(きんだいち)君と桜樹先輩だけです」

「桜樹……確か、先日の聖生病院でご活躍された方ですね。調書を読みましたよ。金田一(きんだいち)君と違って、彼女は聡明な印象がありました。金田君は良い縁に恵まれましたねっ」

 

 金田一(きんだいち)に何気なく問われ、素直に答える。明智警視は一々、彼を卑下して他人を立てた。怖すぎる。

 途端、遠野(とおの)先輩に何も話していないと気付く。散々、家の事情に巻き込んでおきながら、非礼な自分に青褪めた。

 だが、今更になって伯父が天才画家と説明したとしても、遠野先輩は意味不明だろう。このまま黙っているのも不義理な気がする。勝手な自己嫌悪に脳髄が揺れるような感覚に襲われ、気持ち悪かった。

 

「……完全に怯えてんじゃねえか……大丈夫かよ、金田! やましいコトがあるなら、ゲロッちまえよ。警察はここにいるぜっ」

「疚しくはありませんが、金田一(きんだいち)君っ。焼香に来てくれて、アリガトウ

金田一(きんだいち)君、キミと一緒にしないで下さい。金田君、暖房を入れましょう」

 

 後部座席から身を乗り出し、金田一(きんだいち)は真剣な態度で心配してくる。嬉しいのだが、彼はその腕にある紙袋は絶対に離さない。中身が気になって仕方なくなるのは、人の性だ。

 

(……この袋、Hなビデオを入れてなかったっけ? いや、まさかね。警察の本部に招待されてんのに……そんな馬鹿タレはいないかっ)

 

 金田一(きんだいち)がそんな馬鹿タレだと後日、知った。




高遠「高遠です。皆さん……お忙しい中、閲覧ありがとうございます。今度の公演、さとみちゃんのお父さんも来てくれるんですね。僕も嬉しいです♪ さて、次回は『魔術列車殺人事件』!! 素敵なショーをご覧に入れますよ、『幻想魔術団』の総力を挙げて……楽しみにしててください、お父さんっ」

金田一の母
金田一 耕助の娘

金田一の父
もうすぐ定年らしい
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