金田少年の生徒会日誌   作:珍明

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前回の続き、同じく竜二視点。


Ⅽ13.魔術列車殺人事件・後編

 朝の定期報告で竜太(りゅうた)に知らせ、竜二(りゅうじ)は案の定、責められた。でも、仕方ない。責められて終わる段階で済んだだけでマシだ。

 

「誰か~~!!」

 

 ちょうど電話を終えた頃、惨劇の悲鳴が聞こえる。ビクッと震え上がりつつ、竜二もマーメイド夕海(ゆみ)の声へ駆け出した。

 結果は間に合わず、彼女は木に吊るされた。

 ここまで3人、竜二は遺体を撮影。不思議と怖さは消える。但し、不安が募った。

 これで残った『幻想魔術団』は最年長のピエロ左近寺(さこんじ)、チャネラー桜庭(さくらば)、見習いのさとみ、マネージャーの高遠(たかとお)。しかも、マーメイド夕海の殺害状況から、この4人の中に犯人がいると推定された。もっと言うならば、「生きたマリオット」のトリックを知るピエロ左近寺に疑いの目がかかった。

 

「まあ、あれは元々、4人で考え出したマジックなんでね。でも、タネを知っているイコール犯人って言うのは暴論が過ぎるんじゃありません? 刑事さんっ」

 

 勿論、ピエロ左近寺は物ともせず、剣持(けんもち)警部を嘲笑う様にロビーから消える。それを合図にし、さとみまでもいなくなった。

 

「センパイ……左近寺が犯人なら、さとみさんも危ないですよ。でも、狙いは何なんでしょう? やっぱり、パンフレットに載っている人を……順番にですか? それだとターゲットからは外れますよね?」

「落ち着け、佐木2号」

「佐木君、キミの不安は分かります。しかし、左近寺のお陰で……ひとつの確信を得ました」

 

 金田(かねだ)センパイの家族にも、金田一(きんだいち)センパイのような毒牙がかかる。それを想像してしまい、竜二はゾッとする。恐怖に堪え切れず、ロビーをウロウロした。

 冷静沈着な明智(あけち)警視はとんでもない推測を語り出す。ピエロ左近寺達は近宮(ちかみや)が生み出したマジックを奪う為、事故に見せかけて殺害した。

 その証拠に明智警視が生前の近宮から直々に明かされた「トリックノート」、彼女の考案したマジックが記された手帳の価値は竜二にも伝わるが、それは死後の所持品から失われていた。

 

「……とすると犯行の動機は5年前、近宮 玲子を殺した奴らへの復讐? ……なあ、明智さん。朝、俺に教えてくれた真新しい釘の話……。事件の資料を見て知ったんだよな? 金田は知ってたぜ」

「!? 金田君が……釘の件を知っていた? ……当時の事故の記事は出来るだけ、目を通しましたが……どんなに詳しくても、舞台裏の天井板が外れた程度です。さとみさんもご存知なんですか?」

「いえ、さとみさんは近宮さんが事故で亡くなった……それだけです」

 

 金田一センパイの疑問に明智警視も驚き、記憶を辿って事故の記事を思い返す。七瀬(ななせ)センパイの言う通り、さとみは事故の詳細は知らない。だが、それを竜二は不審に思わなかった。

 

「まさか、残間さんを疑って?」

「!?」

「違いますよ、剣持君。早とちりも程々にっ」

 

 剣持警部に触発され、七瀬センパイも小さく悲鳴を上げる。明智警視が速攻で否定した瞬間、ロビーに小さな男の子が風船を飛ばしてしまったと泣き喚く声がした。

 その些細な出来事が金田一センパイの頭脳に閃きを与え、午前中の間に芋ズル式に全ての謎を解いて行った。

 

 警察の手を借り、行われた大掛かりな推理ショー。

 待ちに待った事態。竜二は金田一センパイの活躍を見逃さず、そして、追い詰められる犯人を撮影したくてウズウズした。

 5年前の転落死。トリックノート。

 ハッキリ言えば、ピエロ左近寺は怪しい。仲間が死んでいく中で余裕の表情、これが火曜サスペンス劇場ならば、彼が『地獄の傀儡師』だ。

 だが、金田一センパイは別の人物を呼ぶ。

 

「高遠 遙一!! あんたが『地獄の傀儡師』だ!!」

「まっ……待ってくださいよ。金田一さん」

 

 状況証拠、物的証拠、列車内での「天外消失」も金田一センパイは反論の余地も無く、見事に暴いていく。本当に名探偵の名場面だ。

 

「そんなコト、どうやって僕にできるって言うんですか?」

「そんな危なっかしいトリックじゃ、マジックの舞台だって、恐ろしくってとても……」

ダメですよ、金田一さん

僕はただのマネージャーですよ?

 

 ひとつ、ひとつの言葉に乗せた重みが変わっていく。高遠は一度も「自分は犯人ではない」と否定せず、段々と臆病な仮面が剥がされる。そして、聡明な素顔が見えた。

 

ちゃんと殺してあげるべきだったね? 金田一君!」

「高遠さん……」

 

 薄い笑みを浮かべ、高遠なりの自白。ようやく、犯行を認めた。

 誰よりも怯え、狼狽えていたマネージャーが3人を殺害。さとみのショックが見て取れた。

 竜二もショックだった。だが、事実は変えられない。撮影した映像のように巻き戻しても、撮った部分を消しても、現実は消えない。

 犯行動機は母親の復讐。彼は近宮の隠し子だった。

 高遠は10歳の幼い頃に近宮が偶然を装って対面し、17歳の頃に亡くなった父親の遺品整理中に事実へ気付いた。

 

「お前なあ、分かった時点で……なんですぐ彼女に会いに行かなかったんだ!」

「『生き別れの母子、感動の御対面』なんて僕は苦手でね。どうせ会うなら、一流となった僕を彼女に認めてもらいたかった……!」

 

 剣持警部は刑事の立場ではなく、感情的に問う。その為、高遠にも強い悔しさを見た。

 例のトリックノートは近宮がマジシャンとなる息子への生涯かけた贈り物。その証拠にノートはもう一冊あった。18歳の誕生に合わせ、高遠へ郵送で届く様に手配されていた。

 だから、ピエロ左近寺達のマジックが盗作であり、近宮は私利私欲で殺されたと理解した。 

 浅ましい「(イケニエ)」に相応しき「死のショー」。警察はそれを見届けさせる舞台の観客でしかなかった。

 脅迫状に仕組んだ捩じれたマリオネット、列車で用いた薔薇。全てを利用した「心理トリック(ミスディレクション)」も完全に竜二を惹き込んだ。

 殺人犯でなければ、大胆不敵のマジシャンにして名役者と称賛しただろう。

 

「早くしょっぴいちゃってくださいよ!」

 

 ピエロ左近寺は悪びれもせず、トリックノートは近宮から譲って貰ったとか言い訳。剣持警部の気迫も知らん顔だ。そっと高遠は床に放り出されたノートを拾った。

 

「もう良いですよ、刑事さん。それより、左近寺さん。このノートを頂いても? 母の形見ですし」

「ああ! 持って行くが良いさ! 中身は頭に叩き込んであるんでね」

 

 高遠が冷静に請えば、ピエロ左近寺は挑発的に自らの頭を小突く。フッと『地獄の傀儡師』は嗤ったのは竜二にも分かり、負け惜しみにしては違う印象だ。

 

「高遠……」

「私はノートを取り返しただけで満足です」

「あ、ちょっと待って!」

 

 追究しようとした金田一センパイへ背を向け、高遠はスッと手錠を受け入れる。彼が剣持警部に連行されても、竜二はモヤモヤとした気持ちが残る。

 ハッと気付き、彼らを追いかけた。

 

「高遠さん……その、天井裏で左近寺が何か細工したかもって話……誰かにしましたか?」

「……いいえ。僕自身は誰にも伝えていません」

「さとみさんのお父さんや……金田センパイにも?」

「勿論です。……念の為に言っておきますが、残間さんに息子がいるとは先日まで知りませんでした」

 

 数える程しか、口を利いていない相手。だが、高遠に嘘はない。彼は1人で復讐を成し遂げる算段、他はあくまでも観客に過ぎない。たったそれだけで、多くの人を巻き込んだ。

 正直に答えてもらい、竜二は自然と一礼した。

 モヤモヤを晴らせずにロビーへ戻れば、ピエロ左近寺とチャネラー桜庭の姿はない。さとみはロビーの電話を借りながら、七瀬センパイの手をしっかりと握っていた。

 想像していた事件解決後の雰囲気と程遠い。

 

「それじゃあ、長崎さんは真新しい釘の件を知っていたんですね」

「はい、……5年前に警察から事故の原因を説明されました。だから……ずっと、彼らを疑っていたんです」

「その事を誰かに話しましたか?」

 

 金田一センパイと明智警視は重要な点とばかりに確認し、長崎(ながさき)支配人は最後の質問に頭を振った。

 

「責任者である私だけしか、知らないはずです。記事にも載りませんでしたし……」

 

 高遠も長崎支配人も喋っていない。ならば、金田センパイは何故に知っていたのだろう。佐木もその疑問は棘の様に残るが、本人へ問い質して良いものか、流石に悩む。

 

「いろいろと協力して頂いて、ありがとうございます」

「こちらこそ……金田一様。真実を明かして下さり、ありがとうございます。玲子さんは事故じゃなかった……。だから、あの日さえなれば、もっと舞台で輝けた。それが分かっただけでも、私は嬉しく思います」

 

 長崎支配人の感謝が金田一センパイとっては何よりのご褒美。そう思わせる程、彼の大きな瞳が和らぐ。竜二もやっと一安心した気分だ。

 

「佐木君、私達は北海道警察と現場検証があります。金田一君と東京へ戻ってください」

「さとみさんも……ですよね?」

「ええ、後日に事情聴取はあると思いますが、残った『幻想魔術団』の方々も東京へ帰っても結構。佐木君はビデオテープを提出してくださいね。現場検証で使いますからっ」

「!?」

 

 明智警視もピエロ左近寺に思う所があるらしく、嫌味がキツイ。しかも、ここまで撮影したテープを証拠品として押収される。一番、ショックだ。

 

 部屋で荷物を纏めながら、金田一センパイは北海道の旅行雑誌をリュックへ詰め込む。

 

「センパイ、その雑誌使い道なかったですね」

「まあ、折角の北海道だと思って買っただけだ。美味そうな料理とか載ってたしっ」

「食べ物に関してなら、気を付けてください。猛毒キノコを食べられるキノコだって紹介した記事が載ったりします。どこだったかなあ、箱根、軽井沢……その辺の有名な観光地の雑誌だったはず」

「へいへい今度、聞くわ」

 

 まだ竜二が一桁の歳、父がある旅行雑誌へ珍しく目くじらを立てた事がある。廃墟マニアな彼は身の安全の為、植物の知識を蓄えている。人の手の入らぬ建物ほど、接触だけで害を及ぼす草花が生息するからだ。

 必死に思い返すが、金田一センパイは知らん顔で荷造り完了。竜二も急いだ。

 

 荷物を纏め、ホテルよさらば。

 

「さあ、東京まで一眠り~♪」

 

 死骨ヶ原駅でピエロ左近寺の陽気な態度を見かけ、またもイラッとした。

 結局、竜二の初仕事ならぬ初事件は犯人を逮捕してもスッキリせず、元凶を野放しと言う悔しさが残る。その間、金田一センパイは警官に連行される高遠と最後の会話を交わした。

 

「Good Luck!! 名探偵君!」

 

 高遠にとっては再会を誓う挨拶だったと後で知った。

 帰りの列車はさとみの厚意でA寝台へ招かれる。時間の限り、3人にだけロバートのショーを見せてくれる。純粋な彼女がケガひとつなく、無事。そう思えば、解決と呼んで良いはずだ。

 

「このまま、俺達とバックれません? 荷物とかあったけど。オッサンに取りに行かせますよ」

「大丈夫、お父さんが来てくれるからっ」

「すっごく、頼りになるお父さんよね♪ 電話でもカッコ良かった~っ」

 

 金田一センパイはとてもナイスな提案をしたが、さとみは小さく遠慮する。頬を染めた七瀬センパイが両手を組んでまで、体をしならせる。電話の内容が凄く気になった。

 

「あたしは本当に大丈夫だから……その代わり、金田一君……いっくんをお願いね。こうも立て続けに事件に巻き込まれたら……」

「はいっ、金田は俺達に任せてください」

 

 さとみの懇願を聞き、金田一センパイは緊張した表情を崩さないままに承諾した。

 竜二と七瀬センパイは不動高校と旅行先に起こった2つ事件だと勝手に思い込み、納得する。まさか、背氷村殺人事件を指していたと知るのはずっと先だ。

 

 余談だが、東京駅で出くわした金田センパイは父親と同じ露骨に嫌な顔を見せ、竜二は怯む。風貌は似てなくても、血の繋がりを確かに感じたのであった。




由良間「由良間だ……俺も台詞無しかよ。団長はともかく、花形スターの俺までこんな扱い……納得出来ねえ。え? あ~はいはい、予告な。次回は『魔術列車殺人を防げず』……。あの残間のオッサンに息子いたんだ……ふうん、苦労してんだろうぜ。あの親父さんじゃあな」

高遠 遙一
近宮 玲子の隠し子。完璧主義たる高遠の父親との息苦しい幼少期を過ごす。一流のマジシャンとなり、母でもある近宮に己のマジックを認めてもらいたかった。
5年前の事故を訊ねられた際、「僕らが入団する前」と話し、さとみは事故と無関係であると同時に「地獄の傀儡師」の標的ではないと金田一へ案じさせた。

ジェントル山神 文雄、マーメイド夕海、ノーブル由良間、ピエロ左近寺
近宮を天井裏に追い込んだ弟子達。

チャネラー桜庭
事故に加担しなかったが、貴重な目撃情報を警察へ提供しなかった。
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